ミネルバのドッグエリアではインパルスやザクの整備が行われており、そんな中でルナマリアはコアスプレンダーの調整を行っていたシンに、カガリの護衛がアスランかも知れないと言う事を告げていた。
アスラン・ザラと言えばプラント最高評議会の前議長であるパトリック・ザラの息子であり、ザフトのエースパイロットでもあったので其のネームバリューはプラントだけでなく地球連合にも知れ渡っていたのだが……


「アスハ代表の護衛がアスラン・ザラだとして、なんでそんな人がオーブに?アスランって、元々ザフトのエースパイロットだったんだよな?」

「アンタ、イチカさんに話聞いた事なかったの?
 前大戦最終期、ザフトの赤服だったアスラン・ザラ、イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、カタナ・サラシキの四人はザフトから離反して三隻同盟に参加して、終戦後にイザークさんとディアッカさんとカタナさんはザフトに復隊したんだけど、アスランだけはザフトに戻らずにオーブに亡命したらしいのよ。
 アスハ代表の護衛がアスランだとしたら、元ザフトの赤服がオーブに亡命したのは良いとして、如何してそんな要人の護衛についてるのか謎だけどね。」

「アスランとアスハ代表は実は付き合ってたとか。」

「何が如何なればオーブの代表首長様と元赤服の亡命者が交際関係になんのよ……」

「俺はオーブからプラントに亡命してルナと付き合ってるけど?」

「状況的には似てるかもしれないけど、アタシとアスハ代表じゃ立場がマッタク違うでしょうが!ザフトの赤服とオーブの代表首長じゃ格が違うでしょうが!」


シンもルナマリアも、アレックスがアスランであるとしたら、何故オーブに亡命した元ザフトの赤服がオーブの代表首長の護衛を務めているのかは分からなかった。
尤も、シンの予想は大体核心を突いているのであるが。


「出撃前だと言うのに平和ね。」

「精神的に余裕があるってのは良いと思っておこうぜ……少し温いかも知れないが、ガチガチに緊張してるよりは万倍良いからな。」

「……其れもそうね。」


そんなシンとルナマリアの遣り取りを、イチカとカタナは温かい目で見守りながら自機の最終調整を行い、出撃に備えるのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE55
『星屑の戦場~Sternenstaub-Schlachtfeld~』










「シン・アスカ。コア・スプレンダー、行きます!」

「イチカ・オリムラ。ザク、行くぜ!」

「カタナ・サラシキ。ザク、発進するわ!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。ザク、目標を駆逐する!」

「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」


ミネルバからはインパルスと四機のザクが出撃し、ミネルバがレーダーで捉えた敵機が潜むデブリ帯に突入して行った。
インパルスは今回は遠距離砲撃型の『ブラスト・シルエット』を装備しており、四機のザクはイチカのザクファントムが近接戦闘型の『スラッシュ・ウィザード』を装備し、カタナのザクウォーリアとロランのザクファントムは高機動中距離型の『ブレイズ・ウィザード』を装備し、ルナマリアのザクウォーリアは遠距離砲撃型の『ガナー・ウィザード』を装備しての出撃だ。

アーモリーワンでの戦闘ではウィザードが未装備だった事で真価を発揮出来なかったザクだが、今回はウィザードを装備しているので其の真価を発揮してくれる事だろう。
部隊構成も近接特化一機、中距離高機動型二機、遠距離砲撃型二機とバランスも良い上、ブラストインパルスとガナーザクウォーリアには近接戦闘用の武装も標準装備されているので間合いを外されても戦闘は可能なので正に隙の無い布陣と言えるだろう。


しかし……


「おかしいわね……」

「如何したかね、グラディス艦長?」

「いえ、こちらから五機のモビルスーツが出撃したにもかかわらず、レーダー上の相手は迎撃の素振りすら見せていないんですよデュランダル議長……此れは若しかしたら、敵の罠に嵌ったかもしれません。」


ミネルバのレーダー上に表示された敵は迎撃の素振りすら見せず、タリアは敵の罠に嵌められた可能性を示唆していた。


「だとしたら拙いな……デブリ帯は見通しが悪いから奇襲をかけるには持って来いだ……誘いに乗せられたか此れは……」


タリアとアレックスが連合の罠に嵌ったのではないかと考えたのと同時に、デブリ帯に突入したイチカ達に、デブリ帯に潜んでいたカオス、ガイア、アビスの三機が襲い掛かって来た。
そう、ミネルバのレーダーが捕らえた機影は囮であり、ガーティ・ルゥの本命はデブリ帯を利用した奇襲だったのだ。


「デブリ帯からこんにちわってか?
 新米のルーキーなら此れで驚くのかも知れないが、ヤキンドゥーエを生き抜いたパイロットにとっちゃ使い古された手に過ぎねぇんだよな此れは!」

「元気な子は好きだけど、オイタが過ぎるのは良くないわねぇ?……おねーさんが少しお仕置きしてあげるわ♪」


其の奇襲に対しイチカはスラッシュウィザードに搭載されているビームガトリングを放ち、カタナはブレイズウィザードに搭載されているミサイルポッドを発射してカオス、ガイア、アビスの奇襲の出鼻を挫いた。
イチカとカタナは先の大戦での経験だけでなく、ほぼ完全に取り戻した前世の膨大な記憶による圧倒的な戦闘の経験があるので此の程度ならば奇襲にすらならないのであった。


「此処は数の利を活かす!
 シンは俺と一緒にガイアの相手。カタナとロランとルナマリアはカオスとアビスの相手を頼む!」

『イチカさん……分かりました!』

『それじゃあ行くわよロラン、ルナマリアちゃん!』

『私とカタナとルナマリアのチーム……偶然だが見事にショートカットガールチームになったね♪』

『確かに全員ショートカットですね……と言うか、ミネルバのチームってツインテールにしてるメイリン以外にロングの人って居ないと思うんですけど……』

『ルナマリア、其れを言うのは無粋と言うモノだよ。』

『はぁ……無粋ですか。』


「戦闘中に係わらず此の緩さ……余裕があって実によろしい!」


イチカのザクはバックパックからメイン武装である『ビームアックス』を手に取ると頭上で振り回してから構えてビームエッジを展開しガイアに斬りかかる。


「……コイツ……!」


其れに対し、ガイアはモビルアーマー形態に変形し、デブリを蹴って加速し、背部のグリフォンビームブレードで対応し、ビームアックスとグリフォンビームブレードのビームエッジが交錯してスパークする。
完全に拮抗している鍔迫り合いだが、其処にシンのブラストインパルスがミサイルポッドを放った事で拮抗は崩れた。
PS装甲が搭載されているガイアにはミサイルは無効なのだが、イチカはガイアを誘導してミサイルの軌道上に居たのだ――しかも其の軌道上で更なる鍔迫り合いを展開してだ。


「……く……!」


其の結果、ガイアのパイロットのステラは難しい三択を迫られる事になった。
一つは無理矢理ザクを押し込む方法だが、其れは押し込んだ瞬間にザクの方が引いてガイアはバランスを崩す事になり、其処にビームアックスの一撃が炸裂するので選択出来ず、二つ目は自分の方が引いて拮抗を崩す事だが、此れもガイアが引いた瞬間にザクが点をずらして斬り込んでくるので選択出来ず、三つめはPS装甲の絶対物理攻撃耐性にモノを言わせて此の拮抗状況を継続すると言うモノだが、其れを選択したらPS装甲未搭載型のザクが離脱してガイアはバランスを崩してミサイルを喰らって機体エネルギーを大きく削られた上にザクの追撃も喰らってしまう可能性があるので矢張り選べない。


「実戦経験がまるで足りてねぇな……トレーニングし直して出直して来いよルーキー!今のお前じゃ、百回やったら百回とも俺が勝つぜ!」


此処でイチカのザクはガイアに蹴りを放つと、その勢いでミサイルの攻撃範囲から離脱し、結果としてガイアはミサイルを全弾喰らってPS装甲に大きくエネルギーを割く事になり機体エネルギーは大きく減ってしまったのだ。


「私は負けない……ネオの為にも、勝つ……」

「まだ足掻くか……狙いは悪くなったが、残念でした次頑張りなぁ!!」


其れでもガイアはモビルスーツ形態となってビームライフルを放って来たのだが、そのビームをイチカはビームトマホークで全弾斬り飛ばして見せていた。


一方のカタナ達はと言うと……


「うふふ、おねーさん少し本気出しちゃうわね♪」



――パリィィィィィィン!!



数の上では有利でも、機体の性能では負けている状況に於いて、カタナはSEEDを覚醒させていた。
SEEDが覚醒すれば集中力、反応速度、思考力の全てが個人差はあるが大幅に上昇し、其れこそ機体の性能差を簡単に埋める事が出来るモノで、其れこそルーキーであってもSEEDに覚醒すれば熟練のレジェンドと互角に戦う事が出来るモノなのだ。
ならば、先の大戦を生き抜いたカタナがSEEDを覚醒したらどうなるのか?……その答えは簡単だ。


「シールドが……!」

「見えなかったって、マジかよ……!」


カタナはザクウォーリアのビームトマホークを使ってガイアとアビスのシールドを一刀両断してしまった――強化人間でも反応出来ない一撃をカタナは放ったのだった。
如何にブレイズウィザードが高機動型のバックパックとは言え、宇宙・空戦型のカオスはもとより、水中戦型のアビスの方が基本的な機動力ではザクに勝っているにも関わらずだ。
実戦経験の差は勿論あるのだが、其れに加えてスティングとアウルはまだ完全に強奪した機体を自分のモノに出来ていないと言うのも大きな理由だろう。
戦闘後の調整で使用するモビルスーツに最適化されているとは言え、最適化するのと機体を使いこなすと言うのは似て非なるモノであり、動かす回数を重ねなければ真の使い手にはなれないのである。


「PS装甲には決定打にならないが、バッテリー機にはエネルギー消耗はきついモノだよね?」


SEEDを発動したカタナだけでなく、ロランもまた巧い戦い方を見せていた。
PS装甲に直接的なダメージを与えるにはビーム兵器を使うのが手っ取り早いのだが、ロランは敢えてザクの腰部アーマーに搭載されているハンドグレネードを投擲して見せた。
物理的な爆発はPS装甲にダメージを与える事は出来ないが、ダメージを与える事は出来ずとも機体のエネルギーを減らす事は出来る……ビーム兵器でPS装甲を突破されるのも脅威だが、PS装甲の物理攻撃無効能力で機体エネルギーが削られて行くのもまたパイロットにとっては嫌なモノなのだ。
加えてカタナとロランだけでも厄介な相手であるのに、遠距離からはルナマリアのガナーザクウォーリアがガナーウィザードのメイン武装である『オルトロス超射程ビーム砲(以降オルトロスと表記)』から高出力のビームを放ってくるのだから堪ったモノではない。
オルトロスの超射程高威力ビームはモビルスーツのビームと言うよりも戦艦のビームに匹敵するので、凡そモビルスーツに搭載されたシールドでは防ぎ切れず、シールド諸共腕が吹き飛ばされてしまうのだから。
カタナによってシールドを破壊されているカオスとアビスは此のビーム砲をも回避しなくてはならないのだから相当に厳しいだろう。


モビルスーツの戦闘ではイチカ達の方が優勢な一方で、ミネルバは窮地に陥っていた。
イチカ達が交戦を開始した直後、ミネルバはデブリ帯に潜んでいたガーティ・ルーに背後から攻撃されてデブリ帯へと押し込まれ、浮遊する岩石によって身動きが取れなくなり、更には攻撃も出来ない状況になってしまったのだ。


「だ、ダメです!艦体が完全にデブリに食い込んで動けません……!」

「やられたわね……完全に誘い込まれた上で動きを封じられた……此のままでは本艦は……」


ネオの巧さによってデブリ帯の岩石に艦体の一部を埋める形になってしまったミネルバは此のままでは只の的になってしまうだろう。


「……デブリに砲撃を!」

「え?」

「だから、デブリに砲撃を行うんです。
 至近距離での砲撃による爆圧を利用して艦体をデブリから引き剥がすんですよ。艦体へのダメージはありますが、四の五の言ってられる状況じゃない!」


そんな中で声を上げたのはアレックスだった。
艦体が喰い込んだデブリに至近距離での砲撃を行い、其れによって発生する爆圧を利用して強引に艦体をデブリから引き剥がすと言う力技であり、一歩間違えばミネルバ其の物が壊れかねない方法なのだが、此の状況を打開するには他に方法は無いだろう。


「うむ……確かに其れが現実的かもしれん。
 グラディス艦長、彼の言うようにデブリに砲撃を行ってくれたまえ――全ての責任は私が取る。」

「……了解しました。
 左舷、トリスタン、イゾルデ展開……撃てぇ!!」


更にアレックスの提案をデュランダルが後押しした事でデブリへの攻撃が行われ、其の結果としてミネルバは艦体に少しダメージを受けながらも動く事が出来るようになり、ガーティ・ルーを補足するとビームとミサイルを放って反撃を行った。
デブリ帯での戦闘は機動力がモノを言うのだが、ミネルバはビームとミサイルに加えレール砲も放ってデブリを破壊しながら攻撃を放っているので機動力など関係なく苛烈な攻撃を飛ばしているのだ。


「あの状況を脱するとは……やるじゃないか!」


絶体絶命の状況から復活したミネルバにネオは驚く事になった。
そうしてデブリ諸共破壊して放たれた攻撃はガーティ・ルーにもダメージを与える事に成功してた――と同時に、ガーティ・ルーから信号弾が発射され、イチカ達と交戦中だったカオス、ガイア、アビスに帰還するように伝えていた。

其れを確認したカオス、ガイア、アビスは即座に戦闘行為を停止してガーティ・ルーへの帰還を始めた。


「逃げる気か?……逃がすかよ!!」

「……いや、此処は此れまでだシン……深追いは禁物だ。ミネルバもダメージを受けちまったから余計にな――俺達もミネルバに戻るぞ……此れで終わったとは思えねぇから、機体を整備しとかねぇとだからな。
 あと、腹減ったから飯にしてぇしな。」

「イチカさん……了解です。」


本来ならば此処で追撃を行うべきであるのかも知れないが、母艦であるミネルバも無視出来ないダメージを負ってしまい、インパルスとザクも機体エネルギーが減少していたので一度ミネルバに戻って体勢を立て直す事になったのだった。


「アイツ等、長い付き合いになりそうだな……」


ミネルバに帰還する中、イチカは誰にでも言う訳でなくそんな事を口にしていた。
そうしてインパルスと四機のザクはミネルバに帰還し、腹ごしらえとなったのだが、ミネルバの食堂のキッチンにイチカが突撃して料理を始め、あっと言う間に『スタミナ豚キムチ炒飯』、『スタミナエビチリ餃子』、『スタミナ海鮮スープ』のセットメニューが完成していた。
次の戦闘に備えてスタミナを重視した此のセットメニューには全ての料理にスタミナの源食材であるニンニクがふんだんに使われているのだが、何れのメニューでもフライド粉末ガーリックを使用しているので匂いを気にする必要はないモノだった。

此のスタミナ300%のセットメニューでミネルバのクルーのスタミナは全回復したのだが、スタミナが全回復したと言うのは、同時に精力も増強された事に繋がる訳で……


「シン……良いわよね?答えは聞かないけど……!」

「ルナ、目が怖い。ってか目がマジ……」


シンとルナマリアは暫し恋人の時間を過ごす事になったのであった。
そして同じ頃、艦長と議長も実はお楽しみ中であった事を追記しておく。








――――――








ミネルバとガーティー・ルゥの戦いが壮絶な痛み分けに終わった頃、先の大戦が激化した要因である、連合の核攻撃で滅びたプラントのコロニー『ユニウスセブン』に蠢く影があった。


「この巨大な墓標を地球に落として焼いて初めて、血のバレンタインで犠牲になった者達は浮かばれる……此れだけの質量が落下すれば地球もタダでは済まぬだろうからな。
 貴様等が核の炎で残酷に殺した者達の恨み、其の身で知るが良い。」


その影の正体は先の大戦でザフトの主力モビルスーツとして使用されていた『ジン』だった。
ザクが開発された事でお役御免となりほぼ全てが解体されてザクのパーツとなったジンだが、戦闘で破損したジンは其のまま廃棄されておりレジスタンスやテロリストの中には廃棄されたジンをレストアして使用している組織も存在していたのである。
ザクと比べれば大きく其の性能は劣るのだが、ジンも実弾兵器になるとは言えライフルと実体刀を装備しており基本性能も低くはないので旧式であってもソコソコ戦う事は出来るのだ。

十機ほどのジンはユニウスセブンになにか巨大な装置を取り付けているようだった。


「スペースコロニーを地球に落とす……果たして巧く行くか……」

「丸々落とす事は出来んだろうな……恐らくは可能な限り砕かれてしまうだろうが、其れでも破片が降り注いだ地域は大ダメージを受ける事は間違いない。
 更にその後に連合にジンがユニウスセブンで何らかの作業を行っている写真を送ってやれば連中は一気に開戦に舵を切るだろうさ……そうなればイチカもキラも戦場に姿を現す……奴等を戦場に引っ張り出す事が目的だからな。」


作業を続けるジンから少し離れた場所ではマドカと、二年前にマドカに攫われたレイの姿があった。
此の二年間で何があったのかは分からないが、レイの瞳からは光が失われ、代わりに絶望と憎悪の闇が宿っていたのだった――そして、マドカとレイの直ぐ傍には破損個所を修復したテスタメントと、プロヴィデンスに酷似したモビルスーツが佇んでいた。


そして、ジンが全ての作業を終えると、ユニウスセブンはゆっくりと地球に向かって行くのであった……!














 To Be Continued