マドカ達アベンジャーズがアークエンジェルを探し始める少し前に時間は遡る。
デストロイによって壊滅的なダメージを受けたベルリンだったが、ドイツの他の都市は無事だった事と、ミネルバとアークエンジェルの献身的な復興作業によって人々は日常を取り戻しつつあった。
「ドイツの方は後は現地民に任せるとしても、これから世界はまだ荒れる……世論の多くはロゴスを批判するだろうが、ロゴスに同調する反コーディネーターの思想を持つ人間が一定数居るのも否定出来ねぇからな……」
「ナチュラルもコーディネーターも同じ人間なのに、どうして争うんだろうね……争わずに済むならそれに越した事はないのに。」
「そんな世界があれば最高なんだが、生憎とそう行かないのが此の世界って事だろキラ。
きっとコーディネーターもナチュラルも心底争いたいって思ってる人間は極少数だと思うんだが、その極少数をロゴスが焚き付けてテメェの私腹を肥やす為だけに戦争を引き起こしてる……議長は『戦争を産業と考えた場合、これ以上に回るものはない』って言ってたが、ロゴスは正に其れで利益を得てる連中って事だ……人の命の上に存在する利益とは胸糞悪い事此の上ねぇ……!!」
「そう、だね……僕も進んで誰かを殺したいとは思わないけど、ロゴスに関しては完全に滅ぼしてしまうのも止む無しかなって、そう思ってるから。」
「お前がそう思うってんだからロゴスはマジでトンデモねぇだろ。
だが、今回のベルリン侵攻でロゴスは自ら首を絞める結果になっちまったと思うぜ?……このデカブツは、殺し過ぎて壊し過ぎた――コーディネーターもナチュラルも関係なくな。
コーディネーターだけを狙ったのなら未だしも、無差別に殺しちまったとなれば連合内からも反発があるのは必至だ――何よりも、連合はザフトと違って一枚岩の組織じゃねぇ。
だからこそ、ターミナルには連合の面々も居る訳だからな。」
「世界はロゴスを共通の敵として認識するのかな?」
「多分な……ミネルバの記録映像はプラントに送られてるだろうから、近く議長がロゴスへの対応を表明すると思うんだが……お前達は未だ俺達と合流はしないんだろ?」
「いずれは合流する事になると思うんだけど、其れは今じゃない。少なくとも僕とマリューさんはそう考えてる。」
「其れが正解だな。
アークエンジェルはギリギリまで何処にも属さない自由な戦力であった方が良い……自由な戦力だけに、追い詰められたロゴスが助けを求めて重要な情報を流してくれるかもしれないからな。」
「イチカ、なんか悪い顔になってるよ?」
「お前と比べたら俺は悪役上等だ♪」
デストロイのベルリン侵攻によってベルリンに住んでいる市民はナチュラル、コーディネーター問わず大きな被害を受け、怪我人は千人を超え、死者も百人以上と言う未曽有の大打撃を受けていた。
その元凶であるデストロイを討ち、復興に尽力したミネルバとアークエンジェルはベルリンの市民のみならず世界中から称賛されるのは道理だが、数時間後にはプラントが全世界に対してデュランダルが明確に『此度の戦争はロゴスによって引き起こされたモノである』と表明し、その証拠となるモノを開示し、更にロゴスの主要メンバーの顔と名前を公開する会見を行う事を予定していた――今はその準備と言ったところだろう。
ロゴスのメンバーの名前と顔に関してはタバネが調べ上げた結果なのだが……ともあれ世界は、ロゴスがナチュラル、コーディネーターを問わず共通の敵である事を認知するのは間違いないと言えるだろう。
「其れじゃまたなキラ。」
「うん、イチカもね。」
アークエンジェルがベルリンから離れる前にイチカとキラはガッチリと握手をし再会を誓った――其の再会は戦場になるのは間違いないが。
「死ぬなよ、キラ……」
だがイチカは其の再会を前に何か大きな事が起こるのではないかと予測しているようだった……
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE82
『示される世界~Die Welt gezeigt~』
キラを討つために出撃したアベンジャーズの艦隊だったが、戦艦に搭載されているレーダーが二年前の旧式だった事もあって中々アークエンジェルの動向を掴む事が出来ていなかった。
そんな状況の中、キソはフリーダムとの戦いに備えて戦闘シミュレーターを行っていたのだが、結果は芳しくなかった――勝率だけ言えば略五分なのだが、リザルトではフリーダムを相手にした場合には圧倒的な点差で負けていたのだ。
だからこそキソはフリーダムを落とすべく日々研究をしていたのである。
「機体スペックでは圧倒的にフリーダムの方が上……特に火力に関しては更にだな。」
だが、研究をすればするほどフリーダムを相手にして勝つ未来が見えなかった。
Nジャマーキャンセラーはユニウス条約によって兵器への使用が禁止されているが、フリーダムはユニウス条約に属さないターミナルの機体なのでNジャマーキャンセラーを有する核エンジン搭載型モビルスーツであり、宇宙最強のモビルスーツであると言っても差し支えないだろう。
圧倒的な機体性能に加え、キラの卓越した操縦技術がプラスされたとなればフリーダムに勝てるモビルスーツは皆無だと言える……だからこそキソはフリーダムの攻略に悩んでいたのだが。
「確かに機体スペックではフリーダムの方が上だが、付け入る隙はある。」
「レイ?」
「フリーダムのパイロット……キラ・ヤマトはコックピットを狙わない。
此れまでの戦闘でフリーダムが撃墜したモビルスーツの数は連合、ザフトの両軍のトップを遥かに凌駕しているが、しかしフリーダムが撃墜したモビルスーツのパイロットは略全員生きている。
其処にお前の勝機がある。」
「コックピットを狙わないか……ならば確かに勝機はあるな。」
レイが『フリーダムはコックピットを狙わない』とのアドバイスをキソにした事で、キソは其処に勝機を見出していた。
デスインパルスは、本家インパルス同様にコアブロックシステムを搭載しており、コックピットのコアスプレンダー、上半身のチェストフライヤー、下半身のレッグフライヤーで構成されているので、コックピットが破壊されない限りは破損個所を換装する事で戦闘を継続させる事が出来るのである。
「今度こそ、今度こそ殺してやるぞキラ……俺はお前が誕生するまでに犠牲となった者の代弁者だ――犠牲になった者達の怒り、恨み、憎しみを其の身をもってして知るが良い……!!」
キソとレイは対フリーダムの作戦をじっくりと練り、確実にフリーダムを仕留める為の戦略を構築していった。
「キラ・ヤマトを葬ったら、次はアスラン・ザラ、そしてラクス・クラインとフレイ・アルスター……先の大戦での仲間達を全て葬ってやる。
そうして全てを奪った上で殺してやるぞイチカ……全てを奪われる絶望を知った上で死ね……!」
マドカはマドカでイチカから全てを奪った上で殺す算段を建てていたのだが、過去の記憶がないだけに其れは無意味なモノだと気付かなかった――イチカは其れこそ過去に全てを失った経験をしており、その記憶を取り戻しているのだから。
其れは其れとして、キソはキラを討つための戦術を整え、アベンジャーズの戦団はアークエンジェルへと向かうのだった。
――――――
ベルリンでの救援活動を終えたミネルバは補給の為にカーペンタリア基地へと向かっていた。
戦争中の暫しの休息の時間を夫々思い思いに過ごしていたのだが、イチカはミネルバの甲板に出て釣りに勤しんでた――釣った魚はそのままミネルバの食料となるので寧ろイチカが釣りをするのはミネルバクルーにとってもプラスであるのだ。
「……特大の当たりが来たな!」
此処でイチカの釣り竿に大きな当たりの反応が。
其れを見たイチカは釣り竿のリールを巻き、獲物をミネルバに引き寄せる……其処からは一進一退の状況となり、手に汗握る展開となったのだが――
「どりゃっせい!!」
――ザッパァァァァン!!
最後の一引きでイチカが一気に引き上げ、ミネルバの甲板には見事なまでのクロマグロが!……体長2m越えで、体重200㎏越えのクロマグロは、東アジア連合の豊洲市場だったら億の値が付くのは間違いないだろう。
「クルー分の寿司を作って、余ったのは燻製にしよう。
マグロの燻製はスモークサーモンに負けず劣らずの旨さだからな……そんで、俺に何か用かシン?」
「気付いてたんですかイチカさん?」
「お前の気配は分かり易いからな……尤も俺以外で気付けるのはカタナとキラ位だと思うがな……それで何かあったのかシン?」
「この間のデカブツとの戦闘の時、なんとなくインパルスの反応が何時もよりほんの少し、本当に少しだけ……それこそ若干の違和感程度に鈍かったような気がするんですよ。
ヴィーノとヨウランにその事を言っても、機体には問題ないって……」
「あ~~……成程ね。
其れは確かにインパルスには問題はないな。」
イチカは自分の事を部屋の外から窺っているシンに気付き声をかける。
シンはインパルスの反応が鈍くなった事を相談しに来たようだ。
「インパルスに問題ないってなると、俺が原因ですか?」
「ある意味ではな。
だが、悪い意味じゃない――お前の反応速度と操縦技術にインパルスの方が付いて行けなくなってるって事だからな。」
「俺の反応速度に!?そんな漫画みたいな事ってあるんですか?」
「あるんだな此れが。フリーダムのパイロットのキラもそうだったがな。
お前とキラは結構似た状況にある……初の実戦を皮切りに、何度も生きるか死ぬかの戦場を駆け抜けて来た訳だ――命の遣り取りって奴を何度も経験すると自分でも気付かないうちにレベルアップするモンだ。」
「そうなんですね……でも今まで通り動かせないのは困りますよ。」
「其処はまぁ整備面でなんとかしてもらうしかないんだが……もしかしたら、お前には今度立ち寄った補給地で新型が与えられるかもな。」
「新型って……その心は?」
「キラがフリーダムを手に入れたのも、初陣から大体これ位の時間が経った頃だったから――ってのと、プラントはロゴスを壊滅させるべく、戦力の底上げを考えてるだろうからな。」
「もしも新型が貰えるなら、イチカさんのみたいに翼のあるやつが良いです!翼を広げて戦うってかっこいいですし!」
「そうだな……翼はカッコいいな!それが分かるかシン!」
「分かります!!」
シンは初陣から何度も死線を潜り抜けて来た事でレベルアップし、反応速度と操縦技術が爆上がりしたのだが、そのシンの急成長にインパルスの方が付いて行けなくなってしまっていたのだ。
整備面である程度の対応は出来るとは言え、其れでも限界はあるのだが、イチカはシンに新型が与えられる可能性を示唆していた――前大戦においてキラがフリーダムを手に入れた時期と日数が重なると言う可成りの暴論ではあったが。
イチカとシンがこんな会話をした直後、プラントから全世界に向けて緊急会見が行われた。
その会見では、先ずは此度のベルリンでのデストロイによる無差別的な蹂躙劇の映像が流され、続いて犠牲者はナチュラルとコーディネーターの双方に存在している事、ザフト軍とアークエンジェルが現地の復興活動を行った事が紹介され、その上でデュランダルが『ロゴス』の存在を明らかにし、ロゴスこそが真に討つべき存在であると世界に訴えたのである。
「流石、巧いな議長は……こりゃ、連合からの離反者も出るぞ。決して少なくない数がな。」
「連合からの離反って、何でですか?」
「連合はザフトと違って一枚岩じゃねぇ。
ロゴスの傀儡になってる奴が居る一方で、ロゴスを快く思ってない奴だっている――だからこそ、ターミナルには連合の人間も居る訳だからな。
ターミナルに所属してないそんな奴等が此れを機にロゴスに三下り半を突き付けて連合から離反してもおかしくない位の特大の爆弾を議長は投下したって事さ……ロゴスのクソ共は、今頃大慌てだろうよ。」
「議長……凄いですね。」
「タバネさんが認めた人だからな。
だが、これで世界情勢はロゴスにとって厳しいモノとなった……そう遠くなくロゴスとの最終決戦に突入すると思うから覚悟はしておけよシン?ロゴスは絶対に潰す――俺達の手で戦争を終わらせるんだ。」
「はい!!」
「良い返事だ。
(とは言えロゴスを潰して終わりとはならねぇだろうな……マドカ……あの爆発に巻き込まれたら無事とは思えないがもし生きているとしたら俺を殺しに来るだろうから……俺を殺しに来るなら全力で相手になってやるが、其れ以外で馬鹿な事をしなけりゃいいんだがな……)」
デュランダルは世界の敵としてロゴスを名指しし、更には幹部の名前と顔を公開するという中々に過激な事をしてくれたのだが、その効果は絶大で、連合の人間の中もロゴスに反対する者達が連合からの離脱を表明してターミナルに参加するモノが続出。
市民の間でもロゴスに対する非難が高まり、レジスタンス組織が連合の基地を襲撃する事件が多発したのである。
此の状況に危機感を覚えたロゴスのリーダーであるロード・ジブリールは密かに本拠地を脱出し、繋がりのあるセイラン家が居るオーブへと向かうのだった。
――――――
その頃、アークエンジェルは補給の為にオーブと友好関係にある連合のアラスカ基地へと向かっていた。
万が一の事を考えて、キラがフリーダムで出撃してアークエンジェルの護衛を務めているので、余程の事がない限りはアークエンジェルは目的地に無事に辿り着く事が出来るだろう。
「ククク……来たなフリーダムとアークエンジェル!……行けるか、キソ?」
「愚問だな……何時でも行けるぞ!」
「ならば作戦開始だ……発進しろキソ!」
「行くぜ!!」
だが此処でマドカ率いるアベンジャーズが動き、アークエンジェルがアラスカ基地に到着させるのを妨害すべく現れた――
「キラ・ヤマト……貴様は殺す、絶対にな……!!」
だが、其れを狙ってアベンジャーズも行動を開始し、キラの抹殺に燃えるキソがデスインパルスで出撃していった――雪深いアラスカの地で、フリーダムとデスインパルスがぶつかり合うのはインパクトがあるが、此の戦いは誰も予想していなかった結果になるのだった。
To Be Continued 
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