カーペンタリア基地を出港したミネルバは、潜水艦ニーラゴンゴと共にジブラルタル基地に向かって行った。


「うっめぇ!!イチカさん、此のマグロ丼絶品ですよ!」

「素材が新鮮だからな
 余った素材は燻製にして保存だな。」

「アークエンジェルの時も思ったが、お前は軍人よりも料理人の方が向いてるんじゃないかイチカ?
 この腕前なら店を開く事が出来ると思うぞ俺は。」


ミネルバの食堂では、イチカが釣った魚を調理してクルーに振る舞っていた。
因みに本日のメニューは『超マグロ丼(大トロ、中トロ、尾の身、漬け、ネギトロ、炙りトロ)』、『キンメダイのカルパッチョ』、『海鮮フライ盛り合わせ(アジ、イカ、エビ、タラ)』である。


「そう言えばさっきは驚いて聞けなかったんですけど、貴方は如何してオーブじゃなくてザフトに?」

「……嘗て共に戦った仲間達が今また戦っている中で、果たして俺だけオーブで平和に過ごす事が正解なのか、それで良いのかと思ってな。
 別に誰かと戦いたい訳じゃないが、俺が戦う事で此の戦争を終わらせて平和への道を作る事に僅かでも貢献出来るのならそうすべきだと思っただけさ。」

「そうか……なら此の戦争、絶対に勝たないとだな。」

「ふむ、確かに勝たねばならないが、今の言い方だとアスランの為にも勝たねばならないという風に聞こえるがのだがね?」

「其れも間違ってないぜロラン。
 プラントが此の戦争に勝てばアスランは『大局を見てザフトに復隊した英雄』になるだろうが、プラントが負けた場合は『連合の同盟のオーブを裏切ってザフトに寝返った最悪の裏切者』って事になっちまうだろうからな。」

「勝てば官軍、負ければ賊軍とはよく言ったモノだわね。」

「前回はザフトを離れてアークエンジェルに付いて、今度はオーブを離れてザフトにか……どうやら俺は一つの場所に留まる事は出来ない運命みたいだな。」


先程はまさかのアスランの登場に驚いて何故ザフトに復隊したのか、その理由を聞く事が出来なかったシンだったが、改めて聞くとその理由は中々に納得出来るモノであると同時に、『力を持つ者はその責務を果たさねばならない』との思いをシンに抱かせていた。

平和な食事タイムが過ぎる中、モビルスーツの格納庫では……


「なぁ、ヨウラン。」

「なんだヴィーノ?」

「キャリバーンフリーダムのバリアブルロッドライフル、整備難しくね?」

「言うな、俺も思ったから。」


整備士のヴィーノとヨウランがイチカのキャリバーンフリーダムのメイン武装である『バリアブルロッドライフル』の整備に手間取っていた。
バリアブルロッド・ライフルは全長がキャリバーンフリーダム本体よりも大きい上にランチャーストライクのアグニ並の威力を備えており、更には追加スラスターとしての機能も備えているので整備の武装系班と駆動系班の双方が整備に当たる必要があるのだ。
尤も、アークエンジェルのメカニックである『コジロー・マードック』ならば問題なく整備し切るのだろうが、まだまだ年若いミネルバのメカニックであるヴィーノとヨウランは此れから現場で経験を積んで行く必要があるようである。

こうしてミネルバはジブラルタル基地に向かっていたのだが、そのミネルバを狙っているオオカミが、道中で息を潜め、襲い掛かる機会を伺っていた……












機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE67
『インド洋の死闘~Deadly Battle in the Indian Ocean~』










ミネルバが潜水艦ニーラゴンゴを伴ってジブラルタル基地に向かっていた頃、ジブラルタル基地にほど近い島では密かに地球軍基地の建設が行われていたのだが、ミネルバの動きを補足したネオは其処に立ち寄ってウィンダム部隊を借り受けていた。
量産型ストライクの完成形とも言えるウィンダムの性能はダガーシリーズを遥かに上回るので、それだけの援軍を得る事が出来たのはネオとしても心強いモノがあるだろう。


「さてと、それじゃあ戦争を始めるか!」

「……ステラはお留守番……」

「仕方ねぇじゃん。ガイア、飛べねぇし泳げねぇし。」

「アウル、お前はもう少し言い方ってモノを考えろ。」

「え~?だって事実だろスティング!」


丁度島の近くにミネルバが現れた事を確認したネオは部隊に出撃命令を下し、自身も専用のウィンダムに乗り込み、スティングのカオスと共にミネルバを襲撃した。

襲撃されたミネルバは直ぐに艦内にコンディションレッドが発令され、イチカ達モビルスーツパイロットはパイロットスーツに着替えるとすぐさま格納庫に向かって自身のモビルスーツに乗り込んで順次カタパルトに。


「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。ザク、出るぞ!」

「アスラン・ザラ。セイバー、発進する!」

「カタナ・サラシキ。エアリアル、行くわよ!」

「イチカ・オリムラ。キャリバーン、行くぜ!」

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!」


そして出撃。
インパルスは今回は機動力重視のフォースシルエットを装備だ。

ミネルバのモビルスーツが六機なのに対して、連合のウィンダムは五十機を超えており、数の上では圧倒的に不利なのだが――


「景気づけに……」

「一発ぶちかましちゃいましょ♪」


イチカとカタナはキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスに搭載されたビット兵装『エスカッシャン』を展開すると、マルチロックオンからのフルバーストでウィンダム部隊を一気に蹴散らす。
特にキャリバーンフリーダムはバリアブルロッドライフル、背部の二機のバラエーナー、十一機のエスカッシャン、計十四門の火器の一斉掃射である上に、バリアブルロッドライフルのビームは照射時間が長く、照射状態で動かせば超長大なビームサーベルとしても機能するので、敵のウィンダム部隊は最初の一撃でほぼ壊滅状態になってしまったのだ。

とは言ってもネオのウィンダムとスティングのカオスは健在であり、ウィンダム部隊も全滅した訳ではない。


「一機だけ違うカラーリング……指揮官様かしら?少し私と遊んでいきなさいな♪」

「白い機体と黒い機体……新型か!」


ネオのウィンダムにはカタナのエアリアルジャスティスが向かい、ビームブーメラン兼ビームサーベルとして機能するエスカッシャンを手にし、二刀流でネオに斬りかかる。
ネオもストライカーパックに搭載されたビームサーベルを抜いて応戦するが、カタナは順手と逆手の変則二刀流を使っており、通常の二刀流とは異なる変幻自在で次の一手を読ませない戦いでネオを翻弄していた。

ネオのウィンダムはカタナが抑えていたが、スティングのカオスにはアスランのセイバーが対応していた。
カオスもセイバーもザフトのセカンドシリーズとして開発された機体であり、何方も大気圏内での単独飛行能力とモビルアーマーへの変形機構を有しているのだが、開発が遅れていた分だけセイバーの方が若干性能面では勝っていた。
変形機構を有する事以外には特出した性能を持たないセイバーだが、逆に言えばパイロットを選ばない汎用性があるだけにパイロットの腕前がダイレクトに反映される機体とも言えるのだ。


「経験が足りないな。」

「俺が戦闘能力で負けている?……馬鹿な……!」


モビルスーツでの戦闘はミネルバが圧倒しており、イチカはバリアブルロッドライフルのクアドロスラスターを吹かすと、其の上に乗って突撃し、進路上にあるウィンダムをビームサーベルで次々と切り裂いて行った。

此のまま行けばミネルバの圧勝なのだが――


「艦下方に攻撃!……アビスです!」


此処でミネルバが海中からの攻撃を受けた。
攻撃を行ったのは強奪されたアビス。ネオは自分達を囮にする事でアビスの出撃をミネルバに悟らせなかったのだ――とは言え此の攻撃でアビスは認知されたので、其れを知ったタリアはロランとルナマリアに一時帰還を命じ、アビスへの対応を命じたのだった。


「水中ではビームは使えない。シヴァを出してくれ。」

「私にはバズーカを。」


帰還たロランとルナマリアは水中でも使える武装を搭載すると海にダイブ。
其の海中ではまたしてもアビスがミネルバに襲い掛かろうとしていた。


「空の大規模部隊が囮とはやってくれる……中々の大仕掛けだったが、ミネルバはやらせないよ。」

「ミネルバはやらせないわ、絶対に!」


だが其の前にロランとルナマリアのザクが現れ、アビスに攻撃!
ロランが使ったシヴァは、デュエルアサルトシュラウドの右肩部に搭載されていた電磁レールガンなのだが、プラントはコストパフォーマンスの良さ、PS装甲以外には極めて有効である事に着眼し、ジンなどに搭載されていた実弾型アサルトライフルに変わる実弾兵器としてザクのオプション兵器として開発したのだ。
一方でルナマリアが選択したバズーカは、バスターに搭載されていた350mmガンランチャーをベースに開発された電磁リニアバズーカであり、言うなればより大口径のシヴァと言った感じの武装だ。
大型で取り回しが難しく、シヴァと比べると連射性能で劣るが、一発の破壊力では此方の方が上であり、数発でPS装甲をダウンさせる事が可能である。
そして双方の最大のメリットは、レールガン、リニアバズーカである事で水中でもほぼ水の抵抗を受ける事無く高速で弾丸を発射出来る点にある――ビームに比べれば遅いとは言え、時速7000㎞の弾丸を回避するのは普通の人間には不可能だろう。


「ハッ、そんな攻撃が当たるかよ!」


だがアビスを操るアウルは連合が作った強化人間『エクステンデット』だ。
スーパーコーディネーターであるキラには及ばなくとも並のコーディネーターならば圧倒するだけの能力を持っており、ロランとルナマリアの連携を悉く躱してしまう。
それでもミネルバに接近する事は出来なかったのだが、此処でアウルは目標をミネルバから同伴する潜水艦ニーラゴンゴに目標を変えた。


「ミネルバを諦めてそっちを狙うか!」

「く……やらせないわ!」


アビスが標的を変えた事に気付いたロランとルナマリアは慌てて追うも、水中での移動力に関しては水中戦用として開発されたアビスに適う訳もなく、モビルアーマー形態に変形したアビスはあっと言う間にニーラゴンゴに接近し近距離からミサイルを放ってニーラゴンゴを撃沈してしまった……機体は木っ端微塵となりクルーの生存は絶望的だろう。


「間に合わなかった……許せとは言わないが、せめてもの手向けとして奴は必ず討ち取ると約束しよう……安らかに眠ってくれ、同士達よ。」

「アビス……絶対に倒してやるわ。」


ニーラゴンゴを撃沈したアビスはミネルバの撃破は無理と判断して其の場から離脱――ミネルバも海中からの攻撃を警戒して浮上していたので此の判断は間違っていなかった。








――――――








空中ではカタナがネオを、アスランがスティングを抑え込み、イチカとシンはウィンダム部隊を次々と撃滅して行ったのだが、此処でステラのガイアが乱入して来た。
待機を命じられていたステラだったが、ネオが押されているのを見て出撃して来たのだ。


「陸戦型で空の相手に挑むとか馬鹿かお前?
 ドレだけ俊敏に動く事が出来ても、飛ぶ事が出来ない犬っころに自由に空を舞う鳥が捕らえられるかよ。」


だが、そのガイアもキャリバーンフリーダムがエスカッシャンで四肢を破壊して行動不能にしてしまったのだが。


「イチカさん、アレ!」

「ん?……オイオイ、基地建設の為に民間人に強制労働させてんのか?」


戦闘の最中、シンが連合の基地建設が行われている島を発見しイチカに伝えたのだが、其の基地建設現場では連合の監視員が民間から連行した人々に強制労働を行っていた。
その多くが地球に住んでいるコーディネーターであるのは言うまでもないが、労働に駆り出されている人々は痩せており皮膚の色も悪く、劣悪な環境での生活をしているのは間違いなかった。


「イチカさん、如何します?」

「……どうもこうもぶっ壊す一択だ。
 基地が減れば其れだけ連合の戦力も削れるからな――つっても、このまま攻撃したら一方的な虐殺になっちまうから……あ~、あ~、こちらはザフト軍のイチカ・オリムラ並びにシン・アスカ。
 我々は此れより一分後にその施設に攻撃を行う。
 施設内の人間は直ちに避難されたし。」

「イチカさん?」

「と、こうやって避難勧告を行った上で攻撃すりゃ、避難の猶予を与えたって事で一方的な虐殺にはならねぇってな。
 こっちの避難勧告を無視して施設に残った奴の事は知らん。……でもってジャスト一分だ、ぶっ壊すぞシン!」

「はい!!」


連合の新たな基地となるのならば其れを破壊しておくに越した事はないのだが、イチカは避難勧告を行い、一分の猶予を与えた上で一分が経過したところでシンと共に基地建設現場を攻撃し、建設中だった基地を完全破壊し、更には作業員達の逃走防止用に張られていた有刺鉄線や柵も排除して強制労働に駆り出されていた民間人も解放したのだった。

此の状況にネオはミネルバの撃破は無理だと判断して部隊を撤退させるのだった――結果としてはミネルバの勝利となったのだが、ニーラゴンゴを失ったのは決して小さくないモノであり、戦闘終了後はミネルバのクルー全員が海中に散った同士に対して敬礼を行ったのだった。








――――――








「イチカ、連合の建設中の基地を攻撃したのはお前の判断か?」

「俺の判断だが、何か問題があったかアスラン?」

「……建設現場なら非戦闘員もいたんじゃないか?」

「居たよ。てかその殆どは連合が強制的に連れて行ったコーディネーターだ。
 ナチュラルの連中は働かずにだ……本当なら問答無用でぶち殺してやりたいところなんだが、俺は優しいから避難勧告をして一分の猶予を与えた上で一分を超えてから攻撃したって訳だ。
 逃げ遅れた奴に関しては知らねぇけどよ。」

「相変わらず、敵には容赦がないなお前は。」

「ぶっちゃけ、敵に容赦する意味が分からない。」

「其れは、まぁ分からないでもない。」


戦闘終了後、イチカとアスランはこんな会話を交わしていた。


「だがしかし、どうなるんだろうな此の戦争は……ナチュラルとコーディネーター、最悪の場合は何方かが絶滅しない限り、争いは終わらないのかも知れないな……マッタクもって最悪だ。」

「だが、そうならない為に俺達が居る。
 今はあんまり悩むなよアスラン……チームで息を合わせてバッチリ行こうぜ。」

「イチカ……そうだな。」


こうして危機を脱出したミネルバは一路ジブラルタル基地に向かうのだった。














 To Be Continued