アークエンジェルとアベンジャーズの戦いは傍から見ればアベンジャーズが勝利したように見えるだろうが、その実アークエンジェルはマリューの土壇場の機転で生き残り、キラもフリーダムに守られて無事だった――とは言え被害は決して小さくなかったのだが。

ストライクルージュによって救出されたキラは、アークエンジェルの医務室に運ばれて応急処置を施された上で今は眠っていた……精神をすり減らすような戦いを行った上で大ダメージを受けたのだから当然と言えば当然だろう。


「貴方に命を救われたのは何度目かしらねキラ君……」


医務室を訪れたマリューは、ベッドで眠るキラの髪を軽く撫でていた――二年前の大戦でもキラによってアークエンジェルが窮地を脱した事は少なくなく、マリュー自身もキラの事を弟のように思っているふしがあり、自然とこんな事を口にしていた。


「マリュー……さん?此処は……」

「キラ君……良かった、気が付いたのね?……ここはアークエンジェルの医務室よ……貴方の事はカガリさんが回収したの。」

「カガリが……すみませんマリューさん、僕が不甲斐なかったばかりにこんな事に……」

「謝らないでキラ君……貴方が居なかったらアークエンジェルは存在していないのだから……それよりも、そっちの彼は……」

「……はい、彼はムゥさんです。」


キラが目を覚まし、マリューと少し会話した後に、マリューがキラの隣のベッドで寝ているネオについて聞いて来たのだが、キラは迷う事無くネオがムゥである事を口にした――先の大戦でムゥがストライクに乗る事になった際に手合わせをしただけではあるが、キラはたった一度きりの手合わせでムゥの戦い方の癖を見抜いており、ネオの戦い方の癖はムゥの其れと全く同じだったのだ。

其の後カガリも医務室にやって来て、キラの話を聞いて『フラガ少佐だったのか……じゃなくて、どうやって生き延びたんだあの人は!?』と言ったのは致し方ない事であり、その場にいた全員が思った事だろう。


「俺は少佐じゃなくて大佐だぜ?
 捕虜とは言え、勝手に降格させるってのは如何かと思うけどねぇ?其れと、俺はネオ・ロアノーク。名前まで勝手に変えるなっての。」


此処でネオが割って入って来た――少し前からもう意識が戻っていたのだろう。


「貴方はムゥさんでしょう?」

「俺はネオだ。」

「……バンダナと水色の学ランは?」

「矢吹真吾!」

「時を止めるスタンド使いのラスボス!」

「DIO様!」

「絶対勝利の誓い。」

「ウルトラショッキングピンク!」

「……マリューさん、彼は間違いなくムゥさんです。何らかの事情でムゥさんとしての記憶を失ってるみたいですが、深層心理の記憶までは無くしてないみたいですから。」

「如何やらそのようね……」

「ちょっと待てーー!なんで今の質問と回答でそうなるーーー!!」

「何でかしらねキラ君?」

「子安ボイスだからですよマリューさん。」

「意味が分からーん!……って美人さん、俺の顔に何かついてるかい?」


若干意味不明なやり取りがなされたが、ネオはマリューが自分に注目している事に気付き、こう言ったのだが、其れを聞いたマリューはネオとなったムゥが自分の事を覚えていないと言う現実にショックを受け、医務室から逃げるように退室して行った。


「ムゥさん、マリューさんを泣かせるとか最低です……ミリアリア!!」

「どっせぇぇい!!」

「ありがとー!そしてさよーなら!!」


其れを見たキラが指を鳴らすと、ミリアリアが現れてギャグマンガお馴染みの10tハンマーを何処からともなく取り出してネオに一発カチ喰らわせた……それを喰らっても生きているのだからネオも大概だろう――大前提としてギャグマンガの攻撃では死なないという事もあるのかもしれないが。
其れは兎も角、先の戦いで辛くも逃げ延びたアークエンジェル部隊は一路オーブを目指すのだった。









機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE84
『混沌の先に~Jenseits des Chaos~』










吹雪で足止めを喰らっているミネルバの艦内では、整備班がモビルスーツの整備を行う傍ら、パイロット達はサロンで思い思いの時間を過ごしていた。


「……ここは臆さず攻める!リーチ!!」

「ロン。国士無双。」

「同じくロンで国士無双。」

「イチカ、ステラ数字が揃った。」

「ロンだな。しかも九蓮宝燈……シン、此の三連ロンでお前の持ち点では全部吹っ飛んだな。」


サロンの麻雀卓ではシンとアスランとカタナとステラが対局していたのだが、シンが勝ちに行ったリーチに対してカタナとアスランとステラがまさかのトリプルロンを達成してシンに逆転のハコを喰らわせていた。


「なんだとぉ!!マジかよ……」


一撃必殺を喰らったシンは真っ白に燃え尽きていた。
それとは別に現在ミネルバはザフトのジブラルタル基地に向かっていた――と言うのも、ロゴスの本拠地はジブラルタル基地からほど近いヘブンズベースに存在している事が明らかになり、プラントからの作戦指示が有ったのだ。


「此処まで大負けするとは思わなかった……にしても、次はロゴスの本拠地か――そこを落とせば此の戦争は終わるんですかねイチカさん?」

「此れで終われば御の字だが、多分終わらねぇだろうな……ロゴスもプラントが本拠地を割り出したって事は把握してるだろうから一番のトップはとっくに本拠地から逃げ出してるだろうぜ――自分以外のメンバーには其れを伝える事無くな。」

「組織の長が組織の構成員を守る気がないとは、組織としてどうなんだろうな其れは?」

「コーディネーターを根絶やしにするという目的が達成出来て私腹を肥やす事が出来ればそれで良いのかも知れないわね……マッタクもって本当に此の世の害悪でしかないわねロゴスは。」


シンの質問にイチカは否だと答え、アスランとカタナもロゴスに対しての嫌悪感を現し、ルナマリアやロランもまた表情を歪めていた。


「ロゴス……悪い人達……やっつける。」

「カタナ、気合を入れるステラがめっちゃ可愛いんだがどうしよう?」

「取り敢えず褒めておけば良いと思うわ。」


ステラはタバネによってファントムペイン時代の記憶を抹消されており、其れ故にロゴスの事を『とっても悪い人達』と認識するに至っていた――非戦闘時のステラは純粋な子供のような精神状態なので聞いた事をストレートに感じてしまうのだろう。


そうこうしている内にミネルバはジブラルタル基地に到着したのだが――


「アレは、連合の部隊か?」

「みたいだな?……議長の声明で、連合の反ロゴスの連中がこっちに付いたってところだろうな。」


其処には決して少なくない連合の部隊も到着していた。
先のベルリンでの連合――と言うよりもロゴスの蛮行が世界に明かされ、更にデュランダルが世界に向けて明確に『ロゴスこそが討つべき相手だ』と表明した事で、連合内に存在していた反ロゴスのメンバーが連合から離反してザフトのジブラルタル基地に集まって来たのだ。


「だけど此れって逆にヤバくないですかイチカさん?
 もしも連合のスパイが紛れ込んでたら、こっちの情報はロゴスに筒抜けになっちゃうんじゃないですか?」

「その可能性は確かにゼロじゃないが……仮に連合のスパイが紛れ込もうとしたとして、そいつ等はこっちに来る前にタバネさんにぶち殺されてる可能性の方が高いからスパイを警戒する必要はないと思うぜシン。
 仮にスパイが紛れ込んでたとしたら、其れはタバネさんが必要だと判断して放置したって事だからある意味問題ねぇしよ。」

「……イチカさん、タバネさんへの信頼感ぶっ飛んでません?」

「それだけの人なんだよタバネさんは……因みにタバネさんのIQは通常のIQ測定器では測定不能で、測定器の測定限界から割り出した推定IQは53万らしいぜ。」

「フリーザ様ですか!?」

「タバネさんならフリーザにも余裕で勝てるかもな。」


取り敢えずミネルバのメンバーは夕食に良い時間だったので基地の食堂に向かいディナータイムに。


「俺は……カツ丼特盛。それが飯で、おかずはサバの味噌煮とコロッケと油淋鶏と回鍋肉。それから味噌汁の代わりに味噌ラーメン。牛乳はパックで!」

「私はカツカレー大盛り。それがご飯で、おかずはハラミカットステーキ、タラモサラダ、スティックサラダ、キムチチゲで。」

「ステラは……オムハヤシ、それから鶏の山賊焼き。それから味噌チャーシュー麺……」

「相変わらずオーダーがエグイな……」


イチカとかカタナが重量級のメニューをオーダーしただけでなく、ステラも相当な重量級のメニューをオーダーし、そしてイチカとカタナとステラは其れを完食して見せた……圧倒的な食事量トップ3がザフト内で誕生したのだった。








――――――








ジブラルタル基地にはデュランダルもやって来ており、その隣にはミーアの姿もあった。


「議長!?どうしてこんな所に居るんですか!?」

「そう驚く事でもないだろうシン。
 最高評議会の議長は同時にザフトの最高指揮官でもあるのだからね……ロゴスとの重要な戦いの前線基地となる此のジブラルタルに私が来ないと言う選択肢は無いのだよ。
 重要な戦いこそ、指揮官自らが現場に足を運ばねばならないと私は考えていてね。」

「説得力ありますね……議長がプラントで絶大な支持を集めているのも納得が出来ます。
 出来るんですけれど、その……この前地球のシャトル発着場でラクス様が二人現れたって話を聞いたんですけれど……」

「あぁ、それか。
 一人は私が用意した影武者だが、いやはやラクス嬢の大胆さには驚かされた……敢えて影武者と二人揃って人前に現れる事で、影武者の存在を明らかにしつつ、自分を狙う相手を惑わせる一手を打ったのだからね。」

「えっと……」

「二人のラクスの内どちらが本物なのか、彼女を狙う人間には分からない。
 彼女の暗殺を目論む連中が別々の場所で二人のラクスを発見した場合、何方が本物のラクスなのかの判断を迫られる事になる――二分の一を当てて本物を殺す事が出来たのならば兎も角、影武者を殺してしまった場合は徒労に終わる……敢えて影武者と一緒に姿を晒す事が逆に身の安全を高める事になったって訳だ。」

「アスラン、ナイス説明だ。」


現在ラクスはバルトフェルドと共にターミナルで新型のモビルスーツを受け取り、其れをアークエンジェルに届ける為にエターナルで地球に向かっている最中であり、道中をロゴスやアベンジャーズに狙われる危険性が有ったのだが、ミーアの存在が其の危険性を少しだけ低くしていた。
エターナルのラクスとジブラルタルのラクス(ミーア)、何方が本物かは見ただけでは分からず、更に敢えて警護の手が厚いデュランダルの方に影武者を置く事で其方を本物と誤認させる事も出来るのである。


「其れと、私が此処に来たのは君達に渡すべきモノがあるからだ。」


其の後、デュランダルはイチカ達をモビルスーツの格納庫へと連れて行くと、其処には新たに二機のモビルスーツとモビルスーツ用と思われる武装が存在していた。


「議長、コイツは……」

「ZGMF-X42SデスティニーとZGMF-X61イージスセイバー。
 そしてキャリバーンフリーダム用の新装備であるレーザー対艦刀『バルムンク』とガイア用の飛行ユニットである『ニルヴァーナ』だ。
 デスティニーはシン、君の機体だ。」

「俺の?」

「インパルスで得られた君の戦闘データを最大限反映した機体だ……其れこそ君の力をインパルス以上に発揮する事が出来ると確信しているよ。」

「は、はい!ありがとうございます。」

「そして、イージスセイバーは……ロラン、君の機体だ。」

「私の?此れは意外だったね……てっきりアスラン用の機体だと思っていたのだけれどね?」

「アスランの機体はターミナルで製造していたので、今はエターナルに乗って地球に向かっているところだ。
 其れは其れとして、予てより私は君の能力はザクでは活かし切れないのではないかと思っていたのだが、君のザクの戦闘データを見てそれを確信し、こうして君の専用機を用意したという訳だ。」

「ふ……プラント最高評議会の議長に其れほどの評価をされていたと言うのは光栄の極みだね。
 ならば私はその期待に応えねばなるまい……最大の敵との戦いを前に新たな力を得る事になるとは……嗚呼、議長の粋な計らいに私は感動を覚えずにはいられないね。」

「どんな時でもブレねぇなロランは。」

「逆に安心出来るわよね。」


新型の一機はシンに、もう一機はロランが受領し、キャリバーンフリーダムは近接戦闘能力が強化され、ガイアは飛行能力が追加されたのだった。
この新型二機の追加により、空位となったインパルスにはルナマリアが乗る事になり、アスランの専用機がエターナルによって地球に届けられるまでアスランはジブラルタル基地にあるグフイグナイテッドを使用する事になったのだった。


そしてその夜……


「不審者発見。此れより職務質問を開始する。」

「うわぁ!って、イチカさん……驚かさないでくださいよ。」

「悪い悪い……眠れないかシン?」

「緊張してるって訳じゃないんですけど、なんか気分が昂って……」

「そりゃ仕方ねぇよ……敵の本拠地に攻め入る訳だからな――だけど今は寝とけ……どうしても眠れないってんなら、ルナマリアを抱き枕にしろ!そうすれば間違いなく安眠できるから!
 俺も眠れない時はカタナを抱き枕にだっぜ!!」

「とってもいい事を……聞いたのか俺は!?」


月明りが降り注ぐ基地で、イチカとシンはこんな遣り取りを交わしていたのだが、この遣り取りでシンの緊張は見事に解れ、部屋に戻ってからはぐっすりと眠って最高のコンディションでロゴスとの決戦に向かう事が出来るのであった。









 To Be Continued