宇宙へと戻ったクルーゼ隊は、其処で新たにアスランを隊長とするアークエンジェルの追撃隊を組織し、ラウはアスランに部隊の隊長を務めるように言い渡し、アスランも驚きながらも隊長の任を務める事を決意していた。
「俺が隊長とは、責任重大だな此れは……」
「そんなに深く考える事はないんじゃないかと思うわよアスラン?
特務隊の隊長に任命されたって言うのは確かに責任重大かも知れないけど、貴方の部下は私達――クルーゼ隊長が居ないだけで此れまでとそんなに変わらないんだから肩の力抜いて行きましょう♪」
「其れはそうなんだが、此れまでは隊長に命を預けていた身だったのが、今度は命を預かる身になったと思うとヤッパリな……何より、俺達の相手は簡単に如何にか出来る相手じゃないから尚更だ。」
「貴様の言う事も分からんでもない。
特に貴様の親友とやらは本当にこの間までヘリオポリスの学生だった事が信じられんほどの腕前に急成長している……ストライクには、何れ此の傷の礼をせねばならんとは思っているがな。
だが、この俺が貴様の部下となってやるのだ!大船に乗った心算でいろアスラン!!」
「イザークの言う通りです、僕達を信用してよアスラン。
オペレーターとしてカンザシも一緒に来てくれる訳だからきっと大丈夫。」
隊長の任を務める決意をしたとは言え、隊長としてカタナ達の命を預かる立場となった事が責任重大である事は変わらず、ストライクとビャクシキを有するアークエンジェルが一筋縄で行く相手ではないと言う事を考えるとアスランの顔は難しいモノとなるが、カタナ達は『自分達ならば大丈夫だ』と告げていた。
アークエンジェル追撃の為の特務隊、『ザラ隊』は此れまでクルーゼ隊として共に戦って来た面々だけあって、新部隊でも此れまでと空気は然程変わらないようである。
「ま、俺等なら何とかなると思うけど……今更だけど、ヘリオポリスで俺はハズレクジ引いた感じが否めねぇなぁ?……バスターにも近接戦闘用の武装が欲しかったぜマジで!」
「ディアッカ、其処は逆に考えるべき。
バスターは砲撃に特化してるんだから其れを最大限に生かして敵に近付かれる前に圧倒的火力で殲滅するのが正しい運用法でロマン。寧ろ『絶対殺す弾幕』を会得すべし。」
「弾幕張れるほどミサイルもないんだけどな……カタナの機体のバックパックみたいに誰かバスターに追加装備を作ってくれ!!」
「だけど、追加で近接戦闘武器が出来たとしても、バスターには其れを搭載する場所がないのが悲しいわねぇ……と言う訳で諦めなさいなディアッカ♪」
「だよなぁ、コンチクショー!!」
地球に降下後はアークエンジェルを追い、そして激しい戦いが待っている事が確定してる訳だが、だからこそ地球降下前の貴重な平和な時間を楽しむかのようにカタナ達は談笑し、仲間達の遣り取りを見ていたアスランの顔にも自然と笑顔が浮かび、特務隊隊長に就任した重責から解放されている様だった。
そんな平和な時の中、カタナは仲間達と談笑しながらも地球降下後に確実に訪れるであろうビャクシキとの戦いに心を滾らせていた……
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE23
『運命の出会い~Undersea battle~』
ザフトのモラシム隊による空と海からの挟撃を退けたアークエンジェルだったが、モラシム隊は其れでも諦めずに追撃戦を行い、現在アークエンジェルはモラシム隊の潜水母艦隊からの攻撃を受けていた。
アークエンジェルは宇宙戦艦、地球での空中戦艦、水上戦艦、潜水戦艦と航行場所を選ばない戦艦ではあるが、其れは逆に言えば『水中専用戦艦』の完全特化性能には僅かに劣るとも言える。
先の戦闘でアークエンジェルの弱点を見抜いたモラシム隊は、執拗に海中からの攻撃を仕掛けて来たのだ。
空に逃げると言う手もあるのだが、此処は未だザフトの領域内なので下手に上空に逃げたら、其処に待ち伏せされていたと言う事が無いとは言えず、そうなれば状況は更に悪くなるので、アークエンジェルは海面ギリギリを滑るように移動しながらモラシム隊の追撃になんとか対処していたのだ。
「ったくしつこい事で……敵さんの部隊の隊長は絶対に女性にはモテないだろうな。」
「その心は?」
「しつこい男は嫌われる。
ましてや此処までしつこいとストーカーレベルだから、こうなると最早ポリスメン召喚案件だぜキラ――尤も、戦場に於いては出張るのはポリスメンじゃなくて軍人、この場合は俺達だけどな。」
パイロットスーツに着替えたイチカとキラもドッグルームでビャクシキとストライクに乗り込むとカタパルトまで移動して発進して海に飛び込み、海中の敵との戦闘に入る。
先の戦闘でストライクのOSは水中戦にも対応させていたおり、戦闘から帰還後にキラはビャクシキのOSも水中戦に対応させていたのでビャクシキも水中戦を行えるようになっていたのだ。
とは言え、水中ではビームが使えないのでビャクシキはオオタカを装備せずにゲイボルグとシュベルトゲベールを装備して出撃し、ストライクはソードストライカーを装備しての出撃だ。
シュベルトゲベールは水中ではビームエッジを展開出来ないが、先端が実体剣となっているので水中でも十二分に使える武装なのである。
「来やがったか……イカの刺身になりたい奴から掛かって来やがれ!」
「此れ以上はやらせない!」
海中にはザフトの水中用モビルスーツ『グーン』の部隊が展開してアークエンジェルに攻撃を行っていたのだが、其処にビャクシキとストライクが切り込み、速攻で二機のグーンをシュベルトゲベールで一刀両断する。
そしてそれを皮切りにビャクシキとストライクは次々とグーンを撃破して行ったのだが、此処でモラシム隊は新たなモビルスーツを投入して来た。
其れもまた水中用のモビルスーツである『ゾノ』なのだが、グーンと比べるとフォルムが洗練されたモノとなっており、最新鋭の水中用モビルスーツである事が見て取れた。
「コイツ……さっきのイカとはまるで動きが違う!!」
「く……速い……!!」
そしてその性能もグーンとは一線を画しており、ビャクシキとストライクを翻弄するだけの性能を持っていた。
ビャクシキとストライクはキラのOS書き換えによって水中戦にも対応出来るようになっていたとは言え、『水中戦も出来るモビルスーツ』と『水中専用のモビルスーツ』では水中での動きに差が出てしまうのだ。
其れでもグーン相手ならば基本性能の差で上回る事が出来たが、最新の水中戦用のモビルスーツが相手では如何にビャクシキとストライクと言えども不利となってしまうのだ。
「イカの親玉は海坊主ってか?……上等だ、海坊主も狩ってやるぜ!イカの刺身の次は、海坊主の活き作りだ!!」
「アークエンジェルはやらせない、絶対に!僕の仲間達を、誰一人として死なせてなるモノか!!」
だが、状況が不利だからと言って諦めるイチカとキラではなく、ビャクシキはゲイボルグでゾノの一機を牽制すると、牽制されなかったゾノに肉薄してシュベルトゲベールを突き立てて撃破し、牽制されたゾノはストライクが斬り捨てる。
其のコンビネーションは正に『最強無敵のコンビネーション』と言っても過言ではなかった。
其れでも水中での運動性で勝るゾノの一機がストライクに肉薄して頭部を掴む。
クローによる攻撃はPS装甲には無力だが、PS装甲で覆われていないメインカメラやツインアイを破壊する事は可能であり、視界を潰す事が出来れば一気に有利になるのは間違いないだろう。
「そう簡単にやられるか!」
しかしキラは慌てずにアーマーシュナイダーを腰部ホルダーから抜くと、ストライクの頭部を掴んでいるゾノの腕に突き立てて強引にクローを開かせると、左腕に搭載されたパンツァーアイゼンを射出してゾノの胴体を掴み、其のまま先端のグラップルスティンガーで胴体を挟み潰す。
ゾノのコックピットは胸部に存在しているので胴体を挟み潰されただけならばパイロットは無事だろうが、機体其の物は半壊状態になっているので早急に脱出しないと爆発に巻き込まれてしまうだろう。
「何かこいつ等と戦ってたらイカフライとタコ玉食いたくなって来たぜ。」
イチカもイチカでシュベルトゲベールで新たに現れたグーンを切り裂き、ゾノにはグリップエンドを押し当ててからビームエッジを展開するゼロ距離攻撃を行って撃破していた。
たった二機のモビルスーツによって、モラシム隊は多くの水中用モビルスーツを撃破されてしまったのだった。
――――――
イチカとキラが水中戦を行っていた頃、海上のアークエンジェルはモラシム隊の空中部隊からの攻撃も受けていた。
モラシム隊は水中戦を得意としている部隊なので空中部隊の数は多くないのだが、其れでも此の状況での空からの攻撃と言うのは脅威だったのだが、此処でカガリがマリューに許可を取った上でランチャーストライカーを搭載したスカイグラスパーで出撃して、モラシム隊のディンを相手に空中戦を行うのだった。
とは言え、数の上ではアークエンジェルは圧倒的に不利なので、此のまま戦闘が続けばジリ貧は免れないだろう。
「バレルロール!ゴッドフリードを海中に照準!」
そんな状況で艦長のマリューは大胆な行動に打って出た。
なんとアークエンジェルを大気圏内でバレルロールさせて上下を反転させると、海中に向かって主砲である『ゴッドフリード』を発射すると言う予想外の攻撃を行ったのだ。
当然重力下での機体の上下反転はシートベルトをしていないクルーには地獄であり、ドッグエリアに居たマードックをはじめとした整備班は壁やら天井やらにぶつかると言う災難に見舞われていたのだ――が、それだけの事をした効果はあり、放たれたゴッドフリードは海中で威力が減衰したモノの、其れでも水中のモビルスーツと潜水戦艦を撃破するには充分な威力があったようで、グーンとゾノ、そして潜水戦艦を纏めて撃破した。
「なんとまぁ大胆な攻撃をしてくれるなラミアス艦長?
だが此れでイカも海坊主も全部撃破したか……なら残りは空の奴らだけだな!行くぜ、キラ!!」
『うん、行こうイチカ!』
海中からアークエンジェルに帰還したビャクシキとストライクは夫々オオタカとエールストライカーに換装してから再出撃し、空中のディンを撃破して行く。
カガリもモビルスーツ相手には不利なモビルアーマーでディンと互角以上の戦闘を行っていた――のだが、性能差を完全に覆すのは難しかったようで、遂にディンの攻撃に被弾してしまい、その影響で戦線から大きく機体はズレる事になってしまった。
「「カガリ!!」」
イチカとキラも其れに気付いてスカイグラスパーを追おうとしたのだが、其処にディンが立ち塞がった。
其れは速攻で撃破したのだが、其の時には既にスカイグラスパーは視界から消え、認識シグナルもロストしてしまったのであった。
――――――
同じ頃、アスランを隊長とする『ザラ隊』の面々はオペレーターとパイロットで別々の機体で地球に降下していた。
カンザシ達オペレーターは小型戦艦で、アスラン達モビルスーツパイロットは機体ごとにモビルスーツ輸送用の輸送船で降下し、部隊は地球のカーペンタリア基地にモビルスーツ母艦受領為に向かっていた。
先頭はカタナとイザークの輸送船で、その後に小型戦艦が続き、その両翼をディアッカとニコルの輸送船が固め、殿をアスランの輸送船が務める形で降下して、カーペンタリア基地までは無事に到着すると思っていた矢先に其れは起きた。
――ビー!ビー!!
「警告?カンザシちゃん、何が来たか分かる!?」
『ちょっと待って……此れは、地球連合のモビルアーマー?
なんでこんなところに、しかも単騎で……?』
警告音と共に現れたのは連合のモビルアーマー……其れは被弾したカガリのスカイグラスパーだった。
被弾したスカイグラスパーは戦線を大きく外れた上で幸か不幸かアスラン達が地球に降下して来た軌道に鉢合わせたのだ。
此の状況はカガリにとっては絶体絶命と言えるのだが、此処でカガリはスカイグラスパーに搭載されたランチャーストライカーの武装を一斉開放して降下部隊を牽制して分断すると、殿を務めるアスランの輸送機に向かってアグニを発射し、そのビームは輸送船を掠める。
掠めただけとは言え、アグニのビームはヘリオポリスの外壁を貫通するだけの威力があるので掠めただけでもダメージは甚大で輸送機は大破し、アスランは輸送機が大破する直前にイージスをモビルアーマー形態にして脱出したのだが、輸送機大破の爆発から逃れる事は出来ず、爆発の余波を受けて近くの無人島に不時着し、同時に被弾した状態で戦闘を行ったスカイグラスパーも此処で限界が来てイージスが不時着したのと同じ島に不時着した。
「まさかこんな事になるとはな……だが、あのモビルアーマーは被弾していたようだったから、もしかしたら同じ島に不時着しているかもしれない。
最悪の場合は生身での戦闘になるかもしれないが……そうなったらその時はやるしかないか……俺は、こんなところで死ぬ事は出来ないからな……!」
「クソ、此処までか!
此処は無人島か?……イチカ達が助けに来てくれれば良いんだが、其れまでは何とか生き延びないとだな……其れに、ザフトの奴も若しかしたら此処に不時着してるのかもしれないからな――私はまだ死ねない、絶対に生きてオーブに戻るんだ!」
互いの存在を知らぬまま、アスランとカガリは同じ無人島に不時着し、そして此の不時着はアスランとカガリにとって運命の出会いとなるのだった……
To Be Continued 
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