ラウ・ル・クルーゼの駆るシグーが強襲し、イチカがビャクシキに、キラがストライクに乗って応戦に出たのと同じ頃、ヘリオポリスには一機の連合製の宇宙用モビルアーマーが到着していた。
そのモビルアーマーの名は『メビウス・ゼロ』。
有線式の多角攻撃兵装『ガンバレル』を搭載した機体で、その真価を発揮するには高い空間認識能力を持ったパイロットが搭乗する必要があるのだが、その真価を引き出す事が出来れば、通常のモビルアーマーならば不利な戦闘となるモビルスーツとの戦闘でも互角に渡り合う事が出来る機体だ。
そのメビウス・ゼロを操縦しているのは、此の機体でザフトのモビルスーツを五機も撃破した経験のある連合のエースパイロットで、『エンディミオンの鷹』の異名を持つ『ムゥ・ラ・フラガ』だ――『連合製のモビルスーツの搬送の護衛』の任務だったのだが、ヘリオポリス到着早々にその任務は変更されてしまった事になった。


「オイオイオイ、人様のモノを横取りしてくってのは如何かと思うぜザフトの皆さんよ?……まぁ、数で勝る連合がモビルスーツを開発しちまったら、モビルスーツの存在で優位を保っていた現状が崩れちまうから強奪も理解は出来るけどな。
 てか、逆の立場だったら俺だってそうしてただろうさ……だが、奪われて其のままでお終いとは行かないぜ――特に、お前が居るなら尚更だクルーゼ!」


ムゥはメビウス・ゼロのブースターを最大出力で起動してモビルスーツの強奪現場へと向かう――同時に、ムゥはラウの存在を感じ取っていた。
此の二人は此れまでも何度か戦場で出会っているのだが、初めて戦場で出会ったその時から互いに相手の存在を感じ取ると言う不思議な感覚を覚えており、そのせいか互いに何か因縁めいたモノを覚えていた。


「ほう……貴様も来るのか、ムゥ・ラ・フラガ……!」


当然ラウもまたムゥの存在を感じ取り、口元に笑みを浮かべる。


「だが貴様が到着するまでにはまだ少しばかり時間が掛かりそうだ……なれば先ずは、連合のモビルスーツが如何程か、お手並み拝見と行こうか?」

「キラ、此処はオーソドックスな連携で行くぞ。
 俺が前衛、お前が後衛だ――そんでもって、狙えると思ったら俺ごとでも構わないから迷わず撃て。そのリニアバズーカは実弾兵器だから、PS装甲搭載してるビャクシキなら無効にした上でシグーだけにダメージ与えられるからな。」

「でも、ダメージは無効化出来ても着弾の衝撃は無効化出来ないんじゃ……」

「重力訓練で7Gまでは余裕で耐えられるようになってるから、リニアバズーカの着弾の衝撃程度は屁のツッパリにもならねぇっての。」

「……イチカって人間だよね?」

「モビルスーツを操作しながらOS書き換えたお前が其れを言うか?」


迫りくるシグーに対しストライクがゲイボルグを発射し、ビャクシキが雪片を双刃状態で展開して斬りかかり、シグーはゲイボルグの一撃を回避しビャクシキの雪片での斬撃を28mmバルカンシステム内装防盾で防ぐ。
数の上では二対一でイチカとキラに分があるが、実戦経験の豊富さではラウの方が圧倒的に上である為、数の有利で押し切るのは難しいと言えるだろう。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE3
『Entfesselte wahre Kraft trifft auf Schicksal』










戦闘が始まって数分、ラウはビャクシキとストライクのパイロットに舌を巻いていた――特にストライクのパイロットであるキラに。
ビャクシキは徹底的に近接戦闘を仕掛けて来るだけでなく、ビームサーベルの双刃形態と二刀流形態を使い分けて変幻自在の攻撃を行っており、此れだけでもラウには驚くべき事だったが、ストライクのゲイボルグによる射撃がドンドン精度が上がっている事には其れ以上に驚かされた。
戦闘が始まってすぐの頃は狙いが甘く無駄弾も多かったのでパイロットがモビルスーツの運用経験がない素人である事は即分かったのだが、其れが僅か数分で狙いが正確になり無駄弾も無くなって来たのだから。
そしてストライクの動きが良くなるにつれてビャクシキとの連携も堂に入ったモノになっているのだった。


「機体の性能も然る事ながら、パイロットの腕も大したモノだが――トリコロールカラーの機体を操っているのはもしや……だとしたら、何と言う運命のイタズラか!!」


だが、其れでも百戦錬磨のラウには充分対処出来るモノであり、決定打を貰わないようにするなどと言うのは造作もない事だった。
とは言えシグーに搭載されている武装は実弾兵器と実体剣なので、『機体エネルギーと引き換えに物理攻撃を無効にする』PS装甲に決定打を与える事は出来ず、互いに決定打を欠いた状態になってしまっているのだが。


「此のままじゃ埒が明かねぇな……つっても相手もプロの軍人で、しかも隊長クラスとなると俺の考えなんぞは簡単に読まれちまうよなぁ?
 つー訳で、何かいい案思い付かないかキラ?軍人じゃないお前が考えた一手ならビギナーズラックでワンチャンあると思うんだよ――こう言っちゃなんだが、セオリー度外視の素人の一手はプロにぶっ刺さる事って少なくないからな。
 ぶっちゃけると、将棋やチェスのAIに駒の動かし方しか知らない素人をぶつけたら、セオリーから外れた動きにAIの方がパンクするんじゃないかと思ってる。」

「其れは無きにしも非ずかもしれないけど、でもそう言う事なら……『      』で『     』って言うのは如何かな?」

「……成程、其れは案外行けるかもな。」


そんな状況の中、ストライクは腰のホルダーからアーマーシュナイダーを取り出すと其れをシグーに向けて投擲し、其れと同時にビャクシキがシグーと距離を取ってビームライフルを放ち、ストライクもゲイボルグを放つ。
シグーはアーマーシュナイダーを重斬刀で叩き落したが、放たれたビームと電磁レール弾はマッタク持って狙いを外して明後日の方向に飛んで行った。


「私がナイフ投擲を避けると予想して回避先に攻撃したと言ったところかな?だが、残念ながらその予想は外れだったと言わざるを得ない。」


投擲したアーマーシュナイダーをシグーが避ける事を想定し、回避先を予想して放った攻撃であったのならば恐らくは命中していただろうが、ラウはアーマーシュナイダーを避けずに叩き落したので、其の攻撃は無駄弾となった――否、なる筈だった。
シグーを捉える事の無かったビームと電磁レール弾だったが、其れはシグーの背後にあった工廠に電力を供給していた送電線を引き込んでいた鉄塔に命中し、其れを喰らった鉄塔は中腹から折れてシグーに倒れ掛かって来たのだ。
此れこそキラが提案した策だった。
モビルスーツでの攻撃は対処されるのならば其れ以外の何かを利用すれば良い――戦場にて使えるモノは全て使うのは基本ではあるが、よもや鉄塔をぶち折って敵機の上から落とすなどと言うのは生粋の軍人では……生粋の軍人だからこそ思い付く事ではないだろう。


「なんと、本命は此れか……大胆な事をしてくれる!!」


その鉄塔攻撃はギリギリで回避したラウだったが、仮面の奥の素顔には冷や汗が流れていた――連合が開発したモビルスーツの性能がドレほどのモノを確かめる心算で、その性能を確かめたら撤収する予定だったのだが、予想だにしていなかった『強敵』の存在がその予定を御破算にしてしまったようだ。


「避けられちまったが今のは惜しかったな……しかしなんだな?市街地での戦闘となったら、敵機の頭上から何か落とさないと気が済まないのかねぇ作者は……隻腕の軍神殿と比べりゃマダマダかも知れないけどよ。」

「イチカ、隻腕の軍神って誰?」

「あ~~……変な電波受信しただけだから気にすんなキラ。」


キラが提案した『鉄塔落とし』も決定打にはならなかったモノの、此の鉄塔落としによってラウの思考に『次は一体何が来るのか?』との考えを刻み付ける事は出来たと見て間違いないだろう。
奇策とはあくまで初見殺しで二度目はないのだが、逆に言えばだからこそ『また来るのではないか?』と考えてしまい、其方に意識が向いてしまう一面があるのだ。
とは言っても、互いに決定打を欠く状態なのは変わらずだった。
変わらずだったのだが――



――ドッガァァァァァァン!!



突如崩れ去った工廠から何かが飛び出して来た。


「アレはロケット?……いや、巨大なニンジンだと!?」

「イチカ、ニンジンって空を飛ぶものだったっけ?……其れ以前にあんな巨大なニンジンがある事に驚きかな?……絵本の『大きなカブ』のニンジンバージョンなのかなアレは?」

「んな訳あるかぁ!……このぶっ飛んだロケット――タバネさんだな?」


其れは巨大なニンジン型のロケットだった。
そしてこのニンジン型ロケットが工廠から飛び立ったのと同時に、ビャクシキとストライクのモニターにはあるメッセージが届いていた――そのメッセージには、『ワッハッハ、大変な事になったねイッ君?そして運命に巻き込まれた少年?……そんな君達に、タバネさんから素敵なプレゼントを送らせて貰うよ!』と記されていた。


「え~と、此れは一体如何言う事なのイチカ?」

「其れは聞くなキラ……正直タバネさんの事は俺も良く分からん。
 だが、タバネさんからのプレゼントってのは期待して良いと思うぜ!」


そのニンジン型ロケットから小型の輸送機が二機射出され、一機には姿勢制御用ウィング四枚、ジェットエンジン四基、ロケットブースター二基が搭載された兵装が搭載され、もう一機には大型のビーム砲、ガトリングとガンランチャーのコンボユニットが搭載されていた。
此れこそがビャクシキとストライクの真価を発揮する為のモノだった。
姿勢制御用ウィング四枚、ジェットエンジン四基、ロケットブースター二基が搭載された兵装はビャクシキ専用のバックパック『オオタカ』で、大型のビーム砲、ガトリングとガンランチャーのコンボユニットが搭載された兵装は、ストライクの専用バックパックである『ストライカーパック』の一つである遠距離砲撃型に特化した『ランチャーストライカーパック』だった。
そして専用のバックパックを装備した事でビャクシキとストライクは其の真の力を発揮する――バックパックには大容量のバッテリーが搭載されているので、其れを装備するだけで機体のエネルギーを補充出来ると言うのも利点と言えるだろう。


「此れは最高のプレゼントだぜタバネさん!」

「この装備なら行ける……!」

「キラ、ゲイボルグ寄越せ。その装備だと、逆に邪魔だろ?」

「あ、うん。」


遠距離型のランチャーストライカーパックを搭載したストライクにはゲイボルグは無用の長物だった――コストパフォーマンスで言えばランチャーストライカーのメイン武装である『超高インパルス砲アグニ』よりも絶対的に優秀なのだが、此処はコストパフォーマンスよりも威力を選んだと言う事なのかも知れない。
そのゲイボルグはビャクシキに渡されたのだが、此処でイチカはトンデモナイ事をしてくれた。


「スペシャルゴールデン乱射ってなぁ!避けられるモノなら避けてみやがれおんどりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


ゲイボルグをシグーに命中する事を度外視して超連射したのだ。
ビームライフルは機体の掌のコネクターから本体のエネルギーを使って発射されるので連続で使用すれば機体エネルギーはあっと言う間に消耗してしまうのだが、実弾兵器のゲイボルグならば残弾がある限り機体エネルギーとは関係なく攻撃出来るので、PS装甲が搭載されていない機体に対してはビーム兵器以上に有効な攻撃手段である訳なのである。


「今度こそ、逃がさないぜクルーゼ!」

「ようやくお出ましかムゥ!」


更に此処でムゥが駆るメビウス・ゼロが参戦し、ガンバレルによる攻撃を行ってシグーの動きを制限する。
真の力を発揮出来るようになったビャクシキとストライクに加え、ムゥが操るメビウス・ゼロも参戦した事でラウは一気に窮地に立たされる事に――ガンバレルによるオールレンジ攻撃で動きを制限された上でゲイボルグが乱射され、その合間に一撃必殺の破壊力を持ったビームが放たれるのだから。


「はいはーい、助っ人参上で~す!」

「急いで出て来たから聞く暇がなかったが、何故俺とお前だけが出てディアッカ達は待機なのか説明しろカタナ!」

「撤収する為だけに全員で出る必要はないでしょイザーク?……貴方を選んだのは、貴方がカンザシちゃんに相応しい殿方足るか見極める為、かしらね?」

「うむ、マッタク持って意味が分からん!!」


だが、其処にカタナの駆るグラディエーターとイザークの駆るデュエルがクルーゼの加勢に入り、其のままグラディエーターはビャクシキと、デュエルはストライクと交戦状態となる。
ビャクシキは雪片があるので近接戦闘は問題なく行えるが、ランチャーストライカーを装備したストライクの近接戦闘武器はアーマーシュナイダーだけであり、其れも先程の『鉄塔落とし』の布石として使ってしまったので、デュエルに近接戦闘を挑まれると絶体絶命なのだが、此処でまたしてもキラの常人離れした才能が発揮された。


「近接武器がないなら、其れを持ってる相手から奪えば良い!」


ビームサーベルで斬りかかって来たデュエルの攻撃をデュエルを飛び越える形で回避すると同時に、デュエルのバックパックに搭載されている二本目のビームサーベルを奪って見せたのだ。
ストライクのOSを自分用に書き換えたとは言え、モビルスーツでの戦闘が二回目となる素人に同じ事が出来るかと問えば、其れは絶対に否だろう――コーディネーターであるキラは、受精卵での遺伝子調整の際にプログラミングの技術だけでなくモビルスーツの操縦技術に関しても高くなるように調整されていたのかも知れない。


一方でビャクシキとグラディエーターもまた近接戦闘を行っていた。
雪片を二刀流状態で使うビャクシキに対し、グラディエーターも腰にマウントされた近接戦闘ブレード『ミステリアスレイディ』で応戦していた――ビームサーベルの雪片と実体剣であるミステリアスレイディでは、雪片の方が普通ならば有利なのだが、ミステリアスレイディは刀身に高周波振動ブレードを採用しているだけでなく、『対ビームコーティング』が施されているのでビームサーベルが相手でも互角に切り結ぶ事が出来ていたのだ。
機体性能もパイロットの技量も略互角であり、何方もマッタク退かない状況だったのだが――



――キュピーン!



その戦闘の最中、イチカとカタナは奇妙な感覚を感じた。


「(なんだこの感覚は?……俺は、コイツの事を知ってる?)」

「(なに、この感じ……私は君の事を知ってる?)」


イチカもカタナもお互いに顔も名前も知らない筈であるが、何故か互いに相手の事を知っているように感じたのだ――何故そう感じたのかはイチカもカタナも分かってないようだが。
其れはさて置き、戦局は膠着し、このままでは攻め切る事も退く事も難しい状況だが、此処でヘリオポリス内に存在していた山が爆発し、其処から巨大な何かが姿を現した――其れは、ザフトに強奪された『G兵器』と平行して造られていた連合の最新鋭の水空両用戦艦である『アークエンジェル』だった。








――――――








「うんうん、此処までは予定通りだね。」


薄暗い部屋にてモニターに映し出されたヘリオポリスでの現在の状況を見たエプロンドレスを身に纏い、頭にうさ耳型の機械を装備した紫髪の女性は満足そうに頷いていた。
彼女こそが、イチカにメールやら何やらを送り、挙げ句の果てにはビャクシキとストライクのバックパックを送った『タバネ・シノノノ』なのである。


「にしても、やっぱりいっ君とカタちゃんはお互いに覚えてなくても惹かれ合うんだね……ま、其れはそうか。
 何回やり直しても、君達は必ず結ばれて……そして悲劇を迎えたんだからね――だから、私は此の世界を選んだ。此の世界なら君達が悲劇を迎える事はないから。
 今度こそ間違えない……今度こそ、君達にハッピーエンドをプレゼントする。それが私の贖罪だからね……!」


彼女の言葉は誰にも聞かれず、只薄暗い部屋の中に溶けて行ったのだった。











 To Be Continued 







補足説明