アラスカ基地から一路オーブに向かっていたアークエンジェルは、三日間の航行の末にオーブ近海に到着し、其処でイチカがオーブ軍と通信を行い、オーブはアークエンジェルを自国に受け入れる事になったのだが、イキナリ本土に受け入れるのではなく、『オノゴロ島』に着陸するように指示し、アークエンジェルも其れに従いオノゴロ島に着陸した。

其のオノゴロ島には既にオーブの部隊がやって来ていたのだが……


「キラ?……お前、キラだよな?生きてたのか!!」

「カガリ……?」

「代表首長の一人娘がなんだって軍と一緒に此処に居るんだよ……」


其処にはカガリの姿があった。
『アークエンジェルがオーブにやって来た』と聞いたカガリはお目付け役のキサカに頼み込んで軍に同行させて貰っていたのだが、そのカガリはアークエンジェルから降りて来たメンバーの中にキラの姿を見付けると感極まったのか目に涙を浮かべた。
死んでしまったと思っていた親しい仲間が生きていたとなれば其れも致し方ない事であり、カガリは其のままキラに……


「はいはーい、気持ちは分かるけどキラにはフレイって言うれっきとした彼女が居るんだからハグは控えましょうね姫。」

「むべ!?」


抱き着こうとしたところをイチカのアイアンクローで阻止されてしまった……カガリの気持ちはイチカも分からなくはないのだが、流石にキラの恋人であるフレイの目の前で抱き着くのはフレイの気持ち的にもあまり宜しくはないと考えて阻止したのだ――咄嗟にアイアンクローが出たのは自分ではない自分の記憶にある『姉』の影響だろうが。


「いだだだだだだ!!は、放せイチカ!頭が割れる!!」

「ん?あぁ、悪い悪い少し力が入り過ぎた。
 だがなカガリ、頭が割れるならマダマダ生温いぜ?俺が知る限りの最強のアイアンクローは頭が割れるどころか頭蓋を粉砕するレベルだから……あの人が本気でアイアンクローブチかましたらモビルスーツの装甲も砕く事出来るんじゃないか?下手すりゃ生身でモビルスーツと戦えるんじゃねぇかな?」

「……どこの誰かは知らんが、そいつは人間なのか?」

「取り敢えず人間の姿ではあったな。」


アイアンクローから解放されたカガリは改めてキラと向き合うと『生きていてくれて良かった』と言ってその頬に触れると、キラも『心配させちゃったね』と言ってカガリの頭を撫でるのだった。

そうしてオノゴロ島に着陸したアークエンジェルはオーブ軍のM1アストレイ部隊に先導される形でオーブ本土に改めて入国し、アークエンジェルはドッグエリアにて修理・改修が行われる事になりクルーは一時的にアークエンジェルから降りる事になったのだが、此処で問題となったのが捕虜であるカタナとディアッカだった。
修理と改修を行うには捕虜もアークエンジェルから降ろす必要があるのだが、だからと言って捕虜を自由には出来ない……かと言ってオーブの捕虜収容施設に収容するのも難しいのだ。
オーブが自国防衛の為の戦闘に於いて発生した捕虜であるのならば収容出来るのだが、カタナとディアッカは『地球連合が捕らえたザフト兵の捕虜』であり、身柄は連合預かりとなっているのでオーブの捕虜収容施設に収容する事は出来ないのだ――収容してしまったら中立の立場を崩して連合に加担した事になってしまうから。

カタナとディアッカをどうするか、マリューは悩みに悩んだ末に『監視付きでアークエンジェルから一時的に降ろす』と言う選択し、カタナの監視役にイチカ、ディアッカの監視役にミリアリアが選ばれ、アークエンジェルの修理・改修が終わるまではカタナはイチカと、ディアッカはミリアリアと共に居る事になった。


「ま、そう言う訳だから宜しくなカタナ。」

「こちらこそ宜しくねイチカ♪」


「と言う訳で私はアンタの監視役になったから……下手な気は起こさないでよ?」

「アンタが俺の監視役か……OK、アンタに迷惑をかける事はしないって約束するぜ。」


尚、ミリアリアには拳銃とコンバットナイフが渡されたのだが、監視相手が男性である事を考えれば此れは妥当と言えるだろう――逆にイチカには何も渡されなかったのだが、イチカは日常的に刀と拳銃を携帯しているので問題なしだ。
こうしてアークエンジェルは連合とは完全に切れてオーブに身を寄せたのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE36
『神の雷~Superconducting Wave Thunder Force~』










「そっか……アスランは生きてたんだ。」


オーブに入国後、キラはカガリからアスランが生きていると言う事を聞かされた――イージスが自爆する直前にアスランはイージスから脱出し、海上に落下して浜辺に流れ着いたところをオーブ軍が確保し、捕虜収容施設で数日を過ごした後にプラントに戻ったと言う事を。


「アスランが生きてた事にほっとしたか?」

「うん、ほっとしたよイチカ。
 本気の殺し合いをしておいてって言うのは自分でも思うんだけど、僕はアスランが生きていて良かったと思ってる――と同時に、アスランが僕の生存を何らかの方法で知っていて欲しいとも思うんだ。
 僕が生きている事を知れば、アスランは『親友殺し』の十字架を背負わずに済むと思うから。」

「キラ、お前って奴は……何処まで優しいんだこの野郎!
 自分を殺そうとした相手の事を気遣うとか普通は絶対に出来ねぇからな!?此の優しさが尊い!マジで尊い!アイツ等には此の優しさの一割でも見習って欲しかったぜマジで。」


其れを聞いたキラはアスランが生きていたことに安堵していた――本気の殺し合いをしたとは言え、あの時のキラは友人のトールが殺された事で激情に駆られてアスランと戦ってしまっただけで、其れがなければアスランとガチンコをする事は無かったのだから。
其処でイチカが若干意味不明な事を言っていたが、其れは自分ではない自分の記憶によるモノなのだろう。


其の後は夫々のフリータイムとなったのだが、ディアッカがミリアリアの監視の下で少し気まずい思いをする事になったのとは異なり、カタナはイチカと共にオーブの街を楽しんでいた。
カタナは無一文状態なのでウィンドウショッピングになるのだが、オーブのブティックやアクセサリーショップにはプラントでは見れない服やアクセサリーもあったので、見るだけでも充分に楽しめていた。


「此のネックレス、綺麗だけど流石に良い値段だから手が出ないわ……女の子なら憧れる逸品よね。」


そうして訪れたアクセサリーショップにて、カタナは銀製のチェーンに翼を模した純銀のアクセサリをあしらったネックレスに魅かれていた――デザインはシンプルなのだが、だからこそ目を引く、そんな感じだった。


「カタナ、其れ欲しいのか?」

「良いデザインだから魅かれたけど、捕虜には分不相応よね?」

「捕虜ねぇ……少なくとも俺は連合の軍人じゃないし、アークエンジェルももう連合の艦船とは言えないから、果たして其処に収容されてたザフト兵のお前を捕虜と称して良いのかは正直疑問があるんだよなぁ。
 敵国の兵だから捕虜になる訳で、オーブは別にプラントと敵対してる訳でもないからな……そもそも俺が監視役として付いているとは言えこうしてオーブ国内を自由に歩く事が出来る時点で捕虜とは言い難し。」

「其れはそうかもしれないけれど……」

「だろ?だから分不相応なんて事はないと思うぜ俺は。寧ろカタナには似合うと思うから……俺からプレゼントするよ。お互いに前世の記憶みたいなモノを持った状態で再会した記念にさ。」

「えぇ!?そ、そんな悪いわよ流石に!決して安いモノでもないし……」

「大丈夫大丈夫、こう見えて懐事情は潤ってるから。
 尉官だから給料は割と良いし、任務の危険手当があるし、スポーツクジでも絶賛十連勝中、宝くじで十万当てたからな――此の幸運が反転した不幸が来るんじゃないかって不安はあるけどさ。」


其のネックレスはイチカが購入してカタナにプレゼントする事になった――前世とも言える記憶では恋人であっただけに、イチカとカタナは此処数日で急速にその距離を縮めていたのだった。
カタナは無一文でもイチカには金があるので、其の後はイチカが行き付けのラーメン屋で昼食となったのだが、其処でもカタナは懐かしさを感じた……前世の記憶でも更識楯無は織斑一夏が行き付けだった屋台のラーメン屋に連れて行って貰った事があったから。
世界を越えて再会したイチカとカタナは確実に其の絆を深めていた。





一方でミリアリアとディアッカもまたオーブ国内を巡っていたのだが、初めて訪れたオーブはディアッカにとっては新鮮なモノで溢れていた。
コーディネーターとナチュラルが共存していると言うのがその最もたるモノだが、魚を生で食べる食文化、差別や偏見がない世界、広場でボール遊びをする子供達……其れはプラントでは見られなかったモノだったから。


「えっと、アンタの事なんて呼べばいい?」

「親しい相手はミリィって呼ぶわね……だけど、アンタにそう呼ばれたくはないわ。少なくとも今はね。」

「だよなぁ……なら、ミリアリアならいいか?」

「まぁ、其れなら。」

「そんじゃあミリアリア、良いところだなオーブって。
 コーディネーターとナチュラルが争わずに共存してるとか、今の世界情勢じゃ夢みたいな光景だ……けど、きっとこれが本来あるべき世界の姿なんだよな。
 俺もザフトに入隊してから『ナチュラルは敵だ』って教えられて来たから何の疑問もなく『ナチュラルは倒すべき相手だ』って思ってたんだが、其れは間違いだったって、オーブを見て思ったぜ。
 きっとコーディネーターにもナチュラルにも、最初から敵はいなかったんじゃないかって、そう思った。」

「だけど、ナチュラルとコーディネーターの対立を加速させたのはナチュラルなのは間違いない。
 連合がユニウスセブンを核で攻撃しなかったら戦火は此処まで拡大しなかったと思うから……正しい戦争は存在しないって言うけど、此の戦争って正にその通りなんじゃないかしら?
 増して連合は、アークエンジェルを捨て駒にしてまでザフトを壊滅させようとしたんだし。」

「其れを聞くと、マジで何が正しいのか分からなくなって来るよな……時にこんな事言うのもアレなんだが……腹減った。」

「アンタねぇ……まぁ、良いわ。いい時間だからお昼にしましょう。」


此方は此方でイチカとカタナとは異なる絆を紡いでいる様だった。
因みにミリアリアとディアッカのランチタイムは、ミリアリアお勧めの定食屋で、其処でミリアリアは一番人気の『カツ丼』を二人前注文したのだが、ディアッカは生まれて初めて食べたカツ丼の美味しさに感激していた。


「う、旨い!なんだ此れ、プラントでも食った事ねぇぞ!
 サクサク感を残した衣が甘辛い汁を吸って程よくしっとりしたのを半熟の卵が包んで旨さを倍増させてる……でもって、其の汁を吸った米が絶品すぎる!」

「具材の汁を吸った米が丼モノの真骨頂だから。」


そんな感じでミリアリアとディアッカもオーブの市街地を見て回り、その途中で立ち寄ったゲームセンターではディアッカが格闘ゲームの対戦台で五十連勝を達成してランキングに名を残していた。

そんな中でアークエンジェルはオーブにて修理と改修が行われていたのだが、クルーは割と平和な時間を過ごしてのだった。








――――――








イチカがカタナと、ミリアリアがディアッカとオーブ国内を散策してた頃、オーブ軍の演習場にてキラはフリーダムに搭乗して一機のモビルスーツと模擬戦を行う為に相対していた。


「えっと、本当に僕とフリーダムが相手で良いんですかムウさん?模擬戦ならM1の方が性能的な差がないと思うんですけど……」

『そうかもしれないが、イキナリ最強クラスとやった方が俺は良いんだよ。
 モビルスーツの操縦技術ではお前の方が俺よりも遥かに上だからな?模擬戦でも格上とやった方がモビルスーツの操縦も身に付くってモンだぜ!』


「ムウさんが良いなら良いんですけど……」


その模擬戦の相手は以前自分が搭乗していた『ストライク』だった。
イージスの自爆攻撃を受けて大破したストライクだったが、其の機体はオーブ軍が回収してフルレストアし、更にナチュラル・コーディネーター兼用の新OSを開発して搭載した事で、キラ以外のパイロットでも操縦出来るようになっていたのだ。
当初オーブは此のストライクを自国のエースパイロット専用機にしようと考えていたのだが、誰に渡すのかを決める前にアークエンジェルがオーブにやって来た事で、本来の所属であるアークエンジェルに渡す事となり、しかしアークエンジェルのモビルスーツパイロットは現状ではイチカとキラしか居なかったので急遽ムウが新たなストライクのパイロットとなったのだった。

ムウはモビルアーマーのパイロットとしては最強クラスなのだが、モビルスーツのパイロットとしてはルーキーなので、モビルスーツの操縦を覚えるべくキラと模擬戦を行う事になったのだった――因みにフリーダムの性能はストライクの三倍以上なので模擬戦とは言えムリゲーも良いところなのだが、模擬戦と言う事でキラが手加減をしたとは言え、ムウは全てのストライカーパックを使ってキラと戦い、此の模擬戦で完璧にモビルスーツの操縦と言うモノを身に付けていたのだから凄いと言う他ないだろう。

『不可能を可能にする男』と言うのは、あながち過大な自己評価と言う事ではないのかもしれない。








――――――








アークエンジェルはオーブに身を寄せた一方で、オペレーション・スピッドブレイクで地球にやって来ていたザフト軍は作戦が失敗に終わった事で戦力を持て余していたのだが、ザフトは地球に残された宇宙進出の為の『マスドライバー』を落とす為にパナマの大地に集結していた。

其の裏で、地球連合はオーブに対して『中立ではなく連合に協力せよ』との圧力をかけていた――だがしかし、オーブは連合の圧力に屈する事はせずにあくまで中立の立場を貫いていたのだが。


其れは其れとして、パナマの大地に集結したザフトの部隊は一斉に攻撃を開始し、其れに対し連合はギリギリで量産に漕ぎつけた『ストライクダガー』で応戦する。
アークエンジェルから齎されたストライクの戦闘データを元に製造されたストライクダガーはオリジナルのストライクと比べると性能面では大きく劣るのだが、ストライカーパックの換装によるエネルギーの補充はザフトにはないモノであり、更には絶対数で連合はザフトに勝るので戦局は連合が優位だったのだが、此処でザフトは電子兵器を無力化する新兵器『グングニール』を投入し、其れによって連合はモビルスーツをはじめとしたあらゆる兵器が機能停止に陥ってしまったのだ。

ザフト軍のモビルスーツはヘリオポリスで強奪した機体も含めて、グングニールの影響を受けないシステムが組み込まれていたので普通に動く事が出来ていたので、機能停止に陥ったストライクダガーはタダの的に過ぎなかった。

その時点で此の戦いはザフトの勝利であり大多数のザフト兵は投降した連合の兵士を捕虜として捕らえたのだが、強硬派であるパトリックの思想に共感するザフト兵は投降した連合の兵士達に発砲し、其の命を奪っていた。


「降伏の意を示した相手を殺すとは……復讐心に囚われてザフト兵としての誇りを忘れたか……!戦う意思のない相手を殺すとは、其れはもう戦争ではなくタダの虐殺だろうが……!!」

『イザーク……確かに、此れはタダの虐殺。凡そ容認は出来ないよ。』

「カンザシ……俺は認めん、こんなモノが戦争であるとは!
 戦争の根幹にあるモノは怨恨だが、怨恨のみで戦ったら其れはタダの復讐の連鎖を生むだけだろうに……いや、プラントも連合も此の戦争での落としどころが分からないからこそ、こうなってしまっているのか……!」

『その可能性は大きいかも知れない。』


その光景を見てイザークはパトリックの思想に共感したザフト兵に対してある種の嫌悪感を覚え、通信が繋がっていたオペレーターのカンザシもイザークの気持ちに共感していた。

其れは其れとして、連合はアラスカ基地での自爆攻撃が失敗した挙句に、第二の大基地であるパナマ基地が陥落した事で動揺し、其の動揺がオーブに対して『有り得ない要求』を行う事となり、其れが凄まじい戦闘へと発展する事になるのだった。











「此れが私が艦長を務める戦艦ですか……」


同じ頃、転属を命じられた元アークエンジェルの副艦長の『ナタル・バジル―ル』は新たな配属先で『アークエンジェル級二番艦』である『ドミニオン』の艦長となっていた。
そしてそのドミニオンには、連合が新たに開発した『第二期GAT-Xシリーズ』の『カラミティ』、『フォビドゥン』、『レイダー』の三機と、十機以上のストライクダガーが配備され、完全に『対プラントの最終兵器』と言う様相となっていた。


「其れではその手腕に期待しているよナタル艦長。」

「その期待に応えられるように善処しますよアズラエル代表。」


更にドミニオンには地球連合の母体組織である『ブルーコスモス』の現最高指導者である『ムズタ・アズラエル』も搭乗しており、ナタルはアズラエルの『選民思想』に辟易しながらも、ドミニオンを戦場に送り出すのだった。














 To Be Continued