テロリストを撃破し、しかし大気圏からの離脱は叶わなかったシンのインパルスとアスランのザクは大気圏に突入した。
同じく限界高度を超えて大気圏に突入したミネルバは艦首陽電子砲『タンホイザー』で可能な限りユニウスセブンを破砕したのだが、其れでもユニウスセブンを流れ星サイズまで細分化する事は出来ず、隕石レベルの破片が地球に降り注ぐ事になってしまった。


「あの人は何処に?」


そんな中でシンは共に大気圏に突入したアスランのザクを探していた。
大気圏突入の衝撃でインパルスはザクの手を放してしまい、離れ離れになってしまっていたのだ。

インパルスにはPS装甲が搭載されているので大気圏突入時の熱にも耐えられるのだが、ザクにはPS装甲が搭載されていないので最悪の場合は大気圏突入の熱で燃え尽きている可能性もあるのだ。


「アレは……見つけた!!死なせるかよぉ!!」


そんな中でシンはアスランのザクを見付けて空中でキャッチ。
PS装甲が搭載されていないザクは大気圏突入時の熱で燃え尽きる事は無かったモノの装甲は所々焦げ、斬り落とされた右腕と両足の断面からは煙が上がっていた――此のまま落下したらアスランもあの世行きだっただろう。


「待てシン!幾らインパルスのスラスターでもこれだけの質量を持って移動するのは無茶だ!!」

『だからって見捨てる事が出来る訳ないでしょう!
 貴方を死なせたら俺はイチカさんに合わせる顔がないし、アスハ代表の護衛である貴方を出撃させた挙句に死なせたとなったらプラントだってタダじゃ済まないでしょうが!
 『俺を助けろこの野郎!』くらいは言って下さいっての!』


「そう言えば良いのか?」

『モノの例えです!』


アスランの言うようにインパルス(正確にはフォースシルエット)のブースターとスラスターをもってしてもモビルスーツ一機を抱えて飛行するのは難しいモノであるのだが、アスランのザクは両足の膝から下を、右腕の肘から下を失っており、更に大気圏突入の際に切断面が少しばかり燃えた事で重量が減少していた事でインパルスはザクを抱えて飛行する事が辛うじてではあるが可能となっていた。


「此方はインパルス、シン・アスカ。ミネルバ、応答せよ。ミネルバ、応答せよ。」

『此方ミネルバ、メイリン・ホーク。』

「アレックス・ディノ氏が搭乗したザクを空中にて回収。
 此れより帰還するのでミネルバが現在何処に居るのかを教えてくれ。」


其の後シンはミネルバと通信を行ってミネルバの現在地を確認すると中破したザクを抱えた状態で帰還した。
ミネルバではルナマリア達がシンとアスランが無事に帰還した事を喜んでいたが、整備班のヴィーノとヨウランは中破したザクを見て『スペアがぶっ壊れたと知ったらカタナさんブチ切れるかもしれないから全力で直そう』と考えていた。
シンとアスランを無事に回収したミネルバは地球にあるザフト軍の基地の一つであるカーペンタリア基地に向かう予定だったのだが、宇宙で受けたダメージの修理とカガリとアスランを送り届ける為にオーブへと向かう事になったのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE58
『混迷の大地~Das land der verwirrung~』










ミネルバ隊とジュール隊の尽力でユニウスセブンが其のまま地球に落下すると言う最悪の事態は回避出来たモノの、地球に降り注いだユニウスセブンの欠片は其の全てが隕石級であり、破片が落下した地点では甚大な被害が発生し、人的被害も出ていた。
破片のおよそ七割は海に落ちたとは言え、隕石級の物体が海に落下したらタダでは済まず、破片落下によって生じた津波による被害も各国で確認されていたのだった。
此の地球への甚大な被害に対し、デュランダルはミネルバからプラント本国へ向かいとオンラインでの緊急会合を行って地球の被災支援を行う事を決定し、其れを地球のメディアに向けて発信したのだった。

そんな状況の中、ブルーコスモスの現盟主であるロード・ジブリールは今回の一件を好機と捉えていた。


「地球の被災支援を行う事を発表するとは、流石はギルバート・デュランダル……前の議長とは違って頭が切れる。
 だが、其の程度では我々は懐柔されはしない……まして、このようなモノが送られてきてしまってはね。」


ジブリールが指を鳴らすと、大型のモニターにはユニウスセブンにてジンがユニウスセブンを地球に落とすための作業をしている映像が映し出された――しかもそれは静止画だけでなく、動画も映し出されていたのだ。


「ジブリール、此れは……!」

「匿名で送られて来た映像と写真ですが、これ等を見る限り、ユニウスセブンの落下を引き起こしたのはコーディネーターである事は疑いようもない。
 そして、こんな事が許されて良い筈がない……ユニウスセブン落下を引き起こしたのがコーディネーターであるのならば、我々には其れに対して報復する権利がある。
 ファントムペインもいい仕事をしてくれましたしね……あとは中立を掲げるオーブに圧力をかけて此方に付かせてしまえば其れで良い――今度こそ、コーディネーターを根絶やしにする、其の機会が訪れたのですよ。」


ザフト製のモビルスーツであるジンがユニウスセブン落下に関与していると言う事を公表したら、地球に住んでいる多くのナチュラルはコーディネーターに対して良くない感情を抱くだろう。
そうなればユニウスセブンの落下を理由にプラントに戦争を仕掛けても世論は其れを後押しするのもほぼ間違いない――更に、中立国であるオーブを取り込む事が出来れば盤石だ。
オーブは現在の地球に於いて小国ながらモビルスーツと戦艦の開発に関しては世界でもトップクラスの技術力を有しているので、連合としては何とかして取り込みたい存在なのである。


「先ずは……そうですね、大西洋連邦に介入して我々の手足となってもらうとしましょうか……そして、その次はユニウスセブンの破片と共に地球に降下したザフトの戦艦の破壊と行きましょう。
 我々が行うのは理不尽な戦争ではなく、コーディネーター達に対する正当な報復行為であり其れは誰にも否定は出来ないのですよ……時に、オーブには確かコーディネーターを快く思っていない首長も居た筈……確かセイラン家と言ったかな?……此れは、彼等を巧く利用すればオーブをこちら側に付かせる事も容易であるかも知れませんね。」


先の大戦でムルタ・アズラエルが死去し、終戦後にユニウス条約が締結された事で大きく弱体化したブルーコスモスだったが、アズラエルの死後から一年後に新たな盟主となったロード・ジブリールは地球連合に事実上の私設部隊である『ファントムペイン』を組織し、更にアーモリーワンでのモビルスーツ強奪を実行する等、過激な方法を使ってプラントに攻撃を仕掛け、ブルーコスモスも其の力を盛り返して来たのだった。
其処に『コーディネーターによる地球へのユニウスセブン落とし』と言う事実が加わればコーディネーター絶滅に向けての動きを加速するのは当然であると言えるだろう――だがしかし、ジブリールの此の行動は件の写真を送って来た者の予想したとおりであるとは誰も予想していなかっただろう。

何れにしても二年と言う平和な時間は終わりを告げようとしていた。








――――――








ブルーコスモスが不穏な動きを見せる中、太平洋に不時着したミネルバは一路オーブへと向かっていた――カーペンタリア基地に向かう前にカガリとアスランをオーブに送り届け、其処で最低限の修理と補給を行う為に。


「ユニウスセブンが地球に直撃すると言う最悪の事態は避ける事が出来たが、其れで良かったとは言えないのが現実だな……デュランダル議長が被災地への支援を表明したが、其れを是としない連中も居るだろうからな。
 此れから如何なるのかは分からないが……お前は大丈夫か?」

「大丈夫だ……と言いたいところだが、正直少しばかりキツイな……俺の父が犯した最大の過ち、其れを是とするコーディネーターが未だに存在していたのは正直ショックだったよ……同時に、父がドレだけの怒りと憎しみを世界にばら撒いてしまったのかを知った。
 キラとイチカが居なかったら俺も父と同じようになっていたのかも知れないが……そうならなかったからこそ、父の業の深さを実感する。」

「ナチュラルは地球、コーディネーターは宇宙コロニー……オーブのような例外はあるとは言え、生きる場所が異なるのだから互いに不干渉とまでは行かなくとも必要最低限の接触に留めておけばいいのかもしれないが、どうにもそうは行かないらしい……あぁ、本当に難しい問題だな此れは。」


ミネルバの甲板でカガリとアスランは今回の一件について話をしていた。
ユニウスセブンの地球直撃こそ回避出来たが、其れでも地球に降り注いだユニウスセブンの欠片が齎した被害は甚大であり、ナチュラルの中には今回の一件で反コーディネーターの精神が再燃してしまった者もいるだろう。


そんなカガリとアスランの横では、シン、ルナマリア、ロランの三人が甲板にある射撃訓練場で射撃のトレーニングを行っていた。
シンとルナマリアは平均して八十点と言ったところなのだが、ロランはまさかの百点を叩き出していた――ロランの的は全て胸部を正確に撃ち抜いていたのである。


「ロランさん、すっげぇ……何かコツとかあるんですか?」

「コツなどない……ただ、私は人のハートを撃ち抜くのが得意だったと言うだけの事さ……君も知っているだろうシン、私にはザフト内に九十九人の同性の恋人が居ると言う事は。
 彼女達のハートを撃ち抜いた私にとって、射撃訓練で満点を叩き出す等造作もない事なのさ!」

「九十九人の同性の恋人って、普通に考えたらすさまじいパワーワードっすよね。」


ロランとシンがこんな遣り取りをしている中、ルナマリアはアスランに近付き、訓練用の銃を差し出していた。


「宜しければ、お手本を見せて頂けませんか?
 私、本当は貴方の事知っているんです。先の大戦でイージスに搭乗し、当時最強と言われていたストライクを討ち、後にジャスティスのパイロットになったアスラン・ザラですよね?」

「……あぁ、その通りだ。
 射撃訓練のお手本だったか……其れ位ならお安い御用だ。」


ユニウスセブンに向かう前には少し挑発的な事を言って来たルナマリアもアスランの事は知っており、歴戦のパイロットに直接教えを乞うて来たのだ。
アスランとしても其れを断る理由は無く、射撃訓練を行い、其の結果はロランと同様の百点満点だった。


「さっきの射撃を見てたが君は撃つ瞬間に体幹が右にブレるクセがある。其れを意識すれば命中精度はもっと上がる筈だ。」

「右にブレる……自分では分からなかった事ですね……ありがとうございます。」

「まぁ、俺にはこれ位しか出来ないけどな。」

「でも、必要な事ですよ……敵と戦う時には特に。」

「……敵って、誰だよ?」


其れにルナマリアは少しばかり感激したのだが、アスランが去り際に言った事には何も言えなかった――敵は誰であるのか……其れは或いは永遠に答えが出ない事でもあるのかもしれない。








――――――








ミネルバが向かっているオーブ、そのオーブの浜辺に一人の男性の姿があった。
栗毛の髪に浅めの褐色の肌にアメジストの瞳……其れは先の大戦でストライクとフリーダムのパイロットを務めたスーパーコーディネーター、キラ・ヤマト其の人だった。


「キラ、こんな所で何をしているの?」

「もうすぐ日が暮れてしまいますわよ?」


そんなキラに声を掛けて来たのは二人の女性。
一人は深い赤色の髪が特徴的な女性、フレイ・アルスター。
もう一人は桜色の髪が特徴的な女性、ラクス・クライン。二人ともキラの恋人だ。


「……嵐が来るね。
 其れも、とても大きな……其の嵐が来る事は多分止める事が出来ないだろうけど、嵐が来たあとで僕達には一体何が出来るんだろうね……?」

「「キラ……」」


此の浜辺で見た無数の流星――世界各国に大打撃を与えたユニウスセブンの欠片。
地球にとっては厄災の流れ星を見て、キラは先の大戦を上回る激動の運命を予感していた――同時に先の大戦でフリーダムを失ってしまった自分に、其の時が来たら何が出来るか、其れについても考えていたのだった。








――――――








一方、デュランダルの護衛の任に就き、デュランダルと共にプラントに戻ったイチカとカタナはパイロットスーツから軍服に着替えて議長の執務室へとやって来ていた。
シャトルを無事にプラントに帰還させたら地球に向かう心算だったのだが、其処でデュランダルから『執務室に来てほしい』と言われたのである。


「失礼します議長。イチカ・オリムラ、入ります。」

「同じくカタナ・サラシキ、入ります。」

「うむ、待っていたよ二人とも。
 先ずは護衛の任、お疲れ様だ……本来ならば君達にはユニウスセブンの破砕作業を続行して貰うべきだったのかもしれないが、君達には私と共にプラントに来てもらわねばならない理由があってね。」

「俺とカタナがプラントに行かなきゃならない理由?」

「其れは如何言う事でしょうか議長?」

「其れは此れから答えるとしよう。
 ついて来たまえ。その答えがある場所に案内しようじゃないか。」


其の執務室でデュランダルから『プラントに来てもらわなければならない理由があった』と聞かされたイチカとカタナは『如何いう意味だ?』と疑問を抱いたのだが、『その答えを見せる』と言ったデュランダルについて行く事に。
そうして辿り着いたのはモビルスーツの格納庫だった。
但し明かりは通路のみで格納庫全体は暗闇に閉ざされていた。


「モビルスーツの格納庫?……此処に一体何が?」

「ぼんやりと何かがあるのは見えるのだけれど、其れがなんであるのかまでは分からないわね……モビルスーツである事は間違いないと思うけれど。」

「うむ、モビルスーツである事は間違いないよカタナ君。
 ではお披露目と行こうか?……新たな姿で生まれ変わった自由と正義のモビルスーツを!!」


デュランダルが右腕を掲げると格納庫内全体に明かりが点り、そして二機のモビルスーツの姿が照らし出された。


「此れは……!」

「コイツは……!!」


イチカとカタナの前に現れた二機のモビルスーツ。
片や純白、片や漆黒……対照的なカラーリングの二機のモビルスーツが己の乗り手となる二人のパイロットの前に其の姿を現したのであった。














 To Be Continued