デュランダルからセイバーを受領したアスランは、先ずはオーブに向かっていた。
出向と言う形を取っているとは言え、事実上アスランはザフトに復隊した事になるので、その旨をカガリに伝える為にオーブに向かい、そしてオーブ近海に到達すると、アスランは通信を開きオーブ軍に通信を入れる。


「此方アスハ家のアレックス・ディノ。入国を許可されたし。」


カガリの最側近兼護衛であるアレックスが戻って来たというのはオーブ軍人にとっては喜ばしい事ではあるのだが、其のアレックスが乗っていた機体が問題だった。
アレックスもといアスランが操縦している機体はデュランダルから託されたセイバー……つまりザフトの機体なのだ。
大西洋連邦と同盟を結んだオーブにとっては敵機となる訳であり、そうなるとアスランの入国を認める訳には行かない事になるのだ。


『……オーブは大西洋連邦との同盟を結んだ。
 故に識別シグナルがザフトとなる機体を国内に入れる事は出来ん。』


「なんだと!?……カガリ、首長達を抑えきれなかったのか……!」


セイバーへの警告と同時に数機のムラサメがスクランブル発進してセイバーに向かって来たのだが、アスランはキラ張りの不殺戦法でムラサメを無力化すると、セイバーをモビルアーマー形態に変形させて其の場から離脱し、ミネルバとの合流を目指して行った。


「トダカ一佐、此れで良かったのでしょうか?」

「俺としては入国させたかったんだが、今のオーブの情勢じゃ其れは難しいだろ?
 其れに、前回フリーダムとアークエンジェルを見逃した事で、あのお坊ちゃまにネチネチと嫌味を言われちまったからなぁ……此処で今度はオーブ領空内に現れたザフト機を見逃したとなれば何を言われるか分かったモンじゃない。
 もっと言うなら彼は今のオーブに居るべき人間じゃない……アークエンジェルに合流するか、それともミネルバか、其れは分からんが、少なくともあのお坊ちゃんの下で働く人間じゃないだろ。」

「成程納得です。
 そしてオーブ軍暗殺部隊『黒兎隊』には、『命令が下ったら即座にユウナ・ロマを抹殺せよ』と伝えておきました……今すぐ殺っちゃダメですか?本当にダメですか?もういっそ軍事クーデター起こしません?」

「……俺も其れを考えた事がなかったかと言えば嘘になるが、タダでさえ大西洋連邦との同盟を結んだ直後にカガリ様が攫われたって事で国内は割とゴタゴタしてるからやめた方が良いだろ?
 此の上で内乱とかなったらもうどうしようもないからな。」

「内乱に乗じてぼんぼん抹殺!」

「……オーブ軍の一尉に此処まで嫌われてるとは、政治家としては致命的かもな。」


だが、此のスクランブルもユウナに対してせめてもの言い訳が立つために行われた事であって、オーブ軍にセイバーを撃墜する意志は微塵もなかったのである。
政治の世界では腐敗し切ってしまっていたオーブだが、軍にはまだまだ真面な人材が残っているようである。












機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE66
『戦場への帰還~Rückkehr zum Schlachtfeld~』










キラがカガリを華麗に救出し、オーブを離れたアークエンジェルは潜水艦モードで海中に其の身を隠していた。
其のアークエンジェルでは帰還したキラとカガリを盛大に出迎えてくれた――


「キラ、実にいいタイミングだった正にドンピシャリのタイミングだったよ。」

「なら良かったよ……まさか彼に一発お見舞いするとは思わなかったけど……うん、あれは少しスカッとした。」

「てか、アスハ家に次ぐ大家って事だったけど、なんであんなのが政治の中心に居座ってるのか理解出来ないのよね……カガリ、アンタの代表首長の権限で解任出来なかったの?」

「いっそ、でっち上げの罪で収監してしまわれば良かったのではないでしょうか?」

「ラクス、お前爽やかな笑顔で言う事がえぐいぞ……私もセイラン家を政治の世界から排除しようと考えなかった訳ではないのだが、私が行動するよりも早くセイラン家は他の首長達を懐柔してしまっていてな。
 私がセイラン家を首長から解任しようとしても、それをやるには他の首長達の三分の二の同意を得なければならないんだ……セイラン家が他の首長達を懐柔した時点で、私は詰んでいたのだ。
 ……だが、今はこうして信頼できる仲間達と共にいる。ラミアス艦長、アークエンジェルは此れから如何するのだ?」

「当面はザフトと連合の動向を見ながら、必要であれば戦闘に介入する事になると思うわ――但し、ラクスさんとデュランダル議長は知り合いとの事で、デュランダル議長の考えにはラクスさんも賛同できるそうだから、第三戦力を装いつつザフトよりになると思うわ。」


アークエンジェルにはカガリの救出を見越して、カガリの専用機である『ストライク・ルージュ』も搬入されており、更にストライク・ルージュには連合が開発した統合兵装ストライカーパック『I・W・S・P』及びパーフェクトストライクをベースに開発された新型ストライカーパック『オオトリ』が搭載されていた。

アークエンジェルは今後はどの勢力にも属さない自由な戦力として、戦場に介入する事になるのだが、その際にはザフトよりの立ち位置になる――ラクスもデュランダルもターミナルの一員であり、ラクスとデュランダルは此れまでに何度も話をする機会があり、互いに世界平和を目指している事と思想的にも近い部分があったので水面下で協力体制が構築されていたのだ。


「そうか……プラントに行ったアスランが何か有益な情報を持って来てくれると良いんだがな。」


当面、アークエンジェルはザフトと連合の動きを注視する事となり、其の間は潜水艦として海の中に潜っている事になるのだが、オーブで改修されたアークエンジェルは各室冷暖房完備なだけでなく、食糧庫にはインスタント食品だけでなく乾燥野菜、燻製の肉類、缶詰に瓶詰と最低でも半年は暮らせるほどの備蓄食料があり、挙句の果てには『天使湯』なる温泉まで増設されているのだ――アークエンジェルは戦艦ではなく『動くスーパー銭湯』と言うべきかもしれない。

其れは其れとしてカガリはアスランの身を案じていたが、そのアスランとの再会は意外な形で果たされる事になるのだった。








――――――








オーブ軍からのスクランブルを受けたアスランだったが、無事にスクランブルを抜けるとカーペンタリア基地に向かい、ミネルバとの合流を果たしていた。
新型の登場に驚いたシン達だったが、其の新型のセイバーから降りて来たパイロットがアスランだった事にはもっと驚かされた。


「貴方は、なんでこんな所に……」

「シン、彼はFAITHよ。」

「!!」


更にアスランがFAITHである事に驚かされたが、シン達はアスランに敬礼すると、アスランも軽く笑みを浮かべながら敬礼を返す――アスランの表情に余裕があるのは経験の差だろう。
シンとしてはアスランの実力は先のユニウスセブンにおける戦闘で分かっているのだが、何故ザフトに復隊したのか、それが分からなかった。
其れを聞こうと思ったのだが――



――ビー!ビー!!



新たにブザーが鳴り響き、次いで二機のモビルスーツがカーペンタリア基地に降り立った。
一機は純白のモビルスーツで身の丈以上の超長砲身ライフルを装備し、バックパックにフリーダムを彷彿とさせる大気圏用の高速ウィングを搭載し、もう一機は漆黒のモビルスーツでバックパックとして巨大な翼を搭載した武装をマウントしていた。


「地球よ、私は帰って来た!!」

「宇宙生活が長いと地球の重力は堪えるわね♪」


其れはイチカの『キャリバーン・フリーダム』とカタナの『エアリアル・ジャスティス』だった。


「アーモリーワン以来だなアスラン……元気してた……なんて聞くまでもないよな。」

「俺は何時でも元気だよイチカ。」

「カタナさん……赤服に復帰したんですか!?」

「議長の計らいでね♪」


夫々の機体から降りて来たイチカとカタナはミネルバのクルーとあいさつを交わしつつ、アスランが此の場にいる事を驚く事はなかった。
イチカもカタナもアスランの性格的に、再び戦争が起きたら自分だけ平和な時間を享受する事は出来ないだろうと思い、何らかの形で戦場に戻って来るだろうと思っていたのだ。

こうしてミネルバには新たに三機の最新鋭機が配備され、連合に強奪された三機を相手にしても有利が取れる状態となったのだった。


「あの、少し良いですかイチカさん?」

「ん?如何したシン?」


そんな中、シンがイチカに先のオーブ脱出戦で自分に起きた事を説明していた。


「ブチキレたって訳じゃなく、頭の中がクリアになったか……其れはほぼ間違いなく『SEED』が覚醒したな。」

「そうと見て間違いないでしょうね。」

「SEEDの覚醒?」

「俺とカタナ、其れとアスランも覚醒してるモノなんだが、言うなれば火事場の馬鹿力の上位版みたいなモンだ……今はまだ意識して発動する事は出来ないと思うが、意識的に発動する事が出来るようになればお前はもっと強くなれる。
 感情のコントロールを怠らないようにな。」

「はい!」


シンに起きた事をイチカは説明した上で、『意識的に発動出来るようになれ』と言って、シンの更なる成長を促していた……SEEDを意識的に使えるようになれば、それだけで大幅な戦力アップになるので当然と言えば当然だが。



一方、ミネルバ内をルナマリアに案内されていたアスランは、その道中でルナマリアから『アスハ代表が結婚するそうです』との衝撃の情報が伝えられていたりした。


「カガリが、結婚だって?……しかも相手はあの性悪のユウナ・ロマだと……クソ、オーブに向かうのが遅かったか!」

「で、でもその結婚式にフリーダムが乱入してアスハ代表を連れ去ったとか……」

「フリーダムが?……キラ、よくやった!!」


それでも『フリーダムが結婚式に乱入してカガリを連れ去った』との報を聞いたアスランは一先ず安堵した……キラが一緒であるのならば此れ以上に安心な事はないのだから、


「こんな事を聞くのは失礼かもしれないんですけど、アスランさんはアスハ代表の何処が好きなんですか?」

「全てだな。
 カガリの魅力を語らせたら二時間では済まないな……カガリの魅力を最低でも百個上げる自信がある。」

「御見それいたしました!!」


そんなこんなでアスランはミネルバのブリッジに到着し、艦長のタリアにデュランダルからの命令書と『FAITH』の紋章を渡した。
それを受け取ったタリアはデュランダルの意図を即座に理解した――ミネルバの艦長であるタリアをFAITHに任命する事で、ミネルバに地球におけるある程度の独立機動権を持たせたのである。


「一部隊にFAITHが二人……通常ならばあまり良い事ではないのだけれど、貴方の事を考えると此れが最もベターな事だったのかも知れないわね。
 ともあれ、貴方ほどの人物が加わってくれたのは正直有り難いわね……頼りにしているわよ、アスラン。」

「俺は、俺のやるべき事をするだけですグラディス艦長。
 其れが結果的に誰かの為になっているのならばそれに越した事はありませんよ。」

「……其れもそうね。」


デュランダルからの命令書に従い、ミネルバは一路ジブラルタル基地に向かって行った。
次なる任務はスエズ攻略戦を行っているザフト駐留軍への支援であり、国家間、民族間のデリケートな問題を踏まえつつ、独立の気運が高まる内紛地帯へ介入と言う難しい任務であった――其れでも其れをやらないという選択肢はタリアにはなかった。
デュランダルは本当に出来ない事ならばそもそも言って来ない事は夫婦生活でも其れは分かり切っていたので、タリアは命令書を受け取るとミネルバをジブラルタル基地に向かって発進させたのだった。








――――――








「次の目的地はジブラルタル……道中、無事で済むかしら?」

「其れは望み薄だと思うぜ……俺達がジブラルタルに向かうって事は連合も何れ把握するだろうからな……間違いなく道中で戦闘になるだろうな……とは言っても俺達が負ける事だけはないけどな。」


ジブラルタル基地に到着するまでは各々自由時間となり、イチカとカタナはミネルバの甲板で雑談した後に釣りに興じて大量の魚をゲットし、本日の夕飯メニューには新鮮な刺身の盛り合わせが追加されたのだった。

そうして目的地であるジブラルタル基地に向かって行ったミネルバだったのだが――


「見つけたぜ、チャーミングな子猫ちゃん♪」


其の機影はネオ率いる『ファントム・ペイン』が補足し、其れを見たネオは口元に薄く、そして怪しげな笑みを浮かべながらミネルバと戦う為に『ガーティ・ルー』を発進させるのだった。














 To Be Continued