ミネルバにはモビルスーツの戦闘シミュレーターだけでなく、生身の戦闘訓練も出来るようにトレーニングルームも設けられており、其処には様々なトレーニングマシーンが設置されており、トレーニングだけでなくちょっとした運動にも適している場となっていた。


「えい!」

「ベンチプレス200㎏クリア……ベンチプレスでステラちゃんに勝てるのはミネルバのメンバーではイチカだけね。」

「カタナさんでも勝てないんですか?」

「ちょっとだけ勝てないわ……私のベンチプレスの最高記録は190㎏だから。」

「其れでも充分凄いんですけど、イチカさんの最高記録って……」

「ミナミゾウアザラシ一頭分♪」

「500㎏オーバー!?」


そこではステラがベンチプレス200㎏をクリアしていた――連合が生み出した強化人間であるステラならば此れ位は容易い事なのかもしれないが、天然ホンワカ系美少女が実は怪力だったと言うのは中々のギャップ萌えであると言えるだろう。

それはさておき、此のトレーニングルームにはスパーリング用のリングも設置されており、そのリング上ではTシャツにジャージのズボンで素足のイチカとシンが向き合っていた。


「今日こそ勝たせて貰いますよイチカさん!」

「お前がドレだけ強くなったか、見せて貰うぞシン!」


始まったスパーリングはイチカの踏み込み正拳突きと、シンの踏み込みストレートがカチ合い、互いに押し切る事が出来ずに弾かれ、そして改めてイチカの手刀の振り下ろしとシンのショートアッパーがカチ合う。

此れもほぼ互角で互いに弾かれる状況となったのだが、イチカは素早く体勢を立て直すと、シンにアマレスタックルの最高峰である『スピアータックル』を喰らわせてダウンさせると、其処から流れるような動きで足四の字を極める。
しかもそれは通常の足四の字固めではなく、相手の足首をホールドしている足を相手の足に絡ませて外れないようにした『拷問足四の字』なのだ。


「いってぇぇぇ!だけど足四の字は裏返せば……!」

「俺も痛いがお前も痛い。」

「え”?裏返したらかけた側が痛くなるんじゃないんですか?」

「裏返った事で複雑になって両方痛い。
 西暦時代の話だが、力道山ってプロレスラーがデストロイヤーってプロレスラーに足四の字極められた際に、苦し紛れに身体を裏返したら両者の足が締め上げられて、最終的にレフェリーが解く事になって、両者とも足がパンパンに腫れ上がったんだと。
 で、そんな事になったら俺もお前も出撃出来なくなってミネルバに大きな損失になるから……無駄な足掻きはしないでギブアップしろ。そもそも俺の拷問足四の字は裏返す事出来ねぇから。」

「~~!!仕方ねぇ、降参です!
 クッソー、また勝てなかった……イチカさんの壁はとんでもなく高いぜマジで。」

「だけど、諦める気は無いだろ?……お前が俺に勝つその時まで、俺はザフト最強で居てやるからいつでも挑んで来い――お前が俺を超える其の時まで最強で居るのが俺の務めだからな。」

「イチカさん……はい!また挑ませてください!!」


此のスパーリングはイチカに軍配が上がったのだが、シンは負けてもレベルアップをしているようだった。
其の後、今度はイチカとカタナがスパーリングを行い、常人では目で追う事も難しいレベルの攻防に、シンとルナマリア、そしてステラまでもが唖然とするのであった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE80
『明けない夜~Eine Nacht die niemals endet~』










その頃、ファントムペインは新たな人員であるS'と新型の『デストロイ』を受領しドイツに進路を取っていた。


「何で新入りに新型を任せるんだよ?俺ならもっと新型を使えるぜ?」

「そうは言っても上の決定じゃ仕方ないだろ?
 彼女は新型のパイロットとして誕生したみたいだからな……悪いが、今のお前じゃ新型のパイロットとしては彼女に遠く及ばんよ。」

「つまんねーの。」


スティングは新型機『デストロイ』のパイロットが新入りのS'である事に不満があるようだったが、S'は言うなれば『デストロイ専用パイロット』として生み出されたエクステンデットなのでデストロイの運用に関してはスティングよりも上なのは致し方ないだろう。

そしてファントムペインの部隊はドイツへと到着し、その地に降り立ったデストロイは、早速その性能を発揮した。


「消えろ……死ね!」


ドーム状の上半身から全方位にビームを放ち、両手からもビームを発射し、巨大な足で建物や自動車、出撃してきた戦車や陸戦型のMSを踏み潰して蹂躙する――其の姿は正に悪魔の如きだ。
正に悪鬼の如きデストロイの蹂躙劇なのだが、その報は即座にミネルバとアークエンジェルに伝わっていた――ターミナルの間者が連合の動きを探り、其処から得られた情報をミネルバとアークエンジェルに流していたのだ。


「此れは……」

「見過ごす事は出来んな?ラミアス艦長、一路ドイツに向かってくれ。」

「了解。」



「ドイツにトンデモねぇデカブツが現れやがったか……如何しますタリア艦長?」

「プラントから当該モビルスーツの撃破を言い渡されたわ……此れより本機はドイツに向かう!各員戦闘配備!!」

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」



その情報を受けたミネルバとアークエンジェルは即刻ベルリンに向ったのだが、到着したベルリンでは悪夢のような光景が広がっていた――連合の部隊によってベルリンの都市は焦土と化し、デストロイが瓦礫を踏み砕き、カオスと複数のウィンダムが更に都市を破壊していたのだ。



「此れは……こんな事って……!アレは確実に止めなくては!キラ君、カガリさん、行ける?」

『何時でも行けますマリューさん!』

『私も行けるぞラミアス艦長!』


「それじゃあお願い!ミリアリアさん!」

「進路クリア!フリーダム、発進どうぞ!」

「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」

「続いてストラクルージュ。発進どうぞ!」

「カガリ・ユラ・アスハ。ストライクルージュ、出るぞ!!」



この連合の蛮行に対して先ずはアークエンジェルからフリーダムとストライクルージュが発進し、それに続くようにムラサメとM-1アストレイが出撃して連合の部隊と戦闘を開始した。



「イチカ・オリムラ。キャリバーン、行くぜ!」

「カタナ・サラシキ。エアリアル、行くわよ!」

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。ザク、出るぞ!」

「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」

「ステラ・ルーシェ。ガイア、出る!」


続いてミネルバからもイチカ達が発進。
数の上では連合の方が上だが、質ではザフトとアークエンジェルの方が上だ。


「先ずは雑魚共を蹴散らす!派手に行こうぜキラ、カタナ!!」

「イチカ……その提案には乗らせて貰おうかな?」

「其れじゃあ行くわよ~~?た~まや~~!!」


開幕の挨拶とばかりにキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスのエスカッシャンフルバーストと、フリーダムのハイマットフルバーストで連合のウィンダム部隊を一掃し、デストロイに集中しようとしたのだが――



――グイィィィン……



此処でデストロイの両腕が分離し、陽電子リフレクターを展開してキャリバーン、エアリアル、フリーダムのフルバーストをジャストガードして見せた――ビームに対しての防御に関しては連合の方がザフトよりも優れていると言えるだろう。


「陽電子リフレクター搭載とはな……だが其れなら其れでやりようはある――先ずはウィンダム部隊を壊滅させる!」

「紫色のは恐らく指揮官機ね……キラ君は指揮官機をお願い。指揮官が落ちれば指揮系統が乱れると思うから。」

「了解!」


ビームが効かない相手と言うのは中々に厄介であるのだが、それならそれでやりようがない訳ではない。
連合のウィンダム部隊の指揮官と思われる紫色のウィンダムをキラに任せ、イチカとカタナはデストロイに向き合う。


「「パーメット6!!」」



――バシュゥゥゥゥゥン!!



イチカとカタナは此処でSEEDを発動し、それに呼応するようにキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスのシェルユニットが青い光を放つ――と同時にその光に触れたウィンダムはパイロットの操縦を受け付けなくなって沈黙し、ミネルバとアークエンジェルのモビルスーツ部隊に次々と撃破されて行った。


「ビームがダメなら、コイツは如何だぁ!!」


ウィンダムが多数撃墜された事でデストロイへの道が開かれると、インパルスは腰部のホルダーからコンバットナイフを取り出し、其れをデストロイのドーム状の上半身に突き刺す――デストロイは其の大きさゆえに、通常装甲よりもコストが掛かるPS装甲は搭載されていないようだった。
とは言え、コックピット部分にナイフを突き刺したのならば未だしも、装甲を貫通した程度では決定打にはならず、インパルスは飛行するデストロイの腕から放たれたビームを回避し、デストロイ本体からの離脱を余儀なくされていた。


「ちぃ、流石に最強の名は伊達じゃないか!!(なんだ?コイツの戦い方には覚えがあるような……気のせいか?)」

「やっぱり指揮官ともなると一筋縄じゃ行かないね。(この戦い方、似てる……あの人に……可能性は低いけど、生きていたのか?)」


一方でキラのフリーダムとネオのウィンダムも激しい空中戦を繰り広げていた。
機体性能では圧倒的にフリーダムの方が上なのだが、キラが不殺戦法である事とネオがパイロットとして連合屈指の実力を有していた事で意外にも拮抗した勝負となっていた。


「如何して、何でこんな事をするんだ!この人達は戦争とは無関係な筈だ!」

「あぁ、分かってるよそんな事は!
 マッタクもって嫌な仕事だよなぁ軍人ってのは!自分の意思とは無関係に上官の言う事を聞かなきゃならないんだからな!
 俺が傭兵なら飼い主の手に噛み付いてるかもだが、生憎とそうも行かない立場なんでね!!」

「間違ってると思うなら、何でそう言わないんだ!自分の意見も言えないのは軍人じゃなくて人形だ!!」


ビームサーベルでの剣戟の最中に放たれたフリーダムの前蹴りによって間合いを離されたウィンダムは牽制に腰部ホルダーから苦無型のナイフを取り出してフリーダムに投擲するが、フリーダムは其れを難なくビームサーベルで斬り飛ばすとブースターを全開にしてウィンダムに接近して渾身のライダーキック!
PS装甲が搭載されていないウィンダムには其れでも充分なダメージとなのだが――


「少なくとも貴方の正体が僕の想像通りだとしたら、貴方はそんな人じゃなかった筈だ……思い出して下さい、ムゥさん!」

「!!!」


更にフリーダムはビームサーベルの二刀流でウィンダムの頭部と四肢を斬り落としてダルマ以上の何かにすると残った胴体に踵落としを喰らわせて地面にゴールイン!
PS装甲は搭載されてないとは言え、モビルスーツの装甲は最低でも100mmなのでパイロットが死ぬ事はないだろう……墜落のショックで意識が飛んでいるかも知れないが。


「マリューさん、僕が落としたウィンダムのパイロットを回収して下さい。」

『キラ君?』

「僕の勘が正しければ、パイロットは……ムゥさんです。」

『!!!!』


ウィンダムを落としたキラはマリューにパイロットを回収するように頼んだのだが、其処でマリューは予想だにしなかった事を聞く事になった――指揮官機のウィンダムのパイロットが、二年前の大戦で死んだはずのムゥ・ラ・フラガだとキラは言うのだ。
俄かには信じられない事だがキラが戦場で嘘を言うとは思えなかったマリューは、ネオを回収する為にアークエンジェルをフリーダムに撃墜されたウィンダムの元へと進めるのだった。








――――――








「指揮官がフリーダムに落とされ、ウィンダムも大分落としたんだが、デストロイの侵攻が止まりませんとさ……このデカブツ、どうやったら止まるんだよ?」

「巨大すぎて、私達の機体のコントロール奪取も効いてないわね。」


ネオが討たれた事で連合の部隊の指揮系統は混乱状態となったのだが、デストロイは変わらず其の圧倒的な戦闘力を持ってしてドイツで破壊の限りを尽くしていた。
イチカとカタナが機体のコントロール奪取を試みたモノの、対象が大き過ぎてコントロールを奪う事が出来ずにいた。


「邪魔だ……どけぇぇぇぇ!!!」


――グイィィィン!!


互いに決定打を欠く状況だったのだが、此処でデストロイが動いた。
足が変形して人型の其れになったかと思うと、腕部ユニットが本体に戻り、更に腕が伸びる――だけでなく、胴も伸びてドーム型の上半身が後ろに移動してバックパックとなる。
そして新たに現れた上半身には、三門の高出力ビーム砲が搭載され、新たに現れた頭部にも口の部分にビーム砲が搭載されていた。


「其れが、お前の正体か……ぶっ倒し甲斐があるぜ!!」

「元々大きかったけど、此処で更に巨大化?……それは死亡フラグって奴だと知りなさいな!」


そうして現れたのは人型ではあるモノの異様な機体だった。
陽電子リフレクターを搭載した両腕は着脱可能であるだけでなく、両手とも指に小型のビームガンを仕込んでいるので攻防に於いて隙が無いのだ。

しかし其れを見てもイチカとカタナは怯まない――どころか、不敵な笑みを浮かべる始末だ。


「来いよデカブツ。特別に相手になってやる。」

「私とイチカが相手になるって事は早々ないのだから光栄に思いなさいな♪」


人型となって更に巨大になったデストロイに臆する事も無くイチカとカタナは啖呵を切ってみせたのだが、クルーであるイチカとカタナが戦う事を選んだ以上はミネルバも其れを無視する事はで出来ないので此の戦いに介入する事になったのだった。









 To Be Continued