ジブラルタル基地からグフで出撃したアスランは、メイリンと共にメールに記されたザフト軍の基地を目指し、海上を進んでいた。
「戦闘を避ける事は出来ないと思うが、戦闘にあった場合は君が危険だなメイリン……コックピット内のシートベルトは一つしかないからな……」
「大丈夫ですよアスランさん。
こう見えて、私って実は運動神経良いんです♪摑まるところさえあれば戦闘中のモビルスーツ内でも体勢を維持できますので。」
「……意外と肉体派なのか君は?」
「お姉ちゃんには負けますけど、オペレーターも体力が必要だと思って鍛えてたんです。」
「成程……確かにいざ戦闘となったらオペレーターに休む暇はないから身体を鍛えておいてマイナスになる事はないか。」
「因みに私はそこそこの筋力ですけど、お姉ちゃんは凄いですよ?女性らしい曲線を維持しながらも必要な筋肉がバッチリついてますから……胸とお尻が大きくてウェストは括れていながら腹筋板チョコバレンタインってある意味反則じゃないですかね?」
「彼女の努力の賜物だな。」
今のところは何もなく無事に基地に向かっていたのだが……
――バシュゥゥゥン!!
海上を進むグフに向かって突如ビームが放たれた。
其れは完全なる奇襲であり、普通ならば喰らって撃墜されているところだが、敢えて罠に踏み込んだアスランは何時攻撃されても対応出来るように警戒をしていたので其の攻撃を紙一重で躱し、逆にビームバルカンをビームが飛んできた方向に放つ。
「完全な奇襲だと思ったのだが……それに汎用機で対応して見せるとは流石だなアスラン・ザラ――だからこそ、撃つ価値があると言うモノだ!!」
「アレはテスタメント?……生きていたのかマドカ!
それにもう一機は、プロヴィデンス?……いや、よく似ているが別の機体か……!!」
其処に現れたのはマドカのファラクトテスタメントとプロヴィデンスに酷似した容姿のレイのレジェンド――ゼフトのセカンドシリーズと比較しても負けず劣らずのモビルスーツだった。
「喜べアスラン・ザラ。貴様の友であるキラ・ヤマトの元に送ってやる……大人しく奈落に落ちるが良い!!」
「く……ここはやるしかないか!!」
機体の性能では圧倒的にマドカ達の方が上なのだが、逃げる事も出来ないと判断したアスランは、グフの右手にショートビームソードを展開してファラクトテスタメントに斬りかかるのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE85
『雷鳴の闇~Dunkelheit des Donners~』
数の上では二対一で、更に汎用型の量産機と専用機と言う圧倒的な機体性能の差があるにもかかわらず、アスランは巧みな操縦技術でファラクトテスタメントとレジェンドにクリーンヒットを許していなかった。
「マドカが生きていたとは……イチカに連絡を……って、通じないだと!?」
「スマホでの通信も駄目です……これは、通信阻害のチャフがばら撒かれてますね……」
テスタメントが現れた事でマドカの生存を悟ったアスランはイチカに連絡を入れようとしたのだが、通信阻害のチャフが既にばら撒かれており、連絡する事が出来なくなってしまっていた。
「ククク……増援を呼ぼうとしても無駄だ。
通信を阻害しただけでなくジブラルタル基地のコンピューターにウィルスを送り込んで、貴様の機体のシグナルは順調に目的に向かっているように偽装しているからな!!」
其れだけでなく、マドカはファラクトテスタメントのウィルスでジブラルタル基地のレーダー機能を狂わせ、アスランのグフがあたかも目的地に向かっているかのように偽装していた。
援護の要請もなく、レーダー上では順調に進んでいるとなればジブラルタル基地からの増援は期待出来ないだろう。
「逃がさん!!」
「くっ!!」
更にファラクトテスタメントだけでなくレジェンドも厄介な機体だった。
円盤状のバックパックに多数のドラグーンが搭載されているのはプロヴィデンスと同様なのだが、レジェンドのドラグーンはプロヴィデンスとは異なり、バックパックにマウントされている状態でも角度を変えて固定ビーム砲としての使用が可能なので、ビームライフルと合わせて最大二十五発のビームを一気に放つ事が出来るのである。
「(マドカの機体……胸や肩にあるクリスタル状のユニットはイチカとカタナの機体にあるのと同じモノか?
あの二人の機体はタバネ・シノノノが開発したモノらしいが、それと同じユニットを有していると言う事は、彼女がマドカの機体を改造したのか?……イチカの敵であるマドカの機体を何故……いや、俺の頭では幾ら考えても答えは出ないだろうな。)」
レジェンドからのビームを海面スレスレの飛行で躱したアスランはマドカの機体に搭載されたシェルユニットに疑問を抱きつつも、ビームバルカンで牽制すると、電磁ウィップを放ってレジェンドのビームライフルを絡め取り、そして破壊する――だけでなく、電磁ウィップを振り回してファラクトテスタメントとレジェンドを滅多打ちにする。
PS装甲に対しての物理攻撃は意味をなさないが、機体エネルギーを減少させると言う意味では効果があるだろう――相手がバッテリー駆動のモビルスーツであったのならば。
「ククク……効かんなぁ、アスラン・ザラ!
テスタメントもレジェンドも核エンジン搭載型ゆえに、物理攻撃など……無駄無駄無駄ぁ!!一切効かぬわぁ!!」
ファラクトテスタメントとレジェンドには無限のエネルギーを得る事が出来る核エンジンが搭載されており、其れによりPS装甲は事実上無制限に発動可能となっており、物理攻撃で機体エネルギーを減らす事も不可能となっていたのだ。
「(く……拙いな此れは……)」
此の状況はアスランにとっては圧倒的に不利な状況であり、パイロットの腕では覆しようのない機体性能があるのでアスランもその力を発揮出来ずにいた。
其れだけでなく、このまま戦闘が長引けばそれだけ不利になるのは火を見るよりも明らかだ。
「(通信が繋がらない以上増援は見込めないが、此のまま戦えば圧倒的に俺達の方が不利になる……ならば此処は!!)
メイリン、アイツ等の機体にアクセスしてレーダー機能をハッキングする事は出来るか?」
「へ?は、はい出来ます!」
「適度に奴等と戦いつつ、ワザと攻撃を喰らって海に落ち、ビームブレードを鞭で破壊して爆発させて撃墜を偽装する。
奴等を完全に騙す為にレーダーから此の機体のシグナルを消去して欲しいんだが、行けるか?」
「爆発直後にですよね?……大丈夫です、行けます!」
「頼む……落下の際の衝撃には備えておいてくれ!」
「了解です!」
このまま戦闘を続けても絶対的に不利だと判断したアスランは、自機の撃墜を偽装する事にした。
致命傷を避けてワザと攻撃を受けるというのは可成り難易度が高い事ではあるが、ストライクと死闘を演じた際にイージスの自爆コードを起動させてから脱出したアスランにとってはそれほど難しい事ではないだろう。
其処からの戦闘は基本的にはアスランが押される形だったが、アスランは致命的な攻撃は全て躱し、カウンターでレジェンドのビームライフルを電磁ウィップで絡め取って破壊したりしていた。
「此の状況でも諦めずに戦うとは……矢張り貴様は強いなアスラン・ザラ――だからこそ殺し甲斐もある!!」
此処でマドカはアスランを確実に仕留めるべくウィルスを送り込んだのだが……
「其のウィルスはセイバーにデータが残っていたから既にカンザシがワクチンプログラムを開発済みだから効かない……喰らえイチカ直伝!真・昇龍拳!」
「ウィルスが効かないだと!?……ワクチンプログラムを開発したのか……!」
セイバーが撃破される要因となったウィルスに対するワクチンプログラムは既にカンザシが開発しており、ザフトの全てのモビルスーツにそのワクチンプログラムが搭載されているのでウィルスは無効化されていた。
更にアスランはグフを操作してファラクトテスタメントにショートボディアッパー→ショートアッパー→ジャンピングアッパーの連続技を叩き込み、吹き飛んだところを電磁ウィップで絡め取り、ジャイアントスウィングで振り回した後にレジェンドにぶん投げる。
「此れがアスラン・ザラか……予想以上に強いな。」
「上等だ……流石はヤキンドゥーエを生き抜いただけの事はある……!!」
「(機体エネルギーは残り30%……潮時だな。)」
レジェンドは見事にファラクトテスタメントをキャッチし、グフに攻撃を行ったのだが、アスランは機体エネルギーの残量を見て此処が潮時と見極め、撃墜偽装作戦を敢行する事にした。
あくまでも悟られないように適当に戦闘を行いながら、左腕をワザと切断させ、レジェンドのドラグーンビーム砲をコックピットを避けて受けてから海に飛び込み、ビームブレードを放り投げ電磁ウィップで破壊して爆発を起こした。
「メイリン!」
「合点承知です!」
更に此処でメイリンがファラクトテスタメントとレジェンドのレーダーにハッキングしてアスランのグフのシグナルがロストしたかのように偽装したのだった。
「爆発にシグナルロスト……完全に落ちたか……ならばもうここに用はない――戻るぞレイ。」
「あぁ、そうだな……キラ・ヤマトもそうだったがヤキンドゥーエの英雄も死ぬ時はあっけないモノだな。」
だがこの偽装は大成功し、マドカとレイは戦場から去って行った――マドカはジブラルタル基地へのハッキングを解除してアスランのグフのシグナルがロストした事を明らかにしていた。
――――――
一方ジブラルタル基地では状況が混乱していた。
レーダー上では無事に該当基地に向かっていたアスランのグフのシグナルが突如としてロストしたのだから現場が混乱するのは当然と言えば当然だろう。
「一体何が起きたと言うのだ?
彼のグフは順調に当該基地に向かっていた筈だが……まさかとは思うが、この基地のコンピュータが外部ハッキングを受けてレーダー情報が偽装されていたとでも……?」
シグナルロストは機体信号を捉えられなくなったからであり、即ち機体が破壊されたと言う事ではないのだが、何れにしても当該機体に何らかのトラブルが起きた事だけは間違いないだろう。
デュランダルを含め、オペレートルームにいる全員の脳裏に最悪の可能性がよぎるのは致し方ない事だ。
『……ジブラルタル基地、聞こえますか?こちらはアスラン・ザラ。応答を願います。』
だが次の瞬間、アスランからの通信が入り、オペレータールームには安堵の息が溢れた……最悪の可能性だけは回避したのだから当然だろう。
「アスラン、無事だったか。メイリン君も無事かね?」
『議長……はい無事です。』
『なんとか無事で~す!』
「イキナリ此方のレーダーから機体シグナルがロストしたから何事かと思ったのだが……何があったのかね?」
『第三勢力の連中に襲撃されました……増援を求めようと思ったのですが通信が妨害されて……』
「なんと……其れで相手を退けたのかな?」
『二対一では流石に無理でしたので、撃墜されたように偽装してやり過ごしました。
ただ、そのせいで機体の損傷が激しく自力で其方に戻る事は出来そうにありませんので、回収に来て頂きたいのですが。』
「了解した。すぐに救助に向かうとしよう。」
アスランは何が起きたのかをザックリと説明すると救援要請を行い、デュランダルも直ぐに救助部隊を向かわせようとしたのだが――
『あ~~……割り込み通信失礼。
此方はオーブのレドニル・キサカだ。現在地球連合軍に潜入調査中なんだが、今は彼が戦っていた海域近くにいるんでね彼は此方で回収しようと思う。』
其処に割り込み通信をして来たのはカガリの側近であるキサカだった。
キサカは連合の動向を探るために連合の兵士として紛れ込んで潜入捜査を行っている最中だったのだが、偶々この海域での任務に来ていた事で今回の事態に遭遇し、数名の部下と共に連合の潜水艇を乗っ取ってアスランの救助に向かおうとしていた。
「君は……確かアスハ代表の側近だったね?
確かに救助は早いに越した事はないのだが、連合に潜入捜査中だと言うのであれば勝手な行動は拙いのではないかな?」
『そいつは心配ご無用。ここらで抜けてアークエンジェルに向かう予定だったからな。
先に言っておくとアークエンジェルは無事だ。フリーダムのパイロットもな……カガリから連絡があった。』
「そうか……無事だったのかアークエンジェルは。」
更に予想外にアークエンジェルが無事だった事も聞かされ、デュランダルは安堵した。
ここから先のロゴスとの戦いに於いて、アークエンジェルの力は必要不可欠だと考えていたから。
『そんでだ、彼は回収後にアークエンジェルに連れて行くけど良いよな?
フリーダムは大破して、バルトフェルドの旦那は宇宙に上がっちまってるからアークエンジェルは正直戦力不足だ――ムラサメ部隊だけじゃ少し心許ないのは否めないんでね。』
「だがアークエンジェルに彼が使えるモビルスーツがあるのかね?」
『バルトフェルドの旦那が使ってたムラサメがある。
武装は同じだが、通常のムラサメとは違って設計限界のギリギリまで機体性能を上げてあるから彼の力を十二分に発揮出来るはずだ。』
「成程……私としては此方で彼等を回収したいところだが、君は如何するねアスラン?」
『俺は……アークエンジェルに行こうと思います。
キラ達の現状を知っておきたいですし、今のザフトの戦力を考えれば俺一人が居なくなったところで然程痛手でもないでしょう――メイリンの離脱は痛手かも知れませんが。』
『私くらいのオペレーターは其れなりに居ると思いますよアスランさん?』
『いや、俺が知る限り君よりも優秀なオペレーターはカンザシとアークエンジェルのクルーだったミリアリア位だ。』
「ふむ……アスランとメイリン君が抜けるのは此方としても痛手だが、アークエンジェルの戦力補充の方が重要か……充分な戦力が無くてはアスハ代表がオーブをセイラン家から奪還するのも難しいだろうからね。
承知した。アスランとメイリン君の回収は其方に任せる。回収後、速やかにアークエンジェルへと向かってくれたまえ。」
『了解だ。』
キサカの提案で回収後アスランとメイリンはアークエンジェルに向かう事となった。
アークエンジェルの戦力は現在ムラサメ部隊だけとなっているのだが、其処にアスランが加入してバルトフェルドが使っていた『リミッター解除ムラサメ』を使えば戦力としては大幅な底上げとなるだろう。
『そうだ議長、イチカに伝えて欲しい事があります。』
「なんだね?」
『マドカは生きている……そう伝えて下さい。』
「マドカ……タバネ博士が言っていたイチカのスペアの少女か……分かった、伝えておこう。」
アスランは回収される前にデュランダルにイチカへの言付けを頼むと、『マドカは生きている』と言う事を伝え、其れを聞いたデュランダルも必ず伝えると約束し、其の直後にグフはキサカ達に回収され、アークエンジェルへと向かうのだった。
そして――
「と言う訳でアスランとメイリン君は無事だったのだが、彼等を襲ったのはマドカだったそうだ。」
「あの爆発に巻き込まれても生きてたとは……呆れた生命力だなマドカ?
いや、真剣と青龍刀で斬りかかられて、ライフルとショットガンで撃たれても無傷で生きてた俺の別バージョンなら生きてても不思議はねぇか……尤も、その拾った命を自分で捨てる選択をしたみたいだがな。」
デュランダルからマドカ生存の報を聞いたイチカは手にしていた缶コーヒーの缶を握り潰していた――栓を開けていたとは言え、スチール缶を握り潰すとは相当な握力が無くては出来ない事だ。
「マドカ・オリムラ……君のスペアとの事だが……」
「オリムラ計画で誕生した俺のスペアでありドナー。
確かにその通りなのかもしれないけど、其れを理由にして俺を恨んでる大バカ者っすよ……俺のスペアでもドナーでもなく、自分が『マドカ・オリムラ』って一人の人間である事に気付いてない大バカ者だ。」
「イチカ……」
「まぁ、心配しなくとも次に俺の前に現れた其の時は確実にぶち殺しますよ……だが先ずはヘブンズベースだ――そうでしょう議長?」
「うむ……確かに先ずは眼前の作戦に集中せねばだな。」
イチカはマドカへの怒りを覚えつつも、先ずは眼前に迫ったヘブンズベース攻略戦に集中する事を第一としていた。
ジブラルタル基地には離反した連合の部隊も合流しており、更にデスティニーとイージスセイバーと言う二機の最新鋭機に加え、キャリバーンフリーダムとガイアには追加武装が施されて強化されている。
シンがデスティニーに乗り換える事なった事で空位になったインパルスにはルナマリアが乗る事になったのでアスランが抜けたとは言え戦力的には若干の底上げがされたと言えるだろう。
「時に議長、ロゴスのメンバーは捕らえろとの事だったが、別に殺してしまっても構わんのだろう?」
「捕らえる事が出来ればベストだが、捕らえるのが無理と判断した場合は狩ってしまって構わないよ……彼等の存在は此の世界にとって害悪以外のナニモノでもないのだからね。」
次なる戦場はヘブンズベース。
そして其処ではザフトと連合の最高戦力がぶつかり合う激戦が展開されるのだった――
To Be Continued 
|