オーブへの入港を果たしたアークエンジェルは、ドッグにて戦闘で傷付いた艦体の修理が行われていた。
連合の最新艦であるアークエンジェルの修理は簡単なモノではなかったが、其処はオーブの一大企業『モルゲンレーテ』の技術者達が持ち前の高い技術力をもってして修理を行っていく。
此の技術者のレベルの高さもあって、連合はオーブに……正確にはモルゲンレーテ社にモビルスーツの開発を打診したのであった。


「ビャクシキの操縦者はオーブ軍のオリムラ三尉だから兎も角として、ストライクの操縦者はヘリオポリスの学生……って嘘でしょ此れは?
 ヘリオポリスでOSを戦闘用に書き換えただけじゃなくて、其の後もOSが幾度となく書き換えられて操縦者に最適化されている……ストライクのパイロット、キラ・ヤマト君……コーディネーターでも凄すぎるわ此れは。」


アークエンジェルの修理が行わてる傍らで、モルゲンレーテ社の技術者で、オーブのモビルスーツである『M1アストレイ』の開発主任である『エリカ・シモンズ』はアークエンジェルから提出されたデータを見て、そしてビャクシキとストライク夫々の戦闘データを解析して、何方のパイロットも可成り高い能力を有している事を知ったのだがストライクのパイロットがつい最近までヘリオポリスの学生だった事を加味すると、キラの能力がドレだけ高いのかと思わざるを得ず、エリカは其の力に驚嘆したのだった……己がナチュラルとコーディネーターのハーフであるからこそキラの特異性をより感じたのかもしれないが。


「修理ついでにアークエンジェルに武装追加出来ませんかね?
 個人的にはシューティングゲームだったら『画面の九割を覆い尽くす弾幕』を張れるだけの武装プリーズ。『絶対殺す弾幕』があれば、其れだけで可成り戦闘が楽になると思うんで。」

「……具体的にはどんな武装をご所望だオリムラ三尉?」

「ソーラー充電式のビーム砲に艦体保護用の電磁バリア、複数の敵に対してフレキシブルに攻撃出来る大気圏内でも使用可能な無線式のビット兵器、モビルスーツ型のドローン兵器が欲しいっすね。」

「其れは本気で言っているのか?」

「無論冗談ですよトダカ二佐。」


一方でイチカはトダカとクラリッサ相手にアークエンジェルの強化案をネタにした冗談を飛ばしていたのだが、其の直後にタバネから『タバネさんだったら実現出来るよ~~♪』とのメールがスマートフォンに入り、イチカは『いや、冗談ですから』と返信していた。


「うむ、冗談はさて置き……オリムラ三尉、君はヘリオポリスから今日まで連合の一員として活動して来た訳だが、君は地球連合と言う組織を如何感じた?」

「アークエンジェルのクルーは信頼に足ると思いますよ。
 ラミアス艦長は元々が技術将校だったんで武官の軍人と比べると判断が甘い部分もありますが、其れがマイナスになってるって事はないみたいですし、ヘリオポリスの学生連中もイキナリ戦場に放り込まれたにしては中々根性ありますよ……俺としては、一人くらいどっかで逃げだすんじゃないかと思ったんですけどね。
 ですが、アークエンジェル以外の連合の連中に関しては、玉石混在って感じです……アルテミスの連中はロクデナシでしたが、第八艦隊の人達は人として信頼できる感じでしたから。
 連合の人間全てがアークエンジェルや第八艦隊の人達みたいだったら此の戦争はそもそも起きなかったかもですけどね。」

「連合は其の名が示すように複数の存在が手を組んでいる故にその意思は一枚岩で統一されていると言う訳ではないか……組織として統率が取れているのはザフトの方と見た方が良いかも知れんな。」

「そうっすね……んでクラリッサ一尉、一段落したら久しぶりに一狩り行きません?」

「うむ、久しぶりに良いな。」


イチカは自分なりの地球連合の印象をトダカとクラリッサに伝え、序にクラリッサと久しぶりにゲームのオンラインプレイをしようと持ち掛け、クラリッサも其れを快諾していた――西暦の時代から発売されていた『狩りゲーム』はコズミックイラの時代でも未だに新作を発売しており、その人気は正に世代を超えたモノとなっていた。
そして同じメーカーが発売している格闘ゲームと、格闘ゲームではその会社と双璧を成す会社の『格闘家の王様』の名を関するゲームもまたコズミックイラの時代でも大人気であった……『格闘家の王様』のゲームの初代主人公は彼是百年以上二十歳で高校生を続けている事になる訳だが、其れは突っ込んだら負けだろう。

其の後イチカはキラに呼ばれて其の場を後にし、キラ、カガリと共にエリカの案内でモルゲンレーテの工場に案内されるのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE26
『果てなき輪舞~Destined encounter I&K~』










イチカ達がオーブのドッグエリアで過ごしていた頃、オーブに潜入したザラ隊のメンバーはアークエンジェルの行方を追ってオーブ内で情報収集を行っていたのだが……


「カンザシちゃん、此の眼鏡どうかしら?いぶし銀のアンダーリムのフレームはカンザシちゃんには良く似合うと思うのだけれど。」

「オーブの川で獲れたワニの革で作ったチョーカー……此れはお姉ちゃんに似合うと思う。シルバーのクロスの装飾も良い感じ……お姉ちゃんはベルトとかチェーンが似合う感じだから。」

「ベルトやチェーンが好きな人間って拘束されるのが好きって言うのよねぇ……まぁ、似合うのと好きなのはまた別だけど♪」


この情報収集にカンザシも加わった事で、サラシキ姉妹によるウィンドウショッピングが始まってしまっていた。
普通なら即止めさせるところなのだが、隊長であるアスランは其れを止めさせる事はなかった――カタナもカンザシもヘリオポリスから今までずっと戦闘続きであり、年頃の女の子がやりたい事を全く出来ていなかったので、此れ位は大目に見ていたのだ。
序に、ウィンドウショッピングをしながらなら世間話で『オーブに入港した連合の戦艦の噂』を聞いても不自然ではないので、寧ろこの方が情報収集と言う観点からしたら良いのではないかとすら考えていたのだ。


「私的に、イザークには丸形レンズのサングラスが似合うと思うから、此れ掛けてみて。」

「俺に似合うか此れは?」

「うん、バッチリ似合ってる。」

「そうか……お前のお勧めならば買っておくとするぞカンザシ。」


イザークですらサラシキ姉妹のショッピングの勢いに飲まれて丸形レンズのサングラスを購入する事になり、其れを皮切りにアスランはタテナシに勧められたサングラスを購入し、ディアッカは同じくタテナシに勧められたレザージャケットを購入し、中性的なニコルはサラシキ姉妹によってブティックで着せ替え人形にされて女装までさせられると言う災難に見舞われたのだった。


「僕、もう結婚できないかも……」

「その時はアスランが貰ってくれるから大丈夫よニコル♪ラクス様が婚約者だけど、ラクス様なら多分OKしてくれるから問題なしよ♪」

「色々と待てカタナ!なんで俺がニコルと結婚する事になる!?」

「え?だってアスランってバイなんじゃないの?……ストライクのパイロットに対する貴方の執着を見ると、正直同性愛とは言わずともバイなんじゃないかって疑ってしまうわよ?」

「俺は至ってノーマルだ!!」


アスランには何とも言い難い疑惑が向けられてしまったが、アスランは其れを真っ向から否定したのだった。
其の後、ザラ隊のメンバーはウィンドウショッピングをしながら情報収集を行ったのだが、アークエンジェルに関する有益な情報を得る事は出来なかった。
アレだけの大きさの戦艦が入港したら何処かでその情報が出てきそうなモノだが、そうであっても有益な情報が一つも出てこなかったと言うのは、オーブの民は、自国に入港した艦船に関しての情報は簡単に口にするのモノではないとの意識があるからだろう。

そんなこんなでランチに良い時間になったのでザラ隊一行は『鉄板焼き』の店に入り、初体験となる『お好み焼き』を堪能する事になった――因みにアスランのオーダーは『エビ焼き』、イザークのオーダーは『タコ玉』、ディアッカは『豚玉』、ニコルは『牛筋焼き』、カタナは『牛筋ネギ焼き』、カンザシは『究極のヒロシマ焼き』で、カンザシは積み上がった素材を見事にひっくり返してパーフェクトなヒロシマ焼きを完成させていた。


「お好み焼きにはソースとマヨネーズ、そしてカツオ節よね♪」

「これは確かに美味だが……この組み合わせを、どこで知ったんだお前は?」

「何処と言われたら……何処かしら?もしかして、前世かしら?」


其のお好み焼きに絶妙なトッピングをしたカタナだったが、その組み合わせをどこで知ったのかと問われれば、その答えは存在していなかった――カタナは誰に教わる事もなく、この組み合わせを知っていたので、前世から知っていたと言うのもあながち嘘ではないのかもしれない。
まぁ、其れは其れとして、ザラ隊の面々はお好み焼きを堪能し、締めの『焼きラーメン』も美味しく頂いたのだった。








――――――








カタナ達がオーブを堪能していた頃、イチカはキラとカガリと共にエリカの案内でモルゲンレーテの工場にやって来ていた。
其の工場には多数の『M1アストレイ』が存在していたのだが、オーブはモビルスーツのOSの開発では後塵を拝しており、機体其の物は完成していても、其れを円滑に動かすためのOSが、まだ完成していなかったのだ。


「モビルスーツだけならこれだけ完成してたとは、驚いたぜ……」

「量産機とは言え、この数は凄いね。」


だが、機体の基本性能だけならば『M1アストレイ』はザフトの主力機である『ジン』を上回っていた。
ジンは基本的に大気圏内では、現在ザラ隊にも配備されている『グゥル』と言う支援機が無ければ飛行出来ないのだが、M1アストレイは単機で大気圏内での飛行能力を有しており、更にはビームライフルやビームサーベルと言ったビーム兵器も標準装備となっているのである。
飛行能力に関してはオーブが周囲を海に囲まれた島国である事から、いざ戦闘となったら地上戦よりも海上での空中戦がウェイトを占めるからとの考えからであり、ビーム兵器の標準装備はヘリオポリスで極秘に開発されていた六機の『G兵器』と『ビャクシキ』に搭載された物理攻撃無効の『PS装甲』の存在を知っているが故だろう――PS素材は高価であるので量産機への標準搭載にはまだまだ時間がかかるだろうが、其れでも『物理攻撃が効かないワンオフ機』の存在は脅威となるので、PS装甲を貫通出来るビーム兵器の標準搭載は当然の流れだと言えるだろう。


「これが平和の国オーブの真の姿、他国を侵略せず、侵略を許さず、干渉しない……その意志を守るための軍事力がこれだ――だが、お父様は其れを破って連合に協力してしまった。
 ヘリオポリスで開発されていたモビルスーツがその証拠だ……」

「それなんだけどなカガリ、多分だけどウズミ代表はオーブの理念を破った訳じゃないと思うぜ?
 M1を見て確信したが、連合製のモビルスーツの開発を行ったのはモルゲンレーテ社だ……恐らくだが、モルゲンレーテ社は連合からモビルスーツの開発を半ば脅しに近い形で捻じ込まれたんじゃないのか?……違いますか、エリカさん?」

「えぇ、あながち間違ってはいないわオリムラ三尉。
 連合はモルゲンレーテ社に圧力をかけてモビルスーツの開発を迫って来たのよ……『オーブはナチュラルだけでなくコーディネーターも暮らしているが、其れを見過ごす事が出来なくなる』なんて言われてはね。
 ウズミ代表も悩みに悩んだ末に『モビルスーツの開発だけならばグレーゾーンではあるがギリギリオーブの理念には反しない』と断腸の思いで決断したと言う訳……だから、ウズミ代表を非難しないでカガリさん。」

「むぅ……国を、国民を人質に取られたと同じならば致し方ないか……」


カガリは『連合のモビルスーツの開発を行った事がお父様の裏切りの証だ』と言っていたが、イチカが『六機のG兵器の開発の経緯』を予想し、エリカが其れを肯定するとカガリも納得せざるを得なかった。
国と国民を盾にされたら、ギリギリのグレーゾーンで何とか収まる範囲で落としどころを考えねばならないのだから、国の代表としてウズミは難しい判断を迫られただから。

其の後、エリカがM1アストレイの搭乗員を呼び、施設内での訓練風景を披露したのだが、M1アストレイの動きは矢張り何処かぎこちなさを感じるモノだった。
搭乗員はオーブ軍の正規軍人であり、シミュレーターでのモビルスーツ戦闘も経験しているので実際のモビルスーツの操縦に関してもイチカほどではないにしても行えるはずである事を考えると、此のぎこちなさはOSが開発途上である事を如実に物語っていた。


「動きが硬いっすね……なんつーか、パイロットの操作と機体のレスポンスにタイムラグがある感じ?」

「そうなのよ……機体の反応が今一なのよM1は。
 全てはOSがまだ完成してないからなのだけどね……だからこそ、貴方にM1のOSの開発をお願いしたいのよキラ・ヤマト君。M1を君のストライクやオリムラ三尉のビャクシキ並に動けるように強化したいの。」

「成程……其れは分かりましたけど、エリカさん、キラにOS開発させたら多分だけどM1はトンデモない超兵器になっちまうかもしれませんよ?」

「ちょっと、イチカ其れは言い過ぎじゃない?」

「言い過ぎな事があるかぁ!
 ヘリオポリスでは戦闘を行いながらストライクのOSを完成させ、アフリカでは砂漠地と熱対流にOSを対応させて、オーブに入る前には水中戦闘にまでOSを最適化させたお前がM1のOSを開発したらぶっ飛んだ性能になるのは目に見えてんだろうが!
 つーか、俺のビャクシキだってもはや俺以外の人間には起動する事すら出来ない完全な俺専用の超モビルスーツになってるからな!?」

「え?アレくらいの事って僕じゃなくても出来るんじゃないの?」

「出来ねぇよ!少なくとも戦闘を行いながらOSの書き換えなんぞ俺だって出来ねぇっての!
 お前は自分がドンだけぶっ飛んだ事やったのかを自覚しろ、此のバカチンが!いや、バカじゃなくて天才の部類だけどねお前は?」

「どっちさ……」


M1アストレイはパイロットの操作に対しての機体のレスポンスが良くなく、結果として動きがぎこちなくなってしまっていたので、エリカはキラにOSの最適化を依頼し、イチカに色々と言われながらもキラは其れを承諾し、M1アストレイは飛躍的にその性能を上げる事になるのだった。








――――――








モルゲンレーテ社を出たイチカは久しぶりとなるオーブの街中を散策し、その途中で行き付けの『〇亀製麺(伏字意味なし)』で期間限定の『冷しゃぶ鬼おろしぶっかけうどん』と『キス天』、『かにかま天』、『半熟タマゴ天』、『明太子のおにぎり』の昼食を済ませると、また適当に街を散策していたのだが――


「ん?」

「え?」


食後のデザートにと思ってやって来たクレープの屋台でイチカは其の少女と出会った。
外にはねた蒼い髪と赤い瞳が特徴的な少女――『過去の記憶』とも思える『自分ではない自分の記憶のフラッシュバック』に存在し、己が愛し、しかし戦いの中で散り、『楯無』、『刀奈』と呼ばれた少女が其の場に存在していたのだった……イチカにとってもカタナにとっても、運命とも言える出会いがこのオーブの地で起こったであった。











 To Be Continued