オーブの資源コロニー『ヘリオポリス』の工廠にて発生したザフトの連合のモビルスーツ強奪事件。
休暇でヘリポリスを訪れていたオーブの軍人であるイチカは工廠内にあったモビルスーツ『ビャクシキ』を起動して工廠の外に出て、ザフトの量産型モビルスーツの『ジン』に向かって行ったのだが、其れと時を同じくして工廠内では、ヘリオポリスの工業ガレッジの学生であったキラ・ヤマトと、ザフトの赤服であるアスラン・ザラ――幼い頃に別れた切りになっていた親友同士がまさかの再会を果たしていた。


「アスラン……人のモノは盗っちゃダメだよ?」

「其れは、今言うべき事かキラ……!?」


モビルスーツの強奪現場に居合わせた事と、親友との予想外の再会と言う事態にキラは少しばかり混乱したのか若干斜め上の発言をしてしまい、アスランは突っ込みながらもズッコケかけ、マリューはストライクからずり落ちそうになってしまった。


「いや、其れよりもなんで君がこんな所に……!」

「其れは俺のセリフだキラ!お前こそこんな所でなにをしてるんだ!?」

「……僕、此処の工業ガレッジの学生で、普通にゼミに通ってただけなのにこんな事に巻き込まれちゃったんだけど……此れって普通に考えたら人生のエンディングまっしぐらなんじゃないかな?」

「お前は驚いてるのか冷静なのかどっちなんだ!?」

「……どっちだろう?」


再会したのは数年振りである上に、『戦場』と言って差し支えない場所であるにもかかわらず、キラとアスランの遣り取りは『親友』の其れだと言えるだろう――アスランがパイロットスーツに身を包み、其の手に拳銃を持っていなければだが。

そんなキラとアスランの再会を強制的に終了させたのは二発の銃声だった。
マリューがアスランに向けて発砲したのだ――とは言えその銃弾がアスランを捉える事は無かった……ザフト軍の襲撃の際にマリューは負傷し、そんな状態では正確な射撃は出来なかったのだろう。


「ちぃ……如何やらゆっくり話をする時間は無いみたいだな……こんな形で再会するとは思わなかったぞキラ……!」

「アスラン!!」


アスランは牽制の為に発砲すると、残されていたもう一機のモビルスーツ『イージス』を奪取すると、其の場から離脱。
其れを見たキラとマリューもストライクに乗り込んで機体を起動させると、ギリギリのところで工廠から脱出する事に成功した――が、安堵する間もなく工廠から脱出したストライクにジンが襲い掛かって来たのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE2
『予想外の再会と回り始める運命の歯車』










襲い掛かって来たジンの初撃はマリューが機体を操作して何とか防ぐ事は出来たモノの、マリューは負傷しておりモビルスーツを動かした事などないのでストライクを操縦してジンとの戦闘を行う事は不可能だった。
加えてストライクは起動しただけでPS装甲は作動していないディアクティブモードであるせいで機体の耐久力も高い状態とは言えない絶体絶命の状況だ。


「代わって下さい、僕が操縦します!」

「待って。君はモビルスーツを操縦した事があるの!?」

「ありません。でも、ゼミで色んな機械の事やプログラムを学んでたので基本的な操縦の仕方なら分かります。」


此処でキラがマリューに代わってストライクの操縦を行う事に。


「って、なんだ此れは?こんなOSで此れだけのモノを動かそうだなんて幾ら何でも無茶過ぎる!」

「此の機体はまだ未完成なのよ。」


しかしストライクはまだ機体を動かす為のOSが未完成であり、現状では必要最低限の動きが何とか出来ると言う状態で、とても本格的な戦闘行為を行える状態ではなかったのである。
そんな状態でもキラはストライクを操縦してジンとギリギリの戦闘を行い――


「キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定……チッ、ダメか。
 なら、疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結。ニュートラルリンゲージ・ネットワーク再構築。メタ運動野パラメーター更新。フィードフォワード制御再起動。伝達関数、コリオリ偏差修正。運動ルーチン接続。システム、オンライン、ブーストトラップ起動!」


同時に凄まじい速さでOSを書き換えると言う離れ業を行い、ストライクのOSを自分用に最適化させてしまった。
OSを最適化されたストライクはその潜在能力を発揮し、OSが最適化される前とは見違えるような動きでジンを攻撃すると同時に、キラはPS装甲を起動して灰色だったストライクは白、青、赤のトリコロールカラーへと変わる。
とは言え、工業ガレッジの一学生に過ぎなかったキラが自分用に最適化したとは言え、現役のザフト軍兵士が操るジンと戦うのは可成り難しいと言える――戦闘経験豊富な兵士と戦闘経験ゼロのキラではその差は余りにも大きいからだ。
機体エネルギーと引き換えに物理攻撃を無効に出来るPS装甲があるおかげで何とか戦えているが、ストライクに搭載されている武装は頭部のバルカン砲『イーゲルシュテルン』と、腰部のホルダーに内蔵されたコンバットナイフ『アーマーシュナイダー』のみであり、この装備でライフルと実体剣を装備したジンと戦うと言うのは分が悪いどころではないだろう。

否応なしにキラは苦戦を強いられる事になったのだが――


「ちょいっさぁーーーーー!!」


ストライクと交戦中だったジンが突如として吹き飛ばされ、ストライクの前に白いモビルスーツが現れた――イチカのが操縦するビャクシキがジンに見事なドロップキックをブチかましたのである。
そして其れだけではなく、イチカは蹴り飛ばしたジンをゲイボルグで撃ち抜いて破壊する。
容赦なくコックピットを撃ち抜いたのは、軍人として『戦場に於いて敵を討ち損じたら、今度は自分が討たれる側になり兼ねない。』と考えているからだろう……生き延びたパイロットが民間人を襲う可能性もあると言うのも理由の一つとしてあるのかも知れないが。


「此方はビャクシキ、イチカ・オリムラ!ジンと戦ってるって事はザフトの人間じゃないんだろうが、其の機体を操縦してるのは誰だ?」

「此方ストライク。僕はキラ。キラ・ヤマト。工業ガレッジの学生です。」

「工業ガレッジの学生って……民間人だと!?
 オイオイオイ、連合のモビルスーツの強奪は作戦上ありだとしても、民間人を巻き込んじゃうってのは如何なのよザフトさんよぉ……そんでもって、その民間人が意外とモビルスーツを動かせちゃってる事に驚いてる俺がいるんだがな。
 民間人を戦わせるってのは軍人としては容認出来るモンじゃねぇんだが、此の状況じゃ四の五の言ってられないか……キラって言ったな?其の機体の武装は?」

「頭部のバルカン砲『イーゲルシュテルン』と、腰部ホルダーに内蔵されたコンバットナイフ『アーマーシュナイダー』。其れだけで他には何も。」

「装備が貧弱過ぎんだろ幾ら何でも!ならこれを使え!そんなに撃ってないから斬弾数にはマダマダ余裕があると思うからな!」


ストライクと通信し、キラと話したイチカはゲイボルグをストライクに渡し、ゲイボルグを受け取ったストライクは右手にゲイボルグ、左手にアーマーシュナイダーを持ってジンとの戦いに臨み、ビャクシキはゲイボルグに代わってビームライフル『ビャクライ』を展開してジンを攻撃する。


「ったく折角の休暇にやってくれやがったなぁオイ?
 戦闘は兎も角として、こうなっちまった以上はオーブに戻ったら報告書やら何やらを作らなきゃならねぇじゃねぇか……戦闘訓練は大好きだけど、デスクワークは大嫌いなんだよ俺は!……休暇中に余計な仕事増やしやがって……覚悟しろよお前等!!」


此処でイチカは雪片を柄の部分で分割させると二刀流でジンに斬りかかり、次々と行動不能にして行ったのだった。








――――――








ヘリオポリスで激しい戦闘が行われている最中、連合が開発したモビルスーツの強奪に成功したザフト軍の『クルーゼ隊』に所属のアスラン、二コル、イザーク、ディアッカ、そしてクルーゼ隊のパイロットの紅一点であるカタナ・サラシキは母艦へと帰還していた。


「もう少しばかり梃子摺るかと思っていたが、思いのほかスムーズに連合のモビルスーツを奪う事が出来たな?……此れもカンザシの的確なオペレートがあったからと思うが。」

「あらあら、何を当たり前の事を言ってるのかしらイザーク?カンザシちゃんのオペレートは何時だって的確で完璧なのよ?其れは絶対に忘れちゃダメよ?……もし忘れたその時は……落とすわよ?」

「何処にだ!?」

「地獄♪」

「笑顔で言うなぁ!!」


其処でカタナとイザークが少しばかり漫才じみた遣り取りをしていたが、今回のザフトによる連合製のモビルスーツ強奪が円滑に進んだのはカタナの妹でクルーゼ隊でオペレーターを務めている『カンザシ・サラシキ』の働きが大きいだろう。
カンザシはモビルスーツの操縦技術が皆無だったためにザフトのアカデミアを赤服での卒業にはならなかったモノの、オペレータ技術に関しては姉のカタナを遥かに上回っており、アカデミア卒業後にカタナと共にクルーゼ隊に入隊したと言う、オペレーターのエリートだったりするのだ。

因みにイザークはカンザシのオペレーターとしての腕を買っており、カンザシはカンザシでカタナに揶揄われる事が多いイザークの事をケアしていた事で、イザークとカンザシは『親友以上恋人未満』の関係になっていたりする。


「そんで、今回の作戦のMVPとも言えるカンザシは何を難しい顔してんの?」

「……ジンが全滅した。」

「「「「「!?」」」」」


だが、そのカンザシがモニターを見ながら放った一言に、一同は驚かされる事になった。
連合が開発したモビルスーツは六機なのに対し、強奪メンバーは五人だったので残る一機を鹵獲&戦闘になった場合の戦力として赤服ではない一般兵が操るジンを複数作戦に参加させていたのだが、其の数機のジンが全滅したと言うのだ。


「馬鹿な!まさか、残る一機を誰かが操って戦ったとでも言うのか!?アスラン、貴様が強奪した機体の近くにはもう一機あった筈だったな?何もなかったのか!?」

「連合の技術将校と思しき女性と巻き込まれた民間人が居たが……仮にその二人がモビルスーツに乗って工廠内から脱出したとしても、単騎で複数のジンを撃破出来るとは到底思えない!」

「……単騎じゃない。
 連合が開発したモビルスーツは六機だった筈なのに、ある筈の無い七機目が存在してる。其の七機目がジンを全滅させたみたい。」


ジンの軍勢を全滅させたのはイチカのビャクシキだった。
ビャクシキはオーブが連合のモビルスーツを開発する裏で極秘に開発していたモビルスーツだったのだが、だからこそザフトに其の存在を察知されずに済み、結果として今回の一件に於ける『鬼札』として機能したのだ。
ビャクシキがジンを全滅した裏には、『民間人に殺しはさせられない』とイチカが考えたからなのだが。


「七機目……だが、ジンを撃破したとなると其れを操っているのは素人ではないと考えるべきだろう……此れは、少しばかりお手並み拝見と行こうか?」


予想外の七機目だったが、其れを聞いたクルーゼ隊の隊長である『ラウ・ル・クルーゼ』は口元に笑みを浮かべると、少しばかり愉快そうにそう呟いた――仮面で隠された素顔は分からないが、仮面の奥の目も笑っているのだろう。
ジンは撃破したモノの、イチカとキラの戦いはまだ終わった訳ではないようだ。








――――――








「オイ、其れは本気で言ってんのかアンタ?」


ジンの部隊を全滅させた後に機体を降りたイチカとキラ、そしてマリュー。
キラは工業ガレッジの友人達と無事に合流したのだが、そんなキラ達に対してマリューは『軍の機密に触れた』との理由で拘束すると言って来たのだ――特にキラに対しては『ストライクのOSを書き換えて、他の人間には扱えないようにしてしまった』とまで言って来たのだ。
これに対して噛みついたのがイチカだった。


「軍の機密に触れたってのは確かかもしれないが、其れなら口外しない事を文書で約束させた上で監視でも付けりゃ良いだけの話だよな?態々拘束する必要が何処にあるってんだ?
 大体にしてな、モビルスーツの開発が連合の最高機密だってんならオーブの、其れも民間の宇宙コロニーで開発なんぞしないで、連合傘下の国で極秘開発しろってんだ……其れなら機密が漏れる事もなかったんじゃないのか?
 ……あぁ、其れだと連合傘下の国がザフトに襲撃される可能性があったからオーブの民間宇宙コロニーを使ったのか……ユニウスセブンへの核攻撃で民間人を大量虐殺した事と言い、連合のやり方には反吐が出るぜ!
 キラ達を拘束するってのも、キラのダチ達を拘束して人質にして、キラにストライクを使わせてザフトと戦わせようとしたんじゃないのか?」

「其れは……」


イチカからの糾弾に、マリューは言い返す事が出来なかった。
マリュー自身は不本意ではあったが、連合本隊からは『もし民間人が機密を知った場合は拘束せよ』との命令があり、技術将校とは言え連合の人間であるマリューはその命令に逆らう事は出来なかったのだ。


「否定しないって事は肯定と受け取るぜ?
 とは言え、俺が何を言ったところでアンタの言った事が覆るとは思えない……だから、非常に不本意ではあるが俺もキラ達に同行させて貰うぜ?俺はオーブの軍人だが、オーブ軍からの出向って形にすれば何となると思うからな。
 つか、連合の都合で民間人が戦場に駆り出されるのを黙って見てる事は出来ないんでな。」


だがイチカは、『自らがオーブ軍からの出向』と言う形でキラ達に同行すると言い、其れにはマリューだけでなくキラ達も驚いた。
更にイチカはスマートフォンでオーブ軍に連絡を入れて今回の件を報告し、自分がオーブ軍との出向と言う形で連合に同行する旨を伝えると共にビャクシキを起動した事も伝え、オーブ軍も其れを聞いてイチカが連合に同行する事を了承。
イチカからマリューにスマートフォンが渡されて其れが告げられたが、イチカが出向する条件として、『イチカは通常の指揮系統に組み込まずに独立機動権を与える』が提示され、マリューは其れを受け入れた――五機のモビルスーツが強奪されてしまった今、ストライクと同様にビャクシキもまた連合にとっては貴重な戦力であったからである。

こうして、イチカとキラ達は地球連合の一員となったのだが……



――ズドォォォォォォン!!



其処で鳴り響いた轟音。
そして巻き上がる粉塵……その粉塵が消えると、其処にはザフトのモビルスーツである『シグー』が存在していた――ジンよりも高性能な、ザフトの最新鋭機であり、其れを駆るのはラウだ。


「見せて貰おうか、連合のモビルスーツの性能とやらを!」


誰に言うでもなくラウは呟くと、シグーを一気に加速させてビャクシキとストライクに向かって行く。


「モビルスーツの強奪に成功したならさっさと帰れよザフト!……だが、こうなっちまった以上は仕方ねぇか……キラ、お前は此処で待機してろ。ドンパチやるのは俺の役目だからな。」

「ううん、僕も行くよイチカ……友達を守る事が出来るのは僕だけだから。」

「気の優しそうな優男と思ったけど、芯は強かったみたいだな……何よりもダチ公を守るために戦うってのは好感が持てるってモンだ……なら行くぜキラ!ザフトの連中に目にモノ見せてやる……午後はバッティングセンターとかボーリングを楽しんだ後で食い放題の焼き肉を楽しむ心算だったのを、全部台無しにしてくれた礼はタップリしないとな!!」

「……其れって若干私怨じゃないのかな?」

「俺の休暇を潰した輩はナチュラルもコーディネーターも関係なくぶっ殺す。」

「バイオレンスだね。」


そしてシグーの存在に気付いたイチカとキラは、夫々ビャクシキとストライクに乗り込み、シグーに応戦を開始したのだった。











 To Be Continued 







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