ジェネシスから放たれたガンマ線レーザーは連合の前線艦隊を壊滅させた――プラントが、パトリックが此の状況で持ち出して来た超兵器は正に切り札と言うべきモノだったが、其れは連合の核ミサイルと同レベルの、或いは其れ以上の大量殺戮兵器でもあった。
更にジェネシスのガンマ線レーザーは地球に向けて放つ事も可能だった――もしもそれが地球に向けて放たれたら、地球上の生物の九割が死滅すると言う最悪極まりない兵器なのだが。


「アスラン、お前の親父さん可成りヤバ気な超兵器持ち出して来たんじゃねぇの?……ある意味で核ミサイル以上の最終兵器だろあれ……」

『あぁ、アレは流石に危険過ぎるな……アレは核ミサイル以上の最悪の兵器だ――!』


唯一幸いだったのは、ジェネシスは発射後に大規模なパーツの交換とエネルギーの再充填に時間が掛かる事で連発する事は出来ず、連合もピースメーカー隊が三隻同盟によって壊滅させられ、更にジェネシスによって前線艦隊が壊滅した事で一時的な撤退を余儀なくされていた。
同時にプラント側もジェネシスの再発射には時間が掛かる事と、連合が一時的に撤退した事でザフトの防衛部隊を最終防衛ラインまで下がらせた上で待機を命じ、三隻同盟もモビルスーツを収容して一時宙域から離脱を始めていたのだが、連合の核攻撃とプラントのジェネシスと言う二つの最終兵器が登場した事で戦場が一時的に混乱したのは事実であり、その混乱に乗じてイザークはザフトの部隊から離脱し、カンザシも自身が搭乗していた戦艦から救命ポッドに乗って脱出し、其の救命ポッドをイザークが回収してザフトに悟られる前にアークエンジェルに向かい、通信を入れた上で着艦許可を得て、イザークとカンザシは三隻同盟に合流したのだった。
因みに宙域離脱後、アークエンジェル、エターナル、クサナギの三隻はドッキング状態となって自由に艦内を移動する事が可能になっていた。


「カンザシちゃん、久しぶりね~~!ごめんね心配かけて!」

「うん、本当に久しぶりだねお姉ちゃん……だけど実を言うとそんなに心配はしてなかったかな……こう言ったらアレだけど、お姉ちゃんは殺しても死なないような人だから撃墜されても絶対無事だと思ってたし、アークエンジェルにはお姉ちゃんが執着してたビャクシキのパイロットも居るから大丈夫なんじゃないかと思ってたから。
 寧ろお姉ちゃんが連合の捕虜になってアークエンジェルに居るならビャクシキのパイロットの方が少し心配だった……ビャクシキのパイロットに何もしてないよね?」

「其れなんだけどねぇ……ビャクシキのパイロット、イチカと言うのだけど、お姉ちゃん彼とカレカノの関係になったから宜しくねカンザシちゃん♪……私と彼は運命で結ばれていたみたいだわ。」

「……なんでそうなったのか気になるけど、後で紹介して。」

「勿論よ♪」



「イザーク、覚悟は決めたみたいだな?」

「甘っちょろい戯言と両断する事も出来たが、先の戦闘でお前達の覚悟と本気を見せられてしまってはな……俺とて平和的な終戦が可能であるのならば其れに越した事はないと思っているのだ。
 だから俺も理想を現実にするのに一役買わせて貰う!連合の核もそうだが、プラントのあの超兵器も捨て置く事は出来んしな!」

「そう来なくちゃな。」


アークエンジェル内ではカタナとカンザシ、ディアッカとイザークが再会し、イザークは先の戦闘で三隻同盟の覚悟と本気を知って三隻同盟に参加する事を決めたと言っていた――と同時に、三隻同盟には戦死したニコルを除く嘗てのクルーゼ隊のメンバーが集結すると言う事になったのだ。
モビルスーツパイロットのイザークは当然として、オペレーターとしてカンザシが加わったのも此れは大きいだろう――カンザシはモビルスーツパイロットとしての適性がなかったためにオペレーター配属となり通常の軍服だったのだが、モビルスーツの操縦技術以外は全てが赤服レベルのエリートオペレーターなのだから。


「デュエルのアサルトシュラウドに搭載されてるレールガン『シヴァ』……手持ちにも出来るみたいだし、取り回しはこっちの方がゲイボルグよりも遥かに良いよな?
 マードックの旦那、ゲイボルグをあのサイズに切り詰める事って出来ねぇ?」

「出来ないと言ったら技術者の名が泣くぜイチカ。
 同サイズに切り詰めるのは難しいが、可能な限りの小型化をやってみるぜ……見本があればゼロからやるよりは幾らか楽だしな。」


加えてイザークの搭乗機であるデュエルからはザフトで追加された『アサルトシュラウド』の武装を元に新たなモビルスーツ用の武装が開発、或いは既存の武装の改造が行われ、ゲイボルグは大幅な小型化が図られて此れまでのバズーカ型からロングバレルのライフル型へと形を変え、更にビャクシキ本体へのマウント機構も備えたビャクシキ専用武装として生まれ変わったのだった。

ともあれ此の一時的な休戦の間に三隻同盟は次にどう動くかを決めるのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE47
『怒りの日~Der Beginn der letzten Schlacht~』










連合のプラントへの核攻撃と、其れに対するプラントのジェネシスによる報復攻撃は双方に甚大な被害を出したのだが、此のまま戦闘が継続すれば再び核とジェネシスが放たれるのは間違いないだろう。
最終兵器の撃ち合いはナチュラルもコーディネーターも関係なく人類其の物を滅亡させかねないモノなので双方の阻止は必至と言えるだろう。


「連合の核攻撃はフリーダムとジャスティスがミーティアを装備して出れば対処できるから兎も角として、ジェネシスに関してはジェネシス其の物をぶっ壊さないとだぜ……アレは、核ミサイルよりもヤバいからな。」

「イチカの言う通りだな……仮に宇宙空間から地球に向けて核ミサイルを放っても、核ミサイルは大気圏で爆発してしまうから其の力を発揮出来ないが、ガンマ線レーザーは大気圏で減衰する事なく、其の破壊力がダイレクトに地球に及ぶからな。
 アレは完全に破壊して後世に残らないようにしないとだ。」


そんな中で真っ先に破壊目標となったはプラントのジェネシスだった。
連合の核ミサイルも脅威なのだが、核ミサイルならば迎撃可能な上誘爆による破壊も可能なのだが、ガンマ線レーザーは防御も反射も軽減も誘爆も出来ないので最優先で破壊する必要があったのである。

其れに関しては異論はなかったので、三隻同盟は『連合の核攻撃に注意しつつも、ジェネシスの破壊を最優先に行う』と言う方向で動く事となったのだった。
しかし、ジェネシスは其の巨大さゆえに仮にフリーダムとジャスティスがミーティアを装備して攻撃したとしても外部からの破壊は略不可能なので、ジェネシス内部に侵入して核エンジンを爆発させ、内部からの破壊を行う必要があるだろう。


「要塞への内部侵入か……ニコルが生きていればブリッツを使って容易に出来た事だがないもの強請りをしても仕方あるまい。
 幸いにして元クルーゼ隊のメンバーは此方に来ているから現在のザフトのモビルスーツはPS装甲を搭載している機体は存在しない上に、ビーム兵器を搭載して居る機体も最新型量産機のゲイツ位のモノだからザフトの守備隊を突破するのは然程難しくない筈だ。」

「だけどそこには連合もやって来るから其方にも対処しないといけない。
 僕達はオーブのM1部隊を入れても数では圧倒的に劣るから戦力配分を考えないといけないよね……とは言っても混戦になるのは避けられないけど。」


数では圧倒的に劣る三隻連合だが、モビルスーツの性能で言えば最高クラスの機体が揃っているので連合とザフトの双方に対応するのは其処まで難しい事でもないだろう。
問題があるとすれば連合の新型三機だ。
此の三機は連合、プラント双方の量産機を遥かに上回る性能を有しているだけでなく、パイロットは精神的に問題を抱えたエクステンデットであり、三人とも戦闘と殺戮をゲーム感覚で行う狂人とも言うべき者達なのだ――故に連合の機体以外に対しては無差別で見境ない攻撃を行ってくる可能性も充分にあるので混戦となると相当に厄介なのだ。キラが混戦を避けられない事に少し渋った感じだったのは其れが理由だろう。


「ま、やる事は決まってんだから其れを成す為に全力を出すって事で。
 こんな状況じゃ事前の作戦通りに行く事の方が珍しいんだ……だったら目的を果たす為に必要な事をその場その場でやってくしかねぇだろ?臨機応変、無手勝流で行くのが上策ってな。」

「連合の核攻撃の阻止、プラントの超兵器の破壊、そして停戦。目標はこの三つ……そうよね、ラクス様?」

「えぇ、その通りです……此の場での停戦には至る事が出来ずとも、核攻撃の阻止と超兵器の破壊は必ず成し遂げなくてはなりません……其れが出来なくては人類其の物に未来がありません。」


だがしかし、やる事が決まっている以上は其れを成すだけであり、後は現場で其の都度対応するのがベターと言えるだろう。
細かい作戦を立てずとも、全員が同じ目標に向かって己の成すべき事を確実に遂行すれば結果としてその目標を達成する事が出来るのだ――三隻同盟には其れが出来るだけの力も揃っているのである。

更に此処でクサナギのメカニッククルーから『嬉しい誤算』と言うべき情報が入って来た――オーブ脱出前にクサナギに搬入されていた製造中のカガリ専用のモビルスーツが遂に完成したと言うのだ。
其のモビルスーツはイージスとの戦闘で大破したストライクを改修する際に得たデータからオーブが作り出した『オーブ製ストライク』の『ストライク・ルージュ』と言う機体だ。
基本的なスペックはストライクとほぼ同じなのだが、PS装甲の電圧がストライクよりも高く設定されている事でPS装甲がアクティブの状態では機体全体が赤を基調したカラーリングになる事が機体名の由来となっていた。

此の局面での新型は嬉しいモノであり、更にストライク系の機体ならばストライカーパックの換装でどんな戦局にも対応出来るので、ストライク系の機体は一機増えるだけで、事実上は其れ以上の価値があるのだ。


「時にイチカだったか?貴様、前にオーブで会った時には顔の傷はなかったと思うのだが……其の傷は如何したのだ?」

「オーブが連合に攻撃された時、流れ弾に巻き込まれそうになった女の子を助けたらスバっとな……だけど、俺の顔一つで一つの命を救う事が出来たってんなら安いモンだろ?
 その子を救った事で、その子の兄貴の闇落ちを阻止したとなれば余計にな。」

「名誉の負傷、と言う事か。」


簡単なモノではあったがブリーフィングは此れにて終了し、其の後は次の戦闘前に軽く食事を摂る事になったので、イチカが全力を出して『おにぎり三種(高菜明太、カレーミンチ、鮭フレーク)』、『鶏の唐揚げ』、『八種の具材の豚汁』を作ってメンバーの胃袋を満たし、イザークとカンザシはイチカの料理の腕前に驚く事になったのだった。








――――――








食事後、出撃まで夫々思い思いに過ごす事になり、キラはフレイとラクスと、アスランはカガリと共に過ごし、アスランとカガリは改めてお互いに思いを告げて唇を重ねていた。
そしてイチカとカタナもアークエンジェルの一室で共に過ごしていた。


「私達のやる事は決まっているけど……此の世界にも居るのよね、マドカちゃんは?」

「あぁ、居る。
 だけどあいつは俺やお前と違って記憶持ちじゃない……あの世界と同様――いや、其れ以上に俺に憎悪を募らせていやがるから、コロニーメンデルの一件で終わるとは思えねぇ。
 ほぼ間違いなく仮面の隊長さんと、此の最終決戦の地に姿を現すんじゃねぇかな?」

「世界が変わっても彼女が生まれた理由は其処まで変わらないと言う事ね……私の記憶では彼女は貴方に負けた後は一転して凄まじいブラコンになっていたのだけどね?」

「其れは俺の記憶でもだが、此の世界のあいつには其の機会がなかった……愛と憎しみは表裏一体だからな……此の世界のマドカは俺に対する憎悪が兄妹愛に転じる事無く、憎悪のまま膨れ上がっちまったんだろう。
 だが、だからと言って人の未来を破壊する権利がアイツにあるかと言えば其れは否だ……だから、最終決戦の場にアイツが現れたら俺は容赦なくぶっ倒すぜ……其れが、兄としての俺の役割だろうしな。」


そんな中、イチカとカタナはマドカの存在が懸念事項ではあった。
マドカはイチカに対して深い憎悪の感情を持っており、コロニーメンデルでは撃退したモノの、生きていればまたやって来るのは間違いなく、クルーゼと共に連合もザフトも関係なく攻撃してくるのは目に見えていたからだ。


「マドカちゃんがブラコンの記憶を取り戻してくれると少し楽になるのかも知れないわね?」

「そうなったらそうなったで俺のメンタルがゴリゴリ削られるけどな。」

「……そう言えば彼女のブラコンぶりはスコールさんとオータムさんも引いてたわ。
 其れよりもイチカ、此れだけは約束して……何があっても絶対に死なないで。必ず生きて……貴方が私の目の前で死ぬ光景は、もう見たくないのよ。」

「其れは俺もだぜカタナ……お前も絶対に死ぬな。俺の記憶では、お前の方が俺の目の前で死んじまったからな――で、此の記憶の相違は如何言う事なんだろうな?」

「可能性としては二つね。
 私と貴方の前世は良く似た世界ではあったけど異なる世界線だった場合と、私と貴方は同じ世界を何度もループしている可能性ね……其れなら記憶に少し異なっているのも説明が付くわ、一応だけどね。」

「前世の記憶があるって時点で中々にアレなんだが、更には並行世界説にループ説とかSF此処に極まれりだな……それ言ったらISも相当にSFの産物だけどさ。」


だがマドカが出て来たならば倒すだけだとイチカは言い切った。
そしてイチカもカタナも互いに『死ぬな』と言っていた――イチカもカタナも過去の記憶では目の前で夫々が相手を喪っているので、互いにそう思うのは当然と言えるだろう。


「其れは其れとしてだ……俺は死なない、必ず生き延びてやるさ――生きて此の戦争を終わらせてやる。」

「そうね……私も絶対に死なないわ……終わらせましょう、憎しみしか生み出さない此の戦争を。」


イチカもカタナも『死なない事』を互いに約束すると何方ともなく唇を重ね、其の後はカタナがイチカに身体を預け、イチカはカタナをそっと抱きしめ、出撃前に暫し穏やかな時間が流れていた。








――――――








その頃、ヤキンドゥーエの基地ではクルーゼとマドカが出撃の準備を行っていた。
イチカのスペアとして生み出されたマドカはイチカに対して、ムウの父親のクローンとして生み出されたクルーゼは人類其の物に対して憎悪の感情を抱いており、其の憎悪を晴らすために戦場に出ようとしていたのだ。


「イチカ……此のテスタメントで貴様を殺す……必ずだ!!」

「さて、裁きの時だ。」


テスタメントにマドカ、プロヴィデンスにクルーゼが乗り込んで機体を起動すると、ツインアイに光が宿った後にPS装甲がアクティブ状態になってテスタメントは赤に、プロヴィデンスはグレーを基調としたカラーリングになる。


「マドカ・オリムラ。テスタメント、発進する!」

「ラウ・ル・クルーゼ。プロヴィデンス、出るぞ。」


そして二つの悪意は核の力を得た最強クラスのモビルスーツと共に戦場に放たれた――放たれてしまったのだった。








――――――








最終決戦の火蓋は切って落とされ、連合は再びピースメーカー隊を編成してプラントに殺到し、三隻連合は核攻撃を阻止せんとしてフリーダムとジャスティスがミーティアを装備して出撃し、ビャクシキ、グラディエーター、ストライク、バスター、デュエルも出撃しただけでなく、クサナギからはM1部隊が全機出撃すると言う正に全戦力を投入していた。
そして其れに加えてカガリもストライクルージュで出撃していた。

因みにストライクルージュはエールストライカーを装備しての出撃だったのだが、此れはカガリのモビルスーツの操縦技術が未知数だった事が大きい。
モビルアーマーでは其れなりの戦果を挙げたカガリだったが、モビルスーツの操縦技術に関しては未知数な上にぶっつけ本番の出撃だったので、特化装備よりも汎用装備での出撃と相成った訳だ――尚、ストライクルージュの開発と並行して、『パーフェクトストライカー』をベースにしたストライクルージュ専用のストライカーパックである『オオトリ』も開発されていたのだが開発が間に合わなかった。
代わりにI・W・S・P(統合兵装ストライカーパック)がクサナギに搬入されており、カガリも『強そう』との理由でI・W・S・Pを希望していたのだが、I・W・S・Pはパーフェクトストライカー以上に装備が複雑な上、左腕に固定装備されるガトリング搭載コンバインシールドの重量が大きく、重心が左に傾いてしまうのでモビルスーツパイロットとしてはルーキーのカガリでは扱い切れないのでキサカがやんわりと其れを諭したのだった。


「落ちろよ、この!!」

「誰が落ちるかよボケ!!」


ヤキンドゥーエ宙域での再度の戦闘は三隻同盟、ザフト、連合が入り乱れた混戦となっており、連合は新型三機が三隻同盟とザフトに対して攻撃を行っていたのだが、ビャクシキは自身に放たれたカラミティの胸部ビーム砲『スキュラ』を躱すと距離を詰めてスキュラに雪片を突き立てて破壊し、更にドラグーンでの超多角的攻撃でカラミティの武装と四肢を破壊して戦闘不能にしてしまった。


「此れでお終いよ……安らかに眠りなさいな。」


其のカラミティのコックピットにグラディエーターがミステリアスレイディを突き立ててトドメを刺し、カラミティは爆破炎上して戦場に散ったのだった。
同時にキラ達もプラントへの核攻撃を阻止する為に奮闘していたのだが、其れが逆にプラントにとっては好ましい事であり、其の間にジェネシスは部品の交換を終え、更にエネルギーの充填も完了してしまったのだ。


「目標は連合の月面基地……撃て!」


そして再起動したジェネシスから、連合の月面基地に向かって滅びの光の第二射が放たれてしまったのだった――














 To Be Continued