IS学園にて白熱のタッグトーナメントが行われていた頃、亡国機業のオータムとマドカはフランスの地に降り立っていた――夏月から頼まれた『デュノア社粛清』の任務を遂行する為にだ。
オータムもマドカも表向きには存在していない人間なので、普通ならばフランスに入国する事は不可能なのだが、亡国機業は世界規模の組織であり、あらゆる分野のエキスパートが揃っているので構成員のパスポートを作る事は朝飯前のモーニングコーヒーであり、オータムとマドカは無事にフランスに入国する事が出来ていたのだ。
「此処がデュノア社か……ったく、ドデカイビルをおっ建てたモンだぜ。
こんだけのビルをおっ立てたにも拘らず、欧州のイグニッション・プランから除外されて経営難に陥って、起死回生を狙って愛人の子を『男性操縦者』としてIS学園に送り込んで、あまつさえ男性操縦者の機体データを取って来いと命じるとか、大凡人の心を持ってる奴がやる事じゃねぇよな?」
「デュノア社の社長夫妻は、其れほどまでに外道な奴等だったと言う事だろう……尤も、だからこそ私達も手加減せずに暴れる事が出来るのだけれどな。」
空港からタクシーでデュノア社の本社ビル前までやって来たオータムとマドカは早速作戦を開始し、先ずはマドカが『デュノア社の見学に来た子供』を装って入り口前の警備員に話し掛け、警備員がマドカに対処している間にオータムが警備員の背後に回り込み、延髄に素早い手刀を叩き込んで意識を刈り取る。
「恐ろしく速い手刀……私でなければ見逃していたな。」
「マドカ、テメェ其れ死亡フラグだぜ?」
意識を刈り取られた警備員は当然その場に倒れ込み、其れを見た通行人やビル内部に居た警備員数人も集まって来て、其の場に居たオータムとマドカに事情を聴くも、二人とも当然『知らぬ存ぜぬ』を貫き、マドカが『デュノア社を見学したくて姉さんと来たんだけど、警備員の人に話しかけたらイキナリ倒れちゃったの』とだけ言って集まって来た人達を納得させていた。
傍目に見ればマドカは普通の子供であり、オータムも女性にしては身長が高めではあるがパッと見は細身であり、屈強な警備員を如何にか出来るようには大凡見えなかったと言うのも大きいだろう。
だが、疑われなければ其れで良いと言う訳では無く、オータムとマドカはデュノア社のビル内に入らなければならないのだ。
「……なぁ、姉さん。こんなモノが転がってたけど、これは何なんだ?」
「んあぁ?……って、オイコラマドカ、其れは手榴弾じゃねぇか!何でそんなモンが落ちてんだよ!?
……まさか、警備員が倒れたのはデュノア社を狙うテロリストが何処かから狙撃ライフルで撃ったからなのか!?……でもコイツ等生きてるし、実弾じゃなくて麻酔弾か!って、んな事言ってる場合じゃねぇ!マドカ今すぐそれを捨てろ!」
「は~い。」
「って、ピン抜いてから捨てる馬鹿が居るかぁ!!」
此処で一芝居打って、マドカがスタングレネードを拾ったフリして炸裂させ、其の場に居た者達の視界を奪う。
勿論オータムとマドカはスタングレネードが炸裂する刹那の瞬間に亡国機業謹製の『通常の三倍の遮光性のあるサングラス』を装着してスタングレネードの閃光をシャットアウトし、その混乱に乗じてまんまとデュノア社のビルに侵入する事に成功した。
先の警備員二人の意識を刈り取った事で起きた騒ぎにビル内のエントランスに居た警備員も駆け付けてくれた事で、彼等もスタングレネードに巻き込む事が出来たのは嬉しい誤算だったと言うところだろう。
「さてと、此処からが本番だから気を抜くんじゃねぇぞマドカ?テメェの腕前なら大丈夫だろうが、万が一トチったらその時は……今回の一件がお前のせいで苦労したって夏月にチクってやるかんな!」
「適当に済ます心算だったが、其れを言われたら本気を出すしかあるまいなぁ……お姉ちゃんとは、弟にとっては常にカッコいい存在でなければならんのだ!!」
「まぁ、この前のクラス対抗戦の時の乱入で、お前に対する夏月と秋五の印象はあんまり良くねぇだろうがな……精々頑張れやブラコンお姉ちゃんよ?」
「上等だ!証明してやろうではないか、あの自称姉よりも私の方が夏月と秋五の姉であると言う事を!……惜しむらくは、私が姉だと言う事を伝える術が無いと言う事なのだがな……」
ともあれ、本番は此れから。
ビル内部に突入すると同時に、スコールとマドカはアタッシュケース(金属探知機無効化機能付き)に入れていた銃器を取り出して一瞬で武装すると、正面玄関から真っ向突入と言う、大凡『デュノア社の不正の証拠を集める』と言う目的には向かない突入をしてくれたのだが、其れ以上に『デュノア社の粛清』の目的もあるので真正面から喧嘩を売ると言うのはアリであるのかもしれない。
だがしかし、オータムとマドカの突入はデュノア社終焉のカウントダウンが始まったと言っても過言ではないだろう――オータムとマドカは、亡国機業の実働部隊である『モノクロームアバター』内でも五指に入る実力者なのだから。
夏の月が進む世界 Episode35
『トーナメントの裏側とトーナメントの其の後』
ビル内に突入したオータムとマドカは、先ずはエントランスの受付に居る受付嬢を麻酔銃で眠らせて無力化すると、エレベーターで一気に十階まで移動し、ビルのコントロールルームに突入する。
ビルのコントロールルームではビル内に設置された監視カメラの映像をチェックするだけでなく、ビル内のセキュリティシステムも管理しているので、此処を制圧してしまえば其の後の動きがずっと楽になるのだ。
「よう、デュノア社の犬共、今からこのコントロールルームはオレ達が制圧させて貰うぜ?取り敢えず眠っときな!!」
「精々良い夢を見るんだな。いや、貴様等が見るのは悪夢かも知れんが取り敢えず眠っておけ!」
コントロールルームに突入するや否や、オータムとマドカはグレネードランチャーから『麻酔ガス弾』を発射して、コントロールルームのオペレーターを全員眠らせ、全員を縄で縛り上げた後に、セキュリティシステムを弄ってビル内のセキュリティを全てオフにし、非常時に自動的に降りるようになっている隔壁などを無力化する。
此れで、デュノア社のセキュリティは無効になったのだが、無効になる前に機能していたセキュリティは有効であり、受付嬢が麻酔銃で眠らされたのを見ていたコントロールルームのオペレーターが緊急非常ボタンを押しており、ビル内の警備員全員がコントロールルームに集まって来ていた。
「こりゃまた団体さんのお出迎えか?
女子供の二人組相手にビル内の警備員が全員集合ってのは些か過剰戦力だと思うのはオレだけかねぇ?……まぁ、こんだけ集まって来た所で所詮はティラノサウルス二頭vsネズミ十数匹なんだけどよ。」
「馬鹿を言うなオータム……ゴジラ二頭vsトカゲ十数匹だろう?」
「マドカお前、其れは……確かにそうかもな!」
だが、その警備員の群れもオータムとマドカにとっては簡単な相手だった。
亡国機業のエージェントとして幾度となく死線と修羅場を潜り抜けて来たオータムとマドカと、ハードな訓練を積み重ねて来たとは言え所詮は民間企業の警備会社の警備員とでは基本的な戦闘力に圧倒的な差があり、其れこそ数の暴力がマッタク意味を成さない位の力の差があるのだ。
麻酔銃、延髄への当身、チョークスリーパーなどを駆使してあっと言う間に警備員全員を無力化した二人は、コントロールルームから社長室に、『侵入者二人を無力化』との偽の情報を送ると、情報処理室の場所を調べ上げて、一気に情報処理室に。勿論コントロールルームを破壊して、監視カメラ等の録画映像を消去するのも忘れない。
その情報処理室はデュノア社でも社長夫妻を含めた極一部の人間しか入る事が出来ない場所であり、当然厳重なセキュリティが施されているが故に、中に入るとなると特殊電子キーをスキャンした上でパスワードの入力が必要になるのだが……
「電子キーにパスワード?知るかそんなモン。力技で突破上等だぜってな!」
オータムは大口径のマグナムで扉のロックを破壊すると、ドアを蹴破って情報処理室に入り、マドカと共にデュノア社の不正の証拠を探して行く……そうして探して行った結果、シャルロットが楯無に提出した不正やら用途不明の金の流れを裏付ける証拠を上回る真っ黒なデータが次から次へと出て来た。
イグニッションプランの出資金を着服していただけでなく、一般社員の給与を本来の額から10%ピンハネして着服し、それでいて残業代の出ないサービス残業をさせておきながら、タイムカードは定時で切らせると言う、超ブラックな経営実態も明らかになり、更には『他社の開発データの無断転用』、『ダミー会社を使っての銀行からの融資』、『シャルロットの実母に保険金を掛けており、その受取人はデュノア夫妻になっていた』、『フランス政府に提出した第三世代機の開発データはコンピューターで計算しただけで試験も行ってない机上の空論』と言った明らかにやば過ぎるモノまで出てくる始末だったのだ。
「オイオイオイ、トンデモねぇブラック企業だなデュノア社?……コイツは、社長夫妻には少しじゃなく、相当に痛い目に遭って貰わねぇとだよなマドカよぉ?」
「クククク……私を作り出した奴等も相当に胸糞が悪い連中だったが、デュノア社長夫妻は其れ以上に胸糞が悪くなる連中だ――其れこそ、ゲロ以下の匂いがプンプンするぜ!って奴だ。
オータム、コイツ等には死よりも辛い目に遭った上で裁きを受けるべきだと私は思うんだが、お前は如何思う?」
「勿論その心算だぜ!」
そして其処からエレベーターで最上階の社長室までやって来たオータムとマドカは、社長室のドアを豪快に蹴破って社長室内にログイン!……したのだが、其の社長室内では、社長のアルベールと妻のロゼンタが絶賛本番中だった。
『社長室で何やってんだアンタ達は!!』と言う突っ込みが入りそうだが、此れはアルベールとロゼンタにとっては日常なのだ……尤も、本番中に乱入者が現れたと言うのは今回が初めてなのだが。
「な、なんだね君達は!」
「社員を馬車馬の如く働かせて、愛人の子を『三人目の男性操縦者』と偽ってIS学園に送り込んでスパイ活動させておきながら、テメェ等は社長室でイチャコラとは随分と良いご身分だなオイ?
取り敢えず、テメェ等には地獄を味わって貰うぜ!」
「恨むなら己を恨むんだな。」
突然の事に驚くデュノア夫妻に対し、オータムはアルベールの股間を蹴り上げて『男の選手生命』を一撃で引退に追い込み、マドカはロゼンタにチョークスリーパーを極めて意識を刈り取り、オータムはアルベールを、マドカはロゼンタを抱え上げると、オータムがスコールに連絡を入れてデュノア社の屋上にあるヘリポートにヘリコプターを一機寄こすように言い、スコールも其れを了承し、オータムとマドカが屋上に到着した時にはもうヘリコプターが到着しておりオータムとマドカは其れに乗って亡国機業のアジトに戻って行ったのだった。
――――――
そして辿り着いた亡国機業のフランス支部の基地……の地下深くにある拷問部屋には、下着姿で柱に括りつけられたデュノア夫妻の姿があった。
あの場で殺すのは赤子の手を捻るよりも簡単な事だったがのだが、其れでは夏月からの依頼を遂行出来ないと考えたオータムは、こうして亡国機業のフランス支部の地下にある拷問室に御案内した訳だ。
その拷問室には『鉄の淑女』、『ファラリスの牡牛』と言った古代の拷問器具が並んでおり、『電気警棒』、『棘付きドリル』と言った現代の拷問器具も揃っている『真の拷問室』なのである。
「オラ、起きろ外道夫婦が。何時まで寝てる心算だあぁん?テメェ等みたいな外道が何時までも寝こけてんじゃねぇぞコラァ!」
其処でオータムは未だ意識が戻っていないデュノア夫妻に蹴りを入れて強制的に意識を覚醒させる。
強烈な痛みとショックで目を覚ましたデュノア夫妻は自分達の現状を理解すると、『此処は一体何処だ!?』、『私達に一体何をする気だ!』、『こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?』、『此れは犯罪だ』等と喚き立てて来たが、オータムはデュノア夫妻の顔面にメリケンサック装備の拳を容赦なく叩き込み、手始めに前歯を全て粉砕した。外道に歯は必要ないと、そう言う事なのかも知れない。
強制的に歯を失ったデュノア夫妻の顔面は何とも悲惨な事になっていたのだが、そんな事はオータムにとっては如何でも良い事であり、重要なのは此れから外道極まりないデュノア夫妻に対して如何なる拷問をもってしてドレだけの責め苦を与えてやるか、只それだけであるのだ。
「犯罪とかどの口が抜かしてやがんだテメェ等はよぉ?テメェ等のやって来た事の方がよっぽど犯罪じゃねぇか……まぁ、そのヤバい事の数々は『シャルロット・デュノアからの依頼を受けて』って事で全部フランス政府に報告してやったけどよ。
しかしまぁ、アレだけの事やってりゃ経営が傾くのは自業自得って奴なんだが……シャルロットの奴の実母に勝手に保険金を掛けて保険金の受取人をテメェ等にして病魔に侵された彼女を見捨てて保険金を手にし、更に其の上でシャルロットにスパイ行為をさせるとか、テメェ等には罪悪感ってモノが存在しねぇのか?
テメェ等が私腹を肥やす為にシャルロットから母親を奪った事に対して申し訳ないとは思わないのかよ?」
「シャルロットを身籠った事を知った時、私はアイツに『中絶しろ』と言ったにも拘らず、アイツは中絶せずに生んだ……私にとっては望まない愛人の子だ!ならば、せめて役に立って貰わねば割に合わないと言うモノだ!
そして私の言う事を聞かずに勝手に子供を産んだアイツには、死んでも私達の財産を増やす位の事をして貰わねばなるまい!生きている間はそっとしておいてやった事に感謝して欲しいモノだな。」
「そうよ!
あの泥棒猫の子供は、私達の為に働く事が出来る事を感謝すべきなのよ!私達が使ってやらなかったら、身寄りのないアイツはストリートチルドレンになって野垂れ死にしてたでしょうからね!」
オータムはデュノア夫妻に『罪悪感はないのか?』と問いかけたのだが、返って来たのは唾棄すべき答えであり、其れを聞いた瞬間オータムは完全に『鬼』となる。
戦闘力は極めて高いオータムだが、亡国機業内でオータムが指折りの実力者として評価されているのは、ターゲットに対する拷問の容赦のなさと、拷問で殺してしまう事がない絶妙な力加減もあるのだ――決して殺さず、しかしターゲットに地獄の苦しみは確実に味わわせると言うのは相当に恐ろしいスキルと言えるだろう。
「聞くだけ無駄だったか……ならテメェ等には相応の苦痛を味わって貰うとするぜ?
……テメェの外道な行いを精々後悔するんだな。先ずは此の電撃を喰らっとけ外道共が!!」
「「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!?」」
其れだけ言うと、オータムは電気警棒を手に取り、電圧をマックスにするとデュノア夫妻を其れで殴り付け、同時に聞くに堪えない不愉快な悲鳴が沸き上がる――ボルト数が高くともアンペア数が低ければ死ぬ事はないのだが、10万ボルトの電撃を0.1アンペアで喰らわされると瞬間に火花放電が起こり、其れを喰らった場所は一瞬で焼け焦げるのでその苦痛は想像を絶するものがあるのだ。
「此の程度で騒ぐんじゃねぇ!母親を助けて貰えなかったシャルロットが感じた辛さと苦しみはこんなモンじゃ全然足りねぇんだからなぁ!!」
其の衝撃でデュノア夫妻は一瞬で意識を失うも、オータムは其れを許さずに氷水を頭からぶっかけて強制的に覚醒させると、今度はブラックジャックを使ってボッコボコに殴り、棘付き鞭で全身に裂傷を負わせ、エアウォータガンでレモン汁入り塩水をぶっ掛け、両手の指を逆に折った上で両肩と両股関節の関節を砕き、最後は愛飲の『マルボロノーマル』、通称『赤マル』を使ってのエッグアイをブチかます!
白目の部分なので失明はしないとは言え、目を直接焼かれた激痛にデュノア夫妻は何度目になるか分からない失神状態となり、更には苦痛と恐怖が限界を迎えたらしく盛大に失禁までしてしまっていたのだった。
「デュノア社は此れで終いだろうが、テメェ等の醜態も確りと世間様に晒してやらねぇとだよな?
精々テメェ等の愚行を後悔すると良いぜ……テメェ等には死後の地獄よりも生き地獄の方が相応しいってな!『炎上』と言う名の現代の灼熱地獄に焼かれて死にやがれってなモンだぜ!
クククク……ハハハハハ……ハァッハッハッハッハ!!」
その様を写真に収めたオータムはサディスティックな笑みを浮かべると、其れを匿名でインターネットの暴露系掲示板にアップし、そして其れは瞬く間に拡散されると同時に、フランス政府がデュノア社の不正の証拠を世間に向けて発表し、『デュノア夫妻の資産は凍結し、此れを没収し、デュノア社は取り潰しとする』との決定をした事でデュノア社とデュノア夫妻に対してのバッシングが燃え上がり、あっと言う間にデュノア社の株は暴落して資産価値がゼロとなり、デュノア夫妻の個人資産は差し押さえられ、デュノア社はオータムとマドカが乗り込んでからの僅か数時間で事実上の倒産となり、永久に此の世界から其の存在を抹消されたのだった。
そしてデュノア夫妻はオータムによる目一杯の拷問を喰らった後に醜態を世間に晒し、そして最終的にはパリの警察署前に転がされているところを発見され、その場で逮捕となり、後日治療後に裁判に掛けられる事になったのだが、死刑制度がないフランスは犯した罪夫々の合算による累計の懲役刑となっており、デュノア夫妻には『粉飾決算』、『政府への虚偽報告』、『スパイ行為の強要』、『社員への不正労働』、etc……etc……その他色々積み重なって最終的には『懲役二十万四千五百九十二年』と言う、現在の『確定した懲役刑のギネス記録』を更に十万年以上超えた懲役刑が科せられる事になったのだった――死刑がないとは言え、この懲役は事実上の死刑と言えるだろう。この刑期を生きて終える事が出来る人間は存在しないのだから――もしも刑期を満了出来たとしたら、其れはもう人間ではなく、限りなく人間に近い人間ではない何かだろう。
些か過剰なやり方だったかも知れないが、此れ位やらなければシャルロットの父と義母に対する怒りは治まらないだろうから、此処まで徹底したのが正解だったと言えるのである。
「改めて、お前だけは敵に回したくないと実感したよオータム……其の容赦の無さは正直私でも勝てそうにないからな。」
「拷問してる時のお前が活き活きし過ぎていて若干引いたぞ……お前、間違いなくドSだろ?」
「其れは否定しねぇよ……つーか、サディストじゃねぇと此の仕事は務まらねぇってモンだぜ?
だけどまぁデカい仕事終えて即日ボーナス出たから、今日はオレの奢りで夕飯御馳走してやるよ。寿司と焼き肉、どっちが良い?其れともステーキか高級フレンチがお望みか?」
「「其処は寿司一択で。」」
臨時ボーナスが入ったオータムは、マドカとナツキを連れてパリにある『寿司バー藤堂』に赴き、最高級の寿司と日本酒を堪能したのだった。マドカとナツキは未成年なのでジュースだったのだが。
何にしても、オータムは夏月からの依頼を完璧に遂行したのだった。
――――――
時は学年別タッグトーナメントが終わった時間に戻り、学年別タッグトーナメントは、一年生の部は夏月とロランのペアが優勝し、二年生の部は楯無とダリルのペアが決勝でグリフィンとサラのペアを下して優勝し、三年生の部は……アメリカの国家代表の『サラ・アーノルド』とイタリアの国家代表の『ロザリア・トルナドーレ』のペアが優勝を決めていた。
その学年別トーナメントが終わった後で……
「此処は……知らない天井だ。」
ラウラは保健室で目を覚まし、お約束のネタをかましていた。此れも副隊長の入れ知恵なのだろうが。
「私は一体……取り敢えず起きねば……!?」
取り敢えず起きた方が良いと思ったラウラは、ベッドから起き上がろうとしたのだが、その瞬間に全身に凄まじい激痛が走り、再びベッドに其の身を横たわらせる事となったのだ……VTSによって強制的に現役時代の千冬の動きを再現させられたラウラの身体は限界を超えて、言うなれば『全身筋肉痛』の状態になっていたのだ。
「あらあら、無理は禁物よラウラちゃん……でも、目が醒めて良かったわ。」
「更識、生徒会長……」
其処にやって来たのは楯無で、現状を理解出来ていないラウラに対して一体何が起こったのかを説明し、『裏ラウラが夏月に圧倒された果てに、専用機に密かに搭載されてたVTSが暴走した』と言う事を伝え、『其れは織斑君が何とかしてくれた』と言う事も伝えた――夏月とロランの活躍を敢えて伝えなかったのは、其れを伝える事で夏月に対してラウラが恋愛方面での好意を抱く事を阻止した結果だろう……同時に、秋五に対するラウラの好意が増大する事を狙ったのだ。
楯無も夏月に好意を抱いているので、ラウラの秋五に対する恋心を応援しつつ、夏月に好意を向けないようにすると言う高度な駆け引きをした訳である――第十七代目『更識楯無』は、歴代の『楯無』の中でも、特に優秀であるのかもしれない。
「秋五が、私を……?」
「織斑君は貴女の事を助けようと必死になっていたわ……少なくとも、織斑君にとって、貴方は箒ちゃんやセシリアちゃんと同レベルの存在であるのは間違い無いと言えると思うわよ。」
「そう、か。
そう言えば、不思議な夢を見ていたような気がする……古戦場のような場所でもう一人の私に殺されそうになっていた私の事を秋五が助けてくれた――だけでなく、『お前はラウラには必要のない存在だ』と言ってもう一人の私を両断し、そして消し去ってしまったのだ。
そして現実に、今はもう一人の私の存在を感じる事は出来ない……アレは只の夢ではなかったのだろうか?」
「さぁ、其れは分からないわ……仮にISが関係しているのだとしたら、束博士に聞けば分かるかも知れないけどね?」
精神世界での事をラウラは夢だと思っていたようだが、その夢の中で秋五によって抹消させられた裏ラウラの存在を現実でも感じる事が出来なくなったと言うのは奇妙な事だろう――尤も、『此れでもう人格が変わる事はないか』と安堵していたが。
「其れで話は変わるけれどラウラちゃん、今の貴女にとって織斑先生はどんな存在なのかしら?矢張りどん底に居た自分を掬い上げてくれた恩人の教官かしら?」
「いや……もう一人の私も言っていたが、私はもう教官の言う事を手放しで信じる事が出来なくなっている。
仕事だったからとは言えどん底に居た私を今の地位まで引き上げてくれた事には感謝しているが、その結果としてもう一人の私が生まれた……だけでなく、私も自分で学園での教官の事を調べてみたのだが、その行いは大凡人として尊敬出来るモノではなかったな。
最早理想としていた教官の姿ですら砕け散ってしまったぞ……」
「なら良かったわ……其れなら、もう二度と織斑先生に何か言われたとしても貴女が其れに従う事はないと言えるのだから。……あの女の力は徹底的に削ぎ落してやらないとですものね。」
一方でラウラは千冬にも見切りを付けたようだった――『一夜に勝ったら織斑の婚約者として認めてやる』と言われてやる気を爆発させたのは間違いないが、夏月とロランのタッグとの試合前に『一夜を潰せ』と言われたのはショックであり、其れが裏ラウラを表に引っ張り出すトリガーになったのだが、夏月と正々堂々真っ向勝負を望んでいたラウラにとって、此の一言は容認出来るモノではなく、結果として千冬への此れまでの思いが崩れ去るトドメの一撃となったのだった。
その千冬だが、トーナメント後の会議に於いて、夏月が提出した騎龍・黒雷の音声データから千冬が試合前にラウラに『一夜を潰せ』と言っていた事が明かされ、『ラウラ・ボーデヴィッヒは精神的な負荷が限界を超えると凶暴な第二人格が現れるので、精神的負荷は可能な限り掛けないようにする』とした取り決めに違反しているとして糾弾される結果となった。
だが千冬は『アレは一夜を潰すくらいの気概で行けと檄を飛ばしただけ』、『まさかこの程度の事で第二人格が現れるとは思わなかった』と、汚職や不倫等の不祥事が表沙汰になった政治家の様な受け答えでのらりくらりと躱していたのだが、そう言われてしまうと『そうではない』と言う決定的な証拠がない限りは追及は不可能となり、今回の事件のキーマンであったにも拘らず千冬に下されたのは『減俸』と『夏のボーナス無し』と言う極めて軽いモノだった。
とは言え、既に給与が大幅にカットされている千冬にとって此れは痛手であり、同時に今回の一件でラウラを手駒として使う事は二度と出来なくなった……千冬は自らの行いで金と手駒の両方を失うと言う結果になったのである。
此れまでも余計な事をしては手痛いしっぺ返しを喰らって来たと言うのに、其れから全く学んでいない辺りは流石のDQNヒルデ……否、最早『無能ヒルデ』と言うべきであるかも知れない。
序に、今回の一件は新聞部によってまたしても大々的に生徒達に報道される事となり、IS乙女の憧れの存在であった『ブリュンヒルデ』の幻想は、一部の狂信者を除いて木っ端微塵に粉砕されたのだった。
――――――
トーナメント終了後、真耶から『今日から男子用の大浴場が使えるようになりました』と聞かされた夏月と秋五は速攻で大浴場に突撃して、およそ一カ月半ぶりとなる本格的な風呂を堪能していた。
一応寮の部屋のシャワールームにもバスタブはあるのだが、シャワールームのバスタブは小さく、仮に湯を溜めても全身を伸ばしてゆったりと浸かる事は出来ないので、この広々とした浴槽と言うのは実に有り難いモノがあった。
加えてIS学園の大浴場の湯は、地下110mから掘り出した天然の温泉であり、pH9.5と言う超アルカリ泉で身体を温める効果が大きく、更に保温効果も高い上に筋肉痛なんかにも良く効くので、IS学園の生徒にとっては最高の風呂であると言えるだろう。
「あ~~……やっぱり広い風呂は最高だぜ……」
「こんな広い風呂を貸し切りとか、贅沢極まりないよね。」
「ワガママを言わせて貰うなら、脱衣所に自販機が欲しかったがな。」
「風呂上がりにはやっぱり牛乳?」
「牛乳も良いが、俺はやっぱりモンエナで。
ノーマル、パンチアウトライン、カオス、マンゴーロコ、ウルトラ、アブソリュート、スーパーコーラ、ドクターと全種類揃えていてくれたら完璧だ。」
「……少しモンエナ中毒になってない?」
「かもな。新作出ると取り敢えず買っちまうし。」
その広い浴槽で最高の温泉を堪能しながら世間話をすると言うのも、一夏と秋五の頃では絶対になかった事であり、一夏が夏月になった事でやっと可能になった事であった……他愛のない世間話を普通に出来る、其れはある意味で此の上ない幸福な時間であるのかも知れない。
「時に秋五よぉ、お前ボーデヴィッヒの事はどうする心算だ?
天下のDQNヒルデ様はボーデヴィッヒに、俺に勝ったらお前の婚約者として認めてやるとか言ってたみたいだが、裏人格の銀髪チビが出て来たとは言ってもアイツは俺に勝つ事は出来なかったんだが……」
「うん、確かにラウラは夏月に勝つ事は出来なかったから姉さんに僕の婚約者として認めて貰えないかも知れないけど、僕がラウラの事を婚約者とするなら何も問題はないよね?
今回の事で、ラウラには誰か支える人が必要だと、そう思ったんだ。
僕の事は箒やセシリアが支えてくれる……だったら僕はラウラを支えてやってもきっと罰は当たらないと思うんだ――否、僕がラウラを支えたいって、そう思ってる。
トーナメントに向けて一緒に訓練してるうちに。常識に疎くて間違ったアニメや漫画の知識満載の、愛すべきアホの子を、僕は愛おしいと感じてしまってたんだ。」
「そうかい……なら、明日の朝のホームルームでボーデヴィッヒに其れを伝えるってのは如何よ?間違いなくトンデモナイインパクトをブチかませると思うぜ?
或は昼休みに放送室をジャックして学園の全校生徒に向けて公開『ボーデヴィッヒは俺の嫁宣言』をしてみるか?……放送室ジャックしなくても、楯無さんに頼めば放送室を貸切る位は余裕だけどな。」
「前者は兎も角、後者は遠慮しておくよ……と言うか、其れは職権乱用だよ夏月?」
「使える権力は使える時に用法容量を守って正しく使いましょうってな。」
千冬の出した条件をクリア出来なかったのでラウラは千冬には秋五の婚約者としては認められない可能性が高いのだが、千冬が認めずとも秋五がラウラの事を『己の婚約者』として選ぶとなれば話は別であり、秋五はそうする心算でいたのだ。秋五自身がラウラを選んだのならば千冬が認めようと認めまいと、そんな事は一切関係ないのである。
勿論その事を箒達に話さねばならないが、秋五の人柄を知る箒達が其れに異を唱える事はないだろう――現実に、入浴後に自室にセシリア、シャルロット、オニールを呼んでその事を伝えたら、異口同音に了承してくれたのだから。
其れとは別に、夏月と秋五は風呂を楽しみながら雑談を続けていたのだが、夏月が秋五に『そう言えばお前と箒達って何処まで行ってんの?』と聞かれた際には秋五は何とか誤魔化そうとしたのだが、結局夏月からの追及を逃げ切る事が出来ず、箒とセシリアとは一線を越えた事を白状する事になったのだった。
此れも男子二人きりと言う状況だからこそ出来た事であり、女子が居る場所でこんな話題を振ったら速攻でドン引きされる事だろう――そう言う意味では男子に大浴場が解放されたのは、『男子だけでしか出来ない会話が出来る場所』が出来たとも言えるので、夏月と秋五にとっては此れも有り難い事と言えるのかもしれない。
「学園の生徒最強の爆乳は如何だったか一言。」
「此の上なくデカくて柔らかかったです!箒の胸には海神の巫女も真っ青でした!」
男子のアホな会話全開だったが、其れでもこのお風呂タイムは夏月にも秋五にも楽しい時間であったのは間違いなかった。
そして其れだけでなく、入浴後に夏月がスマホにオータムからのメールが来ていたのを確認し、『デュノア社は片付けた』との事を知り、其れを秋五にも伝え、秋五は自室に戻ると其れをシャルロットに伝えるのだった。
……そのデュノア社の崩壊が、翌日のホームルームでトンデモナイサプライズを引き起こす事になるとは、この時は誰も想像してなかっただろうが。
そんな最高とも言えるお風呂タイムを終えて自室に戻って来た夏月だったのだが……
「ヤッホー、待ってたよカゲ君!お風呂堪能して来た?広いお風呂って、やっぱり良いよね~~♪」
「…………」
扉を開けると、リオのカーニバルを思わせる布面積が滅茶苦茶小さい衣装を纏ったグリフィンがお出迎えをしてくれた……此れまで楯無とロランが裸エプロンでお出迎えしてくれたので、大抵の事では驚かない夏月だったのだが、今回のグリフィンは斜め上の衣装だったので瞬間的に思考がフリーズし、本能的に秒で扉を閉めて一度クールダウンし、もう一度扉を開ける。
「カーニバルの衣装じゃ不満だった?」
「…………」
今度は腹部が大きく開いたセクシーなスポーツタイプの水着を着たグリフィンがお出迎え……本来の同室相手であるロランは本日は別室にお泊りに言っている事は最早確定だが、夏月は再び扉を閉め、思考をクリアにする為に深呼吸をしてから三度目の扉オープン!
「もしかして、此れがお望みだったのかな?」
そして其処には下着姿のグリフィンが。
褐色の肌に白い下着のコントラストはインパクトがハンパなく、更にはグリフィンの健康的な肉体と美しいプロポーション&ボディラインを際立たせており、其れを見た瞬間に夏月の理性が音を立てて粉砕され、夏月は扉を閉めて後手で鍵を閉めると、グリフィンをお姫様抱っこしてベッドまで運び優しくベッドに下ろしてから其の上に覆い被さり、そしてキスを落とす。
そのキスは所謂『大人の深いキス』であり、キスを終えた夏月とグリフィンの間には銀の糸が出来ていた。
「お姫様抱っこでベッドに運んで、其のままキスって……カゲ君意外と肉食系?」
「まぁ、どっちかって言うと肉食系だろうな俺は。
普段なら安い挑発には乗らないんだけど、そんな挑発されちまったら話は別……其の挑発に乗らないって選択肢は存在しないぜグリ先輩……こうなった以上、俺はもう止まらないから覚悟しろよ?」
「うん……だけど、今はグリフィンって呼んで欲しいかなカゲ君?」
「なら俺の事も夏月って呼んでくれよグリフィン。」
「うん……来て、夏月。君の愛を私に頂戴?」
「言われなくともその心算だ……愛してるよ、グリフィン。」
「私も愛してるよ夏月。」
そして其処からは恋人同士の甘い夜の幕開けとなり、夏月とグリフィンは夜が深くなるにつれ激しく求め合い、そして深く愛し合い、その愛と絆はより強く深くなったのだった。
こうして学年別トーナメントは裏ラウラとVTSの暴走と言うハプニングはあれど、其れ以外は問題なく終わり、そしてトーナメントの翌日に、一年一組には二つのビッグサプライズが投下され、生徒達を大いに驚かせる事になるのであった。
To Be Continued 
|