あくまでも話し合いでの平和的な解決を望んでいたプラントだったが、会談の申し込みは断られ、其れだけでなく連合は地球のザフト軍基地があるジブラルタルとカーペンタリアを包囲して来た。
和平交渉の席に着かずに攻撃の手を強めて来た連合に対し、プラントはジブラルタルとカーペンタリアを包囲している連合への攻撃を決定した。
「此の攻撃は、報復ではなく積極的自衛権の行使だ。
此方から攻撃する気は無くとも、相手が攻撃してくるのであれば最低限の防衛を行うのは当然の事だからね……だが、これでもう話し合いの余地は無くなってしまった事も事実だ。
ならば、せめて戦火の拡大を最小限に止めるべきだ……イチカ君、カタナ君、君達は至急地球に向かいミネルバと合流してくれるかな?」
「了解です議長。」
「ミネルバ隊である私達が何時までもプラントに居る事は出来ませんモノね♪」
そんな中、デュランダルはイチカとカタナに地球に向かってミネルバと合流するように伝え、イチカとカタナも其れを了承してザフトの最新モビルスーツ二機は地球へと向かって行った
同じ頃、オーブの議会では連合の大西洋連邦との同盟締結が決定されようとしていた。
「大西洋連邦との同盟……今の情勢では其れも選択肢の一つではあるのだろうが、其れはオーブの理念に反する事だ。
大西洋連邦と同盟関係を結べばオーブはプラントへの攻撃に参加せざるを得なくなる……其れは『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず』のオーブの理念に反する事だ!到底容認は出来ん!」
「カガリ様、伝統や正義、正論よりも今の国民の事をお考え下さい。」
其れに対して必死に抵抗するカガリだったが、此処でウナトが切り札を切って来た。
オーブ国民の事を引け合いに出せばカガリは何も言えなくなる――老獪な古狸は、まだ年若いカガリを相手に、ある意味でオーブ国民を人質にしたと言っても過言ではない一手を打って来たのだ。
カガリとて其れは理解しているのだが、此処で自分が断ればオーブ国民に何があるのか分かったモノではない――故に、カガリは半ば押し切られる形で連合との同盟関係締結を了承するしかなかった。
「こうなっちまったか……此れは、俺達もそろそろ動く時かも知れないな。」
一方でオーブの決定を部下からの報告で知ったバルトフェルドは、次の一手を考え、自分達が動く時が来たのかもしれないと感じているのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE62
『選びし道~Der gewählte Weg~』
デュランダルとの会談後、イチカとカタナと再会し、ラクスの影武者を務めているミーアとの邂逅を果たしたアスランはデュランダルが用意したホテルで一夜を明かし、自分が今成すべき事はなんなのかを考えていた。
セイバーを受領してオーブに戻ればオーブの戦力を底上げ出来るが、逆に言えばオーブの戦力が過剰になり、其れが新たな火種となり兼ねないのだ。
故にアスランは自分が如何すべきか悩んでいるのだ。
――ドンドン!!
そんな中でホテルの扉が激しくノックされ、何事かと思ってアスランが出ると、其処にはイザークとディアッカの姿があった。
「貴様ぁ!此れは一体如何言う事だ!」
「イザーク?其れにディアッカも……どうして此処に?」
「議長から直々に命令されたんだよ――『オーブからやって来たアレックス・ディノ』の護衛を頼むってな。」
「そうだったのか……」
イザークとディアッカは、デュランダル直々の命を受けてアスランの護衛の為にやって来たのだ――イザークは表情こそ苛立たしげだったが、二年振ぶりとなるアスランとの生身での邂逅に少し心が躍っていたのかもしれないが。
「だからお前が出掛ける場合は俺達も同行する事になる訳だ。
其れで、今日は外出の予定があるらしい事を聞いたが一体何用だ?此れが観光とかだったら俺は本気で怒るぞ?」
「いや、そんなんじゃないさ……ただ、プラントに来る機会はあまりないからな。」
連合の核攻撃後、プラントでは厳戒態勢とまでは行かないモノの、外部からやって来た人間に対してはプラント滞在期間中の大まかな予定の提出を求めており、アスランも本日外出の予定を伝えていたのだ。
其れがデュランダルに伝わり、デュランダルからイザークとディアッカに伝わっていたのである。
『一体何の用が』と思ったイザークだったが、アスランの答えを聞いて何かを察し、其れはディアッカも同様だった。
そうして彼等がやって来たのはプラントの一画にある墓地。
その墓地にて、一つの墓の前にやって来るとアスランが花を供え、そして三人揃って墓石に向かって敬礼をした――この墓に眠るのは、先の大戦で散った戦友『ニコル・アマルフィ』だ。
「コックピットを両断され、更に機体も爆散したと言うのに本人だと確認出来るレベルの亡骸が残ったのは奇跡的な事だが……なんにせよ名前だけ彫られた中身のない墓にならなかったのは戦場で散った人間に対してせめてもの幸運だったと言うべきかもしれん。
亡骸すら戻って来ない兵士も多いのだからな。」
「あぁ……そうだな。」
「そんでアスラン、お前オーブでは如何なの?
あの勝気なお姫様とは上手くやれてるのか?……って、上手くやってたらお前将来的にはオーブのお偉いさんになってんじゃねぇの!?」
「ディアッカ!貴様何を言っている!!」
「え?いや、ちょっとしんみりしちまったから場を和ませようかと思って小粋なジョークをだな?」
「貴様のジョークは小粋ではなくコイキングだ!」
「コイキングは進化すりゃ強いぜ?てかお前ポケモン知ってんのか?意外だぜ。」
「カンザシから教えて貰っただけだ……マッタク。
……其れよりもアスラン、お前は此れから如何する心算だ?」
ニコルの墓参りを終えた後、暫しの雑談の後にイザークはアスランに問いかけた。
世界は再び戦争に舵を切ってしまった――デュランダルは戦火の拡大を最小限に止めようと尽力してはいるが、連合……正確に言うならブルーコスモスは理由を無理矢理にでもくっつけて戦火を拡大していくのは先の大戦から目に見えている。
アスランが現在暮らしているオーブとて最早無関係ではいられない……最悪の場合は此の戦火に巻き込まれる事だって充分にありうる――そうなればアスランとてカガリの護衛と言う立場ではいられなく可能性も充分あるのだ。
「俺は……」
「アスラン……お前は戻って来い!それだけの力、みすみす遊ばせておくつもりか!
勿論お前が戻るにあたって色々と問題はあるだろうが、そんなモノは俺が何とかしてやる!だから戻って来い!今のプラントにはお前の力が必要だ!」
「イザーク……」
「俺もイザークもカタナも、それからカンザシも前大戦での行いを考えりゃ軍法会議にかけられて銃殺刑モンだが……俺達は議長に救われた。
だからその恩を返すべくこうして戦ってんだ……お前がオーブに亡命できたのも議長が手を回したからだ……無理に戻って来いとは言わねぇけど、お前が戻って来てくれたら頼もしいのは確かだぜ。」
此処でイザークとディアッカから『ザフトに戻って来い』と言われ、アスランは今後の身の振り方を考えるのだった……オーブでカガリの護衛を務めるのか、ザフトに復隊するのか……其れはアスランにとっても難しい課題だったが故に其の場で答えを出す事は出来なかった。
――――――
プラントの降下作戦と、それに呼応したオーブと大西洋連邦の同盟締結を察知したバルトフェルドは秘匿回線を使ってミネルバに通信を入れていた。
ミネルバも其れを受信し、艦長であるタリアが対応して来た。
「此方はミネルバ、艦長のタリア・グラディスよ。」
『おぉっと、アンタが艦長さん?初めまして。
艦長さん相手なら話が早い……オーブは連合の太平洋連邦との同盟を締結しちまったみたいなんでね……そうなれば連合の同盟国になっちまったオーブにとってザフトの戦艦は敵艦になっちまうから早いとこオーブを出立する事を勧めるね。』
「正規軍でもない人間からの情報を信じろと?」
『……アンタ、アンドリュー・バルトフェルドって知ってるかい?そいつからの情報だ。』
タリアとしては正規軍でないモノからの情報を鵜呑みには出来なかったのだが、バルトフェルドは此処で自分の名を出して来た――『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルドのネームバリューは現在のプラントでも健在であり、同時に前大戦後には行方が分からなくなってしまっている事もあって、密かに諜報活動をしていても不思議はないと思わせる事が出来るだろう。
其れを傍で聞いていたマリューは含み笑いを漏らしていたが。
「砂漠の虎……」
『まぁ、伝えるべき事は伝えたからな。後は貴女の判断に任せますよ艦長さん。』
バルトフェルドは其れだけ言うと通信を切り、此れを聞いたタリアはオーブからの出港を決断した。
情報がガセである可能性は勿論あるのだが、それ以前にザフトの最新鋭艦に個人回線で通信を繋げて来る相手がタダ者である筈もなく、そんな人物がイタズラにガセ情報を流して来るとはタリアには思えなかった――嘗てイチカから『敵じゃない相手からの情報提供は価値がある』と聞いていた事もあるだろう。
そうしてオーブからの出港を決めたタリアは港でカガリからの見送りを受けた――其の際に『ありがとうグラディス艦長。そしてスマナイ』と言われた事が少し気になったのだが、其れはオーブを出港して明らかになった。
早朝に出港したにも関わらず、オーブの領海外には地球連合の艦隊がミネルバを待ち構えていたのだ。
其れを見たミネルバはオーブに引き返そうとするも、オーブ近海にもオーブ軍が艦隊を展開してミネルバが再びオーブに入る事を是としていなかった。
「アスハ代表の『スマナイ』とは此の事だったのね……」
戻る事も進む事も出来ないのならば、強引にでも進まねばならない。
ミネルバはコンディションレッドを発令すると、即座にシンがインパルス、ルナマリアがガナーザクウォーリアで、ロランがブレイズザクファントムで出撃して行った――フォースシルエットを装備したインパルス以外は大気圏内での飛行能力を持たないのでミネルバの固定砲台となるのだが、戦艦の艦砲よりは取り回しが良いので火力の底上げにはなるだろう。
「此の状況……確か、『前門のタイガー、後門のウルフ』だったかな?
正に絶体絶命の状況だが……此の状況を華麗に切り抜けてこその赤服だ……さぁ、開演と行こうか!」
「此の状況でもブレないロランさん、頼もしいですね!」
「切り抜けて見せる、絶対に!!」
状況は多勢に無勢だが、それでもシン達に諦めると言う選択肢はなかった――特にシンは、イチカから『もうダメだと思える状況になっても、諦めずに足掻いてみりゃ、案外何とかなるモンだぜ?』と聞いていたので尚更だろう。
「マッタク、軍人てのはお偉いさんの言う事には逆らえないってのが嫌なモンだねぇ……助けてくれた相手を攻撃するってのは『恩知らず』って言うんじゃないかと思うんだがな俺は。
政治の世界にはない言葉なのかもしれないけど。」
「もしもイチカがオーブに居たら、セイラン家にカチコミを掛けてた可能性がありますね。」
「イチカならやりかねないな……」
オーブの艦隊では旗艦である『マサムネ(オリ艦)』にて一佐に昇格したトダカと、三佐に昇格したクラリッサがこんな会話を交わしていた――政治の世界ではセイラン家によって腐敗が進んでしまったが、軍にはまだまだ真面な人間が存在しているので、オーブが完全に連合の傀儡になる事だけは無いのかもしれない。
だが其れは其れとして、カガリは首長達を抑える事が出来なかった己の不甲斐なさに落ち込んでいた――同時に、ラクスならば此の状況を巧く纏める事が出来ただろうと考えると、余計に己の至らなさを痛感してしまっていた。
「カガリ……お疲れかい?」
「ユウナ……いや、大丈夫だ。
私はオーブの代表だ……だからこの決定も最終的には私が下したモノだ……プラントには恨まれる事になるのは間違いないけど、其れも私が背負うべきモノなのだろうから、逃げずに背負うさ。」
「気丈だな君は……だが、其れ等は君が一人で背負うには重すぎる……だから、僕も少しくらいは背負わせて貰うよ。
結婚しようカガリ。君の事は僕が支える――夫としてね。」
其処でユウナはカガリに結婚を迫ったのだが……
「寝言は寝て言え、戯言はラリッテから言え!」
「ゴッドハンドクラッシャー!?」
其処はカガリにブッ飛ばされて一撃KOとなった。
だが、セイラン家は周到であり、カガリの意思とは関係なくカガリとユウナの結婚に向けての準備を着々と進めており、カガリが断る事が出来ないように外堀を完全に埋めて行ったのであった。
「ラクス……もしかしたら、此れを解放する事態になるかもしれないわね?」
「そうならないのが一番なのですが……其れは難しそうですから。」
一方、オーブにあるとある格納庫でフレイとラクスはこんな話をしていた――そして、フレイとラクスの前には、前大戦でプロヴィデンスとの激戦の末に大破した筈の『自由の翼』が完全復活した形で存在していた。
自由の翼が再び空を舞うのは、そう遠くないのかもしれないのだった――
To Be Continued 
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