連合が開発した超巨大モビルスーツ『デストロイ』。
PS装甲こそ搭載されていないが、分離可能な両腕にはドラグーンの機能が備わっているだけでなく、陽電子リフレクターも搭載されており、更にマニピュレーターの指先にはビーム砲が搭載されており、攻防に於いて隙が無かった。

キャリバーンやフリーダムの攻撃は陽電子リフレクターによって防がれ、逆にデストロイからは強烈なビームが放たれるのだが……


「はぁ!!」

「斬り飛ばす!!」


イチカとキラはビームをビームサーベルで全弾斬り飛ばして見せた――弾丸よりも遥かに弾速の速いビームを斬り飛ばすと言うのは並大抵の事ではないのだが、スーパーコーディネーターであるキラと、織斑計画で誕生したイチカにとっては児戯に等しかった。

それとは別にキラが落としたウィンダムのパイロットの回収に向かったアークエンジェルは、艦長であるマリュー自らがパイロットの回収に向かったのだが、其処でマリューはキラの勘が当たっていた事を知る事になった。


「ムゥ……生きていたのね……」


機体が大破してコックピットから投げ出されて意識を失っているファントムペインの隊長であるネオは仮面が外れて素顔を晒す事になり、その素顔には大きな傷跡があり、髪も伸びていたのだが、その顔は紛れもなく先の大戦でドミニオンのローエングリンで散った筈のムゥ・ラ・フラガその人だったのだ。


「本来ならば喜ぶべき事なのだけれど、どうして生きていたのかしら?」

「ラミアス艦長、それは……確かに言われてみれば何故だ?あの時、フラガ少佐のストライクは間違いなくドミニオンのローエングリンで爆散したのに……」


ムゥが生きていた事に驚きつつも喜んだマリューだったが、同時にムゥの生存に疑問も湧いていた。
二年前のあの時、ムゥが乗るストライクは目の前で爆発四散した――仮にパイロットが生きていたとしてもパイロットスーツが破損した状態で宇宙空間に投げ出されたとなれば生存は不可能なのだから。
ゼロ気圧の宇宙空間では宇宙服を装備していなければ人は己の体温で血液が沸騰してあっと言う間にミイラになってしまうのだ。


「少しオカルトチックな話になるが……世界がフラガ少佐の死を是としなかったのかもな――此の世界に必要な人だからフラガ少佐は生き延びる事が出来た……或いは、フラガの少佐が地獄の獄卒美女じゃ満足出来なくて現世に舞い戻って来たかだな。」

「カガリさん……前者よりも後者の方が否定出来ないのは何故かしらね?」

「フラガ少佐だから。……序に言うと子安ボイスに常識は通じないってな。」

「子安ボイス???」

「あ~~……妄言だから気にしないでくれ――其れよりも、先ずは目の前のこのデカブツを何とかしないとだ……グラディス艦長と巧い事連携を取って的確な指示を頼む、ラミアス艦長!」

「了解……」


其れは其れとして、マリューがムゥを回収するのを見たカガリはマリューに指示を仰ぐ――カガリもミネルバとの連携無しではデストロイの撃破は難しいと考えたのだろう。
ムゥがアークエンジェルに回収されたのを確認したカガリは再びストライクルージュに乗り込み、オオトリに搭載されている対艦刀を抜くと、連合の部隊に向かい、次々とウィンダムを斬り捨てて行ったのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE81
『破壊者を破壊せよ~Destroy Crusher~』










指揮官であるネオが落とされた事で連合の部隊には動揺が広がっていた――連合内でも秘匿部隊とされその全容を知る者は極少数である第81独立機動群、通称『ファントムペイン』の隊長が落とされたのだから当然と言えば当然だろう。
ファントムペインは連合でも謎多き部隊なのだが、其れだけに『超一流のパイロットで構成された部隊』との認識が高く、その隊長を務めているネオは連合でも一目置かれている存在なのである。


「コイツ等……邪魔すんじゃねぇ!!」

「邪魔なのはお前達の方だろ!!」


ここでカオスはキャリバーン達を撃破しようと向かったのだが、其の前にはシンのインパルスが立ち塞がった。
機体性能はほぼ互角でパイロットの腕前も互角なので、真っ向から戦えば互いに決定打を欠く泥仕合――になるのはアーモリーワンでの強奪事件からユニウスセブン落下までの話だ。
エクステンデットは戦闘後のメンテナンスで強化調整が施されるのだが、其れは所詮データのアップデートに過ぎない――其れに対してシンは日々イチカとのトレーニングで実際に身体を動かしてレベルアップしているので地力が違うのだ。


「メイリン、ソードシルエットを!」

『了解!シルエットフライヤー2スタンバイ。シルエットフライヤー2、発進します!』


ここでシンはミネルバにソードシルエットの射出を要請し、射出されたソードシルエットから対艦刀のエクスカリバーを手にすると、対艦刀の二刀流でカオスに向かい二本の猛攻でカオスのシールドを切り裂き、更には両手足を斬り落としてダルマにしてしまった。


「イチカさん直伝の、踵落としだぁ!!」


戦闘不能になったカオスにインパルスはダメ押しとなるネリチャギを喰らわせて強制的に沈黙させた――カオスにはPS装甲が搭載されているのでスティングも一命は取り留めたようで、連合の兵士に回収されていたが。

此れで連合の戦力はウィンダムとデストロイのみなのだが、ウィンダムは兎も角として、デストロイには未だに決定打が与えられていなかった――其の巨体故に機動力は低いモノの、デストロイの圧倒的な火力と、独立稼働する両腕と其の両腕に搭載されている陽電子リフレクターによって攻撃を防がれていたのである。


「おぉぉりゃぁぁぁぁ!」


だが此処でシンがデストロイに斬り込んで行った。
陽電子リフレクターが搭載されているのは独立稼働できる両腕のみでありデストロイ本体には陽電子リフレクターは搭載されておらず、更にPS装甲も搭載されていないだけでなく、一切の近接戦闘用の武装が搭載されていないので、近接戦闘となればデストロイは圧倒的に不利になるのだ。


「斬り込んだか……シン、腹部を狙え!
 連合のモビルスーツは、ザフトの胸部にコックピットがあるモビルスーツとは違ってコックピットは腹部にある!コックピットを切り裂いてパイロットを戦闘不能にしろ!」

「イチカさん……はい!!」


そのままインパルスはデストロイの腹部をエクスカリバーで切り裂いたのだが、パイロットまでは届かず、コックピットの内部を晒すにとどまった。
が、その裂け目から見えるデストロイのパイロットの状態は最悪極まりなかった――インパルスによって切り裂かれたデストロイの装甲の破片が全身に突き刺さり、身体のあちらこちらから血を流していたのだ。
普通ならこれで戦闘不能になってもおかしくないのだが……


「うぅぅぅ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


痛みがトリガーとなったのか。S'はデストロイの胸部に三門搭載されている大口径ビーム砲を放って連合のウィンダム諸共更にベルリンの街を破壊してしまったのだ。


「味方諸共……理性がないのかよコイツには!」

「此れ以上は!!」


そのビームを回避したイチカとキラはフルバーストを放つも、独立稼働するデストロイの腕に搭載された陽電子リフレクターによって阻まれてしまう――キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスのエスカッシャンのビーム攻撃もデストロイ本体の装甲は削っても決定打にはなっていなかった。


「(クッソこのままじゃこのデカブツを止める事は出来ねぇ……機体のコントロールを奪う事が出来ればいいんだが相手がデカすぎて其れは出来ねぇ、
  其れに加えて火力がクッソ高い上に独立機動する腕には陽電子リフレクターが搭載されてるだけじゃなく指の一本一本にビーム砲が搭載されていて、更には並のモビルスーツ並みのデカさと来てる。
  このままだと押し切られちまうかもだが……って、ん?独立機動する腕は並のモビルスーツと同サイズなんだよな?……って事はもしかして!)
 カタナ!あのデカブツ本体のコントロール奪取は無理だが、独立起動してる腕ならコントロールを奪えるんじゃないか?」

「イチカ?」


そんな中で、イチカはドラグーンの様に本体から離れて独立稼働している腕ならばキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスでコントロールを奪取出来るのではないかと思い至った様だった。


「腕さえ奪っちまえば、あのデカブツは盾を失って火力が高いだけの独活の大木になる……やってみる価値はあるだろ?」

「そうね……行くわよエアリアル!」

「行くぜ、キャリバーン!」


カタナもイチカの提案に乗り、同時にキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスのシェルユニットが再び青く輝き、その光を受けたデストロイの腕部ユニットは機能を停止し、そして次の瞬間にはデストロイ本体への攻撃を開始した――キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスが腕のコントロールを奪い、デストロイに攻撃を行ったのだ。


「さぁて、好機だぜ!
 盾がこっちにある以上、そのデカブツのビームはこっちには通じねぇ!……待たせたなシン、思い切り暴れろぉ!!」

「その言葉を待ってましたよイチカさん!!」


――バシュゥゥゥゥゥン!!


そして此処でシンはイチカに言われた事でSEEDが発動し、エクスカリバーの二刀流でデストロイの装甲を切り裂き――


「シンもルナも、私が守る!」


ステラがガイアをモビルアーマー形態に変形させると連合のモビルスーツを足場にしてデストロイに肉薄し、翼のグリフォンビームブレードでデストロイの装甲を切り裂く。


「うがぁ!!お前達は死ぬべき……死ぬべきなんだぁぁぁ!!」


追い込まれたデストロイは、胸の三門のビーム砲を放とうとしたのだが……


「死ぬべき人間ってのは居るかもしれないが、其れは少なくとも俺達じゃねぇ。」

「貴女の敗因は敵を見誤った事ね。」

「やらせない!此れ以上は!!」


発射直前のビーム砲に、キャリバーンフリーダム、エアリアルジャスティス、フリーダムのビームサーベルが突き刺さり、ビーム砲は誘爆して爆発四散!!
この爆発でデストロイ本体も大破し、其の衝撃でパイロットも外に放り出されてしまった。


「コイツは……え?」

「オイオイマジか?……ったく、マジで碌でもないな連合はよ。」

「ステラがもう一人……?」


あの爆発に巻き込まれ、並のモビルスーツの三倍近い大きさのデストロイのコックピットから放り出されて地面に叩き付けられたとなればパイロットは無事では済まないだろう。
イチカ達もパイロットの様子を見る為にモビルスーツを降りて来たのだが、地面に叩き付けられた衝撃でヘルメットが外れたパイロットの顔を見て驚く事となった――デストロイのパイロットはステラと瓜二つの少女だったのだから。


「イチカさん、これって……」

「ステラのクローンだろうな、間違いなく……コーディネーターの存在を否定しといて、其れよりも自然の摂理に反するモノを生み出すとは、大したモンだぜロゴスの連中はよ……!」


デストロイのパイロット、S'は爆発に巻き込まれた事と地面に叩き付けられたダメージで既にこと切れていたのだが、ロゴスの『命を命と思わない所業』にイチカ達は怒りを隠す事は出来なかった。



――チッ、チッ、チッ……



そんな中、何やらタイマーの音がかすかに聞こえて来た……出所はS'の遺体だ。


「此れは……拙い、逃げろぉ!!」

「何処まで腐ってるのよ連合は!!」


イチカの号令で其の場に居た全員がS'の遺体から離れた次の瞬間――



――ドガァァァァァァァァァン!!



S'の遺体が爆発した。


「イチカさん……此れって……」

「彼女の身体には爆弾が仕掛けられてたんだよ……恐らくは心音か脳波の停止を感知すると起動するやつがな。
 僅かな情報でも敵方に渡さない為、そしてあわよくば道連れにってな……死んじまったら敵も味方もねぇから丁重に葬るってモンなんだが、死者すら手駒にするとは、如何やら何処までも人の心ってモノを失ってやがるみたいだなロゴスは……!」

「ロゴスを壊滅させない限り、此の世界から戦争は無くならないのかも知れないわね……」


改めてロゴスを明確な敵として認識したイチカ達だった。
其の後、壊滅状態になったベルリンではミネルバとアークエンジェルの両陣営がテントを設営して怪我人の治療や炊き出し等の復興作業に当たっていた。


「米を炊けぇ!炊いた米を握れぇ!具材はけちけちするなぁ!」

「イチカ、これ。」

「ん?如何したステラ?」

「パンダ。」

「ステラ、そのパンダおにぎりは子供が喜ぶからたくさん作ってくれ。」

「分かった。」


炊き出しではイチカが主夫力を全開にしておにぎりと豚汁を作り、カタナ、シン、ルナマリア、ステラもおにぎり作りに参加していた――そんな中でステラが作った『パンダおにぎり』は子供達に大人気となっていた。
デストロイの侵攻によって多大なダメージを受けたドイツだったが、生き延びた人々はミネルバとアークエンジェルの支援によって復興の道を歩み始めるのだった。

そして此の一件を機に、非戦闘員であるドイツ国民を虐殺した連合にはナチュラル、コーディネーター問わずに世論から厳しい批判の声が上がったにも関わらず、ロゴスは此の戦争を続ける決断をするのだった。


「コーディネーターは根絶やしにするべきなのです……!!」


己が否定したコーディネーターよりも遥かに自然からかけ離れた存在を生み出している事に気付かないままに……








――――――








ベルリンでの激闘が行われていた頃、マドカ率いるアベンジャーズでも動きがあった。


「マドカ、其れは本気か?」

「至って本気だレイ。
 イチカを確実に殺すためにも、先ずはアークエンジェルとフリーダムを討つ……キラ・ヤマトが戦場から居なくなれば、私もイチカに集中出来るからな……」

「その理屈は分かるが、奴がキラに勝てると思うか?」

「正攻法では無理だが、デスインパルスはコックピットを破壊されない限りは破損個所を換装する事で戦う事が出来る……落とせるさ、自由の翼をな!!」

「不殺が奴の首を絞めるか……それを見るのもまた一興かもしれないな。」


アベンジャーズは先ずはアークエンジェルとフリーダムの討伐を目標とし、アークエンジェルの現在地を検索し、其処に向かうのであった。









 To Be Continued