ユニウスセブン落下事件をザフトの仕業と決めつけたブルーコスモスは地球連合を通じて『プラントを敵性国家』とみなす声明を発表した。
そして其の声明発表と時同じくして地球連合の月基地では開戦へ向けて着々と準備が進んでいた。


「こうなったか……ま、当然と言えば当然だろうね……連合にとって、コーディネーターは排除すべき存在でしかないからね。」

「ユウナ……!!」

「おっと、勘違いするなよカガリ。
 僕は別にコーディネーターが嫌いな訳じゃない――彼も、君の兄上だか弟君の事もね……だけど、其れは其れとして政局は柔軟な対応をすべきだと思っているだけさ。」

「柔軟な対応とは何だ?
 連合に尻尾を振って、奴等に言われるがままにプラントと戦う道を選ぶ事か?……言っておくがな、今回の一件、プラントには一切非がないからな?
 それどころか、ザフト軍がユニウスセブンの破砕工作を行わなかったら地球は本当に滅んでいたんだ――いわばプラントは地球にとっての恩人だと言うのに、其の恩人に刃を向ける選択をすると言うのは人としても政治家としてもしてはいけない事ではないのか!
 オーブは此れまで通り『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず』の理念の元、中立を貫く!此れが私の出した答えだ!」


此のあまりにも一方的な連合の声明発表に、遂にカガリはオーブが如何あるべきかを決め、此れまで通り中立を貫く道を選ぶ事を決意したのだった。
だが、ユウナにとってカガリが此の選択をする事は想定済みであり、既に水面下ではウナトをはじめとした首長達がカガリに悟られないように連合の大西洋連邦との同盟を締結する準備を着々と進めているのだった。
現時点でカガリの考えを変える事は出来ないが、そうであるのならば考えを無理矢理にでも変えざるを得ない状況に持ち込む為に、静かに悟られないように外堀を埋めているのである。


「其れが君の答えかいカガリ?」

「おかしいか?」

「いや、実に君らしいとそう思っただけさ。」


だからこそ、ユウナは此の場ではまだ切り札を切る事はしなかった。
切り札を切るのは外堀が埋め終わってから……そして切り札を切った後には事実上セイラン家がオーブの実権を握る、其の為のシナリオは既に出来上がっているのである。
ユウナからすれば、カガリは物事を正しく判断出来る判断力があり、更に自ら率先して動く行動力もあって頭も中々に切れるが、竹を割ったように真っ直ぐな性格なだけに搦め手には弱い存在なので、焦らずにじっくりと言ったところだろう。

だが、セイラン家及び他の首長達はある一つの事を考えてはいなかった。
カガリ一人ならば如何にか出来るかもしれないが、カガリの後ろには首長達を遥かに凌駕するであろう嘗ての大天使の仲間達が居ると言う事を――












機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE60
『驕れる牙~stolze Reißzähne~』










連合の声明発表後、プラント政府の最高評議会は紛糾し、開戦派の意見が主流を占めようとしていたのだが其れも致し方ないだろう。
プラントからすれば地球への被害を防ぐためにユニウスセブンの破砕工作を行ったにも拘らず、ユニウスセブンの落下はプラントの手引きで行われたと一方的に決めつけて戦争を仕掛けようとして来たのだから、其れに対して抗戦の意を示すのは当然と言えば当然と言えるのだ。


「議長、最早開戦は避けられません!ご決断を!!」

「確かに黙って見ていられる状況ではないが、開戦は最後の手段であり、先ずは対話による解決を図るべきだろう――開戦と言う最後の決断は、対話が断絶されたその時までは行うべきではない。」


其れでもデュランダルは対話による解決を主張し、プラントから連合に対して宣戦布告を行う事はせず、連合に対話を申し入れる事で一応は決着した。
とは言っても、対話による解決が出来なかった場合には連合はプラントに対して開戦を通告してくる事は確実なので、地球連合の攻撃に対して国防委員会はプラントを守る為にザフト軍を動かすのだった。


「俺達がプラントに残ったのは此の為だった訳ね……戦争は止められない、議長もそう考えてた――と言うよりは、おそらくタバネさんはこうなる事を予測して議長に伝えてたのかもな。」

「タバネさんなら未来を正確に予測していてもオカシクないモノねぇ……あのぶっ飛んだ頭脳と性格、本当に人間なのか少し疑問だわ。」

「カタナ……タバネさんはナチュラルでもコーディネーターでもない、『タバネ・シノノノ』って言う独立した生命体なのかも知れないぜ?或いは地球人と宇宙人のハイブリッド。」

「どっちの説も否定出来ないのよねぇ。
 ところで、新しいパイロットスーツは如何かしら?」

「よく似合ってる。やっぱりカタナは赤服の方が合ってるよ。」

「うふ、ありがと♪」


プラントのドッグではイチカとカタナが出撃前に少しばかり雑談。
カタナは赤服に復帰した事で、パイロットスーツも赤服仕様となっていた。
同じくドッグでは受領したばかりのキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスも最終整備が行われ、初陣の時を待って居るのだった。


連合、プラント共に開戦に向けての準備が行われる中、オーブを出発したアスランはプラントに到着し、デュランダルへの面会を申し込んでいた――代表首長であるカガリの護衛であるとは言え、オーブの一市民に過ぎない今のアスランがプラント最高評議会の議長であるデュランダルと面会するのは普通ならば無理なのだが、今回はプラントにおけるアスランのネームバリューが功を奏していた。
アスランは『アレックス・ディノ』の偽名を名乗ったのだが、対応した職員は先の大戦前から最高評議会のスタッフとして勤務しており、アスランの事も当然知っていたので、アレックスと名乗った青年がアスランである事に気付き、デュランダルに面会の申し込みがある旨を伝え、晴れてアスランはデュランダルとの面会の機会を得るのだった。








――――――








あくまでも対話での解決を望むデュランダルは、地球連合に対して電信で文書を送り、プラントと連合の首脳陣による会合の場を設ける事を提案したのだが連合の母体組織であるブルーコスモスの現盟主であるジブリールはプリントアウトされたその文書を読まずに握り潰した。


「コーディネーターとの和平の道など存在しない。
 故に会合は必要ない……此れより、プラントに正式に宣戦布告を行う!」


そして、ジブリールの命の元に連合はプラントに宣戦布告を行い、二年間の平和は終わりを告げてコーディネーターとナチュラルの新たな戦争の火蓋が切って落とされた――落とされてしまったのだ。

開戦の報はオーブに停泊中のミネルバにも伝わり……


「開戦!?そんな……」

「やれやれ、こうなるのではないかと危惧していたが、現実になってしまうとはね……外れて欲しい悪い予感ほど当たってしまう……マッタクもって神様と言うのは意地悪なモノだね。
 神に祈っても救ってくれないのならば、いっそ邪神を崇拝すべきかな?」

「ロランさん、其れは止めた方が良いと思います……」


シン達も何時でも出撃出来るように準備をするのだった。








――――――








地球連合からの宣戦布告が行われ、開戦した連合とプラント。
連合は量産型ストライクであるストライクダガーの発展型の『ダガーL』を大量投入して来た――ダガーLはストライクダガーではオミットされたストライカーパック搭載機構が備わっており、量産機ながらPS装甲が未搭載と言う部分を除けばストライクと遜色ない性能を発揮出来ているのだ。

其の連合の部隊に対応したのはイザーク率いるジュール隊だ。


「連合のネズミを一匹たりともプラントに近付けさせるな!全軍叩きのめせ!」

「ハイよ、了解だ!」

「お任せください隊長。」


イザークの号令にディアッカと、副官であるシホ・ハーネンフースも了解の意を示していざ出撃。


「てぇぇぇい!!」


連合の部隊は数は多かったのだが、実力はイザーク達の敵ではないレベルであり、ジュール隊は連合の部隊を次々と狩って行き、連合の月面基地から出撃した部隊はほぼ壊滅状態となったのだった。


「ん?アレは、別動隊か!!」


だが、其の裏を掻く形で連合の別動隊が現れてプラントに向かって行った。
しかも其の別動隊のダガーLの背部には、核ミサイルを搭載されたバックパックが備わっていたのだから、最悪にして最強の別動隊と言える――連合は先の大戦が激化する切っ掛けとなった核攻撃を再びプラントに行ったのだ。


「く……コイツ等!!」


其れに気付いたイザーク達が核ミサイルの迎撃に向かうが、距離があり過ぎて迎撃は間に合わない――此の核ミサイルがプラント本国に直撃したら、プラントは壊滅待ったなしだ。
だからこそ間に合わない事を感じたイザークはプラントの崩壊を覚悟したのだが――


「そうはさせるかよ!!」

「プラントはやらせないわ!!」


其処に純白のモビルスーツと漆黒のモビルスーツが割って入り、機体本体に搭載されているビット兵装を展開すると、フリーダムをも上回るフルバーストをブチかまして核ミサイルを攻撃。
攻撃された核ミサイルは爆発し、ビームが当たらなかった核ミサイルを誘爆させ、結果として発射された核ミサイルは全て破壊された。
其れを行ったのはイチカが乗るキャリバーンフリーダムと、カタナの乗るエアリアルジャスティスだ。


「またプラントを核攻撃かよ……やる事がワンパターン過ぎるぜ連合さんよぉ!!」

「Nジャマーキャンセラーの情報を連合に渡したのは、クルーゼ隊長の最大の大罪ね!」


キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスはビット兵装『エスカッシャン』を使った多角的な攻撃で連合の核攻撃部隊を次々と撃破し、核攻撃部隊の第二陣もエスカッシャンの多角的攻撃とキャリバーンフリーダムのメイン武装である『バリアブルロッドライフル』のビームで鎧袖一触!
バリアブルロッドライフルは高威力長射程の大型ビームライフルで、ビーム照射時間が長いので、其れを利用して極大のビームサーベルのように使用する事が可能となっているのだ。

此れにより連合が狙っていた『開戦と同時に核攻撃でプラントを崩壊させる』思惑は崩れ去り、囮だった部隊はジュール隊によって全滅させられたのだった。


「ニュートロンスタンピーダーを使わずに済みましたね……イチカ君とカタナ君、あの二人は受勲モノでしょう。」

「よもや新型二機の性能があそこまでとは……しかし、虎の子の一発を温存出来たのは大きいな。」


プラントは連合の核攻撃に備えて新兵器『ニュートロンスタンピーダー』を開発していたのだが、キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスの活躍により此度は出番がなく、プラントは切り札を温存する事が出来たのだった。
そして此のニュートロンスタンピーダーの開発には、一年前にタバネからデュランダルに『連合がプラントに宣戦布告して核攻撃を行う』との情報が齎されていた事があった――そして、イチカとカタナがプラントに残ったのも、タバネからのこの情報があったからこそだったのだ。


「そんなに戦争がしたいのかよ……どうしてもやるって言うなら受けてやるが、先に手を出したのはそっちなんだから、何をされても文句を言うなよ?
 平和な時間を壊した罪は重いからな……其のツケは倍にして払ってもらうぜ……!」

「戦争と言う一手を選択してしまった事を精々後悔すると良いわ。」


イチカとカタナは始まってしまったプラントと連合の戦争に闘気に火を点け、そして其れに連動するかのようにキャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスの頭部と胸部と両肩部と両大腿部に搭載されたクリスタル状のユニットが赤い光を放ち、二機からは『スコア5突破』の音声が流れ、キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスはパイロットの操縦にタイムラグなく動く事が出来るようになったのだった。








――――――








ジュール隊とイチカとカタナが連合の部隊を退けたころ、アスランはデュランダルとの面会を待っていた。
待たされる事を予測していたアスランは、フレイから借りたライトノベルを読んで時間を潰していたのだが――


「其れでは、失礼しますラクス様。」

「いえ、お疲れ様でした。」

「!?」


突如聞こえて来た会話に思わず会話が聞こえて来た方を見た。
其処にはラクスそっくりの少女と数人の男性がおり、目的を果たしたのか男性達はラクス似の少女から離れて行き、そしてラクス似の少女はアスランに気付き――


「アスラン!ずっと待っていましたのよ!」

「え?あ?……ラクス?……いや、君は?」

「あは♪やっぱり分かっちゃう?……だけど、答え合わせは後でね♪」


アスランに抱き着いて来たのだが、アスランはこの少女がラクスでない事を一瞬で見抜いていた――本物のラクスはオーブでキラと共に暮らしており、ラクスをキラとフレイと共に孤児院に送り届けた直後にアスランはプラントに向かっているので、ラクスがプラントに居る筈がないのだ。


「ラクスの替え玉か……プラント的にはある意味でありだったのかもしれないな。」


ラクス似の少女がラクスの替え玉である事を看破したアスランだったが、だからと言って此の替え玉を否定はしなかった――ラクスのプラントにおける影響力は議長以上なので、その影響力を政治的に使おうと言うのは至極当然の事であり、本物のラクスがプラントに居ないのであれば、替え玉を用意するのもある意味では当然の事と言えるのだから。


「やぁ、待たせたねアレックス君。」

「いえ、こちらこそ急な面会の申し込みだったにも関わらず受けてくれた事に感謝しますデュランダル議長。」


其処にデュランダルが現れ、アスランは『デュランダルとの謁見』と言う最初の関門を突破したのだった――同時に、アスランとデュランダルの会談が、此の戦争に大きな影響を与えるのだった。















 To Be Continued