先の戦闘終了後、各国のメディアは此度の戦闘に於いて核ミサイルが使用されたという事を連日報道していた。
地球には未だに『ニュートロンジャマー』が存在しており、其れを無効化する『ニュートロンジャマーキャンセラー』、通称『Nジャマーキャンセラー』を搭載していない核の力は通用しない事を考えると、この度発射された核ミサイルはNジャマーキャンセラー搭載だったのは明白だ。
先の大戦終結後に締結された条約では『Nジャマーキャンセラの軍事転用』を禁止にしていたのだが、ファウンデーションは条約に参加していなかったので此の規約に抵触していなかったのである。
「今回は事実上の負けだったのは認めるしかねぇんだが……次にアイツ等と戦うとなった其の時にはキッチリと借りを返さねぇとだな。
其れとは別に裏切ってファウンデーション側についたアグネスを如何するか……キラ、お前個人としては不殺で終わらせたいんだろうが、ヤマト隊の隊長としての立場では如何考える?」
「正直な事を言うと、僕は彼女があんな行動に出るとは全く考えていなかった。
彼女がどんな理由で、何を考えて僕達を裏切ったのかは分からないけど……彼女の裏切りが現場を混乱させ、結果としてオーブのムラサメ隊が壊滅し、コンパスもマーズさんとヘルベルトさんを喪う結果になった。
仮に僕が不殺で済ませたとしても、後に軍法会議にかけられて銃殺刑になるのは免れない……何よりもヤマト隊の隊長である以前に僕個人としても彼女のやった事は到底許せそうにないよ……だからもし、今度戦場で彼女とまみえた其の時は容赦しなくて良い。」
「ククク……了解したぞ隊長!!
私達を裏切っただけでも業腹モノだが、奴は兄さんにもその刃を向けたのだから其の事実だけでも滅殺確定だからな……脳ミソではなく子宮でモノを考えるアホ女に相応しい、死をぉくれてやるぃ!!」
「ルナ~、マドカが殺意って波動って、ダグナって血の暴走って、最後のセリフが若本ってんだけど。」
「キレたブラコン恐るべし……今思えば二年前のイチカさんへの異常な執着もヤンデレと化したブラコンと考えると逆に納得が行くわ……」
オーブ領アカツキ島、その地下――其れこそ入り口が海中に存在しているアカツキ島の秘密海中ドックに、コンパスの部隊とアークエンジェルのクルーは身を寄せていた。
無論此の事はオーブの代表首長であるカガリは知っているのだが、対外的には『第二爆心地でアークエンジェルの残骸を確認、フリーダムとジャスティスその他作戦行動中のモビルスーツ隊は未だに発見出来ておらず、こちらかの呼びかけにも応答はなく、全て爆発に巻き込まれたのではないか』としていた。
「私が現在知っているのはこの程度の事だが……デュランダル議長、プラントの方は大丈夫なのか?軍事クーデターが発生したと聞いたが……」
『今の所はクーデターが発生したとの事だけで小さな軍事コロニーを一つ制圧したに過ぎないから問題はない。
無論、ジャガンナートに同調した人数は少なくないだろうが、それでもザフトの正規軍の数と比べれば充分に制圧出来るレベルでしかない――此方の事は私達に任せてアスハ代表は己の成すべき事を成してもらいたい。』
「その心遣いに感謝する。」
通信を終えたカガリは手にしていた書類をデスクに置くと大きな溜め息を吐いた。
そしてその書類にはこう記されていた『フリーダム』、『ジャスティス』、『キャリバーン』、『デスティニー』、そして『アカツキ』と――
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE108
『反撃の前奏曲~Prelude to Counterattack~』
プラントでの軍事クーデターが発生した事に関してはデュランダルが何とかするとの事だったが、今回の戦闘に関しての議論は紛糾する事になった。
ある者は『キラとイチカが軍事境界線を越えた事が原因だ』と言うが、ある者は『だからと言って核を撃っていい理由にはならない』と反論する――だけでなくイチカとキラの今回の行動をプラントがユーラシアに介入する口実だったのではないかと言う者まで現れた。
この言い分にはカガリも(元々あるかどうかも疑わしい上に、あったとしてもクッソ短いであろう)堪忍袋の緒が切れ、抗議しようとしたのだが――
『モスモスひねもす~~?
テステステス、本日は晴天なり。聞こえてる~~?皆のアイドル、正体不明の大天災、人知を超えた悪魔超人、中の人繋がりで歩く大量破壊兵器、世界で唯一神と殴り合いが出来る女、タバネ・シノノノさんだよ~~♪』
其処に突如として割り込み通信が入って来た――其れを行ったのは他でもないタバネだ。
『タバネ・シノノノ』の名はコズミックイラの世界でも『モビルスーツの基礎を作り上げた人物』として知られているのだが、其の姿を実際に見た者は只の一人も存在しておらず、其の存在は半ば都市伝説と化していたりする。
そんな都市伝説的大天才にして大天災からの割り込み通信には、其の場の誰もが驚く事になった。
「貴女がタバネ博士……?
博士と呼ばれているからには白衣を着用しているモノだと勝手に想像していたのだが……まさかエプロンドレスにウサミミ装備で現れるとは思わなかったぞ流石に……」
『これがタバネさんの正装なのだよカガちゃん!
まぁ、私の服装がなんであるかなんてのは今はどーでも良い……大切なのは、イッ君とキー君の行動がプラントがユーラシアに介入する口実だってのはマッタクもって見当違いのバカげた意見って事だね。
そもそもにしてユーラシアの部隊を攻撃したのはイッ君とキー君の意思じゃない――あの時、Zストライクとライジングフリーダムは外部からハッキングを受けて操縦不能の状態に陥っていたんだよ。
そして其の外部ハッキングを行ったのは……なんと、あろう事かファウンデーションだったんだよねぇ?』
インパクト絶大の登場をしたタバネは、更なる爆弾を投下して来た。
先の戦闘におけるイチカとキラによるユーラシア部隊への攻撃は、実はファウンデーションによって機体が外部ハッキングを受け、操縦不能に陥ったからだと言い放ったのだ。
無論其れだけでは証拠もないので信じる事は出来ないのだが、タバネはZストライクとライジングフリーダムのメインシステムに外部からアクセスしてシステムのログを抽出し、外部アクセスを受けた証拠を得ていた。
そして其れだけれでなく、其の外部アクセスがファウンデーションによって行われた事も明らかにしたのである。
「此れは……だが、これはあくまでもデータに過ぎないから、こう言ったら元も子もないが、貴女が作成したデータと言う事も出来る。
此のデータが確実なモノであるという確証が欲しいが……」
『此のデータが此処にある事自体が確実なモノである証だね。
ファウンデーションは機密事項にはどんな国よりも厳重なセキュリティが施されていて、特に絶対に表に出せない、表に出ては不都合な情報はよりセキュリティが厳重になる――実際に此のデータを得る為に、十三桁のパスワードを十個突破する事になったからね?
そして此れがタバネさんが突破したセキュリティのログとファウンデーションの此れまでの活動記録のログ~~……あのロリババアの認証サインも入ってるから疑いようはないっしょ?』
「アウラ女帝の認証サインは複製出来ないようにファウンデーションが独自に開発した特殊なインクを使ったペンで記されている筈だから、その認証サインがあるとなればまず間違いないだろうな。
これほどまでのデータを探ったのは見事だがタバネ博士、十三桁のパスワードの組み合わせは一兆通りで、其れを十個突破するとなると相当な労力だと思うのだが……」
『1兆通りの組み合わせが十個あった程度じゃ此のタバネさんを止める事なんて出来ないんだよね~~?
其れに、十三桁のパスワードって聞くと一見すごく複雑に感じるだろうけど、人間って生き物は無意識のうちに極端に複雑な事を避ける傾向にある……そして其れは桁数の多いパスワードでも同じ事。
複雑なように見えて実は意外と単純なんだよ……だから、最初の一個を解析した後はヌルゲーだったよ。
あとは同じパスワードの下二桁がナンバリング状態だったからね。』
「だとしても、私には少なくも無理だ。
だが其れとは別に、これは貴重なデータだ……ファウンデーション……如何やらコイツ等は倒すべき存在でしかなかったみたいだな。」
タバネからの通信を終えるとカガリは受話器を充電ホルダーに戻したのが、其の直後にファックスが作動して、ファウンデーションの目的が記された資料が到着した……そして其れを目にしたカガリは静かな怒りの炎を其の身に宿して部下に指示を飛ばすのだった。
そしてカガリが目を通した資料の表紙には以前にデュランダルから聞いていた『デスティニー計画』と記されており、ナチュラル、コーディネーターを問わず、全人類を遺伝子によって管理すると言う狂気の計画の内容の詳細が記されていたのであった。
――――――
一方で宇宙空間にファウンデーションの面々と脱出したカタナとラクスは、到着したファウンデーションの宇宙コロニーにて、女帝であるアウラから衝撃的な話を聞かされることになった。
アウラは元々はキラの実父である『ユーレン・ヒビキ』と共に『スーパーコーディネーター』の研究を行っていたのだが、その過程でスーパーコーディネーターを超える存在を作り出す方法を発見、しかしスーパーコーディネーターに固執するユーレンには聞き入れられず、最終的にはユーレンの下を去って独自研究に着手し、遂には自身が理論を確立したスーパーコーディネーターを超える存在『アコード』を生み出した。
そして其のアコードの成功例として誕生したのは『一つの卵細胞に異なる遺伝子の精細胞を二つ受精させたらどうなるのか?』との実験で誕生した世にも珍しい『父方の遺伝子が異なる一卵性双生児』であり、それがカタナとラクスだと言うのだ。
尚、カンザシはカタナがサラシキ家に引き取られた後に生まれたコーディネーターであり、実はカタナとは血の繋がりは無かったりする――あくまでも此の世界に於いてはであるが。
だが、当時のアウラはマダマダ研究を続ける身であったために二人の面倒を見る事が出来なかったので、ラクスをクライン家に、カタナをサラシキ家に預けたのである――そうした研究の中で、同時に行っていた『アンチエイジング』の為に開発した試作薬を、白衣の裾を踏んで転んで机に激突し、机の上にあったビーカーに入った薬を全身に浴びると言う、まるでコントのような流れで一気に若返るを通り越して齢五十のロリババアとなった事も明かされたのだった。
そして其れだけでなく、オルフェをはじめとしたファウンデーションのメンバーは全員がアウラが誕生させたアコードであり、オルフェはラクスと、ゾルガはカタナと遺伝子的に最高の相性を持っている事も明らかになったのだ。
「中々に情報量が多くて普通なら脳味噌がマルマインなのだけれど……まさか私とラクス様が異父姉妹の双子とはねぇ……しかも、私はゾルガ君と、ラクス様はオルフェ君と遺伝子的に最高の相性だと――で、それが何?」
しかし、其れを聞いてもカタナは驚く事はなく『それで何が如何した?』という態度で、手にした扇子に『其れが如何した?』と浮かべて口元を隠して余裕の表情だ。
「まさかとは思うけれど、遺伝子的に相性がいいからと言って、まさかそれで番になれるとでも思ってるのかしら?
確かに種の保存と繁栄と言う意味では、遺伝子の相性がいいに越した事はないけれど、人の場合は其れだけでは決まらない……遺伝子の相性以上に重要になるのは愛であり、そして其れよりも重要なのは魂よ。
私とゾルガ君が遺伝子的には最高の相性があったとしても、私とイチカの互いに愛する心は其れを上回っているだけじゃなく、私とイチカは魂で繋がっている――だから、第三者が何をしようとも、私とイチカの絆を断つ事なんて出来ないわ、絶対にね。」
更にカタナは挑発的な言動を繰り出し、其れに業を煮やしたゾルガがカタナに掴みかかったのだが、カタナは其れに冷静に対処し、餓狼伝説の伝説的ラスボスであるギース・ハワードもビックリの完璧な『当て身投げ』を繰り出してゾルガを床に叩きつけた。
アコードの中でも特に優秀でファウンデーションの宰相に就いているタオ兄弟であり、データ上では其の能力はスーパーコーディネーターであるキラや、戦闘用コーディネーターの最高傑作であるイチカを上回っているので普通ならばカタナが勝てる筈もないのだが、カタナにはイチカ同様に膨大な年数の記憶と経験が存在しているので、人生経験二十年程度のゾルガを組み伏すくらいは造作もないのだ。
「良い事を教えてあげるわタオ閣下。
私もラクス様もただ守られてるだけの女の子ではないわ……それともう一つ、イチカ達は生きているわよ絶対に――そして必ず此処にやって来る。より強い力を身に付けてね。
何よりも彼等は一度負けた相手に二度は負けない……つまり、ファウンデーションはもう詰んでると言う事……貴女の王国も、終焉が見えてるわねアウラ女帝?」
「口の達者な娘よなマッタク……だが其の胆力は流石は妾の娘の一人と言ったところか?
ならば奴等が本当に来るかどうか、其れを待つのもまた一興――そして来たらその時は今度こそ終わらせてやらねばならぬな……キラ・ヤマト、イチカ・オリムラと言うアコードの成り損ない共をな。」
此の光景を見てもアウラはまだまだ余裕の態度を崩さず、ラクスだけでなくゾルガを組み伏せたカタナにも個室を用意し、更には監視も付けないと言う普通ならば有り得ない対応をして見せた。
自分達が勝つ未来を信じて疑わないからこその行動だが、これはカタナにとっては有り難い事でもあった――監視が付かないのであれば個室に軟禁されていても出来る事は多く、個室に案内されたカタナは、扉が施錠された事を確認すると速攻で天井の一部を破壊して天井裏に回り、排気ダクトなどから各部屋の配置や人員を把握し、それらの情報をネックレス型の通信機――もとい情報送信端末でイチカ達に送るのだった。
――――――
宇宙空間では、軍事クーデターを起こしたジャガンナートを捕らえるべく、ザフトの正規軍が出撃準備を整えていた。
ジャガンナートの軍事クーデターに賛同するモノは多くはないが、だからと言って極少数とも言えず、既に小規模な軍事プラントを制圧して戦力を確保していた――とは言え、その軍事プラントにあったモビルスーツは既に旧式となったザクばかりであったのだが。
「軍事クーデターが成功するのは指導者の求心力が限界まで低下した時に限ると知らんのかジャガンナートは!
今やデュランダル議長の政策に異を唱えるのは、未だにナチュラルとの融和を頑なに拒んでいる一部のコーディネーターだけだろうに……その一部を纏め上げればどうにかなると思っているのかアイツは……マッタクもって馬鹿な真似をしてくれる!!」
「思ってるからやった。
馬鹿だから先が全く読めてない。馬鹿は死んでも治らない。だから死んでいい。むしろそのまま死ね。」
「……毒舌が容赦ないなカンザシ?」
「こんな事をした馬鹿に容赦する必要がないから。
だからイザーク、クーデターを起こした奴等を全員倒して必ず帰って来て。」
「言われるまでもない!」
「そして全部終わったらお姉ちゃんとイチカと一緒にダブル結婚式やろうね。」
「結婚式ぃ!?」
「大丈夫、お義母さんから許可は貰ってる。」
「母上ーーーーー!!!」
クーデター部隊の制圧に向かう部隊の最高戦力であるジュール隊にはルナマリアのゲルググメナースから得たデータで量産体制に入ったゲルググメナースが配備されており、更にはターミナルからエターナルがバルトフェルド共に出向しており、クーデター部隊を制圧するには十分過ぎる戦力が整っていた。
「しかし、よもやまた俺が此の機体に乗る事になろうとはな。」
「良いんじゃね~の?俺達にとってはザクやグフよりもこっちの方が乗り慣れてるだろ?」
「確かにな。」
モビルスーツのハンガー前でカンザシと別れたイザークは其のハンガーにてディアッカと共に自身の専用機として配備された機体を見て感慨深げに呟いていた――モビルスーツのハンガーにあったのは、嘗て連合から強奪したデュエルとバスターであり、其れを強化改修した機体だったのだから。
――――――
一方、オーブの地下でも動きがあった。
コンパスの部隊は主力がほぼ生き残ったとは言え、Zストライク、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスが戦闘不能となり、更にアークエンジェルも撃墜されたとなって戦力が枯渇しており、イチカ達も此れからどう動くかを思案していたのだが、其処にモルゲンレーテ社の技術者であるエリカ・シモンズが現れて、一行を地下のモビルスーツのドッグに案内した。
そして、其処で姿を現したのはキャリバーンフリーダム、ストライクフリーダム、デスティニー、インパルス――先の大戦を駆け抜けた最強クラスのモビルスーツ達だった。
「アスハ代表から預かって、新型イーモールと新装備の実験に使っていたの。
こう言う事態を想定していた訳じゃないんだけどね。」
「デスティニー……!!」
「キャリバーン……!!」
「フリーダム……」
「駆動系と武装は昔のままだけど、コントロールシステムは最新のモノにアップデートしてあるわ。
ブラックナイツと遣り合うには心許ないでしょうけど。」
「いや、充分だぜエリカ姐さん……こっちも核エンジン搭載型なら機体性能の差は無くなったからな。
バッテリー機と核エンジン機じゃバッテリー機の方が圧倒的に不利だが、こっちにも核エンジン機があるならこの前みたいな事にはならねぇ……此れで返す事が出来るぜ、この前の借りをキッチリとな!!」
「ただ返すだけじゃないっすよイチカさん!!返すなら倍返しです!!」
「OKシン、其れが正解だ!!」
そして其れに加えてZストライク、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスの修理も完了しており、最終決戦に向けての準備は着々と進んでいるのであった。
To Be Continued 
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