デュランダルの護衛の任でプラントに戻って来たイチカとカタナ。
本来ならばデュランダルをプラントに送り届けた時点で任務完了なのだが、イチカとカタナはパイロットスーツからザフト軍の軍服に着替え、デュランダルと共に格納庫へとやって来ていた。
其の格納庫で二人の前に姿を現したのは、純白のモビルスーツと漆黒のモビルスーツだった。
「議長、此のモビルスーツは……?」
「強奪された三機とインパルス以外にも新型を……?」
「確かに此の二機も新型だが、インパルスと強奪された三機とは異なり、此れは最初から君達の専用機として開発された機体だよイチカ君、カタナ君。」
「俺達の……」
「戦用モビルスーツ……!」
「その通り。
先ずはカタナ君の専用機は黒いモビルスーツだね――形式番号『ZGMF-XVX09S』、機体名『エアリアルジャスティス』。
イチカ君の専用機は白いモビルスーツ。形式番号『ZGMF-EX10S』、機体名『キャリバーンフリーダム』……機体名から分かるように、此の二機は夫々フリーダムとジャスティスをベースに君達のパーソナルデータを加味して開発された機体なのだよ。」
新型のモビルスーツ二機は、先の大戦で大きな戦果を挙げたフリーダムとジャスティスをベースに、イチカとカタナのパーソナルデータを加味して開発された完全専用機であった。
ジャスティスは元々アスランをパイロットとして想定して作られた機体なので其の性能を十二分に発揮したのだが、フリーダムはキラをパイロットとして想定していなかったにもかかわらず多大な戦果を挙げた事を考えると、『パイロットとして想定』ではなく、初めからイチカとカタナの専用機として開発された此の二機のモビルスーツの性能は核エンジン非搭載であってもインパルスをも上回っていると言えるだろう。
「フリーダムとジャスティスをベースにとなると相当な高性能機なのは分かるんですけど、此の機体ってTP装甲搭載なんですか?
PS装甲搭載なら未起動時はPSディアクティブ状態で機体はグレーの筈なのに白と黒にカラーリングされてるんで。」
「いや、TP装甲ではないし、そもそもにしてPS装甲ですらない。
此の二機に使われているのは新たに開発された装甲で、PS装甲のように物理攻撃無効の効果こそないが、物理攻撃とビーム攻撃の双方に対して高い防御性能を有しているのだよ。
時に、君達はPS装甲と言うモノを如何考えているのかな?」
「……正直に言うと、PS装甲はもう時代遅れだと思ってます。
PS装甲が優位性を発揮出来るのは自軍にビーム兵器が存在し、敵軍にビーム兵器が存在しない場合に限られる――先の大戦でザフトが連合の新型を強奪していなかったら、正にその状況になっていたでしょう。」
「だけれど、今では――ザフトで言えば量産機であるザクにもビーム兵器が標準搭載となっているからPS装甲搭載によるアドバンテージは大きくないかと。
寧ろPS素材が高額である事を考えると、大枚叩いてまで搭載するものではないと考えますわ議長。」
「うむ、その通りだ。
私自身、PS装甲に対しては君達と同じ考えなのだが、PS装甲其の物はビームに対しても通常装甲よりは高い防御性能があるので新型にのみ搭載したのだよ――だが、此の二機には其れは搭載しなかった事で武装面にコストを割く事が出来た。
何よりも、此の二機はタバネ博士が設計したモノだからね……其の性能は核エンジン非搭載でもフリーダムとジャスティスを上回るかも知れないね。」
「「タバネさんの設計なら性能はぶっ飛んでて間違いない。」」
更に此の二機を設計したのはタバネなので、インパルスどころかフリーダムとジャスティスをも上回っている可能性が浮上した。
其れは其れとして、高性能な量産機であるとは言え、ザクでは物足りなさを感じていたイチカとカタナにとって完全専用機が渡されると言う事は嬉しい事この上なかった。
加えて――
「カタナ君には此れもだ。」
「此れは……赤服!!」
「君程のパイロットを何時までも一般兵として置く事も出来ないからね……私が直々に任命したのならば誰も文句は言うまい――ミネルバ隊の赤服として、其の力を存分に振るってくれたまえ。」
「……其の期待には応えて見せますわ、議長……!」
カタナにはザフトのエリートパイロットの証である通称『赤服』がデュランダル直々に送られたのだった。
こうして専用の新型機を得たイチカとカタナだったが、ミネルバを追って地球には向かわず、デュランダルの命で暫くはプラントで過ごす事になった――そして其れはタバネと繋がっているデュランダルが、タバネから送られて来た『ある情報』が元となっていた。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE59
『ジャンクション~Intersecting Intentions~』
オーブに入港したミネルバ。
先ずはオーブの代表首長であるカガリと、其の護衛であるアスランがオーブ港に降り立ったのだが――
「待ってたよカガリ!無事でよかった!」
「ユウナ!」
其処に現れたのは紫の髪の優男。
オーブでアスハ家に次ぐ力を持っている『セイラン家』の長男で次期家長の『ユウナ・ロマ・セイラン』だ――実はカガリとユウナは所謂『許嫁』の関係だったのだ。
先の大戦前からウズミとセイラン家のウナトの間で交わされていたモノであり、しかしウズミが先の大戦で死去した事で許嫁関係も白紙に戻ったのだが、ユウナは未だに婚約者気取りで居る様だ。
「あぁ、護衛の君もご苦労様。」
ユウナは半ば強引にカガリの肩を抱くと、アスランに対して嘲笑とも取れる表情を浮かべながら表面上はねぎらいの言葉をかけてオーブ港から去って行ったのだった。
「あの紫ワカメ、超ムカつくから殴っても良い?」
「やめなさいシン……そんな事をしたら、大問題だからね?」
「殴るのがダメならスリーパーホールドで絞め落とすかサブミッションで関節破壊して良い?」
「いや、其れも駄目だから。」
「いっそインパルスのビームライフルで……」
「アンタオーブのお偉いさん殺す気なの!?」
そんなユウナの態度がシンは心底気に喰わなかったらしく、少々過激で問題な事を口にしていた――其れを止めていたルナマリアも心の奥底ではユウナの事を『いけ好かない紫』と思っていたりするのだが。
其の一方でミネルバの艦長であるタリアは、ミネルバの修理を担当するモルゲンレーテ社から派遣された造船課スタッフの責任者と話をしていた。
「初めまして。責任者のマリア・べルネスです。」
「ミネルバ館長のタリア・グラディスよ。こんな大型艦の修理を突然お願いしてしまって申し訳ないわ。」
「いえ、軍隊にとって艦船はとても大事なモノですもの……艦船が正常に機能しないのでは動きようもありませんから常に最高の状態を保っておかねば、ですから。」
「……確かにその通りね。」
マリア・べルネスと名乗った女性に、タリアは一瞬だけ少しばかり驚いた表情を浮かべたのだが、其れも直ぐに消して対応していた。
だがタリアが一瞬とは言え驚いたのも無理はないだろう――マリア・べルネスと名乗った女性は作業用のツナギを着て帽子を被っていたとは言え、其の容姿はプラントでも其の名が知られている前大戦に於いて重要な役割を果たした伝説級の戦艦『アークエンジェル』の艦長であった『マリュー・ラミアス』其の物だったのだから。
マリューを含め、アークエンジェルのクルーが前大戦後に如何なったのか、その足取りは不明だと言うのも大きいだろうが、タリアはあまり踏み込む事はせずに艦長としてミネルバの修理を依頼するのだった。
――――――
「連合がプラントに対して戦争を仕掛けようとしている……アーモリーワンでの一件で予想はしていたが、矢張りだったか……ユニウスセブンの落下も、連中にとっては良い口実だった訳だな。」
「左様ですカガリ様。
故に、我がオーブは決断しなくてはなりません……中立を貫くのか、連合に付くのか、プラントに付くのか……あまり時間は残されておりません、如何か早急なご決断を。」
「……難しい判断だな此れは。(このタヌキオヤジめ……!)」
代表首長として政務に復帰したカガリは、其処でウナト・エマ・セイランをはじめとした首脳陣から、地球とプラントの関係が抜き差しならない状況になっている事を知らされたのだが、カガリ自身アーモリーワンでのモビルスーツ強奪事件の現場に居合わせており、其の後の戦闘もミネルバに搭乗していたので知っているので其処まで驚く事は無かった。
だが、ウナトが決断を迫って来た事には心の底では悪態をついていた。
ウズミ亡き後代表首長となったカガリだが、アスハ家に次ぐ大家であったセイラン家はウズミの死によって混乱した政治状況を利用して、当時の首脳陣を全て解任し、代表首長以外の首脳陣をセイラン家と繋がりの深い者達で固めてしまっていたのだ。
つまり、現在のオーブの政務は、カガリを代表首長としつつも、其の裏ではセイラン家が首脳陣を操っているのだ。
其れでも平和な時はカガリの思うように国を動かす事が出来たが、平和な時間が終わり、戦争までカウントダウンとなれば代表首長一人の意見よりも首脳陣の多数意見の方が重要視されてくるのだ。
故にカガリは、此の場でオーブの在り方を決定する事はせず、白黒付かない答えを返す事で其の場をやり過ごして時間を稼ぎ、最善の一手は如何すべきなのかを考える事になったのだった。
――――――
ミネルバの修理が終わるまでの間、ミネルバのクルーは束の間の休暇を得て、オーブの市街地に繰り出していた。
シンはルナマリアとデート……と言う事は無く、一人でオーブの岬を訪れていた。
其の岬には、先の大戦で犠牲になったオーブ国民の名前が刻まれた石碑が建てられており、シンの両親の名も石碑には刻まれていた――シンの両親には墓すらないが、ネットで此の石碑の存在を知ったシンは、二年ぶりに訪れた故郷で此の石碑にやって来たのだった。
そしてシンが石碑を訪れると、石碑の前で手を合わせている男性が居た。
栗毛の髪に浅めの褐色の肌とアメジストの瞳――先の大戦で大きな戦果を挙げた伝説的パイロットであるキラ・ヤマトが其処に居たのだ。
「君もお参り?」
「えっと……そんなところです。
俺の両親、前の戦争で死んでるんで……二年も来てなかった親不孝者ですけどね俺は。」
「二年間、来られなかった理由があるんだろう?……だったら仕方ない。御両親も親不孝者とは思ってないんじゃないかな――僕はそう思うよ。」
「だったら良いんですけどね……父さん、母さん、遅くなってゴメン……俺もマユも元気に生きてるから心配しないでくれよな。」
シンは市街地で買った花束と両親が好きだった総菜を石碑の前に備えると、手を合わせてから石碑の前から去って行った。
そんなシンの背中をキラは見送り、直後にやって来たフレイとラクスも同じようにシンの背中を見送るのだった。
「キラ、あの子は誰?」
「……先の大戦で、両親を喪ってるんだって……二年も此処に来る事が出来なかったって……きっと、深い事情があるんだろうと思うけど――何でかな、彼からはイチカと似た雰囲気を感じたよ。」
「若しかしたら、イチカと何か関係があるのかもしれませんわね。」
「そう、なのかもね。」
僅かな時間の邂逅であったにもかかわらず、キラはシンの瞳の奥にある強い意思に気付き、其れがイチカに通じるモノである事まで感じ取っていたが、其れはある意味で大正解だろう。
其の後、アスランが車で石碑の前までやって来て、キラとフレイとラクスは孤児院まで車で送ってもらう事になり、其処でアスランからユニウスセブン落下に関する詳細を聞かされる事になった。
「其れは、大変だったね……」
「まさか、未だに父さんの思想に賛同してるコーディネーターが居るとは夢にも思っていなかったが、だからこそ父さんがやってしまった事の重大さを痛感させられた……そして同時に悩むよ――俺は、此れから一体何をすべきなのかってな。」
「……難しく考える事ないんじゃない?
何をすべきかじゃなくて、重要なのはアンタが何をしたいかじゃないの?」
「フレイの言う通りですわよアスラン。何をすべきなのか、其れも大事ですが、重要なのは今自分が何をしたいのか、ですわ。」
「フレイ、ラクス……大切なのは俺が何をしたいか、か……」
孤児院までの道のりでフレイとラクスからアドバイスを貰ったアスランは、今自分が如何したいのか、其の上で何をすべきなのか、其れを考え、そしてその答えを出すのだった。
――――――
翌日。
「カガリ、俺は暫くプラントに行ってみようと思う。
実現するかどうかは分からないが、デュランダル議長にも面会を申請しておいた。」
「プラントに……其れが、お前がやりたい事なんだな?」
「其の結果がどうなるかは分からないけどな。」
アスランはカガリにプラントに向かう旨を伝えていた。
一晩考えた末、先ずは現プラント最高評議会議長であるデュランダルと直接話をしてみたいと思ったのだ――無論、現在はオーブの一市民であるアスランの申し出が通るかどうかは不明なのだが、其れでもプラントに行ってプラントの現状を知るのは必要な事だとアスランは考えたのだ。
「其れから、此れを君に……」
此処でアスランはカガリの左手を取ると、其の薬指に指輪をはめた。
ゴールドのリングに翡翠をあしらった指輪は決して安いモノではなく、アスランも相当に奮発したのだろう。
「お、お前……此れは、流石に不意打ちの反則だろう!!」
「俺の気持ち、其れを君に伝えたかったんだ……」
「マッタクお前と言う奴は――だが、その思いは受け取った。その、驚いたが嬉しかったよ……だが、こんな事をしたんだ、絶対に死ぬなよ?……気を付けてなアスラン。」
「あぁ、行って来るよカガリ。」
此のまさかのプレゼントにカガリは驚いたのだが、其れは心の奥では嬉しいモノだった。
アスランとカガリはお互いの思いが同じである事を確かめると抱擁した後に唇を重ね、そしてアスランはプラント行きのシャトルに乗り込み、単身プラントに向かうのだった。
――――――
「うん、うん、良い感じだね……ユニウスセブンが地球に落下して腐れ脳共は戦争に舵を切った――此処まではタバネさんの予想通りだけど、連合の腐れ脳共が戦争に舵を切る切っ掛けとなるユニウスセブン落下の原因が何であったのか、其の写真を送ったのがマドちゃんだとはね。
君は数多に遣り直した世界ではいっ君の味方だったけど、此の世界では敵対する訳か――君も救ってあげたかったんだけど、イッ君とカタちゃんに敵対するってんなら其の限りじゃない。
私にとってイッ君とカタちゃんの味方じゃない奴は全員敵だからね……君が敵になるのなら、相応の対応をするまでだよ。」
ユニウスセブンの地球落下もタバネの予想の範疇だったのだが、其れを扇動した真犯人がマドカである事もタバネは既に掴んでいた。
マドカもイチカとカタナ同様に此の世界に転生した人物であり、前世では己の出生の彼是を拗らせまくった挙句に超絶ブラコンになっていたのだが、此の世界でイチカとの敵対の道を選んだので、其れに対してタバネは容赦する気は一切なかった。
「イッ君とカタちゃんが幸せになれない世界は必要ない。
其の世界を実現する為にも障害は全て排除する……今度こそ、もう間違えない――そうだよ、イッ君とカタちゃんは今度こそ結ばれて幸せに暮らすべきなんだ……何方かが先に死んで、残された方が怒りと悲しみに呑まれて狂気に落ちるさまはもう見たくないからね。」
タバネは真にイチカとカタナの幸せを願ってはいるのだが、其れが実現出来るのであれば其れ以外がどうなっても構わないと考えてた――だが同時に己のお気に入りの人物に関してはイチカとカタナと同等にとらえており、キラはタバネの眼鏡にかなっていた。
何にしても、タバネが直々に動いたと言うのは世界にとってとても大きいモノだったのは間違いないだろう――
To Be Continued 
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