キサカによって救助されたアスランとメイリンはアークエンジェルへとやって来ていた。
先のアベンジャーズとの戦闘で撃墜を偽装する事で生き延びたアークエンジェルだったが、艦隊には無視出来ないダメージを負っていたため、セイラン家に悟られないように秘密裏にオーブのオノゴロ島に潜伏し、オーブ屈指の機械企業である『モルゲンレーテ社』のスタッフによる改修が行われていた。


「オーブは複数の島国からなる国家だからこそ出来た事だな此れは……あの紫ワカメのボンボンじゃ気付く事も無いだろうからな。」

「アスランさん、セイラン家の御長男のこと嫌いなんですか?」

「嫌いだな、大嫌いだ。
 自分の立場を鼻にかけて偉そうに振る舞う態度が気に入らない。何よりも、顔がムカつく態度がムカつく兎に角腹立つ、カガリに触れる事自体が万死に値する……正直言うと、アイツが乗ってる戦艦が分かっていたら真っ先に撃沈してたと思う。」

「相当ですね其れは……」


アスランはユウナ・ロマ・セイランに対しては悪感情しか抱いていなかったのだが其れも致し方ないだろう。
自分の事を見下して、更に嘗ての婚約者と言う立場を最大限に利用してカガリに触れていると言う事はアスランにとっては許し難い事であり、其れ故にユウナはアスランに取っての明確な敵と言えるだろう。


流石に無傷とは行かなかったのでアスランとメイリンは先ずは医務室で怪我の処置をしてからアークエンジェルのブリッジに向かって行った。


「アスラン!」

「イチカの予想通り、生きていたかキラ!だが、これでまたお前と共に戦う事が出来るな!」

「うん!!」


其処でアスランはキラと再会し、がっちりと握手を交わす。
奇しくもマドカ達『アヴェンジャーズ』の介入があった事でアスランはアークエンジェルと合流し、アークエンジェルには先の大戦で大きな戦果を残した自由と正義が揃ったのだった。


「アスラン君、ザフトは此れからどう動くのかしら?」

「次の目標はヘブンズベースですラミアス艦長……正直なところ、ブルーコスモスの本拠地だけに相当に堅いでしょうから手負いのアークエンジェルでは行ったところ足手纏いになると思いますので今回は静観の方が良いかと思います。」

「十全の状態でなければ足手纏いでしかないわね……貴方の言う通り、今回は静観が正解ね――今回はザフトに任せるとしましょう。」


アスランの予想を聞いたマリューはヘブンズベースへの戦いに介入する事は止めた。
今のアークエンジェルは手負いであり、そんな状態で出撃しても帰って足手纏いになるだけなので、今はその先に備えてアークエンジェルを十全の状態に修理する事が第一なのであった。









機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE87
『新しき旗~Neue Flagge~』










ヘブンズゲートを目前にして、ミネルバではモビルスーツの最終チェックが行われ、イチカ、カタナ、シン、ロラン、ルナは夫々専用機の状態を確認していた。
其れが終わった後、シンとルナマリアはサロンの自販機の前でバッタリと出くわしていた。


「……インパルス、やっぱり凄いね……私に扱い切れるかな?」

「なんだよ、らしくないなルナ?俺が使えたんだからルナだって使えるって。」

「アンタねぇ……アカデミア時代なら未だしも、悔しいけど今となってはアンタと私って結構差があると実感してんのよ!
 イチカさんに次いでミネルバナンバー2のアンタが使ってた機体……私で十全に力を発揮出来るか不安なのよ……シンは凄いよ、ホントにね。」

「いや、ルナなら大丈夫だって。
 イチカさんも『ザクじゃルナマリアを持て余してた感じがしたからインパルスで丁度良いんじゃねぇかな?』って言ってたし……てか、俺がミネルバの二位なのかよ?アスランは?」

「アスランは僅差の三位よ……アンタと違って一度落とされてるからね。」

「ルナの評価厳しいなぁ。」


ルナマリアはインパルスの担当になった事に少し気負っているらしかったが、シンが大丈夫だと言った上で『イチカのお墨付き』だと言うと、ルナマリアも納得したらしく緊張が解れたようだ。


「其れに何があってもルナの事は俺が守るから……絶対に。」

「シン……だけど、守られてるだけの女じゃないわよ私は……アンタが私を守ってくれるなら私もアンタを守るわ、絶対にね。」

「ルナ……」


だが守られるだけを良しとしないルナマリアは、自分もシンを守ると宣言し、シンも其れを受け入れ、互いに相手の事を守る事を誓うかのように唇を重ねる。
出撃前の恋人達の時間……なのだが。


「…………シンとルナ、ラブラブ?」

「うおわぁ!?」

「ステラ!?」


何時の間にやら其処にステラが居た。


「シンはルナが好き。ルナもシンが好き。だからチューした……ステラもシンとルナが好き。だから……チュ♪」

「へ?」

「ほわ!?」


更にステラはまさかのシンとルナマリアにキスして見せた……ステラ的にはキスは好意の最上級表現であり、恋人であるか同性であるか否かはさしたる問題ではないのだろう。
これには流石にシンとルナマリアも驚いたのだが、互いに妹からの親愛のキスをされたと思う事でなんとか納得したのだった。








――――――








そして始まったヘブンズベースでの戦闘。
ザフト側はミネルバを旗艦とした大部隊で出撃し、此の戦闘で一気にロゴスを壊滅させる心算だった。


「イチカ・オリムラ。キャリバーン、行くぜ!」

「カタナ・サラシキ。エアリアル、出るわ!」

「シン・アスカ。デスティニー、行きます!」

「ロランツィーネ・ローランデフェルネェイ。セイバー、発進する!」

「ステラ・ルーシェ。ガイア、出る!」

「ルナマリア・ホーク。コアスプレンダー、行くわよ!」


ミネルバからはザフトの最新鋭機が出撃し、他の艦隊からもグフや、グゥルを装備したザクが出撃して、ヘブンズベース基地から出撃して来たウィンダムやダガーと戦闘を開始する。
傑作機と名高いストライクをベースに開発された連合の量産機であるウィンダムとダガーは高性能なのだが、ザフトの主力量産機であるザクは重力下での単独飛行能力こそ持たないモノの、ウィザード無しでもビームライフル、ビームトマホーク、ハンドグレネード、ビームライフル用のバッテリーを搭載しており、総合性能ではウィンダムとダガーを上回っており、グフはセカンドシリーズの量産機コンペでザクに負けて後期開発になったとは言え、重力下での単独飛行能力と高い汎用性を備えているので矢張りウィンダムやダガーと比べると性能面で勝っていると言えるだろう。

汎用量産型の性能で上回ってる時点で既にザフトの方が圧倒的に有利なのだが――


「雑魚に用はねぇ!ロゴスのお偉いさんを出しやがれ!!」

「私達はキラ君みたいに優しくないわ!戦うって言うのなら落としちゃうわよ!!」

「邪魔をするな!どけぇぇぇ!!!」

「愚かな主を守る愚かな家臣か……マッタクもって美しくない。端役には早急に舞台から降りて貰おうじゃないか!」

「邪魔するんじゃないわよ!落ちろ!!」

「敵は落とす。容赦しない。」


ミネルバ所属のキャリバーンフリーダム、エアリアルジャスティス、デスティニー、イージスセイバー、インパルス、ガイアが圧倒的な強さを見せつけて連合のモビルスーツを次から次へと撃墜して行った。
特にキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスにはビット兵器『エスカッシャン』があるので、其れを利用した多角的攻撃が可能で、その多角的攻撃で連合のモビルスーツを次々と撃破して行った。


「次から次へとキリがねぇ……カタナ!」

「一気に終わらせましょうイチカ!」

「「パーメット6!!」」


――バシュゥゥゥン!


更に此処でイチカとカタナがSEEDを発動し、それと同時にキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスのシェルユニットが青く輝き、機体の真の力を発揮した。
パーメット6の特徴である『機体のコントロール奪取』、『リライド』を使って連合のモビルスーツのコントロールを奪ったのだ。

コントロールを奪われた機体はシン達が即時に撃墜し、ヘブンベースが落ちるのは時間の問題と思われていた。


『生体CPU搭載完了。』

「行くぜぇぇぇ!!」


だが、ここで連合は切り札を切って来た。
其れは嘗てベルリンを焦土と化したデストロイ。
此の局面であの悪魔のような超巨大モビルスーツを出撃させて来たのだ。しかも其の数はなんと五機――僅かな時間でベルリンを焦土と化した超巨大モビルスーツが五機も現れたと言うのは確かにこの上ない脅威となるだろう


「アレが五機も!!艦長、流石にこれは些か拙いのでは!?」

「落ち着きなさいアーサー。大丈夫よ、彼等ならね。」


其れを見たミネルバの副艦長であるアーサー・トラインはデストロイの登場に慌てるが、タリアは慌てる素振りを見せず、イチカ達ならば大丈夫だと言い切って見せた。
ベルリンでのデストロイとの戦闘時はアークエンジェルとの共闘だったが、今回は戦力はその時よりも多く、シンとロランは新型機に乗り換えており、ルナマリアもザクからインパルスに乗り換えており、総合戦力ではベルリンの時よりも上なのである。


「今更そんな虚仮脅しが通用するかぁ!!」


――バシュゥゥゥン!!


ここでシンがSEEDを発動し、超高速でデストロイに接近すると、アロンダイトで背部の円盤型バックパックを切り裂いて破壊し、更に右手のパルマフィオキーナで頭部を破壊してデストロイ一機を戦闘不能にして見せた。
そして其れだけでなく――


「本体から離れてビットみたいに動く腕には陽電子リフレクターが搭載されてるが、本体には一切の防御機構はねぇ……つまり、近接戦闘なら問題なくぶっ壊せるって事だ!」


イチカもキャリバーンフリーダムの新装備である対艦刀『バルムンク』でデストロイの右腕を斬り落としていた。


「圧倒的な巨体と火力で圧倒しようとしたんだろうが、あてが外れたな連合の馬鹿共。
 デストロイは確かに一瞬で都市を焦土に出来るが、大きいだけに開発コストがかさむから何処かで開発コストを抑えなきゃならねぇ……ギリギリまでコストを抑えた結果、デストロイ本体の装甲は薄くなってるみたいだな。」

「コイツ等はデカくて火力は凄いけど本体の防御力は高くない!
 だったら……ルナ、ソードに換装するんだ!」

「え?」

「エクスカリバーを、ロランさんに!!」

「成程ね!!」


この事からデストロイ本体の防御力の低さが露呈され、シンはルナマリアにソードシルエットに換装するように言うと、ルナマリアはそれに従ってソードシルエットに換装すると、エクスカリバーの一本をイージスセイバーに投げ、其れを受け取ってイージスセイバーもエクスカリバーを構えてデストロイに向かう。
エアリアルジャスティスには通常のビームサーベルよりも高い出力のビームブレード兼ビームブーメランがあり、ガイアには対艦刀と同レベルの出力があるグリフィンビームブレードが搭載されているのでデストロイの装甲を切り裂く事は容易だった。

エクスカリバーをイージスセイバーに投げ渡したインパルスはシルエットからビームブーメランを投擲してデストロイの装甲を切り裂くと、更にエクスカリバーでバックパックを破壊する。
そして追撃にエアリアルジャスティスがビームブレードをコックピットに突き刺して二機目のデストロイ撃破だ。


「やるわねぇルナマリアちゃん♪」

「カタナさん、私も赤なんですよ?」

「オホホ、ザフトの赤に違わない実力ね♪」


そして其処からは超一流の戦士達による巨人の虐殺ショーの始まりだった。
三機目のデストロイはキャリバーンフリーダムに両腕を斬り落とされた後にイージスセイバーにエクスカリバーでコックピットを貫かれて爆散し、四機目はモビルアーマー形態のガイアのグリフィンビームブレードで全身をズタズタに切り裂かれた後にエアリアルジャスティスにコックピットを袈裟に切り裂かれて撃破。
残るはスティングの一機のみとなったのだが……


「デカくて遅くて弱かったら、敗北一択だぜ!!」

「これで終わりだぁぁぁ!!!」


其れもキャリバーンフリーダムが頭部を斬り落として行動不能になったところをデスティニーがアロンダイトでコックピットを貫いてターンエンド。


「アウル……ステラ……」


死の瞬間、スティングは消された記憶を僅かに思い出したのか、弟分と妹分の名を呟き、そして散って行った。

デストロイが全機撃破されてからはザフトが連合を圧倒した。
モビルスーツの基本性能で勝っているザフトに対し、連合側は防戦一方となっただけでなく、ミネルバの最強戦力によってヘブンズベースの戦力は略撃破されてしまい、最早白旗を上げる以外の選択肢は残っていなかった。

其の後、ロゴスのメンバーは捕らえられたのだが、その中に現在のロゴスの盟主である『ロード・ジブリール』の姿はなかった。
なので、捕らえたロゴスのメンバーに対しての尋問が行われたのだが、メンバーは異口同音に『盟主が何処行ったかは私達も知らない』と言っており、ジブリールの行方を掴む事は出来ていなかった。


「ロゴスの盟主……何処に逃げたんすかね?」

「ロゴスは連合のバックだが、反ロゴスの連中もいるから、連合傘下の国に逃げるなら場所は絞り込めるが、ザフトが其処を狙ってくる事は盟主殿も理解してるだろうから其処に逃げる事はしねぇだろうさ。」

「だったらどこに?」

「消去法で行けばおのずと答えは見えて来るぜシン。
 連合が使えないとなれば、奴さんが行く場所は一つしかねぇ……中立を謡い、そしてプラントとも深い関係を持っている数少ない国……オーブだよ。」

「オーブ……!!」

「カガリが代表首長だったら有り得ない事だろうが、あの紫ワカメが実権を握ってる今のオーブならその可能性は充分にあるからな……多分だが、議長も俺と同じ考えだ思うぜ。
 ……俺もお前も故郷を相手に戦う事になる可能性が高いんだが、大丈夫かシン?」

「大丈夫ですよイチカさん……悪いのはオーブじゃなくて、セイラン家とロゴスでしょ?
 やる事はやってやりますよ!!」

「良い答えだシン。そんでもってそれが正解だ。
 敵を見誤らずに討つ、其れが必要な事だからな。」


だが、イチカの予想ではジブリールはオーブに潜伏している可能性が高く、更にジブラルタル基地のデュランダルとミネルバのタリアにタバネからのメールが届き、其処にはジブリールの身柄は現在オーブに存在している事が明記されていた。


「オーブは討ちたくないが、あの紫ワカメだけは必ずブチのめさないとだよな。」


そんな中、イチカはミネルバ内の訓練施設で汗を流し口元には不敵な笑みを浮かべていた……そして此れから数時間後、オーブにて此度の戦争の結果を左右する事になるであろう戦闘が行われるのであった……!












 To Be Continued