宇宙に上がったアークエンジェル、其の内部ではアスランがプラントの現最高議長を務めている父である『パトリック・ザラ』に『此の戦争の真意』を問う為にオーブのシャトルに乗り込んでプラントに向かおうとしていた。
当初はジャスティスでプラントに戻る心算だったのだが、『フリーダムを奪還しなかったアスランに対してパトリックが何らかの処分を下した場合、ジャスティスはザフトの手に落ちる』と言う事を考慮して、アスランはシャトルでプラントに向かう事になったのだ。
ユニウスセブンが核攻撃された際にアスランは母を喪い、パトリックは妻を喪って互いにナチュラルに対しての憎悪を募らせたのは事実だが、アスランは度重なる戦闘の末にキラとの命懸けの戦いを行った事で此の戦争そのものに疑問を感じ、父にその真意を聞くためにプラントに戻る事を決めたのだ。
「アスラン、僕も途中まで一緒に行こうか?護衛はあった方が良いでしょ?」
「其れはそうなんだが、フリーダムはプラントからマークされてる機体だからな……逆にプラントからの攻撃を受ける危険性があるんじゃないか?」
「其処はアレだ、お前がプラントに通信入れておけば良いんじゃないのかアスラン?
フリーダムを奪還したとでも言えばキラが護衛についても攻撃はしてこないだろ?……其れでも攻撃して来たってんなら、お前がプラントに戻って親父さんの真意を聞く必要はねぇ。
実の息子の言葉を聞かないってのは父親として失格だし、そんな奴に何を聞いたところで真面な答えは返ってこないって相場が決まってるからな……そうなったらぶん殴ってでも目を覚まさせる以外に方法はねぇさ――今の状況なら、お前がジャスティスでプラントに反旗を翻したってのを示すのが一番かも知れないけどよ。」
「イチカ……確かにそうだな。
もしも父さんが悪い方向に変わってしまっているのなら、俺は殴ってでも正気に戻してやらなきゃならないのかも知れないな。」
「何ならこれ持ってくか?」
「此れは……ナックルダスターか?」
「メリケンサックって言えや。主にパンチ力強化の為に使ってたんだが、実戦での威力も折り紙付きってな。」
「まあ、確かに此れで殴ったら骨が砕けるだろうな。」
色々と議論した結果、最終的にシャトルでプラントに戻るアスランにはキラのフリーダムがプラントギリギリまで護衛として同行する事となった。
戦争中の現在、宇宙を航行するシャトルに護衛のモビルスーツや戦艦が同行する事は少なくないので護衛付きのシャトル自体は不自然ではないのだ。
やがてプラントが視認出来る距離まで来るとフリーダムはシャトルから離れてアークエンジェルに帰還し、アスランもプラントに通信を入れ、パトリックとの謁見を申し入れていた――此の時フリーダムはプラントのカメラでは確認出来るか出来ないかのギリギリの距離であった事でプラント側も護衛のフリーダムには気付かずに、アスランの乗るシャトルをプラント内に受け入れる事になった。
そしてシャトルを降りたアスランは父でありプラント最高評議会の現議長であるパトリックと対峙するのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE41
『ラクス出撃~A diva descends onto the battlefield~』
アスランがやって来たのはプラントの議長室ではなく、戦艦のブリッジだった。
其のブリッジのモニターにはザフトと連合の戦力が映し出され、其の戦力比から何処を攻撃すればいいのかと言う事も記されていた――尤も其れはフリーダムとジャスティスの二機がザフトにある事が前提になっていたが。
「アスラン、フリーダムの所在を突き止めたとの事だったか、間違いなく其れはフリーダムだったのだな?」
「はい、俺がこの目で確かめました。」
そんな中でパトリックと対峙したアスランは冷たい視線を向けて来るパトリックに対して己の正義を宿した視線を真っ向からぶつけていた。
「そうか……ではフリーダムは何処にある?」
「其れは……其れに答える前に一つ質問をさせて頂いてもよろしいですか?」
「なんだ?重要な事なのか?」
「はい、とても。」
「良いだろう。何を聞きたい?」
アスランに向けるパトリックの視線は凡そ実の息子に向けるモノではなく、内心はフリーダムの所在を早く答えろと言ったところなのだろうが、其れでも質問を許可しなければ己の欲しい情報は得られないと判断し、パトリックは質問を許可した。
質問する事を許可されたアスランは迷う事無く一気に斬り込む。
「議長……いや、パトリック・ザラ。
貴方にとって此の戦争の真意はなんだ?貴方はなんのために連合と、ナチュラルと戦い、其の戦いの果てに何を見ている?何を得んとしているんだ!?」
今のアスランには以前にラクスと対峙した時のような迷いはない。
キラと和解し、仲間達とも再会した事で自分が戦う目的を思い出したアスランの瞳には力強い光が宿っていた――アスランがザフト兵になったのはユニウスセブンへの核攻撃で母を喪った事が切っ掛けだったが、其処にはナチュラルへの恨みだけでなく自分と同じ思いをする人間を二度と生み出したくないと言う気持ちが根幹にあり、其れを思い出したからこそザフトとして連合と戦うのではなく、ザフトも連合も関係なく戦争を終わらせて世界に平和を齎す為に戦う事を決意したのだ。
「何を言うかと思えば……下らない事を聞くな。
此の戦争はナチュラルを根絶やしにするのが目的であり其れ以外に何がある?連合を打ち倒すだけでは済まさん……地球だけでなく、ナチュラルが存在している宇宙コロニーも全て滅ぼして、この世からナチュラルと言う存在を永遠に抹消する!
そしてコーディネーターだけの世界を作り上げる。此れが私の目的だ!」
だが、そんなアスランの問いに対するパトリックの答えは狂気に満ち満ちていた。
ナチュラルを絶滅させる等と言う事は到底不可能な事であるのだが、パトリックは其れが出来ると信じて疑っておらず、本気でコーディネーターだけの世界を作り上げる心算で居るのだ。
「馬鹿を言うな!本気でそんな事が出来ると思っているのか貴方は!」
「可能だ。フリーダムとジャスティス、あの二機があればな。
フリーダムとジャスティスは何処にある?其れを答えろアスラン。」
更にパトリックは実の息子であるアスランに銃を向けてフリーダムとジャスティスの所在を問う。
銃を向けたのが脅しでない事はアスランも理解したが、だからと言ってフリーダムとジャスティスが今どこにあるかをパトリックに言う気は無かった――目の前に居るのは嘗ての父ではなく、復讐で心が満たされて正常な思考が出来なくなった『クレイジー・リベンジャー』だと理解してしまったから。
「……今の貴方に其れを答える事は絶対に出来ない!」
其れだけ言うとアスランはイチカから借りたメリケンサックを右手に嵌めてパトリックに向かう。
其れを見た数人の兵士がアスランを止めようとするが、アスランは其の兵士達をメリケンサック装備のアッパーやフックで一撃で昏倒させ、一際大きな兵士にはナックルを喰らわせた後にシャイニングウィザードで顎を打ち抜いてKOし、その勢いのままにパトリックに向かったのだが、此処でパトリックが拳銃の引鉄を引いてアスランの肩を撃ち抜いた。
肩を拳銃で撃たれた事でアスランも止まってしまい、其処を他の兵士に抑え込まれてしまった。
「フリーダム捜索中に何があったかは知らんが、お前が反逆者になり果てるとはなアスラン……反逆者は牢屋に放り込んでおけ。処分は追って伝える。」
実の息子を撃っただけでなく、淡々とアスランの処遇を口にするパトリックに、アスランだけでなくその場に居たザフト兵も背中に冷たい汗が流れるのを感じていた……実の息子を致命傷にならない肩とは言え銃で撃つと言うのは普通なら考えられない事であり、更には処分まで考えているのだから。
「(其れが貴方の答えか父さん、否パトリック・ザラ!!……なら俺は、どんな手を使っても此処から脱出して貴方を止める!)」
反逆者の烙印を押されたアスランは兵士に連行されながらも其の目から光は失われず、必ずプラントから脱出してアークエンジェルに戻り、パトリックを止めると言う決意の炎が新たに宿っていた。
――――――
そうして投獄されたアスランだったが、救いの手は思いのほか早くやって来た。
「なんだ貴様は?ぐはぁ!?」
「ほ、本部に連絡を……たわばぁ!?」
牢屋の外が何やら騒がしいと思ったアスランだったが、其の喧騒が収まった後で牢屋の前に現れたのは『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルドの部下のマーチン・ダコスタ率いる一団だった。
「貴方は……」
「助けに来ましたよアスラン。ラクス様の御命令です。」
「ラクスの?」
ダコスタ率いる一団はラクス派の人間であり、更にはラクスは利害の一致で繋がっているタバネからの情報も得る事が出来ていたのでアスランが囚われたと言う事もあっと言う間に伝わっており、其れを知ったラクスは即アスラン救出のために動いていたのだ。
同じザフト兵であり、更には表向きにはパトリック直属となっているザフトの最新鋭艦『エターナル』の艦長となっているバルトフェルドの部下であるダコスタは簡単にアスランが収容されている牢屋を訪れる事が出来ており、共に訪れた数名の部下と牢屋の警備兵を無力化してアスランを牢屋から脱出させたのだ。
無論牢屋から出る前にアスランを赤服から一般兵の緑服に着替えさせ、帽子を目深に被らせると言う変装もさせており、牢屋外の警備兵に怪しまれる事もなく脱出したのだった。
こうして見事に脱獄を果たしたアスランはダコスタと共にラクス派が強奪し、ラクスが艦長を務めているザフトの最新鋭艦『エターナル』にやって来ていた。
「俺の救出を指示しただけでなく君自身も動いていたのかラクス?……マッタク、相も変わらず君の行動は読めないな――尤も、今回は其のおかげで俺は助かった訳だが。」
「貴方は此処で死ぬべき人間ではありません。
私に銃を向けた時のままであれば助ける事はありませんでしたが、貴方は私の言葉を聞いた後に地球に向かいましたね?そして地球で戦うキラを助太刀し、アークエンジェルと合流したのだと地球に居る協力者から聞いています――貴方は己が本当に成すべき事に気付きました……ならば、貴方は生きるべきなのです、キラやイチカと同様に。」
「俺が生きるべきかどうか、其れは誰かが決める事じゃないんだが、君が言うと妙な説得力があるな……それで、俺を脱獄させて此れから如何するんだ?」
「アークエンジェルと合流します。
アークエンジェルとクサナギはまだL4に滞在しているので合流は可能でしょう……エターナルがL4に向かっていると言う事はイチカのスマートフォンにタバネ博士からメールが入っているでしょうから。」
「タバネ?……イチカから話は聞いた事があるが、タバネ・シノノノか?
イチカが言うには『間違いなく凄い人だけど何を考えてるか分からない一種の未知の生物』との事だったが、そんな人と知り合いだったのか君は!?」
「彼女と出会う事が出来たのは運が良かったと言うモノですが、私の目的と彼女の目的は利害が一致している部分も大きいので現在は協力関係と言う形になっていますわ。」
エターナルでラクスと再会したアスランはラクスがタバネと知り合いだったと言う事を知って驚いていた――アークエンジェルでの仲間同士の雑談の中でイチカからタバネの事を聞いており、アスランなりにタバネの人物像を想像しており、其れでも中々にぶっ飛んだ人物である事は想像出来ていたからこそ、そんな人物がラクスと通じていたと言う事には驚きを隠せなかったのだ。
「……君は本当に底が知れないなラクス?
完全に復讐の鬼となり、広い視野を失ってしまった父さんを見た後では、本気で君がプラント最高評議会の議長になるべきだったんじゃないかって、そう思ってしまうよ。」
「私がプラント最高評議会の議長になれば確かに戦争を終わらせる事が出来るのかも知れませんが、其れは『ラクス・クライン』が議長であったからこその終戦であり、私が議長を退くかあるいは死んでしまったら其れは脆くも崩れ去ってしまいます。
だからこそ私はプラントの政治機構とは離れた状態で終戦をザフト連合の双方に呼びかけ、其れを実現させなければならなないのです……其れこそが真の世界平和の第一歩になる筈ですから。」
「敢えて権力を使わずにか……其れもある意味では君らしいな。」
だが、ラクスの真意を知ったアスランは其れ以上は余計な詮索はせずにラクスと共にL4に滞在しているアークエンジェルとクサナギと合流する為に当該宙域に向かうのだった。
そしてその道中にてパトリックに拳銃で撃たれたアスランの肩の治療も行われたのだが、肩には弾丸が残っていたので其の摘出手術が行われた――局所麻酔だったのでアスランも意識があった中での手術であり、アスランも摘出された弾丸を見たのだが、摘出された弾丸がより殺傷能力の高い四十四口径だった事にアスランは戦慄した。
四十四口径は反動が大きいので連射は出来ないが其の破壊力は凄まじく、胸や腹を撃ち抜けば確実に相手を殺す事が出来るとも言われているモノを実の息子に迷う事無く放った――放つ事が出来る位にパトリックの精神は正常な状態ではなくなっていたのだから。
――――――
「タバネさんから『ラーちゃんが乗ったエターナルがL4に向かってるから少し待っててね♪』ってメールが来たんだが、其れに従って正解だったな……タバネさんの予測は毎回大当たりだぜ。」
「此の世界でもタバネ博士の打っ飛び具合は健在って所ね♪」
アスランが見事に脱獄してから二時間後、L4ではアークエンジェルとクサナギがエターナルと合流し、アークエンジェルとクサナギ、そしてエターナルのクルーがL4のドッグエリアにて邂逅する事になった。
エターナルから降りて来たのはラクスとアスラン……だけでなく、バルトフェルドと其の配下の部下の姿もあり、其れにはイチカとキラも驚いた。
アフリカでのあの戦いでイチカもキラもバルトフェルドは死んだと、自分達がそうしたと思っていたのだから。
「バルトフェルド……さん?」
「アンタ、生きてたのかよ……不死身か?」
「おぉ、久しぶりだな少年!
運が良いのか悪いのか、俺はこうして生き延びちまった……右腕と左足は失っちまったから義手と義足だがね?右目もなくしちまったが、案外半分の視野でも慣れれば不自由はないもんだな!」
「……アンタと一緒に居たあの美人さんは如何したんだ?」
「アイシャか……アイツはあの時俺と一緒にラゴゥに乗っててな……彼女は機体と運命を共にした……俺は、アイシャに生かされたのかも知れないな。」
「そんな……その、バルトフェルドさん……えっと……」
「おぉっと、謝るなよ少年?
今は戦争中で、俺はザフト、お前さんは連合の兵士だったんだ……戦場で出会ってしまった以上は戦う以外の選択肢はあるまい――それにだ、こう言っちゃなんだが戦争なんてのは突き詰めれば殺すか殺されるかの世界だからな?
戦場に出る以上は殺す覚悟、殺される覚悟はしてるもんさ……其の上で生き残ったら運が良かった、そう思って拾った命で何を成すかだろう。」
「……其れでも、僕は誰も殺したくなかった……でもあの時の僕には其の力がなかった……殺さずに済むなら、僕はそうしたかった……」
「やれやれ、マッタクもって優しいねぇお前さんは……だが、そっちの少年は少し違うみたいだが……」
「キラと違って俺はオーブ軍の正規兵――生粋の軍人だからな。
軍人ってのは戦う事と民間人の安全を守るのが仕事だからな……こと戦闘に於いては自分で言うのもなんだが、オーブ軍始まって以来の逸材とも言われてたんで自信があるし、殺す覚悟も殺される覚悟もオーブ軍に入隊した其の時に決めてたからキラみたいな思いはないさ。
俺に言わせれば、マッタクの戦闘の素人の民間人だったキラが此処まで戦ってこれた事の方が異常だと思うぜ?……普通なら精神に異常をきたして発狂してもオカシクねぇからな
まぁ、キラがぶっ壊れなくて済んだのはフレイの存在があったからだけどよ……お前等、もうマジで結婚しろよ式代は俺が出してやっから。」
「ふむ、ストライクに乗っていた少年は恋人の存在があったからこそ壊れずに戦えていたのか……彼女さんの事は大事にしてやれよ少年?」
「はい……勿論です。」
お互いに思うところはあるだろうが、其れでも険悪な雰囲気にならなかったのはバルトフェルドの人柄ゆえだろう。
元々バルトフェルドはナチュラルが相手でも無用な殺しは好まず、不必要な戦闘は行わない主義であり、何よりも気さくな人柄だったのであっと言う間にアークエンジェルのクルーとも打ち解けていた。
ムウと対面した際にはバルトフェルドが『アンタが噂のエンディミオンの鷹か。出会えて光栄だ。』と言ったのに対し、ムウが『会うだけなら機体越しに戦場で会ってるんだけどな……あと、俺の事は不可能を可能にする男って呼んでくれ』と言っていた。
「ユニウスセブン以来ですわね?元気そうで何よりですフレイ。」
「アンタも元気そうねラクス?……キラが随分と世話になったみたいね?キラの彼女として礼を言っておくわ。」
「いえいえ、私は当然の事をしただけですので……ですが、少しばかり困った事にもなってしまいました……キラには貴女と言う恋人が居る事は百も承知なのですが私もキラを慕ってしまったのです。アスランとの婚約も破棄になってしまったので私は完全にフリーな訳なのですが――どうしたモノでしょうか此れ?」
「いや、私に其れを言うんかい!
ちょっとキラ、プラントの歌姫様がアンタのこと好きだって言ってんだけど如何すんの?私は嫉妬深い恋人にはなりたくないから、アンタがラクスとも付き合いたいって言うなら其れを止める気は無いけど?」
「えぇ、其処で僕に振るのフレイ!?
ラクスが僕を慕ってくれるのは嬉しいけど、だけど僕にはフレイが居る訳で、そんな状況でラクスの気持ちを受け入れるのはフレイに対して不義理が過ぎるんじゃないかと思うんだけど……」
「……キラ。」
「イチカ?」
「たった一人の女性しか愛してはいけないと一体誰が決めた?……てか、今回は俺が言うのかこのセリフを……此れまではどっちかって言うと言われる側だったんだがぁ……」
其の一方でフレイとラクスが話をしており、其処でラクスがキラに対して好意を抱いている事が発覚し、其処からフレイからのキラーパスがキラに渡り、キラは困惑したのだが、イチカのまさかの爆弾投下で場が静まった。
『一夫一妻』が当たり前となっている人間世界だが、野生動物に目を向ければ其れは極めて稀な事であり、自然界に於いては『一夫多妻』、『一妻多夫』は種の保存の観点から見れば当たり前の事なのだ。
そして生物の本能として雌は優秀な雄の遺伝子を求めるモノなので、『戦闘中にOSを書き換える』、『複数を対象にしたマルチロックオンで不殺』と言う超絶スキルを身に付けているキラは間違いなく優秀種なのでフレイだけでなくラクスも惹かれるのはある意味で当然だったと言えるだろう。
キラはフレイが居るので迷ったのだが、イチカの後押し(?)もあってラクスとも交際する事となり、同時にカガリがキラの妹である事が決定的になった――キラだけならば兎も角、将来的に家族となるフレイとラクスに関してはカガリが義姉と言うのは些か無理があり、義妹である方がしっくり来たからだ。
ともあれ、此処にザフトでも連合でもない第三勢力『三隻同盟』が誕生し、真の平和を実現すべく戦争に介入するのだった。
「そうだイチカ、此れを返しておく。一応だが役には立った。」
「ん?あぁ、役に立ったなら良かったが、何ならトゲ付きの方が良かったかなぁってお前がプラントに向かってから思っちまったぜ。」
「トゲ付きって、其れは流石に相手を殺してしまうかもしれないから必要ない……と言うかお前は他にもナックルダスターを持ってるのか?」
「だからメリケンサックって言えっての……腕力強化の為に色んな重さのを揃えたら増えちまったんだよ――個人的には突起付きがお気に入り。ジャンク・ウォリアー最高。」
「……お前とはあまり敵対したくないと思ったよ。」
そんな中、イチカとアスランはこんな会話をしていたのだが、此れもまた束の間の平和な時間だと言えるだろう。
――――――
アスランが脱獄したのと同じ頃、ラウはマドカを伴ってザフト軍でも一部しか知らない極秘のモビルスーツ開発工房を訪れていた。
「機体の開発は順調かな?」
「滞りなく……Nジャマーキャンセラーの搭載と、貴方が専属パイロットになった事で、プロヴィデンスは大幅な仕様変更をする事になりましたが、其れでもあと数日で完成しますよ。
其れともう一機のコイツもね。」
「ふむ……素晴らしい。マドカ君、こちらの機体が君の機体である『テスタメント』だ。」
「コイツが……機体名は『テスタメント』か……悪くない。
何よりも核エンジンが搭載されているのであればその時点で既にアイツよりもアドバンテージがあるからな……エネルギー切れがないだけでなく、核エンジンが搭載されているのであれば武装もアイツの機体よりもより強力なモノとなるからのは間違いない。
ククク……成功体のドナーでしかなかった私が成功体である奴を倒したとなったら、私とアイツを作った連中がどんな顔をするのか……尤も、其れを拝む事は出来ないがな……」
「『スーパーコーディネーター計画』と『プロジェクト・モザイカ』の研究者は全て死んでしまっているから仕方あるまい……だからこそ計画の成功例である彼等に教えてやらねばなるまい、果たして自分がどれだけの業を背負った存在であるのかと言う事を。」
其処には円盤型の巨大なバックパックを搭載した重装甲のモビルスーツと、『ブリッツ』が搭載していた『トリケロス』に酷似した武装を搭載したやや細身のモビルスーツが存在していた。
ザフトは核エンジン搭載型の最新型のモビルスーツの開発がパトリックの指示で行われており、其の中で誕生したのがフリーダムとジャスティスなのだが、実はザフト内では其の二機以外ににも核エンジン搭載型のモビルスーツの開発がパトリックも認知していない極秘裏に行われており、其処で誕生したのが此の二機だったのだ。
まだ完成には至っていないが、其れでも核エンジン搭載型と言う時点で相当な高性能機であるのは間違いないだろう――そして其の二機は完成した暁には悪意と憎悪に力を与える最悪の存在となるのだった。
――――――
「ん~~……設計図を基にCGモデルを作ってみたけど、キャリバーンフリーダムは良い感じなんだけど、シュバルゼッテジャスティスはなんか微妙な出来栄えになっちゃったなぁ?
シュバルゼッテのガーディアンは面白い装備だし見てくれも悪くなかったんだけど、カタちゃんの機体って事を考えると微妙だね、主に見た目が。
だけどガーディアンは面白い装備だからボツにしたくねーし……って、そう言えばジャスティスは元々はバックパック換装型だった訳だから、ガーディアンをバックパックのバリエーションの一つにすればいいんだ。
なら機体がシュバルゼッテである必要はないから、エアリアルの改修前をベースに再構築だ!高機動型のファトゥム、近接寄りのオールラウンダーのガーディアン、射撃&砲撃寄りのオールラウンダーのルヴリスソーンで行こう!」
木星軌道上にあるミラージュコロイドを搭載した宇宙移動ラボの一つである『牛すき焼き軍艦』ではタバネが以前に自分で作ったイチカとカタナの先用モビルスーツの設計図を基にCGモデルを作ったのだが、カタナの機体が気に入らなかったらしく、新たに設計図を書き起こしていた。
イチカの機体は『キャリバーンフリーダム』で決定されたのだが、カタナの機体は『シュバルゼッテジャスティス』改め、『エアリアルジャスティス』として再構築されるのだった。
「君達が幸せになって生涯を全う出来るなら、タバネさんは悪魔にだって魂を売ってやるさ……傍から見れば私は壊れてるって思われるのかも知れないけど私は至って正常さ。
三百回を超えたところで数えるのを辞めたから、もうどれだけループしてるのかも分からないけど、其れでも私は正常だって言える――尤も、其れだけループして正常な思考を維持してるってのが既に異常で壊れてるのかも知れないけどね。」
タバネはその顔に笑みを浮かべていたのが、其の笑みは歴戦の戦士であっても背筋が凍る位の凄惨で狂気に満ち満ちたモノだった――イチカとカタナの幸福だけを願うマッドサイエンティスト、其れがタバネの本質だったのである。
そんな天災の思惑に呼応するかの如くに、此の戦争は一気にクライマックスに向かって加速していくのだった。
To Be Continued 
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