モラシム隊との激闘を終えたアークエンジェルは、アラスカに向かう前の最後の補給地として此の戦時下では珍しい中立国である『オーブ』へと向かい、艦内も中立国に向かうと言う事と、イチカとヘリオポリス組にとっては久しぶりとなる故郷への帰還になると言う事で少し賑わっていた。


「ちっぽけな未来は、潰すためにある……この腕で……!」

「良いぞイチカーー!!」

「やるじゃねぇかオーブの坊主!!」


食堂でのちょっとしたパーティの後はカラオケ大会となり、イチカが熱唱した後は、キラとフレイがデュエット見事なデュエットを披露して拍手喝采を浴びていたのだった――キラとフレイのデュエットが恋歌の代表格とも言える『メルト』の女性バージョンと男性バージョンのフュージョンだったのも大きいだろう。
更に歌い上げて拍手喝采を浴びたフレイがキラの頬にキスをして更にギャラリーを盛り上げていた。


「キラ、フレイ……お前等もう結婚しちまえ。ご祝儀弾んでやるから。」

「いや、年齢的に結婚は無理だよイチカ……」

「お前が今16でフレイが15だろ?ならあと二年経てば結婚出来るじゃねぇか。オーブでは女性は十六歳、男性は十八歳で結婚出来るようになるんだから。」

「結婚式か……純白ウェディングドレスも捨て難いけど、東アジア連合の『日本』の結婚式で使われてるって言う着物を着てみたいわね。」

「和装で結婚式上げるんなら、俺がそこで『高砂』を舞ってやるよ。」


アークエンジェル内部には暫し平和な時が流れ、艦長であるマリューも此のカラオケ大会に参加し、副艦長のナタルもマリューとムウに半ば強引にカラオケ大会に参加させられたのだが、其処で見事なまでに『演歌』を熱唱して拍手喝采を浴び、其れを切っ掛けとしてヘリオポリス組との距離を縮める事に成功していた。

だが、今は戦争中なので平和な時間は長続きしないモノだ。



――ビー!ビー!!



「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」



突如艦内にコンディションレッドの警報が鳴り響いた事で平和な空気は一気に吹き飛んで、マリュー達はブリッジに向かい、イチカとキラはドッグに向かう。
アークエンジェルはオーブに近付いていたのだが、もうすぐオーブに到着すると言うタイミングでザフトが、アスランが隊長を務めるアークエンジェル追撃部隊の『ザラ隊』が襲撃して来たのだ。


「イージス……って事はお前のダチ公が居る訳だが、大丈夫かキラ?」

「うん、大丈夫だよイチカ……僕は、僕のすべき事をやるだけだから。」

「そうかい……ま、無理はするなよ。無理して死んじまったら何の意味もないからな。」


『ストライク発進スタンバイ。ストライカーパックはエールを装備します。進路クリア。ストライク、発進どうぞ。』

「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!」

『続いて、ビャクシキ発進スタンバイ。バックパックはオオタカを装備します。進路クリア。ビャクシキ、発進どうぞ。』

「イチカ・オリムラ。ビャクシキ、行くぜ!」


ドッグルームで軽く言葉を交わしたイチカとキラは夫々の機体に搭乗してカタパルトに入り、そして其処から出撃して『ザラ隊』との戦闘に向かうのであった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE25
『平和の国へ~Orb Purpose and Intention~』










ザフトが強奪した連合のモビルスーツは『ミスティストライカーパック』を装備したグラディエーターと、モビルアーマー形態のイージス以外には重力下での飛行能力は有していなかったのだが、ザラ隊は地球降下の際にモビルスーツ用の大気圏飛行ユニット『グゥル』を輸送船で運び込んでいたので、重力下であっても飛行能力を確保する事が出来ていた――アスランのイージスだけは、カガリのスカイグラスパーに輸送機を撃墜されてしまったのでグゥルは無かったのだが、其れでもモビルアーマー形態とモビルスーツ形態を自在に切り替える事で空中戦も行えていた。

だが、空中戦に関しては完全な飛行能力を有しているビャクシキとエールストライクの方が有利だった。
グゥルは優秀な追加装備ではあるが、『乗る』タイプの装備なので、バックパックによる飛行能力を得たモビルスーツに比べると飛行能力の自由度に於いて大きな差があったのだ。


「あは、やっぱり出て来るわよね……ビャクシキィィィ!!」

「グラディエーター……ったくなんだって俺に拘るかねぇ?
 パイロットが美女なら兎も角として、此れでパイロットがむっさいオッサンとかだったら俺マジで凹むからな!!」


その戦場でもカタナが駆るグラディエーターはイチカのビャクシキを狙って来た。
巨大な実体剣の『ミステリアス・レイディ』の二刀流で斬りかかってくるグラディエーターに対して、ビャクシキは『雪片弐型』を分割した二刀流で応戦し、キラは此の戦局ではエールだけでは対処出来ないと感じ、トールにスカイグラスパーで『ソードストライカー』を持ってくるように要請し、そしてソードストライカーのメイン装備である『シュベルトゲーベル』を装備して、近接戦闘での戦闘力を高める。


「ちぃ、強いな……戦争中じゃなかったら俺達は良いライバルになれたかもな。」


其処から戦闘はさらに激しさを増して行ったのだが、数の差ではザラ隊の方が上なので、イチカとキラが奮闘しても何処かで綻びが生じてしまうモノで、その綻びに的確に対応されたら苦戦は免れないだろう。
だが此処でビャクシキはグラディエーターの攻撃を躱すとビームサーベルの二刀流でグラディエーターのミステリアス・レイディを真っ二つに切り裂き、更に至近距離からオオタカに搭載された高出力ビームランチャーを放ってグラディエーターの両腕を吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。
此れはイチカの戦闘センスが光ったと言うところであると同時に、アークエンジェルの整備クルーが『対ビーム処理』が施されている装備に対しても有効打を与えられるように雪片・弐型の出力を調整していた事が大きいだろう。
同時に、ミステリアス・レイディは大型の武器であるが故に攻撃が大振りになってしまい隙が生じやすいと言うのもあるだろうが。


「く……でも、此れで終わりじゃないわよ……!私はまた貴方の前に現れるからね。」



戦闘不能になったグラディエーターは撤退したのだが、其れでも戦闘は終わらずに遂にはオーブ領海にまでやって来ていた。
そしてオーブの領海に入った次の瞬間にアークエンジェルとザラ隊双方に『領海から撤退せよ』との連絡が入った――ザラ隊にとっては、この勧告も受け入れる事は出来たが、アークエンジェルには到底受け言えれられるモノではない。
アークエンジェルはアラスカ到着前の補給地としてオーブに向かっていたのだから尚更だろう。


「此方はアークエンジェル!
 私はカガリ・ユラ・アスハ!オーブの代表首長のウズミ・ナラ・アスハの一人娘だ!アークエンジェルの入港を許可されたし!!」


此処でカガリが己の身分を明かしてオーブにアークエンジェルの入港を認めるように言うが、しかし司令官のティリングは動じず、頑なにアークエンジェルの入港を認めなかった。


「テメェじゃ話にならねぇ!トダカ二佐かハルフォーフ一尉を連れて来やがれ!俺はオーブのイチカ・オリムラ三尉だ!」

『オリムラ三尉?生憎だがトダカ二佐もハルフォーフ一尉は別件で外出中だ!何にしても貴艦の要請は受け入れられない!即座に領海から撤退せよ!!』

「なんじゃそりゃぁぁぁ!!」


カガリが己の身分を明らかにしてもオーブは其れを受け入れず、更にはイチカもオーブ軍における己の階級を告げると、トダカかクラリッサを連れてこいと言ったのだが、其れでもオーブはアークエンジェルの要求に応える事はなく、オーブ軍の部隊はアークエンジェルとザラ隊に対して攻撃を敢行して来た。
オーブ軍のモビルスーツは、大気圏内でも飛行能力を有している『M1アストレイ』なので、重力下であれば其の戦闘力は相当に高いと言える――だけでなく、オーブ本島からも攻撃が行われ、アークエンジェルとザラ隊は正に絶体絶命の大ピンチに陥っていた。


「(オーブの攻撃……此れは本気じゃないよな?ウズミ代表がこんな事をするとも思えない……となると、此の攻撃はダミー!って事は俺がやる事は……)
 キラ、ラミアス艦長、俺に付いて来てくれ!」

『イチカ!?』

『イチカ君!?』



此処でイチカはオーブからの攻撃に違和感を覚えると同時に、其の攻撃が本気でアークエンジェルを狙ったモノでない事に気付き、ストライクとアークエンジェルに『自分に付いてこい』と通信を入れると、オーブ軍からの攻撃を掻い潜るようにしてオーブ本島に接近すると同時に、オーブ軍から凄まじい攻撃が行われて爆炎が巻き上がり、その爆炎によってザラ隊はアークエンジェルを見失い、その隙にビャクシキに先導されたストライクとアークエンジェルはオーブ本島の秘密のドッグに収容されたのだった。


「別件で外出中じゃなかったんですかトダカ二佐、ハルフォーフ一尉?」

「其れは方便だよオリムラ三尉。よく無事に戻って来てくれた。」

「オリムラ……ヘリオポリスでの一件を聞いてから心配していたんだぞ!!まぁ、お前ならば絶対に死ぬ事無くオーブに戻ってくるとは思っていたがな!」

「心配してたのか大丈夫だと思ってたのかどっちなんすか其れは……」


秘密のドッグからオーブに入国した一行をトダカとクラリッサが出迎え、クラリッサがイチカに若干の突っ込みを入れられていたのだが、其れは其れとして一行はドッグから基地内部の大広間に案内されたのだった――カガリだけは、大広間に行かずに別行動となったのだが、その理由はすぐに明らかになった。


「カガリ……派手に一発喰らわされたか……まぁ、仕方ないよな。」

「お父様の鉄拳は凄かった……だが、お父様の愛も感じた。」

「愛のある鉄拳……分かるかしらキラ?」

「両親に殴られた事ない僕には到底分からない事だよフレイ。」


大広間に現れたカガリは派手に頬を腫らせていたのだ……オーブの代表首長でありカガリの父親であるウズミが何も言わずにオーブを出国した娘に対して正当な制裁を下した訳だが、其れはカガリの事を心底心配してからの事であり、カガリも其れを感じ取ったようであった。


「まぁ、カガリの事は兎も角として、俺達を収容した理由はビャクシキとストライクが持つ実戦データですかトダカ二佐?
 さっきの戦闘、オーブのモビルスーツは其れなりに動けてはいたけど、稼働データが足りない感じがしましたからね……俺のビャクシキとキラのストライクの実戦データを自国のモビルスーツに反映させたい、そんなところですか?」

「ふむ、その通りだオリムラ三尉。」


其れは其れとして、オーブがアークエンジェルを収容したのはビャクシキとストライクの実戦データを欲したからだ。
オーブはヘリオポリスで極秘裏に連合のモビルスーツ『G兵器』を開発しながら、その開発データを流用して自国のモビルスーツを開発しており、その末に誕生したのが『M1アストレイ』なのだが、機体は完成しても実戦データはマッタクなかったので、ソフトウェアの完成にはザフトとの交戦経験のあるビャクシキとストライクの実戦データが必要であり、最大限包み隠さず言えばオーブは技術供与を条件にアークエンジェルを収容したのだった。








――――――









一方でザラ隊は、ギリギリのところでアークエンジェルをロストし、更にアークエンジェルが中立国であるオーブに入った可能性が否定出来ない事から下手に手を出す事が出来なくなっていた。
オーブにアークエンジェルが存在している事が確実であるのならばオーブに『アークエンジェルを引き渡せ』との勧告を行った後に、其れに応じなかったオーブを攻撃する事も出来るが、オーブにアークエンジェルが存在してなかった場合は『中立国を攻撃した』と言う事で、プラントの支持を落としかねないので慎重にならざるを得ないのだ。


「アスラン、民間人を装ってオーブに潜入するって言うのは如何かしら?
 もしかしたら街中でアークエンジェルのクルーに会う事が出来るかもしれないし、一人でもアークエンジェルのクルーを見つける事が出来たら、オーブにアークエンジェルが居る事は確定する訳だしね。」

「カタナ……そうだな、其の案は悪くない。それで行ってみるか。」


だが此処でカタナが『民間人としてオーブに潜入する』と言う事を提案し、ザラ隊は其の作戦を採択して民間人としてオーブに潜入するのだった。











 To Be Continued