イチカとキラがオルフェとゾルガと交戦状態になった頃、他のブラックナイトはシン達と対峙していた。
シュラのブラックナイトシヴァはいないが、4機のブラックナイトに随伴する無人のジン――其の総数は凡そ30と言ったところだろう。


「ブラックナイト……ビームは効かない!ルナは援護だ!!」

「援護ねぇ……構わないけど、無人機のジンは倒しちゃっても構わないのよね?てかぶっ倒すけど。」


ビームが効かないブラックナイトは厄介な相手だが、デスティニーにはビームを無効にするフェムテク装甲すら近距離ならば破壊可能な超射程ビームランチャーと手掌短距離ビーム砲パルマフィオキーナ、そして今尚モビルスーツに搭載出来る近距離武器としては最大で最強である『対艦刀アロンダイト』が搭載されているので実はデスティニーならばブラックナイトに大きく有利がつくのである。


「ルナ、やる気満々?」

「満々に決まってるでしょ?
 露払いはしてあげるからアンタは全力で自分達が優秀種と思い込んでるクソ馬鹿ビビンチョに身の程ってモノを叩き込んでやりなさい……そんでもって、アンタを選んだアタシを馬鹿にしたアグネスを後悔させてやって。」

「えっと……若しかしなくても怒ってるルナ?」

「愛する人を貶されて怒らない人間がいるなら逆に会ってみたいわ……ギャンの姿がないからアグネスはいないみたいだけど、それでもアンタの活躍を知れば後悔すると思うから。
 そして後悔してるアグネスに私の彼は世界一って自慢してやるわ!!」


援護を任されたルナマリアは、ブラストでのフルバーストを行った後にソードシルエットに換装して近接戦での各個撃破に打って出ていた。
尚、ソードに換装したインパルスは、此れまでとは異なりボディ部分がブラックになり、それ以外の部分はレッドになると言う大胆なカラーリングの変更がなされていたのだが、近接型のソードインパルスにとって強い赤と堅い黒のカラーリングは理に適っていると言えるだろう。

ソードに換装したインパルスは対艦刀エクスカリバーの二刀流で次々と敵機を撃破して行ったのだが、これはZストライクにてイチカが最も得意としていた戦法でもあった。
市民の避難誘導を行いながらも、ルナマリアはイチカの戦い方を見て、そして其の戦闘技術を盗んでいた――ザフトの赤は伊達ではないのだ。


「やるな、ルナ!」

「私だってザフトの赤なのよ?」

「だよな!!」


一方でブラックナイトと対峙したシンは先ずは互いに何もせずに擦れ違ったのだが、次の瞬間にシンが仕掛けた。
ブラックナイトの一機にアロンダイトで斬りかかり、それが防がれたら蹴り飛ばし、続いてやって来た一機に至近距離でのレールガンを喰らわせて後退させると、超長距離ビームランチャーで別の一機の左腕を吹き飛ばす。
この前の戦闘とは明らかに異なるシンの動きにファウンデーションの部隊も少し困惑していた。


「なんだ、コイツ……!?」

「この前はジャスティスだから負けたんだ!デスティニーなら、お前等なんかにぃ!!」


――パリィィィィン!!


此処でシンのSeedが弾けた。
イチカ、カタナ、キラ、アスランとは違い、シンは自分の意思でSEEDを発動する事は出来ないが、自分では制御出来ないが故に野獣の闘争本能が完全開放される状態でもあったのだ。


「お前達の思い通りになんてさせるかよ!全員、此処でぶっ倒してやる!!」


そして其れは先の大戦におけるスーパーエースを呼び起こした事の証でもあった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE112
『運命に導かれし野獣~Beast of Destiny~』











SEEDが発動したシンは正に獲物を狩る野獣の如き苛烈で猛烈な勢いでブラックナイト達を攻撃して行った。
レールガンで一機のビームライフルを破壊すると、別のブラックナイトにアロンダイトで斬りかかり、防がれても回転しながら二度三度と攻撃して左腕を斬り飛ばし、背後から攻撃を仕掛けて来たブラックナイトの攻撃を華麗に回避してカウンターのパルマフィオキーナで右腕を吹き飛ばす。


「馬鹿な、思考が読めない!!」

「コイツ考えていないのか!?」


シンの思考を読もうとしていたファウンデーションのアコード達は、シンの思考を読む事が出来ない事にも焦っていた。
思考を読む事が出来れば相手のやろうとしている事が分かるので、それに対して最善の策が取れる――其れこそがアコードの最大の強みであるのは間違いないのだが、この能力には弱点があった。
一つはイチカのように考えるより先に身体が反応する、いわば『身勝手の極意』を会得している人間、一つはキラのように『思考が読めても対応策が意味をなさない』と言う人間、そしてもう一つはシンのように『思考がマッタク読めない』と言うタイプだ。
何度も言うがSEEDが発動したシンは獲物を狩る野獣であり、其処にあるのは眼前の相手を殺すと言う純粋な殺意と闘争本能のみであり理性が介入する余地はない――故に思考を読もうとしても読める筈がないのだ。


同じ頃、ソードに換装したインパルスは、エクスカリバーの二刀流でファウンデーションとクーデター部隊のモビルスーツを次から次へと叩き切っていた。
凝りもなく出撃して来たデストロイは、マドカと共に腹部にエクスカリバーとシュベルトゲベールを突き刺し、更に蹴り抜いて武器交換をした後に、X状に切り裂いてから武器を互いに返し、最後はビームライフルショーティ改とレールガンを手にして背中合わせになり……


「「Jack Pod!!」」


放たれた一撃はデストロイを粉砕!玉砕!!大喝采!!!
イチカやシンと言ったスーパーエースが居るせいでその陰に隠れてしまいがちなルナマリアだが、彼女もまた高成績でザフトのアカデミアを卒業したトップエリートであり、同世代のザフトの赤服の中でも特出しているのだ――アカデミア時代の成績こそアグネスには若干負けてはいたが、先の大戦でミネルバ隊にて上げた戦果は大きく、現在ではザフト内での評価はアグネスよりも遥かに上になっているのだ。


「ククク……戦場に於いても私のノリに付き合って見せる程の精神的余裕があるのは好ましいぞルナマリア――成程、兄さんがお前に一目置いているのも納得出来る。」

「ザフトの赤は伊達じゃないのよ。
 それとイチカさんの弟子はシンだけど、私だってイチカさんの戦い方をずっと見て来たからね……見よう見まねで同じ事は出来るようになっているわ!」


其処からルナマリアはビームブーメランを投擲して二機のジンを破壊し、更にエクスカリバーの二刀流でファウンデーションとクーデター部隊のモビルスーツを次から次へと両断していく。
巨大な対艦刀の二刀流はZストライクに乗っていた時のイチカの得意戦術なのだが、ルナマリアは市民の避難誘導を行いながらも其の戦闘行為をよく観察して自分のモノとしていたのだ。


「そこぉ!!」


更に迫って来た敵機に対してエクスカリバーを投擲して即座に破壊して見せた。
だが此れでインパルスのメイン武装は全て失われてしまったのだが、此処でルナマリアはバックパックをフォースに換装して二本のビームサーベルを得ていた……のだが――


――ビー!ビー!!


「エネルギー切れ!?」


此処でインパルがエネルギー切れを起こしてPS装甲がダウンしてディアクティブ状態になってしまった。
如何に最新のバッテリーが搭載され、その上でエネルギーの消費関係も調整されていたとは言え、敵の数を減らす為にブラストの際に撃ち過ぎた代償が此処で出て来たのだ。
PS装甲がダウンしても動く事はまだ出来るが、PS装甲がダウンした状態では実弾ですら致命傷になるレベルであり、混戦状況の戦場では命取りになるのは間違いない。


「ルナー!!」

「シン!!」

「デュートリオンビーム、照射!!」


だが此のピンチにシンが駆け付けた。
ブラックナイト達と交戦中のシンのデスティニーがルナマリアのインパルスの腕を掴むと額からデュートリオンビームを照射してインパルスのエネルギーを完全回復させたのだ。
ブラックナイト達との交戦中によくルナマリアのピンチを救う為に駆けつけたとも思うが、其処はちょっとしたカラクリを使った……そのカラクリに関しては後に明らかにするとして、充電が完了した直後に飛んできたビームをデスティニーとインパルスは回避すると、インパルスはカウンターのレールガンを、デスティニーは超長距離射程高威力ビームランチャーを放って敵機を滅殺!!


「助かったわシン!
 そっちは大丈夫?私も手伝おうか?」

「いや、デスティニーならアイツ等になんか負けない!
 ルナはミレニアムを援護しながら他の奴等の撃破を!!」

「OK、任せなさい!!」


シンはルナマリアと別れ、再びブラックナイト達との戦闘に突入していった。

一方のブラックナイト部隊はと言うと、旧式と侮っていたデスティニーに対して苦戦を強いられている状況に焦りを感じていた。
思考を読もうとしても読めない、背後から攻撃しても簡単に避けられてカウンターを叩き込まれる――その結果、ブラックナイト達は一機として無事な機体は存在していなかった。
ある機体はライフを失い、ある機体は右腕を失っていたのだから。


「シンクロアタック、行きますよ!!」


此処でブラックナイトは切り札とも言える『シンクロアタック』を使って来た。
アコードの超人的な精神感応能力を互いに使って精神的に繋がる事で連携の精度を極限まで引き上げ絶対とも言える連携で敵を圧倒するモノであり、実際に先のフリーダム強奪事件でも、此のシンクロアタックが事件解決に一役買っていたのだ。


「闇に、落ちろ!!」


更にダニエルがシンを闇に落とそうと、キラとイチカに仕掛けた精神感応を行ったのだが――


『グオォォォォォォォォォォ!!』


其処に現れたのは、真紅の翼を纏ったオオワシだった。
だがそのオオワシは姿を変え、ライオンの身体にワシの頭と翼を持った伝説上の幻獣であるグリフォンに姿を変えてダニエルを威嚇する――シンクロアタックを使った事でアコード達は一人が得た情報をいやがおうにも共有してしまい、ダニエル以外のメンバーにも此の威嚇の威圧が伝播してしまった。

そしてシンの心に存在していたモンスターは、四年前の大戦の最中に生まれたモノだった。
イチカが捨て身でシンの妹であるマユを救ったが、シンは目の前で両親の死を目撃してしまい、それからというモノ、シンの心の奥底には両親の命を奪ったモノに対しての憎悪の炎が燻っていた。
そしてその燻っていた炎はイチカに師事した後に少しずつ野獣の闘争心へと姿を変えて行き、SEEDの覚醒によってそれが完全に開放されたのだ。


戦場に戻ったデスティニーは、ブラックナイト達を翻弄して、腕や足を切り裂いていく。
無論ブラックナイト達もただやられるわけではなく、デスティニーに応戦したのだが、その応戦が命中したデスティニーはあっと言う間に消え去っていたのだ。


「奴が消えた?有り得ない!!」

「そんな寝ぼけた分身が、通用するかぁ!!!」


その答えを提示したのは他ならぬシンだった。
デスティニーには元々光の翼から放出されるミラージュコロイド粒子を利用した光学分身を作り出す機能があったのだが、SpecⅡとなったデスティニーはその機能が強化され、本体と見分けがつかない分身を作れるようになっていた――アコード達は分身を相手に戦っていたのだ。
更に別の分身がブラックナイト達に突撃し、其の全てが攻撃を受けると同時に霧散し、アコード達は自分達が使う分身とはマッタク異なる分身に驚く結果となってしまった。


「知らないよ、こんな武器!!」

「分身は……こうやるんだぁ!!」


追撃とばかりにシンはデスティニーを更に分身させる……だけでなく、分身も分身を生み出して膨大な数のデスティニーが現れた――其の数なんと300体!
其の全てが一気にブラックナイト達に突撃を開始した――後にイチカによって『デスティニーミラージュ』と命名される此の攻撃は実に効果的だった。
本体だけでなく分身からも分身が生まれているので本体がドレなのかは全く分からず、何処から攻撃が飛んでくるのかも分からない――加えて、デスティニーのフレームは激しい動きに耐えられるようにPS素材の電圧が変化して赤く輝いており、それが恐ろし気な雰囲気を醸し出していた。

無数の分身デスティニーがブラックナイトに向かう中、その内の一体が突如としてヒルダが乗るイモータルジャスティスに変化した……イモータルジャスティスがデスティニーの分身を纏った状態だったのだ。


「アイツ等の、仇ぃ!!」


イモータルジャスティスは反応が送れたアデレートのブラックナイトのコックピットをビームソードで一刀両断!
ビームを無効にするフェムテク装甲でも至近距離からの高出力ビームソードを叩き付けられては流石に無事では済まず、コックピットを切り裂かれたアデレートのブラックナイトは爆発四散!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「アデルーーー!!」

「嫌だぁぁぁぁ!!」


そしてシンクロアタック状態のアコード達は、全員がアデレートが感じた『死』の感覚を共有してしまい、一気に恐慌状態に。
それは明らかな隙となり……


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


分身の一機がアロンダイトでブラックナイトの一機を突き刺せば、別の分身が更に3機に分裂してビームブーメランを投擲して四肢を斬り落とすと、背後からアロンダイトを突き刺して破壊し、一機には超高速で接近しコックピット部を掴むとパルマフィオキーナのゼロ距離射撃で爆破!!
此れにてタオ兄弟とシュラのブラックナイト以外は全て破壊され、パイロットも死亡した事になり、全ての分身がデスティニー本体に戻って行った。


「あぁ、あぁぁぁ……妾の子供達が……!!」


此の光景をアルテミスの本拠地で見ていたアウラは膝から崩れ落ちていた。
自分が生み出したスーパーコーディネーターをも超える存在である筈だったアコードが、こうも簡単に葬られてしまった事が信じられないのだろう――しかしながらこの結果は当然と言えるだろう。
確かに基本能力で言えばアコードはコーディネーターを上回っているのだろうが、如何せんアコード達には実戦経験が圧倒的に足りていなかった。
先の戦闘ではブラックナイトの性能で上回る事が出来たが、機体性能に差がなくなれば経験で勝るシンが勝つのは当然なのだ……スーパーコーディネーターを超える事だけを考えていたアウラは生み出した子供達に実戦経験を積ませなかった事が此の結果なのである。


「だが、だがまだオルフェとゾルガ、そしてシュラが健在じゃ……イチカ・オリムラとキラ・ヤマト、此の二人を葬ってしまえば残るはあの三人でなんとか出来るはずじゃ……まだじゃ、まだ負けてはおらぬ……!!」


それでもアウラはまだ諦めてはいなかった。
イチカとキラさえ葬れば後は何とかなる、そう思っている時点で連合軍の戦力を見誤っているとしか言いようがないのだが、この直後にアウラは最も信じたくない結果によって知る事になる――ストライクフリーダムが全能の、キャリバーンフリーダムが暴君の力を手に入れると言う事を……










 To Be Continued