臨海学校当日、一年生は学園島からモノレールで本土に移動した後に、バスに乗り換えて臨海学校が行われる場所まで移動する事になったのだが、バスの座席と言うモノに関しては一年一組が少しばかりカオスだった。
夏月の嫁ズはクラスがばらけており、一組の夏月の嫁はロランだけなのでバスでの夏月の隣は必然的にロランだったのだが、秋五の方が少し問題だった。
秋五の嫁ズはオニール以外は全員一組所属なので『誰が秋五の隣になるのか?』で嫁ズが火花を散らす事になったのは必然だったと言えるだろう――最終的には夏月が『平和的にゲームで決めろ』と言った事でスマブラでの大乱闘が勃発し、激戦の末に其れを制した箒が秋五の隣の席をゲットしたのだった。
そんな一組のバス内ではお決まりの『カラオケ大会』ではなく、スマホでの『マスター・デュエル』のオンラインデュエル大会が開催され、『e-スポーツ部』所属の夏月とロラン、顧問の真耶が圧倒的なプレイングで無双していた。
この三人には縛りプレイとして、夏月は『青眼デッキオンリー』、ロランは『ブラック・マジシャンデッキオンリー』、真耶は『真紅眼デッキオンリー』と言う制限が課せられていたのだが、夏月もロランも真耶もそんな制限なんぞ知らぬ存ぜぬと言った状態だった。
夏月は『ドラゴン目覚めの旋律』や『トレード・イン』でデッキを高速回転させてからカオスMAXや各種アルティメット・ドラゴンを融合召喚しての圧倒的な火力で粉砕!玉砕!!大喝采!!!をブチかまし、ロランは魔法、罠、モンスター効果を駆使して華麗なコンボでブラック・マジシャン師弟を展開し、更には儀式や融合を使ってブラック・マジシャンを強化し、『拡散する波動』と『メテオ・レイン』のコンボで一気に相手のライフをゼロにし、真耶は『真紅眼融合』から『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』を融合召喚し、自身の効果と魔法カード『黒炎弾』を二枚発動する『先攻ワンターンキル』の極悪コンボを展開していた。
人畜無害な笑顔が特徴的な真耶は生徒からの人気も高いが、勝負事には妥協はしないのでこの様な極悪な『直焼き』デッキが出来上がってしまったのだろう。
そうしてオンラインでのデュエルを楽しんでいる間に、バスは途中のサービスエリアに到着し、生徒達はトイレタイム&暫しの自由時間と相成った。
サービスエリアは土産物だけでなく、『サービスエリアグルメ』と言われるフードメニューが存在しており、トイレタイムを済ませた生徒達は其方の方にも惹かれて購入する者も少なくなかった。
「上海餅って、此れどんな食い物なんだ鈴?」
「小麦粉と片栗粉を水で溶いた生地で挽肉や野菜、海鮮を包んで焼いた餃子のバージョン違いみたいな中国では割とポピュラーな軽食よ。中国では『シャービン』って名前の方が一般的ね。」
其れは夏月組も御多分に漏れず、『上海餅』の屋台で上海餅を購入して中国初の屋台グルメを堪能し、秋五組はこのサービスエリア限定で、雑誌の『サービスエリアグルメランキング』で堂々の五位にランクインした『牛筋焼きカレーパン』を堪能していた。
店頭に並んだ焼きカレーパンに、注文を受けた後にアツアツの牛筋カレーを再度トッピングしたカレーパンは激うまで、副官から日本知識を植え付けられていたラウラは日本発グルメの一つであるカレーパンの美味しさに感動していた。
「更なるエネルギー補給にモンエナは必須だな……ウルトラパラダイス、新フレーバーか――此れは買いだな。」
サービスエリアグルメを堪能した後に、夏月は売店で『モンスターエナジー・ウルトラパラダイス』を購入して、其れを一気に飲み干してエナジーチャージを完了して、臨海学校初日の海に備えていた。
そしてサービスエリアを出発した後には、一組のバス内で更に大盛り上がりのオンラインデュエル大会が開催され、大会後半で実施されたタッグデュエル大会では、夏月とロランのタッグが夏月が『遊星デッキ』、ロランが『ジャックデッキ』をベースにしたシンクロ主体のデッキを使用し、夏月が『セイヴァー・シューティング・スター・ドラゴン』を、ロランが『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』をシンクロ召喚して無双したのだった。
夏の月が進む世界 Episode38
『Die Küstenschule hat begonnen!Habe Spaß!』
各クラスともバス内でのイベントを楽しんでいる内に海が見える場所までやって来て、程なくして臨海学校での宿泊場所となる旅館『花月荘』に到着した。
ビーチと目と鼻の先にある趣のある和風の旅館で、臨海学校中はIS学園の貸し切りとなっているのだが、IS学園は旅館の宿泊コースを最上級プランで申し込んでおり、一学年と引率の教師の人数ともなれば花月荘側としても良い収入になるのでIS学園は良いお客さんでもあるのだ。
到着した一行を花月荘の女将である『清州景子』が出迎え、生徒達も『宜しくお願いします』と挨拶をした後に、臨海学校前にスマートフォンにダウンロードした『臨海学校手帳』に記載されている夫々の部屋に荷物を置きに行ったのだが……
「今更気付いた事なんだが、俺達の部屋記載されてねぇよな秋五?記載漏れか、其れとも本気で部屋が用意されてないのか……」
「確かに記載されてないね……まさかとは思うけど、僕達だけ野宿とか?」
「マジか……テント持って来るべきだったかもな。そして、マジで野宿だった場合は速攻で文科省と教育委員会と国際IS委員会にクレームブチかますわ。」
「いやいやいや、そんな筈ないじゃないですか一夜君、織斑君!
お二人は私と同じ部屋なんですよ。寮と同様に一夜君はローランディフィルネィさんと、織斑君は篠ノ之さんと同室と言う案もあったんですけれど、其れだと婚約者さん達だけでなく、他の生徒達も押し掛けそうだったので私と同じ部屋になったんです。」
「あ、そうだったんですか?……なら、僕達の部屋が記載されてないのは納得だね。」
「教員の部屋まで押し掛けて来る猛者は流石に居ないだろうからな……いや、俺の嫁ズは押し掛けて来るかも知れないけどな。俺の嫁ズは怖いモノなしだ……殴って倒れる相手に対しては。」
「殴って倒れない相手に対しては?」
「……俺の嫁ズなら、其れも最終的には気合でなんとかするような気がする。……殴って倒れない相手でも、お前の方は箒が何とかしそうだよな?確か実家の神社では巫女さんもやってるんだろ?」
「うん、まぁ出来るような気がしなくもないよ。夏祭りや正月限定の巫女さんだけど。」
「巫女さんなら幽霊を祓う事も出来るかも知れませんね?まぁ、来たら来たで其の時は就寝時間までは思い切り楽しんじゃいましょう♪偶には羽目を外すのも大事な事ですら♪」
夏月と秋五の部屋は記載されていなかったが、此れは他の生徒が押し掛けるのを避ける為に『教員との同室』になっていたからだった。
そして同室の教員は真耶なのだが、此れは職員会議で学園長から真耶を直々に指名したからだ――此れがもしも一昨年だったら千冬と同室だっただろうが、千冬は去年の楯無との模擬戦で評判が下がり、今年に入ってからは教員だけでなく生徒の間でも評価が下がり続けている事で、世界に二人しか存在しない貴重な男性IS操縦者を任せる事は出来ないと判断されたのだ。
逆に真耶は此れまでは千冬の陰に隠れていたが、今年に入ってからはその隠された実力を発揮する機会が多く、教師間でも生徒間でも評価が鰻登りになっているので夏月と秋五と同室と言う重要任務を任されたのである――そうであっても、『来たら来たで、其の時は就寝時間まで楽しんじゃいましょう』と言う柔軟な発想が出来るところも真耶の良い所であると言えるだろう。得てして、修学旅行や臨海学校を生徒と共に楽しめる教師は生徒人気が高いのだから。
真耶と共に部屋に到着した夏月と秋五は其処で制服をパージすると夏月はボクサーや総合格闘家が入場時に纏っているロングパーカーを、秋五はグレーの半袖のパーカーを纏う……夏月も秋五も既に制服の下に水着を着込んでいたのである。
「恐ろしく速い早着替え……私でなければ見逃しちゃいますね――ではなく、初日はマルッと自由時間なので楽しんで下さいね一夜君、織斑君♪」
「はい、そうします。」
「俺達は先に行ってますんで、山田先生も着替えたら来て下さいよ?少なくとも一組の連中は、山田先生とビーチで遊ぶの楽しみにしてると思いますんで。」
「ふふ、了解です♪」
あまりにも速かったので夏月と秋五の水着の詳細は分からなかったが、パーカーを纏った状態でビーチへ行くと、既に複数の生徒が海水浴やらビーチバレーなんかを楽しんでいた。
その生徒達は夏月と秋五がやって来たのに気付くと『わ、私の水着オカシクナイかな?』、『水泳部で水着焼けしてるのに何でビキニ選んだ私!』、『夏のビーチに美男子が二人……今年の夏はこのネタで行こう』等の声が聞こえて来た。
夏月と秋五には既に複数の婚約者が居り、何れも国家代表候補生以上の実力者であるのだが、だからと言って夏月や秋五との交際を諦めた生徒が居ない訳ではなく、自主トレーニングを行って己の実力を底上げして立候補を狙っている生徒も居る――一年一組に限って言えば、鷹月静寐、鏡ナギ、四十院神楽が夏月の婚約者を、相川清香、谷川癒子、矢竹さやかが秋五の婚約者を狙っていたりするのだ。
理由は兎も角として、そのトレーニングによって地力が底上げされていると言うのは悪い事ではないだろう――地力が底上げされ、IS学園に『推薦テスト』を申請して其れをクリアすれば、IS学園の推薦で国家代表候補生になる事も可能なのだから。
まぁ、其れは其れとして、ビーチにやって来た夏月と秋五はリングインしたプロレスラーのように纏っていたパーカーを脱いで放り投げる――と同時に、ビーチの女子からは黄色い歓声が上がった。
秋五の身体は細身ではあるが必要な筋肉がついている『男性グラビアアイドル』の様なモノで、水着もシンプルなトランクスタイプだったのだが、夏月の身体は『究極の細マッチョ』であり、全身が『ゴムの柔軟性と鋼鉄の剛性を併せ持つ筋肉』で構成され、極限まで細くしなやかに、それでいて強く鍛え上げられた身体は、それだけでも女子の生物としての『雌の本能』を刺激するモノである上に、夏月の水着はボディービルダーがボディービルの大会で穿いているような身体にジャストフィットしたブーメランタイプであり、女子の視線は釘付けになってしまったのである。
「腹筋板チョコバレンタイン!」
「泣く子も黙る大腿筋!」
「背中に鬼神が宿ってる!」
女性陣から謎の声援が上がったが、そんな事は気にせずに夏月と秋五はビーチに降り立ったのだが、其処で夏月は秋五に『日焼け止めのオイル』を投げて寄越した……浜辺でのオイル塗りは定番のイベントだが、秋五の嫁ズは箒とオニールを除いて全員がヨーロッパ勢の白人であり日焼けは厳禁なのだ。
そして箒とオニールも日焼けには強くないので日焼け止めのオイル塗りは不可避のイベントと言えよう。
同時に夏月は日焼け止めのオイルとサンオイルの両方が必要だった。
簪と鈴と乱、ロランとファニールは日焼け止めのオイルを塗る事になるのだが、ヴィシュヌにはその特徴的な褐色肌をより美しくするためにサンオイルを塗る事になるからだ……尤も既に大人の階段を上っている夏月と秋五にはオイル塗り程度は余裕の任務なのだが。
「アタシが一番乗りね!夏月ーー!」
「は~い、突撃は危険で危なくてデンジャラスだからダメだぜ鈴。そして、良い子も悪い子も真似しちゃダメだ。」
嫁ズで真っ先にやって来たのは鈴だ。
夏月に飛びついて肩車をして貰おうと目論んでいたのだが、夏月は飛びついて来た鈴を右腕で受け止めると、其処から空中で一回転させて右肩に抱えると言うトンデモナイ離れ業を披露してくれた。
しかも、此れだけのことをして鈴には一切ダメージがなかったのだから、夏月の絶妙な力加減は褒めるべきであろう――こんな事をされて全く驚いていない鈴の強心臓も大したモノだが。
「なんか目論んでたのは違う結果になっちゃったけど、アンタよく片腕でアタシの事抱えられるわね?
自分言うのもなんだけど、片腕で抱えられる重さじゃないと思うんだけど?」
「鍛えてるから此れ位は余裕だっての……なんなら左肩に乱を乗せる事も出来ると思うぜ?……多分本気のブリッジならロランとヴィシュヌと楯無さん乗っけてもイケると思うしな。
相手のバランス感覚次第だけど、多分指一本でお前達を支える事も多分出来ると思うぜ。」
「其れは中国雑技団も真っ青の難技だと思うわアタシ。」
そして其れを皮切りに夏月と秋五の嫁ズがビーチに現れたのだが、彼女達の水着姿は他の生徒達の戦闘意欲を削り切るには充分な破壊力があった――コメット姉妹は兎も角として、其れ以外は割とプロポーションが極悪であり、箒の桜色のツーピースと、ヴィシュヌの白のビキニの破壊力は特に凄まじくエクゾディアレベルか最上級特殊能力を発動したオベリスクの如しだったのだ。
更に隠れ兵だったのがシャルロットだ。
性別を偽り、男装していたシャルロットは中性的なイメージが強かったのだが、水着になってみたら『お前男装してる時一体如何やって隠してたんだ?』と言うレベルで胸部装甲が凶悪だったのだ。
「……分かっちゃいたけど、やっぱりアタシが乳ヒエラルキーの最下層かい!
年下の乱に負けてるってだけでも結構凹むのに、なんだってこうもドイツもコイツも胸がデカいのよ!唯一私よりもサイズが低いのがファニールとオニールだけって流石にダメージがデカ過ぎるんですけど!!最終的には泣くわよオイ!!」
「ふむ……だがしかし、ファニールとオニールは飛び級でIS学園に入学したとは言え本来ならば小学生で、現在成長期真っ盛りと言うのを考えると、将来的には超えられてしまうのではないかな鈴?
女の子の成長はとても早いからねぇ……最短で一年後には身長もスリーサイズも抜かされている可能性が否定出来ないよ。」
「サラリとトドメ刺してんじゃねぇわよロラン!!……かくなる上は、タバ姐さんに頼んで身長と胸を大きくする薬を作って貰うか……」
「ア~~、友人として、姉さんの妹として言っておくが、其れは絶対に止めた方が良いぞ鈴……姉さんならば出来るだろうが、きっと限界突破したモノを作ってお前が望んだのとは異なる結果になるだろうからな。」
「だまらっしゃい!此の天然即席ホルスタイン!!」
「……何時になく荒れてるね鈴は……」
「貧乳でまな板で盆地胸な鈴にとってこの光景は地獄だろうからなぁ……せめて背が高ければまだ良かったんだろうけど、鈴は身長もちっこいから色々コンプレックスが爆発してんだろ。多分な。」
そんなこんなで夏月と秋五の嫁ズも勢揃いした所で、彼等の臨海学校初日の自由時間がスタート。
先ずはレジャーシートを砂浜に敷き、海の家でレンタルしているビーチパラソルを立てて、其処で嫁ズへのオイル塗りを行い、確りと準備運動をしてから海へと突撃!
海の水は透明度が高く、そして浅瀬にはサンゴ礁が存在しているのでゴーグルを装着しただけの簡易装備であっても十二分に美しい海の光景を楽しむ事が可能となっており、夏月と秋五は嫁ズとの海を堪能していた。
サンゴ礁にて其処に住まう生き物たちと戯れる嫁ズは実に魅力的であり、夏月と秋五が一瞬彼女達の姿に人魚を幻視してしまったのはある意味で当然なのかも知れない。
因みに、全員が専用機持ちであり、専用機は待機状態で身に着けているのだが、ISは待機状態でもその機能の一部はオンになっており、その中には『宇宙空間でも呼吸が出来る』と言うモノがあり、其れが機能している事で夏月達は水中でも普通に呼吸が可能になっており、長時間潜っている事が可能になっていた。
其のお陰で普段は中々見る事が出来ない貴重な生物を見る事も出来ていた。
「夏月、この身体が透明な魚は何ですか?長い身体……リュウグウノツカイの幼生でしょうか?」
「いや、コイツは……ウツボの幼魚だな。前にテレビで見た事があるけど、まさか実物を拝む事が出来るとは思わなかったぜ……幼魚時代はこんなに綺麗なのに、なんだって成魚になると海のギャングになっちまうのかねぇ?
真正面から見たウツボの顔は何とも言えない愛嬌があるけどな。」
「箒、何してるの?」
「ハリセンボンが威嚇して膨らんで来たので、睨めっこをしている。」
この様な感じで海を堪能した夏月達は浜辺に戻ると、クラスメイトからの誘いを受けてビーチバレーに参加する事になった――そのビーチバレーには真耶も参加していたのだが、水着姿の真耶は箒とヴィシュヌ以上の攻撃力を発揮していた。
水着はシンプルなビキニタイプなのだが、光沢を抑えたカッパーゴールドが『大人の女性』を演出し、海と言う事で眼鏡を外してコンタクトレンズを装着した真耶は普段のおっとりとした感じではなく、『出来る女性』の感じが出ていたのだ。
更に真耶はビーチバレーでも見事な動きを見せ、次々とスパイクを決めて生徒達から尊敬の念を集めていた――同じ頃、千冬は海の家で勤務時間であるにも関わらずビールを飲むと言うトンデモナイ事をやっていたのだった。
其れはさて置き、ビーチバレーに参加した夏月達は組み合わせを変えながらビーチバレーを楽しんでいたのだが、そろそろランチタイムになると言うところで千冬が乱入してきて夏月に勝負を申し込んで来た。
少しばかり面倒だとは思ったモノの、夏月は断る理由もなかったのでヴィシュヌをパートナーに指名し、千冬はラウラをパートナーに指名して試合が始まったが、試合は終始夏月&ヴィシュヌペアが主導権を握る展開となった。
サーブ後のリターンで千冬は強烈なスパイクを放って来たが、夏月が其れをレシーブするとヴィシュヌが絶妙なトスを上げ、其処から夏月がレーザービームの如きスパイクを叩き込んで点数を重ねて行き、時にはヴィシュヌが超高角度のジャンピングサーブでサービスエースを決め、終わってみれば夏月&ヴィシュヌペアが完封のストレート勝ちを収める結果となり、千冬は赤っ恥を掻く結果となったのだった。
ビーチバレーを終えた後はランチタイムになったので、一行は海の家でランチを摂る事にした。
海の家のメニューと言えばカレーライス、ラーメンが主食のメインであり、サイドメニューとしてフランクフルト、焼きそば、イカ焼き、おでんと言った感じで、夏月達もカレーライスやラーメンをメインとしてオーダーし、各種サイドメニューを頼んでシェアしていた。
「フランクフルトにケチャップは要らん!マスタードだけで食すのがドイツ流だ!」
「ソース焼きそばって、中華料理的には邪道なんだけど、何とも言えない美味しさがあるのよね此れって……ソース焼きそばも、日本人のソウルフードって言えるかもしれないわね。」
「今更だけど、何で夏場の海なのにおでんがあるんだろう?」
「海で冷えた身体を温めましょうって事なんじゃないのか?」
「ふむふむ、そう言われてみれば納得してしまうねぇ?簪も疑問が解けて良かったんじゃないかな?」
「うん、納得した。そしてやっぱりおでんは出汁が浸み込んだダイコンが一番美味しい。後は牛筋が良い。」
「カンザシ、意外と好みが渋いね……」
海の家でのランチタイムを楽しんだ後の午後の部では、夏月組と秋五組は観光用のクルーザーで沖に出て、其処で釣りを楽しむ事にした。
水着姿の美男美女が釣りを楽しむ様は何とも絵になるモノであり、其れこそ釣り専門雑誌の表紙を飾れるのではないかと思うレベルだろう――其れほどまでの魅力があるのである。
釣りは全員が初体験だったのだが、ビギナーズラックと言うか釣果の方も上々で、アジやイワシ、タイやヒラメと言った魚をそれなりの数を釣り上げており、クーラーボックスもソコソコ埋まっていたのだが、ソロソロ港に戻ろうとしたところで、突如夏月の竿に大きな当たりが来た。
其れを見た夏月はすぐさまリールを巻いて釣り上げようとするが、食いついた相手は相当な大物なのか中々引き上げる事が出来ない……其処から夏月と魚の正に力比べの格闘が幕を開け、タップリ一時間を掛けた格闘の末に針に掛かった魚が海面に姿を現したのだが、其処に現れたのは実に見事な角を有した『カジキマグロ』だった。角まで含めれば大きさは2mを越えているだろう。
カジキマグロは釣り上げられる直前に最後の力を振り絞って決死の体当たりをブチかまして来る事もあるので釣り上げる前にトドメを刺すのがセオリーで、夏月が引き上げる直前に秋五がモリで海面まで引き上げたカジキの頭を突いてトドメを刺したのだった。
「まさかカジキマグロ釣り上げちまうとは思わなかった……此れ競りに出したらドレ位の値段が付くんだろうな?」
「カジキはホンマグロよりは大分安価で取引されてはいるけど、其れでも此の大きさだと数十万はするんじゃないかな?しかもこれはマカジキだし。」
こうして良い釣果を治めたのだが、『釣り上げた魚は如何するか?』と相談していたところ、真耶が花月荘に連絡を入れて引き取って貰う事になり、今晩のメニューに使われる事になったのだった。釣りたて新鮮な魚が如何調理されるのか、夏月達も楽しみにしていた。
釣りから戻って来た夏月達は再びビーチへと向かったのだが、其処では本音が何とも見事なサンドアートを作り上げていた。
遊戯王の霊使い、軌跡シリーズの歴代主人公、ガンダムシリーズから昭和の主人公(アムロ・レイ&ガンダム)、二十一世紀最初の主人公(キラ・ヤマト&フリーダム・ガンダム)、令和の主人公(スレッタ・マーキュリー&ガンダム・エアリアル)、地面に突き刺さった伝説の剣、モンスターハンターのリオレウスと討鬼伝のゴウエンマのタッグに戦いを挑むハンターとモノノフ等々、サンドアート展の会場もビックリの状態となっていた。
「凄いな……此れ全部のほほんさんが作ったのかよ?」
「本音にこんな特技があったとは意外……ISの整備が得意だから手先が器用なのは知ってたけど……MGEXストフリのエモーションマニュピレーター、本音に頼めば良かったかなぁ?」
「えへへ~~、作り始めたら気分が乗って、気が付いたらこんな事になっていたのだ~~!
因みに、私一人で作ったんじゃなくて、キヨキヨやしずしず、ゆこゆこにも手伝って貰ったんだよ♪特に~、七月のサマーデビルを自称するゆこゆこはとっても頼りになる仲間だったのだ~~!」
「七月のサマーデビル……ふむ、一体どのような意味があるのか少しばかり興味があるね?」
「其れは、何となく深く聞いてはいけないような気がします……」
当の本音はマダマダ作る気満々で、『次はブラック・マジシャン師弟を作るのだ~~!』と張り切ってサンドアート制作を再開し、夏月と秋五の嫁ズは改めてオイルを塗って貰った上で再び海に入り、夏月と秋五は海の家で水上バイクをレンタルして嫁ズと海上ツーリングを楽しみ、ヴィシュヌは水上バイクで引っ張られながら波乗りを行い其処で見事な宙返りなどのトリックを決めて見せ、他の生徒達を驚かせていた。
こうして初日の自由時間を思い切り楽しみ、最後は誰が言って始まったのか、クラス対抗のビーチフラッグ大会が行われ、激闘の末に三組が優勝を捥ぎ取った。
各ブロックを勝ち抜いたヴィシュヌとロランが決勝戦でぶつかったのだが、最終的には足の長さで勝るヴィシュヌがロランを上回ったのだった――因みにエキシビションで行われた夏月と秋五の一騎討は三回勝負で夏月の二勝一敗で幕を閉じた。
更に序に、本音が静寐、清香、癒子と共に作り上げた数々のサンドアートはクラスメイトによって各種SNSにアップされてバズリまくり、Twitterでは一時『超凄いサンドアート』がトレンド入りしていた。
尚、千冬はビーチバレーで夏月に負けた後も海の家に入り浸ってビールを飲んでおり、その様子は真耶が確りと動画に収めて学園長にメールで送信しており、学園では轡木が楯無と相談して千冬から『実技担当責任者』の権限も剥奪する事を決めていた……千冬にインストールされた人格は自ら破滅の道を歩むモノであったらしい。
――――――
海を満喫した生徒達は軽くシャワーを浴びた後に浴衣に着替えて夕食の大広間にやって来たのだが、その豪勢な夕食メニューに驚く事となった。
輝く銀シャリは其れだけでも魅力的なのだが、おかずには『刺し身の盛り合わせ』、『茶碗蒸し』、『天婦羅の盛り合わせ』、『浜焼き』が用意されて、食欲中枢をダイレクトに刺激するモノとなっており、刺し身の盛り合わせには夏月達が午後の釣りでゲットした魚が使われているのだから豪勢極まりないのは当然と言えるだろう。
タイは皮付きの湯引き、ヒラメは薄造りでエンガワが添えられ、アジはタタキ、イワシはナメロウになり、カジキマグロは厚切りの刺し身だけでなく、浜焼きにも厚切りの身が提供されていた。
茶碗蒸しにはカマボコとシイタケ、そして新鮮なエビが具材として使われており、全体をカツオ節とサバ節、昆布のだし汁が上品に纏め、天婦羅の盛り合わせは海鮮の他にナス、カボチャ、シシトウ、オクラなどの夏が旬の野菜も添えられており、浜焼きには先述した厚切りのカジキマグロに加えて、ハマグリ、岩ガキがあり、アワビに至っては活アワビを其のまま殻ごと焼く『踊り焼き』での提供となった。
「コイツは何とも豪勢極まりないな……刺し身に添えられてるワサビも、此れは本ワサじゃねぇか。」
「本ワサは香りが違う……カジキマグロの濃厚な脂にはワサビのツンとした辛みが良く合うよ。」
刺し身に添えられたワサビは純度100%の『本ワサビ』であるのも驚くべき事だった――秋五から本ワサの説明を受けたシャルロットが、ワサビを其のまま食す、『外国人あるある』を披露してくれたが、其処に『三ツ矢サイダー』を渡した箒も中々に鬼畜と言えるだろう。
ワサビの辛さでダメージを受けた口内に炭酸の追加ダメージにシャルロットは悶絶する事になり、箒は『秋五を裏切るような事があれば此の程度では済まさん』と言っていた……腹黒フィアンセは、中々に前途多難なようである。
「夏月、アンタのエンガワ頂戴!」
「其れは無理な相談だぜ鈴……ヒラメのエンガワは一番美味しい所だろうが!でもって希少部位!此ればっかりは俺の嫁でも譲る事は出来ねぇ!同じ提案をされた時、お前は其れを容認出来るのか!」
「其れは無理ね♪」
「なら、此処は大人しく諦めな。」
こうして豪華な夕食を堪能した後は、食休みを挟んでお風呂タイムに突入した。
花月荘には屋内の温泉だけでなく露天の温泉が男女別で存在しており、多くの生徒は露天の方を選択し、夏月と秋五の嫁ズも露天温泉に向かったのだが、其処では鈴にとってはビーチ以上の地獄の光景が展開されていた。
バスタオルで隠されているとは言え、露天温泉では『巨乳~魔乳の展示会』と言っても過言ではないレベルの『乳祭り』状態となっており、特に箒、ヴィシュヌ、本音の『一年生乳ヒエラルキーのトップ3』の攻撃力はぶっ飛んでおり、より分かり易く言うなら、箒は攻撃力5000、ヴィシュヌは攻撃力4500、本音は攻撃力4000で、鈴の攻撃力は1000と言ったところだろうか?
「海以上にムッカつくわねこれぇ!
なんだってドイツもコイツも胸に脂肪を蓄える事が出来てるのよ~~!!毎日牛乳飲んでたのに、80に届いてないアタシへの嫌がらせか此れは!特に箒とヴィシュヌ!アンタ等の胸を5%ずつアタシに寄こしなさい!」
「ですから、其れは無理です。」
「姉さんに頼めば可能かも知れんがな……私としても胸が大き過ぎるのは悩みの種なので、少しばかりバストダウンしたい所だからな。」
「其れはイヤミかこの乳魔人どもが~~!!」
鈴がまたしてもトンデモナイ無茶要求をして来たが、この時壁一枚で隔てられた露天の男風呂には夏月と秋五が入っており、これ等の会話はバッチリと二人の耳にも届いていたのだった。
「鈴、相変わらず胸の事になると色々とアレだね……気持ちは分からなくもないけど。」
「まぁ貧乳は貧乳で魅力もあるんだけどな……ぶっちゃけて言うと、貧乳との夜のISバトルは結構良い感じだったぜ?ボリュームは足りないけど、その代わりに感度は最高だったからな――結論として、デカくても小さくても双方に夫々良い所があるって感じだな。」
「僕はサラッとトンデモナイ事を聞いた気がするよ。……って言うか、こっちに僕達が居るなんて事は微塵も思ってないよねアレ。」
「絶対に思ってねぇだろうな。」
だからと言って何が如何なる訳でもなく、一行は温泉を満喫したのだった。
そして温泉を満喫した後、夏月と秋五の嫁ズは二人の宿泊部屋となっている真耶の部屋に突撃をブチかまし、其処で全員が夏月と秋五のマッサージを受け、そして其の後にトランプやウノでのゲーム大会が始まった。お菓子やジュースをOKにしてくれた真耶は、『一日目は完全自由行動なので無礼講です』と微笑んでいた。
そのゲーム大会の中で、真耶は夏月と秋五の嫁ズに『時に皆さんは一夜君と織斑君の何処に惚れたんですか?』と斬り込んで来たのだが、其れに対する夫々の嫁ズは異口同音に『人柄に惹かれた』と答えていた。
ロランは夏月が自身のファン第一号で、更識姉妹は夏月と家族として過ごした時間の中で惹かれて行き、鈴と乱にとっては初恋の相手、ヴィシュヌとグリフィンとファニールは何時の間にか好きになっていた。
箒は秋五が初恋の相手で、セシリアは自分を変えてくれた相手、シャルロットは利害の一致だが、ラウラはVTSの暴走から救い出してくた恩人であり、オニールにとっては大好きなお兄ちゃんなので、『人柄に惹かれた』と言うのは嘘ではないのだろう――少なくともシャルロット以外は。
「その捨て牌、ロンだ!
見るが良い、此れこそが人生で一度見る事が出来るかどうかと言う麻雀の最強役!ポーカーのロイヤルストレートフラッシュをも上回る最強無双の究極の一手!
チューレンポートーじゃぁぁ!!ツモじゃなくてロン上がりだから得点は二倍!大人しくハコを喰らいやがれぇ!!」
「チューレンって、マジですか!?」
「まさかの幻の最強手牌を揃えるとは、流石と言うか何と言うか、運も凄いね夏月。」
「夏月の此処一番での強運はデュエルだけではなかったみたいですね……」
そうして就寝時間ギリギリまで行われたゲーム大会では、最後の麻雀大会で夏月が幻の最強手牌と言われている『チューレンポートー』をリーチを掛けてからのロン上がりで完成させ、秋五と真耶とヴィシュヌに見事にハコを喰らわせて一撃必殺の大勝利を収めていた。
此の麻雀対決では、負けたラウラが副官からの入れ知恵で服を脱ごうとしていたのだが、其れは夏月と秋五が全力で阻止し、『脱衣麻雀』な展開は阻止していたのだった。
そして、ゲーム大会を心行くまで楽しんだ一行は、就寝時間の五分前になると夫々の部屋に戻って行き、眠りに就くのだった。
「それじゃあ電気を消しますね?お休みなさい、一夜君、織斑君。」
「お休みなさい山田先生。」
「Good Night.Sweet Dream.(お休みなさい。良き夢を。)と、敢えて英語で言ってみたんだが如何だろう?」
「日本語で良かったんじゃないかなと思うよ?」
「でも、発音自体はとっても良かったと思います。」
夏月が英語で言った後に感想を求め、秋五は若干辛口で、真耶は発音は良いと褒めてくれた――其れは其れとして、直後に真耶の部屋も照明が落とされ、夏月と秋五もあっと言う間に夢の世界へと旅立って行くのだった――思い切り楽しんだだけに、身体は疲れていたのかも知れない。
海を思い切り楽しみ、豪華な食事と最高の露天温泉を満喫し、臨海学校一日目は大きなトラブルもなく無事に終わったのだった。
――――――
夏月達が海を満喫していた頃、楯無は生徒会室で生徒会の業務を熟していた。
主な仕事は書類への捺印なのだが、本日は学園長との会談もあって本来の予定よりも可成りの業務量を熟す事になり、判を捺した書類の数は余裕で四桁は下らないだろう――其れ等の作業も一区切りとなり、一休みに虚が紅茶を淹れてくれているのだが――
――パリン!
「ティーカップが割れた?……何だか不吉ね此れは……」
其処で楯無が愛用しているティーカップが突如として真っ二つに割れ、楯無も虚も、其処に何か不吉な事が起きるのではないかと言う不安を抱かずには居られなかった……夏月達が居れば大丈夫だと思う反面、『カップが割れる』と言う不吉極まりないモノを見てしまった楯無が不安になるのは致し方ないと言えるだろう。
「お嬢様、此れはきっと偶然です……不吉な事は、起こらない筈です……多分。」
「そ、そうよね虚ちゃん……カップが割れるのは不吉の前兆なんてのは、所詮は迷信に過ぎないんですからね。」
楯無も虚もこの結果は偶然だと自らに言い聞かせるが、ティーカップが真っ二つに割れたのは決して偶然ではなく、不吉の前兆であった事を、二人は後に知る事になるとはこの時は誰も予測すらしていなかっただろう――そう、其れこそ全知全能の存在である神ですら、臨海学校の二日目に起こる最悪の事態は、想定していなかった事であるのかも知れない……
To Be Continued 
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