クルーゼとマドカを追ってコロニーメンデル内の施設にやって来たイチカとキラとムウ。
その施設は『遺伝子研究所』であり、施設内にはコーディネーターを誕生させる為と思われる装置も存在していた――其れだけならば特に如何と言う事も無かったのだが、此処でクルーゼはイチカとキラに対して『十六年ぶりの故郷訪問はどんな気分だ』と聞いて来たのだ。
クルーゼの言葉が真実であるとすれば、この施設こそがイチカとキラの生まれた場所と言う事になり、物心ついたころから孤児院で育ったイチカは兎も角としてキラの両親は本当の親ではないと言う事になるのだ。


「此処が俺とキラの……キラの方は分からないが、俺の方は『オリムラ計画』か、仮面の隊長さんよ?」

「なに?……知っていたのか君は!」

「遺伝子提供者は存在してても実の親が存在してないコーディネーターなんてのは決して少なくない存在だが、齢十六ともなりゃ自分が普通のコーディネーターじゃない事くらいは察するってモンだ。
 幾らコーディネーターでも、オーブ軍入隊から一年ちょっとで既に何年も軍人やってる人に体術訓練で完勝しちまうとかねぇだろ?……一人、二人なら未だしも、俺の場合は十人抜きしちまったからな?
 なら自分について調べてみようと思うのは当然の事だ……オリムラってのも中々珍しい苗字だからな、ネットの少し深いところに潜って検索してみたらヒットした訳だ『オリムラ計画』ってモノがな。」

「オリムラ計画……其れってどんな計画なのイチカ?」

「一言で言っちまえば『最強のコーディネーターの量産計画』だ。
 肉体的に最も強靭になる遺伝子を掛け合わせた受精卵を作り、其れを母体の影響を受けない人工子宮で育て、そして出来上がったコーディネーターは連合、ザフト問わずに『兵器』として売るって言う狂気の計画ってな。
 勿論最強のコーディネーターなんぞそう簡単に出来る筈がなく、目標としていた個体、つまり俺が完成するまでには九百九十九体もの犠牲が出たらしい。
 でもって、俺が完成したら今度は俺の細胞から俺に万が一の事があった時の為のスペア……いや、ドナーを作ったらしい――但しそいつは受精卵から成長する段階で男じゃなくて女になったらしいけどな……其れがお前だろ、マドカ!」


しかしイチカは前世の記憶から、『自分が人工的に生み出された存在である』事を知っており、クルーゼの言葉を聞いて若干カマをかける形になったが、『オリムラ計画』の名を出したらビンゴだった。
コズミックイラの世界では西暦の時代には『デザイナーズベイビー』と呼ばれていた存在が『コーディネーター』として広く知られており、宇宙コロニー『プラント』と言う国を作るまでになっているのだが、だからこそイチカは此の世界にも前世の『織斑計画』のようなモノが存在しるのではないかと考えたのだ。


「気付いていたのか……ならば顔を隠している必要はなさそうだなイチカ!」


そしてイチカに正体を見破られたマドカはヘルメットを脱ぎ捨てたのだが、ヘルメットの下から現れた顔を見てキラとムウは驚愕した――イチカの細胞から作られたドナーであれば似ているのだろうとは思ったのだが、ヘルメットの下から現れた顔は、イチカを其のまま少女にしたモノだった。
髪型こそ違うモノの、顔のパーツはほぼ同じ、男女の双子でも此処まで似る事はないのでキラとムウは驚いたのだ。


「計画は『量産は困難』との理由で途中で破棄されたが、唯一の成功体である貴様は処分される事なく、『親の居ないコーディネーター』としてオーブの孤児院に預けられた……だが私は、物心つく前に捨てられ、捨てられた先で拾われて育てられたが、其処が連合に攻撃されて仲間を失い、連合に捕らえられてアラスカ基地に幽閉されていた……オリジナルとドナーでは随分と差があるとは思わないか?
 私は所詮お前のドナーに過ぎない存在だが、其れは逆に言えばお前が存在しなくなれば、私こそが計画の唯一の成功例となるとも言える……アラスカ基地に幽閉されたままでは私の目的は達成出来なかったが、コイツが私をアラスカ基地から連れ出してくれたおかげで目的を果たす事が出来る。
 イチカ・オリムラ、貴様を殺して私が本物になる!」

「俺を殺そうとする理由は此の世界でも大差はないか……亡国機業に加入後に模擬戦でフルボッコにしたら『兄さん』と懐いて来たのが懐かしいな……」

「……貴様、何を言っている?」

「ただの妄言だ、気にせんといて。
 だけど俺を殺すか……出来るかなお前に?こう言っちゃんなんだが、俺はか~な~り強いぜ?」

「出来るかどうかは問題ではない……やるかやらないかだ!」

「其の意気や良し!……来いよマドカ、相手になってやるぜ?……出させてみろよ俺に、本気を!」

「ほざけ!」


成功体であるイチカとドナーに過ぎなかったマドカはマッタク異なる人生を歩んでおり、其の中でマドカはイチカへの憎悪を少しずつ、しかし確実に増して行ったのだ。
マドカはナイフを抜くとイチカに斬りかかり、イチカは其れをナイフ付きのハンドガンで受け止めるとカウンターの横蹴りを放ってマドカを吹き飛ばす――突然のバトルにキラもムウもクルーゼまでもが言葉を失ったが、コロニーメンデルの遺伝子研究所では史上最強の兄妹喧嘩が勃発したのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE44
『開く扉~The truth behind Ichika and Kira's birth~』










同じ頃、遺伝子研究所の外ではディアッカとイザークが向き合っていた。
イザークはディアッカがアークエンジェルの一員として戦っている事に疑問を持ったのだが、ディアッカからその理由を聞くと納得出来る部分もあった――『平和な停戦』と其の後の『コーディネーターとナチュラルが共存出来る平和な世界』を目指すと言うのは、所詮は理想論に過ぎないと思っていたイザークだが、アークエンジェル――もとい、アークエンジェル、エターナル、クサナギ……連合、ザフト、オーブの旗艦が集って組織された『三隻同盟』は、その理想を現実にするために活動しており、ディアッカはアークエンジェルの面々(特にミリアリア)を死なせたくないと思い、同時に其の理想が実現出来れば自分の思いも達成出来ると考えて、三隻同盟の一員として戦っていたのだ。


「そう言えばイザーク、お前アスランが反逆者になったとか言ってたけど、実を言うとアスランもこっちに居るんだわ。」

「なにぃ!?其れが本当だとしら、お前とカタナもだが大変な事だ!反逆者の存在を知ったら生かしてはおかんぞ今のプラント……と言うか議長は!」

「あ~~……成程、ならある意味でアスランの事も納得したぜ……アスランは此の戦争を終わらせようと、此の戦争の意義を親父さんに聞くためにプラントに戻ったんだが、其れを聞いたら親父さんに撃たれちまったって言ってたからな。
 議長は反逆者は生かしておかないって事だったけど、其れでも此れはプラントには流れてない情報じゃないか?」

「奴がザラ議長に?……そんな、ザラ議長は自分の息子を撃ったと言うのか?如何に反逆者とは言え実の息子を撃つとは正直正気の沙汰ではない気もするのだが……そんな情報はプラントの何処にも流れてなかったな?……そうか、情報統制か!」

「ま、そう言う事だな。」


更にイザークにとって衝撃的だったのが、『アスランが三隻同盟に参加している』と言う事だった。
プラント本国では『アスラン・ザラがプラントに反逆し、ザラ議長に撃たれて投獄された後に脱獄して現在は行方不明』と言う事になっていたからだ――イザークは其の報道を聞いて憤慨したのだが、此処でディアッカから『アスラン離反』の真実を聞いて情報統制が行われていた事を知り、同時に納得もしていた。
イザークはアスランの事を強烈にライバル視しているのだが、其れ故にアスランの実力は認めており、だからこそアスランがプラントから離反したと言う事が信じられなかったのだが、ディアッカから話を聞いて納得していた――戦争の意義を問いただした末に真面な回答を得られずに銃で撃たれたとなったら、実の親子であっても家族を続けるのは難しいのだから。


「悪い事は言わねぇから、カンザシ連れてこっちに来いよイザーク……お前も分かってる筈だぜ?今のプラントはラクスの親父さんが議長だったころと比べて大分歪んじまってるって事がな。」

「其れは確かにそうなのかもしれん……だが、俺にはどうしてもオペレーターであるカンザシをデュエルに乗せて連れ出す方法が思いつかん!良い案があるのならば是非とも教えて欲しいところだ!」


ディアッカと話している内に、イザークも三隻同盟に惹かれていたのだが、カンザシの存在がネックになっている様だった。
カンザシがモビルスーツのパイロットであれば共に出撃した上で三隻連合に合流する事が可能なのだが、カンザシはモビルスーツのパイロットではなくオペレーターであるので連れ出す事が難しかったのだ。


「生憎と俺も妙案はないんだが、俺はそろそろアークエンジェルに戻るぜイザーク……イチカとキラが来たってんなら、俺はほぼ不要だし艦長さんに何があったか早めに報告した方が良いと思うからな。
 お前がどんな選択をするかは分からないけど、後悔だけはしないでくれよイザーク?……其れと、俺にお前を殺させる、そんな事態にだけはしてくれるなよなマジで。」

「ディアッカ……俺は、如何するのが正解なのだろうな……」


言う事を全て言ったディアッカはバスターに乗って其の場を離脱してアークエンジェルに帰還し、其の場に残されたイザークは此の先の選択肢はドレを選ぶのが正解であるのか、その答えが出ないままデュエルに乗り込んでプラントに帰還したのだった。
プラントに戻ったイザークは、カンザシに『カタナは現在アークエンジェルの一員として戦っている』と言う事を伝え、カンザシは其れを聞いて『お姉ちゃんのぶっ飛んだ行動は今に始まった事じゃないから、驚かないけど……よし、今度戦闘になったら此の艦ごと寝返ろう』と割とトンデモナイ事を言い、イザークは改めてカタナとカンザシは間違いなく姉妹であると実感していた。


「でもどうやって艦内制圧しようかな……ブリーフィングルームに全員集まったところで麻酔ガスを部屋内に噴射して、眠ったところを縛り上げるとか?」

「最初に聞いておくが冗談だよな?
 上手く行けば御の字だが失敗したらその場で俺もお前も人生のエンディングだぞ!」

「エンディングの後はスタッフロールが待ってるかな?」

「ゲームではないわ!」


意外にもカンザシはアークエンジェルが所属している『三隻同盟』に移る事に関しては乗り気であった――が、現状では今の部隊から抜け出して三隻同盟と合流する手立てがなかったので其れは保留となったのだが。
其れでもイザークとカンザシ、此の二人がザフト、連合、三隻同盟の三つ巴の戦いに一石を投じる事になるのは間違いないだろう。









――――――









一方、三隻同盟との初戦をナタルの判断によって撤退し、事実上の初陣敗北となってコロニー外を航行していたドミニオン艦内では、アズラエルがナタルに再出撃を要請してた。


「……ブーステッドマンのメンテナンスはまだ終わっていないようですが?」

「メンテナンスは次の戦闘までには完了する……だからもう一度アークエンジェルに戦いを仕掛ける――アークエンジェルに所属してる新型の二機はなんとしても手に入れたいモノだからね……其れを手に入れる為に、もう一度アークエンジェルと戦う!
 多少の犠牲は出るだろうが、新型二機を鹵獲出来れば十分にお釣りが出るレベルの出費だろうさ……此の戦争に勝つには、あの二機は是が非でも手に入れなければならない、其れは理解出来るだろう!」

「其れは理解出来ますが、犠牲ありきの戦いと言うのは好きではありません……戦争である以上、兵士の死をゼロにする事は出来ませんが、最初から犠牲が出る事を是とし、命を数で数えるようになったらお終いだと思いますので。」


アズラエルとしてはフリーダムとジャスティスはなんとしても手に入れたいモビルスーツであり、其の二機を鹵獲する為ならば連合のダガーが何機犠牲になっても構わないとすら考えていた。
ナタルとて、フリーダムとジャスティスを手に入れる事が出来れば此の戦争の天秤は大きく連合側に傾く事は理解していたが、だからと言って『犠牲ありき』のアズラエルの考え方には賛同出来なかった。
常に味方の事を案じ、仲間全員が生きて次に進む事を考えていたマリューの副官を務めていたナタルだからこそ、仲間の命を数で数える事は出来ず、またしたくなかったのだ。


「命を数で数えるか……バジル―ル艦長、君の言う事も分からないではないが、数で数える命とは結果として何の成果も上げられずに多くの命を散らしてしまった場合に後の人間が言う事に過ぎない。
 散った命が大きな成果を上げる礎となったのならば其れは数で数えた命ではなく未来へと繋がる道を作る為の尊い命の一つになるだろう……そう、輝かしい未来で、戦場で散った命は偉大なる英雄となるのさ。
 そして此の戦争に勝てば君も英雄だバジル―ル艦長……歴史に名を残すも悪くないだろう?」

「『人は死んで名を残す、虎は死んで革を残す、落語家は死んで借金を残す』と言う言葉がありますが……私は後世に名を残す心算は毛頭ないのですけれども、戦場に散った兵士を無駄死ににはしたくありませんね。
 分かりました、ですが出撃するのはブーステッドマンのメンテナンスが完了してからです。メンテナンス途中で出撃して、いざ戦闘となった際に『メンテナンスが終わってません』と言うのは流石に冗談では済まされませんから。」

「ふむ、其れは確かに君の言う通りだ……では、彼等のメンテナンスが完了し次第出撃だ。」

「了解しました。(ラミアス艦長……事と次第によっては、遠慮せずに此の艦を討って下さい……堕天使を救う術は、恐らく存在していませんから。)」


しかし、強引に出撃を迫るアズラエルを説き伏せる事は無理だと判断したナタルは最低限の条件として新型三機のパイロットである強化人間、『ブーステッドマンのメンテナンスが完了してから』と言う事を提示し、アズラエルも其れを了承し、堕天使は今再び大天使に対して戦いを挑もうとするのだった。








――――――








場所は再びコロニーメンデル内の遺伝子研究所。
其処ではイチカとマドカによる『史上最強の兄妹喧嘩』が展開されていたのだが、イチカとマドカでは体格差が大きく、近接戦闘ではイチカが圧倒的に有利だったので、マドカは武器をナイフからハンドガンに切り替えて攻撃したのだが、イチカはブレード付きのハンドガンで弾丸を全て斬り飛ばして見せた。


「では、君の秘密を明かすとしようか、キラ・ヤマト君!」


イチカとマドカが人外レベルの戦いを展開している中で、クルーゼはキラに対して嘗てこの施設では『オリムラ計画』とは別に、『最高のコーディネーターを生み出すスーパーコーディネーター計画』が行われていた事を話した。
『オリムラ計画』が『最強のコーディネーターを量産して其れを兵士として売る事』を目的にしていたのに対し、『スーパーコーディネーター計画』は文字通り『全てに於いて最高の能力を持ったコーディネーター』を生み出す計画であり、キラはイチカが生まれるよりももっと多くの失敗を経て誕生した存在であり、キラは計画の研究者である『ヒビキ夫妻』が本当の両親であると言う事も告げたのだった。


「そんな……僕は多くの犠牲の末に生み出された存在だったって言うの?……だとしたら僕は……存在其の物が罪なのか……?」

「そんな訳ねぇだろキラ!
 お前が生まれるまでにどれだけの犠牲があったかは分からないが、だとしても其の咎を背負うべきは計画を進めていた研究者であって、まかり間違ってもお前じゃねぇ……と言うか、此れを聞いたら普通にフレイとラクスがキレるぞ?」

「イチカ……其れは、確かにそうかもしれない。」


其れはキラにとっては衝撃的な真実だったのだが、此処でイチカが割って入ってキラが罪の意識に苛まれるのを阻止していた――スーパーコーディネーターで犠牲になった存在は相当数に上るのだが、其れはキラにはマッタクもって関係がない。
『生まれを選ぶ事は出来ない』とは言うが、キラは正に其れであり、キラは偶然成功したスーパーコーディネーターの完成体であり、キラが自身が誕生するまでに犠牲になった命を十字架として背負うのは間違いだとイチカは判断したのだ。


「君は……マドカ君は如何した?」

「ハンドガンが弾切れになったら飛び蹴りかまして来たから、其処にカウンターのドラゴンスクリューぶちかまして、起き上がりにシャイニングウィザード叩き込んで、トドメにマッスルスパーク極めて完全KOだ。
 だから持って帰れよ仮面の隊長さんよ。」


そしてイチカはマドカを完全KOしており、KOしたマドカをクルーゼに投げつけ、クルーゼも其れを受け止め切る事は出来ず、受け損なったマドカが仮面に当たった事で仮面が外れてしまった。


「……お前は……親父!」

「く……お前にだけは知られたくなかったがな、ムウよ!」


その仮面の下から現れたのはムウの父親である『アル・ダ・フラガ』だった――とは言っても、アル・ダ・フラガはムウの父親なので既に還暦を超えているのだが、仮面の下から現れたクルーゼは若い顔だったので本人ではないのだろうが。
何よりも驚くべきは、ザフトで一部隊を率いていた隊長を務めていた人間がコーディネーターではなくナチュラルだったと言う事だろう――クルーゼはナチュラルながらコーディネーターと同等クラスの力を其の身に備えていると言う事でもあるのだ。


「バレてしまっては仕方ない……私は『アル・ダ・フラガ』が自身の後継にするために生み出した、奴のクローンだ――但し、その遺伝子を受け継いだだけの『出来損ないのクローン』、それが私だ!
 人の業、人の欲、その末に生まれたのが私だ!……だからこそ、私には全ての人類を裁く権利がある!」

「知るかボゲェ。
 テメェの生まれなんぞには1mmの興味もないが、其の誇大妄想を見逃してやる理由もねぇからな……マドカと一緒に帰らせる心算だったが気が変わった!
 大人しく、此処で往生しとけ!!」


イチカは此処で瞬間移動と見まがう程の踏み込みからブレード付きのハンドガンでの居合を放ったのだが、クルーゼは其れをギリギリで回避すると、仮面とマドカを回収してから中破したゲイツに乗り込みコロニーメンデルから離脱したのだった。


「キラ……大丈夫か?」

「うん、少し驚いたけどもう大丈夫だよイチカ。」

「そんじゃ、戻りますかアークエンジェルに。」

「クルーゼ……親父のクローンだったとは……
 自分の後継者に関して何やらやってた事は知ってたが、まさか自分のクローンを作ってたとはな……其処まで親父は俺を後継者として認めたくなかったって事か……少し凹むぞ流石に。」

「……まぁ、落ち込むなってフラガの旦那……アンタは少なくともアイツよりずっと良い男で、アークエンジェルの頼れる兄貴分なんだから堂々としてろって。」

「……だな。俺の気分が沈んでちゃいけねぇな!」


其れに続いてイチカとキラとムウもコロニーメンデルから離脱してアークエンジェルに帰還するのだった――そして、帰還後キラはフレイとラクスに自分の正体を話し、其れを聞いた二人からダブルハグを受ける事になったのだった。
コーディネーターの中でも特殊なキラの出生だったが、スーパーコーディネーターであろうとなかろうとキラはキラだとフレイとラクスは口にし、其れがキラにとっては何とも嬉しいモノであった。
とは言え、コロニーメンデル内で明らかになったイチカとキラの出生だったが、イチカもキラも自分の本当の両親に関しては特に気にした様子はなかったのでイチカとキラにとっては『遺伝子提供者』よりも『育ての親』の方が重要なのだろう。


「イチカ、ディアッカからイザーク達ザフト兵がコロニー内に入って来た事は聞いたんだけど、貴方とキラ君とフラガ少佐はクルーゼ隊長を追ってコロニー内の建物に入って行ったのよね?
 なんだったのその建物って?」

「……俺とキラの生まれ故郷だった。
 キラの方は俺が勝手に言う事は出来ないけど、俺は此の世界でも『オリムラ計画』で生まれた存在だった……そんでもって、マドカまで存在してやがった。
 ただしこの世界だと、千冬姉のクローンじゃなくて俺のクローンとしてだけどな……正直過去の記憶がなかったら発狂してたかもしれねぇわ俺。」

「此の世界でも……まぁ、此の世界ではコーディネーターが存在しているのだから人工的に生まれる人間は珍しくもないけれど、オリムラ計画の場合は最強の人間を量産して兵器として売るって言うトンデモナイ計画ですものねぇ……世界は変わってもオリムラの運命からは逃れられないのかしらね……」

「如何足掻いても逃げられないってんなら、徹底的に抗うだけだけどな……そんでもって仮面の隊長も大分ヤバい奴だって事が分かった――『全ての人類を裁く権利がある』とか言ってやがったが、其れがマジなら連合もザフトも関係なく攻撃しかねないぜあの野郎。」

「全ての人類を裁くって、そんな権利は何処の誰にも存在し得ないのだけれど……クルーゼ隊長、あの仮面から少し真面な人じゃないとは思ってたけど、其処までヤバい思考の持ち主だったのね?
 ……私、本気でこっちに来て良かったと思うわ……いっそカンザシちゃんとイザークも来てくれると最高なのだけれど……ザフトと戦う事になったらイザークは戦場に出て来るから此方に引き込む方法は色々あるとして、カンザシちゃんには秘匿回線で宇宙服に着替えて救命ポッドに乗るように伝えようかしら?
 射出された救命ポッドを回収すればカンザシちゃんをこちら側に連れて来る事は可能だと思うし。」

「其の方法なら割と現実的かもな。
 もしもカンザシがこっちに来たら、是非ハルフォーフ一尉に紹介したいぜ……こっちのカンザシが俺の記憶にある簪と大差ないなら、きっと良いオタ友になれると思うからな。」

「カンザシちゃんは此の世界でもほぼ前の世界と同じよ♪」


イチカもカタナに自分の出生を話したのだが、カタナも前世の記憶で『織斑一夏』が『織斑計画』によって誕生した『人造人間』である事を知っていたので、イチカの出生を知っても『オリムラ』の業の深さを感じつつも然程驚く事はなかった。
なによりも、其れ以上に嘗ての上官であるクルーゼの危険な思想の方が驚くべきモノであり、其れを聞いたカタナはイチカと同様に『次にクルーゼが戦場に出て来たらトンデモナイ事になる』と考えていた……故に、クルーゼは最優先で討つべき相手だとも思っていた。


「そう言えばイチカ、フラガ少佐って有線式のガンバレルが搭載されてるモビルアーマーに乗ってたのよね?……となると、ストライクにウンリュウパックを装備したら結構行けるんじゃないかしら?」

「其れは俺も考えたんだけど、ストライクにはビャクシキとは違って無線誘導兵器を操作するのに必要なセンサーが搭載されてないんだよ……OSの改造だけで済むならキラに頼めばいいんだが、そもそも無線誘導兵器を操作する機構が存在しないんじゃ流石に無理だろ?
 有線式のガンバレルを使う事は出来るみたいだが、無線式の誘導兵器とは異なるからなアレは。」

「あら、其れは残念ね。」


尚、アークエンジェルには新たにストライク専用の近接戦闘武装として巨大な実体剣『グランドスラム』が搬入されており、ソードストライカーとセブンソードストライカーの追加装備として搭載されていた。
コロニーメンデルで中破したストライクもマードックをはじめとした優秀な整備士の手で即修復され、アークエンジェルは何時戦闘が起きても最大の力を発揮出来る状態になっていたのだった。








――――――








イチカとキラの出生の秘密を本人達に明らかにする事で心を折ろうとしたのだが、其れに失敗したクルーゼはヴェサリウスに戻ると、アラスカ基地で確保して捕虜とした『連合の少女兵』を呼び出すと、一本のUSBメモリを手渡した。


「此れは……?」

「此の戦争を終わらせる為の『最後の扉』だ……連合に其れが渡れば戦争は終わる――故に、此れより君の身柄を連合に送り返す。何か質問は?」

「此のUSBメモリの中身は?」

「其れは答えられない……戦争を終結させる為の切り札なのだからね。
 その中身を知るのは連合のお偉いさんだけで良い……君が知っても意味はない事だから知る必要はない――他に質問はあるかい?」

「其れ以上はないよ……捕虜として捕らえられた時はどうなるのかと絶望したけれど、貴方は中々に紳士だったなクルーゼ隊長?
 私を男性兵の慰み物にする事はせず、艦内限定ではあるけれど自由を与えてくれただけでなく、戦争終結の切り札を私に託して連合に戻してくれると来たのだからね……貴方のような人がプラントの指導者だったら、此の戦争は此処まで拡大しなかったのかも知れないね……嗚呼、其れを考えるとなんとも遣る瀬無い気分だよ。」


其れを渡された少女兵は芝居がかった言い回しをして見せたが、クルーゼも其れを特に咎める事はなく、少女兵を救命ポッドに乗せるとヴェサリウスを改めてコロニーメンデルに向かわせた。

其れと時を同じくして連合のドミニオンもコロニーメンデルに再度向かっており、コロニーメンデルを拠点としている三隻同盟も戦闘準備を整えており、当該宙域にて連合、ザフト、三隻同盟の三つ巴の戦闘が行われる事になるのは確実だった。


「必ずそのメモリを連合に届けてくれたまえよ……其れが此の戦争を終結させ、そして新たな戦火の火種となるのだから――ククク、頑張り給え、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ君。」


そしてヴェサリウスのブリッジでは、艦長席に座したクルーゼが仮面の下で悪意に塗れた笑みを浮かべていた……
















 To Be Continued