クラス代表決定戦の翌日、夏月はその日も日課である早朝トレーニングを行い、学園島を一周するランニングを終えていた――学園島は周囲5㎞ほどの孤島なのだが、其れでも学園島を一周すると言うのは簡単なモノでは無いだろう。
そんな過酷な早朝ランニングを行って尚、息が乱れていない夏月には驚く他ないのだが。
「朝早くから精が出ますね一夜君。」
「山田先生。早朝トレーニングは日課なんで、やらないとなんか落ち着かないんですよ……昨日三試合もやったってのに、今日も普通に早朝トレーニングしてる俺って少しオカシイんですかね?」
「其れだけ早朝トレーニングは一夜君の習慣になっていると言う事だと思いますよ?
先生も学生の頃、寝付けない時にイラストロジックを解いてたんですけど、其れがすっかり就寝前の習慣になっちゃって、どんなに疲れてる時でも其れをやらないと落ち着いて寝る事が出来ないんですよ。
習慣になってる事って言うのは、疲れていてもやらないと逆に気持ちが悪いんですよね。」
「習慣……そう言われると納得っすね。そして遅ればせながら、おはようございます山田先生!」
「はい、おはようございます一夜君♪」
ランニングを終えてベンチでインターバルを行っていた夏月に声を掛けて来たのは山田先生だ。
教員の中でも山田先生は起床時間が早い方なのだが、今日は何時もより少しだけ早く目を覚ましてしまい、『朝の散歩と言うのも良いかも知れませんね。』と考えて外に出たところでランニングを終えてインターバルを行っていた夏月を見付けたのだ。
「早朝トレーニングとの事でしたけれど、今はランニングをして来たんですよね?その後のトレーニングメニューってどんなモノなのでしょう?」
「この後は腕立て伏せと腹筋、其れからスクワットを三百回ずつやったあと、木刀を使った素振りとシャドーを夫々十五分ずつ、それが終わったら最後は筋肉の柔軟性を失わないように三十分じっくりと太極拳ですね。
んでもって、トレーニングが終わったらシャワーで汗流してから本日の弁当作りです。」
「少しハードではありますが、アスリートとして理想の肉体を得る為には効果的なトレーニングと言えますね?
筋肉を強く、硬くするトレーニングを行った後で実戦的な動きを行い、最後に有酸素運動かつ全身運動でありつつゆったりとした動きの太極拳を行う事で、剛性と柔軟性を合わせ持った素晴らしい筋肉が出来上がりますから……成程、一夜君は細身なのではなくて1mmの無駄もなく絞り込まれた究極の細マッチョって事ですね。
筋肉好きな女子からしたら垂涎の肉体と言う事になりますか……」
「何なんすか、その特殊な性癖は……」
少しばかりの雑談の中で、山田先生は夏月が行っているトレーニングは理に適ったモノだと評価してくれた。自身も元日本の代表候補生だっただけあって、アスリートの身体の作り方は熟知しているのだろう。
「そう言えば一夜君、昨日の織斑先生の事なんですが……」
「昨日の?……あ~~、若しかして『専用機を渡せ』ってやつですか?見てたんですか?」
「偶然なんですけどね……あの、一夜君は更識さんとローランディフィルネィさんと一緒に学園に抗議入れようとか考えてたりしますか?」
「いや、学園に抗議なんて入れませんよ?
だって昨日のアレって学園の指示じゃなくて織斑先生の独断ですよね?なら、学園に抗議するってのはちょいとお門違いだと思うんで……こんな事言ったらアレですけど、あの人なんで教師なんてやってんですかね?普通だったらテメェの独断で専用機の没収とかやらないと思うんすけど。」
「ですよね……織斑先生が『ブリュンヒルデ』の称号をもって自分の好き勝手やっていると言う話は聞いていましたし、学園長からも『織斑先生の素行をチェックするように』と命じられていたんですが、私にとって織斑先輩は憧れの存在だったので、心のどこかで『そんな事はない』って思っていたんですよ。
でも、昨日の一件を目の当たりにしてその憧れの気持ちは一気に冷めました……」
「でしょうね。」
そして山田先生は昨日の一件で夏月達が学園に抗議を入れないかを危惧していたようだが、アレは学園の指示ではなく千冬の独断に過ぎないので学園への抗議は入れないと聞いてホッとすると同時に、つい『憧れの存在の本当の姿を知って幻滅した』と漏らしてしまったが、其れはある意味で仕方あるまい。
憧れが強ければ強いほど、本当の姿がダメ過ぎた場合には幻滅する幅も大きい……『愛していたからこそ憎しみも大きくなる』と言うのと同じなのだろう。偶然のイタズラと言えば其れまでだが、その偶然によって千冬は己を慕う後輩まで失う結果になったのだった。
「それじゃあ一夜君、また後で。」
「次は教室でですね。」
山田先生と別れた後で夏月は残りのトレーニングメニューを熟すと自室に戻ってシャワーを浴び、其れから本日の弁当(三種のサンドイッチ《明太タラモサラダ、スモークサーモン&クリームチーズ、エビカツ&タルタルソース》、マグロの中華風竜田揚げ、ピーマンのカリフラワームース詰め、ウズラの卵の磯部揚げ)を作り上げ、ベッドで寝ているロランを起こすと、制服に着替えてから食堂に行って朝食タイム。
本日の夏月の朝食メニューは、『鯖の塩焼き定食』のご飯特盛に、単品で『納豆(卵黄、鰹節トッピング)』、『冷ややっこ』、『ベーコンエッグ』、『茄子とキュウリの浅漬け』を追加すると言うモノだったのだが、夏月の大食いは既に学園では有名になっているので最早誰も何も言わなかった。
夏の月が進む世界 Episode13
『クラス代表決定と代表就任パーティーと』
ホームルーム前の時間と言うのは、生徒にとっては数少ない自由時間でもあるので、一年一組の教室でも夫々が思い思いに過ごしている……そんな中でセシリアが一人で居ると言うのは、矢張り初日の言動と、夏月にインターセプターで襲い掛かった事が大きいだろう。
日本を貶める発言と、女尊男卑の発言を連発した挙げ句、夏月にISの武器で攻撃したと言う事から、セシリアはクラスメイトから完全に距離を置かれてしまったのである……自業自得と言えば其れまでなのだが。
「おはようございます。朝のホームルームを始めますよ~~。」
其処に山田先生と千冬が現れて、朝のSHRが始まる――山田先生が入って来た瞬間に秒で自分の席に戻った生徒は極めて優秀であると言えるだろう。
自分の席に戻っていなかったら、千冬の出席簿アタックが炸裂する事は、一週間ちょっとで分かっているので、其れを回避するためにも自席への着席は他のどのクラスよりも早いのだ一年一組は……教師未満の暴力も、時には何かしらの役に立つ事があるみたいである。
「其れではまず、一組のクラス代表は一夜夏月君に決まりました。一繋がりでなんか縁起が良いですね。」
そのSHRでは、先ずは山田先生が『一組のクラス代表は夏月に決まった』と言う事を知らせ、その知らせにクラスからは拍手が巻き起こり、夏月のクラス代表就任は全会一致で可決されたと言えるだろう。
寧ろクラス代表決定戦で三戦全勝の結果を残した夏月がクラス代表にならなかったら、其れは其れで逆に抗議の声が上がっていた事だろう。
「一夜、クラス代表になったのだから就任の挨拶くらいしろ。」
「言われなくてもその心算ですよ織斑先生。
一組のクラス代表になった一夜夏月だ。クラス代表になった以上は、一年一組の顔に泥を塗らねぇように粉骨砕身務めさせて貰う所存だ!……けど、俺に万が一の事があって、クラス代表の務めを果たす事が出来なくなる事態ってのがマッタク無いとは言い切れないから、俺は一組の副代表としてロランを指名するぜ!」
「私が副代表か……君の補佐官と言う事を考えると悪くないね。」
千冬に言われてクラス代表に就任した事の挨拶をした夏月は、自身の補佐であり、クラス代表がその務めを果たす事が出来なくなった場合の保険とも言える『副代表』にロランを指名して、ロランも其れを快諾した。
クラス代表決定戦では夏月に負けたロランだが、最終戦績は二勝一敗と、全体二位の成績を収めているので副代表として其の実力は申し分ないと言えるだろう。
そんな訳で、ロランの副代表就任も満場一致の拍手で迎えられたのだった。
「すみません、少し宜しいでしょうか?」
そんな中、挙手して発言の許可を求めて来たのはセシリアだった。
其れを聞いた千冬も山田先生も、セシリアの発言を許可し、セシリアは『感謝致します』と言うと……
「皆様、私の発言で不快な思いをさせてしまった事を、心よりお詫び申し上げます!」
其の場で見事なまでの『DO・GE・ZA』をブチかましてクラスメイトに謝罪して来た――初日の数々の言動が、秋五との試合を行い、本来の自分を取り戻した事で如何に拙い事であり、外交的に見ればイギリスと日本の関係を悪化させかねないモノだったと理解したのだろう。
しかし、その謝罪に対してクラスメイトの反応は今一だ……アレだけ日本を貶す&女尊男卑発言を連発してくれたセシリアに対してはそう簡単に許す事ってのは出来ない事のだろう。
「ふむ……ならば此れで手打ちで良いのではないか?」
そんな中で声を上げたのは箒だった。
「確かにオルコットは問題発言を連発した上に一夜にナイフで斬り付けた……其れは確かに下手すれば国際問題に発展しかねない事ではあるが、オルコットは自らの非を認め、貴族のプライドを捨てて土下座までしたのだ。
此処は彼女を許し、此れで終いにしてやるのが人の道と言うモノだろう?私も、オルコットがクラスで孤立する事でクラスの雰囲気が悪くなると言うのは望んでいないからな……皆は如何だろうか?」
「其れは……確かに篠ノ之さんの言う通りかもね。」
「オルコットさんは謝ったんだから、其れを許さないって言うのは、ちょっと大人気ないよね。」
その箒の意見はクラスメイトには受け入れて貰えた。
箒自身、要人保護プラグムによって日本全国を転々としていた事で、転校先では浮いた存在である事も多かったので、セシリアがクラスで孤立するのは良い事ではないと判断したのだろう。
「うむ……とは言え、直ぐに友達が出来ると言う訳でもないだろうから――オルコット、私の友達になってくれないか?」
「篠ノ之さん!?その、私で宜しいのですか?」
「要人保護プログラムで日本各地を転々としてせいで、実に恥ずかしい事だが友人と呼べる存在は秋五を除くと片手の指で足りる程しか存在していないのだ……私としても新たな友人が欲しいのだ!」
「ぶっちゃけましたわねぇ篠ノ之さん!?」
「箒で構わん!寧ろ箒と呼べ!」
「では、私の事もセシリアと呼んでくださいませ!」
そして、箒とセシリアは友人関係となった――箒は要人保護プラグラムによって、セシリアは両親の遺産を狙う輩との接触を避ける為に他者との関わりが極端に少なくなっていたのだが、それだけに互いに数少ない友達の関係になったと言うのは、箒にもセシリアにもプラスの事だろう。
「其れは其れとして、夏月さん、貴方にインタセプターで斬りかかった事への罰を私に。
罪には罰が必要ですわ……容赦無き沙汰を下して下さいませ。私は、其れを全て受け入れますわ……其れこそ、学園を辞めて国に帰れと言うのならば、迷わずにそうしましょう。」
続いてセシリアは、夏月にインターセプターで斬りかかった事への罰を求めて来た。
罪は罰によってこそ相殺され、罰を受けた者はその罪が許される――其れが法治国家なので、セシリアが己の罪に対する罰を望んだのはある意味で当然であると言えるだろう。
「何でもか……ならオルコット、俺に背を向けな。」
「背を……これで良いんですの?」
「OKだ。そんでもってだ。」
そんなセシリアに夏月は己に背を向けるように言うと、セシリアの綺麗な金髪を肩甲骨の辺りで一纏めにすると、其れを護身用の折り畳みナイフでバッサリと斬り落としてターンエンド。
「髪は女の命、って言うだろ?
此処までの長さに伸ばすのには時間が掛かっただろうし、其の間の手入れだって並大抵のモノじゃなかった筈だ……だから、そいつをバッサリってのは充分な罰になるだろ?
相手が野郎だったら丸刈りにしてやる所なんだが、外道じゃねぇ女に其処までやるほど俺は鬼畜じゃねぇからな。
兎に角、罰としてアンタの髪、こうして頂いたぜ。」
「髪を……確かに此れは女性にとっては最高クラスの罰と言えますわね――ですが切り取ったのは良いとして、切り取った私の髪は如何する心算ですの?」
「ん?あぁ、そうだな……メルカリにでも出品してみっか。此れだけ綺麗なブロンドの髪ならカツラ屋とかが欲しがるかも知れねぇし……或は髪フェチの変態が高値で買ってくれっかもな。」
「髪の毛なんて出品して大丈夫なんですの?」
「大丈夫、大丈夫。メルカリはもっとヤッベーモノ出品されてっから。
参考までに『きったねぇ箸¥500』、『親父の万年筆¥3,000』、『彼女の浮気の証拠写真¥100』、『俺の彼女¥99,800』、『小島よしお¥20,000』、一番新しいやつだと……『ゴリラ¥1,000,000』だとさ。此れ実際に購入されたらどうする心算なんだろか?」
「そもそも自分の彼女を出品とか冗談にしても性質が悪過ぎる気がしますが……ですがそれらに比べたら、確かに髪の毛程度は全然大した事はありませんわね。」
「つ~訳で早速出品。『英国淑女のハニーブロンド¥100,000』っと……もしも売れたら、売り上げの二割をお前にやるよオルコット。」
「罰として切り取られた髪なのですから、その髪を売る事で得た利益を私が二割も貰ってしまったら罰になりませんわよ一夜さん……まぁ、其れは其れとして貴方からの罰、確かに受け取りました。
罰を与えずに許さないと言う選択肢もあった筈ですが、罰による許しを与えてくれた事に感謝いたします。」
「俺は外道には容赦しねぇが、テメェの過ちを認めて変わろうとしてる奴を潰すような事はしねぇよ……つ~訳で、この話は此処までだ。」
セシリアの髪を切った後で若干突っ込みどころ満載な遣り取りが行われたが、最後は夏月が有無を言わさぬ感じで話を終わらせ、同時にSHRも終了の時刻になったので、山田先生が『其れではSHRを終わります。一時間目はISの実技授業になるので、ISスーツに着替えてグラウンドに集合して下さいね。』と言い、一組の生徒達は更衣室へと移動して行ったのだった。
――――――
その一時間目の実技授業、グラウンドに集まった一組の生徒の多くは夏月に見入ってしまっていた。
夏月のISスーツ姿は昨日のクラス代表決定戦のロラン戦でお披露目されていたのだが、昨日は観客席から遠巻きに見ていただけだったのに対し、今日は近距離で見る事になった訳だが、近距離で見るとISスーツ姿の夏月は年頃の女子には中々に刺激的だったのだ。
秋五も体力を落とさないように力仕事のバイトをしていただけあって、細身ながら其れなりに筋肉は付いているのだが、夏月の場合はISスーツの上からでもシックスパックになった腹筋や『泣く子も黙る大腿筋』がクッキリ浮き上がっているにも関わらず、ガチムチのゴリマッチョではなく1mmの無駄もなく絞り込んだ究極の細マッチョなので思わず見とれてしまったのだ。
「俺、なんか注目されてねぇ?」
「君の古代ギリシャの彫刻の如き芸術的な肉体に誰もが目を奪われてしまっているのだよ夏月……この美しい肉体美、機会があれば是非とも君にはヌードデッサンのモデルを頼みたいモノだよ。」
「……パンツ穿いてても良いなら。流石に愚息を晒すのは勘弁。」
「うん、それで構わないよ。……そして君だけじゃなくで、篠ノ之さんも注目されているみたいだね。」
「まぁ、其れは仕方ねぇだろうな。」
そして夏月だけでなく箒も注目されていた。
実は箒はバストサイズが98cmと一年生どころか、IS学園の生徒全員の中でもぶっちぎりの胸部装甲を搭載しているのだ――制服姿の時は下着と制服でソコソコ抑えられているのだが、ISスーツだとその凶悪なまでの胸部装甲が惜し気もなく晒されるので、矢張り年頃の女子は注目してしまうのだろう。最も箒自身は『剣を振るのには少しばかり邪魔だな』と、貧乳娘が聞いたらブチキレそうな悩みがあったりするのだが。
「其れでは本日は先ずは機体と武装の展開、そして飛行と急降下と急停止のお手本を見て貰うとしようか?お前達が目指すモノがドレほどのレベルであるのかを知るのも大切な事だからな。
織斑、一夜、ローランディフィルネィ、オルコット、前に出て専用機を展開しろ。」
そんな中で授業が始まり、専用機持ちである夏月とロラン、秋五とセシリアが呼ばれて前に出て専用機を展開する――展開時間は、夏月とロランが0.3秒、セシリアが0.45秒、秋五が0.76秒で全員可成りの好タイムと言えるだろう。特にISの訓練を始めて一週間ちょっとの秋五が一秒を切っているのは驚異的な事である。其れだけ秋五は努力したと言う事でもあるのだが。
続いて武装の展開だが、夏月はビームダガー以外の武装は外付けであり、ロランもビームハルバートとビームトマホーク以外の武装は外付けなので、秋五とセシリアが武装の展開を行ったのだが、『近接戦闘用の武装を展開しろ』と言われた際に、セシリアはインターセプターではなくスターライトMk.Ⅱを展開して見せた。
それに対し千冬は『近接武装を展開しろと言った筈だ!』と言って来たのだが、セシリアは『コールしなくては展開出来ないインターセプターよりも、コール無しで展開出来るスターライトを展開しての銃剣術の方が効率的ではありません事?』と言って反論していた――結局は、『お前の言わんとしている事は分かるが、其れでは手本にならん』言われたので、インターセプターをコールして呼び出したのだが。
序に言っておくと、その横では夏月が拡張領域から大量のビームダガーを取り出して『お前が何秒動けようと関係ない処刑方法を思い付いた!』と言ったDIO様になっていて、ロランも拡張領域からビームトマホークを両手で持てるだけ展開していた……一流のIS乗りは、ジョークも割と容赦ないみたいだ。
続いて飛行の見本の披露となり、グラウンドから飛び立った夏月とロランと秋五とセシリアだったが、先頭は夏月とロランで、其れにセシリアが続き、僅差で秋五が続くと言う形になった。
スペックで言えば白式の方がブルー・ティアーズよりも機動性は上なのだが、如何に秋五が一週間程度でISバトルを行えるようになったとは言え基本動作では矢張り経験の差が出てしまうのだろう……其れでもセシリアとはほぼ並行飛行であり、セシリアの方が5cmほど秋五よりも頭が先に出ている程度であるのは見事であると言えるだろう。
「試合中はもっと機敏に動いてなかったかお前?」
「戦いながら飛ぶって言うのはドラゴンボールとかの戦闘シーンでイメージしやすかったのと、会長さんとの特訓でも、回避・防御・攻撃を行いながら飛ぶ事を重点的に叩き込まれたから大丈夫なんだけど、逆に只の飛行訓練って殆どやらなかったから、普通に飛ぶ方が僕には逆に難しくなってるのかも。」
「ですが、秋五さんならば普通の飛行も直ぐにマスターしてしまうのではなくて?と言うか、今ので大体感覚は掴んでしまったのではありません事?次は置いてけぼりにされそうですわね私。
……夏月さん、真の天才と言うモノは本当に理不尽ですわ。私、秋五さんの才能には嫉妬を禁じ得ませんわよ!!」
「そして秋五は才能に胡坐掻かずに努力を怠らねぇタイプだからな……努力は才能を凌駕するが、両方持ってる奴には誰も勝てねぇってか?つかオルコット、俺と秋五を名前で……」
「私なりのお二人に対する敬意と言ったところでしょうか?
形は違いますが夏月さんも秋五さんも私に其の力を示して下さいました……相手を姓ではなく名で呼ぶと言うのは貴族にとっては敬意の現れでもあります。ですので夏月さんと秋五さんと。
まぁ、夏月さんには男性の強さだけでなく、男性の凶暴さと恐ろしさも教えられてしまいましたけど……」
「野田の兄貴はまだ優しい方だぜ?あれが和中の兄貴だったら身体を両断される感覚を、小林の兄貴だったらナイフ腹に刺されてグリン!ってされる感覚を味わってるんだからな。」
「ふむ、アレでも優しい方だとは夏月は底が知れないね。」
「ローランディフィルネィさん、感心するところオカシクないかな?」
目的地である『上空100m』に到達した所で暫し雑談タイムとなり、セシリアは夏月と秋五の事を名前で呼ぶようになっていた――これもまたセシリアが良い方向に変わった証でもあるのだろう。
セシリアが秋五を見る目は、夏月を見る目とは少し異なっていたが、若しかしたらセシリアは本来の自分を取り戻す切っ掛けをくれた秋五に好意を抱いたのかも知れない……人間、何が切っ掛けで異性に恋心を抱くか分からないモノだ。
その後、地上の千冬から『其処から急降下と急停止を行え。目標は地上10cmだ。』と通信が入り、先ずはトップバッターとしてセシリアが急降下からの急停止を行って見事に地上10cmジャストで停止して見せた。
続いてはロランが急降下を行ったのだが、そのスピードはセシリアよりも遥かに速く、急停止の際にも見事なバレルロールを披露して地上10cmジャストで停止して見せた。
そして残るは夏月と秋五だ。
「なぁ秋五、此のまま普通に急降下と急停止をやってもつまらねぇからよ、一緒にISバンジーで突っ込むってのは如何よ?
真っ逆さまになって急降下して地面ギリギリで停止ってやつだ。取り敢えずやる方も見てる方もスリル満点なのは間違いないだろ?……やるか如何かはお前に任せるが、さて如何する?」
「そんなの決まってるじゃないか……乗らせて貰うよ夏月。
同世代の男子と一度はトンデモナイ馬鹿をやりたいと思ってたんだけど、今まではその機会がなかったからね――期せずして訪れたその絶好の機会を断る理由がないよ。是非ともやらせて貰うさ!」
「OK!そう来なくっちゃな!そんじゃ一発ド派手に行くぜ!!」
その夏月と秋五は、あろう事か真っ逆さまになるとそのまま物凄い勢いで地面に向けて急降下を開始!
其れを見た他の生徒達はある者は悲鳴を上げ、またある者は絶対防御があるから万が一急停止に失敗しても死ぬ事はないと理解していても顔が青褪めており、千冬ですらまさか秋五がこんな事をするとは思っていなかったらしく、驚愕の表情を浮かべている程である。
「「どぉぉぉりゃっせいやぁぁぁぁぁ!!」」
だが、夏月も秋五も真っ逆さまの状態で急降下して来て地上10cmジャストで急停止に成功し、其処からバック宙の要領で体勢を立て直して地上に降りると、ハイタッチを交わした後に拳を合わせていた。
尤も、あまりにも危険な行為ではあったので千冬の出席簿アタックが炸裂したのだが、夏月は其れを『当て身投げ』でカウンターして出席簿アタックを回避して見せたのだった……空中で受け身を取って態勢を立て直した千冬は流石は嘗て『世界最強』と謳われただけの事はあるが。
その後の授業は恙無く進み、一組の生徒は全員が機体の展開と武装の展開をコールありでとは言ってもスムーズに行えるようになったのだった。
二時限目以降の授業も問題なく進んだのだが、四時限目の体育では夏月と秋五は女子生徒とは同じ競技を行えないと言う事だったので、夏月が秋五に『お前バスケ出来る?』と聞き、秋五も『勿論出来るよ。』と答え、その結果ワンゴールでの1on1が行われる事に。
試合は秋五の先攻で始まり、互いに得点を許さない展開となったが、秋五が最後の攻撃で見事なダブルクラッチを決めて先制点を取ると、後攻の夏月はラストターンと同時に開始場所からのツーポイントシュートを放ち、其れが見事に決まって2-1で夏月の勝利と言う結果になった……最後の最後で意表を突いたロングシュートを放つと言うのは秋五でも予想出来なかったのでディフェンスに入る前にシュートを打たれてしまったと言う訳だ。
「まさか2ポイントシュートを打って来るとは思わなかった。完全に意表を突かれた。僕の完敗だ。」
「普通に攻めてゴールしても引き分けで終わっちまうからな……勝負事は白黒ハッキリ付けてぇんだよ俺は。」
「其れは、僕も何となく分かる気持ちだな。」
と、こんな感じで体育の授業は終わり、午前中の授業は無事全て終了。
昼休みのランチタイムでは夏月は更識姉妹、ロラン、乱とランチタイムを楽しんでいたのだが、秋五の方は箒だけでなくセシリアが参戦していた……友情と、恋のバトルは別物なのだろうが、本日は箒の方が一歩リードと言ったところだろう。
と言うのも今日は箒が秋五の為に手作りの弁当を用意していたからだ。経木に包んだオニギリとタクアン、タッパに入った玉子焼きと言うシンプルな弁当だが、オニギリは『鮭ワカメの混ぜご飯』、『明太高菜』、『鯖マヨネーズ』と全て秋五の好物で固められていたのである――六年も離れ離れになっていても、秋五の好みを忘れて居ないと言うのは素晴らしいと言わざるを得ないだろう。
まさかの手作り弁当に驚かされたセシリアだが、だからと言って秋五の事を諦める気は更々なく、自分なりのアピールと言うモノを考えている様だった……取り敢えず秋五を取り巻く恋愛事情は、夏月を取り巻く恋愛事情と比べると些か激しいモノになるのは間違いなさそうであるが、現時点では幼馴染の強みがある箒の方が僅かばかり上と言った状況だった。
――――――
放課後、夏月は道場で箒と立ち会っていた。
と言うのも、昼休み終了直後に箒から『放課後、もしも良かったら私と一手立ち会っては貰えないだろうか?』と言われたからだ――夏月としても断る理由はなかったので其れを受け入れ、放課後の道場では空手着姿の夏月と袴姿の箒が激しい攻防を行う事に!
箒は剣道の腕前も一流だが、要人保護プログラムの対象になってからは『いざと言う時の為に剣がない状態でも戦えるようにしておいた方が良い』と考え、合気道を始めとした古武術を複数修めており、無手の格闘でも其れなりに戦えるようになっているのだ。
だがしかし、夏月の格闘は箒の其れを圧倒的に上回り、後の先が基本となる日本の格闘技を相手に一切のカウンターを許さなかった……夏月の攻撃を完璧にカウンター出来る人間など、最早楯無しか存在しないと言っても過言ではないので、箒が捌き切れないのも致し方ないと言えるだろう。箒の実力は低くはないが、夏月と楯無の実力は更に上なのだから。
「一撃必殺!!」
「ぐ!!」
その試合は、夏月が箒に腰の入った正拳付きを喰らわせて試合終了――その正拳付きを喰らった箒は膝から崩れ落ちてしまったのだから。
だが、負けた箒には悔しさはなく、己よりも遥かに強い武人と出会えた事による喜びが顔に浮かんでいた……己よりも強い者との邂逅は武人にとって至高の幸福と言うが、箒は正にその幸福を自らの身をもって感じたのだろう。
試合後、シャワーを浴びて汗を流した夏月は、箒から『少し付き合え』と言われて、一年一組の教室まで連れて来られ、そして教室内に入ったのだが――
「「「「「「「「「「一夜夏月君、クラス代表就任おめでとう!!」」」」」」」」」」
「うおわ!?」
教室内に入った瞬間にクラッカーが鳴り響き、教室内には『一夜夏月君クラス代表就任おめでとう!』の横断幕まで掲げられている……そう、一組の生徒は夏月のクラス代表就任を祝うパーティの準備をしていたのだ。
山田先生にパーティの許可を取り、箒にはパーティの準備が出来るまでの時間稼ぎをお願いしたのだ……箒が夏月に立ち会ってくれと言ったのは、己が夏月と戦いたかったからと言う理由の他に、パーティの時間稼ぎと言う目的もあったのである。
机をくっつけてテーブルクロスを敷いた簡易のテーブルには定番のスナックである『チキンナゲット』、『フライドポテト』等が並んでいる……電子レンジ調理のスナックではあるが、ディップソースは定番のバーベキューとマスタードの他に、『明太マヨネーズ』、『ワサビサワークリーム』、『ハバネロカレー』と言った手作りのモノが用意されていたので満足は出来るだろう。
「俺のクラス代表就任パーティか……其れは良いとして、明らかに一組の生徒じゃねぇ奴がいるよな?楯無さんと簪、乱は分かるとして、他は誰じゃーい!」
「三組代表のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーと言います……昨日のクラス代表決定戦、実に見事な戦いぶりでした一夜さん。」
「私は二年のグリフィン・レッドラム。宜しくね!
昨日の試合はホントに良い試合だったよね?タテナシから実力のほどは聞いてはいたけど、まさかの三連勝には驚いたよ……其れから、あの食べっぷりにも好感を抱いたかな♪」
「お前が夏月か……スコール叔母さんから話は聞いてたが中々やるじゃねぇかお前?俺はダリル・ケイシー。お前が男じゃなかったら惚れてたぜ俺は。」
「アンタが義母さんが言ってたダリルさんか……秋五、この先輩の格好何処から突っ込みを入れるべきだと思う?其れとも今は、こんなデザインの見せパンや見せブラがあるのか?」
「ないと思うよ?と言うか、何処も彼処も突っ込みだらけだと思う……取り敢えず今年からは男子も居る訳だから少し自重した方が良いんじゃないかな?」
「ダリルの格好は確かに突っ込みどころしかないわね。
初めまして、アタシはファニール・コメット。オニールと共にカナダの代表候補生をやらせて貰ってるわ。それと、アイドルとしても活動してるわよ。」
「オニール・コメットです。夏月お兄ちゃん、秋五お兄ちゃん、はじめまして~~!!」
「「!!?」」
「イッチーとオリムーをお兄ちゃん……成程、イッチーとオリムーはロリコンだったんだね♪」
「「スッゴクいい笑顔でトドメさしてキタコレ!!」」
明らかに一年一組の生徒ではない生徒が居たのだが、其れは夏月の戦いっぷりに惹かれた者達が大半だった。
各々自己紹介をし、ダリルの格好に突っ込みが入ったりしたのだが、カナダの代表候補生であり、双子のアイドルであるコメット姉妹は、妹のオニールが特大級の核爆弾を投下し、本音がトドメとなる一撃を喰らわせる事態となったのだが、それに対して夏月と秋五は息の合った完全シンクロの反応を見せていた……兄弟でなくなった事で兄弟だった時よりも良い時間を過ごせていると言うのは何とも皮肉な事だと言わざるを得ないだろう。
その後、新聞部の『黛薫子』がパーティに乱入して来て、夏月に『クラス代表に就任して一言お願いします』と言うと、夏月は偽悪的な笑みを浮かべてから首を勝っ切る仕草をしてからサムズダウンをして『俺と戦おうってんなら、命を懸けな』と言ってターンエンド!
そして其の後の記念撮影では胡坐を掻いて腕を組んでいる夏月の両脇を更識姉妹が固め、後ろからロランが抱きとめ、乱が夏月の前に肘を突いて横になっているだけでなく、その周囲にグリフィンとヴィシュヌ、コメット姉妹にダリルが集まり、秋五の両脇は箒とセシリアが固めていて中々の破壊力となっている――タイプは違うが極上のイケメンである夏月と秋五が、夫々タイプの異なる極上の美少女を侍らせているってのは其れだけで絵になるのだから。
薫子は其れをバッチリ写真に収めると満足そうに教室から去って行った……新聞部として、明日の新聞の一面をどうやって飾るか、其れを考える事に専念すると言う事なのだろう。
そして明日発行される学園新聞は過去最高の発行部数を記録し、増刷されるのは略間違いないと見て良い筈だ。
其れは其れとして、夏月のクラス代表就任記念パーティは続き、カラオケパーティでは夏月とロランがデュエットした『メルト(男女混声Ver)』はぶっちぎりの百点満点を記録していた。因みに次点は秋五と箒がデュエットした『楽園』だった。
こうしてクラス代表就任パーティは良い感じに盛り上がり、学生寮の完全就寝時間の三十分前まで続く大宴会になったのであった。
――――――
夏月達がクラス代表就任パーティを楽しんでいた頃――
「此処がIS学園……遂にやって来たわ此の場所に!秋五、一夏……いや、今は夏月か……アンタ達とまた会える事になるとはね。再会を楽しみにしているわ!」
学園島の埠頭に一台の船が停泊し、その船の中からは髪をツインテールにした勝気で活発そうな少女が降りて来た――如何やら夏月と秋五の知り合いであるようだが、此の少女の登場によって学園に新たな嵐が起きる!!……のかどうかは分からないが、だからと言って何もないと言う事にはならないだろう。
IS学園に、中国よりの龍が降臨した、その瞬間だった。
To Be Continued 
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