激闘の末に『砂漠の虎』こと、『アンドリュー・バルトフェルド』を撃破したアークエンジェルは改めてアラスカに向かって発進する事になったのだが、バルトフェルドが討たれたからと言って砂漠での紛争が収まったかと言うと其れは否であり、バルトフェルドが討たれた事で一時的にレジスタンスが攻勢に出るも、副官のダコスタが健在であるザフトの部隊は改めてモビルスーツ部隊を送り込んでレジスタンスを鎮圧していたのだった。

将の首を取っても部隊が生きていれば戦争は終わらない、それの良い教訓と言えるだろう此の砂漠での戦いは。
これから先、まだ砂漠に流れる血は止まらないのかもしれないが、其れはアークエンジェルがこれ以上関与する事ではないだろう……アークエンジェルはあくまでも宇宙から地球に降りたつ際にキラが乗るストライクを救助した際にこの地に降りたっただけで、ザフトとレジスタンスの戦いに介入する心算はサラサラ無く、アラスカに向かうためにはザフトの部隊を退ける必要があったから一時的にレジスタンスの『明けの砂漠』と協力関係を結んだに過ぎないのだ。
尤も、明けの砂漠は期待したほどの成果は上げてはくれなかった訳なのだが。


「で、なんでお前が此処に居るんだカガリ?レジスタンスの方は良いのかよ?(つーか、お前の現状、ウズミ代表は知ってるのか?)」

「見たところこの船は人手不足みたいだからな……私みたいなのでも戦力としては使えるだろう?ある意味で必要な筈だ。(お父様は知らない。何も言わずに来てしまったからな。)」

「スカイグラスパーをアレだけ見事に扱えるなら確かに戦力にはなるかもだけどな……(アラスカの前に先ずはオーブだ……お前、ウズミ代表から一発カチ喰らわされる事は覚悟しとけよカガリ。)」

「ならば問題ないだろう!(お父様からの一発か……其れは覚悟だな。)」


そんな中でカガリと其の護衛を務めているキサカがアークエンジェルに乗り込んできて、互いに素性を知っているイチカとカガリは普通に話しながらも、『アスハ家とアスハの護衛に付いた事のあるオーブ軍の兵士しか知らないハンドサイン』でカガリの事情を知る事になっていた――そのハンドサインは知らない人間からしたら只の会話の中でのフィンガーアクションに過ぎないのだが。


「問題、ないのかな?
 バルトフェルドさんを討ったからってあそこからザフトが居なくなる訳じゃないし、バルトフェルドさんの部隊も全滅した訳じゃない……反ザフトを掲げるレジスタンスの活動は終わらないと思うんだけど……」

「レジスタンスの活動は終わらないだろうが、だからこそ此処がレジスタンスを抜ける潮時なのかもだぜキラ。
 バルトフェルドの旦那は確かに討ったが、だからと言ってお前が言うようにあそこからザフトが居なくなる訳じゃないし、より強力な部隊をあそこに派遣してレジスタンス狩りをしないとも限らないからな。
 こんな言い方をしたらアレだが、無駄に命を散らしたくないならレジスタンスとは手を切った方が正解だぜ。」


あの戦闘の後で何が起きたかはイチカもキラも知るところではなかったが、其れでもあの場所で何が起きたかくらいは予想は出来た……将を取れば戦争が終わると言うのは、遥か昔の戦国時代の日本位なモノなのだから。


「結局のところ、レジスタンスと手を組んだところで俺達にプラスになる要素は無かったからな……精々カガリがある程度の戦力にはなるって事だけだったからなマジで。
 戦争ってのは生き残って次に進んでなんぼだからな……自己犠牲を良しとする作戦を普通に選んじまうレジスタンスと一緒に居ても良い事はないってな。」

「イチカ……辛辣かもしれないけど、それはそうなのかもしれないね。」


先の激戦を制してアフリカを発ったアークエンジェルはアラスカに向かって進路を取り、やがて紅海に入るのだった――そして紅海を経てアラスカに向かう途中にはオーブがあり、アークエンジェルはオーブで一時補給をする予定で航行するのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE22
『紅に染まる海~Air and Sea Combat~』










バナディーヤの市場で補給した事で、アークエンジェルの食料や燃料は確保され、オーブまでは何か余程の事がなければ余裕がある状況だった。
そして食料に余裕があるとなればイチカが黙っている筈もなく、イチカは保存食となる肉、魚、野菜の燻製を作りながらも充実した食材で艦内食堂のメニューを作っていた。
本日のランチメニューは『キーマハヤシライス』、『タルタルたっぷりサーモンフライ』、『キャベツと玉ねぎとツナ缶のコールスローサラダ』、『ジャガイモとカボチャのヴィシソワーズとゼリーコンソメ』だった。


「な、なんだ此れは!?
 旨すぎるだろう此れは!こんな旨い食事は初めてだ!」

「そらよござんした。」


其のランチメニューにカガリは感激し、キサカもまた口には出さないが驚いていた――特にキサカはオーブ軍内でのイチカの料理の腕の高さは噂で聞いていたモノの、実際に口にするのは初めてであり、噂以上の腕前に驚かされたのだった。


「それにしても不思議だなこの船は。
 此れは地球連合の船で、クルーは本来なら全員がナチュラルな筈なのに、其処にキラとイチカって言うコーディネーターが居ても誰も何も言わないんだな?
 レジスタンスに参加してみて分かったんだが、ナチュラルの多くはコーディネーターに対して良い感情を持ってないって言う事を知ったから、コーディネーターとナチュラルが連合の船で巧くやっているというのは、少し意外だった。」


そしてそれ以上にカガリはアークエンジェル内でコーディネーターであるイチカとキラがナチュラルである他のクルーと上手くやっている事に驚かされていた。
カガリの出身であるオーブは中立国で、コーディネーターもナチュラルも分け隔てなく暮らしている国ではあるが、地球連合に属している国はコーディネーターに対しての偏見がある事をオーブから出た事で知ったカガリにとっては、連合の戦艦であるアークエンジェル内でコーディネーターとナチュラルが差別や偏見がない状態で上手くやってると言うのは意外な事だったのだろう。


「其れに関してはキラとフレイの存在が大きいかもな?
 フレイは最初はコーディネーターに対してアレルギーがあったみたいなんだが、此処に来るまでのあれこれでキラに惚れちまって、アークエンジェル内にコーディネーターとナチュラルのカップルが爆誕しちまったからな?
 コーディネーターとナチュラルがカップルになったってのに、コーディネーター排斥なんて事が出来ると思うか?――まぁ、そうじゃなくてもアークエンジェルのクルーは基本お人よしだから俺とキラを排斥するなんて事はしなかっただろうけどな。」

「僕とフレイの存在が大きいの?」

「私とキラの存在がナチュラルとコーディネータの懸け橋になっただなんて、褒めないでよイチカ♪」

「褒めてはいないが、コーディネーターとナチュラルのカップルってのは世界的に見ても両手の指で数えて足りるほどしか存在してないから、その関係は大事にするように。」

「「は~い♪」」

「マジか……」


イチカの言った事は間違ってはいないが、そもそもにしてアークエンジェルのクルーは艦長のマリューをはじめとしてナチュラルであってもコーディネーターへの偏見がない人物が多かった事が大きいだろう。
副官であるナタルは当初はコーディネーターに対して偏見を持っていたが、コーディネーターでありながらも連合の兵士として戦うイチカとキラを見てコーディネーターへの考えを改め、コーディネーターもまた自分達と同じ存在であると考えるようになっていたのだ。


「それはさておき、本日のデザートは皆大好き『クリームブリュレ』だ。
 今日は無事にアフリカを突破出来た記念に、シロップ漬けのフルーツとクリームをトッピングして『プリン・アラ・モード』な感じに仕上げてみたぜ。」

「此れはバエルわ……食べる前に写真撮ってSNSにアップしとこうっと。」


そんな中で提供された本日のデザートはクリームブリュレにシロップ漬けのフルーツと生クリームをトッピングしたモノであり、写真映えもするものだったのでミリアリアは食べる前に写真を撮って、其れを自身のSNSにアップしていた。
こうして紅海に入ってから、アークエンジェル内には暫しの休息の時が訪れ、クルー達もまったりと過ごしていたのだが、今が戦争中である以上、平和な時間が長続きしないのは当然と言えるだろう。



――ビー!ビー!!



突如として艦内に鳴り響く警報。
其れはコンディションレッドを告げるモノであり、其れを聞いたイチカとキラはモビルスーツのドッグへと向かい、フレイ達はアークエンジェルのブリッジに向かって夫々の任に付いた。


「機体照合完了。
 空中よりザフトの空中戦闘モビルスーツ『ディン』が、海中から水中戦闘モビルスーツ『グーン』がアークエンジェルに向かってきています!」

「空と海からの波状攻撃……!」


今回攻撃をしてきたのはザフトのモラシム隊であり、海上戦艦にも、飛行戦艦にも、潜水戦艦にもなるアークエンジェルに対し、空中と海中からの波状攻撃を仕掛けて来たのだ。
此の波状攻撃は普通ならば効果は絶大なのだろうが、アークエンジェルはその限りではない。


「空と海中からの波状攻撃か……空の方は俺が引き受けるから海の中の方は頼むぜキラ?」

「うん、任されたよイチカ。」


空中戦闘モビルスーツのディンにはオオタカを装備したビャクシキで対応する事が可能で、水中戦闘モビルスーツの『グーン』にはストライカーパックを装備せず、水中でも使用可能な電磁レールバズーカ『ゲイボルグ』を装備したストライクで対応する事が可能なのだ。
そして、イチカはビャクシキに、キラはストライクに乗り込んで発進シークエンスの開始を待つ。
マードックをはじめとした整備班の最終調整も終わり――


『ビャクシキ発進スタンバイ。進路クリア。ビャクシキ、発進どうぞ。』

「イチカ・オリムラ。ビャクシキ、行くぜ!」

『続いてストライク発進スタンバイ。ストライカーパックは装備せず、ゲイボルグを装備します。進路クリア。ストライク、発進どうぞ。』

「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!」


ビャクシキとストライクは発進し、ビャクシキは空中のディンに、ストライクは海中のグーンに向かって行った。

先ずは空中戦。
ビャクシキは雪片を双刃モードで展開すると、左手でビャクライを操ってビームを放ってディンを牽制すると、オオタカのブースターを一気に全開にしてディンに近付き、雪片をディンのコックピットに突き刺して切り裂き、先ずは一機撃破。


「なんという速さだ……アレが連合の新型か!」

「だが、これ以上は!」


予想外の速攻にディンのパイロット達はビャクシキに向かってライフルを放つが、ディンに搭載されているライフルは実弾兵器なのでPS装甲を搭載したビャクシキにはマッタクもって無力であり、ビャクシキは多少の被弾は完全無視で間合いを詰めると雪片を分割した二刀流で一機のディンの頭部と右腕を切り落として戦闘不能にする。


「実弾攻撃なんぞ、PS装甲搭載のビャクシキには効か~ぬ。効か~ぬわ~っはっはっは!!」


モビルスーツの開発では連合に先んじていたザフトだが、モビルスーツに搭載するビーム兵器の開発に関しては連合の方がオーブの『モルゲンレーテ社』から提供されたデータがあったとは言えザフトより進んでおり、更に同じくモルゲンレーテ社が試作したPS装甲の存在もあり、ヘリオポリスで開発された試作モビルスーツが全て連合の手に渡っていたら戦局は大きく連合有利となっていた事だろう……ストライクとビャクシキは逃したとは言え、5機の試作機を強奪出来たのはザフトにとっては大きな戦果だったのは間違いなさそうである。
もしも此の5機の強奪に成功していなかったら、モビルスーツ用のビーム兵器の開発に至っていないザフトと言うかプラントは、PS装甲を突破する術を持つ事は無かったのだから。


「そんじゃ、そろそろ終わりにするか!」


其れは兎も角として、ビャクシキは雪片を連結して腰部アーマーにマウントすると、マルチロックオンを起動して残るディンをロックオンし、ビャクライとオオタカに搭載されている高エネルギービームキャノンと電磁リニアランチャーを一斉に放つフルバーストをブチかましてディンを全機撃破して見せたのだった。


同じ頃水中では、ストライクが初となる水中戦闘を行っていた。
初めての水中戦に最初はキラも苦戦していたが、そんな中でまたしてもキラは戦闘を行いながらストライクのOSを水中戦にも対応出来るようにアップデートしてしまうと言う離れ業をやってのけ、水中戦に対応出来るようになったストライクは其れまでとは全く異なる動きを見せ、水中戦特化のグーンにも劣らない運動性を発揮していた。


「なんだ?イキナリ動きが……まさか、此の短時間に機体を水中戦に対応させたっていうのか!?そんな、そんな事が出来る筈がない!!」

「此れがナチュラルだと……まさか、そんな馬鹿な……!!」


更にモラシム隊の隊員はアークエンジェルのクルーは全員がナチュラルだと思っていた事も大きく、ナチュラルが短時間にモビルスーツを局地戦に対応さえられる筈がないと、ある意味で高を括っていた部分があり、だからこそ即対応して来た事に驚き、それが決定的な隙となってしまった。


「遅いです!」


頭部のバルカン砲『イーゲルシュテルン』でグーンを牽制したストライクは、イーゲルシュテルンを回避した一機に対してゲイボルグを放って撃破する――避けた先に放たれた攻撃は回避不能であり、此の攻撃は必中と言えるモノだったのだ。
そしてそれだけでは終わらず、ストライクは腰部のホルダーからアーマーシュナイダーを抜くとゲイボルグを四方八方に撃ちまくって海中に煙幕を張ると、其の煙幕を盾に二機目のグーンに近付いてコックピットにアーマーシュナイダーを突き立ててターンエンド。

行き成りの奇襲には驚かされたが、空中戦はイチカが無双し、水中戦ではキラが少しばかり苦戦したモノの、ストライクのOSを水中戦に対応させた事で結果的には完全勝利を収めたのだった。


「ふぅ……お疲れキラ。」

「イチカもお疲れ様。」


アークエンジェルに戻ったイチカとキラは互いに労い、敵勢力を退けられた事に安堵していた――同時に、アラスカへの中継点であるオーブへの航行中にもザフトからの攻撃はまだあるのだと、戦闘は何時でも起きると言う事をイチカとキラは感じ取り、そして降り掛かる火の粉は払う覚悟を改めて決めるのであった。








――――――








同じ頃、使い捨てのロケットブースターによって宇宙に戻って来たヴェサリウス内では、クルーゼ隊の隊長であるラウが新たな作戦と言うか、改めてアークエンジェル追撃の為の作戦を考えており、其れをアスラン達に伝えていた。


「私はオペレーション・スピットブレイクの為に残らなければならないから地球に降下する事は出来ない。
 よってアスラン、此れより君が部隊をまとめて地球に降下してアークエンジェルを追撃したまえ……アークエンジェル追撃の為の特務隊、その隊長は君だアスラン。」

「俺が隊長……分かりました、その期待に応えて見せますクルーゼ隊長。」

「ふ、良い返事だ。」


其れはアスランを隊長とした部隊で地球に降下してアークエンジェルを追撃すると言うモノであり、隊長に抜擢されたアスランの責任は重大なのだが、しかしアスランに不安はなかった。
キラと戦う事になるが、其れは其れとしてクルーゼ隊のモビルスーツパイロット全員に加えて、オペレーションとしてカンザシも同行してくれるのであれば不安要素は何もないのである。
こうしてアスラン達は再度地球に降下していき、そしてこの地球降下によって、運命的な出会いが起きるのであった……










 To Be Continued