連合の新型三機を相手に苦戦するフリーダムの前に突如現れた赤いモビルスーツ、『ジャスティス』はフリーダムに背を向けながら連合の新型三機にビームライフルを向けていた。
ギリギリのところで窮地を救われた形となったフリーダムだったが、パイロットのキラ……だけでなく、オーブの軍勢は突如現れたジャスティスを敵なのか味方なのかを判断する事が出来なかった。

戦場に緊張が走る中、ジャスティスはフリーダムと交戦していたフォビドゥン、レイダー、カラミティの連合の新型三機に向けてビームライフルを発射すると、腰部に搭載されている『ラケルタ・ビームサーベル』を柄の部分で連結させた『アンビデクストラス・ハルバート』状態で展開し、背部に搭載されたリフター『ファトゥム-00』をパージすると其の上に乗って連合の新型機へと突撃して行った。
ファトゥム-00はタダの高機動用のバックパックではなく、本体から分離させての遠隔操作及び自律AIによるオート運用が可能であり、ファトゥム-00自体にも『フォルクリス機関砲』、『ケルフス旋回砲塔機関砲』、『フォルティスビーム砲』が搭載されており、無重力空間であればジャスティス本体との連携攻撃も可能となっている『独立兵装バックパック』とも言うべきモノなのだ。
重力下では本体との連携は行えないが、本体を乗せる事でバックパック時とは異なる戦い方を可能としており、実際にファトゥム-00に乗ってのジャスティスの突撃に連合の新型三機は虚を突かれギリギリで其の突撃を躱すのが精一杯だった。
しかし突撃を躱されたジャスティスはファトゥム-00の向きを変えると両肩のアーマーに搭載されたビームブーメランを抜いて放つ。


「ちぃ、なんだよコイツ……いきなり現れてうざってぇ!!」

「良いじゃねぇか、コイツも一緒にぶっ殺せばさぁ!!」

「お前、邪魔。」


ジャスティスの攻撃は言外に『俺は敵じゃない』と言う事をオーブの軍勢に伝えており、ジャスティスのパイロットの意を読み取ったキラはフリーダムを操縦してジャスティスの攻撃の隙を補うように攻撃し、更に其処にイチカのビャクシキが加わって三対三の構図となったのだが、ビャクシキとフリーダムの連携が見事なのは此れまで相棒として戦って来たイチカとキラだから当然としても、フリーダムとジャスティスの連携も見事であり、連合の新型三機を抑えるだけでけではなく、ビャクシキとジャスティスが新型三機を抑えている間にフリーダムはフルバーストを行って連合の戦力を削って行ったのだった。


「俺は……もう迷わない!!」



――キュリィィィィィン……キャリィィィィン!!



此処でアスランはSEEDを発動し、その圧倒的な機体性能をもってしてフリーダムとの連携で連合の新型三機を圧倒し、其れと同時に新型のパイロット三人には『限界』が来た事で撤退を余儀なくされたのだった。
カラミティのパイロットの『オルガ・サブザック』、レイダーのパイロットの『クロト・ブエル』、フォビドゥンのパイロットの『シャニ・アンドラス』は連合が開発した『生体CPU』と呼ばれる存在で、言うなれば『モビルスーツのパーツの一つ』として生み出された存在だ――そして其れはナチュラルとして誕生した人間に後天的な遺伝子操作と薬物投与によって生み出された存在であり、ある意味では連合が忌み嫌っているコーディネーター以上に自然の摂理に反する存在なのだが戦争に勝利する事しか考えていない連合にはその真実を見極める事が出来なかったのだろう。

何れにしても新型の三機が撤退した事で『此れ以上の戦闘は無意味』と悟ったのか、連合は此の場から撤退したのだった――オノゴロ島では更に激しい戦闘が行われていたのだが、其れもアークエンジェルが参戦した事で連合が撤退したのだが、オーブは壊滅寸前の被害を受けたのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE38
『アスラン~Who is the true reason you are fighting for~』










オノゴロ島での戦闘が終わった後、アークエンジェルの面々と、オノゴロ島での戦闘にM1-アストレイに乗って参加していたカガリは降下してくるジャスティスをじっと見ていた。
少なくとも敵ではないのは分かったのだが、誰が何の目的でやって来たのか、其れが分からなかったでこうしてパイロットが降りて来るのを待っているのだ。

地上に降り立ったジャスティスはコックピットを開くと、其処から降下用のワイヤーを垂らし、其れを伝ってパイロットが降りて来る――其のパイロットのパイロットスーツはザフト軍のモノであり、ジャスティスのパイロットはザフト兵であるのは間違いないだろう。


「……久しぶりだな、キラ。」

「……アスラン……!」

「本当に久しぶりねアスラン?」

「生きてたのか……お互いに悪運が強いな。」


そのザフト兵のヘルメットの下から現れたのはアスランだった。
カガリからアスランの生存を聞いていたキラは兎も角として、『イージスの自爆』と言う事だけを聞いていたカタナとディアッカは驚きながらもアスランが生きていた事を心底喜んでカタナは飄々と接し、ディアッカは軽口を叩いていた。
そんなカタナとディアッカをアスランは目だけで挨拶をすると再びキラと向き合い、キラもアスランから視線を外さない……其れは、一度は本気の殺し合いをしたとは言え嘗ての親友同士が再会した空気ではなかった。


「キラ、俺はプラントのザラ議長から直々に今お前が使っているモビルスーツ『フリーダム』の奪還を命じられている。
 そして先程の戦闘で俺がお前を助けたのはフリーダムを無事に奪還する為だったからだ。大人しくフリーダムを渡すなら俺は此れ以上何もせずにオーブから去る……と言ったらお前は如何する?」

「質問に質問で返すみたいで悪いけど、君はラクスに会っているねアスラン?
 フリーダムが強奪された事は当然プラントの最高評議会も知っている事ではあるけれど、僕がフリーダムに乗っている事を知っているのは、あの時一緒に居たラクスだけだ――そして君は彼女から僕がフリーダムに乗っている事を聞き、フリーダムのシグナルを追ってオーブに来た、違う?」

「……その通りだ。
 そして俺にはフリーダムの奪還だけでなく、フリーダムの強奪に係わった者達の確保または抹殺も命じられていた……議長が排除と言ったのは、つまりそう言う事なんだろう。」

「……殺したの?」

「殺してはいない……いや、殺せなかったと言うのが正しいか。
 そして自分がどれだけ薄っぺらい人間なのかと言う事を痛感させられたよ……彼女に『何のために戦うのか』と聞かれて、俺は答える事が出来なかった。
 ユニウスセブンが核攻撃され、其れによって母さんが死に、その悲しみと怒りが俺をザフト兵にしたんだが……戦いの中で俺は何のために戦うのか、其れを忘れてしまっていたらしい。
 だからこそお前に聞きたい……お前は何のために戦うんだキラ?」

「僕は……大切な人の為に、仲間の為に戦う――そして、可能ならば憎しみの連鎖を断ち切りたい。」

「その果てに考えたのが不殺か……だが、お前が不殺の戦いをしたところで戦場では死者は出る――穿った見方をすれば、お前の不殺の戦いは『自分は殺していない』と言う免罪符を手にするための戦い方とも言えるんだが?」

「そんな事は分かってるよアスラン……不殺の戦いなんて言うのは所詮は僕のエゴだ。
 だけど僕が不殺を行う事で1%でも戦場から生きて帰る事が出来る命が増えるなら、其れはきっと価値がある事だと思う……生きてるって事は、明日に繋がって未来を紡げるって事になると思うから。」

「そうか……」


暫しの問答の後アスランは目を閉じた。
其れは覚悟を決めたと言うよりも、キラの言葉を聞いて自分の決意がより固まった事を確かめるかのようだった。


「親友同士が、難しい話をするなって!」

「うわ!」

「カガリ!?」

「難しく考えすぎなんだよキラもアスランも!
 親友が生きてた、良かった。其れ以外に何があるんだ!こうして生きてまた会えたんだ、其れで充分だろ!」


其処にカガリがキラとアスランの肩を抱く形で参加し、少しばかり青臭いが、だからこそ真っ直ぐで何の混ざり物もない事を言ってくれて……キラもアスランもカガリの行動には驚いたが、其の言葉には思わず笑みを浮かべてしまった。
と同時に、カガリの言った事は正しいと思ってしまったのだった。


「理論とかそんなモノを宇宙の彼方に蹴り飛ばした感情の言葉ってのはどんな言葉よりも心に刺さるモノなのだって事を身をもって体験しているんだが、お前は如何だキラ?」

「其れに関しては同意見だよアスラン……でも、僕達が争う理由はもう無いよねアスラン?」

「……そうだな。此処からは俺もお前と共に戦わせてくれキラ。」

「うん……!」


そうして嘗ての親友は握手を交わして改めて親友となり、同時にオーブは核エンジンを搭載した現行では最強のモビルスーツ二機を有する事になったのだった――そしてすぐさまオーブ国内ではフリーダムに次いでジャスティスの機体解析も行われ、核エンジン以外の武装のデータを詳細に記録・保存してオーブの次世代機の開発に生かす事になったのだった。








――――――








一方でオーブから撤退した地球連合だったのだが、ドミニオンの艦内ではオルガ、シャニ、クロトの三人が特殊なポッドの中で『調整』を施されていた。
『生体CPU』である彼等は投薬と遺伝子操作によって普通の人間よりも高い能力を獲得するに至ったのだが、其の能力を十分に発揮するには特殊な薬を投与する必要があり、薬の効果が切れた際には再度薬を投与するだけでなく、其の都度同じ投薬量でより長い時間戦える様に調整が施されていたのだ。


「(コーディネーターを否定しておきながら、其の裏ではコーディネーターよりも忌むべき存在を生み出しているとは……連合は私が思っている以上に腐敗してしまっているのかもしれん。
  アラスカ基地では命令に背いてでもアークエンジェルに残った方が良かったのかもしれないが……其れは言っても仕方ないか。)」


ポッド内で苦しむ三人を見たナタルは『自分の選択は間違っていたのではないか?』とも思ったのだが、生粋の軍人である彼女は上からの命令には従う以外の選択は存在しなかったので、自分の考えは一旦思考の外に置く事にしていた。


「ミスター・アズラエル、彼等の存在はコーディネーター以上に許されない存在だと思うのだが……?」

「問題ない。
 彼等はナチュラルとして誕生した後に強化された存在であり、この世に生を受ける前に遺伝子操作をされたコーディネーターとは違う……まぁ、遺伝子操作だけでなく投薬による強化もしてはいるけど、其の薬物も違法なモノではないから問題はない。
 尤も合法とされているモノよりも10倍は強力なモノだけどね。」

「そうですか……!」



――バッキィィィィ!!!



しかしアズラエルの話を聞いたナタルは一泊の呼吸を置いたのちにアズラエルを本気の拳で殴り飛ばした――そして殴り飛ばされたアズラエルは壁まで吹っ飛ばされたのだ。


「イ、イキナリ何をするんだ君は!」

「申し訳ありません、頬に蚊が留まっていたので。」

「にしたってやり方があるだろう!なぜ拳!」

「平手よりも拳の方が空気抵抗がなく風圧が発生しにくいので蚊に避けられ辛いので。」

「ならもう少し手加減をしたまえ!」

「充分しましたよ。私が本気で殴っていたら頬骨が砕けて殴られた側の歯は全て折れています。」

「馬鹿な……」


当然アズラエルは抗議したのだが、ナタルの拳にはモノの見事にぺしゃんこになった蚊が存在してたので、ナタルの弁明を否定する事は出来ず、殴られた事に抗議はすれど、本気で殴られていたら顔面崩壊してたと言う事を知って戦慄していた。
同時にナタルの心の奥底には少しばかり後悔の念が生まれていた――あの時アークエンジェルと共に行っていればと言う思いが此の状況で沸々と湧き上がって来ていた。
もしも彼女にモビルスーツのパイロットとしての能力が備わっていたら、新型を一機奪ってアークエンジェルへと向かっていた事だろう。

加えてドミニオンの艦長を務めている彼女ではあるが、基本的な命令はアズラエルが下しており、ナタルは『お飾り艦長』のような状態になっており、やり辛さも感じていた。
もっと言うのであればアズラエルは軍人ではないので立案する作戦の質が低くそして見通しが甘い部分があるのは否定出来なかった――『甘い』と言う点ではマリューも甘い部分はあったのだが、其れはあくまでも『軍人の判断としては甘い』と言うべきモノであって、実際にはマリューの指示は一見甘く見えるモノの周辺環境なども考慮したベストではないがベターなモノであり、其のベターな選択を続けた末にアークエンジェルはアラスカ基地に辿り着く事が出来たのだからマリューは指揮官として優秀だった。其れをナタルは感じずにはいられなかった。


「(ムルタ・アズラエル……政治手腕は優秀なのだろうが、だからこそ前線には出て来てほしくない人間だ……戦いの素人が前線に居ると言うのは現場の兵士の士気の低下にも繋がり兼ねないからな。
  果たして連合はこの先どうなってしまうのだろうな……)」


活動時間に制限がある新型モビルスーツのパイロット達と『ブルーコスモスの盟主』と言う立場をもってしてドミニオン内にてその権力を振るっているアズラエルにナタルは連合の未来を憂慮せずにはいられなかった。








――――――








オーブのオノゴロ島にてキラとアスランは互いの意見をぶつけ合い、其の結果カガリが割って入って、アスランはアークエンジェルに身を寄せる事になった。
そしてアークエンジェルでは『良い時間になった』との事でランチタイムとなったのだが、此処でもアスランは驚く事になった。
アークエンジェルのランチタイムとなれば、当然其れを作るのはアークエンジェルの料理長も務めているイチカであり、本日のランチメニューは『紅サケと三種のキノコの炒飯イクラ乗せ』、『中華三種盛り(バラチャーシュー、ザーサイ、ピータン)』、『青椒肉絲』、『中華風春雨スープ』だった。
プラントでも中華料理は食べられたのだがアスランはプラントで食べたどんな中華料理よりも美味なイチカの料理の腕前に戦慄し、同時にアークエンジェルの食事事情は充実していると実感し、数で劣るアークエンジェルが此処まで戦ってこれたのは此の食事があればこそだったのかもしれないと考えていた。
食の質は兵士の士気にダイレクトに影響を与えるのでその考えはあながち間違いとも言えないだろう。

その食事後、カタナ、アスラン、ディアッカの『ザフト赤服組』はアークエンジェルの甲板に集まっていた。


「元が付くとは言え連合の艦船であるアークエンジェルの一員として戦うって事は、私達三人はプラントやザフトから見れば見事に反逆者になった訳ね……でも、後悔はしてないけれど♪」

「反逆者か……そう言えばそうなるんだよな俺達って……少なくともザフトの認識じゃアークエンジェルは連合の船なんだろうからな――んで、お前はこれで良かったのアスラン?親父さん、今のプラント最高評議会の議長なんだろ?
 最高評議会議長の息子が離反したとかとんでもねぇスキャンダルになるんじゃねぇの?」

「だろうな……だが、其のスキャンダルで父さんが失脚するなら其れでもいいさ……母さんが死んでしまってから父さんは俺以上に壊れてしまった。
 ナチュラル憎しの感情に囚われて冷静な判断が出来なくなっている……更に悪い事にNジャマーキャンセラーを実用化してしまったからな……最悪の場合はユニウスセブンの報復として地球を核攻撃しかねない……そうなる前に父さんからは権力を奪っておいた方が良いかも知れないからな。
 尤も、自分に不都合な報道は揉み消す事も今の父さんには可能かもしれないけど。
 其れよりも、カタナもディアッカも如何してアークエンジェルの一員としてさっきの戦闘に参加したんだ?」

「別に大した事じゃねぇさ……アークエンジェルの奴らを死なせなくない、そう思っただけだ。
 ナチュラルってのはコーディネーター相手には何処までも冷酷になれる連中だと思ってたんだが、アークエンジェルの奴らはそうじゃなかった……俺に憎しみを向けて来た奴ですら、俺が撃たれそうになった其の時は庇ってくれたからな。」

「私はイチカとの過去の事があるからかしらね……信じられないかもしれないけれど、私とイチカは所謂『前世の記憶』とも言うべきモノを持っていて、私と彼は前世では恋人同士だったの。
 だけど前世では悲劇的な別れをして……そして今この世界で再会したのよ――イチカを喪いたくない、だから私はこちら側に来た。其れがプラントに対する裏切りだとしてもね。」

「カタナ……お前の理由が想像以上に重かった事に驚いてるが……つまるところは自分の真の戦う理由を見付けた、そう言う事か――どうやらアークエンジェルは『己の戦う理由を持つ者』が集まる場所みたいだな。
 俺も俺の戦う理由を見付けた結果此処に居る訳だからな……だが、お前達とまた一緒に戦う事が出来るのは嬉しいぞカタナ、ディアッカ!」

「其れは私もよアスラン。」

「難を言えばイザークとニコル、カンザシも居れば最高だったんだが、其れは言っても仕方ねぇからな……息を合わせて行こうぜ!」


其の甲板で赤服三人は夫々の戦う理由を述べた後に改めて共に戦う事を決め、手を重ねた後に其れを大きく振り下ろし、其れからハイタッチをして改めてアークエンジェルの一員として戦う事を決意するのだった。

そして其れと時同じくして、オーブには再び連合の大部隊が迫っており、後に『オーブ解放戦』と呼ばれる事になる戦いまで秒読みの段階となってのだった。








――――――









「マユちゃんが生き残ったのは許容範囲内だから問題なしとして、ナーちゃんは如何するかねぇ?
 正史だとあの戦いで死んじゃうんだけどナーちゃんが生きてたとしても大きな影響はないから此処は生かすべきかな?生きてたら生きてたでマーちゃんと一緒にオーブで暮らす事になるだけだからイッ君とカタちゃんの未来には特に影響はないからね。
 ムー君は……まぁ、私が何をしなくても最終的には生き延びるから放置で良いか……さてさて、いよいよ役者が揃って来て第一幕のクライマックスって所だね此れは。
 だけど第一幕はあくまでも前座に過ぎない……だけど、その前座も派手にやるとしようじゃないか!」


宇宙に浮かぶミラージュコロイド迷彩が施された移動ラボの中でタバネは現在の状況に満足そうな表情を浮かべると、『第一幕のクライマックス』を宣言してから改めてモニターに目を移した。
そしてその目にはイチカとカタナに対する『純粋な愛情』と、その愛ゆえに生まれてしまった『狂気』が同居した『妖しい光』が宿っていたのだった――














 To Be Continued