突如として強襲されたキラ達が暮らしている孤児院。
強襲部隊はキラが操るフリーダムによって無力化され、その果てに自爆したのだが、自爆してコックピットは吹き飛んだモノの、機体の全身は割かし健在だったので機体の残骸は即座にターミナルに送られる事になっていた。
だが、問題は其処ではなく――
「アッシュ……プラントが新たに開発した水陸両用のモビルスーツだったな。
ザフトの地球部隊に新たに配備される機体だったんだが、輸送船が消息を絶った――ってところまでは掴んでいたんだが、まさかこんな事になっちまうとはねぇ……ザフトの輸送船を襲った連中ってのは中々厄介な奴なのかもしれん。」
「ザフトの輸送船を襲ったのは連合じゃないんですかバルトフェルドさん?」
「勿論連合の可能性もあるが、連合の連中がピンポイントで俺達を襲う理由が分からん。
ラクスを狙った可能性もなくはないが、ラクスがオーブに居るのを知っているのは俺達を除けばカガリとアスラン、そしてラクスと同様にターミナルに所属してるデュランダル議長……あとはイチカ位なモノだ。
連合の連中が知っているとは思えん。」
強襲部隊が何故この孤児院を狙って来たのかと言う事だ。
前大戦を終結に導いた三隻同盟の中心的な人物が集まっている此の孤児院だが、其れを知っている者は極僅かであり、先の大戦終了後に三隻同盟から連合に復帰した人物は居ないので、連合に此の孤児院に誰が居るかを知る人物は居ない筈なのだ。
あまりにも不可解な襲撃……正体が不明の敵と言うのはなんとも不気味なモノである。
『その答え、教えてあげようホトトギス!』
「ホトトギス?」
「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス、だったか?」
「鳴いたら『鳴け』って殺されるんでしょうけど、鳴いたら鳴いたで『やかましい!』って殺されそうな気がするわ。」
「じゃなくて、此の声は一体?」
そんな中、突如謎の声が轟いたかと思った次の瞬間、砂浜に爆音と共に凄まじい砂煙が巻き起こった。
突然の事にキラ達も何事かと思ったのだが、砂煙が治まると、砂浜には巨大なニンジンが――正確にはニンジンの形をした何かが突き刺さっていた。
そして、そのニンジン型の何かの上部が開き――
「天から降ったか地から沸いたか、正体不明の謎人物!
選ばれし神の子か、それとも悪魔の申し子か、存在自体が超常現象!誰が呼んだか世紀の大天才!歩く都市伝説!!制御不能の暴走核弾頭!!!
正義のマッドサイエンティスト、タバネ・シノノノ、満を持して登場~~!!」
其処から何かが飛び出し、華麗に砂浜に着地した。
その人物は特徴的な紫色のウェーブのかかったロングヘアで、御伽噺『不思議の国のアリス』を連想させるエプロンドレスに身を包み、頭にウサギの耳を模した機械を搭載した人物だった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE65
『明日への出航~Abordnung auf morgen~』
まさかの出来事に一瞬フリーズしたキラ達だったが、一番最初に再起動したのはキラだった。
「タバネ・シノノノって、イチカの知り合いの……」
「おうとも、そのタバネ・シノノノだよキー君♪」
イチカからタバネの事は聞いていたので、キラはタバネが何者であるのかを即座に理解してた――だとしても、こうして自分達の前に姿を現すとはマッタクもって予想外の事であったが。
「アンタがイチカが言ってたタバネさんかい?初めまして。こんな状況じゃなきゃ、俺ブレンドのコーヒーを振る舞ってるところなんだがね。」
「にゃはは~~、其れはまた今度ね虎のお兄さん♪
私が此処に来たのは、必要最低限の事を君達に教える為だからね……回りくどいのは好きじゃないからストレートに言うけど、君達を襲ったのは連合の連中じゃなければプラントの連中でもない。
その何方にも所属してない第三の勢力だね……この第三勢力は、ナチュラル、コーディネーター問わず今の世を快く思ってない連中で構成されてる――先のユニウスセブンの落下も、コイツ等がテロリストをそそのかして起こしたモノなのさ。」
タバネは此度の襲撃を起こしたのが何者であるのかを暴露すると、更にユニウスセブンの落下も其の第三勢力が手引きしたモノであると言う事も明かした。
だが、重要な情報を開示しつつ、束は其の組織の構成員に関しては把握しているモノのキラ達には伝えなかった……伝えすぎるのも良くないと判断したのだろう。
「その方達の目的は分からないのですか?」
「ユニウスセブンの落下の目的は分からないけど、今回の襲撃に関してはキー君を戦場に引っ張り出すのが目的だね。
ラーちゃんにしろフーちゃんにしろ、キー君の恋人が危険な目に遭って、其れを起こした相手がモビルスーツを持ち出したとなったら、キー君は戦場に戻らざるを得ないだろうからね――そう言う意味では、敵は自爆したけど目的は果たせた訳さ。」
「僕を戦場に引っ張り出すって、そんな事に一体何の意味が……?」
「それは私が教えるよりも君が自ら戦って答えを得る方が意味があるね。
ま、どんな答えが待っていても君なら大丈夫だとタバネさんは思ってるけどさ……まぁ、頑張りたまえよ少年!悩んで答えを出すのもまた若者の特権ってモノなんだからさ!」
それだけ言うと、タバネの姿が一瞬揺らいだかと思ったら蜃気楼の如く消えた……此の場に現れたタバネは立体映像による幻影だったのだ。
「まぁ、まぁ。まぁ!!」
「マーナーさん?」
「キラ様!」
其処に新たに現れたのはカガリの乳母を務めていた女性『マーナー』だった。
彼女は軟禁状態にあるカガリからキラへの手紙を託され、其れをキラに届けに来たのだ――其の際に、カガリとユウナが結婚する事をキラ達に伝え、カガリに親がいない事を理由にセイラン家が半ば強引に結婚の話を進めていた事に対する不満を盛大にぶちまけていた。
その手紙の内容は要約すれば『オーブの為にユウナと結婚する』と言うモノだったが、キラは其の裏にあるモノを読み取っていた。
「結婚式を狙え、か。」
「え?」
「結婚式を狙えって、如何言う事よキラ?」
「この手紙、よく見ると不自然に文章が途切れてるよね?
此れ、漢字をツー、平仮名をトンにしたモールス信号になってるんだ……だから最初の『私は此度』はツートンツーツーでケになる。其れを組み合わせてくと『ケッコンシキヲネラエ』って暗号になるんだ。
カガリは結婚式を狙って自分を連れ出すように僕達にメッセージを送って来たんだよ。」
それは漢字と平仮名を組み合わせたモールス信号だった。
先の大戦でレジスタンス部隊に参加していた経験があるカガリだからこそ思い付いた暗号であり、此れならばお坊ちゃん生活を続けて来たユウナには見破られる事はないとカガリは踏んでいたのだ。
そしてカガリからのメッセージを受け取ったキラ達の行動は早かった。
バルトフェルドが嘗てのアークエンジェルのクルーに連絡を取り、戦場ジャーナリストとして世界中を飛び回っているミリアリアを除いて、元アークエンジェルの副艦長であるナタルとはじめとしたクルーが集結していた。
「如何して、平和な世界は長続きしないのかしら……」
「其れは分からないけど、だからと言って黙ってるのはダメでしょ?……其の結果がどうなったのか僕達は良く知っているんだから。」
「えぇ……そうね。」
地下に降りるエレベーターの中でキラとマリューはこんな会話を交わしていた――アークエンジェル時代の上司と部下の関係から離れ、この孤児院で二年過ごした二人は今や姉弟的な間柄になっているようだ
地下に降りたキラとマリューはオーブ軍の軍服に着替え、そして地下にて改修されていたアークエンジェルに乗り込んだ――乗り込む前にキラは育ての親であるカリダ・ヤマトと面会し、カリダから『貴方の戻ってくる場所は此処よ……必ず生きて帰って来て――誰が何と言おうと、貴方は私の息子なのだから』と言われ、キラも『うん、必ず帰って来るよ、母さん』と返していた。
直接的な血の繋がりはなくとも、キラとカリダの間には確かな親子関係が構築されていたのだ。
一方、アークエンジェルでは――
「あの、バルトフェルド隊長、こちらに座りません?」
「ん?いやぁ、元より人手不足のこの舩だ。
いざと言う時、僕は出ちゃうしね――やはりそこは貴女の席でしょう、ラミアス艦長。」
「アークエンジェルの艦長は貴女以外には居ませんよ。」
マリューがバルトフェルドにアークエンジェルの艦長を任せようとしたのだが、バルトフェルドは暗に『アークエンジェルの艦長は貴女以外に居ない』と伝え、ナタルも其れを支持し、其れを受けたマリューは苦笑いを浮かべながらも艦長席に腰を下ろしたのだった。
「アークエンジェル、発進!」
マリューの号令で地下で眠っていた大天使は海を割って大空へと飛びたったのであった。
――――――
アークエンジェルが発進したのと同時刻、オーブの首都ではカガリとユウナの結婚パレードが行われ、カガリとユウナが乗ったリムジンが繁華街を進行していた。
カガリはウェディングドレスに身を包み、街道に参列した国民に笑顔を向けていた。
そうして、カガリとユウナは結婚式の会場に到着し、結婚式が始まったのだが……
「進路クリア。フリーダム、発進よろしいですわ。」
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!!」
アークエンジェルからフリーダムが発進し、同時にアークエンジェルは警備に当たっていたオーブの護衛艦隊のど真ん中に着水する。
ユウナとカガリの結婚式は多くのオーブ国民がその様子を見れるようにと野外で行われており、もしもの場合に備えて海辺の式場を護衛する形で艦隊が陣取っており、陸上の式場周辺にはオーブの最新量産機『ムラサメ』が多数配備されているのだ。
当然突如現れたアークエンジェルとフリーダムに対しては、オーブ軍の上層部も正体が分かっていても『アンノウン』として対処しなくてはならない。
「トダカ一佐、アンノウンへの攻撃命令が下されましたが……」
「アンノウンねぇ……お前さん、あの船とモビルスーツの名称知ってるか?」
「え?アークエンジェルとフリーダムですよ、ね?」
「そう、アークエンジェルとフリーダムだ。
其れが分かっている以上、あれはアンノウンじゃないからな?アンノウンへの攻撃命令ってのは遂行不可能って訳だ。」
が、此の『アンノウンとして対処する』と言うのが絶妙な策だった。
『アンノウン』とは『正体不明』の意味なのだが、トダカをはじめとしたオーブ軍のほぼ全ての軍人がアークエンジェルとフリーダムの存在は前大戦において認知しており、認知している相手ならば正体不明ではないので『アンノウンへの攻撃』は遂行不可としてアークエンジェルへの攻撃は行わなかったのだ。
流石にモビルスーツ部隊はカガリとユウナの直接の護衛を担っているので攻撃の真似事でもしなければ言い訳も出来ないのでフリーダムに向かってビームライフルを向けるが、フリーダムは発射される前にライフルだけを破壊して無力化し、祭壇の前まで辿り着くと特徴的な翼を展開しながらゆっくりと降下して来た――其の姿は、悪い王子に攫われた姫を助けに来た大天使の如しだ。
「キラ!待ちわびたぞ!良くぞ誓のキスの前に来てくれた!」
『タイミングはばっちりだったみたいだね?さ、乗って!』
「あぁ!……だが其の前に……ユウナ!」
「え?カガリ……?」
「歯ぁ、食いしばれゴラァ!!」
――バッキィィィィ!!
そのフリーダムが差し出した手に乗る前に、カガリは一切手加減なしの『アルティメットスクリューナックル』をユウナの顔面に叩き込んだ。
細身に見えるカガリだが、前大戦期にレジスタンスに参加していた事もあって現役の女性軍人に負けず劣らずの身体能力を有しており、箱入りボンボンお坊ちゃまのユウナでは到底太刀打ちできない腕力があるのだ。
その拳を喰らったユウナは派手に吹っ飛び、鼻血を撒き散らし、更にカガリはアスランから貰った指輪を右手の薬指にはめていたので、指輪の石で盛大に顔を切っていた。
「誰がお前のような下衆と結婚するか!
私は此れより一旦オーブを離れるが、必ず戻って来る……其の時まで精々お山の大将を気取っていろ!」
「か、カガリィ~~!!」
ブッ飛ばされて情けない姿を晒すユウナを尻目に、カガリはフリーダムの手に乗ると、フリーダムは其れを包みこむように持って其の場から飛翔し一路アークエンジェルへ。
その道中で、二機のムラサメがモビルアーマー形態で攻撃して来たのだが、此れは『代表首長が結婚式の最中に攫われたのに何もしなかった』となれば大問題になるので形式上の出撃なのである――とは言え、何もしない訳にも行かないので当たらない射撃を行っていたのだが。
その状況でキラはフリーダムのコックピットを解放すると、コックピット内にカガリを入れた。
「うわ、凄いねこのドレス。」
「貸衣装だが、ユウナの奴が最高ランクのモノを選んだらしい……私の好みではないがな。」
「もしかして和装の方が良かった?……着物のカガリと袴姿のアスラン……うん、悪くないと思う。――と、確り掴まっててよ!……ゴメンね。」
コックピットにカガリを入れるとフリーダムは二機のムラサメを擦れ違いざまに翼をビームサーベルで斬り落として無力化する――翼を切られた事でモビルアーマーとしての飛行能力は失われるがモビルスーツ形態になれば落下は防げるので問題なしだ。
キラもキラで自分が何もしないでムラサメを素通りしたら問題になると思い、得意の不殺で最低限の攻撃を行ったのである。
そうしてフリーダムはアークエンジェルに帰還し、フリーダムを収容したアークエンジェルは潜水艦としての機能を起動して海中に其の姿を消して行った。
「カガリ様を頼むぞアークエンジェル。」
海に消えて行くアークエンジェルに対し、トダカをはじめとした艦隊の軍人達は攻撃する事なく敬礼を行っていた――政治の世界ではカガリ以外は腐り切ってたが、軍にはまだまだ真にオーブの事を考えている人間の方が多いのだろう。
「トダカ一佐、提案があるのですが良いでしょうか?」
「ハルフォーフ一尉、何かな?」
「オーブの未来の為にユウナ・ロマ・セイランを暗殺すべきかと……ぶっちゃけ、アイツマジでムカつくので。」
「其れは……その気持ちは分からないでもないが、今は止めておこう。
カガリ様がオーブを去った今、彼がオーブのトップだからね……其れが暗殺されたとなれば、それこそ連合がオーブを乗っ取ろうとして来るだろうからな。」
「チッ、命拾いしたな紫ワカメ。」
何やらクラリッサが危険な事を考えてたみたいだが、取り敢えずアークエンジェルは無事にオーブを発ち、アークエンジェル内ではフリーダムと共に帰還したカガリを歓迎していた。
同時に其れは先の大戦に於ける英雄達が全員戦場に舞い戻った事を意味していたのだった。
To Be Continued 
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