臨海学校最終日。
今日も今日とて早朝のトレーニングに繰り出そうとした夏月だったが、旅館の正門前には真耶が腕を組んで佇んでいた――其の姿は、絶対強者のモノであり、普段の天然ボケ連発の『親しみ易い真耶ちゃん』とは程遠いモノだった。


「一夜君、何処に行くんですか?」

「日課の早朝トレーニングなんですけど、若しかしなくても今日に限ってはアウトだったりします?」

「はい、スリーアウトチェンジですね♪」


問いかけてきた真耶に対して夏月は素直に日課の早朝トレーニングを行う事を伝えたのだが、真耶は笑顔でアウトを宣告した……女性権利団体によって一度撃墜され、其処から目を覚まして即ゴスペルとの戦闘に向かった夏月の身体はもう大丈夫なのだが、だからこそ今日くらいは休んで欲しいと思うのは当然の事だろう。


「山田先生……早朝トレーニングは最早日課になってるんでやらない方が逆にストレスになって精神的によろしくないと言いますか……トレーニングは一日休むと三日戻ると言われてますし。
 何時もより軽めにして砂浜でのロードワーク二十分と素振り三百回とヨガストレッチだけにするんで、許可して貰えませんかね?」

「一夜君、一度『軽め』の意味を調べた方が良いと先生は思います。……確かに何時ものハードトレーニングと比べれば遥かに軽めかもしれませんが。
 そもそもの疑問なんですが、一夜君は毎朝あれだけのハードトレーニングをしてるのに何故普通に授業を受ける事が出来るんですか?授業中に寝たりしないのは感心ですが、体育やISの実習も普通に行ってますし……疲れたりしないんですか?」

「山田先生……ISを動かせるって事が分かったその日から、俺は何度お花畑見て、その都度川の向こうの名前も知らない爺ちゃんに『お前さんはこっちに来るのは早過ぎる』って言われたか分からねぇんすよ?
 その他にも何度か修羅場経験してますし……其れに比べたらあのくらいのトレーニングなんて楽勝っすよ?寧ろアレくらいは余裕で熟せるくらいじゃなきゃダメだと思ってますからね――主に俺の嫁さん達を守る意味でも。」

「一夜君の壮絶な経験にちょっと戦慄してますよ……」


夏月の事を心配する真耶だったが、同時に夏月の『日課になっている事をやらない方がストレスになる』との言い分も理解出来るので、真耶は妥協案として『何かあった時の為に備えて自分が同行する事』を提案し、夏月も『山田先生が一緒でも全然OKです』とその提案を受け入れて、無事に日課の早朝トレーニングに向かう事が出来たのだった。


「時に一夜君、素振りをするとの事でしたが木刀か模造刀みたいなモノ持って来てましたっけ?」

「持って来てないですけど、昨日の朝海岸で流れ着いたと思われるバット見つけたんで其れで……まぁ、只のバットじゃなくて釘バットだったんで、流石に持ち帰ったら拙いと思って海岸の岩場に隠しときましたけど。」

「……何処かのツンツン頭の元ソルジャー1stが海に落としちゃったんでしょうか……?」

「だったら釘バットじゃなくてバスターソードの方を落として行って欲しかったっすね……いっその事、アポカリプス落として行ってくれりゃ良かったのに。」

「マテリア穴三つで、マテリア成長値三倍は魅力的ですからねぇ。」


その早朝トレーニングは真耶が同行した事で砂浜でのロードワークでは真耶からの的確な指導が入って、夏月は砂地での身体の動かし方を完璧に身に付け、素振りでも、木刀とは異なるバットでの素振りでの僅かなブレも修正してくれたので、結果として一人で行うよりもより大きな効果が出たのだった。
同時に夏月は、素振りのブレを修正してくれた真耶を見て、『山田先生は射撃戦が得意って話だったけど、近接戦闘も普通に出来そうだな』と思っていた――射撃戦を得意としている真耶だが、近接戦闘がマッタク出来ないとは言っていないのである。単純に近接戦闘の能力が当時の国家代表選考委員会の求める基準に達していなかっただけなのである。

其れは兎も角として、夏月は真耶同行のもと、普段と比べれば可成り軽めではあるが、其れでも濃い内容の早朝トレーニングを行う事が出来たのだった。











夏の月が進む世界  Episode43
『臨海学校最終日!彼是それ此れ、OverDrive!』










修学旅行最終日の朝食時、昨日の作戦に参加した面々は昨日の事を一般生徒に聞かれるのではないかと思って、聞かれた時の対応を考えていたのだが、蓋を開けてみれば誰一人として昨日の事を聞いて来る事は無かった。
夏月達は其れを不思議に思ったのだが、ファニールから昨日の旅館でなにがあったのかを聞いて納得した。
一般生徒には自室での待機が命じられ、コメット姉妹も事実上の戦力外通告を受けて待機していたのだが、コメット姉妹は教師に許可を取って大広間で一般生徒を集めて独占ライブを行っており、夏月が落とされたその後はオニールが単独でのライブを行って一般生徒達を楽しませていたのだ。
結果的に一般生徒には待機を命じられた事よりも、世界的に大人気となっている双子アイドルのライブを生で、其れも独占出来たと言う印象の方が強く残り、誰も昨日何があったのかを聞いては来なかったのだ――此れはコメット姉妹のファインプレイと言えるだろう。


「そう考えると、昨日の裏MVPはファニールとオニールだった訳か……よし、ご褒美として玉子焼きをやろう。」

「それじゃあ僕からは煮物の高野豆腐を。」

「玉子焼きとは気前が良いじゃない夏月?」

「味が染みた高野豆腐は美味しいよね♪」


そのコメット姉妹に夏月は玉子焼きを、秋五は煮物の高野豆腐をあげていた。
臨海学校三日目の朝食メニューは、白米、焼き魚(鯖の一夜干し)、玉子焼き(刻みアナゴ入り)、煮物(里芋、コンニャク、ダイコン、高野豆腐、イワシのつみれ、ウズラの卵入りさつま揚げ)、納豆(かつお節、卵黄、ネギトッピング)、味噌汁(ネギ、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、エノキダケ、油麩)と言うラインナップである。
そして夏月の食欲がリミッターを解除した状態になっていた。
ゴスペルとの戦闘時にエネルギー切れを起こし、其れをファニールが持って来たモンスターエナジーで回復した夏月だったが、昨晩は乱と露天温泉で夜のISバトルを行った後は部屋に戻ると直ぐに寝てしまい、夕食は食べていなかった上に、そんな状態で早朝トレーニングを行った事で空腹マックス状態となり、飯と味噌汁と納豆を六連続でおかわりすると言う事をやってのけただけでなく、食物アレルギーや好き嫌いで残されたメニューも一緒に平らげて食品ロスゼロを達成して周囲から拍手を浴びていた……燃費の悪い身体は、食品ロスを減らすには向いているのかも知れない。

そうして朝食は終わったのだが、臨海学校の三日目の午前中は自由時間となっているので、生徒達は初日と同様に海に繰り出して行った。
夏月組と秋五組も其れは同じで、最終日を思い切り楽しもうと海に繰り出して行った――特に昨日はあんな事があったのだから、最終日を心行くまで楽しんでも文句はないだろう。

夏月組と秋五組は初日と同様にシュノーケリングを楽しんでいた。


「箒、何をしてるの?」

「うむ、岩場からウツボが威嚇して来たので睨めっこをしている。そして、ウツボの顔は真正面から見ると意外と愛嬌があると言う事に気付いた。もしもウツボが陸上生物だったら私はペットにしてたかもしれん。
 よくよく見れば、中々に可愛いなウツボも。」

「箒さんの可愛いの基準が良く分からなくなって来ましたわ……」

「雌のイルカに囲まれてんですけど、此れ如何いう状況?」

「夏月、君は如何やら人間だけでなく他の動物からも優秀な雄と認識されているみたいだね?……よもやイルカを射止めてしまうとは驚きだ……君の魅力は種族の垣根を超えると言う事なのか……嗚呼、そんな君の婚約者となれた事に、私は神に感謝をしてもし切れないよ。」

「……此れは、突っ込むべき所なのでしょうか?」

「ううん、無視して良いと思うよヴィシュヌ。」


楽しんでいたのだった。
箒が出会った少し強面の魚やらなにやらに睨めっこを挑んでいるのは傍から見ていればなんとも微笑ましい光景であり、其れを超小型の魚型カメラで見ていた束は『箒ちゃんも意外と愉快なところがあるんだねぇ?』と妹の知らない一面を知って御満悦であった――そんな事をしながらも、束は別の作業も同時進行で行っていた訳なのだが。


臨海学校最終日はそんな感じで平和に過ぎて行き、生徒達も残りの自由時間を満喫していたのだが、同じ頃アメリカ軍のゴスペル開発部の上層部は戦々恐々の状態になっていた――ゴスペルが暴走した事を知った彼等は、IS学園に『ゴスペルは無人機だ』と伝えた上であわよくばパイロット諸共ゴスペルが破壊される事を期待していたのだが、結果としてゴスペルは機能停止にはなったが破壊されず、パイロットである『ナターシャ・ファイルス』も無事だったのだから。
ゴスペルが健在なだけならば後で解体すれば良いだけの事だが、ナターシャの生存と言うのは非常に頭の痛い事だった――ナターシャは、ゴスペルと共に空を舞う事を願っていたので、今回の暴走の真相を知れば間違いなくゴスペルを守るために裁判を起こすだろう。
そしてそうなった場合は軍の上層部は自分達が不利になるのは分かっていた……自由を謳うアメリカであっても少なからず女尊男卑の風潮は存在しており、そうなればナターシャ自身は女尊男卑でなくとも女性である彼女の方が裁判では圧倒的に有利になるのは火を見るよりも明らかな上に世論も多くが彼女に味方するのは目に見えているのだ。
故にゴスペル開発部の上層部はナターシャの暗殺も視野に入れ、如何動くべきが頭を悩ませていたのだが……


『モスモス、ひねもす。ハロー、ハロー!
 テステステス、あ~~、本日は晴天なり!……うん、マイク感度はオッケー!さぁて、聞こえてるか凡人共ぉぉぉ!!!』


「「「「「!!?」」」」」


其処で突如として会議室の大型モニターが砂嵐となったと思ったら次の瞬間にはそのモニターに束の姿が現れて一発かましてくれた。
全然マッタク予想していなかったまさかの事態に其の場に居た者達は騒然となったのだが、これは致し方あるまい――ISの生みの親にして、世界的に指名手配されている束がモニター越しとは言え目の前に現れたら、驚くなと言うのが無理と言えるだろう。


『まぁ~ったく持って、中々にふざけた事をしてくれたじゃないかアメリカン?
 ゴスペルにアラスカ条約の穴を突いた装備を搭載するとはね……まぁ、そんなモノを無理矢理搭載した事が原因でゴスペルは暴走しちゃった訳だけど、其れはある意味で当然だよね?お前達は『空を飛んでみたい』って思ってた純真な少年を、爆弾を搭載した戦闘機に乗せるに等しい行為をしたんだから。
 其れだけでも許せねーのに、お前等はゴスペルを無人機と偽ったよね?……其れはつまり私の妹である箒ちゃん、私のお気に入りのかっ君やしゅー君、そしてその嫁ちゃん達に『人殺し』の業を背負わせる心算だったって事だよね……君達は束さんを怒らせる天才なのかな?』



同時にモニターの向こうの『全然マッタク笑ってない人を殺す事の出来る笑顔』を浮かべる束を見て、ゴスペル開発部の上層部の人間は漸く今回の自分達の対応は最悪の一手である事を認識した――束は単純にISの生みの親と言うだけでなく、自分が生み出したISを心から愛しているだけでなく、自分が気に入った人間に対しては何処まで厚情なのである。
故に、ISを穢そうとした者や自分のお気に入りの人間を傷付けようとした者には一切の容赦はしない……敵と認識した相手には何処までも冷酷で冷徹になれるのも束なのだ――だからこそ、ゴスペル開発部の上層部はガクブル状態になってしまったのだ。
此の場に束本人は居なくとも、最悪の場合は何らかの方法で自分達の命を抹消させる為の何かをして来ないとも限らないのである


『だけどさぁ、束さんも鬼じゃないから君達にチャンスをあげようじゃないか。
 ゴスペルの機体と、パイロットであるナーちゃんの身柄を束さんに渡してくれるなら、今回の事は国際IS委員会には報告しないであげる――最新鋭のISと其のパイロットを束さんに差し出すだけで君達は自分の罪を国際IS委員会に報告されないんだから、此れは破格の条件だと思うけどね?』



だが此処で束はまさかのチャンスをゴスペル開発部の上層部に与えた。
そのチャンスとはゴスペルとナターシャの身柄を自分に寄こせと言うモノだった――此れがロシアや中国からの申し出だったら彼等も断っただろうが、束の申し出となれば話は別だ。
束の力は其れこそ秒で世界を転覆する事も可能なのを考えると、此処は束の提案を受け入れるのが最上策であろうと考えたのだろう――『国際IS委員会には報告しない』と言うのも大きかったため、ゴスペル開発部の上層部は束の提案を受け入れたのだが、実は束は今回の一件の詳細をアメリカ大統領の『ジャージ・バイダン』に既に報告済みだった。
束は『国際IS委員会には報告しない』とは言ったが、だからと言って其れ以外の場所には報告しないとは一言も言っていないのである。
今回のゴスペルの暴走は、ゴスペル開発部の上層部が独断でゴスペルにアラスカ条約の穴を突いた武装を無理矢理搭載した事が直接の原因であり、ゴスペルとナターシャ及び開発スタッフや整備士にはマッタク一切の責任はなかった事を確りと伝えたのだ。
此れを聞いたバイダン大統領は激怒して、今回の一件に関わったゴスペル開発部の上層部の人間を全て除隊処分にして軍の名簿からも其の名を抹消すると言う徹底ぶりを見せてくれたのだった。

後日、除隊処分を受けた元ゴスペル開発部上層部の人間が次々と自宅で亡くなっているところを発見されたのだが、遺体発見時の状況や自宅に争った跡が一切ない事、遺書らしきメモが残っていた事で警察は全員を『自殺』と判断し、一時は元アメリカ軍の新型IS開発に関わって居た者達が次々と亡くなったと言う事でニュースになったが、其れも直ぐに別の事件のニュースによって人々の記憶から忘れ去られて行くのだった。
此の件に関して、ネット上ではまことしやかにCIAの関与が疑われていたのだが、その確固たる証拠は何もなかったので、今回の一件はアメリカに於ける『政府の陰謀論』の一つになるに留まったのである。








――――――







同じ頃、女性権利団体の本部ビル前には四人の女性がやって来ていた。
一人はオレンジ色の長い髪にレディースのスラックスとボタン付きのシャツを合わせた女性で、一人は長い髪を二つに分けて結んだ上で一つに纏めた髪型の眼鏡の少女で、一人はTシャツにハーフパンツと言うラフなスタイルの少女で、一人はプラチナブロンドの髪と左目の泣き黒子が特徴的でセレブ然としたドレスを身に纏った女性だ。

言うまでもなく女性権利団体の本部に現れたのは亡国機業の実働部隊である『モノクローム・アバター』の隊長であるスコールと、モノクローム・アバター内でも屈指の実力者と知られているオータム、マドカ、ナツキだった。
スコールはゴスペル事件の事を束から知らされており、女性権利団体が夏月を殺そうとした事も当然知る事となり、其れを知った瞬間に豪胆なオータムですら恐怖を覚えるレベルでブチ切れ、最強の部下を引き連れて女性権利団体の本部にやって来たのだ。
夏月とは血の繋がりは無くともスコールにとって愛する息子である事は変わらず、その息子が殺され掛けたとなれば其れをやった女性権利団体を許してやる理由は何処にもない――白騎士事件の際に白騎士が破壊した艦船に乗っていた事で重傷を負い、其れが原因で子供を作れない身体になってしまったスコールからしたら余計にだ。


「スコール、このビル内に居る奴等全員ぶっ殺しても良いんだよな?……お前と同じ位にはオレもブチキレてんだ……オレの可愛い弟分に上等働いてくれたクソッタレを生かしとく理由は何処にもないからな!」

「まぁ、お前が許可せずとも皆殺しは確定だ……私の弟を殺そうとした奴等に情けも容赦も必要ない!」

「えぇ……一人残らず始末しなさい。
 でも、このビルから逃げ出した者は追わなくて良いわ……そいつ等には逃げ延びた事による『何時殺されるか分からない恐怖』を存分に味わって貰うから。」

「はぁ……スコール隊長の逆鱗に触れてしまうとは、自業自得とは言え少しばかり連中に同情してしまうが、精々己の浅はかな決断を恨むんだな。」


そうしてスコール達は女性権利団体の本部に乗り込もうとしたのだが入り口には団体のメンバーである警備員が居るので、当然スコール達は警備員に止められたのだが、警備員の一人をスコールが機械義手に仕込んでいた銃で撃ち抜き、もう一人はオータムが擦れ違い様にマチェットナイフで首を斬り落として絶命させる。
だが其れは一階フロアの受付からは丸見えであり、受付嬢は即座に非常ボタンを押そうとしたのだが……


「はいドーモ、死神DEATH!本物DEATH!!」

「余計な事はしない方が良い……お前達に待って居るのは絶対の『死』だけなのだからね。」


マドカが一足飛びで受付嬢との距離を詰めると、非常ボタンを押そうとしていた手をコンバットナイフで手首から斬り落とし、ナツキが両手に装備した44口径のガバメントを独自に改造したハンドガンで受付嬢の頭を撃ち抜いて絶命させる。
更に受付にあった電話も破壊しただけでなく、受付のパソコンから束お手製の超極悪コンピューターウィルスを内部ネットワークに送り込んで女性権利団体本部のネットワークも完全破壊し、中央エスカレーターで二階に向かう。

二階では『一夜夏月をどうやって始末するか』と言った内容の会議が会議室で行われていたのだが、その会議室の扉をオータムが蹴り破って本格的にカチコミが始まったのだ。
突如扉が蹴破られた事に驚いた会議室に居た面々は、何が起きたのかを理解する間もなく一瞬でその命を散らす事になった……全員が的確に頭か胸を撃ち抜かれているか、或は一瞬で首を落とされているので苦痛を感じる暇すらなかったのは幸運だと言えるのかもしれない。
だが、会議室が襲撃を受けた事で自動的に女性権利団体の本部には緊急事態を知らせるアラートが鳴り響き、スコール達がエスカレーターで三階まで移動すると、其処には武装した女性権利団体のメンバーが出張っていた――ISがないのは、女性権利団体が所有しているISは臨海学校の方に出払っていたからだ。


「おぉっと、コイツはなんとも熱烈な歓迎だが……テメェ等の歓迎なんぞ誰も望んでねぇんだよ!其処で死んどけクソ女どもがぁ!オレはこの世で、女尊男卑ってモンが一番嫌いなんだよぉ!!」

「貴女、もう死んで良いわよ。」

「此の程度で如何にか出来ると思われるとは、随分と甘く見られたモノだな?」

「その認識の甘さが貴様等の敗北の理由だ……亡霊を殺す事は何人たりとも出来はしない。」


だがその武装集団もスコール達の前にはマッタク持って無力だった。
亡国機業の実働部隊であるモノクローム・アバターに所属出来るのは亡国機業でも屈指の実力者であり、更にはモノクローム・アバターに所属する為の厳しい試験を突破した者だけなので其の実力は女性権利団体の武装集団如きではマッタク持って相手にならなかった。
銃弾の雨を搔い潜ってオータムが一人に接近すると、回し蹴りでアサルトライフルを蹴り飛ばしてから、その女性を持ち上げてアルゼンチンバックブリーカー一閃!
プロレスでは背骨を折らないように手加減して使われる技だが、オータムは一切の手加減をせずに一思いに背骨をブチってその女性を投げ捨てる……そして、偽悪的な笑みを浮かべて女性権利団体のメンバーを手招きする。
同時にスコールは蠱惑的な笑みを浮かべて女性権利団体を嘲笑し、マドカはこれまた偽悪的な笑みを浮かべてサムズダウンし、ナツキはクールに状況を分析していたのだ――其れを見た女性権利団体のメンバーは激高し、或は恐怖を押し殺して襲い掛かって来たが、そんなモノは彼女達にとっては敵と呼ぶにも烏滸がましい雑魚以下のナニかでしかなかったので、次々とモノ言わぬ屍へと変えて行く。


「う、嘘でしょう?相手はたった四人、其れも一人は子供なのに、其れなのにこんな……こ、コイツ等人間じゃないわ!嫌だ、私は死にたくないのよぉ!!!」

「に、逃げるなぁ!貴様それでも女性権利団体の一員か!!」

「あら、よそ見しているなんて、そんな余裕があるのかしら?」

「っ!?」


武器を持った集団がたった四人の相手に圧倒されている事に恐怖し逃げ出す者も出始めたが、逃げ出した者は敢えて追わず、向かって来る者達は情け容赦一切なく絶命させる。
そんな中でも彼女達の目に最も恐ろしく映ったのはスコールだった。
モデルと見紛うほどの美貌とプロポーションを持ち、セレブ然としたドレスに身を包んでいるにも拘らず右腕は人工皮膚が剥がれて機械義手があらわになり、その機械義手はギミックアームとなっており、拳銃、ショットガン、マシンガン、グレネードランチャー、刀、ドリル、パイルバンカー、チェーンソーへの変形が可能なヤバ過ぎる代物である上に、スコール自身が返り血で濡れてドレスにも赤い斑点が幾つも出来ている……其の姿は『近未来の死神』とも言えるモノだったのだから。

やがて武装集団は逃亡者や戦死者で数を減らして行き、遂に残るは武装集団の隊長のみとなった――同時に隊長は自分の命が此処で尽きる事も理解した。
集団で掛かっても掠り傷一つ負わせる事が出来なかった連中を自分一人で如何にか出来る筈がないと。生物としての本能が逃げろと告げる一方で、逃げる事は出来ないと言う事も分かってしまったのだ。


「お前達は一体……何が目的でこんな事をした……?」

「目的?そうねぇ……私の息子がお世話になったお礼かしら?……自分の子供が殺されそうになって怒らない親は居ないわよねぇ?」

「む、息子……?」

「貴女達が織斑千冬に唆されて殺そうとした一夜夏月は私の息子なのよ――亡国機業実動部隊『モノクローム・アバター』の隊長である此の私、スコール・ミューゼルのね。」

「む、息子って……そんな馬鹿な!奴は、一夜夏月は日本人の筈……貴様の様な西洋人が母親の筈がない!……否、養子か!!」

「ふふ、大正解♪
 私と夏月は血は繋がっていないけれど、其れでもあの子は私の大切な息子なのよ……白騎士事件の際に重傷を負った事が原因で子供が作れない身体になってしまった私にとっては余計にね。
 そんな大事な息子を殺されそうになったのよ?さて、逆の立場だったら貴女は自分の子供を殺そうとした相手を黙って許す事は出来るかしら?」


せめて死ぬ前にスコール達の目的が何なのかを聞いたが、返って来た答えは至ってシンプルなモノだった。
同時にオータムとマドカも略同じ理由で此処に来ていた――オータムにとっては可愛い弟分であり、マドカにとっては愛すべき弟である夏月を殺され掛けた事はなにがあっても見過ごせる事ではないのだ。
今回のメンバーの中で夏月との関係がないのはスコールに命じられて参加したナツキだけだろう。

だが、スコールの答えを聞いた武装集団の隊長は、此処に来て女性権利団体が夏月を殺そうとした事は間違いだったと悟った。
結果として夏月を殺す事は出来なかったが、其れでもこうして女性権利団体は現在進行形で壊滅しようとしている――幹部連中が逃げおおせる事が出来れば何処かで再起する事も出来るだろうが、其れには決して短くない時間が必要になるのは間違いなく、再起しても此れまでのように活動する事は不可能だろう。
そして、女性権利団体の崩壊が報じられれば各国の政府に入り込んでいた政治家の女性権利団体のメンバーも政府内での立場を失い、此れまでは女性権利団体と言うバックがあった事で揉み消されて来た不祥事も明るみになり辞職に追い込まれるのは略間違いない――夏月を殺そうとした時点で、女性権利団体は自ら『死のルーレット』のボタンを押したのだ。


「最期に何か言い残す事はある?せめてもの情けとして遺言位は聞いてあげるわ。」

「お優しい事で……それじゃあ最期に。我等がブリュンヒルデに栄光あれ!!」

「其れが遺言とは、ある意味で素晴らしいと褒めてあげるわよ。」


隊長の最期の言葉を聞いたスコールは至近距離からのショットガンを放って頭を吹き飛ばす――首を斬り落としても良かったのだが、首を斬り落とされだけでは即死はせず、斬り落とされた首には十秒ほど意識が残るのだ。
だからこそ、スコールはせめてもの情けとしてショットガンで頭を吹き飛ばしたのだ――木っ端微塵に吹き飛んでしまえば其れこそ即死であり、痛みも苦しみも感じないのだから。
こうして女性権利団体の武装集団を完全に無力化して最上階の幹部達が集まる区画にやって来たのだが、其処は既にもぬけの殻となっており人の姿も気配もマッタク無かった――女性権利団体の幹部達はアラートが鳴り響いた瞬間に屋上のヘリポートに移動して、其処から専用ヘリで逃亡していたのである。


「逃げられてしまったわね……でも、逃げたとしても其れで生き延びる事が出来たと思ったら大間違いよ?
 姿が見えない亡霊は何時何処で襲って来るか分からないのだから……精々、『何時殺されるかも分からない』恐怖に怯えながら暮らし、精神をすり減らすのね。
 精神をすり減らした結果、自ら命を絶つのか、其れとも精神を病んでしまうのか……ふふ、何れにしても私の息子を殺そうとした事への報いを受けると良いわ。」

「オレ様の弟分に手を出した事を精々後悔しやがれ!」

「私の弟を殺そうとしたのだ、相応の報いを受けた後に死ね。」

「此れも家族愛……なのだろうか?良く分からないけど。」


幹部達が逃げた事を確認したスコール達はビル内部に多数の爆弾を設置すると、ビルから出た後に起爆スイッチを押してビルを派手に爆破解体してミッションコンプリートだ。
そして、女性権利団体の本部が爆破されたと言う事はあっと言う間に世界中のマスコミに知れ渡って現場には多くの報道陣が押し掛けて、『我先に』とばかりに撮影を行い各国のメディアが速報で『女性権利団体の本部が爆破崩壊した』とのニュースを報道するのだった。








――――――








場所は戻って臨海学校の現場。
最終日の自由時間を楽しんだ生徒達は温泉で海水やら砂やらを落とした後に、大広間で昼食タイムとなった。
この昼食が終われば一時間の自由時間の後にIS学園に戻る事になるので、臨海学校最後の食事となるのだが、本日の昼食メニューは初日の夕食に負けず劣らずの豪華なモノだった。
彩り海鮮丼(漬けマグロ、サーモンハラス炙り、キンメダイ、イクラ、アジ、ウニ)、クロマグロの大トロのステーキ地場野菜のグリル(ナス、オクラ、ズッキーニ)添え、アボカドの冷たいスープと言うラインナップに加え、七輪での焼き貝と焼き天然キノコも提供されたのだから豪華極まりないと言えるだろう。


「生でも食べられる旬の岩ガキを敢えて七輪で焼きガキにして食べるってのは贅沢此の上ないよなぁ……レアの岩ガキをレモン汁で食べる、最高だぜ!!」

「生ともボイルとも異なるレアの焼きガキ……此れはまた格別だね。」


そんな豪華な昼食を堪能した後は、自由時間で荷物を纏める事になったのだが夏月組と秋五組は既に荷物を纏め終えていたので本気の意味で自由時間となった訳で――


「初代ザンギは、一度ダウンを奪う事が出来れば勝ち確定!其処まで持って行くのが大変だけどなぁ!」

「ダウンしたら起き上がりにジャンプ攻撃を重ねられて其処から地上技が連続ガードになったところでスクリューパイルドライバーで強制的に投げられて、以下ループって、初代ストⅡのザンギエフが最弱って言うのは可成り疑わしいんだけど?」

「初代のザンギはダブルラリアットに弾抜け性能が無くて前後の移動も無かったから相手に近付く手段が無かった事で最弱って言われてたみたいなんだけど、一度でもダウンを奪う事が出来れば勝てるって言うある意味一撃のロマンが詰まったキャラだったんだよ。
 そう言う意味ではそんな一撃もなく通常技も必殺技も全てが弱く、ピヨッたら通常の倍のダメージを受けるリュウこそが最弱キャラだっての。」


花月荘のゲームコーナーでレトロゲームを楽しんでいた。
特にStreetFighterⅡは初代からスーパーXまで網羅していたので時間一杯楽しめた――簪はダッシュでベガ(作中最強)を、スーパーXで豪鬼(大会では使用禁止)を使用して大顰蹙を買う結果になったのだが、此れも内輪でのお遊びと言う事で厳重注意に留まった。
そうして自由時間も終わり、一行はIS学園に戻る事になったのだが……


「貴方達がゴスペルと私を助けてくれたのかしら?」


移動用のバスに乗ろうとしていた夏月と秋五に一人の女性が声を掛けて来た。
彼女こそがナターシャ・ファイルス――ゴスペルのパイロットにしてゴスペルと共に空を飛ぶ事を誰よりも楽しみにしていたアメリカ軍のIS部隊に所属していた女性なのである。


「最終的にゴスペルを止めたのは秋五の方だ。俺は其のお膳立てをしただけだ。」

「でも、其のお膳立てが無かったら僕が決める事は出来なかったと思うから、真の功労者は夏月じゃないかな?寧ろ、死に掛けてた状態から復活した君の方が僕とは比べ物にならない位に凄いと思うよ?」

「まぁそう言えるかもしれないけど、試合ではアシストよりも得点の方が評価は高いんだぜ秋五?幾らアシストが良くても得点に繋がらなきゃ意味はないからな。
 だから、今回のMVPはアシストを見事に得点に繋げたお前だ秋五。あと、俺はダークヒーロー系だからMVPとかガラじゃない。」

「なに其の無理矢理理論……だけど其れに納得してる僕が居るのを否定出来ない。」

「ふふ、仲良いのね?」

「親友ですから。」

「より正確に言うならダチ公兼ライバルっすね。」

「互いに高め合う、良い関係だと思うわ。
 でも、改めてありがとう。特にゴスペルを止めて私を助けてくれた秋五君……君は私のナイト様ね♪」


其れに対して夏月も秋五も互いに手柄を譲り合う事になったのだが、最後の最後で夏月が少々強引ではあるがある意味では正論をブチかまして秋五を納得させてナターシャの礼を秋五は受ける事になったと同時に、秋五はナターシャにロックオンされたのだった……『男性操縦者重婚法』が可決した今、ナターシャもまた秋五の嫁として参戦するのかもしれない。

其れはさて置き、バスは旅館を出発したのだが、千冬(偽)は生徒達が旅館前に集まる前に秘密裏に厳重な護送車に押し込まれて学園に送還される事になったのだった――夏月の抹殺を女性権利団体に任せた事は既にIS学園限定でとは言え明るみになっている上に学園内に於ける全ての権限が剥奪されているので、千冬(偽)が此れまでのように自分の好き勝手をする事は出来ないだろう。
勿論事情を知らない一組の生徒達からは帰りのバスに千冬が居ない事に対しての質問が上がったが、其処は真耶が『織斑先生は学園からの急用で呼び出されたので一足先に学園に戻ったんです。』と説明して納得させていた。

そんな事よりも、バスは数時間を掛けて東京にあるIS学園に直通のモノレールの駅に到着していた――此処に到着するまでの道中では、一組のバス内ではお約束とも言えるカラオケ大会が勃発して、ソロ部門では秋五が、デュエット部門では夏月とロランがぶっちぎりの得点で見事に優勝を捥ぎ取っていた。
そして一行は学園島のモノレールの駅に到着し――


「夏月君!」

「カゲ君!!」

「うわっと!」


ホームに夏月が降り立った次の瞬間に楯無とグリフィンがスピアータックル真っ青の勢いで夏月に突進し、そして抱き付いて来た。
夏月が落とされたと言う事を知ったその時は、其れこそ今すぐにでも現場に向かいたかった楯無とグリフィンだったが、自分達には役目があるので現場に行く事を止めたのだが、夏月が心配である事に変わりはなかったので、こうして夏月が無事に自分達の前に現れた事に感極まったのだろう。


「良く、良く生きててくれたわ……おかえりなさい、夏月君。貴方が生きていてくれて本当に嬉しいわ。」

「君が落とされたと聞いて、生きた気がしなかったよ……一命は取り留めたって聞いたけど、其れでも心配だったんだよカゲ君。おかえり。」

「大事な嫁ズを残して死ねるかよ。其れに、俺はそう簡単には死なねぇっての……聞こえるだろ、俺の心臓の音?」


何処か不安そうな表情の楯無とグリフィンの頭を、夏月は己の胸に押し当てた。
其処から聞こえるのは一定のリズムで刻まれる夏月の心臓の鼓動、生命のリズム……其れが楯無とグリフィンの不安を一発で吹き飛ばしたのだった――夏月の心音はそれ程までに力強かったのだ。


「うん、聞こえるわ。貴方の生命の鼓動を。」

「ドキドキ言ってる……」

「其れが、俺の生きている証だ。」


そして其の後、夏月は楯無とグリフィンとハグを交わした後にキスを交わして、其れを見た生徒達からは黄色い歓声が上がっていた――年頃の少女が多いだけに色恋沙汰は需要が多いのかも知れない。
其れは其れとして、『新型ISの暴走とその鎮圧』と言うトンデモナイハプニングはあったモノの、最終的に今年の臨海学校は大成功と言う形で幕を下ろすのだった。










 To Be Continued