オーブを出港したミネルバを待っていたのは地球連合の艦隊で、更にはオーブの艦隊からも背後を取られた事で退路を断たれてしまった――となれば最早正面突破をする以外に手はないので、ミネルバはシンがインパルス、ルナマリアがガナーザクウォーリア―、ロランがブレイズザクファントムで出撃して連合の勢力と真正面からぶつかっていた。

同時にオーブの艦隊にもミネルバへの攻撃命令が下されたのだが――


「攻撃開始!だが、機体には当てるなよ!」

「トダカ一佐、其れは命令違反では?」

「知るか。俺は政治家じゃないんでね。」

「恩人に対する義理を欠くのは、それこそオーブの人間の恥だ、それを知れ!」


トダカをはじめとしたオーブ艦隊の艦長は揃ってミネルバへの攻撃命令を下しながらも、ミネルバ本体に攻撃は当てるなと言う事を異口同音に厳命していのだった。
だがそうだとしてもミネルバが窮地である事は変わらない。
オーブ艦隊からの攻撃は当たらないとは言え退く事は出来ず、正面突破しようにも連合は戦艦だけでなく最新鋭量産機『ウィンダム』を投入して来ているので其れも簡単な事ではない。


「艦長、グゥルは無いのかい?」

『あればとっくに出しているわロランツィーネ。
 本当だったら搭載するはずだったのだけれど、アーモリーワンの一件で緊急出動する事になってしまったからミネルバへの搬入が済んでなかったのよ。』


「グゥルがあれば私とルナマリアも飛ぶ事が出来たのだけれど……マッタク連合は余計な事しかしてくれないモノだ。
 此方は戦艦一隻にモビルスーツが三機。対する連合は複数の戦艦に複数のモビルスーツ……状況は圧倒的に不利な訳だが、その不利な状況を跳ね返しての凱歌は如何程か想像も出来ないね。
 此の緊迫の大舞台を、見事演じ切って見せようじゃないか!」

『ホント、どんな時でもブレないですよねロランさんって……』


ザフトの量産機用の飛行ユニット『グゥル』があればロランとルナマリアもシンと共にモビルスーツ戦に参加出来たのだが、アーモリーワンでのゴタゴタでミネルバにはグゥルが搬入されておらず、ロランとルナマリアはミネルバの固定砲台として動く以外他なかった。

更にミネルバにとって不運だったとしか言いようがないのが、プラントから地球に向かったイチカとカタナがオーブではなくミネルバがオーブ出港後に向かう予定だったジブラルタル基地に向かって行った事で援軍が期待出来ない状況だった事だ。

タバネならば此の状況をイチカに伝える事は出来たのだが、タバネは敢えて其れをしていなかった――


「イッ君とカタちゃんが介入すれば楽勝だけど、それだとシン君が未覚醒になっちゃうからね……悪いけどすこ~しばかりピンチな状況を味わって貰うよ♪」


此の状況を宇宙から文字通りの『高みの見物』をしていたタバネは口を三日月型に歪めると、自作のスーパーコンピューターのディスプレイに向き合い、作業を続行するのだった。












機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE63
『血に染まる海~Blood-stained sea~』










オーブの近海ではミネルバと地球連合軍の戦いが繰り広げられていた。
ミネルバのモビルスーツが三機なのに対し、連合は多数のウィンダムに最新の高機動ストライカーパック『ジェットストライカー』を搭載して出撃させてミネルバを包囲したのだが――


「ミネルバはやらせない!絶対に!!」


そのウィンダムを、シンのインパルスが次々と撃破して行っていた。
ジェットストライカーを搭載したウィンダムは機動力が極めて高くなっているのだが、ジェットストライカーは量産装備だけに、量産の為に斬り捨てられた部分があるのだが、インパルスのフォースシルエットはワンオフで開発されているので設計段階での性能がほぼフルスペックで搭載されているので機動力ではマッタク負けていないどころかむしろ勝っていた。

そして其の機動力を生かして、シンはビームサーベルの二刀流で『一撃離脱』を行い、ウィンダムを一撃で戦闘不能にして離脱し、次のウィンダムを狙って行ったのだ。


「イチカさんに習った二刀流、其れがこんなところで生きて来るとは思わなかったぜ!」


多勢に無勢のミネルバだったが、此処はモビルスーツパイロットの実力は連合よりも遥かに上だった。
ミネルバの固定砲台となっているロランとルナマリアは的確な射撃と砲撃でウィンダムを撃墜、もしくは最低でも武器破壊をして強制退場をさせていたのだ。
戦線も押し上がっており、此のまま行けば連合の包囲を突破出来るかも知れないが、如何せん多勢に無勢なのは変わらない。


「……タンホイザー起動。」

「り、了解!」


此の圧倒的に不利な状況を打開して包囲を突破するには陽電子砲で連合の艦隊を壊滅させるしかないと判断したタリアは、ミネルバの艦首陽電子砲『タンホイザー』を起動させ、連合の艦隊に照準を合わせ――


「てぇぇぇぇぇぇぇ!!」


必殺の陽電子砲を発射!
これを喰らったら連合の艦隊は壊滅必至だ。


「ん?なんだ、アレ?」


しかし此処で連合は新たな戦力を投入して来た。
それはモビルスーツではなく巨大なモビルアーマー……巨大なハサミと平たい本体から、まるでカニを機械化したかのようなモビルアーマー『ザムサザー』が現れたのだ。

ザムサザーはタンホイザーの砲撃の前に躍り出ると、前面にエネルギーフィールドを展開してタンホイザーを受け、そして其れを防ぎ切ってみせたのだ。
其れは連合が新たに開発した『陽電子リフレクター』だった……連合、ザフト共に戦艦に搭載出来る最大火力は陽電子砲なのだが、連合は其の陽電子砲を完全防御出来るシールドの開発に成功していたのだ。


「ザフトの真似事のモビルスーツより、あのような新しいタイプのモビルアーマーこそが此れからの戦場の主役なのではないかと思っているよ。自論だがね。」


連合の艦隊の指揮官はザムサザーに絶対的な信頼を寄せているようだ。


「く……コイツ、図体の割に素早い!」


実際にザムサザーはモビルスーツに対しては不利と言われるモビルアーマーでありながらインパルスと互角以上の戦いを繰り広げていた。
ザムサザーの二つの巨大なクローは近接戦闘用の武器だけでなく、クロー内部に高出力のビーム砲を搭載しており、近距離でも遠距離でも高い性能を発揮出来るのだ。

更にザムサザーにビームライフルは効果がないので、シンは否応なしに近接戦闘を行わざるを得なかった。
其れでもイチカ直伝の近接戦闘で戦っていたのだが、ザムサザーのフェイントに引っ掛かってしまった――実戦経験が両手の指で足りるシンでは致し方なかったのかもしれないが、フェイントに引っ掛かったインパルスの脚をザムサザーのクローが掴み取り、其のまま急加速しながらインパルスを派手に投げ落として見せた。

此の攻撃でインパルスは右足が破壊され、パイロットのシンも急激に加えられたGに意識を失い掛けたのだが――


「(こんなところで、こんなところで、俺はぁぁぁぁぁ!!)」



――パリィィィィィィン!!



此の土壇場の状況でシンのSEEDが弾けた。
SEEDに覚醒したシンは、海面ギリギリでインパルスの体勢を立て直すと一気に上昇してザムサザーを置き去りにし、遥か上空からビームサーベルを逆手に持ってザムサザーにこんにちわだ。

あまりにも早い攻撃に、ザムサザーのパイロット達は反応する事が出来ずコックピットにビームサーベルを突き立てられ、其処を起点にザムサザーは縦一文字に斬り裂かれて爆発四散!パイロット達も人生にピリオドを打つ事になったのだった。


「ミネルバ、デュートリオンビームを!それからソードシルエットとレッグフライヤーを!」


ザムサザーを撃破したシンは、ミネルバにデュートリオンビームでの充電とレッグフライヤーとソードシルエットの射出を要請。
其の要請を受けたミネルバは、タリアが其れを承認するとインパルスにデュートリオンビームを照射して機体エネルギーを回復させ、続いてインパルスはフォースシルエットと、破損したレッグフライヤーをパージし、インパルスは新たなレッグフライヤーに交換し、バックパックもソードに換装された。


「俺達の道は、俺達の手で切り開く!!」


ソードに換装したインパルスは、バックパックからレーザーブレード対艦刀『エクスカリバー』を抜くと、手始めに最も近くにいた戦艦を一刀両断し、其処からジャンプして別の戦艦に斬りかかる。
エクスカリバーで艦体を斬り裂き、頭部と胸部のバルカン砲でブリッジを破壊し、沈めたら次の戦艦に飛び移って攻撃する様は、かの有名な『源義経』の『八艘飛び』を連想させるが、巨大な剣を振り回して次々と戦艦を破壊して良く其の様は鬼神の如きだ。
無論ウィンダムもインパルスを止めようとするのだが、その多くはビームブーメランで近付く前に両断され、近付いたら近付いたでエクスカリバーで真っ二つとなっていた。
加えてウィンダム隊がインパルスに集中した事でミネルバへの攻撃の手が緩み、其の隙を突いてミネルバはビーム砲『トリスタン』と電磁レール砲『イゾルデ』を発射しながら急速前進し、ロランとルナマリアも射撃と砲撃を行ってウィンダムを攻撃し、それが結果的にシンへの援護射撃となっていた。
援護射撃を貰ったシンは残るウィンダムと戦艦も全て撃破し、ミネルバを包囲していた連合の艦隊は完全壊滅――包囲を見事突破したミネルバは、インパルスが艦体に乗ったのを確認すると、一路地球にあるザフト軍基地の一つであるカーペンタリア基地に向かうのだった。

此のまさかの事態に、オーブ軍に命令を下したユウナも驚きを隠せないでいた――最新鋭艦とは言え、たった一隻で此の包囲網を抜ける事は不可能だと思っていたからだ。


「(インパルスのあの動き……成程、種が弾けたと言う訳か。)」


ただ一人、カガリだけはインパルスの突然の強化に合点が行っていた――自身も先の大戦にてSEEDに覚醒した経験があればこそ分かる事であったのだろうが。


「(其れは其れとして、此のままではユウナとの結婚は避けられんな?……股間を蹴り上げて潰してやりたいところだが、其れをやったらやったで面倒だ。
  ……キラ達に助けを求めるか。)」


一方で、カガリはユウナとの結婚に関しても色々と考えているようであった。








――――――








一方プラントでは……


「……其れが、君の答えかアスラン。」

「はい。此れが今の俺に出来る最善の一手だと判断しました。」


セイバーの格納庫にて、ザフトの赤服を纏ったアスランがデュランダルとミーアと対峙していた――アスランは悩みに悩み、考えに考えた末にセイバーを受領しザフトに戻る事を決めたのだ。


「ふむ……では、君に此れを。」


そんなアスランに、デュランダルはミーアが持っていたモノを受け取って手渡す。
其れは翼を模したような形をしたペンダントだった。


「此れはFAITHの……」


其れは『FAITH』の紋章。
新たにザフトに創設された特別階級『FATIH』は、前大戦期にアスランが隊長を務めた『特務隊』の権限を個人に与えるモノであり、FAITHの人間には現場での作戦の立案および指揮の権限が与えられるのだ。
その権限は部隊長以上である。


「表向きには君はオーブからの出向と言う形になるからね。
 だから君を通常の指揮系統に組み込むわけには行かないし、君とて困るだろう?……君がある程度自由に動けるようにするための便宜上の措置だよ。
 忠誠を意味するFAITHだが、君は君の正義に忠誠を誓ってくれれば良い。」

「俺の正義に……はい。」


前大戦にて『正義』の名を冠する機体を操ったアスランは、今度は『守護者』または『剣』を意味する名を冠する機体を得て、再び戦場に戻る――此れは此度の戦争にて大きな一手となり得るのかもしれない。


其れは其れとして、アスランはデュランダルから『早速で悪いのだが、カーペンタリア基地に向かったミネルバに此の命令書を届けてほしい』と依頼された。
アスランにも断る理由は無かったので其れを承諾したのだが、アスランは先ずはオーブに向かおうと考えていた――カガリの事が気がかりだったからだ。


「アスラン・ザラ。セイバー、発進する!!」


こうして主を得た『守護者の剣』は、一路地球へと向かうのであった。







「え?ミネルバ此処に来てないの!?」

「ジブラルタル基地じゃなくて、予定を変更してカーペンタリア基地に向かったですって?……急いで向かいましょうイチカ。」

「だな。」


その頃、アスランより一足早く地球にやって来ていたイチカとカタナはジブラルタル基地にやって来たのだが、其処でミネルバが当初の予定を変更してジブラルタル基地ではなくカーペンタリア基地に向かっていると知らされ、急いでカーペンタリア基地に向かうのだった。














 To Be Continued