待ちに待った救援が来ると思った矢先に、その救援部隊――第八艦隊先遣隊からの救助要請を受けて現場に到着したアークエンジェルの前では、未だ撃沈されていなかったモンドゴメリィが突如爆破四散して果てると言う結末を迎えた。
誰も予想していなかった事態に両軍が動きを止め、その僅かな隙間にアークエンジェルの副官であるナタルがザフトに対して『此方はラクス・クラインを保護している』と言う事を伝え、其れを聞いたラウもヴェサリウスでの攻撃を停止しアスランとカタナを一時撤退させたのだった。
こうして何とかヴェサリウスからの攻撃を止めたアークエンジェルではあったが、目の前で第八艦隊先遣隊が全滅したショックは大きかった――待ちに待った救援部隊が目の前で全滅したのだから当然だろう。
特に父親が乗っていたモンドゴメリィが謎の爆発を起こしたのを目にしたフレイの焦燥振りは凄まじかった。
「何で……如何してパパの乗ってる船は爆発したの!?敵艦の攻撃はイチカがシールドで防いだ!イージスとグラディエーターもキラとイチカが抑えてた!
其れなのに何で船が爆発したの!ねぇ、何で!!」
「そ、ソイツは俺に言われてもなぁ……」
イチカとキラがブリッジに戻ると、フレイが半狂乱状態でムゥに詰め寄り、ムゥは困り顔で何とかフレイを宥めようとした……とは言え、ムゥとてモンドゴメリィが爆発した理由は分からないので、『何で爆発した』と聞かれても答えようがないのだが。
「フレイ、気持ちは分かるけど少し落ち着こう?」
「……キラ?」
そんなフレイをキラは後ろから抱きしめてやった。
キラの声を聞き、後から抱きしめられた、其れだけの事で半狂乱になっていたフレイの心は落ち着きを取り戻し、キラが抱きしめるのを止めてフレイと向き合って『少しは落ち着いた?』と聞かれると、次の瞬間にはキラの胸に飛び込み大声で泣き始めてしまった……一度落ち着いた事で改めて父の死が現実だと認識し、哀しみが沸き上がって来たのだろう。
「キラ……パパが……死んじゃった。
パパの考えは間違ってるって事も、キラと付き合ってるって事も……もう二度と伝える事が出来なくなっちゃった……如何して、如何してパパの船は爆発しちゃったのよぉ……誰か……教えてよ……」
「……あの船が突如爆発した理由は幾つか考えられる。
1.船が整備不良で致命的な欠陥を抱えていた。
2.既にイージスとグラディエーターの攻撃で機関部にダメージを受けていて、あのタイミングで限界が訪れた。
3.艦砲のシステムに異常が起きて艦砲が一気に暴発した。
4.アレは敵艦を道連れにしようとした自爆攻撃だった。
まぁ、こんな所だが、何れも可能性はゼロじゃないが決して高いとは言えねぇんだよな……故に俺は、
5.あの船には時限式或は遠隔操作式の自爆装置が搭載されてた。
コイツが最も可能性が高いと思ってる。」
モンドゴメリィの爆発について聞いて来るフレイに対し、イチカは己が思い付いた可能性を示して行ったが、最後に示した『最も高い可能性』に関しては、ブリッジに居た全員が驚きの表情を浮かべる事になったのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE11
『分かたれた道~キラとアスラン~』
イチカが示したモンドゴメリィ爆発の最も高い可能性――其れはまさかの『モンドゴメリィには時限式か遠隔操作式の自爆装置が搭載されていた』と言うモノだった。
戦艦やモビルスーツに自爆装置が搭載されている事自体は珍しい事ではない――『もう勝てない』と思った際に敵機を巻き込んで自爆したり、敵軍に戦艦やモビルスーツの情報を渡さない為に脱出前に爆破処理する事は戦場では多々ある事なのだ。
だが今回に限ってはアークエンジェルが援軍として駆け付け、イージスとグラディエーターはストライクとビャクシキによって抑えられており、爆破直前に放たれたヴェサリウスの攻撃はビャクシキが投げたシールドで防がれていたので、モンドゴメリィが突然爆発する理由は何処にもないのである。
加えて、アークエンジェルは『対モビルスーツ戦』も想定して造られた戦艦なので、強奪された機体が全て出て来たとしても、其れ等を倒す事が出来なくても其の場から離脱する位は可能だった事を考えると尚更だ。
「時限式か遠隔操作式の自爆装置が搭載されていたって、何で……」
「コーディネーターへのアンチとヘイトを強める為、ってのは如何だ?
どんな形であれ、ザフトとの戦闘中に連合の船が爆散したとなれば、その現場にいた人間でない限りは、ザフトの攻撃によって撃沈させられたと、そう思うだろ?
死人に口無しじゃないが、地球に居る連合の兵士達は宇宙で何が起きていたかってのは、上官からの通達で知る以外に方法はないんだから――無論、俺達アークエンジェルは真実を知ってる訳だが、アークエンジェルは連合本隊からしたら、本来敵である筈のコーディネーターを二人も乗せてる異端の戦艦だ。
加えて、その異端の戦艦が補給に向かったアルテミスはザフトの攻撃を受けて崩壊したと来てるからな……その事も、恐らく連合本隊は知ってるだろうから、アークエンジェルのクルーが真実を話した所で誰も信じない。『忌むべきコーディネーターを乗せた船が補給に訪れた事でアルテミスは滅んだ。アークエンジェルは疫病神だ』と言われてる可能性は高いだろうからな。」
「其れって、パパは反コーディネーターの感情を高める為に殺されたって事……?」
「あくまでも俺の予想に過ぎないがな。」
イチカが言った事はあくまでも可能性に過ぎないが、イチカの説明を聞くとその可能性は高いと、ブリッジの誰もが思っていた――アルテミスの一件で一時的に拘束された事もあって、マリュー達も連合に対しては疑問が生まれていたのだ。
そして其れ以上にフレイの心は穏やかではなかった……イチカの予想通りだとするのならば、フレイの父親は連合の『反コーディネーター感情』を高める、只其の為だけに殺された事になるのだ。
キラと恋仲になった事でコーディネーターに対する偏見が無くなったフレイだったが、今度は逆にナチュラルと言うか連合に対する偏見が――ともすれば殺意と憎悪すら沸き上がっていた。
「でも、もしイチカの予想通りだとしたら、連合の方がザフトよりも非道で、非人道的じゃない!
コーディネーターであるキラとイチカが私達を守る為コーディネーターと戦ってくれてるのに、連合は反コーディネーターの感情を高めるためだけに同じナチュラルを殺すだなんて……そんなの、酷過ぎる。」
「フレイ……」
「キラ、一先ずブリッジからフレイを連れ出して一緒に居てやれ……其れはお前の役目だ。」
「うん、分かってるよイチカ。」
遂には泣き崩れてしまったフレイをキラは所謂『お姫様抱っこ』で抱え上げるとブリッジから出て、フレイに割り当てられた部屋へと向かって行った――そして、其処でフレイは改めてキラの胸で思い切り泣き、キラはそんなフレイを何も言わずに抱きしめて泣き止むまで背中を軽く叩いてやるのだった。
――――――
「よう、フレイは落ち着いたかキラ?」
「うん、今は落ち着いて眠ってる……危うく抱き枕にされるところだったよ。」
「其のまま抱き枕になっちまえば良かったのに……いっそ、抱き枕と言わずにその先まで行ったとしても俺はマッタクもって文句は言わねぇ――むしろそうなったら、俺は全力でお前の事祝福するぞキラ。」
「其れは、少し下世話な気がするなぁ……」
「あんな美人な彼女が出来て、ちょ~っとジェ・ラ・シ~。此れ位は弄らせろ、此の勝ち組リア充野郎が!」
「イチカにもきっと良い彼女が出来ると思うよ?
イケメンで強くて料理も出来るって有良物件だと思うし……寧ろなんで今彼女が居ないのか、そっちの方が不思議だ。」
「軍隊って、基本野郎の仕事場だからな。」
フレイを落ち着かせ、眠った事を確認したキラはアークエンジェルのロビーでイチカと落ち合っていた。
ショッキングな出来事があった直後ではあるが、軽い雑談が出来る程度にはイチカとキラには余裕があったらしく、適当に雑談をしながら過ごしていた――ラクスがアークエンジェルに居る間はザフトは攻撃してこないからこそこんな事が出来るのだが。
「にしても、さっきはバルジール副艦長のナイス判断でザフトを一時撤退させる事が出来たが、姫さんを何時までもアークエンジェルに置いとく訳にも行かないよな?
アークエンジェルは地球に向かってる上に、目指すゴールは連合の大西洋連邦だ……ゴールに到着する前にオーブに寄る事が出来れば其処で姫さんをアークエンジェルから降ろす事も出来るんだが、そうじゃなかった場合は大西洋連邦まで連れてく事になるから姫さんが危険だ。
連合からしたら、プラントの歌姫ってのは最高の人質になる――其れこそ姫さんの存在を盾にプラントに無条件降伏を突きつけかねないからな。」
「確かに、その可能性は充分にあるし、最悪の場合は無条件降伏を受け入れさせた上で彼女を殺害するかもしれない……プラントの武力を全て接収した上で。」
「私が、どうかしましたか?」
「「!!!」」
話題はラクスについてに移ったところで、ラクス本人が話に入って来た。
如何やらラクスは先程の戦闘中もアークエンジェル艦内を散策していたらしい――胆が据わっているどころの話ではないのだが、イチカとキラはラクスの胆力に感心半分呆れ半分と言った具合だった。
其処からキラが、ラクスが持っているハロがアスランからプレゼントされたモノだと言う事とアスランがラクスと婚約関係にあると言う事を思い出して、ラクスにアスランの事を聞き、ラクスもキラにアスランとの関係を聞いて来たのだ。
「僕とアスランは幼馴染の親友だったんだ……アスランは昔から手先が器用で僕は其れが羨ましかった。
逆にアスランは僕のプログラミングの能力を評価してくれてたけど――流石に、効率重視で組んだプログラムを『其れは凄いとは思うが、少しばかり邪道な気もする』って言われるとは思わなかったけど。
此の『トリィ』もアスランがプラントに移住する際に、別れ際に僕にプレゼントしてくれたものなんだ……だけど今は、その親友と戦う事になってしまった。
もしもあの日、僕があの場所に居なかったらこんな事にはなっていなかったのかも知れない……」
「其れは辛いですわね……お二人が戦わないで済むように……なれば良いですわね。」
「戦争が終わればそうなるのかも知れないが、生憎とこの戦争が何時終結するのかは今のところマッタク見えてないからな……そんな未来が何時来るのか、終戦なんてのは下手すりゃ当分訪れないのかもだ。
尤も、プラントの方には元々争う気は無かった訳だから、連合が何処かで矛を収めてくれりゃ其れで万事解決なんだけどよ……何だって連合は其処までコーディネーターを敵視するのかねぇ?
地球に居るコーディネーターはオーブを始めとしたコーディネーターに寛容な国とザフトが実効支配してる国に限られてるから、絶対数ではナチュラルの一割にも満たないってのにな。」
「彼等は地球はナチュラルのモノだと思い込んでいるのかも知れませんわね……地球の生物の中で最も優れているのは人間であるとの考えが前提となっているでしょうが、だからこそ彼等は純然たる人間の上位種となりかねないコーディネーターの存在を認める事が出来ないのかも知れませんわ。
……地球人類こそが最高の種であるとは、思い上がりも甚だしいですわね。」
「キラ、姫さんの笑顔が怖い。」
「うん、其れは僕も思った。」
キラの話を聞いたラクスは、キラとアスランが戦わないで済むようになればいいと言ってくれたが、戦争中である今は其れは難しいだろう――キラは地球連合、アスランはザフトに所属している以上、戦いは避けられないのだから。
更にキラは仲間を守る為に戦う道を選んだのに対し、アスランは可能ならばキラを説得してプラントに連れて行きたいと考えており、互いに戦う理由が根本から異なっているのでキラもアスランも互いに譲歩する事はないのだ――だからこそ、戦うしかないのである。
其れは其れとしても、改めてラクスをアークエンジェルに置きっぱなしに出来ないと判断したイチカとキラは、マリュー達には内緒でミリアリア達の協力を得てラクスをプラントに返す為に行動を開始した。
ラクスはキラと共にストライクに乗り、イチカのビャクシキはその護衛と言う形だ。
ストライクはエールストライカーを装備して発進し、ビャクシキも其れに続く――当然無断の出撃にアークエンジェル艦内は騒然となったのだが、其処はミリアリアが『イチカの独立機動権』を持ち出して鎮圧した。
一般兵が同じ事を行ったら其れは重罪であり、軍事裁判に掛けられた上で銃殺刑となっても仕方ない事なのだが、イチカには独立機動権が認められており、其れはイチカのバディであるキラにも認められているので、マリュー達も其れ以上は何も言えなくなったのだった。
「此方は地球連合所属戦艦アークエンジェルのモビルスーツ、ストライク。
ザフト軍に通達します。此方で保護しているラクス・クラインの身柄を其方に引き渡します――ですが、ージスが一機で来る事が引き渡しの条件です。」
出撃したキラは、ラウのヴェサリウスに通信を繋げると、『イージスが一機で来る事を条件にラクスを返す』事を伝えた。
其れを聞いたラウは即時アスランに出撃を命じ、アスランも直ぐに準備を整えてイージスに乗り込んで出撃して行った――親同士が決めた事とは言え、婚約者であるラクスの事は恋愛感情とは別に大切には思っていたのだ。
「カンザシちゃん、ラクス様がこの船に戻って来るわ!」
「お姉ちゃん……CDのジャケットに、ライブ会場で購入したシャツ、サイン会でのツーショット写真、全部にサイン入れて貰おう。」
「クソ、こんな事ならもう一着制服を用意しておくべきだったか……ラクス・クラインのサイン入りの制服、其れは極めてレアだろうからな!!」
サラシキ姉妹とイザークがラクス・クラインファンクラブ一桁会員だからこその話をしていたが、其れを聞いたディアッカとニコルは若干引いていた――コアなファンの心理と言うのは一般人には理解しがたいモノなのかもしれない。
其れは兎も角、程なくしてアスランが駆るイージスはキラの駆るストライクとイチカの駆るビャクシキと相対していた。
人質の受け渡しの場故に、互いに下手に動く事は出来ず、精々ビームライフルを相手に向ける程度だ――が、そんな中でストライクのコックピットが開かれ、其処からラクスが現れ、其れを確認したアスランもイージスのコックピットを開いてラクスを受け止める。
此れでラクスの身柄はプラントに戻ったのだが、其れでは終わらない。
「キラ、お前もこっちに来い!其処はお前の居る場所じゃない!俺と一緒に来るんだキラ!」
「其れは出来ないよアスラン……アークエンジェルには僕の友達と恋人が居るんだ――其れを見捨てて君と一緒にプラントに行く事は出来ない……僕は僕の大切なモノを守る為に戦う!
其れが君と戦う事になったとしても……僕は、もう迷わない!!」
なんとかキラをプラントに連れて行きたかったアスランだったが、アスランの提案にキラは明確に拒絶の意を示したのだった――キラは護りたいモノの為に戦うと言う信念があるので、基本的に命令に従う事しか出来ないアスランとはそもそもの根本が異なっているのだろう。
「其れがお前の答えかキラ……なら、今度戦場であったその時は容赦はしない――相手がお前であっても、俺は斬り捨てる!!」
「アスラン……なら、僕もその心算で行くよ!」
「キラ……!」
ラクスは無事にプラントに返す事が出来たが、キラはアスランの提案を受けれる事は無く、背を向けてストライクのコックピットに戻って行った――そしてこの瞬間にキラとアスランの運命は明確に分かたれ、キラとアスランは本当の意味で決別したのだった。
「良かったのか、キラ?」
「良いんだよイチカ……僕は友達の為に戦う、其れは絶対に違えたくないから――そして、其れを貫き通す為にはアスランと戦う事になるってのは覚悟してたから。」
「サイですか……お前が其処までの覚悟を決めたってんなら、現役軍人である俺が覚悟を決めないと嘘だよな……全力でやってやるぜ!」
その現場にいたイチカは気合を入れ直し、キラと共にアークエンジェルに帰還するのだった。
To Be Continued 
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