コロニーメンデル内に停泊しているアークエンジェルを討つ為に当該宙域にやって来たドミニオンだったが、奇襲を仕掛ける前にアークエンジェルからモビルスーツが出撃して来た事で出鼻を挫かれる形となった。
此れはタバネがイチカに情報を提供したからこその事だったのだが、ナタルに、ドミニオンにとっては完全に予想外の事だったので対応が遅れ、アークエンジェルの部隊からの先制攻撃を受ける事態になってしまったのだ。
「ラミアス艦長……見事な対応です。」
ドミニオンの艦長のナタルはアークエンジェルの艦長であるマリューが此れほどの判断をしたと思ったのだが、マリューはイチカ経由で伝えられたタバネの未来予知とも言える情報を、此れまでの経験から『確実性の高い情報』だと判断して六機のモビルスーツの出撃に踏み切ったのだ。
ナタルもアークエンジェル時代にイチカからタバネの存在は聞いており、その未来予知とも言える先読み情報の凄さも目の当たりにしていたのだが、此の局面でタバネがイチカにメールを送ってくるなどと言う事は考えられなかったのである。
奇襲を掛けようとしていたところにカウンターの先制攻撃をされた事で対応が若干遅れたドミニオンだったが、すぐさまフォビドゥン、レイダー、カラミティの三機とストライクダガー、デュエルダガー、バスターダガーを出撃させて応戦する。
対するアークエンジェル側は共に出撃したクサナギからもM1アストレイが複数機出撃しており、奇しくも双方から出撃したモビルスーツの総数は同じだったのだが、其の性能には大きな差があった。
フォビドゥン、レイダー、カラミティの『第二期GAT-Xシリーズ』は、グラディエーター、ストライク、バスターの『第一期GAT-Xシリーズ』と比べれば流石に後発機と言う事もあって基本性能では上回っているモノの全機武装が固定であり、ストライカーパックの換装で如何なる戦局にも対応出来るグラディエーター、ストライク、そしてビャクシキには汎用性で劣り、また此の三機は機体は旧式でもストライカーパックを新規開発する事で無限の可能性を持つ機体なので実質的な性能差はないと言えるだろう。
バスターに関しても強化改造が施され、ビームサーベルこそ搭載していないが腰部アーマーが近接戦闘用コンバットナイフ『アーマーシュナイダー』を内蔵したホルダーに換装されているので近接戦闘も行えるようになっているので、同じ砲撃型のカラミティと比べると戦いの幅が広がっている上に、フリーダムとジャスティスに至っては核エンジン搭載型の極悪性能を有しているのでそもそもバッテリー駆動の機体では到底敵わない圧倒的な性能差があるだけでなく、フリーダムとジャスティスのパイロットは夫々が『スーパーエース』とも言うべき腕前を持って居るのだから、此の二機は正に無敵と言えるのだ。
加えて、連合の量産機であるダガーは夫々がストラク、デュエル、バスターの劣化版であり、ストライクダガーに至っては最大の特徴であるストライカーパックをオミットしてしまった事で劣化が大きくなっているのだが、其れと比べるとオーブの量産機であるM1アストレイは大気圏内での単独での飛行能力を有し、必要な武装が一通り搭載されているだけでなく、OSの開発を行ったのがキラと言う量産機としては破格の性能を有しているので、ワンオフ機以外の性能差も大きかった。
「そんじゃまぁ、早速ウンリュウの性能テストと行きますか!」
互いの戦力がぶつかる中、イチカは新たにビャクシキ用に開発された宇宙用バックパック『ウンリュウ』に搭載されている新装備を使用した。
ウンリュウパックから射出された七つのパーツは宇宙空間を自由に飛び回りながら搭載されているビーム砲からビームを放って連合のダガーを撃ち貫いて行く――そう、宇宙用バックパック『ウンリュウ』はビット兵装、通称『ドラグーン』が搭載されていたのだ。
ドラグーン兵装を扱うには非常に高い空間認識能力と並列思考、ドラグーンとモビルスーツ本体の同時操作技術と求められる能力が多いため、扱える人間は限られてくるのだが、イチカは問題なくドラグーン兵装を操っていた――カタナと出会った(或いは再会)した事で、戦闘に関しても過去の感覚を取り戻していたのだイチカは。
『織斑一夏』は元々ガッチガチの近接戦闘型で射撃は真面に出来なかったのだが、更識楯無と共に亡国機業に身を置いた後は射撃能力も上昇し、更にはBT兵装適性まで得るに至っており、その感覚を思い出したイチカにとってドラグーン兵装を操るのは難しい事ではなかったのだ。
「イチカ……そうね、貴方は其れも使えたのよね……ふふ、頼もしいわね♪」
一方でセブンソードストライカーを装備して出撃したグラディエーターは両手の指で可能な限りの近接戦闘武器を掴んだ、どこぞのBASARAな独眼竜の『六爪流』状態になると、ダガー軍団に斬り込んで次々と戦闘不能にして行くのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE43
『螺旋の邂逅~Spiralförmige Begegnung~』
ビャクシキ、グラディエーター、ストライク、バスター、そしてM1アストレイによって連合のダガーは次々と落とされており、普通ならば此処で撤退するところなのだが――
「オォォラァァァ!ぶっ飛べ!!」
「撃滅!!」
「ソロソロ死んで良いんじゃない?」
カラミティ、レイダー、フォビドゥンはマダマダ健在だったので撤退する事はなかった。
此の三機は汎用性には欠けるモノの、パイロットの特性を120%引き出せるように作られた機体なので、専用パイロットである連合の強化人間、『ブーステッドマン』であるオルガ、シャニ、クロトが乗り込んだ夫々の機体は最強クラスのモビルスーツと言えるだろう――ブーステッドマンはナチュラルとして誕生した人間に後付けでの遺伝子操作と薬物投与を行う事で誕生した、ある意味ではコーディネーターよりも自然の摂理に反しまくった存在なのだが、ナチュラルと言うかブルーコスモス的にはブーステッドマンは元がナチュラルなのでOKなのだろう。
そう言う意味ではブーステッドマンの三人はコーディネーターとも互角に遣り合う事が出来るのかも知れないが、今回は相手が悪過ぎた。
フォビドゥン、レイダー、カラミティの三機の対応に当たったのはフリーダムとジャスティス――数の上では連合の方が有利なのだが、フリーダムとジャスティスは核エンジン搭載型なので基本性能に大きな差がある上に、パイロットの技量にも差があったのだ。
連合の新型三機は苛烈な攻撃を行うも、フリーダムとジャスティスは其れを難なく回避し、フリーダムはビームライフルで、ジャスティスはビームサーベルで的確な反撃を行っていた。
其の反撃もギリギリで躱しているので矢張りこの三人のパイロットとしての腕前は低くないと言えるだろう。
「く、此のバカモビルスーツ、もうパワーがヤバい!」
「お前はドカドカ撃ち過ぎなんだよバァカ!!」
「なんだとぉ!?」
だが此処で砲撃型のカラミティがエネルギーがレッドゾーンに入って撤退を余儀なくされてしまった。
エネルギー消費を抑えるために新開発された『TP装甲』が搭載されているカラミティだったが、後先考えずにエネルギー消費が大きいビーム砲を撃ちまくったらエネルギーがあっと言う間に枯渇してしまうのは当然と言えるだろう。
「倒したけど、要らないから返却するわね♪」
「うお、ちょっとまてぇぇ!?」
更にカタナが戦闘不能になったダガーをレイダーに多数投げつけて来た――コックピットは破壊されているのでパイロットは絶命しているのだが、其れだけに投げられたダガーは巨大な投擲武器と化していたのだ。
「滅殺!」
其れを投げられたレイダーは巨大な鎖付き鉄球『ミョルニル』でダガーを粉砕したのだが、ミョルニルは其の大きさゆえに攻撃後の隙が大きく、其の隙にグラディエーターが肉薄してコックピットを狙ってミステリアスレイディを振るう……が、ギリギリのところでレイダーはコックピットの直撃を回避し、左腕を失いながらもドミニオンに撤退したのだった。
そうなると残るはフォビドゥンとダガー部隊だけであり、此のまま戦闘を継続しても状況は好転しない――ナタルはそう判断してドミニオンから『帰還シグナル』を撃ち出すと、フォビドゥンとダガー部隊を回収してから一時宙域から離脱した。
「ナタル艦長、何故離脱したのかな?」
「状況は我が艦にとって不利と判断したので離脱しました……あのまま戦ってもジリ貧であり、最悪の場合は此方が全滅と言う事にもなり兼ねませんでしたので……私の判断は間違っていましたか?」
「いや、実に的確な判断だったよ……あの二機を鹵獲するのは簡単じゃないか……まぁ、チャンスはまだある、焦るのは得策じゃないか。」
こうしてドミニオンはコロニーメンデルから一時撤退したのだが、其れで此の戦いは終わりではなかった。
戦闘が終了した事でアークエンジェルとクサナギ所属のモビルスーツは帰還しようとしていたのだが――
――キュピーン!
「此れは……この感覚は……クルーゼ!」
其の最中、何かの感覚を感じたムウはアークエンジェルに帰還せずにその感覚を感じた場所に向かって行った。
「え?ちょっと、待てよオッサン!」
『ディアッカ、どこに行くの?』
「ミリアリア……俺は戻ろうと思ったんだけど、ストライクのオッサンが……悪い、無視出来ないから俺も行って来る――必ず戻るから!!」
『ちょっと……って言っても聞かないわよね……OK、行ってきなさい。但し、生きて帰らなかったら許さないから。』
「サンキュ……必ず生きて戻って来るぜ!」
其れに続いてディアッカもストライクの後を追ったのだが、其処には二機のゲイツとデュエルがやって来ていた――デュエルはイザークが連合から強奪したモビルスーツであり、ゲイツはザフトが開発した最新の量産機だ。
「クルーゼ……お前が来るとは思わなかったぜ!」
「ほう、今度はお前が其れの担当かムウ!」
早速ムウのストライクとクルーゼのゲイツは交戦状態になリ、もう一機のゲイツとイザークが乗るデュエルも戦闘を開始したのだが――
「ストライクだけでなく、バスターだと!?」
此処にバスターが現れた事にイザークは少し動揺していた――バスターが撃墜された事は知っていたが、だがしかしバスターのパイロットであるディアッカがどうなったかをイザークは知らなかったので、此のバスターのパイロットがディアッカであるのか、それともそうではない連合の誰かなのかが分からなかったのである。
「貴様ぁ……よくもぬけぬけと其の機体を!!」
バスターのパイロットがディアッカである確証が持てなかったイザークは、『ディアッカは討たれ、現在のバスターのパイロットはディアッカではない』と考えてバスターを果敢に攻め立てる。
ビームサーベルで攻撃してくるデュエルに対し、バスターは新たに搭載されたアーマーシュナイダーを抜いて対処する――ストライクに搭載されているアーマーシュナイダーとは異なり、バスターに搭載されたアーマーシュナイダーの刀身には『対ビーム処置』が施されていたので、ビームサーベルが相手でも斬り合う事が可能になっていたのだ。
「く……近接戦が出来るようになったとは言っても此れはキッツいな……なら、此処はイチかバチかだ……おい、聞こえるかイザーク!俺だ、ディアッカ・エルスマンだ!」
だが、其れでも近接戦闘では不利なので、ディアッカはデュエルに通信を入れて、バスターのパイロットが『ディアッカ・エルスマンである』と言う事を伝える。
其れは嘘やハッタリと取られても致し方なかったのだが、此の通信を聞いたイザークは其れを嘘やハッタリとは判断しなかった――通信機の向こうから聞こえて来た声は、間違える事のない親友の声だったからだ。
「ディアッカ、貴様なのか?」
「イザーク……少し話さないか?お前とは、こんな時だからこそ腹を割って話をしたいんだ。」
「……良かろう。」
声の主がディアッカだと判断したイザークはデュエルから降りてコロニーの一画に降り立ち、ディアッカもまた同じ場所に降り立つ――と同時に、イザークはディアッカに銃を向けて来た。
「オイオイ、物騒だなイザーク?出会い頭にダチ公に銃を向けるか?」
「貴様が本物のディアッカである確証がないのだから仕方あるまい……俺とて、貴様が本物のディアッカであるとの確証があれば銃を向けたくはないわ!」
「だろうとは思ったけど、相変わらずめんどくさい性格してんなイザーク……其れを全部受け入れてくれるカンザシの器の大きさハンパねぇな。」
イザークとしては銃を向けるのは不本意だったのだが、相対した相手が本物のディアッカであるのか、其れとも連合の兵士がディアッカに変装しているのかがハッキリしない以上は致し方なかっただろう。
二人の間に少しばかりの緊張が走る中、ムウとクルーゼの戦闘は継続中であり、其の戦いは互角なのだが此処でクルーゼが操縦するのとは別の、もう一機のゲイツが戦闘に加わった事で拮抗状態は破られてしまった。
ゲイツはザフトの最新型量産機であるだけでなく、フリーダムとジャスティスの開発にも大きく係わっている機体であり、フリーダムとジャスティスのほぼ全ての武装が先ずはゲイツで試験運用が行われているのだ。
流石に量産機であるゲイツには核エンジンは搭載されていないので、武装の一部は簡略化されたりオミットされたりしているモノの、其れでもバッテリー駆動機としては現時点で最高クラスの性能を有しているのである。
そんなゲイツと既に旧式と化したストライクで互角に戦っているムウのパイロットの腕前は非常に高い事は間違いないのだが、一対一で拮抗していたところに増援となると旗色が悪い。
フリーダムやウンリュウを装備したビャクシキならば相手が一機増えたところでどうと言う事はないのだが、ストライクは一体多を得意としている訳ではない上に、今回搭載しているのは遠距離攻撃型の『ライトニングストライカー』であった事から近接戦では分が悪く、アーマーシュナイダーで応戦していたモノのコンバットナイフで一対二の状況は厳しく。右腕を斬り落とされ、コクピット付近にも被弾してしまった。
正に状況はムウにとって絶体絶命だったのだ。
「ムウさん!」
「フラガの旦那、生きてるか!!」
「キラ、其れにイチカか!……助かったぜ……!」
だが、此の危機的状況にキラのフリーダムとイチカのビャクシキが増援として駆けつけて来た。
「ほう、此の場所で君と出会うとは、運命とは中々にシャレた演出をしてくれるらしい……なぁ、イチカ・オリムラ君、キラ・ヤマト君!」
「ビャクシキ……イチカか……貴様と会うのを楽しみにしていたぞ!」
この増援にゲイツのパイロット、特にマドカは狂喜した。
自分がこの世に誕生する切っ掛けとなった存在であり、同時に自分はいざと言う時のスペアに過ぎず、必要なくなったら廃棄された挙句に連合に囚われて長い幽閉生活を送る事になった原因……尽きぬ憎悪、嬲り殺しにする楽しみ、イチカが自分の顔を見た時にどんな反応をするのか等々の感情が複雑に混ざり合い、マドカの顔には『憎悪と狂気の笑み』を融合させた凄まじい表情が張り付いていた。
そしてフリーダムはクルーゼのゲイツと、ビャクシキはマドカのゲイツと交戦を開始。
キラの方はフリーダムの圧倒的な性能とキラ自身の変態的とも言える操縦テクニックをもってしてゲイツを圧倒し、武装を全破壊して戦闘不能に陥らせ、イチカの方もウンリュウのドラグーンを駆使した多角的で立体的なオールレンジ攻撃でマドカのゲイツをダルマにして戦闘不能に。
だが此処でクルーゼとマドカはゲイツから降りるとコロニー内の建物に逃亡した。
勿論、イチカとキラ、そしてムウも其れを追おうとしたのだが、そんな中でモビルスーツから降りて対峙しているディアッカとイザークの姿が目に入った。
『ディアッカ……えっと、此れどんな状況?僕もそっちに行った方が良い?』
「いや良い。これは俺とイザークの問題だからな……お前はお前のやる事をやれよキラ。」
『……分かった。
だけど選択を間違えないで。僕とアスランのようにはならないで。』
「大丈夫、任せとけって。」
気になったキラは声を掛けたのだが、ディアッカは『大丈夫だ』とだけ言うとキラに行くように伝えた――そしてキラもディアッカに一つだけアドバイス的な事を言うと、改めてフリーダムを降りてイチカ、ムウと共にクルーゼとマドカの後を追って行った。
『自分とアスランのようにはなるな』……嘗て親友同士で本気の殺し合いをした経験のあるキラだからこそ、そのセリフには説得力があった。
「そんでイザーク、如何すれば俺が本物のディアッカ・エルスマンだと証明出来るんだ?プラントの市民IDやザフトの兵士IDなんぞじゃあてにならねぇだろ?」
「あぁ、あてにならん。
だからこれから貴様に幾つか質問をするから其れに答えろ……此れから行う質問は、いずれも貴様が本物のディアッカでなければ答える事は出来ない事だからな。」
「おぉっと、其れは確かに確実性が高いな。」
「先ず一つ目、俺達の仲間で戦死してしまったニコルはピアノが得意だったのだが、そんなニコルが最も得意としていたピアノの曲はなんだ?」
「パッヘルベルのカノン、ポール・モーリアの恋は水色、FFⅩ-2のOP曲の久遠~光と波の記憶~だな。」
「正解だ。では二問目。
ディアッカにはザフトのアカデミア時代から食堂でよく頼んでいたお気に入りのメニューがあるのだが其れは何か?」
「んなモン考えるまでもねぇ、唐揚げ定食だ。特に俺は塩味が好きなんだよな。」
「うむ、正解だ。
では最後の問題だ……貴様、ベッドの下に隠していたいかがわしい雑誌やDVDの数々どこで購入したぁ!と言うか良く軍の検査突破出来たなぁ!!」
「いぃぃやぁぁぁ!!なんでそんなところ見てんだよお前ぇぇぇ!?野郎のベッドの下はダチであっても不可侵領域だろ!!
つか、此れ答えないとダメなのか!?」
「答えろ!答えられんのならば貴様は偽物と判断して撃つ!」
「なんだよ此の最悪の脅迫は!
どこで購入したかと言われるとだな……其れはネットでポチって自宅配送にして、休暇で自宅に戻った時に回収して持ち込んだんだよ……因みに、内容は割と純愛系が多かった筈だぜ?……って雑誌は兎も角DVDの中身までは確認してねぇよな?」
「せんわ馬鹿者ぉ!……だが、アレの事まで把握しているとなると貴様は本物のディアッカで間違いないようだな。」
「最後の最後でメッチャ最悪な質問が飛んで来たけどな。」
まさかの質問をしたイザークだったが、その甲斐もあって対峙しているディアッカを本物だと確信し、銃を下した。
「どうやら貴様は本物のディアッカであるようだが、そうであるのならば何故今貴様はバスターに乗って連合の兵士と共に戦っているのだ?ザフトを、プラントを裏切る心算か!」
「そんなんじゃねぇよ……つか、アークエンジェルはもう連合じゃねぇ……連合から離脱した根無し草の大天使だ。
アークエンジェルもクサナギも、そしてエターナルも連合でもなけりゃザフトでもねぇ、どっちにも所属しねぇ第三勢力の『三隻同盟』……今の俺はその所属って訳だ。」
「三隻同盟……だと?何故お前がそこに……?」
「アークエンジェルの捕虜になった俺だけど、アークエンジェルの奴等は良い奴ばっかでさ、コイツ等を死なせたくねぇって、そう思っちまった――だから、此の三隻同盟ってのは有り難いモノだったぜ?
ザフトだ連合だって縛られずに動けるんだからな……何よりも、三隻同盟は『戦争終結』を目標に動いてんだ、其れもプラントか連合、何方かが滅びて終わりじゃない平和的な戦争終結をな。
なら、其の平和的な終戦に向けて一役買うってのも良いんじゃねぇの?」
「平和的な終戦だと?……そんなモノは所詮夢物語にしか過ぎん……其れが実現出来ていれば戦争が泥沼化する事はなかったのだからな!」
「そう言って、平和的な終戦の実現を諦めてたんじゃねえかな俺達は……確かに平和的な終戦なんてのは理想論なのかもしれないが、コイツ等となら出来るんじゃないかって俺は思っちまったんだ――カタナも、多分そう思ったから俺と一緒に三隻同盟に参加したんじゃねぇかな?」
「んな、カタナまで居るのか!?」
ディアッカが何故アークエンジェルに所属しているのかを聞いたイザークは中々にショッキングな真実を聞く事になった――平和な終戦は所詮は実現不可能な夢物語だと思っていたのだが、三隻同盟は本気で其れを実現する為に動いており、更にはディアッカだけでなくカタナも三隻同盟に参加していると言うのだから驚くなと言うのが無理な話だろう。
「カタナまでもがアークエンジェルの一員として……カンザシに如何説明すればいいのだ!?」
「いっそ面倒な事考えるの止めて、お前もカンザシと一緒にこっちに来ちゃえば良いんじゃねぇのイザーク?」
「簡単に言うな貴様ぁ!
タダでさえプラントではアスランが反逆者の脱走兵となっていると言うのに、その状態で俺にカンザシを連れてザフトから脱走しろなどと言うのは死ねと言うのも同じだろうがぁ!貴様やカタナのようにアークエンジェルの捕虜になって其の成り行きでと言うのとは異なるのだ!」
「なら、三つ巴の乱戦になったらカンザシ連れて出撃して、こっちに来ちまうとか如何よ?」
「オペレーターであるカンザシをモビルスーツに連れ込む妥当な理由が存在するのならば今此の場で言ってみろディアッカ。言えたら実行に移してやる。」
「……俺には思い付かねぇな。カタナやイチカなら思い付いたのかも知れねぇけど。」
ディアッカとしては親友であるイザークと戦う事はしたくなかったので、イザークを三隻同盟に誘ったのだが、イザークもイザークでザフトの赤服である事に誰よりも誇りを持っているので簡単に首を縦に振る事が出来なかった。
加えてイザークは此処で自分がザフトに離反してしまったら、ニコルをはじめとした戦場で散って行った仲間達に申し訳が立たないとの思いもあったのだ。
ディアッカとイザーク、元クルーゼ隊の親友同士の邂逅は未だ終わりが見えなかった。
――――――
一方で、クルーゼとマドカを追って二人が逃げ込んだ建物に突入したイチカとキラとムウ――夫々ハンドガンを手にしていたのだが、イチカのハンドガンは銃身の下にブレードを装着した近接戦闘も行える仕様になっていた。
「イチカ、其の銃は……」
「あぁ、コイツはハルフォーフ一尉が改造してくれたんだ。
大口径のガバメントの銃身に大型のナイフの刃を溶接しただけなんだが、此れが意外と使えてな?マガジンも改造して通常の倍の弾丸を込められるようになってるし、トリガーは軽くて連射し易くなってるからな……本人はもっと大型のブレードくっつけてガンブレード作りたかったみたいだけどな。」
「お前さんの上官、少し趣味が吹っ飛んでるかもな。」
他愛のない会話をしながら、しかし警戒心を緩める事無く慎重に建物の内部を進んで行くと、やがて開けた場所に出た。
其処は一階から最上階まで吹き抜けになっていて、中央に巨大な柱が立ち、その柱から各階に二本から三本の橋が渡されていた――中央の巨大な柱はエレベーターホールとなっており、各階にはエレベーターホールから橋が伸びていたのだ。
「階段はない……エレベーターも動かないとなると、クルーゼ達は一階の部屋の何処かに居るって事か……部屋の数は全部で五つ、虱潰しに行くか!」
「そうですねムウさん。」
「一丁やりますか!」
建物其の物はずっと昔に廃棄されていた廃墟なので施設内のインフラは使用不能になっており、建物には階段が存在していなかったのでクルーゼ達は一階の何処かの部屋に居ると判断して部屋を一つずつ確認して行ったのだが、確認した部屋は異様なモノばかりだった。
ある部屋には手術台のようなモノがあり、ある部屋には一般人には凡そ理解不能な謎の数式が掛かれたホワイトボードが存在し、またある部屋には成長途中と思われる胎児のホルマリン漬けが存在してた。
そうして訪れた四つ目の部屋、其処には多数の金属製の培養ポッドと思しき装置が存在し、其の装置の上には装置内の存在の現在の状態を表示されていたと思われる光学モニターが現在も稼働していた。
「此処は……コーディネーターを誕生させる施設……にしても少し異様だな?」
「なんだろう、此処はとても嫌な感じがする。」
其れ自体はコーディネータを生み出す施設に酷似していたのだが、イチカとキラは何とも言えない異様さと嫌な予感を感じ取っていた。
「ようこそ此の場所に、イチカ・オリムラ君、キラ・ヤマト君!
君達は覚えていないだろうが、此処が君達の生まれ故郷だ……十六年ぶりの里帰りを精々満喫してくれたまえ!」
同時に部屋の奥からクルーゼとパイロットヘルメットを被ったマドカが現れ、クルーゼは誰も予期していなかった事を口にした――此の建物がイチカとキラの生まれ故郷だと、そう言い切ったのだ。
コロニーメンデル……遺伝子学の権威である『グレゴール・ヨハン・メンデル』の名を冠したスペースコロニーにて、クルーゼは衝撃の真実に繋がる事を告げたのだった。
To Be Continued 
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