「キラ・ヤマトは始末したが、次のターゲットはアスラン・ザラか、それともラクス・クラインか……さて、何方を狙うべきか?お前は如何思うレイ?」
「狙うのならばアスランだろう。
ラクスの方は現状では単独行動をしているのが本物なのか、それともギルと居るのが本物なのか判断が付かないからな……確実に仕留めるのであればアスラン一択だ――カタナの始末は一番最後と考えているのだろうからなお前は。」
「其れは当然だ……イチカにとって一番大切な存在は最後の最後で目の前で奪ってやるに限るからな。」
アークエンジェルとの戦闘後、アベンジャーズではマドカが次のターゲットをレイと共に決めていた。
まずはイチカの仲間達を全て殺してからイチカを狙う予定のマドカなのだが、その次のターゲットはアスランになっていた――ラクスを狙った方がプラントには大ダメージになるのだが、現状ではデュランダルと共にプラントに居るラクス(ミーア)が本物なのか、それとも単独行動をしているのが本物なのか判断出来ないので、アスランをターゲットに決定してた。
シンやルナマリア、そしてロランがターゲットになっていないのは何時でも殺す事が出来ると考えているからなのかもしれないが……
「だが、アスランはヤキンドゥーエのジャスティス……簡単に殺す事は出来んぞ?」
「キラの時とは違いキソを使う事は出来んからな。
だが手はある……テスタメントのウィルス生成機能を使ってジブラルタル基地のコンピューターにウィルスを流し込んで『ジブラルタル基地にほど近い基地からアスランへの出向依頼』が有ったと偽装する。
タバネが改造してくれたおかげで、テスタメントのウィルスによる改竄を見破るのはほぼ不可能となっているから、ジブラルタル基地の連中は其れを信じるだろう――そうして、アスランが単独で他の基地に向かったところを狙う。
序だ、ミネルバの指揮系統を破壊する意味でもミネルバのオペレーターを一人連れて来るように記載しておこう。」
「アスランだけでなくオペレーターも道連れにするか……悪辣だな。」
「イチカを殺すのが私の目的だ……それを成し遂げる為ならばどんな事だってしてやるさ――其れこそ、イチカを殺す事が出来るのであらばイチカを殺した暁にこの身が如何なったとて構わんからな。」
「己の命も厭わないか……尤もアベンジャーズはそう言った連中の集まりだがな。」
マドカはテスタメントのウィルス生成能力を使ってジブラルタル基地に偽のメールを送ってアスランを誘き出し、更にはオペレーターも一緒に連れ出させて始末する心算だった。
タバネの改造によってテスタメントのウィルス生成能力はレベルアップしており、其のウィルスを使って作成した偽メールを見切る事はほぼ不可能であり、此の最悪のメールによって、ロゴスとの最終決戦を前にザフトの最高戦力に暗雲が立ち込めるのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE85
『最悪の罠~Worst Trap~』
マドカがジブラルタル基地に送信したメールは直ぐにデュランダルがその内容を確認していた。
「(このタイミングでアスランとオペレーターの出向要請?……送信元のアドレスはザフト軍のモノだが、有り得ないな。
あの基地は充分に戦力が足りていたし、アスラン個人を呼び出す必要性がない……つまりこれはロゴスか第三勢力の罠――であるのならば無視をするのが最善なのだが、無視した場合どうなるかが分からないのが厄介だな?
無視した場合どうなるかを明記した脅迫文であればやりようもあったのだが……ダイスの目がどう出るか分からない以上は無視する方が危険か。)」
デュランダルはこのメールが偽物だと直ぐに見抜いたのだが、どう対応すべきかを迷っていた。
最善の策は無視する事なのだが、脅迫状とは違い『要求に従わなかった際のデメリット』が明記されておらず、其れ故に完全無視でメールを削除と言う事も出来なかったのだ――同時に、マドカの策は完全にデュランダルには見抜かれても対応を迷わす事は出来ていた。
「タリア、君は如何すべきだと思う?此れを無視するのも些か危険だと思うのだけれどね……?」
「正解が無いのが厳しいわねギルバート。
恐らくだけれど、これは何方を選んでも不正解だと思うわ――アスランを向かわせたらアスランが狙われ、無視した場合はきっとこの基地が狙われると思うから……メールの送り主は最悪の二択を迫って来たのよ。」
「極論を言えば命を数で数えろと言う事か……だが、その考えで行くならばアスランを向かわせるのが正解となるのかな?」
「そうなるわね……尤も、彼のパイロットのとしての腕前を考えればグフでもロゴスや第三勢力と互角以上にやり合えると思うけれど。」
「彼の力に全てを委ねるか……」
デュランダルとタリアは話し合った結果、アスランを向かわせる事にした――其れは敵の思う壺なのだが、デュランダルとタリアはアスランのずば抜けたモビルスーツの操縦技術に全てをかける事にしたのだった。
――――――
ヘブンズベース基地への攻撃を数日後に控えたジブラルタル基地ではミーアがライブを行い、兵士達の士気を高めていた――のだが、そのライブステージには何故かイチカとカタナの姿もあり、カタナは見事なギタープレイで、イチカは圧倒的なドラムプレイで会場を沸かせていた。
ギターとドラムの担当が突如体調不良でステージに上がれなくなった事でミーアがイチカとカタナに頼み込んだのだが、イチカとカタナは其れを了承して圧倒的なパフォーマンスを披露したのであった。
尤もイチカもカタナも前世の記憶で学園祭でのライブの記憶を取り戻していたからこそのパフォーマンスだったと言うのもあるのだが。
「ライブは大盛況……ありがとうイチカ、カタナ!貴方達が居なかったらライブは失敗してたかもだわ。」
「ダチ公の頼みは断らねぇ。てか断る理由がねぇ……超久々のドラムも楽しめたしな。」
「ステージでギターをかき鳴らす……やっぱり何とも言えない快感よね。」
イチカとカタナはライブ後の何とも言えない高揚感を感じていた。
「そう言えば、お前はラクスと一緒に宇宙に上がった訳だけど、ラクスはどこに行ったんだ?」
「ラクス様はバルトフェルド隊長とフレイさんと一緒に途中でシャトルから降りてターミナルに向かったわ……迎えにエターナルが来たのには驚いたけどね。」
「エターナル……虎の旦那、流石だな。」
「抜かりないわねぇバルトフェルド隊長は。」
イチカとカタナはミーアとラクスについての会話をしながら、ラクスがターミナルに向かったという事を聞いて近いうちに何か大きな事が起きるのではないかと思っていた――ターミナルは言うなれば『ユニウス条約』の外にある組織なので、条約に縛られずにモビルスーツの開発が出来る唯一無二の組織なので、其処で条約の枷に囚われない自由な開発が出来るのだ。
そして、其処にラクスが向かったと言う事は、ラクスの命の元に開発されたモビルスーツが完成間近であると言う事を示していた。
「其れは兎も角として、私は此れからどうなるんだろう?本物のラクス様が表舞台に戻って来たら、影武者の私って用済みになるんじゃないの?」
「ところがギッチョンそうはならねぇんだよなぁ此れが。」
「貴女とラクス様が同時に姿を現した事でラクス様の命を狙う者達には影武者の存在を明らかにしつつ、何方が本物であるのかを判断させる二択を迫る事になったからね。
更に議長は何方が影武者であるのかを悟らせない為に護衛も充分に用意しているわ……貴方には私達が、ラクス様にはバルトフェルド隊長と言った具合にね。」
「あ、そうなんだ……」
ミーアは本物のラクスが表舞台に出て来た事で自分が用済みになるのではないかと危惧していたが、イチカとカタナは其れを否定し、逆に『護衛が充実しているから大丈夫だ』と伝えていた。
「戦争が終わったら、ラクスとユニット組んでみるってのは如何よミーア?ダブルラクスになるデュオユニットは結構ウケると思うんだけどな?」
「あら、其れは確かにイケるかもしれないわね♪」
「ラクス様とユニットって……とってもご褒美です!!」
更にイチカの提案でミーアは興奮が高まって鼻からラクスへの愛を噴出して気絶してしまった……ラクスに憧れていたミーアにとって、ラクスとユニットを組むと言うのは其れだけの事だったのだろう。
普通なら大事になるところだが、イチカは気絶したミーアを倒れる前にキャッチして姫抱っこをすると、目にもとまらぬ速さでジブラルタル基地の医務室に運び込み事無きを得たのだった。
ミーアは医務室のスタッフに任せ、イチカとカタナはモビルスーツのハンガーにやって来ていた。
ハンガーではヘブンズベースでの作戦に備え、モビルスーツの整備が行われており、新型のデスティニーとイージスセイバー、新たな武装が搭載されたキャリバーンフリーダムとガイアは特に入念な整備が行われているようだった。
「しかしまぁ、デスティニーとイージスセイバーは核エンジン搭載機だったとはな……余裕で条約違反なんだが、条約其の物が今や形骸化してるから問題なしか――そもそもにして此の機体って条約の外の存在であるターミナルで作られたんだろうしな。」
「ロゴスを討つには必要だったと言う事ね……核エンジンなら、核ミサイルよりはまだ許容範囲でしょうし。」
「しかも核エンジンに何らかのトラブルが起きた時の為にデュートリオンバッテリーも搭載してるんだから抜かりねぇよなぁ……流石は議長だぜ。」
整備が行われている中、シンはデスティニーのコックピットでOSや各種機器の確認を行っていた。
基本的にはインパルスと同系統のコックピットではあるのだが、新型ゆえに細かい変更点があるので其れ等を作戦前にチェックするのは当然の事だと言えるだろう。
「よう、新型はどんな感じだシン!」
「イチカさん!凄いですよデスティニーは!
モビルスーツ用の武装の全部乗せみたいな感じです!しかも、掌にも短射程のビーム砲が搭載されてるんです!」
「掌にビーム砲だと?……だったら出来るな、男子永遠の憧れである必殺技『かめはめ波』が!」
「其処までの射程は無いと思いますよ?多分、掴んでからのゼロ距離攻撃的な使い方かなぁって。」
「なら琴月 陰ブチかませ。」
デスティニーにはビームライフルとビームシールド発生装置付きの小型シールド、レーザーブレード対艦刀、長距離射程ビーム砲、ビームブーメランと一通りの武装が搭載されており、更に掌に超短砲身ビーム砲『パルマフィオキーナ』が搭載されており、あらゆる間合いに於いて戦う事が出来る機体となっていた。
シンも其の性能には驚かされていたが、同時にデスティニーならば自分の今の力を存分に発揮出来ると確信しているようだ。
ロランもまたイージスセイバーのコックピットで細かい調整を行っており、こちらも機体の性能には満足と言ったところだろう。
そんな中……
「待ってメイリン!それにアスランも!!どうしてそんな明らかに罠でしかないモノにノルのよ!!」
「罠だからこそだ……その罠其の物を破壊する。」
「其れに相手はオペレーターも要求して来たから……だから私が志願したんだよお姉ちゃん。私なら、最悪の場合にハッキングで敵にシグナルロストを誤認させる事が出来るから。」
アスランとメイリン、そしてルナマリアがハンガーにやって来た。
何やら揉めているようだが……
「如何したアスラン?何か問題発生か?」
「イチカ……あぁ、ある意味で大問題だ。
さっき議長に呼ばれたんだが、他所の基地から俺とオペレーター一人を寄越せとのメールが議長あてに届いたらしい……だが其れは、ロゴスか第三勢力が寄越したモノらしくてな。
要求に応えなかった場合、どうなるかが分からないから一先ずは要求に応える事にしたらしい……議長からは『君ならばイチカやキラ君程の相手ではない限りは負ける事はないだろう』って言われたよ。」
「議長、結構な無茶ぶりをするわね……尤もそれだけアスランの腕前を買ってるって事にもなるのでしょうけれど……で、何でメイリンちゃんを?」
「今この基地で最高のオペレーターが彼女だったからだ。
メイリンはキラ程じゃないがプログラム関係に強いらしいからな……最悪の場合は俺の撃墜を偽装して貰う事になるだろう――危険な任務である事に変わりはないがな。」
アスランはデュランダルから件のメールの内容を聞かされ、罠と知りつつもメイリンを伴ってグフで出撃する為にハンガーにやって来たのだった。
勿論メイリンの姉であるルナマリアは大切な妹を危険に晒す事になるので反対しているのだが、メイリンの意思は固く、折れる事はないだろう――寧ろ、自分の力が必要であるのならばと意気込んでいるようにすら見える。
「タバネさんが何も言って来ねぇって事は、お前とメイリンの出撃は必要な事なんだろうな……でもって、最悪の事態が起きてもお前とメイリンが死ぬ事だけはないってか……なら行って来いアスラン。」
「ちょ、イチカさん!?」
「大丈夫よルナマリアちゃん。
イチカが言ったように、タバネさんが何も言って来ないって事はこれは必要な事であるだけじゃなく、アスランもメイリンちゃんも死ぬ事だけは絶対にないって言えるから……タバネさんは狂人だけど信頼出来るから♪」
「信頼できる狂人って何ですか其れは!?」
「信頼できる狂人と書いてタバネ・シノノノとルビを振る!」
「意味が分かりません!!」
ルナマリアはメイリンが一緒に行くのを良しとしなかったのだが、イチカとカタナの言う事を聞いて、突っ込みを入れながらも納得していた――ステラの強化人間としての不具合を完璧に治してしまったタバネの力を見たからこそ納得できたのだろうが。
「そうだアスラン。」
「なんだイチカ?」
「もしも現れたのが第三勢力で、其処にマドカが居たら俺に連絡してくれ……マドカの事ぶち殺しに行くから。」
「お前……分かった。その時は連絡を入れる。」
そうしてアスランはメイリンと共に赤紫色にカラーリングされた専用のグフに乗り込むとジブラルタル基地を発ち、件の基地へと向かうのだった。
――――――
「アスラン・ザラがメイリン・ホークと共にジブラルタル基地を発ったか……私達も行くぞレイ。」
「良いだろう……貴様等に恨みはないが、俺達の目的を達成する為に此処で散れアスラン・ザラ……!」
一方、テスタメントのウィルスを使ってジブラルタル基地のハッキングを行っていたマドカはアスランが出撃した事を知りレイと共に出撃した――アスランを討つために。
「テスタメントファラクトの初陣としてアスラン・ザラは申し分ない相手だ……其の力、堪能させて貰うぞ……パーメット3!!」
――ヴォン……!
マドカがそう言った瞬間、テスタメントファラクトのシェルユニットが赤く発光し、同時にマドカの顔に赤く輝く痣が現れた。
「ぐぅぅぅ……頭が痛い、息が苦しい、さっき食べたモノを吐きそう……だが、此の苦痛が私が生きている事を実感させてくれる……ギリギリの極限状態でのみ感じられる高揚感が最高だ。
アスラン・ザラ、地獄からの使者がやって来たぞ……大人しく其の首を差し出せぇ!!」
マドカは相当な苦痛を味わいながらも口元には笑みを浮かべ、ジブラルタル基地を発ったアスランに向けて全速力で突撃するのであった。
To Be Continued 
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