ファウンデーションから出撃したブラックナイト部隊は程なくしてコンパス部隊とブルーコスモス部隊が戦闘を行っているエルドア地区に到着したのだが……


「此処まで圧倒的な力の差を見せつけられても諦めないのは褒めてやろう……だが其れも無駄な足掻きに過ぎん!!
 邪眼の力を舐めるなよ?喰らえ!邪王炎殺拳最大奥義!邪王炎殺……黒龍波ぁぁぁ!!!!」


其処ではマドカがトリケロス・改に新たに搭載された『大口径プラズマキャノン』でブルーコスモスのモビルスーツを粉砕!玉砕!!大喝采!!!していた。


「今回の戦闘、撃墜数だけならマドカがトップかな?」

「そりゃ間違いねぇ……しかし、遂に究極の厨二技使いやがったか……」


切り札であるデストロイが撃破された時点で勝負は決していたと言えるのだが、ブルーコスモスは存在其の物が害悪であるのでコンパス部隊は容赦せず次から次へと敵部隊を撃破して行く。
元々は慈善団体として設立されたブルーコスモスだが、今やその存在はテロリスト同然となっており、『コーディネーター排斥』に全力を注いでいるので、世界の恒久平和を目指しているコンパスにとっては絶対に壊滅しなければならない組織なのである。


「此れは予想以上の戦果を上げてくれたが……本番は此処からだ……闇に落ちろ、キラ・ヤマト!!」

「イチカ・オリムラ、貴様も闇に落ちろ!!」


戦場に降り立ったファウンデーションの部隊は、イチカとキラに対して何らかの精神的アプローチを試みたのだが……


『グオォォォォォォォォォォ!!』

『私の弟の心に入り込んでくるとは良い度胸だな?……早急に立ち去れ。立ち去らねば、斬る……!!』



キラの心の中には形容しがたい化け物……それこそクトゥルフ神話に出てきそうな異形の怪物が存在しイチカの心の中には黒髪ショートヘアーで黒いレディースのスーツを纏った女性が存在し夫々がファウンデーションの部隊を威嚇して来た。
表に現れる事はないが、イチカは膨大な過去の記憶で何度も殺し殺され、愛する人を目の前で喪い、戦いの果てに自ら命を絶っており、キラも望まぬ形で戦いに身を投じ、憎んでも居ない相手と戦い殺し、親友であるアスランともガチの殺し合いを経験している事で、イチカとキラの心の底には常人には凡そ予想出来ないレベルの『闇』が存在しているのだ。

イチカの場合は其の闇が嘗ての姉であった千冬の形を成し、キラの場合は異形の化け物の形を成したという差はあれどだ。


「イチカ・オリムラとキラ・ヤマト……コイツ等は、此処までの闇を抱えていたのか……!!」

「精神操作は無理か……プランBに移行する!!」


イチカとキラの心の闇に触れたファウンデーションの部隊はイチカとキラを精神的に操るのを諦め、第二案へと移行してコックピット内にあるスイッチを押し込んだ。
そして其の瞬間にライジングフリーダムとZストライクのツインアイは通常のグリーンからレッドへと変わったのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE107
『破滅の光り~Licht des Ruins~』











Zストライクとライジングフリーダムのツインアイがグリーンからレッドへと変わった瞬間……


「な、なんだこりゃ!?」

「操縦が利かない!?」


Zストライクとライジングフリーダムは削獣不能に陥り、パイロットの制御化を離れて暴走し、あろう事か友軍であるユーラシア連邦の部隊へ攻撃を開始したのだ――其れこそZストライクもライジングフリーダムもいきなりフルバーストをかますレベルでだ。


「イキナリ何してんですか隊長、イチカさん!!」

「俺達だってやりたくてやってる訳じゃねぇよシン!
 機体が言う事を聞かねぇ……暴走……いや、外部からのハッキングで操られてるのか……対抗出来そうかキラ?」

「もうやってる……十五分あればなんとか出来るけど……」

「十分でやってくれ。」

「其れは流石に無理だよ。」

「十五分と言えば二十分かかる。十分の心算で十五分なら上出来だ!!十五分、俺とキラを止めろシン、ルナマリア、マドカ、レイ、アグネス!!」

「「「「「了解!!」」」」」


此の予想外の事態にキラとイチカは冷静に対処し、自機のハッキングに対処しながらもシン達に命令を出して被害を最小限に留めようとしていた。
だが、Zストライクとライジングフリーダムによるユーラシア連邦の部隊への攻撃を誰よりも喜んでいたのは他でもないオルフェとゾルガのタオ兄弟だ――精神感応であれ機体操作であれ、彼等にとってはイチカとキラがユーラシア連邦の部隊を攻撃したという事実が手に入れば其れで良かったのである。


「おいコラ、止めろイチカ、キラ!!」

「ダメよキラ君、イチカ君!!」


ムラサメ改に乗るムゥとアークエンジェルのマリューもイチカとキラに呼びかけるも、コンパス部隊でない戦艦やモビルスーツとの通信は外部ハッキングによって遮断されているらしくその声はイチカ達には届いていなかった。
そして其れはファウンデーションの本部も同じであり、イチカとキラに止めるよう呼びかけるも返信はなく、ライジングフリーダムとZストライクはユーラシア部隊への攻撃を行っていたのだ――イモータルジャスティスをはじめとしたコンパスの部隊は二機を止めようとしていたのだが。


「おやおや、ヤマト隊長とオリムラ副隊長は御乱心かな?
 よもや友軍であるユーラシアの部隊を攻撃するとは……しかし、これは明確な敵対行為に他ならない――ファウンデーションとしてはこの様な蛮行をみすみす見逃す訳には行きませんが……コンパスの総裁と副総裁はどうお考えで?」


だがこの状況はファウンデーションにとっては自作自演とは言え好都合だった。
ファウンデーションにとってコンパスは使い易い駒であると同時に最大の目の上のたん瘤であり、自分達の理想を実現するためにはコンパスは絶対に壊滅させなければならない組織でもあったのだ。
当初ならば精神感応でイチカとキラを操ってユーラシアの部隊を攻撃させる心算だったのだが、それが無理だったので機体をハッキングし、外部からの操作でユーラシアの部隊を攻撃させ、イチカとキラに対しての攻撃の理由を作ったのだ。

此の状況にコンパスの総裁であるラクスは悩む事になる。
最善策としてはイチカとキラを止める事だと理解してはいるのだが、自身の最愛の人であるキラとカタナの最愛の人であるイチカを攻撃して良いのかと、コンパスの総裁としての判断か、ラクス・クライン個人としての判断か、その何方を優先すべきかに悩んでいたのだ。


「(ストライクとフリーダムのあの動き、イチカとキラ君の操縦ではないわね?……となると外部ハッキングで動かされてる――今のブルーコスモスに其れが出来るだけのハッカーが居るとは考え辛いしコンパス内にそんな事をする人物はいない。
  カンザシちゃんが本気を出せば出来るだろうけど、あの子はそんな事はしないから、そうなると消去法で残るはファウンデーション……でも、此の時点でタバネさんが動いてないって事は、これは必要な事って訳ね……)
 ラクス様……イチカとキラを止めましょう。」

「カタナ!?」

「このままじゃユーラシアの部隊は壊滅してブルーコスモスにも逃げられる。
 なら今はイチカとキラを止めてブルーコスモスの制圧に残りの戦力を割くべきよ……大丈夫、イチカとキラはやられないから。」

「カタナ……分かりました。……止めて下さい、キラとイチカを。」


悩むラクスにカタナが助言し、ラクスはイチカとキラを止めるようにオルフェとゾルガに言うとオルフェとゾルガは笑みを浮かべ、戦場のブラックナイト部隊に『キラ・ヤマトとイチカ・オリムラを無力化するように』と通達し、ブラックナイト部隊は暴走状態のZストライクとライジングフリーダムに向かって行った。


「運動プログラム設定再構築、ファイヤーウォール再構築、ウィルス除去完了、ワクチンプログラム構築、プログラム再起動……CPG設定完了、ニューラルインゲージ、メタ運動野パラメーター設定、バッテリー正常、パワーフロー正常、全システムオールグリーン。
 ライジングフリーダム、システム再起動!」

「最高のタイミングだぜキラ……Zストライク、システム再起動!行くぞオラァ!!」


だがこのタイミングでキラがライジングフリーダムとZストライクが受けていた外部からのハッキングをシャットアウトするようにOSを書き換えると、更に以降の外部ハッキングを一切遮断するファイヤーウォールまでも設定し、Zストライクとライジングフリーダムはコントロールを取り戻した。


「オォラァァァァ!!!」

「馬鹿な!コントロールを取り戻しただと!!」

「俺とキラにユーラシアを攻撃させて、それを口実に俺達を葬る心算だったんだろうが詰めが甘かったな?
 戦闘を行いながらOSを書き換えるキラにとって、戦闘を行わない状態なら外部ハッキングをシャットアウトして機体コントロールを取り戻すなんてのは朝飯前の昼飯なんだよぉ!!」

「此れが君達の狙いか……!!なら僕は、君達を討つ!!」


コントロールを取り戻したZストライクとライジングフリーダムは夫々フルバーストをブラックナイト部隊にブチかます。
ブラックナイト部隊は其れを辛くも躱したモノの、自分達の隊長と副隊長を攻撃されそうになって黙っているコンパス部隊ではない。


「貴様等……兄さんに手を出すとは良い度胸だな?

「ルナ~、マドカが殺意って波動ってる。」

「ま、当然と言えば当然よね。」


特に今やザフトやコンパス内では『超絶ブラコン』として名が通っているマドカは『女の子がしちゃいけない表情』を浮かべてガチギレており、獲物を見付けた野獣の如き激しさでブラックナイト部隊を攻撃していく。
それに対してブラックナイト部隊も応戦し、時には光学分身を生み出してコンパス部隊を翻弄し、更に無人機のジンで数の差を埋めようとしていた。

それでもイチカ達は戦いを有利に進めていたのだが、此処で予想外の事態が起きた。


「そぉれっと!!」

「!!アグネス……どういう心算だ!!」


突如としてアグネスのギャンシュトロームがイチカのZストライクに斬りかかったのだ。


「アタシの事を見てくれない人なんて要らない……アタシにはアタシを見てくれる人だけが居ればいい……だから、もうアンタ達は死んじゃって良いよ。」

「ファウンデーションの奴に唆されたか……ま、裏切りなんてのは戦場ではよくある事だが……裏切った代償はデカいぜアグネス!!」


イチカとキラにモーションをかけながらも歯牙にもかけられなかったアグネスは、自身の事を『美しい』と称したシュラに惹かれ、此のタイミングでコンパスを裏切ってファウンデーション側についたのだ。
そしてこのアグネスの裏切りが僅かではあるがコンパス部隊に隙を生み……


「ヒルダーーーー!!」

「姐さ~~~~~ん!!」

「マーズ!ヘルベルト!!」


マーズとヘルベルトがブラックナイト部隊に撃墜されてしまった。
更にブラックナイト部隊はアークエンジェルにも執拗な攻撃を行い、アークエンジェルは船体の一部から出火する事態となり、更に此の攻撃によって船長であるマリューが負傷してしまっていた。
それでもコンパス部隊は懸命に戦っていたのだが……


――ヴゥゥゥン……


此処でZストライク、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスのPS装甲がダウンしてしまった――PS装甲を稼働するだけのエネルギーが無くなってしまったのだ。
そしてPS装甲がダウンしたモビルスーツはビーム兵器を使う事は不可能なので攻撃手段も大幅に制限されてしまうのだ。
Zストライクならばビームライフルショーティーに搭載されたアーマーシュナイダーとシュベルトゲベールの実体刀が使えるが、ライジングフリーダムとイモータルジャスティスは攻撃手段のほぼ全てを失う結果となった。
同時にゲルググメナースもバッテリーが限界を迎えており、更にはオーブのムラサメ部隊もムゥを残して壊滅状態となっており、このままでは敗戦濃厚だ。

一方のブラックナイトは核エンジン搭載型なのでエネルギー切れがなく、PSダウンしたZストライク、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスにトドメを刺すべく近付いて来たのだが……


――キィィィィン……!!


「やらせるか!!」

「終幕にはまだ早い!!」


其処に二機の特徴的なシルエットのモビルスーツが割り込んできた。


「無事か、キラ!!」

「待たせたねイチカ!!」

「アスラン……!!」

「主役は遅れて現れるってか?……ったくいいタイミングだぜロラン!」


其れはターミナルに出向していたアスランとロランが駆るズゴックだ。
そのずんぐりとした機体シルエットからは想像できない俊敏さでブラックナイト部隊の前に姿を現し、ブラックナイト部隊と交戦状態に入ったのだが、アスランとロランのズゴックは、その重厚な見た目からは想像出来ない非常に高い機動性を発揮してブラックナイト部隊と互角以上に渡り合って見せていた。
とは言え数の差があるので此処はコンパス部隊とオーブの部隊が撤退するまでの時間稼ぎにしかならないだろう。

更に悪い事に、此の時ユーラシアの部隊から核ミサイルが発射されたのだ。
無論ユーラシアの部隊が行った事ではなく、外部からのハッキングで発射されたのだが、如何せんただのミサイルではなく核ミサイルだ――其れがもしも全弾着弾したら此の地は跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。


「総員退避。戦士にも避難指示を。」

「可能な限り住民は地下に避難させる。」


オルフェとゾルガは指示を出すと自身も避難を開始し、其れに連れられる形でラクスとカタナも避難をする事になった。


「(成程、私とラクス様をコンパス本体から引き剥がすのが狙いって事ね……逃げようと思えは逃げられるけど、此処はファウンデーションの内部に入り込んで内情を探るのが上策。
  ウフフ……私をファウンデーション内部に引き込んだのが運の尽きね――暗部の長の力を見せてあげるわ。)」


尤もカタナは、この機に乗じてファウンデーションの内情を探る気満々だったのだが。








――――――








一方の戦場では、ルナマリアのゲルググメナースがギリギリの状態で浜辺に移動し、核ミサイルの迎撃に当たっていた。
ミレニアムは潜水し、事の次第を見守る。


「いっけぇ!!」


そして見事にルナマリアは核ミサイルを撃ち抜いたのだが、なんと二発目が軌道を変えて市街地に向かって行った。
其れも撃ち落とそうとルナマリアは残り少ないエネルギーを振り絞って飛翔し、なけなしのビームを三発を放ったのだが、其れは惜しくも核ミサイルを撃ち落とすには至らず、無情にも核ミサイルは市街地上空で爆発してキノコ雲が発生してしまった。

この間にファウンデーションのアウラ、オルフェ、ゾルガ、イングリッド、そして共に脱出艇に乗せられたカタナとラクスは宇宙へと避難して無事だった。


戦場では大破したアークエンジェルから負傷したマリューをムゥが中破したムラサメで救出して其の場を離脱し、ブラックナイト部隊も圧倒的有利状況でありながら其の場を離脱。
そしてイチカ達もPSダウンした機体で其の場を離脱したのだが、直後に其処に核ミサイルが直撃して戦場は文字通りの爆破炎上!!
なんとかギリギリで離脱した事でイチカ達は無事だったが、此度の戦闘はアークエンジェルの撃沈、Zストライク、ライジングフリーダム、イモータルジャスティスが戦闘不能、ムラサメ部隊の壊滅、マーズとヘルベルトが戦死、そしてカタナとラクスはファウンデーションに連れ去られてしまっただけでなく、アグネスがファウンデーションに寝返り戦力が微妙にダウンしていたのだ――コンパスとオーブ部隊の完敗と言える結果になるのだった。


「ファウンデーション……借りは返すぜ、必ずな……!!」


そしてイチカは、此の惨状を見てファウンデーションを必ず倒してカタナを取り戻す事を決意していた。








――――――








「……イッ君達が負けるのは見たくなかったけど、これは最後に勝つための必要な敗北だから仕方ないね。
 だけど此れでイッ君とキー君の機体が外部ハッキングされてた確固たる証拠は手に入ったし、其れを行ったのがファウンデーションだって証拠も手に入ったから良いとしようかな。
 此のデータはお前等がイッ君とキー君を世界の敵としようとした瞬間に世界に公開してやるから覚悟しろよ?
 お前達の主張も、私のデータも客観的に見れは絶対的な信頼がないモノだけに、意見は二分する……そうなったらお前達は間違いなく自分達に従わない連中を排除する方向に動く――其れが敗北へのトリガーとも知らずにね。
 精々一時の勝利に浮かれて神になった心算になっていればいいさ……神になろうとした人間は、例外なく破滅してるって事を忘れてね。」


此の戦闘を見ていたタバネは其れだけ言うと、宇宙船の奥に消えて行った。
そして此処から自体は大きく動いていく事になるのであった。


「ぎ、議長!!」

「如何したのだね?随分と慌てているようだが、何か問題が起きたのかな?」

「じゃ、ジャガンナート国防委員長が、軍事クーデターを起こしました!!」

「なんだと!?」


更にはプラントでも、まさかの軍事クーデターが発生し、プラント内は混沌として行ったのであった……













 To Be Continued