「ユニウスセブンが軌道を変えた?廃コロニーが動き出したと言うのか?」

「我々としても信じ難い事なのですが事実なのです姫。
 ユニウスセブンは動き出し、そして地球に向かっているのです。」


ユニウスセブンが動き始めたと言う情報は直ぐにプラント本国から、ミネルバのタリアとデュランダルに伝わり、其処からカガリにも伝わっていた――此れまで沈黙していたスペースコロニーが突如として動き始めとなれば其れは無視できない事であるのだから。


「地球に……だが、なぜ今になってユニウスセブンが動き出したのか、問題は寧ろ其方のある気もするのだが……」

「確かに其方も問題でしょう――安定軌道にあったユニウスセブンが軌道を外れて地球に向かうなどと言う事は通常では考えられない事であり、其れこそ巨大な隕石でも衝突しない限りは起こり得ない事なのですから。
 現時点では情報が限られていますので何とも言えない状況ではありますが……仮に姫は如何お考えになります?」

「……アーモリーワンの一件を引き起こした連中が、とも考えられるが其れだと地球に向かわせる理由が分からない。
 奴等は恐らく連合の一派である事を考えると、尚の事な。」

「我々も彼等が関与している可能性は低いと見ていますが……君の意見を聞かせて貰えるかなアレックス君?否、アスラン・ザラ君。」

「!!?」


その会話の中でデュランダルはアレックスの正体を見抜き、そして意見を求めて来た。
アレックス――アスランはデュランダルに正体を見抜かれた事に一瞬驚いたモノの、プラント内で自分の顔は広く知られている事を思い出し、今はアーモリーワンを訪れた際に掛けていたサングラスも外している状態なのでバレたのは当然だろうと考えていた。


「議長、此れは……」

「ご心配なさらずに姫……彼がオーブで暮らし、更に貴方の護衛を務めるとなった場合、本来の名を名乗るのが困難である事は明白――しかし今は我々以外には誰も居ない。
 私は、偽らざる彼との話をしたかった、其れだけなのです。」

「名前だけじゃなく、いっそ顔も映画の特殊メイクなんかを使って変えておくべきだったかもしれないな……イチカとカタナは察して俺に合わせてくれていたけれどな。
 其れで、俺の意見でしたか議長……俺としては、何故安定軌道を外れたかよりも、地球に向かっているユニウスセブンを如何するかだと思いますが?」

「うむ、確かにその通りだ。
 だが、そちらに関しては既にプラントがイザーク・ジュール君を隊長とした破砕部隊を派遣しているので大丈夫だろう――そして、ミネルバもまた其方に向かっているからね。」

「つまり、破砕作業は現在進行形で行われようとしているから、何故ユニウスセブンが安定軌道を外れたのか、其れに関しての俺の意見を聞きたいと?」

「まぁ、そうなるかな?」

「……何らかの偶発的な原因と人為的な原因、現時点ではその両方の可能性が夫々50%と言ったところかと。
 ですが、偶発的な原因ならば兎も角として、人為的なモノだとしたら事態は最悪極まりない――何者かが悪意を持ってユニウスセブンを地球に落下させようとしているのなら、仮にユニウスセブンを砕く事が出来たとしても、地球に少しでも被害が出れば其の事実だけで新たな戦争の火種になり兼ねませんから。」

「うむ、正にその通りだ。
 此れがもしも人為的なモノであったとしたのならば、僅かでも地球側に被害が出れば誰が犯人であろうとも連合がプラントに戦争を仕掛ける口実を与えてしまう事になるからね――『地球にユニウスセブンの破片が落下して被害が出た』等と言うのは、彼等にとっては格好の戦争の理由になるのだからね。
 だからこそ早急にユニウスセブンを砕き、地球に破片が落下する事を防がねばならない――地球に降り注いだ欠片が全て大気圏で燃え尽きて、少し派手な流星群が発生しただけで済み、プラントが地球に被害が出ないように尽力したとなれば、流石に戦争を仕掛ける事は出来ないだろうからね。
 君の意見を聞いてよかったよアスラン君……君程の人間が私と同じ考えをしていたと言う事で、私の考えは大きく間違っていなかったと自信が持てた。」

「……恐縮です。」


何れにしてもユニウスセブンが地球に落下したら大事になるので、プラントはイザークを隊長とした破砕部隊をユニウスセブンに向かわせ、ミネルバも其れに続く形でユニウスセブンに向かう事になった。
イザーク率いるジュール隊は現在のザフトでもトップクラスの精鋭部隊であり、ミネルバは新鋭のルーキーの赤服二人とヤキンドゥーエを生き抜いたレジェンドクラスのパイロットが三人も居るので戦力的には問題ないだろう。
しかし、其のユニウスセブンでは誰も予想していなかった事態が待ち受けているのであった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE56
『癒えぬ傷痕~Narben die nicht heilen~』










プラントの要請を受けて出撃したジュール隊はユニウスセブン付近に到着していた。
此処からはデブリ破砕装置『メテオ・ブレイカー』をモビルスーツでユニウスセブンに打ち込んで砕く作業になる――メテオブレイカーは数を打ち込めばコロニーでも砕けるのだが、其れだけに巨大でありモビルスーツ一機で一つを運ばねばならないのでジュール隊の半分はメテオ・ブレイカーの輸送、装着に従事する事になる訳だ。


「此方シエラアンタレスワン。ジュール隊、イザーク・ジュール、出るぞ!」

「ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、出るぜ!」


イザークとディアッカも出撃してユニウスセブンに向かい、ユニウスセブンの地球落下を阻止すべく尽力するのだった。








――――――









同じ頃、地球でもユニウスセブンが地球に向かって降下していると言う情報を得ていた――とは言え、何故今になってユニウスセブンが地球に降下し始めたのか、その理由までは把握していなかったのだが。


「ユニウスセブンが地球に……此れは願ってもない幸運だ。
 血のバレンタインで滅びたユニウスセブンが地球に向かって降下している……如何考えてもコーディネーターが何かしたとしか思えない――プラントに対して戦争を仕掛ける理由が出来ると言うモノですからね?」

「ジブリール、其れは些か強引過ぎないか?」

「強引だろうとなんだろうと、コーディネーターを滅ぼす事が出来て、なおかつ我々の懐が潤うのであれば其れに越した事は無い――戦争が無くなってしまったら困る、其れは分かるでしょう?」

「其れは……確かにそうだが。」

「ならば黙って私に従いなさい。
 私ならばアズラエルよりももっと巧くやれる……戦争で最大限の儲けを出した上でコーディネーターを根絶やしにして、此の世界を純然たるナチュラルだけのモノとする――其れが我々の最終目標なのだから。」


其れでも新たにブルーコスモスの盟主となった『ロード・ジブリール』はユニウスセブンの地球に向かっての落下をプラントに戦争を仕掛ける好機であると考えていた。
無論ユニウスセブンが其のまま地球に落下したら地球が壊滅してしまうので、プラントが行おうとしている破砕計画を否定はしないが、しかし其れを完遂させる気もなかった――地球が壊滅せず、しかし甚大な被害を受けるレベルでユニウスセブンを砕く、此れがジブリールの狙いだった。


「ファントムペインを向かわせましょう。
 離脱不能になるギリギリまで引き付けて、破砕作業を妨害するのです……そして我等は手に入れる事が出来る、プラントに、コーディネーターに戦争を仕掛ける大義が!」


アズラエルには過去にコーディネーターに敗北した悔しさが根底にあり、其れがコーディネーター憎しの感情に繋がっていたのだが、ジブリールは『ナチュラル至上主義』の権化のような男であり、アズラエルのように過去の悔しさを晴らしたいと言う思いはなく、単純に『コーディネーターは存在すべきではない』と言う感情で動いている極端な思想の持ち主なのである。
そんな極端な思想を持ったジブリールがブルーコスモスの盟主となった事で、ブルーコスモスは前大戦の時よりも反コーディネーターの感情が大きくなっているのは間違いないだろう。


「滅びるべきなのだ、コーディネーターはあまねく全て……!」


ユニウスセブンの破砕作業にファントムペインが横槍を入れる事が確定したのであった。








――――――








ジュール隊を追う形でユニウスセブンに向かうミネルバ。
其のエントランスではイチカとカタナ、シンとルナマリア、ロラン、そして整備班のヴィーノとヨウランが雑談を交わしており、ラクスの熱狂的なファンであるヴィーノが『ラクス様とお付き合いしたい~~!』等と言う妄想320%な事を口にし、イチカとカタナが『それは絶対無理だ』とバッサリ切り捨てていた。


「絶対無理って、何でですか!」

「お前じゃ役者不足だ。(ラクスにはキラが居るしな。)」

「プラントの一庶民がプラントの歌姫と交際とか無理でしょ♪(ラクス様にはキラ君がいるしね。)」

「イチカさんもカタナさんも辛辣すぎる!?……シン~~、お前なら俺の気持ち分かってくれるよな?」

「ゴメンヴィーノ、俺ルナが居るから分からない。」

「盛大に爆発しろこのリア充が!」

「攻撃力が限界まで上がったメタグロスの大爆発は最強の道連れ技かもな。」

「クリアボディの特性でステータスが下がらないのもポイントよね――っと、馬鹿話は此処までにして、ユニウスセブンが地球に向かって降下を始めたと言うのは大問題よね?
 アレほどの質量が地球に激突したら地球は壊滅してしまうわ……そうならないためにイザークの部隊とミネルバが向かっている訳なのだけれどね。」

「出来るだけ細かくしないとですよねカタナさん……そして其れが出来るのはジュール隊と俺達だけ――なら、俺達は持てる力の全てを出さないとですね!」

「うむ、其の意気だシン!
 嗚呼、才気溢れる新星が此れほどの心意気を持っているとは、なんとも私の心を躍らせてくれる……次の出撃は、前以上の活躍を期待せずにはいられないね。」

「出撃前だってのに緊張感が薄いわよねぇミネルバ隊のティーンエイジャーは私も含めて……まぁ、其れが逆に心地いいけど。」


暫しの談笑は出撃前の緊張をほぐし、たまたま其の場を訪れていたカガリとアスランも少しばかり心が和やかになったのだが――


「だけどユニウスセブン、此のまま地球に落ちた方が良いのかもな……そうなれば、地球とプラントの争いもなくなるかもしれないしさ。」


ヴィーノが此処でトンデモナイ事を言ってくれた。
プラント在住のコーディネーターであれば誰しも同じ事を考えた事はあるかもしれないが、今回ばかりは間が悪かった――偶然とは言え、その場に地球のオーブの代表首長であるカガリと其の護衛であるアレックスことアスランが居合わせたのだから。
ヴィーノの『地球が滅びれば良かった』とも取れる発言を聞いたカガリは憤怒の表情を張り付けてヴィーノに向かい……


「滅多な事言うなアホ垂れ。」

「あだぁ!?」


一言言うよりも早くイチカのゲンコツがヴィーノに炸裂した。
其のゲンコツは前世の記憶にある姉のモノを参考にしただけに破壊力は凄まじく、ヴィーノは一発のゲンコツで三つのタンコブを作ると言う極めて珍しい状態となっていたのだった。
此の一撃にはカガリとアスランも驚いて一瞬足を止めたのだが、カガリが思わず漏らした驚きの声にシン達が気付き、今のヴィーノの発言を聞かれていた事を知ったのだった。


「いったぁ……なんで殴るんすか!」

「何でだと?……其れを言われんと分からんのかお前は!
 お前が言った事はなぁ、ナチュラルの連中が『プラントが核攻撃されて滅びれば良かった』って言ってるのと同じなんだよ!――更に、ミネルバにはオーブの代表首長であるカガリが乗ってるんだぜ?
 カガリが今のお前の言った事を聞いたら如何思うだろうな?……お前は軽い冗談の心算だったのかもしれないが、口にした言葉が冗談では済まない事があると言う事を知れよ……何気ない一言が相手の心を深く傷つけるって事は少なくないんだからな。」

「口は禍の元と言う言葉を知りなさいな。アスハ代表、凄い顔してたわよ?」

「聞かれてたって事か……えっと……その、すみませんでした。」

「……其の頭の三連タンコブに免じて今回は私は何も聞かなかった事にするが、次に同じような事があった場合、私はオーブの代表首長として正式にプラントに抗議文を送るから其の心算でな。」

「は、はい!!本当に、すみませんでした!」


イチカとカタナに言われ自分の過ちを理解したヴィーノはカガリに謝罪し、カガリもヴィーノの頭に出来た三連タンコブに免じて今回はお咎めなしとなった、『次はない』との警告も受けてしまったので、ヴィーノは此れからは自分の発言に細心の注意を払う必要があるだろう。


「さてと、そろそろユニウスセブンだ。
 俺達は出撃の準備をするとしようぜ……アスハ代表と護衛は念のために安全な場所に――と言っても、戦闘になった場合に戦艦に安全な場所なんぞ存在しないだろと言われたら其れまでだけど。」

「それじゃあ、私達は此れで失礼しますわアスハ代表♪」


目的地であるユニウスセブンが近付いて来た事でイチカ達は出撃の準備の為にモビルスーツの格納庫に向かって行った。
一方カガリとアスランは用意された部屋に向かったのだが、アスランはカガリに『此の状況を黙って見ている事は出来ない……俺に出来る事をしようと思う』と告げるとブリッジに向かった。


「無理を承知でお願いがあります。私にもユニウスセブンの破砕作業を手伝わせてはいただけないでしょうか?……其の為にモビルスーツをお借りしたい。」

「……其れは、確かに無理な願いね。
 アスハ代表の護衛であるとは言え、今はオーブの一国民に過ぎない貴方にザフトのモビルスーツを使わせる事も、ましてや軍の任務に携わらせる事など出来る筈がないわ。」


アスランはユニウスセブンの破砕作業に志願したのだが、艦長のタリアは正当な理由でもって其れを是としなかった――緊急事態であるとは言え、プラントがオーブの国民を志願したとは言えザフト軍の任務に駆り出したとなれば其れこそプラントとオーブの間で国際問題に発展しかねないのだから。


「……いや、君の要望は聞き入れようじゃないか。」

「議長!?……しかし……」

「艦長、君の言う事の方が正しいのは理解している。
 だが、ユニウスセブンの破砕は確実に行わなくてはならない……ならば其れに当たる人員が多いに越した事は無い――其れに彼ならば大丈夫だろう。
 全ての責任は私が負う。彼にザクを一機あてがってくれ。確かミネルバにはカタナ君のスペア機として通常カラーのザクウォーリアがもう一機積まれていた筈だと記憶している。」

「……分かりました……そう言う事だから、貴方は至急モビルスーツの格納庫に向かいなさい。
 連絡は入れておくからパイロットスーツ其の他は其方で受け取ってちょうだい。」

「はい、ありがとうございます!」


だが其れもデュランダルの計らいで聞き入れられ、アスランはユニウスセブンの破砕任務に参加する事になった。
格納庫に向かったアスランは、タリアから連絡を受けたスタッフによって渡されたパイロットスーツに着替えてから格納庫に入り、整備班からザクウォーリアとブレイズウィザードの説明を聞いていた。
因みにアスランのパイロットスーツは赤服仕様だったのだが、此れはサイズが合うのがイチカのパイロットスーツのスペアしかなかったからである。


「アレ、あの人……何でここに?」

「俺達と一緒に出撃するんだろ、多分な。
 だけどアイツが参加してくれるってんなら有り難い事此の上ねぇな……アイツの実力は俺やカタナと同等か、或いは其れ以上かも知れないからな――ユニウスセブンの破砕が問題なく行われる事に越した事は無いが、もしも何らかの横やりが入った場合にはヤキンドゥーエを生き抜いたパイロットの力を見る事が出来るかもだぜ。
 Mr.アレックス!」


そのアスランにイチカは声を掛けると、自分の胸を拳で二度叩いてからサムズアップし、其れを見たアスランも同じくサムズアップを返して来た――其れだけで『頼りにしてるぞ?』、『任された!』の意思疎通が出来るほどにはイチカとアスランは信頼関係が出来ているのだろう。

そして、ミネルバはユニウスセブンの近くにまで到達した。
既にユニウスセブンにはジュール隊のメンバーがデブリ破壊装置『メテオブレイカー』を携えて向かっており、ミネルバも直ぐにモビルスーツを出撃させるのであった。


「シン・アスカ。コア・スプレンダー、行きます!」


先ずはシンが出撃し、コア・スプレンダーがチェスト・フライヤー、レッグ・フライヤーと合体してインパルスとなり、更にシルエットフライヤーからフォースシルエットを受け取ってフォースインパルスとなる。
今回の任務では複数のメテオブレイカーをユニウスセブンに打ち込む必要があるので、機動力重視のフォースシルエットは妥当な装備と言えるだろう。


「イチカ・オリムラ。ザク、行くぜ!」

「カタナ・サラシキ。ザク、行くわよ!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。ザク、目標を駆逐する!」

「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」


続いてイチカ、カタナ、ロラン、ルナマリアが夫々のザクで出撃。
カタナとロランのザクはブレイズウィザードを装備した高機動タイプなので今回の任務には適任なのだが、ルナマリア機のガナー・ザクウォーリアは主砲のオルトロスでメテオブレイカーで破砕されたユニウスセブンを更に細かく砕く事が可能であり、イチカ機のスラッシュ・ザクファントムはメイン武装のビームアックスで欠片をさらに細かく切る事も出来るので、此の布陣は正に隙が無いと言えるだろう。


「アスラン・ザラ。ザク、発進する!」


そして最後にアスランが乗ったブレイズ・ザクウォーリアが発進してユニウスセブンに向かって行った。
ミネルバとジュール隊、この二つの部隊の戦力には申し分がなく、大抵の相手には対処する事が出来るだろうが、しかし彼等は任務の地であるユニウスセブンにて予想だにしなかった事態に遭遇する事になるのだった。

嘗ての悲劇の地で待ち受けていたのは、前大戦の負の遺産が生み出した亡霊とも言うべき存在だったのだ――!














 To Be Continued