アークエンジェルが身を寄せた中立国であるオーブは一見すると平和そのものだったが、其の裏では地球連合からの協力要請が行われていた――其れ自体は以前からも行われていた事でありオーブはその都度中立国である事を理由に其れを拒否しており、此れまでは連合もオーブが中立国である事を考えて必要以上の協力を要請する事はなかったのだが、先のザフトとの戦いでパナマ基地が陥落し、宇宙に上がる為のマスドライバーを失った連合はなりふり構っていられず、実質的に連合を支配している大西洋連邦は、連合の母体組織とも言えるブルーコスモスの現盟主である『ムルタ・アズラエル』と共に次の策に打って出て、オーブに対して凡そ容認出来ない内容の要求を突き付けて来たのだ。
「此れは……オーブに国としての理念を捨てろと言っているのと同じではないか……!!」
其の内容を聞いたオーブの首長達を悩ませ、代表首長であるウズミを激高させるモノであった。
連合がオーブに対して突き付けた要求は大きく分けて二つ、『現政権の解体』と『武装解除』であり、『其れに応じないのであればザフト支援国家とみなし、武力で対峙する』と言う、『世界を敵と味方に二分して中立の立場は許さない』と言うモノであった。
当然オーブとしては此れは受け入れられない要求であるのだが、物量では連合の方が圧倒的に上なので真面に戦ったところで勝ち目はない――要求を飲んでも拒否しても『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず』のオーブの国の理念を貫く事が出来ないのは明白だった。
「ウズミ代表、如何したモノでしょうかな?
我が国と連合では戦力に絶対的な差があります故、真っ向から戦っても勝機は薄いでしょう……モビルスーツの性能では勝っていたとしても、数で攻められては……」
「うむ……とは言えむざむざやられる事も出来ないが連合に迎合する事も出来ん。
此処で連合の要求を飲んでしまったら、オーブは連合に良いように使われるようになってしまう……連合のモビルスーツ開発に協力したのはあくまでもオーブの防衛力の強化に繋がるからであり連合に迎合した訳ではないからな。
とは言え、此の状況ではどうにもならん……不本意ではあるが、此処はアークエンジェルに協力を求める事にしよう。
彼等の良心に付け込む形になってしまうが、彼等は二度も我が国に助けられているのだから協力を拒むような事はすまい……カガリには怒られるかもしれないが其れも甘んじて受けよう。国を守る為には形振り構っていられる状況ではないからな。」
だが此処でウズミが選んだのは『連合には屈しない』と言う道だった。
其れはつまるところ連合との戦いになる事を意味するのだが、ウズミは断腸の思いでアークエンジェルに協力を要請する事を提案し、他の首長達も其れを支持し、オーブは連合との戦いに舵を切る事になったのだった――其の選択がイチカの心に大きな傷を残す事になるとは誰も思わなかっただろうが。
「は~い、またまた俺の勝ち。此れで俺の五十連勝だなディアッカ?
モビルスーツの操縦技術なら未だしも、ゲームの腕前に関しては俺の方が圧倒的だぜ……修行して出直して来な、アンタじゃマッタクもって燃えないぜ。」
「恥も外聞もなく最強キャラ使ったのに何で勝てねぇんだよ!お前実は軍人じゃなくてプロゲーマーなんじゃねぇのか!?」
「西暦の時代の伝説の格ゲーテクニックって言われてるウメハラブロッキングをこの目で見る日が来るとは思わなかったわ……イチカの反応速度ってどうなってんのかしらね?」
「イチカはコーディネーターだから未だしも、そのウメハラ氏はナチュラルなのが凄いわ……きっと相当な鍛錬を積んだのでしょうね。」
そんな事になってるとはつゆ知らず、イチカ&カタナのコンビとミリアリア&ディアッカのコンビは街中で偶然出会い、其処から一緒に行動するようになってゲームセンターでゲームを満喫していた。
格闘ゲームではイチカがディアッカに五十連勝して圧倒し、エアホッケーではイチカとカタナのコンビが絶妙な連携を見せてストレート勝ちを収め、四人同時プレイ可能なガンコンシューティングゲームでは、イチカとカタナとディアッカが現役軍人の力を発揮して敵を初撃でヘッドショットしてノーダメージを貫き、ミリアリアもそのおかげでノーダメージでステージを進み、ラスボス戦では開始直後にイチカとカタナとディアッカによる弱点への連続攻撃が行われた事で、戦闘開始十秒後にラスボスは最終形態となったのだが、その最終形態も弱点を連続攻撃する事で秒で撃破してしまったのだった。
そしてゲームセンターの最後はプリクラで記念撮影をしてターンエンドとなり、一行はアークエンジェルに戻って行った。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE37
『決意の砲火~Outbreak of war&new friends~』
ウズミから協力要請を受けたアークエンジェルは、其れを受託したモノの、艦長であるマリューはクルーに対して『戦うか、退艦か、各々自身で判断する』様に促していた。
現在のアークエンジェルは連合の所属ではなくなり、ウズミの要請もあって暫定的にオーブ所属となっているのだが、だからと言ってクルーに戦いを強制する事も出来ないので、マリューは各々の判断に委ねたのだが、誰一人としてアークエンジェルから退艦すると言う選択はしなかった。
「そんな……如何して?」
「アンタ一人をアークエンジェルに残しておく事は出来ないって事でしょ?
でもって俺もその一人なんだが……実を言うと、俺は大分前からアンタに惚れてるんだぜラミアス艦長……いや、マリュー?」
「フラガ少佐!?……わ、私はモビルアーマー乗りは嫌いです。」
「なら、今の俺はモビルスーツ乗りだから問題ない。」
誰一人として退艦しなかった事に驚いたマリューだったが、其れ以上に驚いたのはムウが自身に好意を抱いてたと言う事だろう――マリューもムウには好意を抱いてはいたのが、其れを改めて認識させられると少しばかり気恥ずかしかった。
だが、ムウは少しばかり強引にマリューの肩を抱くと其の唇を奪った……『俺の好意が分からないなら分からせてやるよ』と言わんばかりのモノであり、下手したらカウンターのビンタも止む無しの行為ではあったが、当のマリューは唇が離れても満更ではなかったようで、アークエンジェルには新たに『大人のカップル』が誕生していた。
其れと並行して連合と戦う道を選んだオーブは、国民への避難勧告が行われ、国民は都市部、軍関係施設周辺から退去し、戦火に備えて防衛シェルターへの避難を開始していた。
と同時に、アークエンジェルは捕虜として収容していたカタナとディアッカの身柄を開放すると言う選択をしていた――連合の所属ではなくなったアークエンジェルにとってカタナとディアッカは捕虜ではなくなったので此処で開放する事になったのだ。
「つー訳で、アンタは自由だカタナ。此のまま何処かに逃亡するもよし、プラントに戻るもよしってな。まぁ、好きにすればいいが後悔だけはしないようにな。」
「そう、なら自由にさせてもらうわね……後悔しない選択をさせてもらうわ。」
「此れでアンタは自由。あとは好きにすれば良いんじゃない?」
「そうか……って、バスターは?」
「アレは元々こっちのモノ。ザフトにくれてやる理由はないでしょ?」
「そりゃそうだな、言われてみれば。」
こうしてカタナとディアッカは解放されたのだが、アークエンジェルから降りた二人はイチカとミリアリアと別れた後にプラント行きのシャトルの発着場には向かわずに、オーブ軍のモビルスーツ格納庫に向かって足を進めるのだった。
そしてミリアリアはアークエンジェルへと戻ったのだが、イチカは国民の避難状況の確認及び安全確保の為にアークエンジェルには戻らず、オーブ国内を廻り始めたのだった。
――――――
オーブが連合の要求を拒否した事で、連合はオーブに武力侵攻を開始した。
オーブの量産機であるM1アストレイを大幅に上回るストライクダガーに加え、新型の『フォビドゥン』、『レイダー』、『カラミティ』を有する連合は開戦直後から全力で攻めて来たのだが――
「思い通りにはさせない……!!」
――キュリィィィィィン……パリィィィン!
此処でキラはSEEDを発動すると、フリーダムのマルチロックオンを起動して、無数のストライクダガーを戦闘不能に陥らせたのだが、新型三機は落とす事が出来なかったので真っ向からの直接対決となっていた。
「うおぉぉりゃぁぁぁぁ!喰らえぇぇぇぇ!!」
其の戦いには『マルチプルアサルトストライカーシステム』によって『エール』、『ソード』、『ランチャー』の三つのストライカーパックを搭載した『パーフェクトストライク』も参戦しており、ムウは複雑化した装備に戸惑いながらも其の特化装備をもってして連合の戦力を悉く潰していた。
長大なレーザーブレード対艦刀と巨大なビームランチャーを同時に使いこなすとはムウの操縦技術の高さとセンスが見て取れるだろう。
「はぁ、はぁ、あと少しだ!がんばれ、シン、マユ!」
「もう少しだ……あそこまで行けば俺達は助かるんだ!だから頑張れマユ!」
「お父さん、お兄ちゃん……うん!」
そんな戦闘が行われている裏側では国民達が都市部から離れ、有事の際の防衛シェルターへと避難を開始していたのだが、避難が完了する前に連合からの攻撃が始まってしまい、現在オーブ国内では戦火の中、命懸けで避難を行っている国民達もいた。
非戦闘員であるオーブ国民の命を危険に晒す連合の攻撃は国際条約に違反しているのだが、連合は此の戦いでオーブを屈服させる事が出来ると考えており、オーブを取り込んでしまえばオーブ国民を戦火に巻き込んで殺した事など揉み消せると考えているのだろう。
上空で激しいモビルスーツ戦が行われている下では、一つの家族が避難している真っ最中だった。
父親と母親、そして少年と少女の四人家族はシェルターを目指して全速力で(勿論両親は子供達に合わせているが)走っており、兄である少年が妹である少女の手を引いていた。
「あ、マユのスマホ!」
「マユ、今はそんなモノは!」
「俺が取って来る!」
しかし避難中、少女は手にしていたスマートフォンを落としてしまい、少年は其れを拾いに一時少女と手を離したのだが、直後に少年には悲劇が起きる事になる。
少女のスマートフォンを拾いに行った直後だった。
「オイオイ、マジかよ……間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そんな絶叫が聞こえたと思った瞬間、少年の背後で凄まじい爆発が起き、其の衝撃で少年も数メートル吹き飛ばされてしまった――拾ったスマートフォンは放さなかったが少年は地面を数メートル転がる羽目になってしまった。
突然の事に驚いた少年は地面を転がった痛みを堪えて何とか立ち上がると、爆発が起きたのが自分の背後、つまり家族が居た場所だったと思い、その場に行くと、其処には変わり果てた姿となった両親の姿があった……不運な事に、フリーダムの放ったビームをフォビドゥンがミラージュコロイドを応用した『ビーム湾曲フィールド』で自機から軌道をずらし、そのビームが少年の家族が居た近くに着弾し、少年の両親は爆心地に近い場所に居た事で命を落としてしまったのだ。
「父さん、母さん……そんな……!
……マユ?マユは!?」
少年は目の前の惨劇に意識を失いそうになったが、妹である少女の姿がない事に気付いた。
「ギリギリだけど間に合ったぁ!!」
少年が少女の姿を探す中、近くの地面が盛り上がると其の中から全身土まみれになったオーブ軍の軍服を着た少年が現れ、其の腕には少女が抱かれていた――少年、イチカはギリギリのところで少女を爆心地から遠ざけ、若干生き埋めになったモノの少女の命を救ったのだった。
「そんでもって怪我はねぇ!よくやった俺!」
「嘘つくなよ!顔面血で真っ赤じゃないかアンタ!」
「俺は軍人だから怪我するのもある意味で仕事の内だからノーカンだ!少なくとも此の子に怪我はねぇよ。」
「あ、本当だ。」
少女を庇った際にイチカは右の額から眉間を通って左の目の下までを大きく切って大流血していたのだが、少女は気を失っているモノの掠り傷一つ付いていなかった――流れ弾ならぬ流れビームが着弾する刹那、イチカは一番幼い少女の命を守る事を選択したのだ。
他に人が居ればまた違ったかもしれないが、イチカ一人では助ける事が出来るのは一人なので、イチカは少女の命を優先したのだ――少女の未来を生かす事を選んだのだ。
「悪いな坊主、此の子しか助けられなかった……お前のご両親は……残念だが。」
「……マユだけでも生きててくれたんなら、俺は絶望には飲まれずに済みました……えっと、貴方はオーブの軍人さん、ですよね?」
「オーブ軍所属のイチカ・オリムラだ。お前は?」
「シン。シン・アスカです。」
「シンか、良い名前だ。取り敢えず俺に付いて来い。シェルターまで一緒に行ってやる。」
「は、はい!ありがとうございます!!」
そうしてイチカはシンと名乗った少年を防護シェルターまで送り届けると、其のままオーブの軍事基地に向かい、到着すると医療班に『消毒薬と止血剤と医療用のアロンアルファ』を持ってくるように言い、顔を洗って土を落とすと消毒薬で傷口を消毒し、止血剤で出血を止めると医療用アロンアルファで傷を強引にくっつけた後にパイロットスーツに着替えてビャクシキに乗り込んで出撃して行った。
こんな雑な傷の処理では顔に傷跡が残るのは確定なのだが、イチカにとってはそんなモノは些細な事なのだろう。
「さぁて、いっちょ暴れますかね!」
――キュリィィィン……パリィィィン!
ライトニングストライカーを装備したビャクシキで出撃したイチカは、オーブが危機的状況に陥っている状況にSEEDが発動し、雪片を双刃モードで展開するとライトニングストライカーの射撃能力と、雪片による変則的な近接戦闘でストライクダガーを次々と撃墜して行く。
そしてイチカの参戦と同時に……
「うふふ……此処からは私達も参加させて貰うわ!」
「連合が、お前達の好きにさせるかよ!!」
セブンソードストライカーを搭載したグラディエーターと、全ての火器を開放したバスターが参戦して来た。
アークエンジェルから降りたカタナとディアッカはオーブのモビルスーツ格納庫に向かい、『オーブに協力する旨』を伝え其処にあったグラディエーターとバスターに乗って戦場にやって来たのだった――カタナはイチカに、ディアッカはミリアリアに特別な感情を抱いていたからこそ、プラントには戻らず共に戦う道を選んだのだった。
「カタナ、如何して?」
『此れが私の選んだ道だからよイチカ!』
『アンタ……何で……』
「お前等を死なせたくねぇって、そう思っただけだ……俺に出来るだけの事をやってやるぜ……!」
ザフトでも選りすぐりのエースパイロットしか纏う事を許されない赤い軍服を纏った兵士、通称『赤服』であるカタナとディアッカの参戦はオーブ側にとっては有り難い話だろう。
しかも量産機ではなく試作機とは言えオンリーワンとして開発された機体を使っており、ヘリオポリスの一件から其の機体を使い続けている事で操縦にも慣れているので、戦力としては申し分なかった。
グラディエーターは空を翔けながらクラウド・オブ・ヘブンとシュベルトゲベールの二刀流でストライクダガーを斬り裂き、飛行能力を持たないバスターは参戦直後は地上での砲撃を行っていたが、現在はアークエンジェルの上に乗り『射角無制限の固定砲台』としてストライクダガーを撃ち落として行った。
連合はアークエンジェルから提出されたストライクの稼働データを元にストライクダガーの量産を行ったのだが、量産化を急いだ事でストライクの肝とも言えるストライカーパックがオミットされてしまい、ビームライフルとビームサーベル、実体シールドとアーマーシュナイダー、頭部バルカン砲のイーゲルシュテルンを装備した特徴のない汎用機となってしまい、空中戦に関してはほぼ不可能となっており、艦船からの攻撃や既存のモビルアーマーに乗って戦うかの二択で、数で圧倒しているからこそ戦局を優位に進める事が出来ていた。
其れに加えて新型の三機のモビルスーツの存在も厄介だった。
カラミティ、フォビドゥン、レイダーの三機はいずれもビームサーベルを搭載しておらず、また完全なシールドも搭載していない(カラミティとレイダーは一応シールドを搭載してはいるが、何れもビーム砲を搭載した複合装備であるので純然たるシールドとしての防御力は高くない)と言う欠点はあるモノの、オンリーワンの機体はストライクダガーとは性能が段違いであるのでオーブのM1アストレイでは対抗し切れていなかった。
其れでもキラは其の三機と互角以上に戦っていたのだが……
「(この角度だとコックピットに当たる……)」
此処でも不殺の戦いを行っていた事で少しばかり押されていた。
カラミティ、フォビドゥン、レイダーのパイロットは相手を殺す事に躊躇がなく、好機があれば容赦なく攻撃するのに対し、キラはあくまでも『殺さずに済むなら殺さない戦い』をしているので、性能では圧倒的に上回るフリーダムをもってしても圧倒する事は出来ていなかった。
其れでもキラはカラミティのビームをフリーダムのビームサーベルで斬り飛ばし、フォビドゥンの大鎌攻撃を白刃取りして腰部のレール砲を喰らわせたりと凄まじい活躍をしているのだが、そんな中でレイダーに搭載された巨大鉄球『ミョルニル』がフリーダムに向かって射出され、フリーダムも其れをシールドで防いだのだが、ミョルニルの質量によって体勢を崩され、大きな隙を晒す事になってしまった。
イチカやムウ、カタナやディアッカがフォローに回る事が出来ればよかったのだが、こちらは数えるのも面倒になるくらいのストライクダガーの対処に追われてしまいフォローが出来なかった。
その隙にフォビドゥンがフリーダムに迫るが……
――バシュゥゥゥゥン!!
その刹那、フリーダムとフォビドゥンの間に一筋のビームが走り、フォビドゥンは急停止を余儀なくされた。
此のビームのおかげでフリーダムは体勢を立て直す事が出来たのだが、体勢を立て直したフリーダムの前には見慣れないモビルスーツが現れ、フォビドゥンにビームライフルを向けていた。
「不殺、其れがお前の答えかキラ……」
其れはフリーダムの兄弟機として開発され、アスランがパイロットを務める事になったザフトの最新鋭機である『ジャスティス』だった。
To Be Continued 
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