連合の月面基地に向かって放たれたジェネシスによって、連合の月面基地は壊滅し、連合は宇宙での一大拠点を失う事になったのだが、其れに対する報復措置として、壊滅した艦隊を再編成しピースメーカー隊を再度出撃させて来た……ヤキンドゥーエではなく、核でプラント本国への直接攻撃を狙ったのだ。


「連合は核爆弾、ザフトはガンマ線レーザー……互いに最終兵器を投入して、ともすれば人類其の物を滅ぼしかねない状況になっちまった訳だが、其れでもまだ戦うってのかよどっちとも……もういい加減にしろよマジで!!」

「此れ以上の戦闘は誰の得にもならないのだけど、そう言ったところできっと聞かないわよね……連合の月面基地の次は、地球を直接攻撃する心算なのかしらザラ議長は……!」


ジェネシスは連射が出来ないので、次の発射までには時間があるとは言え、第三射は恐らく地球に向けて放たれる事になるだろう――如何に戦争中であろうとも其れは越えてはイケない一線なのだが、ナチュラルを根絶やしにしコーディネーターだけの世界を誕生させようと本気で考えているパトリックならば躊躇する事なく其れを行う事は想像に難くないのだから。


「核とジェネシス……クソ、幾らなんでも難易度が高すぎるぞ此れは!先ずは何方か一方を完全に沈黙させねば次の一手を打ちようがないではないか!」

『なんだよイザーク、ギブアップか?』

「違うわ馬鹿者ぉ!」


核とジェネシス、其の間で奮闘する三隻同盟だが状況はあまり良いとは言えなかった。
イチカとカタナの連携でカラミティを撃墜する事は出来たモノの、フォビドゥンとレイダーは未だ健在である上に、核ミサイルを搭載したメビウスだけでなくストライク、デュエル、バスターのダガーも多数出撃して来ており、ジェネシスと核の両方を一度に無効化するのは非常に難しかったのだ。
そんな中でピースメーカー隊はプラント本国に向かって核ミサイルを放ったのだが――



――バガァァァァァァァァァァァァァン!!



ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスがミーティアフルバーストを放ってピースメーカー隊が放った核ミサイルを全て撃ち落とし、核ミサイルを放ったメビウスはイチカ、カタナ、ムウ、ディアッカ、イザーク、カガリとM1部隊が各個撃破しピースメーカー隊は全滅した。


「アスラン、君は要塞に!
 此処は僕達が喰い止めるから、君は行って!」

「キラ……分かった、此処は任せるぞ!」


更に此処でキラはアスランにジェネシスに向かうように言い、アスランも此の場の戦闘をキラ達に任せると、ジャスティスからミーティアをパージしてジェネシスに向かって行った。
此の状況でジェネシスに単騎駆けを行うのは自殺行為にも等しいのだが、ジャスティスならば其れが可能であり、アスランのモビルスーツの操縦技術をもってすればジェネシスの護衛のモビルスーツ群も蹴散らすのは容易いだろう――キラもアスランを信頼して任せたのだ。



――キュピーン!!



「此れは……マドカか!」

「この感覚は……クルーゼか!!」


混戦状態の中、イチカはマドカの、ムウはクルーゼの存在を感じ取ったのだが、其れと同時に戦場には新たに二機のモビルスーツが参戦していた。
一機はグレーを基調としたカラーリングの重装甲の機体で、円盤型のバックパックと其れに搭載されたドラグーンが特徴的な機体で、もう一機は赤を基調としたカラーリングで、右腕にブリッツのトリケロスに酷似した武装を搭載した機体だった。
グレーの機体はクルーゼの専用機であるプロヴィデンス。
赤い機体はマドカの専用機であるテスタメント。
人類と世界に最大級の憎悪を持つ二体のクローン人間が、最終決戦の地に現れてしまったのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE48
『終末の光~Light of The End~』










プロヴィデンスとテスタメントの参戦は混戦状態の戦場を更に混乱させるモノとなった。
プロヴィデンスもテスタメントもザフトの機体なのだが、其のパイロットであるクルーゼとマドカは連合もザフトも三隻連合も関係なく無差別攻撃を行ったのだ。
テスタメントは基本が近距離型なのだが、核エンジン搭載機の圧倒的な性能によって連合のダガーもザフトのジンも三隻同盟のM1も次々と撃墜し、プロヴィデンスは円盤型のバックパックと本体の腰アーマーに搭載されたドラグーンを展開した多角的攻撃で無差別攻撃を行っていた。

此の無差別攻撃によって連合、ザフト、三隻同盟ともに甚大な被害を被る事となり、特に絶対数が少ない三隻同盟はM1部隊のほぼ全員が撃破され戦死してしまったのだった。


「あ、ああ……そんな……認められるか、こんな事がぁぁぁ!!」



―パリィィィィィィン!!



だが、M1部隊が戦死する様を見たカガリのSEEDが覚醒した――此れまでSEEDが覚醒したのはイチカとカタナとキラとアスランと全てコーディネーターだったのだが、カガリはナチュラル初のSEED覚醒者となったのだった。


「イチカァァ……此処で死ね!!」

「誰が死ぬか馬鹿野郎……其れと、軽々しく死ねとか言うモンじゃないぜ!」


SEEDが覚醒したカガリは其れまでよりも反応速度が速くなり連合のダガーを撃墜していたのだが、そんな中でマドカのテスタメントがイチカのビャクシキを攻撃して来た。
だがイチカはビャクシキを見事に操縦してテスタメントの攻撃を完全に防御した。


「初めて見る機体……最新型って訳か。
 となると機体性能はそっちの方が上って事になるんだろうが、機体の性能差で俺を上回れると思ったんなら其れは大きな間違いだったなマドカ?……モビルスーツの戦闘で重要になるのは機体の性能じゃなくてパイロットの腕なんだよ。
 そんでもってモビルスーツの操縦に関しちゃ俺の方に一日の長があるってモンだからな、今のお前じゃ俺に勝つ事は出来ねぇよ、絶対にな。」

「ほざくな!!」


バッテリー駆動のビャクシキと核エンジン搭載型のテスタメントでは基本的な性能に大きな差があるのだが、ビャクシキはドラグーンの多角的攻撃を行ってテスタメントを圧倒していた。
マドカのモビルスーツの操縦技術そのものは高レベルなのだが、イチカのモビルスーツ操縦技術は高レベルを超えたハイレベルであるだけでなく、イチカは前世の記憶をほぼ取り戻しており、マドカの戦闘パターンも分かり切っていたので圧倒出来たと言う訳だ。


「此の出力、核エンジン搭載型か……だがな、近接戦闘で俺に勝とうなんざ百年早いんだよマドカぁ!!」


――キュィィィン……バシュゥゥゥ!!


テスタメントのメイン武装はブリッツのトリケロスをザフトが独自に改造、再開発した『トリケロス改』なのだが、オリジナルのトリケロスとは異なり右腕と完全に一体型となっており先端には鋭いクローが搭載されていて、其れにより右腕が長く見える独特のシルエットとなっており、其のクローには掌底部にビーム砲が内蔵され、手の甲には出し入れ可能な実体剣が搭載されているので高い近接戦闘力を備えているのだが、近接戦闘の技術ならばイチカに一日の長があったようだ。
イチカはSEEDを発動すると雪片の双刃モードと二刀流モードを巧みに使い分けてマドカを近接戦闘で圧倒する。


「く……近接戦闘では分が悪いか……!」


其れにより、近接戦闘では分が悪いと判断したマドカは仕切り直そうとしてビャクシキから距離を開けた――近接戦闘で分が悪いと考えて一度間合いを離すのは悪くない手だが、其れはあくまでも一対一の戦いであればの話だ。


「はいは~い、此処から先は通行止めよ!」


――キュイィィィン……パリィィィィン!!


其処にカタナがSEEDを発動させて割り込んで来たのだ。
今回グラディエーターはビャクシキの基本パックである『オオタカ』を装備して出撃しているのだが、オオタカはミスティストライカーよりも搭載されている火器が多く、ビャクシキ同様に近接型のグラディエーターの相性も良かったのである。
更にグラディエーターは近接戦闘型でもビームサーベルがメイン武装のビャクシキとは異なり、大型の実体ブレード『ミステリアスレイディ』であり、PS装甲をも切断出来る高周波振動ブレードによる豪快な斬撃が特徴な上、カタナは其の大型武器の二刀流を軽々とやってのけるほどの操縦技術を有しており、モビルスーツパイロットとしてはルーキーもルーキーであるマドカに、突如現れたカタナに即対応する事は難しかった。


「なんだ貴様は……私とイチカの戦いに割り込むな、此のドブネズミがぁ!!」


だが此処でテスタメントが一瞬発光したかと思うと、次の瞬間にグラディエーターが突如動きを止めてPS装甲もディアクティブ状態となってしまった。
其れは間違いなくテスタメントが原因なのだが、此れこそがテスタメントに内蔵された恐るべき機能である『敵機にコンピューターウィルスを送り込む』と言うモノだ。
コンピューターウィルスは、本来はオンラインで繋がっている相手に送り込むか、或いはウィルスメールを送って其れを開かせる事で感染させるモノなのであるが、テスタメントはロックオンした敵機に対してビームの代わりにコンピューターウィルスを直接流し込む事が可能だったのだ――流石に複数体に同時にウィルスを送る事は出来ないが、其れでも敵機を強制的に戦闘不能にしてしまう此の機能は脅威だろう。
目に見えないコンピューターウィルスは防御も回避も不可能なのだから。


「ウィルスによるシステムダウン……あらゆる可能性は排除すべきではないか……備えあれば患いなしね♪」

「な、なにぃ!?ウィルスが効いてないだと!?」


だが、PS装甲がディアクティブ状態になったのも束の間の事であり、グラディエーターは直ぐにシステムが再起動してPS装甲もアクティブ状態になっていた。
此れにはマドカも驚かされたが、実は三隻同盟のモビルスーツ全機に、万が一の事を考えてキラが開発した『アンチウィルスプログラム』がインストールされていたのである。
此のアンチウィルスプログラムは機体が何らかのコンピューターウィルスに感染した際に自動的に起動し、其のウィルスを駆除した上で機体システムを再起動させ、更にワクチンプログラムも起動して同タイプのコンピューターウィルスには感染しないと言う素晴らしいモノだった……普通に考えればそう簡単に構築出来るプログラムではないのだが、モビルスーツを操縦しながらOSを書き換えてしまうキラにとって此の程度の事は朝飯前であり、プログラムの基礎が出来てしまえば後は其れを必要な数コピーすればOKなので全然余裕だったのだ。

しかしこれはマドカにしてみれば最悪だった。
切り札であるウィルス攻撃、其れが通用しないのだから。
長期戦に持ち込む事が出来れば核エンジン搭載型のテスタメントに分があるが、ビャクシキとグラディエーターの二機を相手に長期戦に持ち込むのは難しいだろう。

事実ビャクシキとグラディエーターの見事な連携によってテスタメントは右足と左腕を斬り落とされ、コックピット付近にもダメージを受けてしまったのだから。


「クソ……流石はオリジナルと言ったところか……此の場は一旦退く……だが、此れでは終わらん……今よりももっと強くなって必ずお前を、お前達を殺すからな……其の時を待って居ろ……!」


コックピットの破損により、マドカのパイロットスーツのヘルメットも破損し、ヘルメットの欠片が左目に突き刺さり、マドカは左目から血を流しながらも最後の力を振り絞ってトリケロス改に仕込んであったスモーク弾と発射すると更にチャフを散布して己の存在をレーダーから消した上で戦場から離脱したのだった。


「……一先ず退ける事が出来たが、倒せなかったのは拙かったな……」

「マドカちゃん、生きている限りまた現れるでしょうね。」


マドカを討ち取る事は出来なかったモノの、ザフトの正規兵ではないマドカはクルーゼと一緒でなければザフトに戻る事も出来ないので、恐らくは何処かの廃棄コロニーに向かったのだろう……少なくとも此の戦場に再び戻ってくる事はないだろう。








――――――








ジャスティスがジェネシスに向かう中、テスタメントを退けたビャクシキとグラディエーターはフォビドゥンと、バスターとデュエルはレイダーと対峙していた。
カラミティは既にイチカとカタナのコンビに撃破されているので、レイダーとフォビドゥンを撃破する事が出来れば連合の戦力はほぼ壊滅出来たと言って良いだろう――連合のダガーはモノの数ではないのだから。

そして其の戦闘も決着が付こうとしていた。


「曲げる事が出来るのはビームだけ……だったら実弾兵器は曲げられないよな!」

「ビームには無敵でも、実弾には意味ないわね!」


イチカとカタナはフォビドゥンのミラージュコロイドを利用したビーム偏向フィールドは実弾兵器には無力である事を見抜くとビャクシキはゲイボルグを、グラディエーターはオオタカのリニアランチャーを連射してTP装甲を連続発動させて機体エネルギーを激減させ、最後はグラディエーターがフォビドゥンの両腕を斬り落としたところにビャクシキがコックピットに雪片を突き刺してターンエンド……こうしてフォビドゥンは撃破された。

一方でレイダーは、デュエルとバスターの連携の前に苦戦を強いられていた。
機体性能ではレイダーの方が上なのだが、バスターとデュエルの連携は機体性能を容易く埋めていたのだ――機体重量が問題にならない宇宙空間においてはアサルトシュラウドを搭載したデュエルは高い機動力を発揮してレイダーに近接戦を仕掛け、バスターが豊富な遠距離攻撃で其れを援護していた。

其れでもレイダーはモビルアーマー形態に変形すると其の機動力をもってして距離を離し、距離が離れたところでモビルスーツ形態になり、デュエルに向かってミョルニルを放って来た。
スパイク付きの巨大な鉄球を喰らったら如何にPS装甲が搭載されているとは言えデュエルも無事では済まないだろう――だが無情にもミョルニルはデュエルに直撃して爆炎が上がった。


「イザーク!!」


まさかの事態にディアッカも声を上げるが、次の瞬間に爆炎の中からデュエルが現れた――但し、アサルトシュラウドを装備していない状態でだ。
ミョルニルを回避する事は出来ないと判断したイザークはミョルニルが直撃する直前にアサルトシュラウドをパージしてミョルニルの直撃に対する身代わりとし、其処からのカウンターを仕掛けて来たのだ。


「おぉぉぉぉ!!」


デュエルは右手のビームサーベルでミョルニルのチェーンを切断すると左手のビームサーベルをレイダーに突き立て、更に右手のビームサーベルをコックピットに突き刺す。
此の攻撃によってレイダーも爆破炎上して大破し、連合の最新鋭機三機は全て撃破されたのだった。


「アサルトシュラウドパージしたのかよ……やられちまったかと思ったぜ……だけど、其れだと残ってるのはビームライフルだけだろ?アークエンジェルに戻って補給して来いよイザーク。」

「あぁ、そうさせて貰う……少しばかり一人で任せるぞディアッカ!」

「任されたぜ!」


此処でデュエルは補給の為にアークエンジェルに戻ったのだが、連合の戦力が壊滅状態となった今、残るはザフトのジェネシスだけであり、其のジェネシスにはもうじきジャスティスが到着するところまで来ていた。
同時にキラはフリーダムのミーティアフルバーストで連合とザフトのモビルスーツを次々と戦闘不能にし、ザフトと連合の戦力は確実に磨り潰されて行った。








――――――








連合の戦力はほぼ壊滅状態になったのだが、そんな中でクルーゼのプロヴィデンスはザフトも連合も関係ない無差別攻撃を行っていた――ドラグーンによる多角的攻撃が可能だからこそなのだが、此の無差別攻撃によってクサナギのM1部隊はほぼ壊滅させれたのだった。


「クルーゼ、手当たり次第に……全ての人間を殺す心算かお前は!」

「ムウか……お前には理解出来ないだろうが、私は人の業より生まれし結果だ……人の望み、夢、未来……その果てに生まれた失敗作が私だ――だからこそ私には裁く権利がある……選ぶ権利がある!
 此の世界は裁かれ、そして作り直されなければならない……故に滅びるべきなのだ、古い人間は全て!」

「ふざけた事言ってんじゃねぇ!そんな事させるかよ!」


そんな無差別攻撃を行うクルーゼの前に現れたのはストライクを駆るムウだ。
ムウのストライクはマルチプルアサルトストライカーシステムを利用してエールストライカーとソードストライカーを一緒に装備し、『高機動中距離型』と『近接格闘型』の両方の特徴を備えておりミドルレンジ~クロスレンジでは無類の強さを発揮出来るようになっていた。
また、ストライクと言う機体其の物が高性能であり、ストライカーパック込みでの性能ならばカラミティ、フォビドゥン、レイダーをも凌駕しているのだ……が、今回は相手が悪過ぎた。
如何にストライクが高性能な機体であっても、核エンジン搭載の最新型と比べればその性能差は歴然である上に、クルーゼはヘリオポリスにてイチカとキラの二人を相手に互角の戦いをしたほどの実力者なのだ。
加えてプロヴィデンスにはクルーゼが搭乗する事が決まってからの急な仕様変更によって搭載されたドラグーンがあるのだが、此のドラグーンは特殊な空間認識能力と高い並行思考能力が必要になるとは言え、多角的で立体的な攻撃が可能であり、一対多は勿論だが、一対一の戦いでは更に其の力を発揮するのである。


「く……コイツはゼロと同じ……!!」

「貴様に討たれるならばとも思ったが、所詮子では親には勝てぬか!」


ムウも高い空間認識能力があるのだが、其れをもってしてもドラグーンの攻撃を全て回避する事は出来ず、ストライクは右腕と左足を失い、ムウは苦し紛れにシュベルトゲベールを抜くと其れをプロヴィデンスに投擲し、プロヴィデンスが其れを回避する隙に離脱してアークエンジェルに戻って行った。


「くそ……すぐに戻る!今度はゼロで出る!」


だが今度はムウはメビウス・ゼロで出撃すると告げていた――モビルアーマーではモビルスーツに対して不利なのだが、ガンバレル搭載のメビウス・ゼロならば或いはプロヴィデンスと遣り合う事も出来るかもしれない……だとしても可成り分は悪いだろうが。
普通ならアークエンジェルの艦長であるマリューも再出撃は認めないところだが、マリューはムウの通信に『了解』とだけ答え、クルーにメビウス・ゼロの出撃準備を命じていた――『不可能を可能にする男』、其れを自称するだけでなく、実際に其れを行って来たムウの力を信頼していたからこそだろう。








――――――








その頃、ドミニオンでは艦長であるナタルが全員退避を命じていた。
ピースメーカー隊が全滅しただけでなく、フォビドゥン、レイダー、カラミティの三機が討ち取られ、残ったダガーもフリーダムによって次々と戦闘不能なっている現状では此れ以上戦ったところで戦果は得られず無駄死にするだけだと判断したナタルはドミニオンのクルー達、ザフトから返還されたロランも含めて退避を命じたのだが、ザフトとの徹底抗戦を考えているアズラエルは其れを認めず、ナタルに命令を撤回させようと銃を向けたのだが――


「銃は脅しの道具ではない……抜いたのならば即撃たねば意味はないよ。」

「なに!?」

「そして此れを喰らっておくと良いさ。」


銃を持ったアズラエルの右手をロランが蹴って銃を弾き飛ばし、更に怯んだところに渾身のシャイニングウィザード(初期型)を叩き込んだ――初期型のシャイニングウィザードは相手の顔面の真正面から膝を叩き込むモノなので破壊力が凄まじいだけでなく、鼻骨折や失明と言った大怪我をさせる危険性のある技なのだが、此の状況では其れが功を奏してアズラエルは鼻の軟骨が粉々になり盛大に鼻血を噴出する事になった。


「バジル―ル艦長、貴女も私達と一緒に逃げるんだ……艦長ならば、最後の最後までクルーの命に責任を持て!ドミニオンと運命を共にするなどと言う事は、仮に神が許してもこの私が許さない、絶対に!
 生きろ!貴女は生きなくてはならない!!」

「ローランディフィルネィ……確かに、お前の言う通りだな。」


こうしてドミニオンのクルーは全員が脱出し、艦内にはアズラエルだけが残されたのだが……其のアズラエルは鼻を折られながらもドミニオンを操作し、主砲である陽電子砲『ローエングリン』を起動する。
地球上で使用した場合は周辺の環境に影響を及ぼしてしまうので簡単に使う事が出来ない陽電子砲だが、宇宙空間では其の限りではないので、正に戦艦の切り札と言えるだろう――アズラエルに周辺環境への配慮云々があるとは思えないが。
更に陽電子砲は核ミサイルのように爆風の拡散すらないが破壊力だけならば核ミサイルを上回り、射線上に存在しているモノは戦艦ですら一撃で木っ端微塵にしてしまうのだ……その陽電子砲の照準をアズラエルはプラントへ合わせると迷わずに発射した。
陽電子砲の極大ビームを喰らったらプラントは壊滅的な打撃を受けるだろうが、其の射線上にはアズラエルにとっては嬉しい誤算もあった……ドミニオンの陽電子砲『ローエングリン』の射線上にはアークエンジェルが存在していたのだ。
元々は連合の艦船であったアークエンジェルだが現在は連合から離れており、アズラエルからすればオーブ解放戦から今に至るまで自分達の邪魔をしてくれた憎き存在であるので、プラントに大打撃を与える序に排除する事が出来れば溜飲も下がるだろう。

ドミニオンから脱出したナタル達もローエングリンの発射を確認しており、ナタルとロランはアークエンジェルに回避するように願ったが、しかしローエングリンの攻撃範囲は通常の戦艦のビーム砲の数倍はある上にスピードも速く、更にアークエンジェル側からしたら完全に不意打ちであったため回避は不可能な状況であり、此れにはアークエンジェルの艦長であるマリューも死を覚悟したのだが――


「させるかよぉぉぉぉぉ!!!」


ローエングリンがアークエンジェルに直撃する瞬間、何かが間に割って入りローエングリンのアークエンジェルへの直撃を阻止した。
其れはムウが操るストライク――プロヴィデンスとの戦闘で右腕と左足を失ってアークエンジェルに帰還する最中にドミニオンからローエングリンが発射されたのを見て、自らを盾にする形でアークエンジェルを守ったのだ。


「へへ……やっぱり俺って、不可能を可能に……」


だが、ローエングリンの極大ビームをモビルスーツのシールドで防ぐ事は不可能であり、ストライクは見る見るうちに溶解し、そして遂には爆発四散した。
宇宙空間でのモビルスーツの爆散となればパイロットの生存は絶望的だ……ムウは文字通り其の身を盾にしてアークエンジェルを、マリューを守ったのだであった。


「ムウ…………ローエングリン起動!目標、敵アークエンジェル級戦艦!」


一方、目の前で恋人を失ったマリューは、しかし哀しみよりも怒りが勝り、普段は穏やかなその顔に鬼神が宿り、今の今まで一度も使用した事のなかったアークエンジェルの切り札を展開する。
ムウの敵を討つには、ムウが撃たれたのと同じモノでなくてはならない……そう考えてマリューはローエングリンを起動しドミニオンをロックする。


「撃てぇ!マリュー・ラミアス!!」


「ローエングリン……撃てぇ!!」


其れを見たナタルは脱出艇の中で叫び、それに呼応するようにマリューもローエングリンの発射を命じ、放たれたローエングリンは真っ直ぐにドミニオンに向かって行く。
アズラエルはドミニオンのローエングリンが防がれた事に驚きながら、しかしアークエンジェルから放たれたローエングリンから逃れる術はなかった。
たった一人でドミニオンを操縦するのは不可能であり、そもそもアズラエルは戦艦の操縦などできない……先のローエングリン発射は、武装の操作だけは頭に入れていたから出来たに過ぎないのだ。


「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁ!!そんな、そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


棒立ち状態となったドミニオンはアークエンジェルのローエングリンを喰らって爆発四散して宇宙の塵となり、戦争の元凶の一つであるブルーコスモスの盟主を葬り去ったのだった。


「ムウ……」


ただ一人、マリュー・ラミアスと言う女性の心に消える事のない深い傷を刻み込むのと引き換えに……



だが其れでもまだ戦争は終わる様子はない。
ドミニオンが討たれても連合の艦隊はまだ健在であり、ダガーも未だ存在しており、ザフト側もモビルスーツを出撃させ、更にジェネシスもエネルギーチャージとパーツの交換を行っており、其れが済めば三度ジェネシスは放たれるだろう。


「やっと着いたか……」

「行こう、アスラン!止めるんだ、お前の親父さんを!」


そんな中、アスランは途中でカガリと合流し、遂にジェネシスに到達し、内部に入り込む事に成功したのだった。












 To Be Continued