ゴールデンウィーク三日目。
本日は夏月は乱とのデートなのだが、其れとは別に早朝のトレーニングは欠かさず、そしてトレーニング後は朝食の準備に取り掛かり、寝起きのシャワータイムを終えたロランとの朝食と言うのは最早休日のお決まりとなっていた。
因みに本日の朝食メニューは発芽玄米ご飯にそぼろ納豆、洋風冷奴(長ネギの代わりに玉ねぎの微塵切りをトッピングしてオリーブオイルと醤油を掛けた)、鯖の味醂干しのグリル焼き、長ネギとワカメと油揚げとなめこの味噌汁と言うラインナップだった。
でもって、朝食タイムを終えた夏月は着替えてモノレールの駅に。
待ち合わせ時間の十五分前にモノレールの駅にやって来た夏月だが、待っている間はスマホのゲームをプレイして時間を潰していた……スマホゲームの『遊戯王マスターデュエル』で、十五分の間に『青眼デッキ』で十連勝を達成した夏月はデュエリストとしても可成り高い腕前である事が分かると言うモノだ。
「お待たせ、夏月。」
「マスターデュエルで時間潰せたから、あんまり待ったって自覚はねぇな。」
待ち合わせ時間の五分前に乱がモノレールの駅に現れたのだが、夏月はマスターデュエルでのデュエルに夢中だった事で、『待った』とは思っていなかったようである……其れだけ集中出来ると言うのは、ある意味で凄い事ではあるのだが。
そんな夏月と乱の本日のファッションコーディネートはと言うと、夏月はブルージーンズに黒いTシャツを合わせ、其処に白のレザー製の半袖ジャケットを纏い、腰にはシルバー製のチェーンが装着されている――そして、其れだけでなく白いレザー製の半袖ジャケットの背には、赤で『滅』の一文字が刻印されていて、なんともインパクトがある物になっている
一方の乱は、七分丈のホワイトジーンズに薄紅色のタートルネックの袖なしシャツ、少し厚底のブルーのお洒落サンダルと言うコーディネートだ。髪を纏めているリボンも普段使っているモノとは違い、ラメ入りのキラキラとしたモノになってる。結構気合を入れて来たようだ。
「マスターデュエルやってたの?ドンくらい勝てた?」
「青眼デッキで十連勝中。流行りの強カテゴリー頼みのプレイヤーなんぞ俺の敵じゃございませ~ん。『ふわんだりぃず』を白石コストの目覚めの旋律から混沌龍、カオスMAX、究極亜竜の鬼展開で粉砕!玉砕!!大喝采!!!してやったわ!!」
「相変わらず遊戯王も鬼のように強いわねアンタは……まぁ、其れは良いわ。其れじゃあ早速行きましょうか?」
「オウよ。んで、今日は何処に行くんだ?」
「其れは目的地に着いてのお楽しみって事で。」
そしてGW三日目、乱とのデートが始まった。
学園島からモノレールで本土に行くと、上野駅まで移動して往復の特急券を購入し下りの特急列車『トキワ』に乗って一時間ほどで茨城県の水戸駅に到着。
往復の特急券を買った時に降車駅は水戸駅だと言う事は分かっていたので、夏月は今日の目的地は此処かと思ったのだが、一度改札を出ると券売機で新たな切符を買って、今度は鹿島臨海鉄道の大洗鹿島線に乗り換えて海方面を目指す。
「此処が、今日のデート場所?」
「そうよ!」
鉄道(大洗鹿島線は電車ではなくディーゼルエンジン)に揺られる事十五分程、到着したのは茨城県の大洗町であった。
夏の月が進む世界 Episode24
『ゴールデンウィーク三日目~乱の音と聖地巡礼~』
降車した夏月と乱は階段を下りて駅の中に入ったのだが、其処でイキナリ凄いモノを見つけてしまった。
其れは階段を下りた先の開けた空間の壁に、『祝!大洗女子学園全国大会優勝!!』の横断幕が飾られていたからだ。其れも壁を覆い尽くさんばかりの勢いで。
「なんだ此れ?大洗女子学園って学校が何かの大会で全国制覇したのか?」
「違うわよ。
そもそもにして大洗女子学園って学校は実在してなくて、此れってアニメの話なの。此の大洗って、あるアニメの舞台になってて、アニメで町興しを成功させた場所なのよ。」
「アニメの……って事は今日のデートってもしかして……」
「所謂『聖地巡礼』ってやつよ。一度やってみたかったのよね此れ。」
だが、其れは如何やらアニメの世界の話であったらしく、此の大洗はアニメで町興しを成功させた町でもあり、乱は所謂『聖地巡礼』をやってみたくてデートの場所を此処に決めたらしい。
聖地巡礼となれば他にも色々な場所があるだろうが日帰りで行けて充分楽しむ時間がある場所となると大洗以外には無かったのだ……他にも日帰りで行ける場所はあったのだが、日帰り出来るだけで楽しむ時間が充分にあるかと言われたら正直微妙だったのである。
「でも、其れなら羽田から茨城空港に行ってバスに乗った方が移動時間短かったんじゃねぇの?金は掛かるけど。」
「アタシもそう思ったんだけど、ネットで調べてみたら大洗鹿島線で大洗駅まで来て、歩いて大洗の町を散策するのが大洗の正しい聖地巡礼のやり方みたいなの。
だから、アタシも其れに倣おうかなって。」
「聖地巡礼は正しい方法でって、簪もそんな事言ってたっけか。そう言えば、GW中だけどなんかイベントやってんの?」
「勿論やってるわよ、アニメの関連イベントを。
そして夏月、アンタ割とプロレス好きだったわよね?」
「まぁ、好きだけどそれが如何した?」
「今日のイベントにはね、プロレスラーの蝶野正洋さんが来るのよ!因みに蝶野さんは茨城県の観光大使である上に、大洗を舞台にしたアニメの大ファンだったりもするのよね!」
「マジか!?其れは期待出来るな!」
GW三日目の本日はアニメ関連のイベントがあるらしく、そのイベントにプロレスラーの蝶野正洋が来る事を聞いた夏月は一気にテンションが上がったようだ……夏月は実はプロレスが大好きで、特に『闘魂三銃士』と呼ばれた世代はぶっちぎって大ファンだったので、その闘魂三銃士の一人である蝶野正洋がイベントにやって来ると聞けばテンションが上がるの致し方ないだろう。
駅から出た二人は、乱の『先ずは軽く聖地グルメを頂きましょうか?』との提案で駅近くのパン屋に入り、其処で『ガルパン』なる総菜パンを購入した。
コッペパンに焼きそば、ソーセージ、コロッケの『総菜パン三種の神器』をトッピングした最強の総菜パンは味も良く、夏月と乱は其れを食べながら移動し、やって来たのは大型の観光施設『大洗シーサイドステーション』だった。
複数のショップや食堂、レストランが入った所謂『ショッピングモール』なのだが、その外観は中々にインパクトのあるモノとなっていた。
「建物に描かれてるのって、アニメのキャラか?」
「そうよ♪」
道路に面した建物にはアニメのキャラがデカデカと描かれていたのだ――アニメで町興しに成功したと言うだけの事はあるだろうが、駐車場を外から見た夏月は驚く事になった。
駐車してある車の中にアニメのキャラのラッピングをしている車、所謂『痛車』があるのはアニメの聖地である事を考えれば別にオカシイ事ではないのだが……
「何で戦車があるし。」
其の駐車場には先の大戦で使われていたドイツ製の『Ⅳ号戦車H型』が停車していたからだ。勿論本物ではなく、本物そっくりに作られたレプリカであるが。
「此れも、此処が舞台のアニメで登場したモノだからよ。」
「戦車が登場して、しかも大洗女子学園って架空の学校が全国大会制覇するってどんなアニメだよ其れ?」
「ガールズ&パンツァー、通称『ガルパン』って言うんだけど、簡単に説明すると廃校の危機に直面した大洗女子学園が、廃校を回避する為に『戦車道』って言う戦車を使った架空の武術の全国大会で優勝を目指すって所かしら?
で、此のⅣ号戦車は所謂『主役メカ』って訳。このH型は二度の回収を経て辿り着いた主役メカの最終形態って所ね。」
「話を聞いただけじゃイマイチ分からないから、今度簪に聞いてみるか……んで、DVDかブルーレイ持ってたら貸して貰おう。」
だが其れもまたアニメの影響らしかった……先程購入したガルパンが何処となく戦車っぽかったのと、予備知識なしの初見だと意味不明な商品名も、此れで納得出来たと言う所だ。
そして本日のイベントは此の『大洗シーサイドステーション』とすぐ隣の『大洗マリンタワー前広場』がメイン会場となっており、夏月と乱は特設ステージにより近いマリンタワー前広場に移動してイベントの開始を待つ――会場にはガルパンキャラのコスプレをしたレイヤーさんも居たので、其れを撮影するのも忘れずにだ。
『せーので、パンツァーフォー!』
イベントが始まり、先ずはアニメキャラの担当声優による歌が披露され、その後に主役担当の声優が挨拶をすると其れだけで会場は大盛り上がりとなり、会場のテンションは一気にギガマックスに限界突破だ。
其処からは声優さん達によるトークイベントが行われたのだが、そのトークイベントの最中、突如として鳴り響いた『クラッシュ』のBGMと共に登場したのは、『黒のカリスマ』としてプロレス界のみならず芸能界にまで多大な影響を与えている蝶野正洋、その人だった。
「ガッデーム!!」
「何で登場早々キレてんのよ……」
「其れが蝶野さんのキャラだからな。」
蝶野の登場でトークイベントは更に盛り上がったのだが、そのトークイベントだけでは終わらない――其れはイベント会場に特設リングが設営されているからだ。
トークイベントが終わったその後は、その特設リングにて蝶野正洋と大洗の御当地レスラー『オオアライダー』がタッグを組んで、茨城県の御当地ヒーロー『イバライガー』の宿敵である悪の秘密結社『ジャアク』の幹部である『ダマクラカスン』と手下の『青い人』とのタッグマッチが行われ、試合はヒールチームの極悪反則殺法を喰らった蝶野・オオアライダー組が窮地に追い込まれたが、ギリギリの土壇場で蝶野が青い人にカウンターのケンカキックをブチかまし、更にダマクラカスンにブレーンバスターをかました後にシャイニングケンカキックを叩き込んでSTFを極めると、オオアライダーが青い人をコーナーに振って側転エルボーを叩き込み、其処からフェースクラシャーに繋いでトドメはトップロープからのムーンサルトプレス一閃!そしてそのまま方エビ固めでピンフォールを奪い、見事に蝶野・オオアライダーのタッグが極悪ヒールチームを退けたのだった。
その後はサイン会が行われ、夏月と乱も主役の『あんこうチーム』のメンバーを担当している声優陣と蝶野から特製の色紙にサインを貰っていた。
「お前さん、世界初の男性IS操縦者だったよな?……色々と大変な事もあるだろうが、絶対に負けんじゃねぇぞオラァ!ガッデメファッキン、アー!!」
「御託は要らねぇ……俺だけ見てりゃいいんだ、ってか?」
「分かってんじゃねぇかオラァ!!」
そこで夏月は蝶野から『黒のカリスマイズム』を継承していたみたいだった――夏月は根っからのダークヒーローなので、黒のカリスマの後継者としては此れ以上の人材は居るまいな。
こうして夏月が二代目黒のカリスマに就任した後は、特設ステージ上で主役チームの担当声優と蝶野による『パンツァーフォー』の掛け声が行われ、会場も其れに合わせて『パンツァーフォー』を叫んだのでその一体感はハンパないモノであると言えるだろう。
で、イベントが終わると良い感じでランチタイムの時間となっていた。
この大洗シーサイドステーションには浜焼きが味わえるバーベキュー店や、地魚が味わえる寿司店等がテナントを展開しているのだが、乱が本日ランチに選んだ店は『トンカツレストランCook
Fan大洗出張所』だった。
「トンカツって、此れは此処じゃなくても食えるだろ?」
「そう思うでしょ?だけど、実は此処には『聖地巡礼グルメ』がある訳よ。」
まさかのトンカツ屋だったが、店内に入ってメニューを見た夏月は乱の言った事に合点が行った――メニューのトップには戦車の形を模した『ガルパンカツ』が堂々と掲載されていたのだから。
ガルパンカツには食べ切りサイズの一人前用と、二~三人前の『リアルサイズ』が存在しており、夏月は迷わず『リアルサイズ』を注文し、乱は食べ切りサイズを注文した。
そして注文からおよそ十五分後、注文したメニューが運ばれて来たのだが、夏月がオーダーした『ガルパンカツ・リアルサイズ』のインパクトはハンパなモノではなかった――アスパラとコロッケで回転砲塔を、リッツクラッカーで転輪を再現してるのは食べ切りサイズと同じなのだが、本体であるトンカツのデカさが食べ切りサイズとは比較出来ない位にデカかったのだ……夏月ならば余裕で食べ切るだろうが。
「実際に見るとインパクトハンパねぇな此れ……何となくだけど、グリ先輩だったら『要予約』って書いてあったマウスカツ(約八人前)も余裕で一人で平らげちまう気がするんだが、そう思うのは俺だけでしょうかね乱さんや?」
「いやぁ、グリ姐ならマウスカツ三つくらい余裕で行けるでしょ?こう言っちゃなんだけど、グリ姐はやろうと思えば学食のメニュー一周出来ると思ってるわアタシは。」
「あぁ、出来そうだな確かに……俺も大概食う方だけどグリ先輩には勝てる気がしねぇ。」
「あの人の胃袋は多分ブラックホールだからね……ま、其れは良いとして出来立ての熱いうちに食べましょ!頂きます!」
「頂きます!……ん?」
いざ食べようとしたところで夏月がテーブルの隅に割り箸や紙ナプキンとは異なるモノが置かれているのに気付いた。
其れは大きさ的にはメモ帳程度の大きさの紙なのだが、夏月が一枚手に持っていると其処には『ソースとすりゴマの相性が良いのは勿論分かっていますが、色々な調味料を用意してみましたので、あなたのおススメのカツの食べ方を教えてください!』と書かれていた。
言われてみると、テーブルにはソースと野菜用のドレッシングの他に、醤油、岩塩、チリパウダー、ガーリックパウダー、カレーパウダー、粗挽きコショウ、柚子七味唐辛子、花椒パウダー、五香粉などなど様々な調味料とスパイスが存在していた。
「ふむ……色々試してみるか。」
夏月はそう言うと、特大トンカツの半分にソースを、もう半分に醤油を掛けると、ソースを掛けた方のカツには一切れずつ、チリパウダー&ガーリックパウダー、カレーパウダー、粗挽きコショウを振り掛け、醤油を掛けた方のカツには一切れずつ柚子七味唐辛子、チリパウダー&五香紛、花椒パウダー&ガーリックパウダーを振り掛けて改めて食事開始!
「一切れずつ違う味ってのも面白そうね?アタシもやろうっと!」
乱も夏月の真似をして一切れずつ異なるスパイスを振り掛けて食べる事にしたみたいだが、乱の場合は既に擂り胡麻とソースを掛けていたので醤油をかける事は出来なかったが、乱はガーリックパウダー&カレーパウダー、粗挽きコショウ&チリパウダー、チリパウダー&ガーリックパウダー、チリパウダー&花椒パウダーと言った中々パンチのある組み合わせをやっていた。
サクッと揚がったカツは絶品でご飯とよく合い、小鉢の漬け物と付け合わせの味噌汁も美味しく食が進み、夏月はおかわり自由なご飯を三杯もおかわりし、おかわり用のご飯が入っている炊飯器の横には『本日のご飯のお供』として生卵が置かれていたので、当然の如く卵掛けご飯も頂いた。その卵掛けご飯も、普通に醤油だけでなく、トンカツ用のトッピングとして置かれていたスパイス類を加えて卵掛けご飯の新たな世界を切り拓いていたのが夏月らしいと言えるが。
「衣はサクサクで肉はジューシーで柔らかい……此処のトンカツは若しかしたら俺が今まで食べたトンカツの中で一番美味いかもしれない。」
「此処は食肉店『ニュークイック』と親会社が同じだから、食材が中間マージョン無しで仕入れられるらしくて、割と良い肉が比較的安い値で仕入れる事が出来てるんだって。
アンタが注文したガルパンカツのリアルサイズ、他の店で注文したら五千円はすると思うわ。」
「食肉店と同系列か、なら納得だな。」
極上のトンカツを完食した後は、デザートとして夏月は『シルクスウィートの干し芋アイス』、乱は『笠間のブランド栗のモンブラン』を注文し、『あなたのおススメのカツの食べ方を教えてください!』と書かれた紙には、夏月は『ソースと胡麻、其れからチリパウダーとガーリックパウダー』と書き、乱は『ソースと胡麻、チリパウダーと花椒パウダー』と書き、そしてレジで精算してガルパンのクリアファイルを貰っていた。
でもってこのクリアファイルはGW限定の『黒のカリスマコスチューム』を纏った三人のキャラクターがデザインされたモノだった。
「この真ん中の子は建物にも描かれてたけど、横の二人もやっぱアニメのキャラなのか?」
「そうよ。
真ん中の子が主人公の『西住みほ』で、右隣が姉の『西住まほ』、左隣がライバルから戦友、宿敵、好敵手と立場が色々と忙しい『逸見エリカ』ね。」
「マッジで立場が色々忙しいなぁオイ!キャラぶれっぶれじゃねぇか、大丈夫か?」
「因みにまほの好物はカレーでエリカの好物はハンバーグ。」
「お子様か!」
会計は夏月が乱の分も払ったのだが、其処には『デートは男の方が出すモンだろ』と言う思いだけでなく、乱の分も一緒に払った方が自分の『Tポイントカード』のポイントもより多く貯まると言う思いもあったのだった……自分も損しないように考えているのは中々に強かである。
ランチタイムを終えた夏月と鈴は、大洗の永町商店街を散策する事に。
大洗には他にも日本有数の規模を誇り、サメの飼育数と飼育種類に関しては日本一の水族館や其処まで高くはないが大洗のランドマークとなっているマリンタワーがあるのだが、『大洗の聖地巡礼は商店街を回るべし!』との事だったので、先ずは商店街を散策している訳だ。
「なんか、アニメキャラのスタンドポップ多くないか?」
「あ、気付いた?
実はこの商店街って、各店が夫々アニメの推しキャラのスタンドポップを設置してる事も話題になってんのよ。因みにこっちの旅館はテレビ版と劇場版を合わせ、二度も戦車が突っ込んで大破してます!
でも戦車道の試合で壊れたモノは、全て戦車道連盟が全額負担出直してくれるので問題無しなのよ!!」
「戦車道連盟ってのは金山か油田でも持ってんのか?って言うのは野暮なんだろうなぁ。」
永町商店街は大洗の中でも特にガルパンを推しており、商店街にあるすべての店が――其れこそ郵便局や銀行までもが推しキャラのスタンドポップを店先に設置していると言う力の入り具合なのだ。
そして聖地巡礼者に対して優しいのも永町商店街の特徴だったりする。
肉屋の前を通れば焼きたての焼き鳥を『持っていきな!』と無料で渡してくれたり、団子屋の前を通れば大洗の御当地スウィーツである『みつだんご』を無料で渡してくれたり、挙げ句の果てには総菜屋の前を通りかかった時には『作り過ぎちゃったから持って行って~』と、ワカサギの唐揚げをワンパック渡される始末……なんと言うかおもてなしの精神がバーニングソウルしていると言っても過言ではなかろう。
そんな凄い商店街を堪能して『正しい聖地巡礼』を楽しんだ夏月と乱は、商店街を抜けてビーチ横の道路に。
其処には大きな鳥居があったので、其処で二礼二拍した後に鳥居を潜り、1kmほど歩いてやって来たのは大洗が日本に誇る水族館『大洗アクアワールド』だ。
前述したように、此の大洗アクアワールドは日本有数の規模の水族館であると同時に、サメの飼育数と飼育種類では日本一であり、日本で唯一『ネコザメ』の人工孵化に成功した水族館としても割と有名だったりするのだ。因みに此処もガルパンの劇場版にて施設の一部が中破していたりする。
その道中で、例の露店商とエンカウントして、新たなアクセサリーを購入したのはある意味で当然のイベント言えるモノだったのかもしれないな。
「入ってスグにインパクトがハンパねぇなオイ?」
「やっぱりクジラはデッカイわぁ。」
入館した夏月と乱を出迎えたのは、天井から吊り下げられているセミクジラとマッコウクジラの全身骨格標本と、ウバザメの剝製だった――ウバザメは割と大型のサメで、その剝製だけでもインパクトはハンパないのだが、其れよりも更に大きいセミクジラとマッコウクジラの骨格標本も展示されているので、入館時のインパクトと言うのは中々にトンデモナイモノがあるのである。
券売機でチケットを買った夏月と乱は、スタッフから『GW限定スタンプラリー』の台紙を受け取ると、順路に沿って水族館を進んで行く。
先ずは円柱形の水槽に入ったアジやイワシと言ったお馴染みの魚の展示に始まり、コブダイやイシダイと言った珍しい魚の展示に続き、少し開けた場所の中水槽では小型のウミガメやフグ、カニやエビと言った小動物も展示されており、その中水槽の先に一つ目のスタンプがあったので其れをゲット。
其のまま進んで行くと、今度はアクアワールド一の大水槽が現れ、其処ではアオウミガメやイワシの群れ、小型のサメやエイ、ウツボなんかが一緒に暮らしていた。
竜宮城を思わせる幻想的な大水槽だったが、GWの特別企画として『飼育員さんによる餌やり』が公開され、小型のサメが餌を求めて飼育員のウェットスーツを口で引っ張る様には思わず夏月と乱も笑みを漏らしてしまっていた。
その後は、深海ゾーンを経て開けた展示室にやって来たのだが、其処に展示されている様々なサメには夏月も乱も『こんなサメが居たのか』と驚く事になった。
「……やんのかこら?――逃げたか、俺の勝ちだ。」
「ウツボ相手に本気で喧嘩売るなっての。」
そんな中で夏月は水槽のガラス近くまでやって来たウツボと本気のメンチギリ対決を行った結果見事にウツボを撃退していた――『海のギャング』と言われ、獰猛さでは肉食のサメをも凌駕すると言われているウツボをメンチギリで撃退するとは、夏月の目力はハンパなモノではないのだろう。
その後は『クラゲゾーン』、『深海ゾーン』を経てアクアワールドが目玉として最も力を入れてる『サメ&南国の海ゾーン』にやって来ていた。
『飼育数、飼育種類共に日本一』と言われるだけあってこのコーナーには大小合わせて多種多様なサメやエイが大きな水槽の中で泳いでおり、一風変わった姿をしているサメも居て其れだけでも楽しめると言うモノだろう。
「なに、あのエイとサメの合いの子みたいなの?」
「『サカタザメ』だとさ。確かにエイとサメの合いの子にしか見えねぇよなぁ……或は神様が納期に間に合わなくて既に作ったサメとエイのデータを無理矢理くっつけてノルマ達成したのかもな。」
「神様の生命創造ってそんなに事務的なモノだったんかい!」
「そして俺達人間は、神様が直立二足歩行用の首と腰と膝を作らずに四足歩行の動物から流用したせいで、頸椎痛、肩こり、腰痛、膝関節痛に悩まされるようになったって訳か。」
「若干神様を殴りたくなったわ。」
「因みにこのサカタザメ、名前にサメって付いてるけど分類上はエイなんだと。ま、魚だとよくある話だな。『鯛』って付いてる魚の殆んどは、真鯛を除いて鯛とは別の魚らしいからな。」
「なんかややこしいわねぇ……」
「確かにややこしいが、きつねなんてネコ目イヌ科だぞ?」
「もう訳分からないわね其処まで来ると……つか、キツネの何処にネコの要素があるのやらだわ。」
夏月と乱は自然と腕を組んでおり、その様子は普通ならばモテない男女から色々な感情が入り混じった視線が突き刺さるところだが、GW中の本日は家族連れやカップルが圧倒的に多いのでそんな視線を向けられる事もなく快適に水族館を満喫出来ているようだ。
『サメと南国の海ゾーン』の次には『北の海ゾーン』が現れ、其処を過ぎると資料展示ゾーンになり、其処では複数のサメの皮の剥製を触ってサメ肌の違いを肌で感じる事が出来るコーナーや、太古の昔に存在していた超巨大ザメ『メガロドン』のあごの骨の化石の展示、硬骨魚類、軟骨魚類(サメやエイ)、魚型クジラ類の身体の構造の違いを示した身体の断面図の説明付き大型イラストと、海に関する知識を深められる場所となっていた。
そのすぐ横には小さめの土産物コーナーと売店とイートインがあったので、夏月と乱は其処で飲み物とサメ肉を使ったアクアナゲットを購入して小腹を満たし、続いてエスカレーターを上って『海鳥&海獣ゾーン』に。
エトピリカの飛び込みや、アシカやオットセイの愛嬌ある姿に自然と笑顔がこぼれたが、一つの水槽は現在改装中となっていた――張り紙によると、『ラッコの死去によるラッコ水槽の改装』との事で、改装後はこの水槽はカワウソの展示水槽になるらしい。
「見たかったなぁ、ラッコ。」
「まぁ、死んじまったってんなら仕方ねぇだろ……なら、せめて新たに誕生したカワウソの赤ちゃんに名前を付けてやるとしようぜ。」
ラッコは見れなかったが、展示コーナーの上層では『カワウソの赤ちゃんの名前の募集』を行っていたので、夏月と乱は其れに夫々考えた名前を応募し、同時にスタンプラリーの二つ目のスタンプもゲット!
その先はキッズコーナーとなっており、キッズコーナーを抜けた先は『淡水ゾーン』で、那珂川や涸沼と言った茨城県の淡水域で見られる生物が展示されている。
「真っ青なアユ?」
「一万匹に一匹の割合で見つかる突然変異種だってさ。」
其処には激レア生物の『青いアユ』や、斑点の無いニジマス、オオウナギなんかも展示されていて海の生物とはまた違った楽しさを堪能させてくれた――で、其処を抜けると二体のクジラの全身骨格標本とウバザメの剥製が……入り口付近、エントランスから階段で上がった二階部分に出て来る訳だ。
二階部分には海洋ショーを行う『アクアシアター』と、特別展を行う『多目的ホール』があり、多目的ホールではGW限定企画展『遊戯王展』が行われており、遊戯王の『水属性・魚族、水族、海竜族モンスターのモデルとなった生物』がカードと共に展示されていた。
『フライングフィッシュ』が『トビウオ』、『レインボーフィッシュ』が『ニジマス』、『舌魚』が『アンコウ』はなんとなく分かるとしても『海竜神』が『トラウツボ』と言うのは夏月も乱も若干疑問を抱いていた……蛇のように長い身体は確かに似てはいるのだが。
で、この企画展にて最後のスタンプをゲットし、スタンプラリーをコンプリートした夏月と乱は賞品である『アクアワールドオリジナル扇子』をゲットしたのだった。
企画展を見終えて、スタンプラリーをコンプリートした夏月と乱がやって来たのは水族館の一大目玉イベントとも言える『イルカショー』だった。
夏月と乱は最前列に陣取っている――最前列は水飛沫の被弾を喰らう事が確定な席であるのだが、水飛沫を喰らう事もまたイルカショーの醍醐味と考えている夏月と乱にとっては最前列は正に最高の席以外のナニモノでもないのだ。
そして始まったイルカショーは、GW期間の特別企画展と連動して『遊戯王』とコラボした内容になっていて、調教師のコスチュームも遊戯王のキャラクターを連想させるモノとなっていた。
内容は、『世界の海を支配しようと目論む闇のデュエリストに、主人公である遊戯と海のデュエリストである梶木がタッグを組んで挑む』と言う、原作では絶対にありえないモノなのだが、モンスターの攻撃などをイルカのジャンプやアシカの巧みな芸で再現しており、また調教師も見事に闇遊戯と梶木のキャラを再現していて実に見応えのあるモノとなっていた。……その度に夏月と乱は被弾してずぶ濡れになっているのだが。
「如何したデュエリスト達よ、其れが精一杯か……その程度では俺は倒せぬぞ!」
「クソ……此のままじゃ海を守る事は出来ん……此処までなのか……」
「諦めるなよ梶木、まだデュエルは終わってないぜ!
俺は手札からマジックカード『融合』を発動!俺のフィールドの『カリフォルニアアシカ・ナッツ』と、梶木のフィールド上の『バンドウイルカ・アクア』を融合!
来い、『ドルフィンに乗るナッツ』!!
ドルフィンに乗るナッツの攻撃力は二千九百……此のままでは貴様を倒す事は出来ないが、このカードの攻撃力はこの会場に居る観客の声援の数×500ポイントアップする!
そして、この会場の観客は立ち見の客も居るからキャパシティ限界の三百人を超えている!よってドルフィンに乗るナッツの攻撃力は十五万+@アップする!」
ショーの終盤では絶体絶命のピンチに闇遊戯が逆転の一手を放ってアシカがイルカの背にライドオンして、イルカが超高速でプールを周回した後に潜水してから、急上昇してアシカと共に天井からぶら下げられたボールにテールキックをブチかましてターンエンド!
此の一撃で敵のライフはゼロとなり、見事に闇遊戯・梶木タッグが勝利を掴み取ってショーは終わりとなった。
ショーを見終えた夏月と乱は、出入り口に用意されているタオルで身体を拭くと、今日の記念に記念メダルを購入して日付と名前を刻印すると土産物コーナーでお土産を幾つか購入した――レトルトの『シャークカレー』を購入したのは物珍しさもあるのである意味で当然と言えるだろう。夏月は他にも『常陸牛肉みそニンニク』、『チリメン山椒』、『納豆ふりかけ』等も購入していたので、此れ等が弁当に使われるのは間違いないだろう。
アクアワールドを堪能した二人がやって来たのは海岸沿いにある『かねふくめんタイパーク』だった。
此処は辛子明太子の製造工場なのだが、工場見学が出来るだけでなく、かねふくの明太商品が購入できる上に、此処でしか食べる事の出来ない地元グルメもあったりするので大洗観光の隠れた名所だったりするのだ。
「思った以上にデケェなおい!」
「明太子一本使ってるらしいからね。」
先ずはイートインで明太子グルメを楽しむ事にした夏月と乱だったが、注文した明太子おにぎりと明太豚まんの大きさに驚いていた……明太子が一本使用されているとの事でおにぎりの大きさは中々にハンパなかったのだが明太豚まんも横浜の中華街で売られている豚まんに引けを取らない大きさだったからだ――とは言ってもアクアワールドから明太パークまでは2㎞ほどあるので、その道のりを徒歩でやって来た夏月と乱はペロリと平らげて、デザートに『明太ソフト』も注文していた。
「ミルクソフトの甘さに明太のピリ辛、アリだな。」
「意外な組み合わせにビックリだわ。」
普通ならキワモノとなりそうな明太とミルクソフトの組み合わせだが、明太のピリ辛がミルクソフトの甘さを際立出せると言う意外な化学反応を起こして割と美味であったみたいだ。
そんな明太グルメを堪能した後は工場見学をして、売店で『できたて明太子』、『明太高菜』、『明太ふりかけ』、『明太せんべい』、『手羽明太』等々多数の商品を購入した――荷物は多くなるが、其処は夫々の専用機の拡張領域に収納してしまえばマッタク持って問題ない。序に言うと拡張領域に収納すると粒子変換され、取り出す時に収納した状態で構築されるので冷凍品であっても問題なかったりするのだ。
明太パークを後にした二人は大洗駅から大洗鹿島線で水戸駅まで移動し、駅構内にあるラーメン屋『なんつっ亭』で少し早めの夕食を摂った。
乱のオーダーは『黒マー油鶏白湯麺』とギョーザだったのだが、夏月は『猛烈タンメン鼻血ぶー』を超激辛とギョーザと言う中々にぶっ飛んだオーダーだった……しかし夏月はその超激辛を一度も水を飲む事無く涼しい顔で完食してしまったのだから恐ろしい事この上ないだろう。極限まで己を鍛え上げ、更に更識で暗部の訓練を受けた夏月は可成りのレベルの『痛さ』でも耐えられるようになっており、其れに伴って味覚だけでなく痛覚とも連動している辛味に関しても相当な辛さでも割と平気で食べる事が出来るようになったのだ。
夕食後は、往復切符で特急『トキワ』に乗って上野まで移動すると、其処からバスで学園島行きのモノレールの駅まで移動し、夏月と乱のデートもそろそろフィナーレと言ったところだろう。
「ん~~、楽しかった~~!アンタは如何、楽しんでくれたかしら今日のデート?」
「楽しませて貰ったぜ乱。
まさかの聖地巡礼には驚いたけど、其のお陰で知らなかった大人気アニメの事を知る事が出来たし、蝶野さんにも生で会えたからな。最高のデートだったぜ。良い一日だったよ。」
「なら良かったわ♪」
其の物レールの駅では乱が夏月にデートの感想を聞き、『最高のデートだった』との答えを貰うと、背伸びをして夏月の頬にキスをする……通算三度目となるなので夏月は驚く事は無かったがそれでも乱の思いは充分に伝わり、そのお返しとして夏月は乱をハグしてやるのだった――もしもこの場に他の誰かが居たら盛大に砂糖を吐いていたのは間違いないだろう。
――――――
夏月と乱がデートを終えて学園島に戻って来た頃、楯無は自室で凄まじい勢いで書類を処理していた……その殆どが千冬と千冬の信奉者が暴走した際に如何するかを纏めた書類なのがマッタク笑えないが。
「虚ちゃん、モンエナ頂戴!」
「モンエナ³五本目……此れ以上は死にますよお嬢様……」
「アッハッハ、おかしなことを言うわね虚ちゃん?
私は幼い頃から次代の楯無となるべくありとあらゆる英才教育を受けて来ただけじゃなく、拷問や毒物に対する耐性も訓練されて来たわ……その結果として、私を毒殺する事はフグ毒を持ってしても不可能になってるのよ?そんな私が一般人の『エナジードリンクの接種致死量』で死ぬはずがないでしょう?
何よりも、夏月君とのデートを後顧の憂いなく迎える為に、この仕事はさっさと終わらせたいのよ!」
「愛の力は偉大ですねぇ……」
そんなGW返上とも言える激務を楯無が熟せていたのは、偏にGW最終日の夏月とのデートの最中に呼び出しを受けないようにする為だった――虚の助力もあるので書類の不備はないだろうが、如何せん数が多いので最速で処理してもGW最終日の前日までかかってしまうのだが、GW最終日まで伸びないと言うのであれば楯無にとっては大した問題ではなかった……夏月とのデートが出来るのであれば、どんな激務だろうと楯無は熟してしまうのだから。
「よっしゃー、終わったわよ虚ちゃん!!」
「お疲れ様でした。学園長への提出は私が行っておきますので、お嬢様は疲れを癒して下さい。」
「そうさせて貰うわ。」
書類の提出を虚に任せた楯無は、ベッドに突っ伏すると其のまま寝息を立て始めた……其れほどまでに激務に追われてたと言う事なのだろう。其れでも其れを期間内に処理してしまうのは流石は『楯無』と言ったところだが、その根幹には『後顧の憂いなく夏月とのデートを楽しみたい』と言う思いがあったのも間違いないだろう。
正に『恋する乙女の力は無限大」と言っても過言ではないのだが、取り敢えず楯無は夏月とのデートを後顧の憂いなく楽しむ準備は出来たようである。
そして本日のデートで夏月と乱の絆が鈴と簪に続いて強固なモノになったのは確定事項であった。
To Be Continued 
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