転校生が二人もやって来ると言うまさかのゴールデンウィーク明けの初日だったのだが、その夜には夏月とロランの部屋に秋五が『三人目の男性操縦者』と言う、超レアケースと言える『シャルル・デュノア』を伴って訪れていた。
「立ち話もなんだから、取り敢えず中に入れよ。あんまり他の生徒達には聞かれたくない話なんだろ?」
「うん、そうさせて貰うよ。流石にこんな話は、あまり多くの人に聞かれたくない話ではあるからね……それこそ、君が会長さんとの個人的パイプを持ってなかったらきっと来なかったと思う。」
取り敢えず夏月は秋五とシャルルを部屋に招き入れる事にした――間違いなく面倒な案件が発生したと言うのは本能的に感じ取り、同時に『此れは、一般生徒に伝える事は出来ない』と判断し、秋五も暗に其れを肯定したので、周囲に注意しつつ二人を自室に招き入れたのだった。
「取り敢えず適当に座ってくれ……何か飲むか?つってもあるのはモンエナ以外だと、ノンアルのビールとかカクテルなんだけどな。」
「飲み物の品揃えに若干突っ込みどころがあるんだけど……此の時間にモンエナはないからノンアルで。折角だからビールを貰おうかな?
ビールのCMを見るたびに、キンキンに冷えたビールって言うのはドレほど美味しいモノなのかって思ってて、大人になったら飲んでみたいと思ってたんだよね。」
「はいよ。お前もノンアルのビールで良いかデュノア?」
「うん、僕も其れで。」
夏月は冷蔵庫から新たにノンアルコールビール二本とゴルゴンゾーラのカマンベールチーズを取り出すと、ノンアルコールビールを秋五とシャルルに渡し、二人と向き合うように座ってチーズを開ける。ロランも夏月の隣に座って二人と向き合う形になっているが、此方はスマホで誰かと連絡を取っているようである。
「で、話しってのは?……なんて、聞くまでもないか。
朝見た時から怪しいと思ってたし、女子共に追い回された時も理由が分かってないみたいだったから『まさか』とは思ったけど、『デュノア君はデュノアちゃんでした』って、要するにそう言う事なんだろ秋五?」
「大正解だよ夏月……だけど、問題は『バレちゃった』んじゃなくて、彼女の方から自分の正体を同室である僕と箒に『バラして来た』って言う事なんだ――あまりにも予想外過ぎる展開に箒はフリーズしちゃったしね。
『部屋の調整が間に合わなかった』って事で一時的に同室になったんだけど、まさかこんな事になるとは思わなかったよ。」
「「ふぁっ!?」」
秋五の話とは、『シャルル・デュノアは男子ではなく女子だった』と言うモノで、其れ自体は夏月もロランも予想しており、だからこそ夏月も確認の意味で秋五に聞いたのだが、秋五はシャルルが女子であった事は認めつつ、其れが偶発的にバレてしまったのではなく、シャルルが自らバラして来たと言うのを聞いて、思わず変な声を出してしまい、ロランはスマホを操作する手も止まってしまっていた。
バレたのではなくバラして来たと言う事は、つまりシャルルは元より男装を貫き通す心算などなかったと考えられるからだ――尤も、見る人が見れば初見で見破られてしまう男装だったので、バラさずともバレるのは時間の問題だったのかもしれないが。
「自ら正体をバラすって……だったら何だって男装なんてしてたんだお前?」
「そもそもにして君は本気で男装する気があったのかい?
舞台で男装経験豊富な私に言わせて貰うと、君の男装は正直言って男装の体を成していなかったとしか言えない……『三人目の男性操縦者』の肩書と、『男子の転校生』と言うインパクトがなかったら、誰が見ても君は女の子にしか見えないからね?」
「本気で男装する気なんて更々無かったよローランディフィルネィさん。
男装してたのは、あのクソッタレ達の命令に従ってるフリをする為だからね……織斑君と同室になれたのは幸運だったけど、専用機持ちの生徒と同じ部屋になった時には初日で正体をバラす心算だったんだ。」
「……どうやら、ただ単純に俺や秋五に近付き易くするために男装してたって訳じゃなさそうだな……」
シャルル自身は『場合によっては初日で正体をバラす心算だった』と言うモノの、此れは単純な『性別詐称』では済まないだろう――シャルルは己に男装してIS学園に行くように命じた相手を『クソッタレ達』と呼んでおり、命令主とシャルルの関係は、少なくともシャルルにとっては到底良好なモノでないのは明白であるからだ。
「コイツは俺達だけで如何にか出来る問題じゃないな……楯無さんに連絡入れてみるか。」
「それには及ばないよ夏月、タテナシには既にLINEでメッセージを送ったからね……自ら正体をバラして来たと言う事に驚いて少し手が止まってしまったけれど、其処は抜かりないさ。」
「流石は俺の嫁、仕事が早い。」
「俺の嫁……嗚呼、なんと甘美な響きだろうか?
祖国の公認で君の婚約者となれた幸運に、私は神に感謝してもし切れない……ので、余った分を邪神に感謝しようと思うのだが如何だろうか?邪神でも神である事に変わりはないからね。」
「アバターとドレッド・ルートは兎も角、イレイザーが微妙だから邪神は止めとけ。」
此処でロラン節が炸裂したモノの、ロランは既にスマホのLINEで楯無にメッセージを送っており、その返信として楯無からは『生徒会室に集合。織斑君は箒ちゃんとセシリアちゃんとオニールちゃんを連れて来るように言っておいて』とのメッセージが夏月とロランスマホに送られて来た――夏月組は独自のLINEグループを作っているので夏月組の他のメンバーにも同様のメッセージが送られているのだろう。
それを見た夏月は秋五に『箒とセシリアとオニールを呼んで生徒会室に行くぞ』と言うと、秋五が其の三人を呼び出したのを確認してから生徒会室に向かう――途中で新寮監に見つかったが、『更識から話は聞いてる……満足して来なさい』と言われ、特に咎められる事は無かった。
夏の月が進む世界 Episode30
『男?女?或は究極レベルの腹黒王子』
そんな訳で夜の生徒会室には夏月組と秋五組、そして布仏姉妹とシャルルの計十六名が終結した――一般の高校の生徒会室ならば相当な過密人数であり、其れこそ座る場所がないレベルなのだが、IS学園の生徒会室は十六畳と言う広さがあり、生徒会長のデスクの他に五人掛けのソファーが四つもあるのでキャパシティにはまだ余裕があると言った感じだ。
「さてと、ゴールデンウィーク中の仕事で一番大変だった案件だったけれど、まさか初日でこうなるとはね……正直頭痛いわ。」
「って事は、楯無さんはデュノアが女だって事は知ってたのか?」
「えぇ、知っていたわ夏月君。
『シャルル・デュノア』の転入書類を見た時点で怪しいとは思っていたのだけれど、デュノア社から送られて来た書類とは別に、フランス政府が学園に送って来た書類は『シャルル・デュノア』のモノだけじゃなくて、『シャルロット・デュノア』と言う女の子のモノも同封されていたからね。
其れはつまり、デュノア社はシャルロットちゃんをシャルル君に仕立て上げて何かをしようとしている……恐らくは夏月君か織斑君の専用機のデータを盗むと考えているとほぼ断定出来るんだけど、フランス政府は其れを認めている訳ではないと推察出来るわ。
だから、学園長と相談した結果、暫く泳がせる心算で居たのだけれど、まさか初日で自ら正体を明かしてくるとは流石に予想外だったわ……其れこそ神様でも、束博士でも予想出来なかったんじゃないかしら?」
「楯無さん、姉さんから『そんなんとっくに見破ってたよー』とのメールが……」
「……箒ちゃん、貴女のお姉様は神様より凄いのかしら?」
「この間、『神の世界にアクセスして、オベリスクの巨神兵と殴り合った末に友情が芽生えた』とか言ってましたが……冗談ではなく割とガチだったみたいです。」
「うわ~お、束博士ハンパないわねぇ♪」
そうして始まった会議(?)は、先ずは楯無がシャルル――改め、シャルロットに関しては転入書類がデュノア社が送って来たモノと、フランス政府が送って来たモノとでは違いがあり、フランス政府から送られた書類には『シャルロット・デュノア』と言う少女の転入届も添付されていたのだ。
シャルル・デュノアではなく、シャルロット・デュノアの転入書類もあるのならば、取り敢えずシャルロットが性別詐称で処罰される事は無いだろう――シャルロット・デュノアとしての書類が存在しているのであれば、男装していたのはあくまでも個人の趣味として片付ける事は可成り強引な力技ではあるが可能であるのだから。
「束博士が打っ飛んでいるのは良いとして、貴女の目的は一体何なのかしらシャルロットちゃん?」
束のハンパの無さはさておき、学園の生徒を守る立場にある楯無としては、事と次第によっては学園を焼き尽くしかねない火種であるシャルロットの事を此のまま無視する事は出来ないので、IS学園の生徒会長としてではなく、更識の長としてシャルロットに問う。
其処には普段の『悪戯好きな人誑しの生徒会長』の姿はなく、冷徹かつ非情な手段も必要ならば使う事を厭わない、更識家当主の『更識楯無』が存在していた。
夏月と簪、布仏姉妹は慣れているが、其れ以外は『本気モード』の楯無の姿を見るのは此れが初めてであり、其の身から発せられる『絶対強者』の雰囲気に気圧されていた……去年の学年別トーナメントで楯無とガンガン遣り合ったグリフィンですら僅かに気圧されたのだから、楯無の放つ『暗部の長』としてのオーラの圧力と言うのはハンパなモノではないのだろう――其れを受けても意識を保っているコメット姉妹は、此れまでのアイドル活動でプレッシャーに負けない鋼のメンタルを会得していると言えるだろう。
「そんなに怖い顔しないでよ会長さん……僕の目的は全て話すからさ。」
そして話し始めたシャルロットだったが、男装してIS学園に転入するまでには中々にハードな人生を歩んで来ていた。
『デュノア姓』を名乗って入るモノの、シャルロットは現デュノア社の社長と社長夫人の間に生まれた子供ではなく、社長と愛人の間に生まれた子供であり、実の母親とは裕福とは言えずともそれなりの生活を送っていたが、自身が十歳の時に母親が重い病に倒れ、治療の甲斐もなく他界してしまった事、その際に父親に治療費の援助を求めたが其れを断られた事で、母は充分な治療を受ける事が出来ずに死んでしまった事、自分にIS適性がある事を知った途端に、傾きかけていたデュノア社の経営を立て直すべくデュノア社に呼び出され上に強制的に専用機のパイロットにされた事、初対面の血の繋がってない母親からは出会い頭に『この、泥棒猫の娘が!』と平手打ちされた事、只只管ISの訓練をさせられた上で『男性としてIS学園に行け』と命令された事――そして、デュノア社からとは別にフランス政府から『デュノア社の不正を暴け』との密命を受けていた事も明らかにした……フランス政府からは、『何方でも良いから、男性操縦者との関係を築いてくれれば尚良』とも言われて居たと言う事も包み隠さずだ。
「愛人の子とは言え、其れでも己の血を引く娘に対してやる事とは思えんな?――まして、病床に伏したシャルロットの母親を見捨てたと言っても過言ではない所業をしておきながら、シャルロットにIS適性があると分かった途端に会社に招いて専用機のテストパイロットにした挙げ句に、男装してIS学園にと言うのは幾ら何でも酷いと言うレベルではないだろう!!
デュノア社の社長夫妻……貴様等の血は、何色だぁぁぁぁぁ!!!」
「ロバート・デニ色ってのは洒落にもならないわね……だけど、大分久しぶりにハラワタが煮えかえる位の怒りを覚えたわアタシは……!!!」
「其れは、アタシもだよお姉ちゃん……!」
「私もですわ……よもやそのような事を平然と言ってのけるとは、無礼を承知して申し上げますが、シャルロットさんのご両親は良心と言うモノを宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばしてしまったのかもしれませんわね。」
そんなシャルロットの告白を聞いて秒で反応したのは箒と鈴と乱とセシリアだった。
この四人は可成り複雑な家庭環境にあり、箒は束が国際指名手配された後に日本政府の『要人保護プログラム』によって両親と離れ離れになって日本各地を転々としており、鈴と乱は両親が離婚、セシリアは両親共に列車事故で他界しているだけに、まだ生きている親が、愛人との間に出来た子供とは言え、こんな碌でもない命令を下したと言う事に黙っていられなかったのだろう。
「確かに、愛人の間に出来たとは言え血の繋がった娘にやらせる事じゃねぇな……だが、お前自身も今の両親とは縁が切れても構わないって思ってるんだよな?
だから正体バラしてデュノア社の企みも俺達に話した……デュノア社の命令よりもフランス政府からの密命の方を果たす心算で。……正解じゃないかも知れないが少なくとも間違いじゃないだろ?」
「まぁ、確かに間違いではないよ一夜君。」
「僕には親が居ないから、親って言うモノがどんなモノなのかは分からないけどデュノア社長夫妻が人間としてダメだと言う事は良く分かった……分かったけど、今の話だとシャルロットさんの本当のお母さんは病死しててデュノア社長以外には身寄りもないんだよね?
そんな状況でデュノア社の不正を暴いても君が路頭に迷う事になるんじゃないのかな?フランス政府も任務の成功報酬は出してくれるだろうけど、衣食住を保証してくれるとは思わないし。」
デュノア夫妻の外道っぷりと、シャルロットは『デュノア社の不正を暴く』と言うフランス政府からの密命の方を優先したのは分かったが、デュノア社の不正を暴いて公表すればデュノア社は間違いなく倒産し、デュノア夫妻も逮捕は免れないのだが、そうなってしまった場合シャルロットの居場所がフランスには無くなる事でもある。
『フランスの代表候補生』と言う事で学園に在籍している間は衣食住は保証されるだろうが、デュノア社が倒産したとあっては卒業後は根無し草も同然であり、ISバトルの世界に身を投じようにも所属企業がない状態では其れも難しく、それらを総合して考えるとデュノア社の不正を暴くのはシャルロットにとってはデメリットが大きいとも言えるのである。
「うん、其れは分かってる。
だからこそ僕は先に君に正体をバラしたんだよ織斑君……僕を、君の婚約者の一人にしてくれないかな?」
「……はい?」
「「「!!?」」」
「此れは、まさかの展開だね?
物語の急展開と言うのは舞台劇でもそれなりに用いられているし、急展開は観客も盛り上がるモノなのだけれど、現実に急展開が起きると、此れは中々に反応に困るモノだ……そうは思わないかいタテナシ?」
「そこで私に振る貴女に驚きよロランちゃん……でも、自身が当事者でなく傍観者として見れるのならば急展開はバッチ来いよ!」
「お姉ちゃん、其れは流石に如何かと思う。」
「午前中は銀髪眼帯に婚約者にするって言われて、夜はデュノアに婚約者にしてくれって言われるとは、モテモテだなぁ秋五……弾の奴が見たら血涙流して羨むだろうな。モテる男は辛いってか。」
「婚約者が八人も居る貴方が其れを言いますか……」
此処でシャルロットがトンデモナイ爆弾を投下して来た。
『男性操縦者重婚法』が制定された事で、夏月と秋五は合法的に複数の女性と結婚する事が出来るようになった訳で、二人とも実際に複数の婚約者が居る状態なのだが、此処でまさかシャルロットが秋五に婚約を申し出て来るとは誰も思わなかっただろう。
無論、シャルロットとて伊達や酔狂でこんな事を言った訳ではなく、驚く秋五に対して『君と婚約状態になれば少なくとも僕の立場はフランス政府によって保証されるし、デュノア社の元社員達から狙われる危険性もグンと減るんだよ。』と説明した――確かに男性操縦者の婚約者になったとなれば、フランス政府とてシャルロットの身の安全と社会的立場は保証しなくてはならなくなり、デュノア社が倒産した事でシャルロットを逆恨みした元社員から狙われる危険性も格段に下がるので、この申し出は理に適っていると言えるだろう。
「だけど、流石にイキナリ婚約関係って言うのは……僕達まだ会ったばかりだし。」
「うん、まだ会ったばかりだけど、其れって逆に言えばお互いの事は此れから知って行けばいいだけの話でしょ?
日本のお見合いだって、初対面同士で行うモノって事を考えたらそんなにオカシナ事ではないと思うんだけど如何かな?僕は特に変な事は言ってないと思うよ?」
「其れはそうかも知れないけど、何で夏月じゃなくて僕だったの?」
「一夜君には既に八人も婚約者が居たから、ちょっと無理かなぁって♪織斑君も三人の婚約者が居るけど、一夜君の半分以下だから、其処なら未だ入り込める余地が存在するかなって。」
「理由が若干黒いよ!?」
秋五を選んだ理由が若干黒かったが、悩んだ末に秋五はシャルロットの提案を受け入れる事にした――秋五は元々お人好しな性格であり、一夏の死後に己の意見をハッキリと言うようになってからはお人好しな面も前面に出てくるようになり、困っている人を放っておく事は出来ない人間になっていたのだ。
そのせいで貧乏くじを引く事も少なくなかったが、秋五は『やらないで後悔するのはもうゴメンだ』と思っているが故に、どんな面倒事があったとしても困ってる人間は助けると心に誓っていたのだ。
箒とセシリアとオニールは少しばかり複雑な表情だったが、最終的には『秋五が決めたのならば』と考え、シャルロットの事を同じ婚約者として迎え入れていた。
とは言え、だからと言って全てが万事解決した訳ではない。
「其れでシャルロットちゃん、貴女はフランス政府からの密命を遂行する道を選んだみたいだけれど、デュノア社の不正の証拠とやらは見つかったのかしら?」
「其れは勿論……あの人達意外と守りはガバガバだったし、側近を二、三人締め上げたらアッサリとデュノア社の不正の彼是を吐いてくれたから助かったけどね。
と言う訳で、此方をお納めください会長さん。」
シャルロットはフランス政府からの密命を受けてデュノア社の不正を暴こうとしていた訳だが、既にその証拠は押さえてあったらしく分厚い封筒を楯無に渡し、楯無が中身を確認すると、其処には『粉飾決算』、『脱税』と言った不正のありきたりなモノだけでなく『イグニッションプランの為の新型機の開発費用を横領した』と言うトンデモないモノまであった――其れに加えて『社員の過剰残業』、『社内幹部の女性権利団体との癒着』と言ったモノまで出て来た。此れをフランス政府に渡したら、デュノア社は速攻で地獄行き間違いなしだろう。
「此れは……笑って済ませられる案件ではないわね――其れこそ、フランス政府が此れを知ったらデュノア社は即終わるでしょうけど、何故フランス政府ではなく私に此れを渡したのかしらシャルロットちゃん?」
「そんなの……アイツ等に地獄を見せるために決まってるじゃないですか♪
お母さんを見捨てたクソ親父、初対面でイキナリビンタかましてくれたクソ女、そして僕に男装してIS学園に行けなんてふざけた事を抜かしてくれた奴等が会社の不正で逮捕されて終わりなんてのは、僕は大凡認める事は出来ないんですよ。
あのクソッタレ共には、『生きててごめんなさい』って思うレベルの苦痛を味わって貰わないと最後の最後までクソ親父がきっと助けてくれるって信じてたお母さんが浮かばれない……アイツ等を地獄に落とす為には、僕は悪魔にもなるよ。
でも、この情報を僕が持ってるって事をデュノア社に知られたら危険なのも事実なんだけど、今の僕はIS学園の生徒で織斑君の婚約者にもなった訳だから、もう分かりますよね会長さん?」
「此処まで見越して織斑君の婚約者になったって訳か……マッタク持って、可愛い顔して大胆と言うか抜け目ないと言うか……中々の腹黒さだわ。
貴女の意図は分かったので、この資料は私が預かって然るべき処置をするわ――それと、デュノア社の事が決着するまでは貴女の事は織斑君の婚約者と言う事で更識が責任をもって保護させて貰うわ。
其れと、デュノア社の一件が決着するまで、貴女は引き続き『シャルル・デュノア』として生活した方がいいわね。」
「其れは勿論。」
其れを楯無に渡したのは、『会社の不正で逮捕』では到底シャルロットは納得出来なかったからだ――楯無もシャルロットの意図を汲み取って資料を預かり、シャルロットの保護を約束した。
とは言え、シャルロットの保護は出来ても、デュノア社は日本国外の企業であり、現状では日本に何か危害を加えるような事はしていないので、更識の凄腕エージェントをフランスに送り込む事も出来ないのだが、此処で動いたのが夏月だった。
『だったら自由に動ける戦力を使えば良いじゃん?』と言うと、オータムに連絡を取って『秋姉、フランスのデュノア社をぶっ潰すの手伝ってくれ』と頼み込み、オータムも詳細を聞いた後に、『最近少し体が鈍ってたから丁度良いぜ』と夏月の頼みを受け入れたのだった――元より、可愛い弟分の頼みを断ると言う選択肢は存在しないオータムなのだが、此れはデュノア社にとっては最悪の凶報だろう。
何せオータムは亡国機業の実働部隊『モノクロームアバター』の中でも屈指の実力の持ち主であり、オータムに勝てるのは部隊長であるスコールだけなのだ。
マドカとナツキも可成りの実力の持ち主だがオータム相手には良くて引き分けと言う結果であり、其れだけでもオータムがドレだけ強いかが分かる――そんなオータムが出張ったとなればデュノア社は即時壊滅間違いないだろう。
夏月は『先ずは更なる証拠集めからな?』とは言っていたが、『証拠集め』でもオータムが潜入捜査などと言う地道で時間が掛かる事をする筈もなく、真正面からカチコミ掛けて力尽くで証拠を引っ張り出すのは目に見えているのだから。
「夏月、今電話したのって誰?」
「俺の姉貴分の秋姉。
裏社会の特殊部隊の人間だから今回の一件に関しては適任の人物だな……完全武装した悪党一ダース相手に、ハンドガン一丁とコンバットナイフ一本って装備で無双出来るような人だから会社の警備員なんぞマジ秒殺だ。」
「す、凄い人が知り合いに居るんだね……」
「序に言うと義母さんの恋人でもあるんだけどな……義理とは言え母親の恋人が姉貴分とかちょっぴり複雑な気持ちだけどよ。」
「いや、その状況を受け入れてるアンタの精神力に感服するわアタシ。」
付け加えると、亡国機業所属の人間は全て『表の社会では存在しないことになっている人間』なので監視カメラ等の映像から身元が割れる事もないと言う点も、デュノア社を潰すには持って来いの戦力であるのだ――夏月が『殺しはご法度で』と言ったので、死人は出ないだろうが、デュノア社が阿鼻叫喚の地獄絵図で染め上げられるのは間違いないだろう。
「それじゃあ、此れからの事はまた後日にして、今日は此れで解散――だけど、夏月君と夏月君の婚約者はこの場に残ってね?特にファニールちゃんには伝えておかないとイケナイ事があるからね。」
「確かに、今は此れ以上出来る事はないから一夜君のお姉さん分が新たな証拠を持って来てくれたらって感じだね……まさか、此処までの事になってくれるとは、マッタクもって嬉しい誤算って言う奴だったよ。
まぁ、織斑君が僕を婚約者にしてくれなかったら、正体バラした時に僕の下着姿を見たって事を切り札として出す心算だったんだけどね?其れを含めての正体バラしだった訳だし。」
「ちょ、そんな事する心算だったの!?」
「マッタク持って何処までも腹黒いなお前は……同じ秋五の婚約者として巧くやって行けるか凄く不安だぞ……」
「見た目は爽やか王子ですが、その本性は腹黒王子……黄色い歓声を上げていた子達が知ったら卒倒してしまうかも知れませんわね。」
「案外女優に向いてるかもしれないよ……」
最後の最後でシャルロットが黒さを見せてくれたモノの取り敢えず本日は解散となり、秋五、箒、セシリア、オニール、シャルロットは生徒会室から出て行ったのだが、夏月組の面々は其のまま生徒会長室に残る事になったの訳であるが――其れはファニールに夏月の秘密を伝える為だった。
確かにファニールも夏月の婚約者となったのだから、夏月の秘密を知る権利はあり、楯無もシャルロットのトンデモ告白の後だったら、夏月の秘密を聞いても其れほど衝撃は受けないだろうと考えたのだろう。
「アタシに伝えておかないとイケナイ事ってなによ?」
「まぁ、ぶっちゃけ俺の秘密。」
「夏月の秘密って……実は秋五の兄弟でしたとか、実はどこぞの仮面のヒーローみたいに改造人間で人外の力を持ってます~~。とか、そんな感じの秘密?」
「俺が話す前に殆ど正解に辿り着いちゃったよこのアイドル少女は?」
「え、正解って……ウソ、適当に言ったのにマジだったの!?」
「マジもマジ。本気って書いてマジってルビ振るレベルの奴だ。」
だが、話をする前にファニールが冗談でほぼ正解を言ってしまい、言ったファニール自身も『まさか』と思ったのだが、夏月達の反応を見て其れが本当の事だと感じて改めて夏月の話を聞く事に――厳密には改造人間ではなく人造人間の『織斑』なのだが、改造人間レベルのぶっ飛んだ身体能力を有しているのは間違いないと言えるだろう。
『夏月が実は織斑一夏で、織斑は『織斑計画で作られた最強の人間』』と言う事実にファニールは絶句したモノの、校舎の三階から紐無しバンジーを敢行しても全然平気な夏月と秋五のトンデモナイ身体能力を目にした事で逆に納得し、夏月が一夏だった事に関しても、『今のアンタは織斑一夏じゃなくて一夜夏月なのよね?だったら別に何も変わらないでしょ?』と言った感じで割とアッサリと受け入れていた。アイドル業で培われたメンタルの強さと言うのは相当なモノであるらしい。
「あれ?でもそうなると秋五も人造人間って事になるのよね?」
「そうなるんだが、此の事はオニールも含めて他言無用で頼むぜファニール……秋五も何れ『織斑計画』の事を知らなきゃならないが、今はまだ其の時じゃないんでな――約束出来るか?」
「勿論!もしも約束破ったら、鈴特製の激辛透明辣油をコップ一杯一気飲みしてやるわ!!」
「いや、あれをコップ一杯も一気飲みしたら脳の血管切れてアンタ死ぬわよ……」
ファニールには『他言無用』と言う事を念押しして、ファニールも他言にしない事を約束してくれたので、夏月達も此れにて解散となったのだが、夏月は全員を部屋まで送ってから自室に戻ると言うイケメンムーヴをブチかまして婚約者達を改めて惚れ直させていた。
「流石に疲れたな今日は……」
「そうだね……シャワーを浴び直すという気分でもないし今日はもう寝ようか夏月?……君との初めてがお預けになってしまうのは少し残念だけれどね。」
「待てコラ、連日とか俺の体力が持たんわ。」
「だったら束博士に頼んで体力回復効果もある精力剤を作って貰えば……」
「めっちゃ効きそうだけど空恐ろしいわそんなモン!!」
こうして、ゴールデンウィーク明け初日は最後の最後でトンデモナイ爆弾が投下された後に幕を閉じたのだった――余程精神的に疲れたのか、夏月はベッドに入るなり秒で眠りに着いたのだった。
――――――
その頃、夏月から連絡を受けたオータムは亡国機業のアジトにてデュノア社にカチコミを掛けるために装備を揃えていた――ハンドガンとコンバットナイフは基本として、其れ以外にもアサルトライフルにショットガン、グレネードランチャーと色々選んでいるようだ。
自身の専用機を使えば其方の方が楽なのだが、会社の警備員がISを持っている可能性は極めて低いのでISを使うよりも銃器を使う事をオータムは選択していた。
ISを使っての無双は面白くないと考えたのだろう。
「殺しは御法度って事だったから使うのは麻酔弾と、グレネードは麻酔ガス弾ってところだな……うっし、準備は整ったからIS学園の学年別トーナメントが始まったら仕掛けるとするか。
オイ、今度の仕事オメーも手伝えマドカ。」
「はぁ?なぜ私がお前の仕事を手伝わねばならんのだ面倒くさい……私は行かんぞ。」
「そうか、ソイツは残念だ……オメーの弟からの頼みだったから誘ったんだけどよ、行きたくないなら仕方ねぇからオレ一人で片付けて来るわ。」
「そう言う事は先に言え……そうであるのならば喜んで手伝わせて貰おうじゃないか?愛する弟の頼みを断ったとなればお姉ちゃん失格だからなぁ!!私は何をすれば良いんだオータム!!」
「変わり身早すぎんだろ……このブラコンが。取り敢えず鼻血拭けアホたれ。」
オータムから手伝えと言われたマドカは、その仕事の依頼主が『弟』だと聞くと、一転してやる気を出し、やる気が出過ぎて鼻から愛が噴出していた……ブラコン此処に極まれりと言ったところだが、弟の為ならば何でも出来ると豪語するマドカが参戦するのならばデュノア社へのカチコミは先ず間違いなく成功するだろう。
そして、其れは同時にIS学園の年間イベントである『学年別トーナメント』が始まったその時がデュノア社の終わりの始まりである事を告げていた――亡霊のターゲットとなった相手は、どんな形であれ人生のピリオドが待って居る事だけは間違いなのだから。
――――――
翌日、シャルロットは昨日と変わらずシャルルとして登校し、授業も恙無く行われた――三組と四組の合同実技授業では、お手本の模擬戦として、ヴィシュヌと簪のタッグが真耶と戦い、真耶は代表候補生二人を相手にして『勝てずとも負けない戦い』を見せて生徒達からの評価を上げていた。
ヴィシュヌのムエタイには少し梃子摺ったモノの、ラファール・リヴァイブのライフルを使った銃剣術で見事な近接戦闘をやってのけ、遠距離戦だけでなく近接戦闘もソコソコ強いと言う事を示してくれたと同時に、日本政府の意味不明な理屈がなければ真耶は間違いなく日本代表になっていたと言う事も実感させてくれた。
ランチタイムでは今日は夏月の特製弁当が振る舞われ、本日の弁当のメニューは『昆布の佃煮付き日の丸ご飯』、『鶏ささみの生姜焼き』、『小松菜と厚揚げの煮浸し』、『ツナ入りタラモサラダ』、『洋風出汁巻き卵』と言うラインアップでとても満足出来た。
午後の授業も特に大きな問題もなく進み放課後は先ずは部活だ。
「えぇ!?ちょっと待って下さい、今私立ちガードでしたよね?なのになんで中段喰らうんですか!?」
「此れがF式ってやつですよ山田先生。
俺のジャンプ攻撃を使った立ち固めを見て、下段が来るって思ってしゃがみガードを入力したんだろうけど、俺は其のしゃがみガードを読んで中段を仕込んだんだけど、山田先生のキャラはしゃがみガードを入力してても、俺のキャラのジャンプ攻撃が早かったせいで、しゃがみガード状態なのに見た目は立ちガードのガード硬直が持続しててしゃがみガードしてるのに立ちガードの状態になってて、結果として立ちガードしてるのに中段を喰らう事になったって訳です。逆に言うと、俺が下段の択をしてたら、立ちガードなのに下段をガードしてるってこれまた不思議な状況になってた訳です。」
「奥が深いですね格ゲーも。」
此処では相変わらず格ゲーと遊戯王に於いては夏月が無双していた……ストリートファイターシリーズのオンラインマッチでは、かのウメハラ氏とタメ張った夏月の実力はワールドクラスと言えるだろう――ストⅢ3rdのオンラインマッチでは、最強と言われる春麗相手に『真・昇龍拳』のリュウで圧倒したのだから驚く他ないだろう。
e-スポーツ部には、新たにファニールが参戦し、アイドルの経験を活かしてリズムゲームではエキスパートコースをパーフェクトクリアすると言う最強っぷりを披露してくれていた……遊戯王に関してはまさかのデッキが『ステップ・ジョニー』だった事で周囲を驚かせたが。
そして部活後はアリーナでISの訓練だ。
本日は夏月&ファニールvs鈴&乱のタッグマッチから始まった……ファニールは専用機が特殊過ぎて使えないので、訓練機のラファール・リヴァイブを使って居たのだが、其れでも中々に良い勝負となっていた。
ファニールが徹底的にサポートに回って夏月は近接戦で鈴と乱の二人を同時に相手にして、しかしマッタク退く事は無く、逆に鈴と乱に確実なダメージを叩き込み、タイムアップとなった事で試合は終わったのだが、今回は夏月ファニールのタッグが判定勝ちを捥ぎ取った形となった。
その後もトレーニングは続き、模擬戦もパートナーを変えて色々と行っていたのが、その最中に、その圧倒的な強さから夏月と楯無のコンビは殿堂入りレベルであるのは間違いないだろう。
そしてそろそろ良い時間なので、今日の訓練は此処までと思い、終わりの準備をしていたのだが――
「待て!一夜夏月、私と戦え!!」
其処にまさかの乱入者が現れた。
長い銀髪に左目の眼帯が特徴的な小柄な少女――ドイツ軍の黒兎隊の隊長を務めているラウラ・ボーデヴィッヒの姿が其処にあった……その眼には燃え盛る闘気が宿っており、ともすれば其処には殺気も混じっているかも知れない。
「連日の厄介事って、二日連続で厄日か俺は?」
「其れは若干否定出来ないわねぇ……お祓いして貰う?」
「いや、其れには及ばねぇです楯無さん……どうせ断っても聞かないだろうから少しだけ相手してやるさ。
イキナリやって来て其れは如何かと思うが、やらないと納得しないんだろ?とは言ってもアリーナの使用時間がギリギリなんでな、五分で良ければ付き合ってやるよボーデヴィッヒ。」
「構わん。五分もあれば貴様の実力を知るには充分だからな。」
楯無と軽口を交わしながらも夏月はラウラから視線を外さずに、逆に殺気と闘気を叩き付けてやったのだが、其処は流石に現役軍人だけあって適当にやり過ごしたと言った感じだ。
ラウラの闘気は既にマックスレベルだが、『口で言っても絶対に退いてくれないよな』と夏月は考え、同時に『トレーニングの範疇を超えそうになったら力尽くでも黙らせればいいか』とも考えてラウラの挑戦を受ける事にした――こうして、放課後のアリーナにて、突如夏月とラウラの模擬戦が行われる事になったのだった……
To Be Continued 
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