ミケール率いるブルーコスモスの部隊が、何時ファウンデーションに乗り込んでくるかは普通ならばマッタクもって予想が出来ないモノなのだが、コンパスには裏技とも言える『タバネに聞く』があるので、イチカがタバネに連絡を取ってブルーコスモスがファウンデーションに乗り込んでくる日時を特定し、その時刻の数時間前にはコンパスもファウンデーションもブルーコスモスとの戦闘に必要な戦力を展開していた。

アークエンジェルはモビルスーツ発進カタパルトを解放し、艦首に搭載された高出力ビーム砲『ゴッドフリート』を展開し、何時でも戦闘が行える状況となっている。


「俺達が立ち入れるのはエルドア地区のみってか……そこがブルーコスモスとの戦闘場所になるって事で、逆に言えばエルドア地区一つを犠牲にすればファウンデーション全体から見れば最小限の被害で済むって事なんだろうな。」

「だろうね……必要な犠牲って事なんだろうけど、僕は好きじゃないな。」

「俺だって好きじゃねぇが……少なくとも当該地区の住民の非難は完了してるって事だから其処まで気にする事も無いだろ?
 失った命は戻らないが、壊された街はまた作り直す事が出来るんだからよ。」

「イチカ……そう、だよね……」

「民間人の犠牲は出しちゃならねぇが、軍人の犠牲は必要経費と割り切らねぇと戦争はやってられねぇよ……特に、敵さんの命は其れこそ数で数えて倒したほど褒められるって考えないと、な。」


戦闘はファウンデーション本土ではなく、ほど近い連合当地のエルドア地区にて行われる事となり、これに関して連合はコンパスとファウンデーションに対して『立ち入りが許可されているのはエルドア地区のみであり、軍事境界線を越えたら直ちに攻撃する』との旨を伝えて来た。
戦闘区域が限定されており、更に軍事境界線を越えたら攻撃されると言うのは中々の縛りプレイなのだが、其れを聞いたマリューは顔色一つ変えずにモビルスーツ部隊に発信を命じ、先ずは数機のムラサメ改が出撃した。

それに対して地下道を通って地上に部隊展開したブルーコスモスの部隊も105ダガーやダガーLといったモビルスーツを展開して地上部隊を構成してコンパスのムラサメ部隊に応戦し、更に飛行能力を持つモビルスーツで空中戦を仕掛けて来た。

地上と空中の波状攻撃に、しかしマリューは慌てる事無く迎撃を指示すると、ムラサメ改とアークエンジェルは搭載された武装で攻撃し、ブルーコスモスのモビルスーツをあっと言う間に蹴散らして見せた――最新鋭機を開発する事が出来ず、型落ち品となったモビルスーツを使っているブルーコスモスと、最新鋭のオーブ製量産型モビルスーツであるムラサメ改を多数所有しているコンパスの戦いとなれば此れは当然の結果と言えるだろう。


「そんで、俺達はどうするキラ?」

「シン、マドカ、ヒルダさんは敵モビルスーツの無力化を。
 僕とイチカはミケールの指揮所に向かう。」

「了解……シン、そっちは任せたぜ?ヒルダ姐さんもやっちゃってください!マドカ……頼むぜ!!」

「任せて下さいイチカさん!」

「ふっ……ハーケン隊を甘く見るんじゃないよ!!」

「兄さん……期待には応えて見せるぞ!!」


更に此処でコンパスのモビルスーツ部隊が出撃し、ブルーコスモスを今度こそ壊滅させる為の戦いの火蓋が斬って落とされたのだった。










機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE105
『破滅の前触れ~Vorbote des Untergangs~』











それとは別に、ファウンデーション領内の地上ではファウンデーションの部隊がブラックナイトと呼ばれるモビルスーツで出撃し、コンパスの部隊が突破された場合の最終防衛ラインを形成していた――イチカとキラとシンと言うスーパーエース級が三人も存在し、ルナマリアやステラをはじめとしたエース級の揃い踏みとも言えるコンパス部隊が突破される事など早々ない事だが、念には念をと言う所だろう。


「シキシマ隊はジャスティス、ギャンの援護!マホロバ隊は俺に続け!!」


オーブのモビルスーツ部隊はムウが指揮し、空から地上のブルーコスモスの部隊へ攻撃を仕掛けて行く。
この時のブルーコスモスの部隊のモビルスーツは、単騎での飛行能力を持たない105ダガーだったため、空からの攻撃によって地上に縫い付けられ、急降下して来たイモータルジャスティスの強襲を受け、近接戦闘武器としても機能するシールドの斬撃で三機があっと言う間に撃破され、ライジングフリーダムはシールドに内蔵されたビームエッジを展開するとそれを射出して射線上のダガーを切り裂き、フリーダムシリーズお得意の『擦れ違いざまの斬り捨てゴメン』で更に三機を戦闘不能にする。


「悪いが俺はキラみたく優しくねぇんだ……ブルーコスモスに加担してる時点でお前の死は絶対だ。」


そしてZストライクはシュベルトゲベールの二刀流で無慈悲なまでにブルーコスモスのモビルスーツを一刀両断していく……世界にとって害にしかならない存在に加担する輩にかける慈悲をイチカは持ち合わせてはいないのだ。



――ピピピピ!!



「「!!」」


そんなワンサイドゲームになりつつある戦闘の最中、ライジングフリーダムとZストライクのコックピットにアラートが鳴り響き、其の直後に巨大なビームが二機が居た場所を焼き払った。
アラートが鳴った時点でZストライクとライジングフリーダムは其の場から離脱していたので無事だったのだが、此のビームは並のモビルスーツが放てるモノではなく、戦艦の主砲かランチャーストライカーのアグニでなければ出せない威力だった。
だが、周囲には戦艦もランチャーストライカーを搭載した機体も存在してはいない――では、一体何者が放ったビームであるのか?


「……デストロイ……下がれ!!」

「現れやがったな、やられ専門のデカブツが……!!」


其れは超巨大可変モビルスーツの『デストロイ』だった。
巨体故の動きの遅さ、近接戦闘力の低さ、装甲の脆さなど多数の弱点が存在しているデストロイだが、其の巨体は歩くだけで都市を破壊する事が可能な『歩く厄災』とも言えるモノで、使い捨ての虐殺兵器としてはマダマダ現役なのだ。

同時にエルドア地区では助けを求める民間人が軍事境界線に殺到し、ファウンデーションの軍人が其れの対処に当たっていたのだが……


「ん?」


ブラックナイトに搭乗しているシュラが、民間人の女性の持っている荷物に何かを感じると……



――バガァァァァン!!



その女性の持っていた荷物が爆発し、その周囲にいた人々諸共爆発四散した。
それだけでなく、同じ事が各所で起こり、現場は一気に混乱状態に陥ってしまったのだ――


「此れは……民間人を爆弾にしたというのですか……!!」

「なんと卑劣な……」

「(自分達で仕込んでおいてどの口が言うのかしらね……貴方達、死んだら間違いなく地獄落ちね。)
 ……取り敢えず、デストロイ含めたブルーコスモスの部隊は全機滅殺って事で良いわよねラクス様?てか、滅殺一択よね普通に?」

「出来るだけ命の火は消したくありませんが、消さねばならぬ命の火があるのもまた事実……此処は殲滅しましょう――コンパス総裁ラクス・クラインの名において命じる。
 コンパスの部隊よ、敵部隊を壊滅せよ。」


更にそのタイミングでコンパスの総裁であるラクスから殲滅の命が下った……となったらコンパス部隊はリミッター解除状態だ。
しかも今の状況では敵部隊を殲滅する事が民間人の避難にも繋がる事にもなるので、シン達も完全戦闘モードでブルーコスモスの部隊に向かって行った。


先ずはライジングフリーダムがシールドを射出し、続いてイモータルジャスティスもシールドを射出してデストロイに放つと、其の射線上に現れた陽電子リフレクター付きの腕をZストライクが一刀両断!
これによりライジングフリーダムとイモータルジャスティスのシールドブーメランはデストロイの頭と腕を斬り落とし、Zストライクが連刃刀に連結したシュベルトゲベールで一刀両断にしてターンエンド。

そして当然それだけでは済まず、コンパスの部隊は次から次へとブルーコスモスの部隊を撃破していく。
最新鋭機が揃っているコンパスと、型落ち品の105ダガーを使っているブルーコスモスではそもそもにして勝負にならないのだが、其処にパイロットの圧倒的な差が加わったらどう足掻いてもブルーコスモスに勝ち目はないのだ。

そんな中もとりわけ目を引く活躍をしているのがマドカのゲルググメナースだ。
ゲルググメナースの標準武装に加えて『トリケロス・改』を搭載している事で近接戦闘能力が高くなり、次から次へとブルーコスモのモビルスーツを切り裂き、貫き、トリケロス・改のクローでコックピットを握り潰す。


「泣け!叫べ!!そして死ねぇぇぇ!!!
 お前ら如き雑魚にも劣るクズ蟲風情が猛虎たる私達に勝てると思っているのか?思っていたのだとしたら、その幻想を抱いて溺死しろぉぉ!!」

「イチカ、マドカは絶好調みたいだね?」

「絶好調なのは良いんだが、遅めの中二病拗らせすぎだろ流石に……八神庵に英霊エミヤか……」


マドカの奮闘もあってブルーコスモスの部隊は目に見えてその数を減らしていき、順調に行けばコンパス部隊の圧倒的勝利で戦闘は幕を下ろす事になるだろう――そう、なる筈であったのだ。








――――――








「エルドア市街地の負傷者を、至急救助せよ!宜しいですね?」

「……止むをえん……エルドア地区に限り救助活動を許可する。」


ファウンデーションの作戦本部基地では、オルフェがエルドア地区の負傷者の救助を命じ、ブルーコスモスに属していない連合のお偉いさんが其れを許可していた。
負傷者の救助は最優先に行われるべき事なのでオルフェの提案は間違っていないのだが、許可が下りた事を聞いたオルフェの顔には不気味な笑みが浮かべ、ファウンデーションの部隊に出撃の命令を下した。


『作戦開始。』

『……了解。』



そして、オルフェとゾルガから命を受けたファウンデーションの部隊は、その場から飛び立って行った――多数の無人型のジンを従えて。
既にブルーコスモスの部隊は壊滅状態にある事を考えると、あまりにも過剰戦力としか言いようがないのだが、ファウンデーションが『救助活動』を名目に戦闘に介入した事で、事態は思わぬ方向へと進む事になるのだった。










「……やっぱそう来るよねぇ?……だけど、残念だけどお前達の思い通りにはさせないよ?
 大きく流れを変えすぎるのは良くないから介入は最小限にするけど、少なくともお前等の思い通りの結果にだけはさせない……尤も、いっ君達に手を出そうとした時点でお前等は私の敵な訳なんだけどさ。
 私が本気を出せばお前等を潰すのなんて朝飯前だけど、それは裏方の仕事じゃない……私は裏方としていっ君達に最高の舞台を用意してやるだけさ。
 精々思い知れよ、自分達が誰を敵に回してしまったのかをね……!!」


その様子をモニターで見ていたタバネは、今後起こる事を予測し、全ての可能性に対応出来るだけの準備を進めるのであった――













 To Be Continued