先の攻撃を受けたオーブは連合に対して交渉を試みたのだが、連合のアズラエルは聞く耳を持たず、連合は武力でオーブを制圧する事を決定していた。
数でオーブを上回る地球連合は、ストライクダガー用の重力下での飛行支援機器の開発にも成功しており、ストライクダガーは『エールストライク』には大きく劣るモノの重力下での高い空戦能力を会得していた。
其れでも制空権はオーブにあるのだが、数の差と言うのは相当に脅威だろう――オーブの戦力がM1-アストレイだけだったら。
「イチカ・オリムラ。ビャクシキ、行くぜ!」
「カタナ・サラシキ。グラディエーター、行くわよ!」
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ。ジャスティス、発進する!」
「ムウ・ラ・フラガ。ストライク、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン。バスター、行くぜ!」
だがしかしアークエンジェルも参戦するとなれば話は別だ。
アークエンジェルのモビルスーツは現状六機と決して多くは無いのだが、その何れもがワンオフ機であり高い性能を誇るモノばかりなのである。
核エンジンを搭載したフリーダムとジャスティスに行動限界が無いのは言うまでもないが、ビャクシキとグラディエーターとストライクもストライカーパックの換装でエネルギーの補充が可能なので『機体エネルギー』の点で連合に対しては有利となっていた。
唯一バスターは戦闘中のエネルギーの補給が出来ないのだが、其れでもケーブル接続でアークエンジェルと連結する事で稼働時間を延長する事が出来るので、其処まで問題になるモノでもなかった。
因みに今回、ビャクシキはオオタカ、グラディエーターはミスティストライカー、ストライクはエールストライカーを装備しての出撃なのだが、此れは今回は特化武装よりも汎用性の高い武装の方が適していると判断したからであり、換装用のストライカーパックも此の三種が用意されていた。
「……来やがったか。オーブはやらせないぜ、絶対にな!」
オーブは複数の島からなる島国なのだが、その『本土』とも言うべき『ヤラファス島』――ではなく軍事関連施設が集中している『オノゴロ島』の沖には連合の艦隊と多数のモビルスーツが姿を現した――連合が本腰を入れてオーブを攻めて来たのだ。
連合の主力は前回と同様に量産型ストライクの『ストライクダガー』なのだが、今回は量産型デュエルの『デュエルダガー』と量産型バスターの『バスターダガー』も投入されていた。
デュエルダガーに関してはストライクダガーのバージョン違いでしかないのだが、バスターダガーは量産型の砲撃仕様であり、更にオリジナルのバスターには搭載されていなかったビームサーベルを搭載し、近距離でも戦う事が出来るようになった機体であり、ともすればストライクダガー、デュエルダガーよりも強力な機体と言えるだろう。
軍事関連施設が集まるオノゴロ島を制圧してオーブの牙を折るのが連合の目的なのは間違いないと見える。
「人様の土地に土足でドカドカ踏み込んで来やがって……悪いが俺は、キラみたいに不殺で済ますほど優しくないからな?問答無用で落とす!」
――シュイィィィン……バシュゥゥゥゥゥゥ!!
イチカはSEEDを発動するとビャクシキの『雪片』を双刃状態で展開し、連合の部隊に突撃し、其れに続く形でアークエンジェルを旗艦としたオーブ軍は連合との死力を尽くした戦いに臨むのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE39
『暁の宇宙へ~Das neue Schlachtfeld ist der Weltraum~』
飛行能力を得た連合の『ダガー』は中々の性能のモビルスーツではあったが、其れでも単機での飛行能力を有するM1-アストレイには飛行能力で劣り、フリーダムとジャスティス、ビャクシキ、グラディエーター、ストライクには基本性能で大きく劣っているので飛行能力を有しても脅威にはなり得なかったのだが、連合の新型であるフォビドゥン、レイダー、カラミティは別格だった。
フォビドゥンとレイダーは単機での飛行能力を有しており、カラミティも飛行支援機やモビルアーマー状態のレイダーに乗る事で飛行能力を獲得して居た事もあって、新型三機は其の力を十二分に発揮していた。
「滅殺!!」
「トゲ付き鉄球ってのはロマン爆発の武器だが其の攻撃は通さない!絶対最強モビルスーツシールド!」
レイダーはスパイク付きの鉄球『ミョルニル』を放って来たのだが、其れを向けられたビャクシキは近くに居たストライクダガーを掴むと、其れを盾にしてミョルニルの攻撃を防ぐ……盾にされたストライクダガーはボディが完全に潰されてしまったのでパイロットはアーメンだろう。
仲間殺しをしたとなれば少なからず動揺するモノであり、イチカもそれを狙ってストライクダガーを盾にしたのだが、ストライクダガーを粉砕してもレイダーの攻撃は鈍る事はなかった――生体CPUとしての改造を施されたレイダー、フォビドゥン、カラミティのパイロットには人としての倫理観と言うモノは備わっていないのだろう。
「仲間殺しも何のそのか……つまりは人の心を無くしちまったクソ野郎か――だが、其れが分かっただけでも儲けモンだったぜ。クソ野郎が相手なら、俺も一切迷わずに攻撃出来るからな!」
ダガーを盾にした事でビャクシキは無傷だったが、巨大な鉄球での攻撃の勢いまでは殺しきれなかったので大きく吹き飛ばされてしまったが、其れも何のそので体勢を立て直すと雪片を分割し、一本をビャクライの下部に取り付けて銃剣にして、変則の二刀流でレイダーに斬り込む。
レイダーのミョルニルは破壊力は凄まじいが、其の大きさゆえに近距離戦闘には向かず、加えてレイダーは搭載火器は豊富なモノの近接戦闘用の武装は一切搭載されていないので間合いを詰められると一気に不利になってしまうのだ。
「ちぃ、近距離は得意じゃねぇんだよ!」
となれば当然レイダーは逆に間合いを開こうとして搭載火器を放ち、更にミョルニルによる一撃必殺の攻撃も繰り出しているのだが、ビャクシキは其れを悉く躱し、ミョルニルに至っては避けた後でチェーンを掴み、逆にそのチェーンを強引に振り回す事でレイダーに豪快なジャイアントスウィングをブチかまし、二十回ほど振り回した後にダガー隊に向けて投げ飛ばして複数のダガーを仕留めて見せた。
レイダー自体は無事だが、散々ぶん回されたパイロットは目を回して暫く動く事は出来ないだろう。
こうしてイチカがレイダーを一時的に戦闘不能にしたのだが、フォビドゥンはフリーダムとグラディエーターのコンビが対処していた。
キラのフリーダムは正確な射撃でフォビドゥンの頭部を狙ったのだが、フォビドゥンはバックパックをヘルメットのように被る『強襲形態』になると、ビームを湾曲させる特殊エネルギーフィールドを展開してビームを無敵回避。
だが其処にグラディエーターがミステリアスレイディで切り掛かり、ヘルメット状態のバックパックを両断する。
此れによりフォビドゥンのビーム湾曲フィールドは展開出来なくなり、其処にフリーダムがビームライフルを放ち、両腕を吹き飛ばした事でフォビドゥンは撤退を余儀なくされ、カラミティはジャスティスとストライクによって抑えられていた。
カラミティはバスター以上の火力を持つ砲撃戦仕様のモビルスーツなのだが、バスター同様に一切の近距離武装を搭載していないので近距離戦となると一気に不利になってしまう――そんなカラミティの相手が攻守速のバランスを取りながらも近距離戦に強いジャスティスと、高機動中距離型のエールストライクと言うのは最悪の相性だった。
機動力で勝るジャスティスとエールストライクはカラミティの砲撃を悉く躱しながら接近すると、ジャスティスとエールストライクはビームサーベルでカラミティの両肩のビーム砲を斬り裂いて使用不能にし、更にエールストライクはアーマーシュナイダーをカラミティのシールドに突き刺し、シールドに搭載されていた二連のビーム砲を誘爆させてシールドを搭載していた左腕を吹き飛ばす。
此れによりカラミティも撤退を余儀なくされ、ダガーの群れはアークエンジェルの固定砲台となったバスターが搭載火器を全開にしたフルバーストを行ってほぼ撃ち落としていた。
正に圧倒的な戦果とは此の事であり、状況を不利と見た連合は一時的に撤退し、オーブ軍もオノゴロ島の軍本部に戻り、アークエンジェルもそれに続くのだった。
――――――
帰還した時にはランチに良い時間だったのでアークエンジェル内はランチタイムとなっていた。
本日のランチは『親子カツ丼(カツ丼のカツがチキンカツ)』、『揚げ出し豆腐』、『七種の具材の豚汁』であり、アークエンジェルのメンバーは其のランチを堪能していたのだが、其のランチタイムの最中に連合が攻めて来たのだった。
フォビドゥン、レイダー、カラミティの補修を即時終わらせ、新たに複数のダガーをもって兵士が休息中のオーブを強襲して来たのだ。
完全に意表を突かれた攻撃にオーブは対応が遅れ、オノゴロ島に連合の部隊の上陸を許してしまっていた。
海上での戦いであればオーブの方が絶対的に優位だったのだが、島に上陸されてしまったとなれば話は別だ――オノゴロ島に上陸した連合の部隊は容赦なく軍事施設を狙って攻撃を行って来たのだから。
こうなるとオーブの部隊は軍事施設の防衛が第一となり、守る為の戦いとなる事で戦線を押し上げる事が難しくなってしまった。
更に此の状況では軍港が機能しないのでアークエンジェルは出撃する事其の物が不可能となってしまい、同時にアークエンジェルの部隊も出撃が不可能となっていたのだった。
此のまま戦ってもオノゴロ島は陥落の未来しかないだろう。
「……最早せんない。
オノゴロ島を放棄して国民とアークエンジェルを脱出させるしかあるまい。」
此処でオーブの代表首長であるウズミはオーブの未来の為にオノゴロ島を放棄してアークエンジェルと国民を脱出させる事を決意すると、オーブが有するマスドライバー『カグヤ』に射出準備をするように命じ、準備が出来次第オーブ国民を乗せた避難艇を優先的に宇宙に打ち上げて行った。
「お父様、私達も!」
「……いや、私は此処に残って最後まで戦う。
其れがオーブの代表首長としての務めだからな……お前はアークエンジェルと共にオーブから脱出しろカガリ。――私は、オーブと運命を共にする。其れが私の戦いだ。」
「そんな……お父様を置いてはいけません!それに、お父様が死んでしまったら私は一人になってしまう……私を、一人にしないで下さい……!」
「案ずるなカガリ、お前は一人ではない。お前には兄妹が居るのだ。」
「え?」
其れはウズミとカガリの今生の別れを意味しており、カガリは泣いてウズミを引き留めようとしたのだがウズミの決意は固くカガリの願いは適わなかったのだが、其の土壇場でカガリはウズミから『兄妹がいる』と言う衝撃の事実を告げられると共に一枚の写真を渡された。
其の写真には金髪の赤ん坊と茶髪の赤ん坊が写っていたのだが、写真の裏を見てカガリは衝撃を受けた――写真の裏には『キラ&カガリ』と、そう記されていたのだから。
その意味を聞く間もなく、ウズミをはじめとした五大首長を乗せたエレベーターは扉を閉めて地下に向かってしまい、写真を受け取ったカガリはウズミの意を汲んでキサカと共にアークエンジェルへと向かうのだった。
―――――
カガリとキサカがアークエンジェルに乗り込むと、アークエンジェルはドッグを主砲で破壊する形で強引に出港してマスドライバーへと一直線に向かった。
そしてアークエンジェルだけでなく、オーブの主力戦艦である『クサナギ』もマスドライバーに向かっているのだが、民間船は見逃しても戦艦を見逃す連合ではなく、無数のダガーとフォビドゥン、レイダー、カラミティが追撃をして来た。
其れに対し、アークエンジェルからはフリーダムとジャスティス、そしてライトニングストライカーを装備したビャクシキとグラディエーターが出撃して近付けさせないように牽制攻撃を行う。
ジャスティス以外の三機は射撃・砲撃能力が強化されているので追撃してくる部隊に対してビームやレール砲による弾幕を張る事が可能であり、其処にジャスティスのビームブーメランによる物理的切断攻撃が加わるので追撃部隊はアークエンジェルとの距離を詰める事が出来ていなかった。
そうして撤退戦を行っている間に先ずはクサナギがマスドライバーで射出され、続いてアークエンジェルがマスドライバーに接続され、フリーダム、ビャクシキ、グラディエーターがアークエンジェルに捕まり、少し遅れたジャスティスはアークエンジェルに捕まる事は出来なかったがフリーダムが伸ばした腕を掴んだ事で其の場に残される事なくアークエンジェルと共にマスドライバーで射出されて宇宙へと向かって行ったのだった。
「未来への種子は放たれた……此れで良いのだ。」
其れを見届けたウズミは地下にある装置を起動すると、オノゴロ島はオーブの軍事施設、軍事会社のモルゲンレーテ社、そしてマスドライバー『カグヤ』を巻き込んで自爆した。
そして此の自爆は連合が欲したマスドライバーをも巻き込んだ事で連合がオーブを攻撃する理由を喪失させるモノでもあったのだ――ウズミと五大首長は、オーブの軍事関係施設と自らの命と引き換えにオーブ本島を連合の侵略から守ったのだった。
そしてオノゴロ島の自爆はマスドライバーで打ち上げられたアークエンジェルからも確認出来ており――
「お父様……!!」
「オーブが……オノゴロ島が……自爆って……俺達オーブの軍人にとってのホームを、そうも簡単に壊すのか……国を守って来た軍人達の家を……!!」
カガリとイチカも其れを見たのだが、イチカとカガリの心には全く異なる思いが湧いていたのだった。
ともあれアークエンジェルはクサナギと共に宇宙へと打ち出され、戦いの舞台は地球から宇宙へと変わるのだった。
――――――
アークエンジェルがマスドライバーで宇宙へと射出された頃、宇宙にある廃墟となったコロニーにラクスはやって来ていた。
「首尾は如何です?」
「上々だね。
既に準備は完了しているから何時でも行けるぞラクス――まさか俺がお前さんと通じているとはザラ議長も夢にも思っていないだろうが、だからこそ疑われる事もなかった。
そんで、エターナルは何処に向かえばいい?」
「……タバネ・シノノノから『アークエンジェルがマスドライバーで宇宙に出た』との連絡があったので先ずはアークエンジェルとの合流を目指します――よろしいですねバルトフェルド隊長。」
「了解だ。」
其のコロニーにはザフトの最新鋭の戦艦である『エターナル』が停泊しており、ラクスは其のエターナルの艦長である人物と言葉を交わすとエターナルに乗り込み、タバネからの情報を得てアークエンジェルとの合流を目指していた。
同時にラクスはエターナルの新たな艦長となったのだが、艦長から副艦長になった人物は、嘗てアフリカの大地でイチカとキラと死闘を演じた『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルド、其の人であった。
To Be Continued 
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