安定軌道を外れて地球に向かって落下し始めたユニウスセブン。
宇宙コロニーが地球に其のまま落下したら地球が壊滅してしまうので、其れを阻止する為にイザーク率いるジュール隊は、衛星・隕石・コロニー破砕装置『メテオブレイカー』を携えてユニウスセブンに到着し、メテオブレイカーをユニウスセブンに打ち込もうとしたのだが……


「ユニウスセブンから何か出て来たぞ?……アレは……馬鹿な、ジンだと!?」

「なんだってこんな所にジンが……まさか、ユニウスセブンが安定軌道を外れたのはコイツ等が何かしたからか!?」


其のユニウスセブンから複数のジンが現れてジュール隊を攻撃して来た。
ザフトの量産型モビルスーツは現在はほぼ全てが新型のザクに更新され、前大戦の、其れもザフトの最初期型の量産型モビルスーツであるジンは殆どが解体され、内部フレームがザクを生産するために改修されたのだが、戦場で行動不能になったジンの中にはテロリスト組織に回収された後にレストアされた機体も存在しており、ユニウスセブンから現れたジンも其の類なのだろう。


「だとしたら、ユニウスセブンの地球への落下は人為的なモノだったと言う事になるな……旧式とは言え、ザフトのモビルスーツを使って最悪のテロ行為を行うとは言語道断だ!
 テロリスト風情が、全機叩き斬ってくれるわ!!」

『イザーク、頑張って。』

「任せておけカンザシィ!!」


まさかのジンの一団の登場だったが、機体性能ではザクの方が圧倒的に上であり、イザークとディアッカはヤキンドゥーエを生き抜いた強者であるのでテロリスト相手に遅れは取らないだろう。


一方で、ジュール隊を援護する為に出撃したイチカ達にもユニウスセブンから現れたテロリストの情報は伝わっていた。


「コロニー落としを画策するテロリストとか、頭のネジ飛び過ぎだろ幾らなんでも……だがそうなると、テロリストの正体は過激思想のコーディネーターって事になるか――ナチュラルには、コロニー落としをする理由がないからな。」

『過激思想のコーディネーター、ですか?』

「ナチュラルの連中の中にコーディネーターを根絶やしにすべきと考えてる奴等が居るのと同じように、コーディネーターの中にもナチュラルを滅ぼすべきだって考えてる奴等が居るって事さ。
 前議長のパトリック・ザラもその思想の持ち主だったらしいから、ナチュラルとの融和を目指すデュランダル議長の考えに賛同出来なくてプラントを離脱してテロリストになっちまったのかもな。」

「こうなってしまった以上は戦闘は避けられないけど、大丈夫かしらアスラン?
 二年間の平和な暮らしで鈍ってないかしら?」

『オーブ軍の戦闘シミュレーターで訓練していたから鈍っては居ないと思うぞカタナ……軍属じゃなくても、自分を鍛えておくに越した事は無いからな。』

「ふふ、そうね♪」


テロリストの存在には驚かされたが、だからと言って引き返す事はせず、ジュール隊が本来の任務を達成するためにイチカ達はユニウスセブンへと向かい、其処でジンと一戦交える事になるのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE57
『世界の終わる時~End Of The World~』










ユニウスセブン付近で始まった戦いはミネルバ隊とジュール隊がジンを圧倒する展開となっていた――機体性能はもとより、ヤキンドゥーエを生き抜いたイチカ、カタナ、アスラン、イザーク、ディアッカのモビルスーツパイロットとしての能力は凄まじく本来ならばテロリスト風情では相手にならないのだが、此のテロリスト達は『勝てずとも負けない戦い』が出来る相手だった。
彼等にとっては『ユニウスセブンを地球に落とす』という目的が達成出来れば其れで良く、戦闘で勝つ事よりも優先すべきは目的の達成なので、その障害となるモノを最低限阻止する事が出来れば其れで良いのだ。


「ユニウスセブンに近付かせない心算か……付かず離れず、やり辛い!!」

「ジンで此処まで……強くはないが巧い、何者なんだコイツ等は……?」


勝てずとも負けない戦いが出来ると言うのは相当な場数を踏んだ者の証であるので、其れだけの力を持って居る者がテロリストとして活動していると言うのは有り難くない事だろう。


「コイツ等は俺達が引き受ける!イザーク、お前達はユニウスセブンに!」

『その声はイチカか!……スマン、此処は任せる!!』

『ミネルバが来たって事はお姉ちゃんも居るよね?……頑張ってお姉ちゃん!』


「はいは~い!妹のエールを受けたお姉ちゃんは全ステータスにプラス500%のバフが入るから最強無敵よ~ん♪」


しかし其処はザフトの精鋭部隊。
イチカ達ミネルバ隊がテロリストに対処し、イザーク達ジュール隊はユニウスセブンに向かって行った。
数の上ではテロリストの方が上だが、ミネルバ隊には実力的には赤服が五人存在している状況なだけでなく、元赤服のアスランも参戦しているのでテロリストがユニウスセブンの破砕を妨害するのを止めておく位は容易い事だった。


「悪いが俺はキラみたいに優しくねぇ……敵対するなら容赦なくぶった切るぜ?」

「テロ行為をするのなら、もしもの時は死ぬ覚悟は出来ているわよね?」


中でもイチカとカタナは前世の記憶をほぼ全て取り戻した事で『人を殺す』事に対して躊躇する事が無く、テロリストの乗るジンを次々と撃破して行った。
イチカとカタナの奮闘もあって、ジュール隊はユニウスセブンにメテオブレイカーを打ち込む事に成功し、ユニウスセブンはモノの見事に真っ二つになったのだが、此れではまだ足りないだろう。


「第一段階は成功したか……だが、もっと細かく砕かないと……!」

『その声は……貴様、アスランか!』

「久しぶりだなイザーク。其れとディアッカも……積もる話もあるかもだが、今はユニウスセブンを砕くのが先決だから、其れに集中しよう。」

『貴様に言われずとも分かっている!テロリスト共を近付けさせるなよ!』

「ふ、変わらないなイザーク。」

『貴様もな!!』

『はは、懐かしいなこの遣り取りも!』



とは言え、此のまま行けばユニウスセブンを地球の大気圏で燃え尽きるレベルに砕く事は難しくなかったのだが、ユニウスセブンが真っ二つになった次の瞬間に、ファントムペインの部隊が現れ、ミネルバ隊とジュール隊に攻撃を仕掛けて来た。


「コイツ等……邪魔すんじゃねぇ!!」

「無粋な乱入、おねーさんは好きじゃないわ……少しお仕置きが必要みたいね。」

「く……邪魔をするな!」


だが、其れもイチカとカタナが対処して見せた。
最新鋭機であるカオス、ガイア、アビスはインパルスに負けず劣らずの性能なのだが、前世の記憶を取り戻し、圧倒的な戦闘経験値のあるイチカとカタナに取っては脅威の存在ではなく、十分に対処出来る相手でしかなかった。


「凄い……!」

「此れがヤキンドゥーエを生き抜いたパイロットの力か……!」


そして其れを見たシンとルナマリアはヤキンドゥーエを生き抜いたパイロットの力が如何程であるのかと言う事を肌で感じ取っていた――イチカとカタナとアスランは汎用の量産機でワンオフの機体を圧倒したのだから其れも当然だろう。


「コイツ等……俺達よりも強いってのか……負けられるか!」


一方でファントムペインの三人もまたイチカ達の強さに改めて驚く事となった。
パイロットとして高い技量を持った人間がザフトに居る事は先のアーモリーワンとデブリ帯での戦闘で分かっていたモノの、其れでも改めて自分達を圧倒する存在には驚くしかなかったのだ。
なにせアスランのザクはパンチでカオスを殴り飛ばし、イチカのザクはビームアックスでカオスのシールドを斬り裂き、カタナのザクはガイアとアビスを誘導してユニウスセブンを攻撃させるトリックプレイまで見せてくれたのだから。

しかし同時に此処でファントムペインが参戦して来た事でミネルバ隊は防衛が手薄になってしまい、数名のテロリストがユニウスセブン破砕部隊へと向かって行ってしまった。
ユニウスセブンは更に砕かれて四分割されたが、其れでもまだ地球に落ちるには大きすぎる――大気圏で幾らかは燃えるとしても、隕石落下級の被害が出るのは間違いないだろう。


「ちぃ……シン、アスラン!お前達はユニウスセブンに!此処は俺達が何とか抑える!お前達は、破砕部隊の援護に!」

『イチカさん……了解しました!』

『……分かった。』



此処でシンとアスランがユニウスセブンに向かい、イチカ達はファントムペインとテロリスト部隊と戦闘を継続し、ユニウスセブンに向かおうとするテロリストを重点的に攻撃した結果、既にユニウスセブンに向かってしまった一部を除いてテロリストは掃討し、残るはファントムペインだけなのだが、此処で母艦のガーティ・ルーから帰還を示す信号弾が発射され、カオス、ガイア、アビスの三機は帰投して行ったのだった。


「退いてくれるとは、此方の考えを理解してくれたのだろうか?」

「かも知れませんが、他に理由があります……もうすぐ限界高度に達します。」


この帰投に対し、デュランダルは此方の考えを理解したのかと推測したのだが、タリアは全く別の意見――限界高度が近付いているから帰投したとの意見だった。
銀河に属する惑星は夫々が引力と重力を大なり小なり有しており、其れは地球も例外ではなく、大気圏外でも地球に近付きすぎると地球の引力に引っ張られてしまい離脱出来なくなってしまうのだ。


「議長はプラントに戻って下さい。
 ミネルバは大気圏に突入しながらタンホイザーでユニウスセブンの破砕を行います。」

「……私が今地球に降りる訳には行かないか……分かった、ミネルバに搭載されているシャトルでプラントに戻るとしよう。……だが、戦場からの帰還となると護衛が欲しいな?
 イチカ君とカタナ君を護衛に付けてくれるかな?」

「!!……了解しました。」


デュランダルはミネルバに搭載されているシャトルでプラントに戻る事になったのだが、その際の護衛としてイチカとカタナを指定して来た事にタリアも其の意味を理解して、即座にイチカとカタナに帰還命令を送ったのだった。


「……カタナ、ミネルバから帰還命令が出た。議長がシャトルでプラントに戻るから、俺達は其の護衛につく。」

「議長の護衛……了解よ。」


その命令を受けたイチカとカタナは一度ミネルバに帰還し、補給を済ませた後に新たに出動してデュランダルの乗るシャトルの護衛の任に就くのだった。


一方、限界高度に達する前にジュール隊はユニウスセブンから離脱し、ミネルバはユニウスセブンと共に地球に降下しながら陽電子砲『タンホイザー』を発射してユニウスセブンを破砕し、アスランはジュール隊が残したメテオブレイカーを起動させようとしていた。


「アンタ、大気圏に入ってるんだぞ!何してるんだよ、此のままじゃ地球に落下だぞ!」

「そんな事は分かってる……だけどもっと細かく砕かないと……!」

「真面目かよ!……手伝いますよ……」


其れをシンが手伝ったのだが、此の土壇場でテロリストの生き残りが強襲して来た。
アスランとシンにとっては脅威となる存在ではないのだが、ユニウスセブンを更に細かく砕かなければならない状況に於いてはこの上なく邪魔で有り難くない存在だっただろう。


「我が娘の墓標、落として焼かねば世界は変われぬ!
 なぜ分からぬ!我らコーディネーターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが唯一正しきものと!!」

「「!!」」


更にテロリストが言った事はアスランだけでなくシンにも衝撃の事だった。
テロリストの言う事を信じるのならば、彼の娘は血のバレンタインの被害者であり、娘を殺された復讐心が此度の凶行を引き起こしたのだろうが、アスランは父であるパトリックの強硬な考えを今も是としている者がいた事に驚いていた。

その驚きが一瞬の隙となり、アスランのザクはテロリストのジンに右腕を斬り落とされ、更に両足をホールドされてしまったのだが――


「させるかよ!」


シンのインパルスがザクの両足をビームサーベルで斬り落としてテロリストを引き剥がすと、ビームライフルでジンのコックピットを撃ち抜いてターンエンド。
其れと同時にシンはアスランのザクの残った左手を掴んで大気圏からの離脱を試みたのだが、如何に最新式のスラスターとブースターを搭載したインパルスであっても単機での大気圏突破能力は有していなかったので、インパルスとザクはユニウスセブンの欠片と共に地球に降下して行くのだった――!!














 To Be Continued