第八艦隊本隊とアークエンジェルが合流した直後に仕掛けて来たザフトのクルーゼ隊に対し、アークエンジェルからはイチカとキラが出撃して迎撃に向かった。
ストライクは汎用性に富むエールストライクを装備し、ビャクシキは遠距離型のランチャーストライカーを装備しての出撃となったのだが、ビャクシキは基本装備でビームライフルとビームサーベルを搭載しているので、砲撃特化型のランチャーストライカーパックを装備しても近距離戦で戦う事も出来るので問題は無いだろう。
「っとぉ、強奪した機体まで出してくるとは初っ端から全力って感じかよ?
デュエルは修理ついでに外装甲を追加したのか?此処に来てまさかの強化をしてくるとはな……となると此れまで以上に厳しい戦いになるかもだ。気を引き締めて行こうぜキラ!」
「勿論。油断しないで行こうイチカ。」
艦隊数では連合の方が勝るがモビルスーツの数ではザフトの方に利がある。
強奪したイージス、グラディエーター、バスター、ブリッツ、そして強化改修されたデュエル・アサルトシュラウドに加え量産機であるジンまで繰り出して来ており、アークエンジェルと第八艦隊は戦闘開始直後から苦戦を強いられる事になった。
「地球降下までの時間稼ぎじゃ終わりそうにねぇか……突入限界高度まで持ち堪えるってのも難しいとなれば、やるしかねぇよな!」
その状況で一夏はランチャーストライカーのメイン装備である『アグニ』を展開すると超高威力ビームを放ち、射線上に居た数機のジンと戦艦一隻を薙ぎ払う――エネルギー消費量は大きいモノのアグニのビームは通常のビームライフルのビームよりも遥かに強力であるだけでなくビームも極太であるために攻撃範囲も広く複数の相手を同時に巻き込む事が可能なのだ。
其れだけならばオオタカを装備してのフルバーストの方がより多くの相手を攻撃出来るのだが、戦艦を撃沈する事は出来ないのでイチカはランチャーストライカーを装備して来たのだろう。
相手が此れまでとは異なり総力戦を仕掛けて来たとなれば、機体だけを行動不能にして其れを回収させる事で数を減らす方法を使ったところで劇的に数が減ると言うのは期待出来ない――其れこそ回収班と同じ数だけ別動隊が出てきてしまったら結局は同じなのだ。
だからイチカは今回はパイロット諸共撃破する方向で行く事にしたのだ……そしてモビルスーツは元より戦艦の方を破壊してしまえば予備戦力を纏めて消し去る事も出来るので戦艦の方も積極的に狙って行く事にしたらしい。
「く……僕は……だけど僕がやらなかったらフレイは、皆は……だったら僕は大切なモノを守る為に……!!」
キラもまた此の状況に置いて覚悟を決め、遂にジンのコックピットをビームライフルで撃ち抜いた。
此れまでの戦闘ではイチカのサポートや様々な要因が絡まって相手を殺す事は無かったキラだったが、此処に来て『殺す意思を持って攻撃してくる相手に、殺したくないと言う思いを持っていては大切なモノを守れない』と考えて『相手の命を奪う』覚悟を決めたのだ。
軍人であるイチカはとっくにその覚悟を決めていたが、つい最近までヘリオポリスの工業ガレッジの一学生でしかなかったキラがその覚悟を決めるのは相当なモノだったのは想像に難くないが、其れでもその覚悟を決めたのは連合によって強制的に軍属にされてしまった恋人と仲間達を守りたいとの思いがあったからこそだろう。
「キラ、お前……!」
「本当なら殺したくない……でも、今の僕じゃ殺さずに済ます事は出来ないから……大丈夫、覚悟は決めたから……!」
「お前の手を汚させたくは無かったんだが……其れが出来なかったのは俺の力量不足ってか?……ったく、民間人に殺しをさせる事になんて事がハルフォーフ一尉の耳に入ったら拳骨どころじゃ済まねぇかもだが、こうなっちまった以上は仕方ねぇか。
なら俺からは一つだけ、奪った命の事を絶対に忘れるなよ!」
「うん、分かった!」
イチカとキラがザフトのモビルスーツを撃破して行く中でザフトの赤服達五人も第八艦隊の戦艦を撃沈して行く……正に互いに相手の戦力を磨り潰すような戦闘模様となっており、地球軌道上での戦いは混沌として行くのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE14
『宇宙に降る星~地球に向かって~』
戦艦とモビルスーツでは火力では戦艦の方が上だが機動力ではモビルスーツの方が上なので、モビルスーツが数機で掛かれば戦艦を撃沈する事は容易であり、第八艦隊は既に数隻の戦艦を失っているのだが、ザフトの方もまたビャクシキの放つ極大砲撃によって十数機のジンと二隻の戦艦を失っていた。
ランチャーストライカーのメイン装備であるアグニは長射程と高威力に比例してエネルギー消費が大きいので外部バッテリーに接続しない限りは連射は不可能なのだが、ビャクシキはアグニを連続使用して来たのだ。
実はアグニにはイチカがキラに提案して組み上げた『宇宙空間ソーラーバッテリープログラム』が新たに組み込まれており、太陽が放つ光エネルギーではなく波動エネルギーを取り込んで導力にする事に成功していたのだ。
光エネルギーを取り込む従来のソーラーバッテリーとは異なり、光エネルギーが届かない無重力空間でも使えるソーラーバッテリーを搭載した事で、アグニは本体のエネルギーを気にせずに超威力の砲撃を連射出来るようになったのだ。
更にこれは整備班のマードックが思い付いた事ではあるのだが、PS装甲の電圧を変える事でストライカーパックによってPS装甲の強度を変える事が出来るのではないかとの閃きのもとにランチャーストライカーを装備したビャクシキのPS装甲の電圧を変化させた結果ボディ部分の装甲は黒のままだが、此れまで白かった部分はダークグリーンへと変わりより堅い装甲へと変化していた。
ダークグリーンは白よりも堅く強いPS装甲なので基本的な役目が固定砲台としての後方支援となる遠距離砲撃型にはピッタリであると言えるだろう。PS装甲は実弾無効装甲だがビームに対しても通常装甲よりは防御力が高いので、強く堅くする事でビームへの防御力も底上げされ、固定砲台として破壊され難くなるのだ。
逆に、機動力が必要となる近距離戦闘型や高機動中距離型の場合は装甲の柔軟性がある白に近い色がメインの方が都合が良い訳ではあるのだが。
堅く強い装甲だと高機動時の衝撃を受け流す事が出来ずに割れてしまうからだ。
「あら、色を変えたの?そのカラーリングも素敵よビャクシキ!!」
「まぁ来るよなグラディエーター……だが、お前との戦いを楽しみにしてた俺がいるのは否定出来ねぇんだわ……何で、俺はお前に惹かれるんだろうなぁ!!」
其処にグラディエーターが現れて交戦状態となる。
近接型のグラディエーターに対してビャクシキは雪片を双刃状態で展開して応戦する――グラディエーターはミステリアス・レイディの二刀流だが、其れに対して双刃式の雪片で互角に渡り合うイチカの技量は可成り高いと言えるだろう。
「貴様は俺が落とす!覚悟しろストライクゥゥゥ!!」
「デュエル……!」
其の一方では『打倒ストライク』を掲げるイザークが駆るデュエル・アサルトシュラウドがキラのストライクに襲い掛かっていた――アサルトシュラウドを搭載した事でデュエルは総重量が増したのだが、無重力空間においては機動力が強化された状態となり、更に右肩部に搭載されたレールガン『シヴァ』によって火力も僅かではあるが上昇する事になったのだ。
こうしてビャクシキはグラディエーターと、ストライクはデュエルと交戦状態になったのだが、其れは逆に言えば他のザフトのモビルスーツは完全にフリーになると言う事であり、フリーとなったモビルスーツは第八艦隊の戦艦を次々と撃墜して行く。
此のままでは艦隊が全滅するのは時間の問題だろう。
「……アークエンジェルは、此れより地球への緊急降下に入る!」
しかし此処でアークエンジェルの艦長であるマリューが地球への緊急降下の命令を下してアークエンジェルを一気に降下させる。
敵前逃亡ではなく、標的となっているアークエンジェル其の物を囮とする事でザフトの注意を引き付けて艦隊の全滅を阻止しようとしたのだ――標的となっている戦艦自らが囮になると言うのはある意味では最も効果があると言えるのだから。
このマリューの命令は当然イチカとキラも受信しており、ビャクシキとストライクは艦隊を守る形で陣を形成したが、其れでもザフトのモビルスーツの数に対して僅か二機で対処すると言うのは可成り難易度が高い上に、ビャクシキはグラディエーターが、ストライクはイージスとデュエルが執拗に攻撃してくるので艦隊の完全防衛には至っていなかった。
状況は圧倒的に不利であり、ともすれば囮作戦が成功するかどうかも分からないのだが、ハルバートンが乗る旗艦『メラネウス』も支援攻撃を行ってくれた事でアークエンジェルは何とか降下態勢に入り、同時にビャクシキはアークエンジェルに降り立ち、艦の固定砲台と化した。
ランチャーストライカーは重力下における飛行能力を有しておらず、ビャクシキ自身も重力下では本体装備のスラスターで姿勢制御による短時間の滑空は出来るが飛行は出来ないのでアークエンジェルに張り付いた訳だ。
「ラミアス艦長、敵モビルスーツ接近!」
「ローエングリン展開!……ってぇぇぇぇ!!」
其れに対して数機のジンが攻撃を仕掛けて来たが、マリューはアークエンジェルに搭載された最強武装の陽電子砲『ローエングリン』を展開させると其れを放ち、イチカもまたアグニの高出力ビームを放って、二つの巨大ビームは襲い掛かって来たジンと後方に居た戦艦二隻を撃滅!
重力下で使ったら環境への影響が大きい陽電子砲だが、無重力下である宇宙空間であれば環境への影響は無いと判断してマリューは使用に踏み切ったのだが、その結果は上々で、ビャクシキのビームと共にジン数機を葬り、戦艦二隻も撃沈したのだから上々と言えるだろう。
「そんな所に張り付いてないで、私の相手をしてくれないかしら?」
「……此の状況を考えろよ馬鹿野郎。つっても聞こえてないだろうけど……ミリィ、オオタカパックを射出してくれ!」
『了解!この高度だと輸送機出せないからオオタカパックだけカタパルトで出すから!』
そんな状況で執拗に攻撃をしてくるグラディエーターに対し、ランチャーストライカーのままでは埒が明かないと判断したイチカは、ビャクシキの本来の装備であるオオタカパックを射出するように要請し、カタパルトからオオタカパックが射出されるのを見ると、ランチャーストライカーをパージしてオオタカパックを装備し、機体色も本来のビャクシキのモノへと戻る。パージしたランチャーストライカーは開いたカタパルトに投げ込んで回収させた。
「やっぱり貴方はそっちの方が良い感じよビャクシキ……その純白の機体が、私を惹き付けるのよ!」
「本来の姿となったビャクシキは、さっきよりもちょ~っと強いぜ!」
オオタカパックを装備したビャクシキはアークエンジェルから離れるとグラディエーターとの戦闘に突入――するだけでなく、グラディエーターと斬り合いを行いながら、オオタカに搭載されたビームランチャーとレールガンで他のモビルスーツへの攻撃も行うと言う離れ業を見せてくれた。
あくまでも其の攻撃は牽制に過ぎないのだが、其の攻撃があるとないとでは大違いであり、特に第八艦隊の艦船を狙っていたバスターとブリッツに対しては攻撃の手を緩めさせる事に繋がっており、ストライクに対してデュエル程には攻撃出来ていないイージスをストライクから引き離す事も出来ていた。
そうして激しい戦闘が行われる中でアークエンジェルの地球への降下のカウントダウンは続き、突入限界点が近付く……突入限界点に入ってしまえば大気圏突入状態となるのでザフトも下手に追う事は出来なくなるのだ。
地球は連合が実効支配している地域が圧倒的に多いので、地球に降下した場合には逆に不利な状況になり兼ねないのである。
残り時間は一分を切り、此のままならば大気圏に突入出来ると言うところで、ザフト部隊の艦船の一つである『ガモフ』がアークエンジェルの地球降下を阻止すべく捨て身の特攻を仕掛けて来た。
先のローエングリンとアグニの攻撃によって撃破されずとも大きなダメージを負ったガモフはせめてアークエンジェルを道連れにせんと突っ込んで来たのだ――交戦中のイチカとキラは援護に向かう事は出来ず、アークエンジェルもまさかの特攻に反応が遅れてしまい迎撃態勢が遅れてしまった。
此のままではアークエンジェルはガモフの特攻を喰らってしまうが……
「アークエンジェルを守れ!絶対に落とさせるな!!」
其処にハルバートンの旗艦『メラネウス』が割って入り、自らをアークエンジェルの盾とした。
これによりアークエンジェルは無事だったのだが、艦船の特攻を受け止めたメラネウスは致命的な損傷を負う事になってしまった――其れでも航行は可能なので、宇宙空間にある連合のコロニーに向かえば修理も出来たのだが、この特攻を阻止した次の瞬間にメラネウスはアークエンジェルと共に大気圏突入状態となり、損傷した艦体では大気圏突入時の超高熱に耐えられる筈もなく、損傷部分から焼かれて行く。
「ハルバートン提督……そんな!!」
「生きろ……君達は生きるべきなのだ……私は死ぬのではない、未来への礎となるのだ……如何か、此の戦争を終わらせ、ナチュラルとコーディネーターが共存する未来を……」
――バガァァァァァァァン!!
そして次の瞬間、メラネウスは爆発四散し、其れは同時にメラネウスの搭乗員が全員死亡した事を意味していた――仮にこの爆発で命を落とさずとも、大気圏突入の熱で人体はあっと言う間に燃え尽きてしまうので生存は絶望的なのである。
「ハルバートン提督ぅぅぅぅぅ!!」
「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――パリィィィィン!!
此処でイチカとキラのSEEDが覚醒し、大気圏突入状態となっても攻撃を続けて来たグラディエーターとデュエルを強引に引き剥がすと自身も大気圏突入の姿勢を取り、クルーゼ隊も其れを追うように大気圏突入状態となり戦闘は一時中断となった。
こうしてなんとか地球に辿り着いたアークエンジェルだったが、その代償は第八艦隊全滅と言うあまりにも大きすぎる犠牲であった――そして此の時から、戦場は地球へと移り変わったのだった。
To Be Continued 
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