ゴールデンウィークも四日目となり、本日より後半戦になるのだが、だからと言って夏月の日課が変わる事はない。
早朝トレーニングを終えた後はシャワーを浴びて汗を流した後に朝食の準備に取り掛かり、その途中でロランが目を覚ましてシャワーを浴びた後に夏月を手伝うと言うのもお馴染みの光景となっていた。
「オーブン両面で八分焼いた後は、オーブン上火のみで更に五分だったかな?」
「あぁ、其れでやってくれロラン。そうする事でチーズが良い感じに溶けた上で焦げて香ばしくなるからな。」
本日の朝食メニューは『スパイシーチーズトースト』、『ベーコンエッグ』、『トマトサラダ』、『キノコともずくの酸辣湯』とシンプルなモノだったのだが『スパイシーチーズトースト』は、ピザ用のミックチーズに一味唐辛子、粗挽き胡椒、ガーリックパウダーとラー油少々を混ぜ合わせた物を食パンにトッピングして両面を八分間焼いた後に、オーブンの上火で五分焼く事でチーズが良い感じに焦げて溶けたチーズを内側に閉じ込めると言う普通のチーズトーストとは違う少々凝ったモノになっていた。
また、ベーコンエッグも通常のベーコンエッグとは違って厚切りのベーコンを使用している事で『ベーコンのステーキの目玉焼き乗せ』と言った感じになっており、トマトサラダも微塵切りのタマネギを散らし、其処に夏月特製のイタリアンドレッシング(オリーブオイル、バルサミコ、塩、粉末バジル)をかけたモノとなっている。
そしてあっと言う間に朝食が出来上がり、席に着いて『いただきます。』だ。
「スープはコンソメかと思ったけれど、微妙に中華なんだね?」
「トーストとベーコンエッグが結構ドッシリとしたモンになってるからスープは酸味を利かせたサッパリ系でな。仕上げに一垂らししたラー油が良いアクセントなんだ。」
「ふむ、酸味の具合も丁度良い。此れだけのスープをあんな短時間で作り上げてしまうとは驚きだよ。」
「まぁ、ベースは顆粒の鶏ガラスープ使ってるし、酸味はもずく酢を汁ごと入れれば割と良い感じになってくれるからな。」
「お手軽簡単でしかもその味は本格的とか、此れはもう冗談とかではなく本気でレシピ本を作ってみるか、料理のレシピサイトを作ってみたらどうだい?サイトに関してはカンザシに協力を仰げば難しい事ではないだろうしね。」
「まぁ、そっちは気が向いたらな。」
因みに夏月はトーストとベーコンエッグがそれぞれ三枚ずつで可成りのボリュームであるのだが当然の如く完食し、更には食後にモンエナ・カオスまで飲み干していた……明らかに摂取エネルギーが打っ飛んでいるのだが、今日のデートのお相手はグリフィンだと言う事を考えると摂取エネルギー過剰とも言い切れないのだ。
グリフィンはアクティブな性格をしており、身体を動かす事と食べることが何よりも好きで、所属しているサッカー部では二年生ながらエースストライカーとして活躍しており、夏月も『今日のデートはきっと思いっ切り体を動かす事になるんだろうなぁ』と考え、途中でエネルギー切れを起こさないようにガッツリ食べた上でモンエナ・カオスでバッチリエネルギーチャージをしたと言う訳なのである。
朝食後、食器を洗い終えると夏月はデート用の服に着替えてグリフィンとのデートに。
「あ、そうだ昼飯用にハヤシソース作って鍋ごと冷蔵庫に入れてあるから温めて食ってくれ。炊飯器に飯もタイマーセットしてあるからさ。」
「君のその気遣いに感謝するよ夏月。其れでは、グリフィンとのデートを存分に楽しんで来ておくれ。確りと彼女の事をエスコートしてあげたまえよ?」
「其れは勿論だ。」
其れを見送ったロランは、『さて今日は何をしようかな?』と考えた後に、『負けっ放しと言うのは悔しいから腕を上げておこうか。』と、午前中は部屋にある格ゲーを最高難易度でプレイすると言う『e-スポーツ部』の部員として自己鍛錬に勤しむ事にしたらしかった。
夏の月が進む世界 Episode24
『ゴールデンウィーク四日目~Sports施設をEnjoy~』
例によって待ち合わせの十五分前にモノレールの駅に着いた夏月は、本日も『マスターデュエル』にて無双していた――昨日とは違い、本日は『鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン』をメインにした『真・サイバー流』で無双していた。
サイバー・ダーク・エンドだけでなく、サイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・エンド・ドラゴン、鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン、鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン、キメラテック・オーバー・ドラゴンの融合召喚も狙い、サイバー・ダークを生かす為に『輪廻独断』までぶち込んだと言う、ある意味で究極レベルのファンデッキでありながら環境デッキを相手に無双しているのだから恐ろしい事この上ないだろう。
「ヤッホー、お待たせカゲ君!」
「グリ先輩丁度良い所に……パワー・ボンドで強化融合したサイバー・ダークに輪廻独断でドラゴン族になったサイバー・エンドを装備して、リミッター解除して攻撃力一万七千六百にぶち上げての一撃で十二連勝目だぜ!
此れで昨日と合わせて、此れで二十二連勝だ!」
「お~~、其れはすっごいね!」
十二連勝した所でグリフィンがモノレールの駅にやって来て、此処で夏月の本日のマスターデュエルは終了だ。
先ずは本日の夏月とグリフィンのファッションコーディネートだが、夏月は黒いスラックスに銀で『nWo』のロゴマークが入った黒いTシャツ、蝶野ブランドの『アリストトリスト』のチェーンペンダント、そしてウォレットチェーンと言うコーディネートで、昨日の乱とのデートで蝶野正洋氏より継承した『黒のカリスマイズム』全開のファッションだったのだが、其れが夏月の『ダークヒーロー』的な魅力を引き立てていた。
一方でグリフィンはと言うと、白いニーソックスに黒いスニーカーを合わせ、ブルーのホットパンツに赤いハイネックのタンクトップにファー付きのベージュのフライトジャケットを合わせてアンダーバストまでファスナーを締めたコーディネートなのだが、此のコーディネートはグリフィンの抜群のプロポーションを際立たせているだけでなく、彼女の健康的な身体をより魅力的に見せていた。
「カゲ君ってヒール?」
「秋五と比べたら俺は悪役じゃないけど、ダークヒーロー系だぜグリ先輩……グリ先輩も、似合ってるぜ其のファッション。」
「えへへ、ありがと。」
良く見れば、グリフィンのポニーテールを纏めているのも何時ものリボンではなく、飾り付きの髪ゴムとなっている……矢張り今日のデートの為に可成り気合を入れて来たと言う事なのだろう。
モノレールに乗って本土まで移動した二人は、其処からバスで移動して、到着したのは日本最大級と言われている複合型スポーツアミューズメント施設『Athlete
All Enjoy』だった。
此処は東京ドームシティに匹敵する広さの屋内スポーツ施設なのだが、施設内には屋内プール、ボーリング場、バッティングセンター、テニスコート、フットサルコート等のスポーツ施設だけでなく、ビリヤード、ストラックアウト、キックターゲット等の娯楽施設も存在しており、更には焼き肉、ラーメン、回転寿司と言った飲食店も存在しているだけでなく、スポーツで汗を掻いた利用者の為に『スーパー銭湯』的な施設も存在しているのでスポーツ好きならば本気でこの施設で一日潰す事が出来るだろう。
「やっぱり身体を思いっ切り動かす訳か……んで、先ずは何処から行くんだグリ先輩?」
「先ずはね……テニス行ってみよう!」
そんな中で夏月とグリフィンが最初にやって来たのはテニスコートだ。
ラケットだけでなくテニスウェアとシューズもレンタルしていたので、夏月とグリフィンはテニスウェアとシューズもレンタルしてテニスコートにやって来たのだが……
「アレは……秋五とセシリアか?」
「そうみたいだね?」
そのテニスコートでは秋五とセシリアが見事なラリーを行っていた。
実は全くの偶然だが夏月の四日目のデートは、秋五とセシリアのデートの日と被っており、秋五とセシリアは夏月とグリフィンよりも一本前のモノレールので本土に渡っていて、先に此の施設でテニスに勤しんでいたようだ。
「よう秋五、お前もセシリアとデートか?」
「夏月……まぁ、そんな所かな。君はレッドラム先輩とデートかい?」
「大正解。」
夏月が秋五に声を掛けると、秋五も其れに応えて秋五とセシリアのラリーは止まってしまったが、まさか此処でエンカウントするとは夏月も秋五も考えてはいなかっただろう……だからと言って、気まずくなるという事は無く、即座にグリフィンが『此処であったのも何かの縁だから、ダブルスで勝負しない?』と提案し、其れに対しセシリアも『良いですわね』と応え、此処に『世界に二人しか居ないIS男性操縦者によるテニスのダブルスの試合』が始まったのだった。
ペアは当然ながら夏月とグリフィン、秋五とセシリアだ。
此の面子でテニスの経験があるのはセシリアだけなのだが、夏月達が来るまで秋五はセシリアと凄いラリーを行っていたのでテニスの彼是は理解している事を考えると、テニスは全く未経験の夏月とグリフィンのペアは圧倒的に不利なのだが、いざ試合が始まるとマッタク持ってそんな事はなかった。
夏月ペアのサービスゲームから始まった試合は――
「喰らい……やがれぇぇ!!」
先ずは夏月が超強烈なサーブでサービスエースを取ると、続くサーブでもサービスエースを決めて早くも二点リードとなった。
そして三度目のサーブは秋五が超反応してギリギリでレシーブを返すと、グリフィンが其れを力任せに打ち返し、セシリアが其れを技ありのリターンで返し、その打球は大きく弧を描いて夏月達のフィールドに落ちて行く。
打球の落下地点の予想が難しい大きな弧を描いた打球は中々に対処し辛いのだが……
「舐めんなオラァ!!」
その打球に超反応した夏月は、グリフィンの肩を踏み台にしてハイジャンプすると、弧を描いて落ちて来た打球を力任せに打ち返す力任せの『ダンクスマッシュ』を叩き込む!
此れによって更に点差は開いたのだが、その後も試合の主導権を握っていたのは夏月・グリフィンペアだった。
夏月とグリフィンは確かにテニスは未経験だが、其れだけにテニスのセオリーなんてモノはマッタク持って関係なく、夏月の技ありの攻撃と、グリフィンのパワー全開の両手打ちの『波動球』とも言えるスマッシュで秋五・セシリアペアを圧倒してのストレート勝ちを捥ぎ取って見せた――秋五・セシリアペアは可成りレベルの高いペアなのだが、夏月・グリフィンのペアは其れを上回ったと言う事なのだろう。
ダブルスの後はシングルで夏月と秋五が試合を行ったのだが、此れは意外にも拮抗した勝負となっていた――如何やら先程のダブルスは、テニスの経験があったセシリアがセオリーも何もない夏月とグリフィンの攻撃に度肝を抜かれ、本来の力を発揮出来なかった事もまた敗因だった様だ。
さて、夏月と秋五の試合は拮抗したモノとなっている訳だが、果たして此の二人の試合が普通のテニスの試合で済むだろうか?答えは断じて否であろう。
『最強の人間の完成型』として誕生した二人の身体能力はそもそも一般人よりも大幅に高い上に、夏月も秋五も鍛錬は欠かさなかったので最早此の二人にはプロアスリートでもビックリレベルの身体能力が備わっていたりするのだ。
そんな二人のテニスの試合は超高速ラリーは当たり前、漫画やアニメで出て来そうな超人技も何のその、挙げ句の果てにはリターンしようとしたら打球の威力にラケットのガットが耐え切れずに吹っ飛ぶという事態に……因みにガットが吹っ飛んだのは秋五のラケットであった。
ラケットが破損したので試合は強制終了となったのだが、その時点では最終セットの途中で得点は夏月の6-5だったので夏月の勝利となった。
そんな超絶テニスバトルに続いて、今度はグリフィンとセシリアがシングルで試合を行う事に。
此の二人も一般的な女子高生と比べれば可成り高い身体能力を持ってはいるが夏月と秋五の二人と比べれば常識の範囲内なので、偶にグリフィンが未経験者故のトンデモプレーはするモノの割と普通の試合となっていた。
「そんで秋五、お前は如何すんの?」
「如何するって、何を?」
「箒とセシリアの事……気付いてんだろ、アイツ等がお前に向けてる感情が何であるか位はよ。」
「それは……うん。」
その試合を見ながら夏月が秋五に尋ねたのは箒とセシリアとの関係についてだった。
箒とセシリアが秋五に対して恋愛感情を持っているのは火を見るよりも明らかであり、『友情と恋の駆け引きは別』を絵に描いたような箒は幼馴染、セシリアは専用機持ち同士という夫々のアドバンテージを最大限に使用した秋五を巡る平和的な恋のバトルはある意味で一年一組の名物となっていたりするのだが、その当事者である秋五は二人と一緒に居る事に心地良さを感じている一方で何処か一歩踏み出せていない感じがしたのだ。
「気付いていても其れに応えてしまったら今の関係を続ける事は出来なくなる、そう考えてお前は一歩踏み出す事が出来ない、そんな所か?」
「ハハ、其処まで見事に言い当てられると言い訳も出来ないよ。
箒とセシリアが僕に恋愛感情を持ってるってのは普段の様子を見ればそう言った事に疎い僕だって分かるさ……と言うかアレで自分にどんな感情が向けられてないか気付かないとか、其れはもう鈍感とか朴念仁を通り越して精神病を疑っても良いレベルかもだよ。
でも、だから僕には何方か一方を選ぶ事が出来ないんだ……優柔不断と言われたら其れまでだけど、僕がどちらか一方を選んでしまった事で此の関係が壊れてしまうんじゃないかって思うとね――何より、僕が何方かを選んだ事で箒とセシリアの友情も壊れてしまったら、其れが僕には耐えられないんだ……何時までも答えを出さないままではいられないって言う事は分かってるんだけどね。」
「成程な……だったら簡単な話だ、どっちも選ばずに両方と付き合っちまえ。現実に、俺は二人どころか七人と付き合ってるからな。」
「え?」
だが、此処で夏月が爆弾を投下し、その爆弾のダイレクトアタックを喰らった秋五は思わず目が点になってしまった――『両方と付き合ってしまえ』と言うのも一般論としては有り得ない事なのだが、其れを言った当人は『七人と交際している』と言うのだから驚くなと言うのがそもそも無理と言う話であろう。
「七人って……」
「楯無さんと簪とロラン、其れから鈴と乱、ヴィシュヌとグリ先輩だな。別に七股掛けてる訳じゃなくで、此れは七人全員が納得してる事だから其処間違えんなよ?」
「だとしても、全員と交際って言うのは流石に倫理観が……」
「普通はな……だが、俺とお前に限っては複数の女性と交際する事が合法的に認められるようになるんだよ、GWが明けた頃に『男性操縦者重婚法』が新たに国際法として可決される事でな。」
「男性操縦者重婚法!?」
此処で二発目の爆弾投下。
秋五にとっては俄かには信じられない情報ではあったが、情報のソースの大元が束である事を明かされると其れはもう信じるしかなかった……束の言う事ならば間違いないと言う事は子供の頃から秋五も身を持って体験している事だったのだから。
その後夏月から『合法的に複数の女性と交際してOKってんなら箒かセシリアの何方かを選ぶ必要はないよな?問題となるのはお前達が其れを受け入れる事が出来るかって事だが……果たしてたった一人の女性しか愛してはいけないって誰が決めたんだろうな?自然界に目を向ければ、寧ろ一夫一妻の方がレアケースってモノなんだぜ?』と半ば強引な力技とも言える事を言われて覚悟を決めたらしく、『男性操縦者重婚法が制定されたら、僕は箒とセシリアの思いに応えるよ。僕も箒とセシリアの事は好きだからね。』と返していた……如何やら熱烈なアプローチを受けている内に、秋五自身も箒とセシリアに対して同じ位の恋愛感情を持ってしまっていたらしい――だからこそ余計に何方も選べない状態になっていたのだろうが。
そんな事を話している内にグリフィンとセシリアの試合は終わり、最終セットまでもつれ込んだ結果、セシリアがデュースの末に二連続でサービスエースを決めると言う劇的な勝利を収めていた。
テニスを堪能した後、夏月が秋五に予定を聞くと『午前中は此処で思い切り遊ぶ予定』との事だったので、此処であったのも何かの縁と午前中はダブルデートと洒落込む事にした。
更衣室で着替えた一行は自販機で飲み物を購入してクールダウンすると、其処からボーリング、バッティングセンター、ストラックアウト、ビリヤード等様々なスポーツを心行くまで堪能した。
ボーリングでは夫々が本名ではなくちょっと遊んだ名前で登録し、グリフィンが『ブラジリイヤ~ン柔術師範』、秋五が『オータムファイブ~正義の味方~~』、セシリアがまさかの『背師利亜尾琉故津斗』とどこぞの暴走族の様なネームだったのだが、其れ以上に夏月の『DQNヒルデバスターK』と言うのが中々のインパクトだった。
『ブリュンヒルデ』とはつまり織斑千冬の代名詞であり、世界的にも知られているのだが、其れを捩った『DQNヒルデ』と言うのは可成りのインパクトがあり他の客が注目してしまったのも仕方あるまい。
そのボーリングはストライクあり、ガーターありのゲームで全員が楽しめた……そんな中で夏月が『ボーリング玉がレーンを転がらずに空中を飛んでピンを粉砕する』と言うトンデモプレイをした事以外では特に問題は無かった。果たして如何やって投げたらあのボーリングの重い球が空中をカッ飛んで行くのかと言うのは深く追及してはイケナイ事なのだろうが。
バッティングセンターでは速度設定が『昭和の怪物』、『平成の怪物』、『令和の怪物』が分かれていたのだが、此処で『平成の怪物』に関しては意見が分かれる事になった。
昭和の怪物はプロ野球の投手のタイトルである『沢村賞』が誕生する切っ掛けとなった昭和の大投手『沢村栄治』であり、令和の怪物はアメリカ大リーグで投打の二刀流で活躍している大谷翔平で間違いないのだが、平成の怪物は『ダルビッシュ有』なのか、それとも『松坂大輔』で意見が分かれた……最終的には現在も大リーグで其れなりの活躍をしているダルビッシュが平成の怪物となったのだった。
そのバッティングセンターでは、夏月が『令和の怪物』を上級コースで、秋五が『昭和の怪物』の上級コースを選んで、十球中八本をホームランすると言う凄まじい事をやってくれた――『昭和の怪物って、今では大した事なくね?』と思うかも知れないが、沢村栄治は昭和の、其れも戦前の時代の今と比べてトレーニング器具も発達しておらず、科学的なスポーツトレーニングも確立していなかった時代に於いて最高速度が150kmを越えていたというのだから正に怪物と言えるだろう。
その怪物の剛速球を八本もホームランした秋五も中々だが。
バッティングセンター後のストラックアウトでは全員が見事にパネルを打ち抜いて賞品をゲットし、ビリヤードではセシリアが見事な腕前を披露して、ブレイクショットでナインボールを落とすと言う凄技を見せてくれた。
ビリヤードを終えた頃にはそろそろランチに良い時間になっていたので、施設内のスーパー銭湯で汗を流した後、着替えて今度はランチタイムだ。(テニス後もレンタルしたテニスウェアを使っていたので着て来た服は下着を除いて無事であり、下着も替えを持って来ていたので問題無しである。)
施設内には様々な飲食店が存在しているので目移りしてしまうが、此処は『何処が良い?』との問いに、只一人明確に『お肉~~!』と答えたグリフィンのリクエストによって焼き肉屋に。
セシリアも焼き肉屋は初体験だったみたいなので、此れはある意味で良いチョイスだっただろう。
注文は当然の如く食べ放題の最上級プランである『食べ放題プレミアム』なのだが、ドリンクバーを付けても一人頭四千五百円未満で、国産牛の希少部位も食べ放題と言うのは可成りリーズナブルであると言えるだろう。
そして、食べ放題プレミアム+ドリンクバーを四人前注文した後は、其処からは怒涛の注文ラッシュだ。
先ずは『国産厚切り牛タン』の塩を八人前注文し、其れを皮切りに『厚切り豚カルビ』、『超厚切りハラミ』、『厚切りジューシーカルビ』、『厚切りミスジ』、『やみつきトロてっちゃん』、『上赤センマイ』等を注文し、食べ放題の焼き肉を堪能して行く。
「この大きなお肉はどうやって食べますの?ナイフもフォークもありませんわよ?」
「此れは、ハサミで切ってから食べるんだよ。」
「其れが普通の食べ方なんだが……」
「いっただきま~す!!」
「まぁ、グリ先輩ならそうなるよな。」
「普通なら『下品』と言う所なのですが、此処まで豪快な食べっぷりになってきますと逆に尊敬の念すら覚えますわね……と言うか何故に一口で行けますの?」
「そりゃグリ先輩だからな。」
「其れで納得出来るから不思議だよね……」
そんな中で、グリフィンはハサミでカットして食べるのが普通な大きさの肉を見事なまでに切らずに一口で食していた……推定100gはあるだろうと思われる肉の塊を一口で食してしまうとは、グリフィン・レッドラム恐るべし。彼女ならば、150gのステーキも一口で平らげる事が出来るだろう――グリフィンの事を『リアルジャック・ハンマー』と称しても決して罰は当たらないだろう。
さて、食べ放題のメニューは焼き肉だけでなくサイドメニューも豊富であり、焼き肉のお供であるキムチやナムルにチョレギサラダは勿論の事、『焼肉屋さんの牛筋煮込み』、『ローストビーフ』、『ヤゲンナンコツの唐揚げ』、『ガリバタコーン』と言ったバラエティに富んだ内容になっており、肉以外の焼きメニューとしては長ネギ、玉ネギ、トウモロコシと言った野菜類の他に、『有頭エビ』、『イカの姿焼き』、『殻つき天然ホタテ』等の海鮮も豊富に用意されているので飽きる事無く食べ放題を楽しめるのである。
そして食べ放題にプラスしたドリンクバーも楽しみの要素の一つであると言えるだろう。
最近のドリンクバーは、例えばコーラでも普通のコーラだけでなくオレンジやメロンのフレーバーが入ったモノが用意されており、ドリンクバーの楽しみである『ミックスドリンク』が最初から用意されている訳なのだが、其れを踏まえても更なるミックスドリンクを作り上げるのも楽しみなのである。
「夏月、其れってコーラ?なんか濁ってるような気がするんだけど……」
「コーラにカルピスソーダを混ぜたカルピスコーラってところだなコイツは。
本当はエナドリ混ぜたかったんだけど、此処のドリンクバーには無かったからカルピスで妥協した訳だがな……次は午後ティーにカルピスウォーターぶち込んでみるか。」
「其れは一風変わったミルクティーのようになるのでしょうか?」
「ジンジャーエールの辛口にコーラを混ぜたらなんか懐かしい味になったんだけど、記憶掘り返してみたら昔風邪引いた時に孤児院のママ先生が作ってくれた『コーラにレモン汁とショウガ汁を加えて温めたモノ』に似てるんだ此れ。」
そのミックスドリンク制作ではグリフィンが何やら懐かしい味を偶然再現している様だった。
その後も食は進み、主に夏月とグリフィンが持ち前の食べっぷりを遺憾なく発揮して冗談抜きで食べ放題の元を完全に取る位に食べていた――午前中に『此れでもか』と言う位に思い切り身体を動かした事で余計に食欲が増進されているようだ。
そして、ラストオーダーの九十分が近付いて来た所で〆のご飯or麺物のオーダーとなり、夏月は此の店一押しの『ダブルカルビ(牛カルビと豚カルビ)石焼風ビビンバ』、グリフィンは『旨辛カルビラーメン』、秋五が『石焼風カルビガリバタライス』、セシリアが焼き肉の〆の王道とも言える『冷麺』をオーダーした。
セシリアは初めて食べる冷麺に『麺を冷たくして食べると言うのは初めての体験でしたが、実に美味しいモノですわね』と感激していた――後日談として、ゴールデンウィークが明けた後の学園の学食では所謂『冷たい麵』をオーダーするセシリアの姿が見られるようになるのだった。
ご飯物を粗方食べたところでラストオーダーとなるデザートを注文したのだが、此れはまさかの全員一致で『濃厚クリームブリュレ』だった……夏月は簪とのデートで入ったメイドレストランの時みたいに目の前でガスバーナーで裏百八式・大蛇薙されるのではないかと思っていたのだが、出て来たのは調理場で最終工程まで終えたクリームブリュレだった――流石に焼き肉店では其処までのインパクトは求めていなかったのだろう。
デザートも完食して『ごちそうさま』した後の会計は、夏月と秋五が夫々半額ずつ出し合っての会計となった。
グリフィンとセシリアは自分の分は自分で払う心算だったのだが、『此処はカッコ付けさせろって。』、『こう言う時は男性の方が払うモノでしょ?』と言われると、あまり食い下がるのも逆に失礼になると思ってこの場は甘える事にした様である。
ランチ後に秋五とセシリアの予定を聞くと、『午後は映画を見た後にウィンドウショッピングをする』との事だったので、秋五とセシリアとは此処でお別れとなり夏月とグリフィンは再びレンタルのスポーツウェアを借りて午後も思い切りスポーツを楽しむ事にした。
午後の部の一発目はスポーツクライミングが楽しめる施設で、初心者用の緩い坂から、超上級者用の傾斜角が百度に達しているウォールまで様々なクライムウォールが用意されている場所だ。
夏月もグリフィンもフリークライミングの経験はないので先ずは初心者用からスタートしたのだが、其れをあっと言う間にクリアしてしまい、中級者用もこれまた余裕でクリアして上級者用にトライし、其れも余裕のよっちゃんイカでクリアして、超上級者用の傾斜角百度にチャレンジ!
流石に逆に反っているウォールには少しばかり苦戦したモノの、其れでもミスする事なくクリアしてしまったのだからマッタク持って驚くべき身体能力であると言わざるを得ないだろう――人造強化人間である夏月は兎も角、其れとタメ張れる身体能力を有している夏月の嫁ズも中々にぶっ飛んだ存在であるのかもしれない。
フリークライミングを堪能した後は、パンチングマシーンや腕相撲マシーンをプレイし、パンチングマシーンではグリフィンがまさかの一発500㎏を叩き出し、腕相撲マシーンでは夏月がマシーンの方が最高の力を出す『横綱コース』を選択した上でマシーンの腕をぶち折ると言うトンデモナイ事をしてくれた……マシーンを壊したとなれば当然弁償モノなのだが、夏月は『弁償代はムーンラビットインダストリーに請求しといて』と弁償を束に丸投げしていた。
まぁ、夏月は公には『東雲珠音』が社長を務める『ムーンラビットインダストリー』の専属パイロットと言う事になっているので、会社に弁償を丸投げしても別にオカシイ事ではないのだが、実際には束に全額請求が行くので束からしたら割と冗談ではない話だったりするのだ――それでも、『今度お詫びに束さんが大好きなキャラメルプリン作ってやるから』と夏月に言われた事で色々と納得してしまうのだから世紀の大天才も割と中々にチョロいと言うか大衆的と言うか、兎に角一般ピープルと其れほど大きな違いはない部分があるのだろう。
その後はジムでのフィジカルトレーニング、屋内プールでの水泳を楽しみ、本日最後の種目として選んだのはバスケットボールだ。
夏月とグリフィンはハーフコートでのワンonワンをする心算でバスケットコートにやって来たのだが、フルコートで試合を行おうとしていたチームが何やら揉めているようだった。
見たところ高校生同士の練習試合と言ったところの様だが……
「練習試合当日に欠員が出たって、其れはもっと早く言えよ!如何すんの此れ?」
「控えの選手で埋めれば良いと思ってたんだが、まさかの控えが全員『どうせ出番はないだろう』ってゴールデンウィーク中に彼女とのデートやら旅行を入れてるとは思わなかったんだよ……でも、こうなった以上は試合をするしかあるまい!」
「ハンデ戦で納得出来るかぁ!」
「ですよねー!」
如何やら一方の高校のレギュラー陣のうち二人が怪我で欠場となり、更には控えのメンバーも全員がゴールデンウィークの予定を消化中であり試合に来る事が出来なかったのだ……キャプテンはギリギリまで交渉を続けたのだが、結局は欠員を埋める事は出来なかったみたいである。
此のままでは練習試合其の物がおじゃんになり兼ねないのだが――
「な~んか、お困りみたいだな?」
「私達で良ければ力を貸そうか?」
此処で夏月とグリフィンが声を掛け、メンバーが足りなかった高校のキャプテンは、『天の助け』とばかりに夏月とグリフィンに助っ人をお願いしてなんとか練習試合を行う事が出来るようになった。
助っ人である夏月とグリフィンに任されたポジションは、夏月がシューティングガード、グリフィンがパワーフォワードだったのだが、二人ともその役目を十分に果たし、グリフィンはインでの攻防で圧倒的な強さを見せ、攻める時は強引なレイアップやダンクを決め、守る時はキッチリとブロックとリバウンドを決め、夏月はアウトからのスリーポイントだけでなくグリフィンからのロングパスからアリウープの大技を決める活躍を見せてチームの勝利に貢献した。
因みにこの試合での成績は、夏月が三十得点、十アシスト、七スティールで、グリフィンが二十得点、五アシスト、十ブロック、十五リバウンドと言う堂々たるモノであった。
試合後、助っ人を務めたチームのキャプテンからはメッチャ感謝され『何かお礼をさせてくれ』と言われたので、其処はドリンク一本で手を打って貰い、夏月は『モンスターエナジー・パンチラインアウト』を、グリフィンは『スパークリングアクエリアス』を奢って貰った。
試合後、再びスーパー銭湯で汗を流した夏月とグリフィンは施設を後にして夕食を摂るために何処に入るかを探していたのだが、此処でまさかの例のアクセサリーを扱っている露店商とエンカウント!
「おぉっと、またまた会ったな兄ちゃん?今日は褐色肌と青髪が印象的な美人さんとデートかい?てか、此れで四日連続か……ここまで来ると運命を感じるな?」
「運命ね……そうかもな。」
でもって夏月はグリフィンとお揃いのアクセサリーを購入し、其処にはバッチリとそれぞれの名前を刻んで貰った――此れもまた初デートの記念となるのだろう。
そして、夕食としてグリフィンが選んだのはまさかの『回転寿司』だった。
『お寿司って一度食べてみたかったんだよね』とのグリフィンの意見は分からなくはないが、其れなら其れで夏月は『回らない本物の寿司を味わって欲しかった』と思うのは仕方あるまい――『回転寿司』とは今や『寿司がメインのファミリーレストラン』と化しており伝統的な江戸前の握り寿司とは全く異なるモノになっているのだから。
だとしても回転寿司はその敷居の低さが魅力であり、寿司初体験の日本国訪問中の外国人にとっては良い場所であると言えるのだ。
なので夏月とグリフィンは回転寿司を堪能したのだが、『寿司の文化を間違って覚えられたら堪らない』と考えた夏月が、『焼き肉』、『ハンバーグ』、『トンカツ』と言った邪道なメニューは悉くキャンセルさせ、精々『焙り○○』に止めていた――尤も、其れが功を奏して『炙り大トロ』を食したグリフィンは『レアのステーキより美味しい』と感激していたが。
そんな訳で回転寿司でのディナータイムも終わり、夏月とグリフィンはIS学園島に向かうモノレールの駅までやって来ていた。
「こんだけ思いっ切り身体を動かしたのってのは大分久しぶりな気がするけど、其れだけにメッチャ楽しめたぜグリ先輩……今度は、屋内プールでレンタルじゃないグリ先輩の水着姿を拝みたいけどな。」
「其れは、夏休みのお楽しみって事で。今日は楽しかったよカゲ君……大好きだ。」
その駅構内でグリフィンは夏月の頬にキスをする……乙女協定のバトルによって夏月のファーストキスを貰う権利があるのはヴィシュヌなので、頬や額へのキスがヴィシュヌ以外の嫁ズに出来る現状での精一杯なのだ――其れを踏まえると、ヴィシュヌとのデート後にデートが予定されているロランと楯無はその精一杯を越える事も出来るのだが、其れはくじ運と言う事で納得するしかないだろう。
其れは其れとして、実はこの時ホームの端ではセシリアが秋五に頬にキスをしてアピールをしていたりした……まさかの事に秋五は暫しフリーズしてしまったモノのすぐさま再起動して、『うん、君の気持ちは確かに受け取ったよ』と返してそのスマイルで更にセシリアのハートを打ち抜いていたのだから中々の恋の曲者であると言えるかもしれない――この分だと、ゴールデンウィークの最終日に予定している箒とのデートもタダでは終わらないのかもしれない。
―――――――
学園に戻って来た夏月は直ぐに自室に戻ったのだが、其処で待っていたのはロランからの『格ゲー勝負』だった。
予想外の展開だったが夏月は其れを受け入れたのだが、結果は夏月の全勝だった――CPUの難易度を最高設定にして自主トレーニングを行っていたロランのレベルは確かに上がっていたのだが、夏月の場合はそもそもにして格ゲーと遊戯王に関してはレベルが打っ飛んでいるので、多少レベルアップした程度ではマッタク持って勝負にならなかったのだ。
「今日一日トレーニングをしていたのだが、其れでも全く持って歯が立たないとは……君は矢張りトンデモナイ存在であるみたいだね夏月?」
「格ゲーと遊戯王に関しては年季が違うんだよロラン……高々一日程度のトレーニングで俺を超える事が出来ると思うなってんだ……つか、大門が居るKOFとザンギエフが居るストリートファイターでは負ける気がしねぇんだわ。」
「君の大門とザンギエフには勝てる気がしないよ。」
その後もゲームを深夜まで楽しんだ後に、就寝となったのだが――
「何で居るし。」
「同室の特権はトコトン生かすべきだとは思わないかい夏月?今日もご一緒させて貰うよ。」
「さよか、まぁ好きにしてくれ。」
ベッドの上にはタンクトップとスパッツ姿のロランが。
ロランの抜群のプロポーションでのこの格好は可成りの破壊力があり、並の野郎だったら『ルパンダイブ』案件なのだが、夏月は特に興奮する事もなく一緒のベッドにイン!――するだけでなく、ごく自然に腕枕をしているんだから、此れが楯無に『初めて』を捧げた暁にはどうなるのか全く持って分かったモノではないだろう。
取り敢えず、夏月とロランの絆はデート前でも普通に強化されているみたいだ――其れと同じ位に、夏月とグリフィンの絆も此の日のデートで強化されたのは間違いないだろう。
――――――
同じ頃、グリフィンの部屋では……
「ん~~、カゲ君大好き~~!!」
「其れは分かった!分かったからオレに手加減なしの卍固めをかますんじゃねぇっての!!ソロソロ俺は限界だぜ!!」
「えい♪」
「アントニオ猪木!」
夏月へのラブ力が限界突破したグリフィンがそのラブ力を消費する為に何故かダリルに『元祖卍固め』を極め、グイグイ締め上げた後にグラウンド卍固めに移行して更に締め上げ、その結果としてダリルは謎の断末魔と共にKOされたのだった。
世界最強と称される『グレイシー一族』の強さを支えている『ブラジリアン柔術』の黒帯であるグリフィンの前では亡国機業のエージェントであるダリルも苦戦する相手では無かったようだ――ダリルの実力は二年生で三番目の実力者なのだが、グリフィンはナンバーツーなのでこの結果はある意味では順当な結果だったと言えるだろう。
だが、其れは其れとしてこのデートで夏月とグリフィンの距離が今までよりもグッと縮まったのは確かな事だと言えるだろう――ゴールデンウィークは残り三日だが、その三日で夏月と嫁ズの絆がより強固になると言うのは確定事項と言っても過言では無い。
其れはつまり、夏月と嫁ズの間にある『愛』は本物であると言う事なのだろう――ゴールデンウィークは残り三日、その三日のデートが如何なるモノになるのか、其れは神のみが知ると言う所なのだろうが、少なくとも全てのデートが良い結果に終わる事だけは確かな事であると言えそうである。
To Be Continued 
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