デュランダルによってその悪事を全世界に暴かれてしまったロゴス。
その本拠地には『反ロゴス』を掲げるレジスタンス組織が多数押し寄せ、幹部の多くが殺害される事態となったのだが、現盟主のロード・ジブリールはギリギリのところで逃げおおせてオーブのセイラン家に身を寄せていた――同時にジブリールの直属の兵士達もオーブに入り込んでいた。
「貴方達と友好的な関係を築いていた事がこんなと所で功を奏すとは思いませんでした。
さらにオーブには宇宙に上がる為のマスドライバーもある……デュランダルの策略で少しばかり劣勢となりましたが、私が月に上がれば巻き返す事は可能ですからね……コーディネーターは根絶やしにすべきですからねぇ。」
「ジブリール殿、その通りですな。」
セイラン家の屋敷で、ウナトはジブリールの言う事に賛同していた。
元々セイラン家はアスハ家に次ぐオーブ第二の勢力であり、二年前まではウズミが掲げた『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず』とのオーブの理念に同調していたのだが、先の大戦でウズミが亡くなった後は、出世欲が芽生えてオーブの実権を握るべく密かにロゴスと手を結んでいたのだ……故にウナトにジブリールの申し出を断ると言う選択肢はなかった。
「月には既にコーディネーター共を葬る為の兵器が完成してます……ならば貴方達がどうすべきか……分かっていますね?」
「勿論でございます。」
ウナトはジブリールの言う事を全て了承し、ウナトからの命令を受けたオーブ軍は厳戒態勢を取るのだった。
「コウ……オーブの軍人になってから此れほどムカつく命令ってのは聞いた事がねぇ……セイラン家ぶち殺して良いか?てか良いよな?」
「その気持ちは分かるが少し待てキラ……と言うかお前の名前はカガリ様の御兄妹と被ってて分かり辛いぞ!」
「其れは言うな。何ならファミリーネームの方で呼べ。」
「今更お前をアスカってファミリーネームで呼ぶのも違和感あるわ。」
「なお俺の専用機はインパルスフリーダム、ではありません!」
「うん、意味分からん。」
だが、実際に戦場に出るオーブ軍の兵士の中にはセイラン家に対して不満を持つ者が多く存在してた――オーブ軍の兵士達はその多くがオーブの理念である『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず』に賛同する者であり、其れとは真逆の事をしているセイラン家に不満を持つのは至極当然と言えるだろう。
カガリが存在しない状態だからこそセイラン家に従っているが、カガリがオーブに帰還した其の時は間違いなくセイラン家に反旗を翻す事は間違いない状態なのが今のオーブなのだ。
「カガリ様が戻って来たら……セイラン親子にマッスルキングダムブチかますか?」
「其れも良いかもな。」
ジブリールはセイラン家を利用する形でオーブに入ったが、オーブ国内では水面下で『反ロゴス』の機運が高まっており、オーブ軍内部でもセイラン家への不満が高まっているので、事と次第によってはジブリールの身柄はオーブ国内で確保されるかもしれないのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE83
『悪夢~Schlimmster Albtraum~』
その一方でアラスカ基地を目指すアークエンジェルの前にはマドカ率いるアベンジャーズの部隊が立ちはだかっていた。
アベンジャーズの部隊は、ジンやダガーと言ったザフトと連合の量産機をレストアして使っているのでキラの敵ではなく、フリーダムのハイマットフルバーストで撃墜したのだが、そのフルバーストを回避した黒いインパルス――デスインパルスがフリーダムに斬りかかって来た。
「速いけど、アスランには及ばない!」
フリーダムはビームサーベルの一撃を回避すると、黒のカリスマもビックリのケンカキックをデスインパルスに喰らわせる――デスインパルスにはPS装甲が搭載されているのでダメージは期待出来ないが、此の攻撃でバランスを崩し……
「はぁ!!」
其の隙を突かれてフリーダムに頭部と右腕を斬り落とされてしまった。
「チェストフライヤーを!」
其れでもキソは新たなチェストフライヤーを要請すると、大破した上半身をパージしてフリーダムに向けて発射し、新たな上半身に換装する。
無論其れを喰らうキラではなく、射出された上半身をビームサーベルで両断すると換装を終えたデスインパルスとビームサーベルでの剣戟となり、互いに決定打を与えない展開となり、何合も切り結んだ末にキラは突きを、キソは斬り下ろしを繰り出したのだが其れは互いにシールドでガードする。
「はぁ!!」
だが、其の直後にフリーダムはもう一本のビームサーベルを逆手で抜いてデスインパルスの右腕を斬り落とすと、順手と逆手の変則二刀流の連撃『不殺剣技奥義・菩薩剣達磨落し』でデスインパルスの頭部と四肢を斬り落とす。
普通ならこれでゲームエンドなのだが、デスインパルスに限ってはそうではない。
「チェストフライヤ―とレッグフライヤーを!」
コアブロックシステムを搭載しているインパルスを模したデスインパスもまた破損したパーツを換装する事で戦闘を継続する事が可能なので、即座にチェストフライヤーとレッグフライヤーを換装して完全回復したのだった。
「レイが言ったとおりだったな……コックピットを狙わないのならば確かに俺にも勝機があるか……ここが貴様の墓場だキラ・ヤマト!お前が完成するまでに犠牲になった者達の恨みと憎しみを其の身を持って知れ……!」
「誰だ……君は誰なんだ……!!」
キラはデスインパルスのパイロットが誰なのかを気にしつつも、デスインパルスとの戦闘を続けていた……互いに決定打を欠く戦いではあったのだが、キラはアークエンジェルに海に向かうよう指示していた。
海に向かい、そして海に潜ってしまえば敵の追撃は困難となり振り切れる可能性が高いからだ。
「カガリ様、ムラサメ隊に出撃許可を!」
「ダメだ!
ムラサメ隊は全員オーブに連れて帰らなければならない……万が一にも此処で失う訳には行かない!……それに今の状況でムラサメ隊が出撃したら敵はムラサメ隊を狙うだろう。
そうなればキラはムラサメ隊を守りながらの戦いを強いられる事になって逆に不利になってしまう……ムラサメ隊は一流の部隊だと言う事を考えてもだ。」
トダカはムラサメ隊を出撃させてキラを援護すべきだと考えたのだが、其れはカガリがストップをかけた。
今はフリーダムとデスインパルスのタイマン状態だが、此処で援護部隊を出したらアベンジャーズも追加のモビルスーツを出撃させてくる可能性が高く、そうなれば乱戦となってキラは不殺を行いながら味方を守る事もする事になるので負担が増え、デスインパルスとの戦闘も充分に行えなくなってしまうのだ。
「ゴッドフリート、ヴァリアント照準!キラ君を全力で支援して!」
「了解!」
マリューが指示を飛ばし、アークエンジェルに搭載された火器を使ってフリーダムの援護を行う――が、アベンジャーズの母艦もまた攻撃を行いデスインパルスを援護する。
だがフリーダムは放たれたミサイルもレールガンもビームも全てビームサーベルで斬り飛ばして見せた――ミサイルはまだしも、レールガンやビームを斬るのは流石のスーパーコーディネーターと言ったところだろう。
海岸線までは後5㎞……まだもう少しだけ此の戦いは続きそうだ。
――――――
その頃、ミネルバでは……
「艦長、タバネさんからメールが来たんだけど……アークエンジェルがアベンジャーズ――戦場に乱入して来た奴等と戦闘中だって……如何します?」
「何ですって!?……アークエンジェルが早々やられるとは思わないけれど、万が一を考えて援護に向かうわ。」
「そう来なくちゃな……つってもこっからだと大分時間がかかるんだが、間に合いますか?」
「間に合うかどうかは問題じゃないわ……間に合わせるか、間に合わせないかよ。」
「名言頂きました。」
イチカがタバネからのメールでアークエンジェルがアベンジャーズと交戦状態にある事を知り、其れをタリアに伝えたところ、ミネルバはアークエンジェルの援護に向かう事になった。
モビルスーツの緊急チェックが行われ、現着し次第イチカ、カタナ、シンが出撃する事となった。
「何でアイツ等がアークエンジェルを!
イチカさんを狙ってたマドカって奴は此の前イチカさんが倒したのに……!」
「マドカ一人を倒しても連中は止まらねぇだろうさ……マドカは連中のリーダーだったんだろうが、テロリストってのはリーダーが倒れた程度じゃ止まらねぇ。
加えてあの黒いインパルスのパイロットはキラに固執してるみたいだったからな……奴がなりふり構わずキラを殺しに来たら少しヤバいかもな。」
「ヤバいって……最強のフリーダムが負けるとは思えないんですけど……」
「普通なら負けねぇ。てか瞬殺で圧勝だ。
だが、キラは基本不殺だからコックピットを狙わない……主に武装やメインカメラを破壊するんだ――勿論それは有効な手段だし、ザクやダガーなら戦闘不能間違いなしなんだが、インパルスの場合は其の限りじゃないだろ?」
「え?……あぁ!インパルスなら破壊された場所を交換する事が出来る!!」
「そう言うこった……キラにとってあの黒いインパルスは最悪の天敵だって事だ。」
シンはフリーダムが負けるとは思っていなかったが、イチカから『キラは不殺』との事を聞いて、インパルスならば不殺戦法に完全に対応出来ると気付いた様だった。
「うまい事アークエンジェルと合流出来ればいいが、難しそうな場合は俺達が出撃して、お前とカタナにキャリバーンに捕まってもらってバリアブルロッドライフルのスラスターを全開にして先行する。」
「OKよイチカ!」
「了解です、イチカさん!」
「……ステラはお留守番?」
「単独での飛行能力を持たない私達はお留守番ね。」
「お留守番の私達だが、それでも出来る事はある……私達に出来る事、其れは戦場に出るイチカ達を全力で応援する事だ。出来るだろう、ステラ?」
「うん、頑張る……!」
「おいカタナ、なんだこの可愛い生き物は。」
「ステラでしょ♪」
「ステラ……帰って来たらおやつにチーズ入りの味噌焼きおにぎり作ってやる。」
「イチカのおやつ……楽しみに待ってる。」
イチカとカタナとシンはパイロットスーツに着替えて夫々のモビルスーツに搭乗して何時でも出撃出来るようにし、ミネルバはアークエンジェルの援護に向かう為にアラスカに向かうのだった。
――――――
一方、北の地ではフリーダムとデスインパルスの激闘が続いていた。
デスインパルスは何度も四肢やメインカメラを破壊されているのだが、その都度破壊された箇所を付け替える事でフリーダムに迫っていた……そして其れは同時にキラへのプレッシャーにもなっていた。
フリーダムに乗る様になってからのキラは、基本的に不殺による一撃必殺を行っており、武装やメインカメラを破壊して戦闘能力を奪う事で言わばTKOして来たのだが、デスインパルスには其れが通じないのだ。
「く……だったらこれで!」
ここでキラはビームサーベルでデスインパルスの腹部を狙って来た。
デスインパルスのコックピットはオリジナルのインパルス同様胸部にあるので、腹部ならばパイロットを殺さずに済み、更にコックピットであるコアスプレンダーにダメージを与える事が出来るのでパーツとの合体を阻害できると考えたのだろう。
「え?」
だが、キソはフリーダムの斬撃が当たる直前にレッグフライヤーをパージしてその斬撃を躱すと、パージしたレッグフライヤーをフリーダムの背後に放ち、更にコアスプレンダーの機銃でレッグフライヤーを攻撃して爆発させて来た。
PS装甲にはダメージにはならないが、この爆発でフリーダムは右の翼のPS化されていないフレームが破壊され、フリーダムは片翼となってしまったのだ。
フリーダムの背部のバインダーウィングは元々大気圏内での姿勢制御と高速移動を目的として搭載されていたので、片方だけとは言え其れを失ったらフリーダムは姿勢制御が難しくなり、更に大気圏内での機動力も半減してしまい、相当に厳しい状況であると言えるだろう――其れでもフリーダムの姿勢を制御しながら飛行を続けるキラの操縦技術には舌を巻くしかないのだが。
「レッグフライヤーとソードシルエットを!」
海岸線が見えて来た所でキソはレッグフライヤーだけでなくソードシルエットを要求し、ソードシルエットからエクスカリバーを取ると、エクスカリバーの二刀流でフリーダムに斬りかかる。
エクスカリバー……『レーザーブレード対艦刀』はその名の通り、戦艦の装甲をも一撃で切り裂く事が出来るモビルスーツが装備出来る最強の近接戦闘武装なのだが、其の大きさゆえに攻撃が読みやすいのだが二刀流となれば攻撃後の隙もある程度フォロー出来るので近接戦闘における制圧力は相当に高いと言えるだろう。
「く……だったら!!」
ビームサーベルの二刀流で対応したキラは、カウンター気味に腰部のレール砲を放ってデスインパルスとの距離を強引に離すと、残った翼のバラエーナーを展開し、ビームライフルとレール砲を放つ。
だがデスインパルスは其れをギリギリで避け、肩部アーマーと腰部のスカートアーマーの破損に被害を留めるとエクスカリバーを連結させた。
「ローエングリン展開。目標アークエンジェル!」
それに合わせるようにマドカが母艦『ダークエンジェル』の艦首陽電子砲を展開するように命じ、アークエンジェルに照準を定める。
「急速潜航!!」
陽電子砲の展開を見たマリューはアークエンジェルを海中に潜航させて其の攻撃を回避しようとする――同時にキラはアークエンジェルが無事に潜航出来るようにダークエンジェルを牽制するために背部のバラエーナーを放ったのだが、其れが隙を生んでしまった。
「此処で散れ、キラ・ヤマト!!」
「!!」
其の隙を突いてデスインパルスがエクスカリバーでフリーダムの腹部を貫いた――フリーダムもカウンターでデスインパルスの頭部をビームサーベルで貫いたが、ダメージはフリーダムの方が甚大だ。
腹部を貫かれたフリーダムは爆発して海中に落下し、アークエンジェルはギリギリで陽電子砲を回避して海中に逃れていた――其の際に推進タンクをパージして陽電子砲にぶつける事で大爆発を起こし、あたかもアークエンジェル本体が爆発したかのような偽装工作を行ったマリューは見事だが。
「あは、あははは!!殺してやったぞキラ・ヤマト!俺は、お前を超えたんだ……俺はお前の失敗作なんかじゃなく、お前よりも上の存在だったんだ!!」
フリーダムを撃墜したキソは狂気の笑みを浮かべていた――
「クソッタレ、間に合わなかったか……!!」
其処にミネルバが到着し、アベンジャーズを壊滅させんとイチカ達が出撃したのだが……
「今はお前達との決着をつける時ではない……特にお前との決着は大舞台でつけてこそだからなイチカ……チャフ散布!キソを回収して離脱するぞ!!」
「了解!!」
アベンジャーズはチャフの散布を行うとフリーダムと相打ちギリギリの判定勝ちをもぎ取ったデスインパルスからキソとコアスプレンダーを回収すると、そのまま離脱。
「メイリン、敵艦のシグナルは?」
「艦長……ダメです。チャフの影響でシグナルロスト。
加えて雪が吹雪に変わって来て視界も悪いので、追跡は不可能かと……」
「此の状況での深追いはするべからずね……イチカ達を帰還させて。モビルスーツ収容後、本機は吹雪が治まるまで平地に着陸して待機。吹雪が治まり次第帰投します。」
「了解。」
更に悪い事に天候が悪化して視界が悪くなり、アベンジャーズの追跡は断念せざるを得ない状況となってしまった――如何に最新鋭の宇宙戦艦とは言えども天候のコンディションが悪い状況での追跡は機体にもクルーにも危険が伴うのでタリアの判断は妥当と言えるだろう。
「キラ……どうしてこんな事に……!!」
「アスラン……まぁ、ショックなのは分かるが、恐らくだがキラは生きてるしアークエンジェルもやられてないと思うぜ?
……こんな事を言うのはアレかも知れないが、二年前の大戦でイージスの自爆攻撃喰らっても、至近距離でプロヴィデンスの爆発喰らっても生きてたんだぜキラは?そんなアイツがそう簡単に死ぬと思うか?」
「……それを言われると確かにそうだが……イージスの自爆を喰らって何で生きてたんだキラは?スーパーコーディネーターは不死身なのか?」
「主人公ってのは死なないモンだ……序に主人公の瀕死は強化フラグでもある。」
「イチカ、何を言ってるんだお前は?」
「キラはパワーアップして復活するって事だ……しかしまぁ、敵はロゴスだけじゃなく小隊クラスの戦力を有するテロリストもか……どっちも存在自体が害悪な訳だから徹底的にぶっ倒すだけだけどな。」
「イチカ……確かにその通りだな。」
結果だけ見ればフリーダムとアークエンジェルの敗北だったのだが、イチカは二年前の経験からキラもアークエンジェルも無事だと確信していた――嘗て何度も死線を越えて来たからこそ、此れで討たれて終わりになるとは到底考えられなかったのだ。
其れとは別に今回の一件はプラントにも報告され、報告を聞いたデュランダルはアベンジャーズを明確に『討つべき相手』だと判断し、宇宙のプラントのコロニーのザフト軍だけでなく、地球のザフト軍にも『アベンジャーズは発見し次第即討伐せよ』との命令を下したのであった。
「イチカ、チーズ入りの味噌焼きおにぎりとっても美味しい。」
「発酵食品×発酵食品は旨さ爆発だからな……納豆キムチーズトーストも最高に旨いんだが、トースターが臭くなるのが難点だな。」
吹雪が治まるまでの間、ミネルバの食堂ではおやつタイムとなり、ステラはイチカが作った『チーズ入り味噌焼きおにぎり』が気に入ったようで三個も食べていた――食べるのに夢中で口の周りを味噌だらけにしたステラの口を拭いてやるルナマリアの姿がなんとも微笑ましかった。
――――――
辛くも陽電子砲を回避して海中に逃げたアークエンジェルからはカガリがストライクルージュで出撃して大破したフリーダムのコックピットを強引にこじ開けてキラを回収していた。
パイロットスーツは所々破損し、ヘルメットにも罅が入っていたが、幸いにも罅は深くなかったのでヘルメット内に海水が侵入する事はなかった。
「お前がキラを守ってくれたんだなフリーダム……ありがとう。」
キラが負った怪我は決して軽くないが、PS装甲が搭載されていない機体だったら爆発の衝撃をまともに受けて死んでいただろう……フリーダムは最後の力を振り絞って主を守ったのだ。
キラを回収したカガリはアークエンジェルへと帰投し、大破したフリーダムは海の底へと沈んで行ったのだった……
To Be Continued 
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