ゴールデンウィーク最終日も、夏月は何時も通りに早朝トレーニングを行っていたのだが、日本時間の未明に国際IS委員会が『男性操縦者重婚法』が可決された事を発表した事で、IS学園に在籍している各国の国家代表や代表候補生には自国の大使館を通じて男性操縦者との関係を問う通信が入って来た。
唯一の例外として代表候補生でもなければ専用機持ちでもない箒にも日本政府から連絡が入っていたのだが、箒は篠ノ之束の妹と言う事で特例でIS学園に入学したという経緯があるので連絡が入っていたのである。
そんな連絡を受けた更識姉妹、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、乱、鈴は『絶賛交際中』と伝え、箒とセシリアも『ゴールデンウィーク中にデートする間柄』と伝えた事で日本政府は『更識姉妹と一夜夏月、篠ノ之箒と織斑秋五は婚約関係にある』と言う事を世界に向けて発表した……世界で二人しか居ない男性のIS操縦者を自国に置いておきたいという思惑があったのは間違いないだろうが、オランダが『ロランツィーネ・ローラディフィルネィと一夜夏月』、タイが『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーと一夜夏月』、中国が『凰鈴音と一夜夏月』、台湾が『凰乱音と一夜夏月』、ブラジルが『グリフィン・レッドラムと一夜夏月』夫々が婚約関係にあると発表し、イギリスも『セシリア・オルコットと織斑秋五が婚約関係にある』と発表したのだった……年齢的に結婚は出来ずとも、婚約関係は結ぶ事が出来るので、男性IS操縦者とのパイプを持ちたい国としては此れはある意味で当然の対応だったと言えるだろう。
そんな中で対応に困ったのはカナダだった。
カナダもコメット姉妹と言う国家代表候補生をIS学園に送り込んでいたのだが、飛び級で高校に進学しているとは言え、コメット姉妹は本来ならばまだ小学生の年齢なので夏月と秋五の婚約者とするのは些か憚られたのだ。
だが、実際にコメット姉妹に聞いてみると、姉のファニールは『夏月の事は好きよ……アイツは、何だか一緒に居るとホッとするから』と答え、妹のオニールは『お兄ちゃん達の事は好きだよ。特に秋五お兄ちゃんは優しいから』との答えが返って来たので、カナダ政府は『ファニール・コメットと一夜夏月、並びにオニール・コメットと織斑秋五が婚約関係にある』と、やや強引ではあるが発表したのだった。
「まさか、一気に八人も婚約者が出来るとは思わなかったぜ……何より予想外のファニール。」
「ふふ、其れだけ君は愛されていると言う事だよ夏月……ファニールも、君に魅了されてしまったのだろうさ。マッタク持って罪な男だね君は?」
「まぁ、俺もファニールの事は嫌いじゃねぇよ?少し生意気で強がりな部分もあるが、その辺も含めて可愛いとは思うし。
だがな、そうであっても此れだけは言わせて貰うぞ?俺はロリコンじゃねぇぇぇ!断じてロリコンじゃねぇ!!そして秋五だってロリコンじゃねぇんだよ!!!と思いたい。元兄として!」
「君や秋五がロリコンではないと言う事は無論信じているが、コメット姉妹も僅か十二歳で将来の伴侶が決まってしまった訳だから、彼女の事も私達と同じように愛して上げておくれよ?」
「其れは分かってるけど……しっかし、今まで妹みたいに思ってたからそうなるまでには少しばかり時間が掛かるかもな。」
何時ものように朝トレーニングを終え、朝食を食べてる最中にロランに日本のオランダ大使館から連絡が入り、ロランが夏月との関係を答えた直後に怒涛の『婚約関係発表ラッシュ』により、一気に八人も婚約者が出来てしまった夏月だが、割とアッサリとその状況を受け入れていたのは七人もの女性と交際する事になった事で覚悟を決めていたのと、彼女達に己の出生やら何やらを受け入れて貰っていたからだろう。
カナダの発表には流石に驚いたモノの、夏月はファニールの事を嫌いではないし、ファニールが自身に向けている感情も何となく察していたので『ロリコンではない』と言う事を強く主張した上で受け入れていた――同時に、其れはファニールにも己の秘密を明かさねばならないと言う事でもあるのだが、其れに関して夏月は『多分大丈夫だろう。』と考えていた。此れもロラン達に受け入れて貰ったからこそだろう。
「はぁ、予想してたとは言え実際に現実になるとやっぱり驚くモンだな……でもって、此れから色んな国から見合い写真とか大量に送られてくるんだろうなぁ……少しばかり憂鬱だぜそれを考えると。」
「まぁ、そうなるのは確実だろうけれど、選別作業は私達も手伝うから安心しておくれ。
それよりも、今日はタテナシとのデートだろう?GWの最終日も目一杯楽しんで来ると良いさ――最終日のデートと言う事で、きっとタテナシも気合の入ったデートプランを用意してる筈だからね。」
「だな。そんじゃ行って来るわ。
それと、鍋にアラビアータソース作ってあるから、昼飯に冷蔵庫のニョッキ茹でて絡めて食べてくれ。或は冷凍飯解凍してからソース掛けてライスグラタンにしても良しだぜ。」
「ふむ、相変わらず準備が良いね?美味しく頂かせて貰うよ。」
昼食の準備もバッチリとしておいた夏月はGW最終日の楯無とのデートに出掛けて行った。
夏月が作って行ってくれたアラビアータソースはそれなりに量があったので、この間と同様にランチタイムにはコメット姉妹を部屋に呼んで美味しく頂き、ファニールに『ようこそ乙女協定に』と言って夏月チームの一員となった事を温かく迎えていたロランであった。
夏の月が進む世界 Episode28
『ゴールデンウィーク最終日~Enjoy Double Date~』
デートの待ち合わせ場所は例によってモノレールの駅であり、待っている間はスマホのマスターデュエルを行うのが最早定番になっている夏月であり、今日もすこぶる順調に連勝記録を更新中。
「後攻だけど、初手の五枚がマスクチェンジ系の魔法カードでドローカードは『HEROモンスター』って、相手の場には伏せカードもないし此れって俺の勝ちじゃね?」
本日使っているのは『M・HEROデッキ』のようだが、初手に大分ぶっ壊れた手札が揃ったらしく、モンスターを通常召喚して殴った後に、怒涛の『マスクチェンジ』系の魔法カードを五連発して相手のライフを一気に削り取る後攻ワンターンキルを達成していた……マスクチェンジ系の魔法カードは全て速攻魔法だから可能となる怒涛の猛ラッシュだが、普通なら手札事故レベルの『初手にモンスター一体で残りは魔法カード』が寧ろ魔法カードによっては有利に働く『M・HEROデッキ』の秘めた力は凄まじいと言えるだろう。因みに特撮オタでもある簪は『E・HERO』、『D-HERO』、『M・HERO』、『E-HERO』の全てを組み込んだ『究極のHEROデッキ』も使ってるのだが、本来ならば回る筈もないデッキを見事に回してしまうのは特撮ヒーローに対する愛ゆえの事かもしれない。
「夏月?」
「お前も外出か?」
「ん、秋五と箒か……あぁ、今日は楯無さんとデートでな。そう言うお前達もデートかよ?」
「う、うむ、そんな所だ。」
「箒は最終日以外は実家に戻って剣の稽古をしていたらしいからね。」
其処にやって来たのは秋五と箒だ。
如何やら本日は此の二人もデートらしく、本土に渡るためにモノレールの駅にやって来たのだろう――そんな二人のコーディネートは、秋五はエンジ色のジーンズに白い半袖のボタン付きシャツを合わせ、青い半袖のジージャンで、箒は七分丈の黒いストレッチタイプのパンツに赤い六分丈のタンクトップを合わせ、その上からグレーのボタン付きシャツを羽織ってシャツの裾を前面で縛ると言うコーディネートである。
「お待たせ夏月君。って、あらあら織斑君と箒ちゃんもデートかしら?」
次いで楯無がモノレールのホームに現れ、夏月の方もデートがスタートと言ったところだ。
本日の夏月のコーディネートは黒いダメージジーンズにこれまた黒いTシャツと言うシンプルなモノだが、Tシャツは身体にジャストフィットするタイプのモノであり、夏月の究極の細マッチョと言うべき見事なボディラインを強調していた。
一方の楯無はと言うと、白い七分丈のストレッチタイプのパンツに、黒いシャツを合わせ、その上から和の意匠を取り入れた上着を重ねたコーディネートで、特徴的な蒼い髪と実にマッチしている。
「アハハ、偶然ですね会長さん……会長さんと夏月は本日は何方に?」
「うふふ、今日はデートの定番である遊園地よ……そして、先日オープンしたばかりの『湘南海浜公園・浜が俺を呼んでいる!』なのよ♪」
「え?……僕と箒のデート場所も其処なんですけど……」
で、夏月と楯無が何処に行くのかを秋五が聞いたところ、行き先はまさかの同じ場所だった……遊園地はデートの定番ではあるとは言え、デート場所が同じだと言うのは中々のレアケースと言えるだろう。
「目的地は同じか……なら、本日はダブルデートってのは如何だ秋五?グリ先輩とのデートの時は半日だったけど、今回は一日マルッとダブルデートってのも悪くないだろ?」
「夏月……確かに其れもアリだね。箒も其れで良いかな?」
「わ、私は構わんぞ、うん。」
「私も全然OKよ夏月君♪」
此処で夏月がダブルデートを提案し、秋五も其れを受け入れ、楯無と箒もOKだったのでGW最終日は期せずしてダブルデートと相成った。
先ずはモノレールで本土まで移動し、其処から東京駅までバスで移動した後に京浜東北線で神奈川県の湘南まで足を延ばすと、駅からは徒歩で遊園地に。
目的地である遊園地は湘南の駅から徒歩で五分程度の距離なので態々バスを使うまでもないのだ。
「おぉ、本当に七日間連続で会っちまったなぁ兄ちゃん?今日は蒼髪の美人さんとデートかい?てか、連れにもう一組ってダブルデートって奴か?」
「マジで七連続になったな?俺も驚いてるぜ。」
此処で例の露店商とGW七連続エンカウントを達成。
露店商は楯無を見て『此の子が二日目の子のお姉さんか……タイプは違うけど姉妹揃って美人さんだねぇ!』等と言い、楯無も『あらあら、口が旨いわねぇ?商売上手なんだから』と返していた……秋五と箒が少しばかり置いてけぼりを喰らっていたが、最終的には夏月と楯無はクロスの飾りが付いたウォレットチェーンを購入してクロス部分に名前を彫って貰い、秋五と箒もお揃いのシルバーリングを購入して名前を彫って貰った。更に二人はお土産として、夏月はファニールへクロスの飾りが付いたウォレットチェーンを、秋五はセシリアとオニールへシルバーリングを購入し、各々の名前も刻印して貰っていた。
「いやはや、しかしまさかの七日連続とは……こりゃ学校が休みの日に兄ちゃんが外出したら、その都度俺と会う事になるんじゃねぇかって気すらして来たぜ?」
「其処まで行くと最早若干ホラーだろ……ま、今度会う機会があったらまた何か買わせて貰うぜ。」
「あいよ、毎度あり~~!!」
露店商と別れてから数分後、目的地の遊園地に到着。
湘南駅から園のアトラクションの一部が見えてはいたのだが、実際に近くまで来るとその大きさが分かりジェットコースターも観覧車も中々の迫力を醸し出していた。
湘南海岸の直ぐ側に建設されたこの遊園地は施設内に人工のビーチが作られ、『海水浴と遊園地を同時に楽しめる施設』と言うのが売りであり、水着のまま遊園地のアトラクションを楽しめる日本国内唯一の遊園地であるのだ。――尤もGWはまだ海水浴をするには水温が低く、海開き前なので水着客は皆無なのだが。
楯無も秋五もネットで『終日フリーパス券』を予約しており、入り口でスマホのデジタルチケットをスキャンして貰って、いざ遊園地ダブルデートの開幕だ!
「早速コイツか楯無さん……」
「此れは絶対外せないと思うのよ♪」
「イキナリか……フフフ、武士道とは死ぬ事と見付けたり。」
「箒、変な覚悟決めないで!?」
まず最初にやって来たのはこの遊園地の最大目玉であるジェットコースター『ハイパーデンジャラス・コズミック・バーストコースター』だった。
最大落差500m、最大傾斜七十度、最高時速150km、最大5Gと言うジェットコースターの極致とも言える絶叫アトラクションだが、だからこそ其のスリルを体験しないと言う選択肢はそもそも存在していないのだ。
開園と同時に入場し、速攻で此のジェットコースターにやって来た事で、四人掛けのコースターの最前列は夏月と楯無、秋五と箒がゲットする事に……ジェットコースターは最前列に乗ってこそなので、此れはある意味で最高の席だったと言えるだろう
そしてコースターは発進し、ゆっくりと上り坂を上がって行き、そして頂点まで達した次の瞬間には一気に急降下して加速すると、其処から三回転ループ→大回転→連続アップダウン→急降下十回転ループと言った過激なルートが続き、ラストは傾斜七十度の急降下からの超高速のバックストレートを経てホームに帰還したのだが、秋五と箒はスッカリグロッキーとなっていた。
ISとは全く異なる動きに秋五も箒もオーバーヒートしてしまったのだろう。
「お~い、生きてるか秋五?」
「箒ちゃ~ん、生きてるかしら?」
「「はッ!」」
夏月と楯無に声を掛けられて再起動した秋五と箒だが、ジェットコースターに酔ったと言う訳ではなく単純に体験した事のない過激な動きに驚いて暫し放心状態になってしまっただけだったようである。
夏月と楯無が平気だったのは更識としての特殊訓練を受けている事と、更識の仕事を何度も熟す中で『何が起きても動揺しない胆力』を身に付けているからであろう……動揺しない事と驚かない事は全くの別物なのでこのモーストデンジャラスなジェットコースターのスリルは確りと堪能出来た訳であるが。
「まさか、此処まで凄いとは思ってなかったから思わず呆けちゃったよ……何と言うか、一般人がギリギリ耐える事の出来るレベルまでのモノを限界まで詰め込んだようなジェットコースターだったけど、設計者は一体何を考えて此れを作ろうと思ったんだろうね?」
「恐らくだが頭のネジが数本吹っ飛んでいる人物が設計したのだろうな……だが、もう大丈夫だ。さぁ、次に行こうか!」
秋五と箒も再起動したので、改めて遊園地めぐりがスタートし、次にやって来たのはおどろおどろしい洋館のような施設……所謂『お化け屋敷』、『ホラーハウス』と呼ばれるアトラクションだ。
大抵のお化け屋敷やホラーハウスは人形やロボットを使ったモノで、一定の感覚で飛び出すように設定されているので、タイミングによってはスルーしてしまう事も少なくないのだが、この遊園地のホラーハウスは特殊メイクをしたスタッフが潜んでいるタイプで、客が来たベストのタイミングで出て来ると言う絶対にスルーしてしまう事はない本気のホラーハウスなのだ。
デートには不向きなアトラクションにも思えるかもしれないが、ホラーハウスでは驚かされた時に合法的に抱き付く事が出来るので、実はデートには割と向いているアトラクションであったりするのだ……極稀に、武闘派の女性が脊髄反射でスタッフを殴ってしまうと言う珍事もあったりするのだが。
「まるでサバイバルアクションホラーゲームの世界に迷い込んでしまったかのようね……ゾンビだけなら兎も角、タイラントとか謎の追跡者とか出て来ないわよね?」
「出て来たら全力で逃げるしかないだろうなぁ……こっちは丸腰だし。」
「何処かにマグナムとか落ちてないかな?」
「いや、お前は戦う気なのか秋五よ……」
洋館風のホラーハウスの中を進んで行く四人だったが、今のところ雰囲気はあれどなにも出て来ない……それが逆に恐怖感を煽ってくれるのだが、更に進んで行くと『如何にも何か出てきそうな広間』に辿り着き、ご丁寧に姿見の鏡やベッドなど怪しげなモノが設置されている。
「「「「「「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」
そして次の瞬間、鏡からは貞子が、ベッドからはチェンソーマン、壁をぶち抜いてプレデターが現れ、プレデターに先導されるように無数のゾンビが広間になだれ込んで来た……ジャンルが色々とごちゃ混ぜになっているが、其れが逆に恐怖を駆り立てる演出となっていると言えるだろう。
「来たぁぁぁ!!トンズラかますぞ!」
「悪霊に悪魔憑きに宇宙からのハンターにゾンビって、色々混ざり過ぎでしょうに!でも、その統一感の無さが逆に怖いわねぇ♪」
「とか言いつつ会長さんはなんか余裕そうに見えるのは僕だけなのかな!?」
「いや、それは私も思ったから安心しろ秋五!」
其処からは恐怖アクションの大連鎖が始まり、障子を突き破って出てくる無数の手、突如床下から現れるフレディ、チェーンソーを振り回して襲い掛かって来るジェイソン、イキナリ吹きかけられるドライアイススモーク、扉を開けた瞬間にプレデリアンがこんにちは!
その他にも学校の怪談でお馴染みのお化けや、都市伝説でまことしやかに噂されているモンスター等が次々と現れては驚かせてくれて、その度に楯無は驚いたフリをしながら夏月に抱き付き、箒は本気で驚いて秋五に抱き付いていた……その際、箒の『IS学園の生徒最強のバスト』が腕に押し付けられた秋五は別の意味でドキドキしていたみたいだが、此れもある意味では役得と言えるのかもしれない。
そんなホラーハウスを満喫した後は、気分を変えてファンシー系のアトラクションに行き、レールの上を二人漕ぎのコースターで回る『UFOサイクル』を楽しんだ。
ジェットコースターの様な急激なアップダウンは無く、コースターのスピードは搭乗者のペダルを漕ぐ速さによって決まる上に、最高速度の上限が設定されている為に前のコースターに追突する事はない安全なアトラクションであり、レールは比較的高い位置に設置されているので、湘南の海の景色も楽しめるアトラクションとなっているのだ。
その次にやって来たのはゴーカートなのだが、このゴーカートは四人組でのレースも出来るモノだったので、迷わずレースを選択した。
だが、其処は只のレースではなく、『リアルマリオカート』とも言うべき妨害も可能になっており、レース用のカートにはレースで一度だけ使える妨害ボタンが備わっており、其れを何時使うかがレースの行方を左右すると言えるだろう。
スタートダッシュはほぼ同時で、最初の直線は横這いだったのだが、ファーストコーナーで夏月がアウトラインに逸れてからの鋭角ドリフトでトップに躍り出ると、その後に秋五がピッタリとくっつき、スリップストリームを利用して夏月に付いて行く。
暫くはその状態が続いたのだが、最終コーナーであるシケインに差し掛かったところで秋五が見事なドリフトを見せて夏月を抜き去った……
「は~い、其処で少し大人しくしててね♪」
「悪いが勝たせて貰うぞ。」
と思った瞬間、楯無と箒が妨害ボタンを使用し、夏月と秋五は一定時間カートの操作が出来なくなってしまった……どんな妨害効果が発動するかはランダムであるとは言え、一定時間操作不能と言うのは中々に良い妨害効果を引き当てたと言えるだろう。
動けなくなった夏月と秋五を悠々と追い越し、楯無と箒は2ラップ目に突入し、其れから遅れる事五秒後に動けるようになった夏月と秋五も2ラップ目に突入した、が五秒のビハインドは大きくその距離を詰める事が中々出来ない。このままでは負けてしまうのは明らかだったのだが、此処で夏月と秋五はカートを猛加速させるとコーナーに差し掛かったところでまさかの壁走りを敢行!
壁走りはアップダウンはあれどストレートオンリーとなるので絶望的な距離を詰める手段としては有効なのだ――尤も、壁走りと言うモノは一部の『ミニ四駆漫画』でしか存在しない架空の走法であり、其れを現実でやれと言われたら絶対に不可能なのだ。……つまり、夏月と秋五は専用機の力を少し使って壁走りをやってのけたと言う訳だ。若干反則かもしれないが、此れもまた戦術の一つと言う所だろう。
まさかまさかの裏技を使った事で横這いになって最終ラップを迎え、夫々が見事なドライビングテクニックを披露し、誰が勝ってもオカシクナイ状況だったが、最終コーナーのシケインに差し掛かったところで夏月と秋五が妨害ボタンを使い、その結果楯無と箒は見事にスピンしてしまい、クラッシュには至らなかったモノの大きく時間を消費する事になった。
となれば最後はバックストレート夏月と秋五のデッドヒートとなり、夏月も秋五も何方も譲らない熱い展開となったのだが……
「勝つのは俺だぁぁぁ!!」
此処で夏月は『一度ブレーキを踏んでから一気にアクセル踏み込んで超加速する』と言う高等技術を使って一気に秋五を抜きさってゴールイン!それに続いて秋五もゴールインし、楯無と箒は略同時にゴールインした。
表彰台での記念撮影を終えた後は、メリーゴーランド、コーヒーカップと言ったファンシー系のアトラクションを楽しんだ後に、フリーフォールの部屋全体が豪快に動く事で巨大竜巻に巻き込まれた体験が出来る『ツイスター』、東京スカイツリーと同じ高さからのバンジージャンプ等を楽しみ、そして小休止となり夏月と秋五は飲み物を買いに来ていた。
「そんで秋五、『男性操縦者重婚法』が制定された訳だが、お前は箒とセシリアに自分の思いは告げたのか?」
「勿論したよ……婚姻関係が結ばれてからの告白って言う順番を可成り無視した事にはなっちゃったけど、でも何方も選ばなかった僕の事を受け入れてくれた箒とセシリア、其れから半ば強制的に僕の婚約者になったオニール……彼女達の事は大事にしていきたいと思ってるよ。」
「そうか、なら良かったぜ……お互い此れから大変だろうが、此れもISを動かしちまった野郎の宿命と思って頑張ろうぜ。」
「ふふ、そうだね。」
自販機で飲み物を購入(夏月はモンスター・エナジー・カオス、秋五はコカ・コーラ、楯無はウィルキンソンの辛口ジンジャー・エール、箒は抹茶ラテ)して、戻って来たのだが……
「お姉さん達若しかして女の子二人で遊びに来た感じ?それってチョー寂しいよね?俺らと遊ばない?」
「青髪のショートヘアーと、黒髪をポニーテールにした大和撫子……そそるぜぇ!」
其処では楯無と箒が絶賛チャラ男の集団にナンパされていた。
楯無は日本人としては珍しいでは済まない蒼髪と紅い瞳が特徴的な美少女であり、箒は黒髪黒目が美しい大和撫子で、キリっとしたその佇まいは『侍ガール』としての凛とした魅力もあるので、チャラ男のターゲットになってしまったのはある意味では仕方ないだろう。
とは言え、楯無も箒もチャラ男のナンパに付き合う気など全くなく、無視を決め込んでいたのだが、如何やらそれがチャラ男達には気に入らなかったらしく、強引に楯無と箒の腕を掴もうとした次の瞬間!
「オイ、人の女に手を出すとは良い度胸してるなこの野郎……」
「箒も会長さんも魅力的だからナンパしたくなる気持ちは分からなくもないけど、力尽くでって言うのは如何かと思うんだよね僕は。」
チャラ男の腕を夏月と秋五が掴み、其処から夏月はチャラ男を『キン肉バスター』に取り、秋五はチャラ男を『キン肉ドライバー』を炸裂させ、究極至極の合体技である『マッスル・ドッキング』が炸裂し、ナンパ野郎は憐れ病院送りになって、その他のチャラ男達は夏月と秋五に恐れをなして蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだった……ナンパをするのならば相手を選ばないと痛い目に遭うと言う良い教訓だったと言えるだろう。
ナンパチャラ男軍団を撃退し、ドリンクで一息入れた後は迷路やジェット滑り台等のアトラクションを楽しみ、気が付けばランチタイムに良い時間になっていたので、園内にある飲食店でのランチタイムとなったのだが、此の日のランチタイムは満場一致で『ハンバーガー』となっていた。
他にも色々な飲食店があるのだが、このハンバーガーショップは全国チェーンしている店をテナントで入れている訳ではなく、遊園地の運営会社が経営しているオリジナルブランドであり、此処でしか食べられないメニューも存在しているのでこのハンバーガーショップをチョイスしたと言う訳だ。オーダーが入ってから調理すると言う点も大きなポイントだろう。
其の為かどうかは不明だが、一般的なハンバーガーショップやファーストフード店とは異なり、レジカウンターで注文するのではなく、普通のファミリーレストランのように席での注文となっているのも特徴的だ。
入り口で店員に『四名』と伝えると席に案内され、早速何を頼むのかを考える。
ハンバーガーやチーズバーガー、てりやきバーガーと言った定番のメニューは勿論、此の店のオリジナルメニューとして和風ロースカツバーガー、湘南若大将バーガー、肉盛りスタミナバーガーと言ったモノもあり、サイドメニューに関してもフライドポテトやチキンナゲットの他にスパイシーポテト、ツナナゲット、レンコンチップス、シュリンプナゲット等々豊富に揃っており、選ぶ楽しみもあるようだ。
程なくして全員がオーダーを決め、インターホンを押してウェイトレスさんを召喚すると、夫々オーダーを出して行く。
「私は湘南タルタルエビカツバーガーのセットで、ポテトをフライドキャロットにして、ドリンクはジンジャーエールの辛口で。其れから単品でスパイシーエビドックをお願いするわ。」
「私は和風フィッシュバーガーのセットのポテトをレンコンチップスに換えて、飲み物はアイスキャラメルミルクで。あと、単品で湘南ライスバーガーの和風カルビで。」
「僕はクアトロチーズバーガーのセットをポテトとドリンクをLサイズで。ドリンクはコーラでお願いします。あと、単品でてりやきマグロバーガーをお願いします。」
「俺は……和風ロースカツバーガーのセットをポテトとドリンクをLサイズでドリンクは濃い目のカルピスソーダ。それから単品で激辛メンチバーガーと、肉盛りスタミナバーガー、あとはシュリンプナゲットの十六ピースと和風スパイシーチキンバスケットの八ピースで。シュリンプナゲットのソースはバーベキューとマスタードと和風柚子胡椒を一つずつで。」
「畏まりました。」
全員がセットメニュー+αのオーダーであり、楯無と箒は女子高生としては多めのオーダーに感じるだろうが、楯無も箒もアスリートとしての身体をしているので一般的な女子高生と比べたら必要な摂取カロリーが如何しても多くなるので、此れ位の量は普通なのだ。
夏月が若干ぶっ飛んだオーダーではあるが、単品注文のサイドメニューに関しては全員でシェアする為にオーダーしたモノなのでマッタク持って問題はない……この場にグリフィンが居たらサイドメニューを一人で食い尽くしてしまうかも知れないが。
そしてオーダーしてから待つ事十分ほどで料理が運ばれてきてランチタイム開始。
バーガーに関しては全員が此の店のオリジナルメニューをオーダーし、其れ等はとても美味しいモノだったのだが、夏月がオーダーした『肉盛りスタミナバーガー』のインパクトは物凄いモノがあった。
レタスとスライスしたオニオンの上にビーフパテ、ローストンカツ、フライドチキン、牛・豚・鶏のミックスミンチのミートソースにフライドガーリックの粉末をタップリトッピングしたハンバーガーは迫力満点であり、インパクトだけならばバンズ三枚のビックマックをも遥かに凌駕していると言えるだろう……食べるのが大変そうだが、夏月はハンバーガーの方を口の大きさに合わせて強引に潰して喰らい付いていた。
こうでもしなければバンズと具材を一緒に味わう事は出来なかったのだが、『ハンバーガーは口に合わせて潰して食べるモノ』と言うハンバーショップの店長も居るので此れはある意味ではハンバーガーの正しい食べ方と言えるのかもしれない。
シェアしたサイドメニューの方も美味であり、シュリンプナゲットのソースも此の店オリジナルの和風柚子胡椒ソースが良い感じの爽やかさとスパイシーさでシュリンプナゲットの『表面サクサク、中はプリップリ』の食感を際立たせてくれていた。
オーダーしたメニューを全て食べ終えた後は食後のデザートとして夏月は『塩キャラメルチョコレートアイス』、楯無は『チョコバナナ海賊船』、秋五は『カスタードクリームブリュレアラ・モード』、箒は『抹茶アイスと大納言小豆アイスの雪だるま』を注文し、夫々美味しく頂いた。
支払いに関しては夏月が楯無の分も払おうとしたのだが、楯無が『フリーパス券は飲食店もフリーパスなのよ♪』と言った事で、全員無料でハンバーガーショップを後にした……少しばかり値は張るモノの、園内の全ての施設(アミューズメントゲームコーナーのプレイ代は除く)が料金を払う事無く使用出来るフリーパス券は丸一日此の遊園地を使う場合には可成りお得なモノであると言えるだろう。
ランチタイムを終えてからの午後の部は、先ずはステージイベントである定番のヒーローショーを楽しんだ。
今年は仮面ライダー生誕五十周年と言う事でAmazonプライム限定で公開されている『仮面ライダーBlack Sun』を元にしたショーだったのだが、ショーの後半でピンチに陥ったBlackSunの元に、BlackSunのオリジナルである『仮面ライダーBlack』と『仮面ライダーBlackRX』が駆け付け、協力して敵を倒すと言う激熱な展開に盛り上がり、ショーの後で楯無は簪へのお土産として三人の『仮面ライダーBlack』のサインを貰っていた。
ヒーローショーを満喫した後は、アミューズメントゲームコーナーを訪れユーフォ―キャッチャーやプリクラ等を楽しんだ――特にプリクラは此の遊園地の限定フレームもあったので余計に楽しめた。
撮影の瞬間に楯無は夏月に、秋五は箒に『ほっぺチュー』をかまして夫々の驚いた表情がプリクラに残されたのも良い思い出の形と言えるのかも知れない……夏月は兎も角として、箒の方はまさかの事にゆでだこ状態になってしまい、再起動するまでに五分程必要になっていたが、実直なサムライガールには頬へのキスでも充分な破壊力があったと言う事なのだろう。
その後はメダルゲームで全員がトンデモねぇ動体視力を発揮してメダルを荒稼ぎし其れを換金して一儲けし、エアホッケーのダブルスでは先ずは夏月&楯無ペアと秋五&箒ペアの試合を行い、接戦の末に夏月&楯無ペアが勝利した後に、夏月&秋五ペアと楯無&箒ペアの試合を行ったのだが、此れは夏月&秋五ペアが圧倒して勝利した。……兄弟でなくなったとは言え、織斑計画に於ける量産型の完成形として生まれた双子の連携は完璧であり、楯無&箒ペアが三セットで奪った得点が十点以下だったと言うのがその連携の凄まじさを如実に表していると言えるだろう。
そんな感じでアミューズメントゲームを楽しんで居ると何時の間にか日は傾き始めており、閉園時間も迫っていた――となると、遊園地デートの定番とも言える『観覧車』を外す事は出来ないので、夏月と楯無、秋五と箒に分かれて別々のゴンドラに乗って観覧車の一周を楽しむ事に。
此の観覧車は直径が180mと言う国内最大級の観覧車であり、最上部からの眺めは其れは最高と言うより他にないモノで、閉園間近のこの時間帯だと夕陽に照らされた湘南のビーチが実に美しく見えるのである。
「夏月君、今日のデート、満足して貰えたかしら?」
「まさかのダブルデートになったけど充分に楽しめたぜ楯無さん。」
「それなら良かったわ……夏月君、大好きよ。」
「其れは俺もだよ楯無さん。」
ゴンドラが頂点に達した所で夏月と楯無はキスを交わし、その愛を深めていた――同じ様に頂点に達した所で秋五も箒と唇を重ねたのだが、ほっぺチューで機能停止してしまう箒にとってこのキスは衝撃的だったらしく、キスをされたと言う事を認識した瞬間に魂が肉体から離れかけてしまっていた。純情可憐な大和撫子のサムライガールが恋愛事に慣れるのにはもう少し時間が必要なのかもしれない。
観覧車を降りた後は遊園地を後にして、少し早めの晩御飯を駅前の『丼専門店』で摂り、夏月は『元祖スタミナ丼』の特盛、楯無は『湘南海鮮丼』、秋五は『キムチ牛丼』の大盛り、箒は『マグロユッケ丼』をオーダーして美味しく晩御飯を頂いた。
となれば、後は学園に戻るだけなのだが、秋五と箒が湘南駅から電車に乗ったのに対し、夏月は楯無に連れられて湘南の港まで来ていた――そして其の港で待っていたのは一隻のクルーザーだった。
其れは更識が所有するクルーザーであり、船内にはシャワールームやベッドルームも完備されている、クルーザーと言うよりは超小型のクルーズ船と言った方が正しいモノだった……詰まるところ、此れで海の旅を楽しみながら学園に帰ろうと言う事なのだろうが、勿論そんな単純な事では終わる筈がない。
「ふぅ……サッパリしたな。」
シャワールームで汗を流した夏月はベッドルームにやって来たのだが……
「お帰りなさいアナタ。ご飯にします?お風呂にします?それとも私?」
ベッドルームのドアを開けたら、其処には所謂『裸エプロン』の楯無が笑顔で立っていた――そのインパクトは凄まじく、夏月は数秒固まった後に一度ドアを閉め、目を擦って頬を叩いた後に再びドアを開ける。
「お帰りなさいアナタ。ご飯にします?お風呂にします?それとも私?」
「…………」
其処には先程と同様に裸エプロンの楯無が存在しており、夏月は再びドアを閉める……そして、息を整えてから三度目の正直としてドアを開けると――
「お帰りなさいアナタ。私にします?私にします?それともワ・タ・シ?」
其処には三度裸エプロンの楯無が居て、遂には選択肢が三択に見掛けた一択となっていた……『夏月の初めてを貰う』と言う乙女協定の最終リミッターを担う楯無はリミッターの完全解除に乗り出した、そう言う事なのだろう。
三度見た事で、此れが見間違いではないと判断した夏月は、後手でベッドルームの鍵を閉めると楯無に近付き、そのままお姫様抱っこをする。
「それじゃあ、楯無さんを頂こうかな?」
「あん、それじゃあ残さずに食べてね♪それから、今だけは刀奈って呼んで……ね?」
「分かったよ、刀奈……」
楯無をベッドに下ろすと、夏月は己の野性を解放して楯無と愛し合った……互いに初めてであるにも拘らず、夜が深くなるほどに激しく、そして愛し合い、その結果として夏月と楯無の愛はより深いモノとなったのだった。
行為を終え、同じベッドで夏月の腕枕で寝る楯無、そんな二人の姿を窓から差し込む月明かりが優しく照らしていた。
――――――
夏月達がデートをしていた頃、ヨーロッパのドイツとフランスではある動きがあった。
「ボーデヴィッヒ少佐、君にIS学園への出向を命じる。可能ならば織斑千冬教官の弟君と親密な関係になってくれる事を望む――頼んだぞ。」
「ハッ!その任務、必ずや成功させてみせます!」
「我が社の命運はお前に掛かっていると言っても過言ではないからな……くれぐれもしくじるなよシャルロット?」
「うん、分かってるよ父さん。(まぁ、僕の本当の目的はアンタ達を奈落の底に落とす事なんだけどね♪)」
ドイツ、フランス共にIS学園に自国の国家代表、代表候補生を送り込む形で進んでいるようだが、此の二人がIS学園に於いて新たな火種になるのは確実であると言えるのかもしれない――フランスの方は腹の底で何を考えてるのかは分からないが、ドイツの方は如何やら千冬と何かしらの接点がある様なので尚更であると言えるだろう。
そしてGW明けの月曜日、二つの火種がIS学園に飛来したのだった。
「ボーデヴィッヒか……待ちわびていたぞお前の事を。私の手駒として動いてくれるお前が学園に来るのをな。」
新たな生徒がやって来た事を聞いた千冬は、大凡教師とは思えないほどの歪んだ笑みを浮かべ、ドイツからの転入生の事を全力で歓迎しているようだった……取り敢えずGW明けの初日は、何やら荒れる事になるのは間違いないと言えるだろう。
To Be Continued 
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