ロランがザフトから持ち帰ったデータによって連合は『ニュートンジャマーキャンセラー』の技術を手中に収め、其れを手にしたアズラエルはすぐさま地球の部隊に此のデータを送って『ニュートロンジャマーキャンセラー』を搭載した核ミサイルを量産させると、其れを搭載したモビルアーマー『メビウス』を積めるだけ積んだ軍艦をマスドライバーによって宇宙に上がらせ、ドミニオンと合流させていた。
「クルーゼ隊長は、あのデータがあれば戦争が終わると言っていたが、本当に戦争は終わるのだろうか?」
「戦場に乱入した上での捕虜の返還と言うリスクを冒してまで渡そうとしたデータなのだから何かしらの戦争を終結させる手段が記されているのだろうが、ザフトの隊長は此のデータをアークエンジェルではなく此方に渡すのが目的だったようにも思えるのだ。
先程の戦闘、我々の方が有利になる様にザフトの軍艦は動いていたように見えたからな……件のデータが我々に――否、ブルーコスモスに渡る事が目的であったとしたら、平和的な終戦の手段ではないのかも知れないが……果たしてどうなるのかは分からないか。
其れとロランツィーネ伍長、君の処遇だが……機があれば其の身柄をアークエンジェルに引き渡そうと思っている。君は元々アークエンジェルに保護を求めていたのだから。」
「其れは実にありがたいと同時に寛大な処遇に心から感謝してもし切れないなバジル―ル艦長……貴女のような人が、何故この船の艦長を務めているのか少し理解に苦しむけれどね。」
「……人として自分の心に従うよりも、軍人として上の命令に従う事を優先してしまった者の結果だ――堕天使を駆り大天使に挑む、無謀だな。」
ドミニオンのデッキではロランとナタルが少し話をしており、其の中でナタルは『機会があれば身柄をアークエンジェルに渡す』とロランに提案していた。
其れに対してロランは礼を述べると共に、ナタルが何故ドミニオンの艦長を務めているのかを疑問に思ったのだが、ナタルは詳しくは語らず自嘲的な笑みを浮かべるとロランから視線を外し、『この話は此処まで』と無言で伝えブリッジへと戻って行った。
「……貧乏くじを引かされる善人が居るのは此の世界でも同じようだね……マッタクもって神様と言うのは残酷極まりないが、私に前世の記憶を受け継がせてくれた事には感謝だね。
アラスカ基地でアークエンジェルから提出された戦闘データを見たけれど、イチカとカタナも此の世界に居る事が分かったのも嬉しい事さ……今度こそ、君達と最後まで歩みたいモノだね。」
デッキに残されたロランは其れだけ言うと割り当てられた個室に戻って行った――彼女もまた、前世の記憶を持っている様だ。
「バジル―ル艦長、地球からの部隊が合流した。ドミニオンを発進させたまえ。」
「了解しました……目標は変わらずアークエンジェルで?」
「いや、もうアークエンジェルは追わなくて良い……次の目標はプラントだ。先ずはプラントの絶対防衛ラインの一つであるボアズに向かう……此れで戦争を終わらせるのさ!」
「プラントに……了解しました。
ドミニオン発進!目標、プラントコロニーのボアズ!」
一方でブリッジに戻ったナタルはアズラエルよりプラントに向けての出撃を命じられ、プラント――ザフトの絶対防衛ラインの一つであるボアズへと出撃し、同時に核を搭載したメビウスを積んだ戦艦も其の後に続くのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE46
『悪夢再び~Der Albtraum kommt wieder~』
その頃、プラントも最終防衛ラインであるボアズとヤキンドゥーエにザフトの戦力を集中させていた――ヤキンドゥーエの部隊にはモビルスーツパイロットとしてイザークが、オペレーターとしてカンザシが参加していた。
連合の大攻勢を予測したかのような動きだが、此れもまたクルーゼが裏で動いていた事が大きい。
クルーゼが連合の少女兵を捕虜としていた事はザフト内及びプラント最高評議会でも知られていた事なのだが、クルーゼは其れを利用して『連合の捕虜から得た情報』として、『〇月×日前後に連合がプラントに対して大規模攻撃を行う』と言う事を伝えていたのだ――実際には其の日時はクルーゼが連合に『ニュートロンジャマーキャンセラー』のデータを渡した後の日時なので、其れすらもクルーゼが操作したモノなのだが。
そうしてクルーゼの思惑通りにボアズとヤキンドゥーエに防衛部隊を展開したザフトだったが、先ずはボアズ連合の部隊が現れた。
ドミニオンからはモビルスーツは出撃せず、随伴艦からダガーとメビウスが出撃した――其れだけならば防衛部隊で充分に対処出来たのだが、ダガーは兎も角としてメビウスに搭載されている兵器が問題だった。
「滅びろコーディネーター共……青き清浄なる世界の為に!」
メビウスに搭載されていたのは戦争を泥沼化させる原因となった核ミサイルであり、其れが一斉にボアズに向けて放たれ、次の瞬間に閃光が走ったかと思おうと、閃光が晴れた時にはボアズの要塞を壊滅させ、ボアズの防衛部隊は塵と化した……ユニウスセブンを壊滅させてから時は経ったとは言え、再び使用された核の炎はプラントの絶対防衛ラインの一つをいとも簡単に陥落させてしまったのだ。
「此れは核……あのデータは、核の力を使用可能にするモノだったのか……クルーゼ隊長の言っていた『戦争を終わらせる』と言うのは、大量虐殺を意味していたと言う訳だね……もしもあの時、冷静になってアークエンジェルだけに通信を入れていたらこうはならなかったのかも知れないな……己の愚かしさを呪いたくなるよ……」
核ミサイルによる圧倒的で一方的な虐殺を目にしたロランは自分が広域通信を行ってしまった事を悔いていたが、此ればかりはロランの責任とは言えないだろう――仮にあの時アークエンジェルにだけ通信を入れていたとしても、クルーゼはデータが連合に渡る様に戦局を操作したであろうから。
ともあれプラントの絶対防衛ラインの一つを壊滅させた連合は、続いて絶対防衛ラインであり最終防衛ラインであるヤキンドゥーエへと部隊を進めた――ヤキンドゥーエの要塞を落とせば、其れこそ戦争は連合の勝利で決着、或いは連合に圧倒的に有利な条件での停戦に持ち込む事が出来るのだから。
だがボアズが連合の核攻撃で壊滅した事を知ったプラントも残る戦力の全てをヤキンドゥーエに集中して徹底抗戦の構えを見せ、更に議長であるパトリックは『切り札』が眠るヤキンドゥーエの陰に隠した要塞へと移動していた。
――――――
同じ頃、三隻同盟にも動きがあった。
と言うのもイチカのスマートフォンにタバネからのメッセージが届き、其処には『ザフトの仮面隊長が連合にNジャマーキャンセラーのデータ渡しちまったぜ!』と記されていたのだ。
イチカは此のメール内容を仲間達に見せた結果、三隻同盟の総意見として『連合がNジャマーキャンセラーを手にしたら間違いなく核攻撃を行う』と言う事で一致しており、今度は逆にアークエンジェルがドミニオンのシグナルを追う事でヤキンドゥーエに向かっていた――二度の戦闘で、アークエンジェル側もドミニオンのシグナルを判別出来るようになっていたのだ。
「イチカ・オリムラ。ビャクシキ、行くぜ!」
「カタナ・サラシキ。グラディエーター、行くわよ!」
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!」
「ムウ・ラ・フラガ。ストライク、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン。バスター、行くぜ!」
アークエンジェルからビャクシキ、グラディエーター、ストライク、バスターが発進し、エターナルからはフリーダムとジャスティスが発進する。
ビャクシキは今回もウンリュウパックを装備し、グラディエーターはライトニングストライカーを、ストライクはエールストライカーを装備しての出撃だ――ストライカーパックの換装だけで如何なる戦局にも対応出来るストライクと其の派生機は正に万能機であると言えるだろう。
「よーし、ミーティアリフトオフ!」
其れだけでなく、エターナルからは主砲としても機能する『ミーティア』がパージされ、フリーダムとジャスティスと合体する。
ミーティアとドッキングしたフリーダムとジャスティスは小型の戦闘艇サイズになり、小回りが利かなくなる代わりに圧倒的な直進の加速力と火力を獲得し、攻撃範囲が十数mになるビームサーベルまで使用可能になるので総合的な戦闘力は大幅に上昇しているのだ。
更にミーティアとドッキングした場合に限り、ジャスティスもマルチロックオンが使用可能になり、複数の敵機を同時に攻撃する事が可能になるのだった。
「プラントも連合も、もう戻れないところまで来てしまっているのかもしれません……ですが、此のまま互いに憎しみをぶつけ合って戦い続けては、コーディネーター、ナチュラルの双方にとって取り返しの付かない事態になり兼ねません。
ボアズは間に合いませんでしたが、もう核を撃たせてはなりません……絶対に阻止しなくては……!」
エターナルから各艦、モビルスーツへのラクスの言葉に、アークエンジェルとクサナギのクルー、イチカやキラ達モビルスーツのパイロットは無言で頷き、ヤキンドゥーエへと向かって行ったのだった。
――――――
其のヤキンドゥーエでは既に大規模な戦闘が行われていた。
ヤキンドゥーエ付近までやって来たドミニオン艦隊に対し、ザフトは複数のモビルスーツ部隊で奇襲をかけて先手を取ろうとしたのだが、実はこれは罠で、ドミニオンからは既にフォビドゥン、レイダー、カラミティの三機が出撃してドミニオンの艦上に出ていた事と、他の艦隊から核ミサイルを搭載したメビウスが発進してヤキンドゥーエに向かっていた事でザフト側はドミニオンよりもメビウスを先に進ませないために戦う事になったのだ。
だが此処でフォビドゥン、レイダー、カラミティの三機がザフトのモビルスーツ部隊を足止めして核攻撃部隊『ペースメーカー隊』へと向かうのを妨害していた。
フリーダムとジャスティスには性能面で劣る此の三機だが、其れでもザフトの量産汎用機である『ジン』と比べればその性能は遥かに高いので、数ではジンの方が圧倒的に多くとも性能差で圧倒出来ていた。
「如何した、こっちはたった三機だぜザフトさんよ!」
「突破してみなよ……死神の鎌から逃げるのは難しいと思うけど。」
「ひゃ~っはっはっは~~!ぶっ潰れちまぇ、撃滅!!」
其れに加えてパイロットの精神の壊れ具合も此処ではプラスに働いていた。
形は違えどオルガ、シャニ、クロトの三人は非常に好戦的であり、非戦闘時は夫々が自分の趣味に没頭しているのだが、一度戦闘となれば其の好戦的な性格が表に出て、目の前の敵を破壊する事だけを目的にモビルスーツを操作する……其の狂戦士染みた戦い方は緊急事態に対応する兵士にとっては脅威となるだろう。
「此のぉ、いい加減に!!」
ザフトのモビルスーツ部隊にはイザークの姿もあり、イザークはデュエルのビームライフルを放った後、ビームライフルに搭載されているグレネードを射出し、右肩のレールガン『シヴァ』と放ち、更に左肩のミサイルポッドからミサイルを放ったのだが、レイダーは其れ等の攻撃をミョルニルを回転させる事で巨大なシールドと化す事で全て防いでしまったのだ。
ヤキンドゥーエの要塞からもモビルスーツが発進してペースメーカー隊に向かうが数が違い過ぎる……全てを迎撃するのは不可能だろう。
「やめろぉ!誰か、アイツ等を止めてくれ!プラントを撃たせるなぁ!!」
連合の新鋭機三機を突破出来ず、迎撃も絶望的と知ったイザークはコックピットで目に涙を浮かべ、プライドもなにも捨てて力の限り叫ぶ……が、其の願いも虚しく、ペースメーカー隊のメビウスはヤキンドゥーエの要塞に向かって核ミサイルを放ってしまった。
だが……
――ガシャン!
――ピン!ピン!ピン!ピン!ピン!
――ギュオォォォォォォ……バガァァァァァァァァン!!
ほぼ同じタイミングで三隻同盟がヤキンドゥーエの宙域に到着し、キラとアスランはマルチロックオンで核ミサイルをロックするとミーティアフルバーストを放って核ミサイルを攻撃し、攻撃された核ミサイルは爆発し、其の爆発が他のミサイルを誘爆し、其れが連鎖爆発となって核ミサイルは全てヤキンドゥーエに着弾する前に消滅したのだった。
「核ミサイルを搭載する為にガンバレルをオミットしたんだろうが、其れは逆に言うと核ミサイルが無くなったら戦う手段がないって事だよな?」
「ユニウスセブンを核攻撃した事が此の戦争を泥沼化させた原因だって言うのに、その核攻撃をまた行うだなんて、連合の皆さんは余程戦争がしたいのかしらね?……そんな蛮族は、地獄へエスコートして上げるわ。」
「メビウス……嘗ての俺の愛機なんだが、其れは核攻撃なんてモノを行う機体じゃないんだよ!」
「核攻撃とかふざけた事しやがって……此れでも喰らっとけクソッタレ!!」
其れだけでなくビャクシキ、グラディエーター、ストライク、バスターがペースメーカー隊のメビウスを全滅させた――元々モビルスーツとモビルアーマーの戦力比は1:5と言われていたのだが、核ミサイルを搭載する為にガンバレルをオミットしたメビウスは核ミサイルを放った後は攻撃手段が存在しないので、そうなれば只の的なのであっという間に三隻同盟の高性能モビルスーツに駆逐されてしまったのだ。
ともあれ三隻同盟の介入によって連合の核攻撃は防がれたのだが、ヤキンドゥーエ宙域には三隻同盟、ザフト、連合の三勢力が奇しくも出揃った状態となって最終決戦の様相を呈していた。
「今のは……フリーダムとジャスティス?其れにストライクにバスター、グラディエーターにビャクシキ……ディアッカ達がやってくれたのか!?
プラントでも連合でもない勢力からしたらプラントが核攻撃されても関係ない筈だが、其れなのにプラントを核の脅威から救う為にやって来たと、そう言う事なのか……プラントや連合と比べればその勢力は小さいにも拘らず本気で理想を実現する為に其の力を揮うか……成程、お前達が其方に行ったのも理解出来ると言うモノだ。
此れは……俺も覚悟を決める時が来たのかもしれん。」
プラントにとってはまさかの救援になった三隻同盟の乱入だったが、其れはイザークにとってコロニーメンデルでディアッカから聞いた話が理想だけを語った『絵に描いた餅』ではなく、『理想を現実にする剣』であると言う事を認識する事になり、機会をみて三隻同盟に参加する事を決めていた。
と同時に、パトリックにとって三隻同盟の参戦は予想外の事であり、核攻撃が防がれたのは僥倖だったのだが、其れを行ったのが強奪されたフリーダムと反逆の徒となったジャスティスを主力とした一団だったと言うのは皮肉な事であった。
だが其れ以上に、パトリックはプラントが再び核の脅威に晒された事に怒りを覚えていた――ユニウスセブンが核攻撃された事で妻を喪っているパトリックだからこそ其の怒りは凄まじかった。
「何処でNジャマーキャンセラーを手に入れたかは知らんが、今再び核を持ち出して来るとは野蛮なナチュラル共が……矢張りナチュラルを根絶やしにする以外に此の戦争を終わらせる術はない!
ジェネシスを起動しろ!」
「了解。ニュートロンジャマーキャンセラー起動。エネルギー充填率90%……ジェネシス発射可能まであと60秒。」
其の報復としてパトリックはヤキンドゥーエの陰に隠していた巨大レーザー兵器『ジェネシス』を起動させて其の姿を現した。
宇宙コロニー並みに巨大なレーザー兵器であるジェネシスは、その巨大さだけでも凄まじい威力である事がうかがえるのだが、ジェネシスから発射されるのは只のレーザーではなく『ガンマ線レーザー』なのである。
通常のレーザーには存在しない『放射線』を含んだ『ガンマ線レーザー』は真面に喰らったら高温と放射線によって身体が膨れた末に爆発して死亡確定であり、直撃しなくともガンマ線が帯びている放射線によって長く健康被害を受ける事になる、核爆弾ほどではないにしろ直接被害と二次被害が大きいモノなのである――そんな超兵器が現れ、そしてジェネシスはエネルギーの充填を完了し……
「ジェネシス発射!連合の部隊を消し去れ!!」
凶悪なガンマ線レーザーが放たれ、新たに出撃して来た連合のペースメーカー隊を一瞬で焼き払ってしまった……プラントはガンマ線レーザー砲、連合は核ミサイルと言う最強最悪の最終兵器をもってして、ヤキンドゥーエ宙域における決戦が始まったのだった。
「お姉ちゃん……『救命ポッドで脱出しろ』か……そうだね、今のザフトはシーゲル議長が生きていた頃とは変わっちゃったから……お姉ちゃんの居る所に行くのが正解かもしれないね。」
そんな中でカタナから秘匿通信でメールを受け取ったカンザシはイザークにプライベート通信を入れると、艦の『救命脱出ポッド』に乗り込んで艦から脱出して三隻同盟に向かうのだった。
ともあれ、此のヤキンドゥーエ宙域にて、連合とザフト、そして三隻同盟の三勢力による戦いの火蓋が切って落とされ、ヤキンドゥーエ宙域は三勢力の戦力がぶつかり合う最終決戦の地となり、戦場は秩序を喪った混沌となって行った……
To Be Continued 
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