翌朝、作戦は決行され、『明けの砂漠』の陽動隊のメンバーは武装したジープや装甲車で『砂漠の虎』の本拠地に向かって行き、イチカとキラは何時でも出撃出来るようにパイロットスーツに着替えてアークエンジェルのハンガーで待機していた。
「イチカ、今回の作戦巧く行くかな?」
「俺の私見で言わせてもらえば成功率は0%だぜキラ。
お前も対峙して感じたと思うけど、バルトフェルドの旦那はフラガの旦那に勝るとも劣らない傑者だからな……レジスタンスの狙いなんぞは看破してると思った方が良いだろうな。」
「ムウさんに匹敵するか……なら、確かにレジスタンスの狙いは読んでいるかもだね。」
イチカもキラもレジスタンスの作戦が上手く行くとは思っていなかったが、そんな話をしている間に砂漠に爆炎と粉塵が巻き上がった。
それだけならばレジスタンスの誘導が成功したのかと思えるが、粉塵の先から現れたのはバルトフェルド隊の地上戦艦『レセップス』だった――バルトフェルド隊は戦艦の火器をもってして地雷を誘爆させ、レジスタンスが仕掛けた地雷原を超えて来たのだ。
対モビルスーツ地雷が埋め込まれた地雷原にモビルスーツを誘導する事が出来ていれば戦局はレジスタンスが思い描いた通りになっていただろうが、対モビルスーツ地雷も戦艦相手ではさほど効果はなく、そもそもにして地上戦艦の多くは重力下での飛行能力を有している場合が多いので地雷はその役目を果たす事が出来ないのである。
そして役目を果たせないまま戦艦の攻撃で爆破処理されてしまったのだから、バルトフェルドはレジスタンスの目論見を完全に看破していたと言う訳だ。
「あっさりと地雷原は突破されましたとさ……となるとこっちから打って出るしかない訳だ。
軍艦出されたら地雷原への誘導は意味がないって、作戦会議の時にレジスタンスの皆さんに言ってやるべきだったのかねぇ……言ったら言ったで別の無謀な作戦立てそうだけどな。」
「イチカ……其れは確かに少し否定出来ないかもしれないね。でも、こうなった以上は僕達がやるべき事は一つだけだ。」
バルトフェルド隊が戦艦で地雷原を突破した光景をモニターで確認したイチカとキラはハンガーから夫々のモビルスーツに乗り込んで出撃準備を整える。
『ビャクシキ発進スタンバイ。バックパックはオオタカを装備。そしてゲイボルグを装備します。進路クリア、ビャクシキ発進どうぞ。』
「イチカ・オリムラ。ビャクシキ、行くぜ!」
『ストライク発進スタンバイ。ストライカーパックはエールを装備します。進路クリア、ストライク発進どうぞ。』
「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!」
ビャクシキとストライクはアークエンジェルから発進すると、其れに続いてムウもランチャーストライカーを搭載したスカイグラスパーで出撃し、バルトフェルド隊との本格的な戦闘が始まるのだった。
バルトフェルド隊も地雷原を無力化した事で主力モビルスーツであるバクゥが多数出撃し、レセップス上にはタンク型のモビルアーマーに変形出来る砲撃型モビルスーツのザウートとクルーゼ隊のモビルスーツの姿もあった。
その様は正に総力戦と言うに相応しいモノであり、砂漠での最大の戦いの火ぶたが切って落とされたのであった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE21
『砂漠の果て~Battle with Desert Tiger~』
数の上では圧倒的に勝るバルトフェルド隊だが、だからと言って其れで一方的に優位になる訳ではない――バルトフェルド隊のモビルスーツはバクゥもザウートも地上戦型であり、クルーゼ隊のモビルスーツも重力下での飛行能力を有しているのはバックパックを装備したグラディエーターとモビルアーマー形態のイージスのみであり、飛行能力を有するビャクシキとスカイグラスパー、飛行は出来ないが滑空は可能なエールストライクを相手にするには機動力と制空権でディスアドバンテージなのだ。
「クソ、地球の重力は此処までキツイモノだったか!?」
「デュエルは追加装甲のせいで余計に重く感じるんじゃねぇの?今回の俺達の役目は、戦艦の固定砲台かもな。」
特に追加装甲『アサルトシュラウド』を搭載したデュエルの重力下での動きは重く、イザークほどのパイロットであってもその操作には難儀していた――宇宙と地球では矢張り相当に勝手が違うようである。
其れでもアサルトシュラウドを搭載した事で上昇した火力は戦艦の固定砲台としての役目を十分に果たし、ディアッカのバスターと共に後方支援を務め、ニコルのブリッツはレジスタンスへの牽制攻撃を行い、アスランのイージスはモビルアーマー形態で空を飛んでストライクに向かうと、モビルスーツ形態になってストライクに攻撃を仕掛ける。
「アスラン……退いてはくれないよね……なら僕は君を退ける!大切なモノを守るために!」
「キラ……自分で決めた事は何があっても絶対に曲げない、変わらないなお前は!」
両手首に固定装備されたビームサーベルで切りかかってくるイージスに対し、ストライクもエールストライカーからビームサーベルを抜いて応戦し、ビームサーベルがぶつかり火花を散らす。
ストライクの左手はシールドを持っているので二刀流のイージスには分が悪そうに見えるが、ビームサーベルの鍔迫り合いの最中、ストライクは左腕のシールドを鈍器のように使ってイージスを殴りつけて強引に鍔迫り合いを終了させた。
PS装甲の特性でシールドで殴られた程度ではダメージは皆無だが、コックピットへの衝撃を無効に出来る訳ではないのでPS装甲に対する物理攻撃は仕切り直しには持って来いだったりするのだ。
「ムウさん、ちょっと借りますね。」
「え?おい坊主!」
仕切り直しに成功したキラは、ムウのスカイグラスパーのランチャーストライカーからメイン武装の『アグニ』を拝借すると、圧倒的破壊力のビームを放ってバクゥ数機を撃滅し、イージスを其の場から離脱させる。
そしてそれだけでなくアークエンジェルにソードストライカーを要請すると、トールがスカイグラスパーで持って来てくれたソードストライカーからレーザーブレード対艦刀『シュベルトゲベール』を取ると同時にビームブーメラン『マイダスメッサー』を抜くと其れを投擲してバルトフェルド隊を牽制する。
「ヒュー、やるなキラ?……んでもって、俺の相手はやっぱりお前かグラディエーター!」
「抱きしめたいわね、ビャクシキィ!!」
一方で、イチカのビャクシキにはカタナのグラディエーターが攻撃を仕掛けていた。
大型の近接ブレード『ミステリアスレイディ』の二刀流のグラディエーターに対し、ビャクシキは双刀型ビームサーベル『雪片』を展開して応戦する――双刀ビームブレードで二刀流に対処しながら、ゲイボルグでバクゥを攻撃するイチカの戦闘センスは相当なモノがあると言えるが。
「この状況ではバクゥの撃破は確かに必要な事なのだとは思うけど、私だけに集中してほしいわね……自分でも思った以上に、独占欲強いみたいだわ私ってね!!」
「ったく、なんだって俺に執着するかね?
美少女がパイロットなら大歓迎だけど、これでパイロットが野郎だったら俺は最悪自殺すんぞマジで!」
更に切り込んで来たグラディエーターを体重移動でいなすと、ビャクシキはゲイボルグを鈍器代わりにしてグラディエーターを殴りつけて間合いを離し、間合いが離れたところでゲイボルグを連続で叩き込む。
PS装甲の前では実弾兵器のゲイボルグは決定打にはならないが、それでも機体エネルギーを消費させる事は出来るので決して無駄な攻撃ではないのだ。
「やるな少年達……なら俺達も出るとしようかね?一緒に来てくれるかアイシャ?」
「其の確認、必要かしらアンディ?貴方が行くなら私は勿論一緒に行くわよ……だから、行きましょうアンディ。」
「だな……アンドリュー・バルトフェルド。ラゴゥ、行くぞ!!」
此処でバルトフェルドが恋人のアイシャと共にバクゥの上位機体の指揮官機『ラゴゥ』に乗って出撃してレジスタンスの部隊を蹴散らして行く――其れでも、ジープや装甲車を走行不能にするだけで搭乗者の命を奪わないのは、バルトフェルドの『無用な殺しはしたくない』との思いがあればこそだろう。
だが、バルトフェルドが出撃した事で戦局は完全に拮抗し、アークエンジェルも身動き出来ず、レジスタンス『明けの砂漠』も苦戦を強いられる事になったのだが――
「これ、少し借りるぞ!」
「おい、ちょっと待てお前さん!それは!!」
「機体を遊ばせていられる状況か!」
此処でカガリがアークエンジェルに帰艦したばかりのトールが乗っていたスカイグラスパーに乗り込んで出撃した。
レジスタンスの一員に過ぎないカガリが地球連合の正規軍であるアークエンジェルに配備されているスカイグラスパーで出撃すると言うのは本来ならば大問題なのだが、カガリのこの選択は今回に限っては大当たりだった。
バルトフェルドも予想していなかった更なる空からの援軍への対処が遅れてしまい、更にその対応の遅れで生じた隙に、アークエンジェルが主砲のビーム砲『ゴッドフリード』を発射して多数のバクゥを葬り、戦局は一気にアークエンジェル有利となって来た。
「……ここらが潮時か……クルーゼ隊は全軍撤退せよ。これよりクルーゼ隊は此の場を離脱して宇宙に戻る。」
戦局がアークエンジェルに傾いたところでラウはアスラン達に撤退を通達する――あくまでもクルーゼ隊の面々はバルトフェルド隊に『出向』という形でやって来ており、アスラン達の最高司令官がラウである事には変わらないのだ。
なれば、隊長であるラウの命令に逆らう事は出来ないのでアスランはキラ、カタナはビャクシキに名残はあれど其の場を離脱してラウと合流し、其のままヴェサリウスで再び宇宙へと向かって行った――本来ヴェサリウスには単機での大気圏突破能力はないのだが、砂漠に降りたった後で何時の間にか使い捨てのロケットブースターが搭載されており、一回限りとなる大気圏突破能力を獲得していたのだ。
間違いなくタバネが搭載したモノなのだろうが、誰にも気付かれずに其れを搭載したタバネは色々とぶっ飛んでいると言わざるを得ないだろう……そもそもにしてバルトフェルド隊の誰にも気付かれずに作業を終えてしまうのだからなんとも恐ろしい事だ。
「クルーゼ隊長、この船って大気圏突破能力ありましたっけか。」
「今この時限定だよカタナ。
妖精の靴ではないが、この世界にはまだまだ私達の考えが及ばない力が存在しているのだろう……思えば、君のグラディエーターのバックパックの設計図も不思議な贈り物だったな。」
「……もしかして宇宙人って存在しているのかしら?貴方はどう思うイザーク?」
「広い意味で言うのであれば、宇宙のプラントで暮らしている俺達は宇宙人と言えるのではないか?……まぁ、宇宙人が居るか居ないかで言うのであれば居る可能性の方が居ない可能性よりもずっと高いと思うがな。この宇宙は広すぎる。」
「宇宙の直径は百四十九兆五千億光年。
一光年は9兆8千500㎞だから、その百四十九兆五千億倍……もう訳が分からない。」
「正に天文学的数字だな。」
ヴェサリウス艦内ではこんな会話が交わされていたが、それでもアスラン達はバルトフェルドの無事を祈っていたのだった。
――――――
戦局がアークエンジェル優位に傾き、更にクルーゼ隊も離脱した事でバルトフェルド隊は一気に窮地に追い込まれる事になったのだが、しかしまだ敗北には至っていなかった。
バクゥはほぼ倒されたモノの、バルトフェルドとアイシャが乗るラゴゥはまだまだ健在であり、イチカのビャクシキとキラのストライクを相手に互角の戦いを演じていたのだ。
「俺とキラの二人を相手にして互角とは、砂漠の虎の異名は伊達じゃないって事か……だけどな、だったらこっちは数の利を活かさせてもらうぜ!」
「僕達は負けない、負けられないんだ!」
此処でビャクシキがゲイボルグをストライクに投げ渡し、ストライクはシュベルトゲベールをビャクシキに投げ渡して武器スイッチを行うと即ラゴゥに攻撃を仕掛ける。
「此処で武器スイッチとは……やってくれるな少年!」
「アンディ、熱くならないで。熱くなりすぎると負けるわ!」
「あぁ、分かってるよアイシャ!」
その攻撃を躱したラゴゥは頭部のビームサーベルを展開すると、ビャクシキとストライクにその刃を向ける。
狙いはコックピットであり、決まれば必殺間違いなしだ。
「「……!!」」
――パリィィィィン!!
その土壇場でイチカとキラのSEEDが発動し、ギリギリのところでラゴゥの攻撃を躱すと、ビャクシキはシュベルトゲベールを一戦してラゴゥの前足を切断し、ストライクはゲイボルグでラゴゥの背部装備を破壊する。
足を一本失い、更に背中の武装も破壊されたラゴゥの武装は頭部のビームサーベルのみであり、それだけでビャクシキとストライクを相手に戦うのは無理があるだろう。
「バルトフェルドの旦那、もう勝負はついた……此処で終わりにしないか?」
「これ以上の戦いは無意味です、降伏してくださいバルトフェルドさん!」
最早戦局は決した、これ以上の戦いは無意味だとイチカとキラはバルトフェルドに降伏するように言うが――
「確かに戦局は決まった、ならば降伏するってのが賢い選択なんだろうけど……俺は敢えてその選択はしない!敗北が濃厚な相手が、それでも降伏せずに戦う事を選択したら如何する少年!」
「「……!!」」
バルトフェルドは其れを受け入れずに戦闘を続け、頭部のビームサーベルでビャクシキとストライクのバックパックの稼働翼を切り裂き、更にゲイボルグとシュベルトゲベールも切り裂いて使用不能にする。
武装を破壊されたビャクシキは雪片を展開し、ストライクは腰部ホルダーからアーマーシュナイダーを抜きラゴゥを迎え撃つ。
そしてビャクシキが雪片でラゴゥの頭部のビームサーベルを破壊すると、ストライクがアーマーシュナイダーをコックピットに突き刺す……そして次の瞬間ラゴゥは爆発四散し、砂漠での死闘に終止符が打たれたのだった。
「なんで……どうしてこうなるんだ!なんで憎んでもいない相手を殺さなきゃならないんだ!……今の僕じゃ殺さなきゃ先には進めないけど、だけど誰も殺したくないのに!!」
「それが戦争なんだよキラ……割り切れよ、そうじゃないと死ぬぞ?
死んじまったら大切なモノを守る事すら出来なくなっちまうんだ……前にも言ったが、奪った命の事を忘れずに死ぬまで背負うのが奪った命に報いる唯一の手段だからな――バルトフェルドの旦那の命も、背負うだけだろ俺達はさ。」
「イチカ……うん、そうだね。」
イチカもキラも涙を流していたが、其れを何とか切り替えてアークエンジェルに帰還し、こうして砂漠の死闘は幕を閉じるのだった……
――――――
ストライクにアーマーシュナイダーでコックピットを貫かれたラゴゥは爆発したのだが、その刹那、バルトフェルドは不思議な感覚にとらわれていた。
目の前で恋人のアイシャはアーマーシュナイダーに貫かれたはずだったのだが、そのアイシャが自分に膝枕をしていたのだ。
「アイシャ……?」
「アンディ、あの子達を責めないで……彼等、泣いていたわ……」
「そうか……少しばかり酷な選択をさせちまったのかもしれないが、それが彼等のこの先の未来に繋がるのなら後悔はない――いや、お前を巻き込んじまったのは後悔してるかなアイシャ?」
「後悔しないでアンディ……私が自分で選んだ事だから……だから、私はもう逝くわ。」
「アイシャ……そうだ、新しいコーヒーのブレンドを思い付いたんだ……今度其れを試してくれないかな?」
「えぇ、その機会があれば楽しみにしているわアンディ。」
それは夢か現か幻か……アイシャとの最期の言葉を交わしたバルトフェルドの身体は閃光に包まれ、そして次の瞬間にバルトフェルドの意識は深い闇に沈んで行ったのだった。
To Be Continued 
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